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カタギリ5(part4 514-518)
カタギリの病室のドアがノックされたのは、消灯時間も大幅に過ぎた真夜中のことだった。
作業中の端末から顔を上げ、こんな時刻にいったい誰かとカタギリは身構える。
エイフマン教授が亡くなったあの襲撃事件のあと、オーバーフラッグス技術部員は皆、
かなり神経を過敏にさせていた。

「——カタギリ、私だ」

聴こえてきたのは、深みを帯びて響く、いつだって凛々しいグラハムの声で、カタギリはほっとため息をつく。
腕の骨折と肋骨のひびがまだ癒えていないカタギリとは対照的に、フラッグの無茶な操縦により
同じ病院に検査入院していたグラハムは、驚くほどの回復力をみせて、早々に退院していた。

「どうしたんだい。——どうぞ、入って」

この突然の来訪に、何か技術的な質問でもあったのだろうと、カタギリは特に疑問を抱かない。
今までにも、モビルスーツの開発や整備に関して疑問があれば、夜中でも叩き起こされたことが何度もあった。

「もう体はすっかりいいのかい」
「——よくはないな」

呟いて、グラハムはまつ毛を伏せながら視線をそらす。
どきっとして、カタギリは身を起こし、彼の表情を窺った。操縦中の生体データと、
機体に記録された、限界値を吹っ飛ばす運動データを照らし合わせれば、
グラハムの受けた苦痛が並大抵のものでなかったのはわかる。

「大丈夫なのか。君はいつでも無理をするから」
「勘違いするな。——何も、我慢する気など毛頭ない。カタギリ」

澄んだ緑の眼が、まっすぐカタギリを射た。

「身勝手は承知しているが、生憎と気の長い方ではないからな」

言って、グラハムは足早に近づいてくると、カタギリのベッドに手をついた。
端末を載せたテーブルのアームを押しのけて、肩を掴まれたかと思うと、何が何だかわからないままに唇を重ねられる。
押しかぶせられる濃厚な体温。グラハムの呼吸が荒い。

「んっ……、な、」
「……これが、足りなかった。つきあえ、カタギリ」
彼の様子が異常なことに、カタギリは遅ればせに気づく。潤んだ目と、思い詰めたような表情。
——足りないとは何だ。良くない、とは、何のことだったのか。何を彼は言おうとしているのか。
カタギリの鼓動が早くなる。

「ちょっと……、グラハム?」
「もう、我慢できない」

ばさっと、掛け布団がまくりあげられ、グラハムがのしかかってくる。
ジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイを片手でほどくしぐさは、ひどく男臭い艶を帯びていて、カタギリは思わず息を飲んだ。
再びの口づけと同時に、いきなり擦り合わされたグラハムの股間は、硬く熱を帯びている。

確かに、——グラハムとはこのところ何度も寝ていた。最初は戯れのつもりだったのが、
快楽を教え込むほど淫蕩さを増していく彼の身体にカタギリはどんどん溺れていった。
けれど、いったん感じはじめればとことん淫らではあっても、最初はいつでも羞じらい、
嫌がるのがグラハムで、こんなふうに自分から求められたことなどかつてなかったのだ。
——どうして、という疑問などそっちのけに、ぞくぞくと、背筋が高揚に震える。
ねっとりと絡みつく、欲情の塊のようなキス。下履きが掴まれて、性急に引き下ろされる。

「グラハム、君は……、んっ、……ぅ、ちょっと、こんなところで、誰か来たら」
「軍の機密に関わる重要な話をすると言って、人払いをした。私が呼ばない限り、誰も来ない」

にやりと、グラハムが不敵に笑った。淫らな流し目でカタギリを射竦めたまま、右手でカタギリの股間を揉み、
左手でひとつひとつ、自分自身のシャツのボタンを外していく。
はだけた白い布の間からのぞく、引き締まった筋肉質な裸体。

「何も考えるな、カタギリ。君も入院生活は退屈だろう。いい暇潰しだと思え」

言って、まだ萎えたままのカタギリの性器に、ためらいもなく、グラハムが唇を寄せる。
根本をぺたぺたと舐める舌遣いは、ぎこちないながらも、カタギリがかつてグラハムの体に教えた技巧を
忠実に再現しようとしているのがわかる。
刺激のためではなく、その熱に浮かされたような表情の色気に、カタギリは否応なしに興奮をかき立てられる。

「つきあえとか、足りないって、何が……、」
「コレが」

平然と言ってのけ、グラハムは裏筋を舐め上げ、先端を銜えて、カタギリのペニスにむしゃぶりついている。
そうしながら、グラハムは自分で自分のベルトを弛め、蹴飛ばすように下半身裸になって、
屹立した自身を恥ずかしげもなくさらけ出すのだ。
もう羞恥心も感じていられないほど、体の熱が切羽詰まっているのか。
そんなにも。——欲しかったのか。

彼の身体に、男に抱かれる蜜の味を教え込んでしまったのは自分だという自覚はあった。
年齢相応の性欲はあっても、心身のエネルギー全てをパイロットとしての自分の任務につぎ込んでしまうため、
色事に関してはあまり関心を向けたことのなかった彼を、倒錯したセックスに溺れさせるのは、
このうえなく愉しい時間だった。はじめ戸惑っていた、誇り高いグラハムの姿が、
やがてしどけなく乱れ、カタギリに縋りついて喘ぐ。その落差がたまらなかった。

最初に抱いてからは、任務さえなければ数日と開けずに関係は続いていた。
それなのに入院中、グラハムの相手をできずに、こんなふうに飢えさせてしまったのは自分のせいだ。
ならばどうにかしてやらばければなるまい。とはいえ、果たして、体力の落ちている今の自分に、
彼の性欲を満足させてあげることができるのだろうかと少しカタギリは不安になる。

カタギリが勃起したのを見て取って、グラハムは頬を上気させ、唾液に濡れた唇を舐めながら身を離した。
続いて自分の左手の指を舐めて濡らし、背中から脚の間に回す。窄みを、自分で拓こうとしているらしい。

「あ、あっ……、く、う、」

カタギリは下から自由になる右手を伸ばし、グラハムのシャツを掴んで、体を引き寄せる。
はだけたシャツの間から、乳首を弾くと、既にそこはつんと立ちあがっていた。
指の腹でぐいと転がせば、グラハムは首を傾け、甘い音で鼻を鳴らす。
軍の中にいると小柄に見えるが、充分に鍛え上げられたその体は、うっすらと汗ばんでいる。

「んっ……く、ぅ、」

髪を振り乱しながら、性急に自分自身を暴いていくグラハムの姿が扇情的すぎて、
カタギリはほとんど呆気にとられながら、彼を食い入るように見つめていた。
腰を浮かせたグラハムは、カタギリの熱く屹立したペニスに手を添え、ゆっくり腰を落とそうとする。
幾らかほぐれているとはいえ、唾液で濡れた程度のアナルはまだ抵抗が強い。
それでも、眉を苦痛に歪めながら、グラハムは自分で強引に結合を深めていく。

「あ、あぁ、……ぅ、く、……はぁ、あ、あ」

後半は自分の体重を乗せて、強引に根元まで収めてしまうと、グラハムは長いため息を吐いた。
ずっと切迫していたその表情が、ようやっと、安堵したかのようにゆるむ。

「そんなにも、欲しかった?」

こくんと、子供のように邪気なく、グラハムが頷く。うっとりと伏せられたまつ毛が、気怠げに持ち上がり、
どうしようもなく甘い緑の瞳が、カタギリを見つめた。
——溺れないでいられるものか。こんなにも美しく、淫蕩な生き物に。
下から腰を揺らすと、グラハムの体からは力が抜けかけて、カタギリの体に縋るように手をつく。

「放ったらかしておいて、済まなかったね。コレなしではいられない体になった?
 僕じゃなければ駄目なのかな、それとも、抱いてくれるなら誰でもいいのかい」

戯れに問い詰めると、グラハムは快楽に蕩けた眼をしたまま、困ったような表情になった。
発達した胸筋の間に、するりと汗の滴がつたう。

「……わからない。どうでも、いいだろう、……ぁ、はぁっ、う、ん、」

カタギリの片腕が使えないので、激しい刺激が欲しければどうしてもグラハムが自分が動くしかない。
それを承知で、カタギリはわざと、自分から揺すってやるのをやめた。
自分で中を締めつけたりゆるめたりする刺激でしばらく感じていたグラハムが、
だんだんそれだけでは我慢できなくなったように、唇を半ば開けて、カタギリに目で訴える。
手を触れてやってもいないグラハムのペニスからは、透明な先走りがひたひたと流れ落ちていた。

「グラハム、頑張って自分で逝ってごらん」
「……ぁ、カタギリ、」

あられもなく腰を振りながら、グラハムはカタギリの無傷な右手を掴むと、
今にもはち切れそうな自分の陰部へ引き寄せる。
つ、とその幹を撫でてやれば、グラハムの背がびくんとのけ反った。

「うぁっ、ん、」

ひときわ高い声をあげ、グラハムが懸命に体を上下させる。吸い付いてくるような体内の締めつけに、
カタギリもまたほどなく達してしまいそうになる。
入院生活の間、自慰もせずに研究に没頭していた身体に、いきなりのこの刺激は強烈すぎた。

「このまま、中で出すよ、グラハム」
「ん、あぁ、もっと、……んっ、くれ、はや、く、」

カタギリはグラハムの陰茎を握ると、先端にきつく親指をあてた。
ぐいぐいとカタギリに腰を押しつけ、挿入が深くなるようにしながら、身を震わせてグラハムが喘ぐ。
俯いた額が、カタギリの鎖骨に押しつけられ、絶頂の予兆にがたがたと震える。

「んっ……、」

不意に痙攣するようにきつく締めつけられ、カタギリはグラハムの奥深くに射精した。
熱が内部に迸るのと同時に、くたりとグラハムの身体から力が抜け、カタギリに覆いかぶさる。
下腹に押しつけられたグラハムの性器がびくんと震え、じんわりと熱い精液の感触が手に滲んだ。
カタギリの肩に、ぎゅっと縋りながら、グラハムが荒い呼吸をしている。

「——満足したかい?」

訊ねれば、グラハムは最初は朦朧としたように頷いて、——ややあってから、ゆるりと首を振るのだ。

「カタギリ。——早く、体を治せ」
「君のために?」
「そうだ。私のフラッグのために。それから」

気怠そうに体を動かして、グラハムが繋がっていた体を離す。
——人払いをしたとはいえ、深夜の巡回で廊下には人も通る。朝の回診もある。となればグラハムは、
今は情交の後の体を引きずっても、自分で帰らなければいけないのだ。
体さえまともならば、朝まででも、お互いが力尽きるまでに何度でも抱いてやりたいのに。

「わかっているよ。——物足りないんだろう? もう少し待ってくれないか。きっと今までのどんなセックスも霞むくらい気持ちよくしてあげるから」

戯言のようで、本気の言葉をカタギリは投げかける。
グラハムは答えずに、ただかすめるようにカタギリにキスすると、カタギリに掛け布団を戻して、
さっきまでの淫蕩な表情は全て幻になったかのように、さっと着衣を身につけていく。
その端正な横顔は、何度抱いても、明るく、一途で、そして貪欲な輝きを失わないままなのだ。
だからこそ、虜になる。

「カタギリ。——お前には感謝している。よく休め」
「君の方こそ。——おやすみ」

ジャケットに袖を通し、ネクタイをポケットに押し込んで、グラハムがカタギリを見、すっと踵を返す。
姿勢の良い、そんな彼の後ろ姿が視界から消えるまで、カタギリは目を離すことができなかった。

| カタギリ::5 | 2008,02,22, Friday 01:18 AM

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