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ジョシュア10(part3 558,559)

ジョピュア

酒が弱いなどと聞いていない。上官はジョシュアに支えられるままになっていた。
瞳は虚ろ、口元は弛緩し、足取りも覚束無い。歩くたびに、柔らかな金糸が頬をくすぐる。
寄りかかる体重は身長から推測される成人男性のそれより随分と軽いようだ。
たまらない気分だった。何故自分がこんな役を引き受けなければならないのか。
発端はバレンタインデイである。
男だらけの精鋭部隊において、バレンタインなどという行事は無関係に思っていたのが間違いであった。
グラハム・エーカー上級大尉、わが軍のエースである彼は男が惚れる男としての魅力を十分に兼ね備えていたのだろう。
部下からのみならず上官からも贈り物は毎年抱えきれないほど届くらしい。
今年は洋酒の入ったチョコレートが盛況で、食べきれないからと部下たちに披露している姿が見えた。
しかしその後、休憩室で寝こけている上官をジョシュアは発見することとなった。
まったく、酒が弱いなどと聞いていない。
貰った物は捨てるわけにはいけないと、随分と食べていたようだが……。
菓子に含まれる微量のそれでここまでなるとは誰も思わなかっただろう。
しかし何故、そのような幼い顔で眠っているのか。
何故、自分は彼を放っておけなかったのか。

ポケットから探ったセキュリティカードを通す。
面倒になって電気を灯さずそのままベッドに雪崩れ込んだ。後ろで静かに扉が閉まる音を遠く感じた。
少ししかめられた眉と、なっていない抵抗を示す体から温もりを奪うように抱きしめる。
チョコレートと洋酒の甘い香りが鼻腔をくすぐった。
眩暈がする程、たまらなかった。
ふと、枕もとの電子時計に目が留まる。
自身の気持ちの答えは出ても、今日は2月14日は終わろうとしていた。
それが分かったところで、男が男に気持ちを伝える、そんなことが簡単にできるはずがなかった。
ただ、何か痕を残したい衝動に駆られて、ジョシュアは首筋に一度強く噛み付いて部屋を後にした。

| ジョシュア::10:ジョピュア1 | 2008,02,14, Thursday 10:44 PM

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