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ダリル、ハワード1(part2 727-731)

3P、3P、追悼

ブリーフィングルームに、しばしの沈黙が満ちた。

いつも自信たっぷりな態度で、周囲の人間を牽引してきたこの上官が、
素直な弱音を吐いたことにハワードは内心動揺していた。
そんな姿を見たくないという勝手な想いがある一方で、
実力が飛び抜けているがゆえに、孤独であり、上昇志向ばかり強いと誤解されがちである彼が、
実際には情が深い人間でもあるのだと実感させられてもいた。

軍人らしからぬ端正な顔を俯け、グラハムは目を伏せ、じっと何かを噛みしめている。
まだこの部隊がオーバーフラッグスという名前さえ無かった頃から苦楽を共にしてきた自分たちには、
そんな姿を見せてしまうくらいに心を許してくれているのだろう。
ならば、その信頼に応えたいともハワードは思う。彼の苦しみを癒すために、自分たちには何ができるのか。
そう考えたとき、勝手に体が動いていた。
「隊長。——もう、いいでしょう。それよりも少し、休んで下さい」
言って、ハワードはグラハムの隣に立ち、その肩に腕を回す。
上官に対して無礼だとは思ったが、衝動を止められなかった。
「待機中、我々は交代で仮眠をとりましたが、貴方はずっとお休みになっていないでしょう。
もう、いったいどれくらい寝ていないんです」
プライドの高い彼のことで、振り払われるかもしれないと内心ひやひやしていたが、
その気力も無いのか、ただグラハムはされるがままになっている。
「しかし、……対ガンダム特別対策の第一種警戒態勢が解かれていない以上、
 オーバーフラッグスの隊長たる私が現場を離れるわけにはいかない」
毅然と呟く彼の表情にはしかし、さすがに疲労の色が濃い。
それでも、生真面目さと自責の念のあまり、眠れないのだろう。
ふと目が合うと、ダリルもまた反対側からグラハムの腰に手を回した。
「とにかく、部屋に戻りましょう。スクランブルがかかればすぐ呼び出されるのは、何処に居ても同じです」
ダリルがやんわりと説くと、ようやくグラハムは頷く。それでも自分からは歩き出そうとしないグラハムを、
ふたりで促しつつ、部屋へと連れていった。


グラハムの私室の鍵を内側から閉め、ハワードは改めてグラハムに向きあう。
最初に肩を抱いたときは友情の抱擁のつもりであったはずが、狭い密室で改めて同じ行為に及んだとき、
感じるグラハムの体温に、ハワードの鼓動は速くなった。
思わずダリルを見遣ると、彼はまっすぐ寄ってきて、グラハムの顎に手をかける。
会話などせずとも。——ダリルもまた、考えていることは同じだったと、ハワードは悟り、覚悟を決める。
敬愛する上官のために、いま何ができるのか。
それは。——痛みをつかの間でも忘れさせ、彼を休ませてやること。それしか、なかった。

「俯かないでください、貴方らしくもない。貴方は、前だけ向いて走って行かれればよいのです」

失礼、と呟いて、あくまで恭しく、ダリルはグラハムの唇を奪う。
グラハムの意識が、初めてつかの間あの戦闘から逸れ、ぽかんと眼を見開いた。
ダリルに呼応して、ハワードもまた後ろからグラハムを抱きしめる。

「……ダリル? ……ハワード?」
「その苦悩を、貴方の脳裏から拭ってさしあげられるなら、どんなことでもしますよ。
 貴方をゆっくり寝かしつけてさしあげるためなら、何でもね。貴方から憎まれても構いません」
軍服の襟元をくつろげながら、ダリルが言う。
「そうですよ。……楽に、なってください。貴方は何もしなくていいんです。我々に任せていれば」

ふたりがかりで次々着衣をはがされ、寝台に連れ込まれながらも、グラハムは表情に困惑の色を浮かべるばかりだった。
「待て、……んっ、やめろ、ダリル、……ハワード、」
屈み込んだダリルがまずは彼の身体をその気にさせるべく、ペニスに指を絡め、舌を這わせる。
ハワードも背後から、グラハムの白いうなじにそっと口づけた。
体が疲労困憊している生理的反応からか、それとももとより感じやすいのか、
上下から注がれる愛撫にグラハムは身をよじり、鋭敏に反応を返す。
「うっ……、なに、を、」
ひたひたと首筋を舐め、軽く吸い上げては位置をずらし、耳たぶを食んでやると、
グラハムの体はハワードの腕の中でびくんと震える。
「あぁ、あっ……、こんな、……何故、」
頬に羞恥の朱を上らせ、グラハムがかぶりを振る。
普段毅然と接しているはずの上司と部下が、今こうしているという背徳。
それは、している方とされている方、双方に尋常でない興奮をもたらしていく。

「やめ、……ぁ、あっ、……う、」
ダリルが先端を口に含むと、グラハムの身体が逃げを打った。
それを押さえつけながら、顔を仰向かせて、ハワードはキスを重ねる。
舌を深く押し込み、粘膜を擦り上げ、荒い呼吸を交わらせると、グラハムはすぐにのけ反ったまま脱力してしまう。
代わりに、縋る場所を探すように宙に手を伸べ、やがてそれはハワードの手首にたどり着くのだ。
「……大丈夫ですよ、気持ちよくしてさしあげるだけですから」
ぎゅっと、掴まれたその力が、痛みが、ひどく甘い。その指に唇を押し当てて、
ハワードは自分の指をグラハムの肌へと這わせた。彼自身の汗の滑りを借りて、
指はなめらかに筋肉の膨らみをたどり、窪みをなぞる。
「は、うっ……、ん、あぁ、」
乳首を指で挟むと、グラハムの声が悲鳴めいて跳ね上がった。
ふと下を見れば、ダリルが口戯を施す箇所も、滾るように血管を浮かせ、
ハワードの触れ方に感じるたび、びくびくと痙攣している。
「そう。それでいいんですよ。——何も、考えないでください。貴方は、ただ受け容れてくだされば」
覗き込んだ目は、いつしか少し前までの憂いを忘れて、熱っぽく潤みきっていた。
彼の心身がすっかり快楽に飲まれたと見て取り、ハワードは小さく頷く。

「……もっともっと、感じさせてあげますからね」
ダリルと視線を交わし、ハワードは唾液で濡らした指で尻の窄みをなぞる。
痛みを与えないよう、そっとそこを解きほぐしながら、指を滑り込ませた。
「は、ぁっ……、ん、」
ふる、と首を振るグラハムのしぐさは、行為を拒んでいるわけではなく、
快楽に戸惑っているだけだと断じて、ハワードは構わず内側を暴く。
いったんグラハムを四つん這いにして、今度はダリルが間断なく濃厚な口づけを施しながら、
ハワードが背中に痕の残るキスを散らし、指でじわじわと後孔を拓いていく。
ふたりから技巧を尽くして与えられる過度の官能を、グラハムは受けとめきれないというように手足を震わせる。

紅潮した頬。振り乱される髪。理性など失って虚ろに眇められた眼。
身悶えするたびよじれる、引き締まった背中の艶めかしさ。日に焼けない肌に浮かぶ汗の粒の生々しさ。
それらに、息を飲みながらも、ハワードは精神力を振り絞って、己の衝動をコントロールしようと努める。

——彼を、犯したいわけでも、穢したいわけでも、断じてないのだ。
こんなやり方しか持たない自分たちを許せとは言えないけれど。
我々は、貴方を癒したい。守りたい、ただそれだけなのです。見返りは何も要りません。
ただ貴方が貴方でいてくれるだけで、いい。
こんな行為に及びながら、そんな甘ったるいことなんて口が裂けても言えないのだけれど。

もう十分に慣れただろうと、指を抜き、ハワードはグラハムに更なる熱を与えるため、
その身体にのしかかり、じわじわと後背に挿入する。
「うぁ、……っ、は、く」
先端の膨らみを飲み込んだあたりで、がくりとグラハムの腕から力が抜け、シーツに突っ伏してしまう。
ハワードはその体を抱き起こし、膝立ちのまま繋がった。正面から、ダリルがグラハムの陰茎を掴み、
自分のそれと重ね合わせて扱く。
そんな前後の刺激と同時に、首筋に、胸許に、髪に、内股に、頬に。
ふたりの手で身体中を絶え間なく触れられて、グラハムは苦鳴めいた喘ぎを上げる。
荒い呼吸に上下する胸。上ずって擦れはじめた声。しどけなく開いた唇の赤。
——そうやって。もっと、何もかもわからなくなってください。
——ただ、疲れ果てて気絶するように眠ってくれたら。
それだけを望んでハワードは腰を揺らし、やわらかな金の巻き毛を汗で貼りつかせたうなじに息を吹きかける。
身勝手に快楽を貪りたい衝動を堪え、ひたすらグラハムを感じさせるために、反応を探りながら丁寧に突き上げる。
ひときわ甘い声を聞けば、ここかと同じ動きで何度も責める。抜きかけては浅く焦らし、
グラハムが懇願するようにふり返れば、不意に激しい抽迭を送り込み、身悶えする体をきつく掻き抱く。
「ハワード、……んっ、あ、はっ、……ダリル、も、……ぅ、」
限界が近くなったらしい。それを、ダリルと目で確認しあい、肌への愛撫をやめてダリルはグラハムの前に屈み込む。
ペニスを再び口に含まれ、指で締めつけながらきつく吸われたのだろう、たまりかねたグラハムの腰が揺れる。
それと呼吸を合わせ、ハワードもまた荒々しくグラハムの中を突き上げる。
片手でダリルの髪を、もう片手でハワードの手首を、きつく掴んでグラハムが絶頂に達した。


しなだれかかるグラハムからそっと陰茎を引き抜くと、体の位置を入れ替えて。
暗黙の了解で、次はダリルが挿入し、ハワードが愛撫する。
そうして幾度も、役割を代わっては繰り返し、やがてグラハムがぐったりと疲れ果てるまで、
ふたりは彼の身体を愛し続けた。



大の男3人が転がるのに決して十分な面積のあるベッドではない。
それでも窮屈に身を寄せあって、グラハムを中央に、3人は汗の冷えていく体を横たえる。
性交の熱が引いていく気怠い沈黙を破ったのは、グラハムの真摯な声だった。

「ダリル。ハワード。——お前たちは死ぬな。——これは、命令だ。私のために、死ぬな。
 こんな思いはもう沢山だ。もう二度と、部下を目の前で死なせたくはない」

言って、切実すぎる表情を隠すように、グラハムは腕で自らの顔を覆う。
その隙間からのぞいた瞳は、まだ先ほどまでの淫蕩さの余韻を残してぼやけてはいたが、芯は醒めていた。
——孤独な、眼だと思う。ハワードの胸が、苦い氷を飲んだようにじんと痛む。
強すぎるがゆえに、幾多の戦場で戦友や上官を亡くし、己だけ生き残ってしまった過去を持つグラハムの、
痛ましいほどの孤独がそこにある。普段は誇りと輝きで覆い隠されている、この綺麗な瞳の、寂しい素顔。

「勿論ですよ。我々のフラッグでガンダムを堕とすその日まで、お供させていただきますとも」
「貴方のご命令とあらば、従わないわけがありましょうか」

睦言を囁くような声で口々に返しながら、それでも、ふたりとも、内心はこれを嘘だとわかっていた。
軍の最前線に立つ自分たちが、決して、彼よりあとに死ぬことなどあり得ないと。
それは、戦場の危険さ、グラハムと自分たちとの実力の差から明らかなことでもあったし、
何より、彼の戦闘を助けるため彼の盾になるのが自分たちの最大の使命であるという自負もあった。

——貴方を欺いて、申し訳ありません。
我々には、最期まで貴方と一緒に戦ってさしあげることができない。その不実をお詫びいたします。
けれどそれが、我々の歓びであり、誇りなのです。
貴方はお許しにならないかもしれない。きっと叱られるでしょう。それでも。わかってください。
——俺は。我々は、ガンダムでも軍でもなく。貴方に、命を懸けているのです。

疲労が眠気になってきたのか、グラハムは翡翠の目を曖昧に閉じて、ゆったりと長い呼吸を始める。
その体をかばうように両側から片腕ずつ乗せて、ダリルとハワードはグラハムに寄り添った。
ふと目を上げると、反対側からダリルもハワードを見つめていた。
交わす視線の中で、ダリルもハワードも、全く同じことを相手に伝えようとしていた。

——もし自分が先に戦死したら、彼を頼む。

この誰より強い、そのくせ何故だか守ってさしあげたくなる人を。
どうか助けてやってほしい。自分の分も。彼のために仕えてくれ。命を懸けて。身を投げ打って。
お前になら、任せられるから。ずっと彼のそばに居て、彼を見守り支え続けた同士であるお前なら。
互いに、その意を確かめあい、しっかりと頷く。

ようやく、静かな寝息を立てはじめたグラハムの、幼いような顔を、
ハワードはいつまでも飽かずに眺めていた。

| オーバーフラッグス::5:ダリル、ハワード | 2008,02,04, Monday 09:50 PM

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