リボンズ様が見てる
目が覚めると、ひどく体が冷えた。頭が痛いのは酒のせいか。乱暴のかぎりを尽くした名前も知らない下品な男達は、
後処理もしないままモーテルを出て行ったらしい。
体内に残ったままの欲望に吐き気がした。
軍のIDバーとカード、携帯は自宅に置いてきたから無事だったが、
財布の中身と着ていたコートと、仕立てのいいスーツはなくなっていた。
仕方なく精液でぐちゃぐちゃのワイシャツを身にまとい、ネクタイをしめる。
部屋に入ってすぐ後ろから無理矢理脱がされて、無造作に床に捨てられた
トランクスに足を通すが、人に会わないで自宅にたどり着けるかどうか。
タクシーを拾おうにも金がない。
靴をはこうとして、それも残っていない事に気付いた。
悪態をつこうとして、声も掠れすぎてでない事に気付く。
仕方がないから、人の通らない場所を選んでいこう…
だが裸足のままシャツ一枚で一目を避けて路地裏を行くには、
イリノイの土地も、グラハムの心も寒すぎた。
「車を止めてくれ。」
人も車も沈黙する深夜。いや、もう明け方も近い。
一見優雅そうに見えるがその実多忙な男は、黒い車を人気のない路地につけさせた。
「珍しい毛並みの猫がいると思ったら……これはこれは」
先日の雨のあとが未だ乾かない、汚い水の溜まった薄暗い路地裏。
シャツにネクタイという奇妙ないでたちで、彼は倒れていた。
「ふむ。」
「どうされました、アレハンドロ・コーナー様」
スケジュールがおしているというのに、仕事に向かう車から降り
路地の一点を見つめて動かない男に、しびれを切らした従者らしき少年が問いかける。
「リボンズ、猫を拾ったら怒るかね?」
「どういう意味でしょうか」
アレハンドロ・コーナー、と先ほど呼ばれた男はその場にしゃがみこみ、
泥にまみれてなお輝きを失わない金髪をかきあげる。
「美しい猫だよリボンズ。ああ、美しい捨て猫だ。」
男が目配せをすると、黒いスーツを着た体格のいいSP達が
ぼろぼろのグラハムの体を持ち上げて車へ乗せた。
| 分岐モノ::1:売春リンカーン | 2008,02,22, Friday 11:59 PM