「コレを、歯と手を使わないで食べてください」
ジョシュアが差し出したのは、今日の昼食に出た残りらしい一本のバナナ。
食後の休憩時間にオーバーフラッグスの面々とやっていた、ちょっとしたカードゲームに負けた。
その、罰ゲームだという。
グラハムはきょとんとして、突き出されたバナナを軽く指で触れた。
「……これを?」
彼がさせたいことの意味がわからなかった。そんな程度のことで何が楽しいのだろう。
が、ジョシュアは目を細めて微笑んでいるし、他の部下たちもこちらをじっと見ている。
期待に満ちたそんな反応を知って、これもレクリエーションの一環で、
時にはこうした戯れに率先して興じるのも上官たる者の努めと考え、グラハムは不可解なまま頷く。
「ほら、どうぞ。まだ青いけれど、とてもおいしいですよ。貴方に食べて欲しくてたまらない……」
戯言を呟きながら、先端の茎を折って剥きかけたバナナを、ジョシュアはグラハムの顔に突きつける。
「わかった、やればいいのだろう」
グラハムは鼻で笑いながら、無造作に口を開けた。
いきなり、ジョシュアは先端をその唇の中にぐいとねじ込む。
「んっ、……ふ、ぐ、」
ちょっと待て、と言おうとしたが、まだ青く硬いその果実を口腔の奥深く挿れられ、
かと思うと不意に引かれるので、グラハムはうまく喋ることができなかった。
噛んではいけないというので、グラハムはその先端を唇ではさみ、どうにか捕まえる。
舌を強く押しつけ、絡めて、それを折り取ろうと試みるのだが、
まだ青いままだった果実は存外に硬く、口の中に甘いような苦いような匂いが広がるばかりで、
なかなか思うようにならなかった。
「もっと上手にやらないと、いつまでも食べ終わりませんよ」
ぐるりと、ジョシュアが先端をかき回す。舌を撫で、頬の内側をなぞるその動きがこそばゆくて、
グラハムはぴくっと肩を震わせた。
「……キスで、感じるタイプですか、上級大尉殿は。なかなか敏感でいらっしゃる」
声を低めてジョシュアが囁く。頬と耳が、さっと熱くなった。
それでもここまで来れば意地で、やめたと投げ出すことができないのが、
グラハムの生真面目な性格の不幸なところだった。
ようやく先端が柔らかくなってきて、ジョシュアがゆっくりとそれを引いた動きに合わせて、
グラハムの口内に白い塊が残る。
糖分を含んだ唾液が、先端から唇へと、甘い糸を引いた。
「あ……、」
唇を不意に解放されて、吐息が漏れる。
「まだまだ。早くしないと、休憩時間中に食べ終わらないですよ」
ジョシュアはバナナでグラハムの頬を突いた。
両頬を交互に軽く叩いて、再び唇に押しつける。今度は先端ではなく横向きに。
「舌で、皮を剥くんですよ。できるでしょう」
グラハムは眉をしかめながら、言われた通り、尖らせた舌先を、裂け目にそって這わせる。
軽く唇で挟んで引っ張り、果実と皮の間に舌を入れて、下へと舐めおろす。
「なかなか、上手じゃないですか」
下まで剥き終わると、ジョシュアは再びずぶりと唇を割って、今度は喉を突かんばかりに奥まで押し込む。
生理的な反射で目に涙が滲んだ。
「んぅ、ぐ、」
「なかなかいい顔しますね。そそられますよ。そのまま、こっちを見上げて頂けますか?」
ジョシュアの指がグラハムの顎にかかる。いつの間にか周囲から浴びせられている、
焼けつくような視線が肌にむずがゆい。
「——随分と楽しそうなことをしているねえ、君たち」
突然、そう割って入ったのはカタギリだった。
固唾を呑んでいた座の面々が、はっと我に返って、気まずげに視線をそらす。
ジョシュアは咄嗟に引っ込めたバナナをテーブルに置いて、舌打ちした。
「これから技術部とパイロットとの合同ミーティングだよ。忘れたのかな?」
「……折角いいところだったのに。嫉妬深い技術顧問殿を出し抜くのは易しくないですね」
言って、ジョシュアは他の隊員と一緒にその場を離れていく。取り残されたグラハムは、
まだ何が何だかわからないというような、邪気のない表情でカタギリを見上げた。
「全く……、君は何もわかってないんだね。まあ、それが君のいいところでもあるけれど」
視姦され陵辱されているに等しかったさっきの状況を、グラハムはまるで自覚していない。
ただ妙なことをさせられたと首をかしげるばかりだ。
「カタギリ、お前までわけのわからないことを言うのか」
グラハムは濡れた唇を拭い、忌々しそうに呟く。が、カタギリの言ったとおりもうすぐ集合時間だ。
お遊びはこれで終了だと、気持ちを切り替えてグラハムは席を立った。
その俊敏な背中を見送りながら、カタギリはため息をつく。
今まで、彼をそんな目で見ていたのは自分だけだと思っていたが、あのジョシュアという奴は油断がならない。もう少し、監視の目をきつくした方がよさそうだと心に誓う。先に手を出されるわけにはいかない。
「やれやれ……、勿体ない」
置き去りにされた食べかけのバナナを手に取って、カタギリはそれをじっと見つめる。
視線を感じてふり返ると、ドアのところで立ち止まるジョシュアと目が合った。
——悪いけど、君たちには渡さないよ。
宣戦布告するように、にっこりと笑いかけて、食べ残しの果実をカタギリは躊躇なく一口かじった。
ジョシュアが差し出したのは、今日の昼食に出た残りらしい一本のバナナ。
食後の休憩時間にオーバーフラッグスの面々とやっていた、ちょっとしたカードゲームに負けた。
その、罰ゲームだという。
グラハムはきょとんとして、突き出されたバナナを軽く指で触れた。
「……これを?」
彼がさせたいことの意味がわからなかった。そんな程度のことで何が楽しいのだろう。
が、ジョシュアは目を細めて微笑んでいるし、他の部下たちもこちらをじっと見ている。
期待に満ちたそんな反応を知って、これもレクリエーションの一環で、
時にはこうした戯れに率先して興じるのも上官たる者の努めと考え、グラハムは不可解なまま頷く。
「ほら、どうぞ。まだ青いけれど、とてもおいしいですよ。貴方に食べて欲しくてたまらない……」
戯言を呟きながら、先端の茎を折って剥きかけたバナナを、ジョシュアはグラハムの顔に突きつける。
「わかった、やればいいのだろう」
グラハムは鼻で笑いながら、無造作に口を開けた。
いきなり、ジョシュアは先端をその唇の中にぐいとねじ込む。
「んっ、……ふ、ぐ、」
ちょっと待て、と言おうとしたが、まだ青く硬いその果実を口腔の奥深く挿れられ、
かと思うと不意に引かれるので、グラハムはうまく喋ることができなかった。
噛んではいけないというので、グラハムはその先端を唇ではさみ、どうにか捕まえる。
舌を強く押しつけ、絡めて、それを折り取ろうと試みるのだが、
まだ青いままだった果実は存外に硬く、口の中に甘いような苦いような匂いが広がるばかりで、
なかなか思うようにならなかった。
「もっと上手にやらないと、いつまでも食べ終わりませんよ」
ぐるりと、ジョシュアが先端をかき回す。舌を撫で、頬の内側をなぞるその動きがこそばゆくて、
グラハムはぴくっと肩を震わせた。
「……キスで、感じるタイプですか、上級大尉殿は。なかなか敏感でいらっしゃる」
声を低めてジョシュアが囁く。頬と耳が、さっと熱くなった。
それでもここまで来れば意地で、やめたと投げ出すことができないのが、
グラハムの生真面目な性格の不幸なところだった。
ようやく先端が柔らかくなってきて、ジョシュアがゆっくりとそれを引いた動きに合わせて、
グラハムの口内に白い塊が残る。
糖分を含んだ唾液が、先端から唇へと、甘い糸を引いた。
「あ……、」
唇を不意に解放されて、吐息が漏れる。
「まだまだ。早くしないと、休憩時間中に食べ終わらないですよ」
ジョシュアはバナナでグラハムの頬を突いた。
両頬を交互に軽く叩いて、再び唇に押しつける。今度は先端ではなく横向きに。
「舌で、皮を剥くんですよ。できるでしょう」
グラハムは眉をしかめながら、言われた通り、尖らせた舌先を、裂け目にそって這わせる。
軽く唇で挟んで引っ張り、果実と皮の間に舌を入れて、下へと舐めおろす。
「なかなか、上手じゃないですか」
下まで剥き終わると、ジョシュアは再びずぶりと唇を割って、今度は喉を突かんばかりに奥まで押し込む。
生理的な反射で目に涙が滲んだ。
「んぅ、ぐ、」
「なかなかいい顔しますね。そそられますよ。そのまま、こっちを見上げて頂けますか?」
ジョシュアの指がグラハムの顎にかかる。いつの間にか周囲から浴びせられている、
焼けつくような視線が肌にむずがゆい。
「——随分と楽しそうなことをしているねえ、君たち」
突然、そう割って入ったのはカタギリだった。
固唾を呑んでいた座の面々が、はっと我に返って、気まずげに視線をそらす。
ジョシュアは咄嗟に引っ込めたバナナをテーブルに置いて、舌打ちした。
「これから技術部とパイロットとの合同ミーティングだよ。忘れたのかな?」
「……折角いいところだったのに。嫉妬深い技術顧問殿を出し抜くのは易しくないですね」
言って、ジョシュアは他の隊員と一緒にその場を離れていく。取り残されたグラハムは、
まだ何が何だかわからないというような、邪気のない表情でカタギリを見上げた。
「全く……、君は何もわかってないんだね。まあ、それが君のいいところでもあるけれど」
視姦され陵辱されているに等しかったさっきの状況を、グラハムはまるで自覚していない。
ただ妙なことをさせられたと首をかしげるばかりだ。
「カタギリ、お前までわけのわからないことを言うのか」
グラハムは濡れた唇を拭い、忌々しそうに呟く。が、カタギリの言ったとおりもうすぐ集合時間だ。
お遊びはこれで終了だと、気持ちを切り替えてグラハムは席を立った。
その俊敏な背中を見送りながら、カタギリはため息をつく。
今まで、彼をそんな目で見ていたのは自分だけだと思っていたが、あのジョシュアという奴は油断がならない。もう少し、監視の目をきつくした方がよさそうだと心に誓う。先に手を出されるわけにはいかない。
「やれやれ……、勿体ない」
置き去りにされた食べかけのバナナを手に取って、カタギリはそれをじっと見つめる。
視線を感じてふり返ると、ドアのところで立ち止まるジョシュアと目が合った。
——悪いけど、君たちには渡さないよ。
宣戦布告するように、にっこりと笑いかけて、食べ残しの果実をカタギリは躊躇なく一口かじった。
| ジョシュア::9:ジョシュア、カタギリ | 2008,02,10, Sunday 07:37 PM