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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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カテゴリー「FF」の検索結果は以下のとおりです。

[スコリノ]君の時間を一人占め

  • 2019/08/08 21:00
  • カテゴリー:FF


スコールのスケジュールと言うものは、大抵真っ黒に塗り潰されているものだった。
それはスコールの立場故のものもあるが、それ以上に、SeeDが慢性的に人手不足だと言う点が大きい。

“月の涙”の影響で、魔物討伐の類の依頼が殺到するようになり、経営難のような話には捕まらなかったバラムガーデンであるが、元よりSeeDと言うのは限られた者のみが得られた称号のようなものだったから、全てのSeeDを投入しても、世界中から舞い込んでくる依頼全てに応えるのは難しかった。
その上、“月の涙”によって落ちて来た魔物や、それにより生息地を追われた魔物が街に近付くようになったとかで、危険度の高い魔物の出現が増えている。
SeeDとは言えその実力はピンからキリまであり、誰もがスコールやその幼馴染達のようなSランク級ではない。
加えて、各国の要人警護と言った依頼もあり、これはこれで断る訳にも行かない事も多く、時にはスコールを指名して護衛を求める者もいて、これもまた厄介であった。
キスティスやシュウがスコールのスケジュールを管理し、どうにかこうにか調整して、無理のないように回すように務めてはいるが、そんな彼女達にも実働任務は寄せられる。
サイファーも引っ張り出して魔物討伐の依頼を集中的に回したりもするが、やはり追い付かない事も多かった。

が、そんなスコールのスケジュールが、ぽっかりと空いた。
それは誰が調整した訳でもなく、偶然の産物で、誰もその日の予定が空白である事には気付かなかった。
スコール自身も含めて、だ。

今朝、今日もいつもと変わらず任務があるとばかりに思って目を覚ましたスコールは、パソコンのスケジュール表を開いて首を傾げた。
任務でなければ、大体二つか三つは何かしら予定や用事が書いてある表に、何も書いていない。
間違えて削除したかと思い、キスティスに連絡してみると、彼女も「あら……?」と不思議そうな声を零しつつ、今日は特に予定はないと言った。
キスティスがそう言うのだから、予定が入っていないのは確かなのだろう───とは思ったが、やはり何か腑に落ちない気がして、スコールはサイファーにも連絡を取った。
彼にはスコールが任務で不在の際、スコールの代わりに諸々の仕事を任せる(押し付ける、と彼は言う。否定はしない)事になっているので、スケジュールを半分ほど共有している状態にある。
今日の昼から任務に出る筈のサイファーに連絡をし、確認させると、彼もまた訝し気な様子で、お前の予定は何もない、と言った。
流石に此処まで来ると、正真正銘、予定は入っていないのだと納得するしかなかった。

これは即ち、休みだ。
意図せず得たが、休日と言うものだ。
サイファーならラッキーだと言って、ガンブレードを片手に気晴らしに訓練所へ向かう所だろう。
スコールも常ならばそうしていた────常ならば。

今、スコールは、じっと自分の部屋の天井を見上げている。
今朝抜け出したベッドにもう一度横になり、眠る訳でもなく、ぼんやりと過ごしていた。


(……暇だ……)


意図せず手に入れた休日と言うものを、スコールは持て余している。
仕事があると思って目を覚ましただけに、拍子抜けしたような気分が拭えない。
其処からくる虚脱感とでも言うのか、改めて何かをする為に動き出す気になれなかった。

ごろり、と寝返りを打って、今度は白い壁を見詰める。
いつかは何かあるとこうやって白い壁や天井を見詰めていたような気がするが、最近はそんな時間もなく忙殺されていた。
それを思うと、この一日は非常に貴重なものであり、溜まりに溜まったあれやこれやを片付けたり、羽を伸ばすには格好の日だ、とは思うのだが、


(……何もする気にならないな)


元々スコールは惰性な性質である。
必要なことであると割り切れば、心中で愚痴を零しつつも熟すスコールだが、そうでないなら放置する事に抵抗はない。
そして今日、どうしてもしなければならない事柄はない。
となれば、スコールの惰性癖が顔を出すのも、当然の流れであった。

しかし、余りにこうして何もせずに過ごすと言うのも退屈過ぎる。
何もしていないのだから当たり前だ。
せめて本でも読めば暇潰しになるのだろうが、スコールはそれを手に取る気も湧かなかった。


(……いっそ任務があった方が楽で良いな)


そもそも、朝はそのつもりで起きたのだ。
何か雑務でも良いから、手を紛らわせるものが欲しい。
普段は仕事なんて面倒臭い、としか思わない自分を棚に上げて、スコールはそんな事を考えていた。

執務室に行けば、何か書類が残っているかも知れない。
そんな事を思って、スコールはようやくベッドから起き上がった。
ドアを開けた瞬間、キスティスに「何しに来たの?」と言われそうな気もするが、仕事を前倒しに片付けるのは何も悪い事ではないのだから、構わないだろう。

と、自室のドアを開けようとした所で、それは勝手に口を開けた。
正しくは、ドアの向こうに立っていた人物によって開かれた。


「おハロー、スコール!」


快活な笑顔と共に、独特の挨拶をしてくれたのはリノアだ。
ガルバディアの実家にいるとばかり思っていた彼女の姿に、スコールは目を丸くする。


「……リノア」
「はい、リノアちゃんです。久しぶり」
「…ん」


見慣れた変わらない笑顔に、スコールの目元が綻ぶ。
ついさっきまで腐るように過ごしていた事を忘れ、スコールは時間が動き出すのを感じていた。

リノアは魔女戦争の後、実家に戻りはしたものの、内包している魔女の力の問題も変わらず抱えている。
望まずして手に入れてしまった力を、今後どうして行くのか、リノアは度々バラムガーデンを訪れては、魔女の先輩であるイデアに相談しているらしい。
また、バラムガーデンには自分の事をよく知る仲間達の存在もあるので、顔を見て話をするのが楽しみなのだと言う。
その中でもリノアはスコールと逢える事を切望してはいるのだが、如何せん、スコールのスケジュールが余りにも真っ黒である為、中々その機会に恵まれなかった。

と言う事情を抱える彼女にしてみれば、今日と言う日は千載一遇のチャンスである。


「ね、ね。スコール、今日はお暇なんだって?キスティスが言ってた」
「……ああ」
「今だけ暇?もう何か予定が入ってる?」
「別に、何も」


予定を入れるも何も、余りにもやる事がなさ過ぎて、仕事に手を付けようとしていた位だ。
それを言うと、リノアは眉をへの字にして困ったように笑い、


「スコールらしいなあ」
(…なんだよ。駄目か?)
「おっ、眉間のシワ」


傷の走る眉間に寄せられる皺を見て、リノアは悪戯っ子の顔で、指でつんと突く。
益々眉間の皺が深くなるスコールだが、リノアは特に気にしなかった。
想像通りの反応をしてくれるスコールの様子に、くすくすと笑みを零しつつ、


「ねえ、スコール。暇なら一緒に出掛けない?」
「……出掛けるって、何処に?」
「何処でも良いよ。バラムに行く?今からティンバーは日帰りキツいかな」


今日は暇でも、明日は忙しいよね、と言うリノアに、スコールは頷いた。
明日からは任務で出なければならないから、今日の夜にはガーデンに戻って準備をしなければならない。
────そう思うと、今日は暇だと思っても、スコールが完全に自由にできる時間と言うのは、案外少ないのだ。

そんな時に来てくれたリノア。
だからこそ、一緒にいられる時間が作れるんじゃないかと、きっとそんな気持ちで此処までやって来たのだろう。
そう思うと、胸の奥が言いようもなく温かくなって、慣れない感覚にスコールは少し戸惑う。
けれど同時に、その感覚が嫌ではない事も、スコールはよく知っていた。


「……バラム、行くか」
「ほんと?」


スコールの言葉に、リノアの表情がぱあっと明るくなる。
花が咲くような表情の変化に、スコールの唇が緩んだ。


「あのね、あのね。綺麗なブックカフェのお店が出来てたんだよ」
「ブックカフェ?」
「色んな本が置いてあるの。月間武器もあったよ」
「それは毎月読んでるから良い。他には?」
「ファッション雑誌もあるし、小説も。静かで居心地が良いから、スコールも気に入るんじゃないかな~って」
「…じゃあ、其処に行くか。でも俺、場所は知らないぞ」
「お任せください。ご案内します!」


胸を張って自信満々に宣言するリノアに、余程気に入ってるんだな、とスコールは思う。

歩き出したスコールの隣を、心なしか軽い足取りのリノアが歩く。
地面を軽く弾み蹴るように歩く彼女は、今にも鼻歌を歌い出しそうな雰囲気だ。
そんなリノアを横目に見ながら、これなら急な休みも悪くない、と今日初めて思うのだった。





いちゃいちゃスコリノ。
二人とも立場やら環境やらと色々あるけど、一緒に過ごして欲しいね。
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[クラスコ]ディバーシッド・モーニング

  • 2019/07/08 22:00
  • カテゴリー:FF


目覚めと共に、躰にじんわりとした重怠さを自覚した。
瞼も重くて開けたくなかったが、今日は月曜日、と頭の隅が冷静に警告した。
平日ならば学校があるのだから起きなければ行けない。
本質的には物臭でありながら、根が真面目な所為で、気分が乗らないからと言う理由でサボタージュを選ぶことが出来ないスコールは、なんとか目を開けようと懸命に努力した。

結局、スコールがちゃんと目を開ける事が出来たのは、目覚めたと自覚してから10分後の事だ。
寝汚い一面のあるスコールにしては、早いと言えるだろう。
だが、目を開けてもスコールの試練はまだ続く。
今度は起き上がり、身を包んでくれているシーツから抜け出し、服を着なければならないのである。

チカチカと目の奥が乾燥で痛むのを感じつつ、スコールははあ、と息を吐いた。
喉の奥に心なしか詰まっていた感覚が消え、ごろりと寝返りを打って俯せになる。
ベッドに両手をついて、腕に力を入れて、重い体をどうにか起こす。
スコールの体を守っていたシーツがするりと肩から滑り落ちて、白い肌が露わになった。


「だる……」


こうして起き上がるだけの動作が、スコールには面倒で仕方がない。
それはスコールにとって常の事ではあるのだが、今日は特に気分が乗らなかった。
原因は他でもない、体の怠さと一緒に付きまとう、腰の痛みの所為だ。

スコールはまだ重い瞼を擦りながら、隣に寝転んでいる男を見た。
ごくごく静かな寝息を立てているのは、恋人のクラウドだ。
彼もスコール同様に裸身で寝ており、体を隠しているのは、スコールが使っていたシーツの余り程度であった。

硬い体を背筋を伸ばして解しつつ、スコールはきょろきょろと辺りを見回した。
ベッド横のサイドボードに置いていた携帯電話を取り、時間を確認すると、詠唱画面には午前7時の表示。
昨日の夜に作り置きして置いた料理を電子レンジで温めれば、ちゃんとした食事を採ってから登校が出来るだろう。
正直に言えば、あまり腹は減っていない気もするのだが、今日は午前中に体育の授業がある。
流石に何も食べずに運動は出来ないように思うので、パン一枚程度でも腹に入れておいた方が良いだろう。
ついでに、隣で寝ている恋人の食事も用意だけ済ませておくとしよう。

何はともあれ、先ずは服を着なければ。
着替えればもう少し動く気になれる筈だと、ベッドを降りようとして、


「!」


ぐいっ、と腕を強く引っ張られて、スコールはベッドからの脱出に失敗した。
ベッドに落ちるかと思った背中が、とさっと硬さを帯びた柔らかい感触────人の体に受け止められる。
虚を突かれてぽかんとしているスコールの首筋に、ちゅ、と吸い付く背後の男。
更には腹に回された手が悪戯の気配で撫でるものだから、スコールは焦って恋人の名を呼んだ。


「ちょ……クラウド!」
「ん」
「吸うな……っ!」


返事をするように極々短い声だけを返しつつ、クラウドはスコールの首筋にキスをする。
ちくりと小さな痒みに似た感覚があって、クラウドが痕をつけようとしているのが判る。
これから学校なのに、そんな場所につけられたら隠せない。

しかしクラウドはお構いなしにキスを繰り返し、スコールの耳の後ろに唇を押し付けて吸い、綺麗な赤い華を咲かせた。
スコール自身にはどうやっても見えないが、他人なら耳と髪の毛の隙間から見える事もあるだろう。
そんな距離まで近付いて見る事が出来る者は限られるだろうが、友人知人に見られたらと思うと、スコールは余計に居た堪れない。
だから見える所にはつけるなといつも言っているのに、クラウドは今度は首の後ろに甘く歯を立てた。
歯の感触と一緒に、肉厚な舌がゆっくりと首筋をなぞり、スコールの背中にぞくりとしたものが奔る。


「クラウド!やめろって……」
「ん」
「うわっ……!」


咎めるスコールの声など何処吹く風と、クラウドはスコールの体をベッドへと倒した。
覆い被さるように体を重ね、首元に鼻先を押し付けて来るクラウドに、スコールの脚がじたばたと暴れて抵抗を試みる。


「今日月曜……!」
「ああ」
「学校……!」
「そうだな」


スコールの足掻きを意に介さず、クラウドは愛撫を重ねていく。

スコールの腹を撫でていた手が下へと降りて、足の付け根を辿った。
太腿をゆったりと摩りつつ、指先が際どい場所を掠めるのを感じて、ひくん、と細い腰が震えてしまう。


「ん……っ!」
「スコール」
「やっ……」


耳元で名を呼ぶ低い声に、スコールはふるふると頭を振って拒否を示す。
が、やだ、と言うその主張は余りにも力なく幼くて、クラウドの興を削ぐには逆効果だ。

皮膚の厚い掌が、何度もスコールの中心部を掠めては離れ、熱を煽ろうとして来る。
反応したら調子づかせる、と判ってはいるけれど、スコールの躰はその熱の味と心地良さを十分に知っており、それに逆らう事は出来なくなっていた。
背後の男はそれを判っていて触れている。
その事に忌々しさを感じても、本気で拒絶する事が出来ないから、スコールに逃げ道は残されていない。

スコールの太腿に硬い感触が押し付けられて、スコールは赤い顔でそれの持ち主を睨んだ。


「昨日散々しただろ…!」
「ああ」
「大体、あんたも早く仕事の準備しないと」
「安心しろ。今日は休みなんだ」
「俺は休みじゃないっ」


クラウドは休みでも、スコールはいつも通りに学校があるのだ。
だから昨晩の疲労が残っていても何とか起きようと努力したし、昨晩もそのつもりで夕飯を多めに作り置きして朝に備えた。
それを台無しにしようとしているクラウドに、スコールは眉尻を吊り上げるが、


「テストは終わったんだろう」
「終わ、ってる…けど……っ」
「なら良いじゃないか」
「意味が分からない……んん……っ!」


確かに先週まではスコールのテストがあって、それに向けた期間中も恋人同士の時間は取れなかった。
テスト開け直ぐはと言うと、クラウドのシフトが詰め込まれていたので、メールや電話はしていたものの、逢って過ごす事は出来ず仕舞い。
お互いの煩わしい事から解放されて、ようやく顔を合わせる事が出来、お互いに熱を燃え上がらせたのが昨日の事。
それですっかり満足した────と言う訳ではないが、それでも離れていた時間は取り戻せたのではないか、と思う程に、お互いの存在を確かめ合った筈だ。

しかしクラウドはまだまだ足りないと言わんばかりに、スコールを求めて来る。
スコールの足の間にクラウドの膝が割り込んで、足を開かせれば、スコールの中心部も露わになり、


「お前も期待してるじゃないか」
「……っ!!」


薄く笑みを孕んで指摘するクラウドに、スコールは真っ赤になってぶんぶんと頭を振った。
クラウドは恥ずかしがり屋な恋人の思った通りの反応に、くつくつと笑いながら、また首筋にキスをした。


「ふ…ん……っ」
「お前も今日は休め」
「んぁ……っ」


吐息が首にかかるのがくすぐったい。
漏れてしまう声が徐々に我慢できなくなって、スコールは右手で口元を覆った。
抵抗して暴れていた足はと言うと、シーツの波をゆるゆると滑るだけになり、もどかしそうに腰を捩る様が、酷く扇情的だ。

はあ、はあ、と乱れていくスコールの呼吸音を聞きながら、クラウドはスコールの薄い胸を撫でる。
昨夜も何度も愛撫した其処が、待ち侘びるように膨らんでいるのを見付けて、くりくりと指先で苛めてやる。


「あ…っ、クラ…ウド……っ」
「良いな?」


甘さを孕んだ声で名を呼ばれ、クラウドはそれを合図と取った。
形ばかりの確認をした所で、スコールからの返事はなく、悩ましい声だけが繰り返される。

もうクラウドが離してくれない事を、スコールも重々理解した。
同時に自分も彼からまだ離れたくないと思っている。
ただ、せめて休みの連絡位はしたい────と考えてはいるのだが、その為に携帯電話に手を伸ばす事も、もう出来ない。

取り敢えず、全部終わってクラウドの気が済んだら、今日は此方の自由にさせて貰おうと決めて、スコールは甘い甘い熱の中に溺れる事にした。






7月8日なのでいちゃいちゃクラスコ。
子供を堕落させる駄目な大人なクラウドと、悪い大人に捕まったけど嫌ではないスコール。

昼くらいにスコールが寝てる間に、クラウドがスコールの携帯からティーダに連絡する。
ティーダはスコールがクラウドと日曜に逢うって聞いてるから、大体予想済み。
夜になってもスコールはまだ帰らないので、結局夜通しいちゃいちゃするんだと思います。
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[ラグナ+スコール]FF14-4.3パロ妄想ログ

  • 2019/06/21 16:21
  • カテゴリー:FF
2018年6月頃に、FF14紅蓮のリベレーター:パッチ4.3のストーリーをラグナとスコールに置き換えて妄想した時のツイッターのログです。部分的にストーリーのネタバレ、ストーリーを知っている前提の設定で綴っています。



[ラグナ+スコール]FF14-4.3パロ妄想ログ

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[ロクスコ]秘密のお宝

  • 2019/06/08 22:00
  • カテゴリー:FF


闘争の世界と神々は言うが、世界に召喚された戦士達は戦闘ばかりをしている訳ではない。
本来在るべき世界とは違う場所に呼ばれた彼等だが、生物としての構造まで変えられた訳ではないので、日々を過ごすには食事もすれば睡眠も取る。
それらの為に家事雑事をする事もあるし、何をする事はなくとも、気晴らしにと陣営のホームから離れる事もあった。
闘争のエネルギーを使って世界を修復し、広げていると言う話もあって、この世界のあらましを調査するメンバーもいる。

今回、調査の為に陣営を出発したのは、スコールとロックの二人だった。
特に何か理由が合ってこの編成になったのではなく、前日の疲労やそれぞれの都合・予定を加味して、手が空いていたのがこの二人だったのだ。
スコールとロックは、ロックが以前に事故紛いで召喚された際、最初に知り合ったメンバーの一人であった事もあってか、それなりに打ち解けた仲ではある───と言うとスコールはなんとも微妙な顔でみけんに皺を寄せるのだが、ロックにとって気安い相手である事は確かであった。

調査となると一日二日では帰れないので、必然的に野宿になる。
スコールはサバイバル訓練を詰んでおり、ロックは元の世界で様々な場所に赴いた経験があったので、野営の準備は恙なく進んだ。
都合よく森があったので、其処で拾った木の枝を薪にして火を焚き、食事も済ませる。
新たな闘争の世界は、始めこそ自分達とイミテーション程度しかいなかったが、世界が拡がるに連れて、何処の次元の歪から迷い込みでもしたのか、魔物の姿も確認されるようになった。
そう言った危険生物に寝込みを襲われる可能性を警戒し、見張りは交代制で行う事にする。

しかし、夜になっても中々二人は眠ろうとはしなかった。
以前、ロックが“ジョン”であった頃なら、スコールは身元不明の人間への不信感で眠る気になれなかったのだが、今はそんな心配もない。
今日は散策中にイミテーションが襲ってくる事もなく、単純に疲れていないので、眠気を感じなかった。
それなら少し話でもしないか、と言ったロックに、あんたが喋るのなら聞いてても良い、とスコールは言った。
元よりスコールが余り喋る性質ではない事は、ロックも理解している。
それで良いよとロックも言ったので、二人の静かな夜は概ね平穏に過ぎて行った。

そうして、ロックの話が幾つか終わった所で、スコールはふと思った事を口にした。


「……あんたは、“トレジャーハンター”なんだよな」
「ああ、そうだぜ」


ぱきん、とロックは持っていた枝を折りながら、スコールの言葉に頷いた。

ロックは、自分は“トレジャーハンター”だと称している。
一人で行動する事に慣れ、ジタンのように身軽で高場を得意とするのも、“トレジャーハンター”として身に着いたスキルだと言う。
鍵のかかった宝箱や扉を開ける為の技術も持っているらしく、それを聞いたティーダが「泥棒みたい」と言った時には、しっかりと訂正していた。
が、ロックが持っているスキルの話だけを聞くと、スコールもティーダと同じ言葉が頭に浮かぶ。

と言うのも、スコールはいまいち“トレジャーハンター”と言うものが判らないのだ。
スコールの身の回りには、そう言った事で生計を立てている者がいなかったのだから無理もない。


「……トレジャーハンターって言うのは、まともに食っていける職業なのか?」
「いや、どうかな。苦労して手に入れた宝の地図が偽物、なんて事はよくある話だし。上手いこと宝が見つかっても、価値のあるものかは判らないし。金銀財宝だと思ったら、鑑定したら全部ただのメッキとかな」


ロックの言う通り、骨折り損のくたびれ儲けと言うのは、彼にとって特に珍しい事ではないらしい。
彼の世界では未開の地と言う物は少なくなく、そう言う場所にはまだ見ぬお宝が、或いは古の時代に隠された財宝が、と言う話はよく飛び交うものだった。
しかし、頼りにしていた宝の地図がとんだ偽物だった事もあれば、儲け話そのものが全くのデタラメだったり、単なる伝承が形を変えて伝わったに過ぎない事も多いと言う。
正しい伝説にありつけたとしても、既に宝は誰かに持ち去られた後で、噂通りのお宝が手に入る方が珍しい。

そんな職業でよく生きていられるな、と言うのがスコールの素直な感想だった。
恒久的な収入になるとはとても思えない、はっきり言って博打に等しい生活だ。
それでも、夢だのロマンだのを求めてトレジャーハンターになる者は、ロックの周りでは決して少なくはなかったそうだ。
これは世界ごとに見られる文明の差や、時代的な環境による認識の違いの所為だろうか。


「…そんなに誰でも簡単にトレジャーハンターとやらになれるものなのか」
「そりゃあ、何か資格や証明が必要なものでもないからな。一攫千金目当てで宝を見付けようって山師は、何処の街にもいたよ。俺の知り合いにもそんなのは多かった」


トレジャーハンターを名乗る者同士のネットワークと言うのは、案外馬鹿には出来ない。
宝の伝説の話題は勿論、それに辿り着く為のルートを知るのも、そう言った者が集まる酒場で収集するのが常套手段であった。
───情報の出所が酒場や飯屋と言うのは、何処の世界でもそう変わらないんだな、とスコールは思う。

正直な話、ロックの周りでは、自分がそうだと名乗れば“トレジャーハンター”と言えた。
後はそれを名実共にする為に、宝の情報を探し集め、本物に辿り着くまでチャレンジを繰り返す。
そうして他人よりも一歩先に宝にありつけた者が、名誉と共に富を手に入れるのである。


「……じゃあ、宝なんて手に入れた事もない詐欺師も多そうだな」
「はは、否定は出来ないな。夢だけ語って冒険は明日、そのまた明日、なんて奴もいたよ」
「そう言う奴は何処で何をして生活を凌いでるんだ……」
「さあ、其処までは。だけど、俺の世界じゃ、その日その日に必ず金が貰える仕事をしてる奴の方が珍しかったと思うな。そう言うのは、何処かの城だったり、貴族だったりに雇って貰ってる人位だ。皆その日その日、その時々で、割とどうにかしてるよ」


キツい生活してる奴もいたけど、と少し寂しそうに言いながら、ロックは手遊びしていた木の枝を焚火に放った。


「スコールの周りには、トレジャーハンターとか、冒険家みたいなのっていなかったのか?」
「…いない。世界中を回った事のある奴ならいたけど、そいつには目的があったから、……少なくとも、そんな大層な名前が着くような旅はしていない」


スコールの世界で“冒険家”と呼ぶのであれば、幾らか伝記のようなものは図書室で見た覚えがある。
世界中の極地を巡る写真家や、まだ見ぬ大地を求めて当てもなく放浪する者────バッツのような根無し草、と言う程でもなかったが、そうした事を記録したり発表したりする事によって、名誉的な収入を得ていた者はいたと思う。
が、やはりそれは、スコールの中では一般的な職業と呼ぶには聊かズレていて、人によっては職業と言うより趣味が高じたと言う者も少なくない。

トレジャーハンターに至っては、益々イメージが沸かなかった。
遠い昔の忘れられた宝を見付ける、と言うとロマンが溢れるが、やっている事は盗掘ではないのかと思う所も度々聞こえる。
遠い昔の墓地遺跡の地下だとか、古い地神が祀られていたと伝承される洞窟の奥だとか、スコールの世界ではほぼ間違いなく、公的機関が管理をしている場所になるだろう。
スコールも一度、そう言った場所に入った事があったが、それは一応の許可を得て入ったものだ(奥まで入って良いと言われた訳ではなかったが)。
しかし、ロックの話を聞く限り、彼の世界ではそうした場所が誰かの管理の手にあったとは考え難く、余程城や街に近い場所でなければ、野放図も同然だったようだ。
侵入に際し、正式な許可が必要な場所ではないようなので、そう言う点では盗掘と言う訳でもないのだろうが、見方を変えればそう言う扱いにされても文句は言えないのではないだろうか。

ぱちり、と焚火の中で小さな木が爆ぜる音を立てた。
うーん、と唸る声と共に、ロックが腕を頭上に上げて背筋を伸ばす。


「折角こんな変わった世界に来れたんだし、トレジャーハンターとしては、此処でも何かお宝を見付けてみたいもんだな」
「……こんな世界に財宝なんてものがあるとは思えないが」
「それは判らないさ。スコールは前にもこういう場所に呼ばれてるようだけど、その時に世界の全部を見た訳じゃないだろ?」
「…まあ……」


ロックの指摘は確かな事で、この新たな世界は勿論、過去の闘争の時でも、スコールが世界の全てをその足で見て回ったかと言うと否である。
以前はこんなにものんびりとした調査時間はなかったし、どうやって戦況を打破するかが優先されていた。
秩序の陣営が負ければ、闘争の世界諸共、それぞれの世界も混沌に飲まれると聞かされていたからだ。
そんな状況でのんびりと冒険なんて出来る筈もなく、要点となるポイントを地域ごとに決めて巡回をする事はあっても、隠された財宝を探しに行こうなんて話は誰もしなかった。
それが冒険好きのバッツや、宝に目のないジタンであっても。

そう考えると、ロックが言うように、世界の何処かに宝が眠っていても可笑しくはないのかも知れない。
過去の闘争の世界でも、それを見付ける為の時間がなかっただけで、何処かにひっそりと隠れていた可能性も、ゼロではない。


「それに、宝って一言で言っても、色々あるんだ」
「……色々?」
「金銀財宝って呼べるものばかりが、お宝じゃないって事さ。例えば古い時代の事が書かれた本とか、ずっと昔に滅んだ国で使われていた道具とか」
「……歴史的な価値があるもの、か」
「そうそう。他にも、ほら、此処は神様が作った世界だろ?じゃあ、神様がこっそり大事にしているものや、この世界の根っことかそう言うものの元になるものが、何処かにあっても不思議じゃない」


ロックの言葉に、成程それは確かに宝足り得るものだ、とスコールは思った。
本当にそんな物があるのかは知らないが、逆に言えば“そう言う物があっても可笑しくない”のも確か。
仮に、神々の力の源、なんてものが見つかったとすれば、この世界を揺るがしかねない大事件になるだろう。

スコールが真面目な表情でそんな事を考えていると、


「まあ、そんな物が本当にあるのかは、判りやしないんだけどな。俺達トレジャーハンターは、こう言う眉唾な話をアテにして、宝探しに行ったりするんだよ」
「……やっぱりまともな職じゃない」


笑って言うロックに、スコールが眉根を寄せて呟けば、「だよなあ」とロックは言った。
それからロックは、スコールの貌を覗き込むように近付いて、


「でもな、スコール。これでも職業柄、そこそこ鼻は効く方なんだ」
「……何の?」
「お宝が其処にあるかどうか、だよ」
「……で、その鼻は、今は何て言ってるんだ?」


最早期待はしない表情でスコールが訊ねてみれば、ロックはにぃっと歯を見せて笑う。


「秘密だよ」
「は?」
「言ったら誰かに獲られるかも知れないからな。一番オススメな宝の情報は、誰にも漏らさないように仕舞っておくもんさ」


そう言って、ロックはスコールの傷のある額をツンと突いた。
虚を突かれたように目を丸くしているスコールに、ロックは得意げにウィンクをして見せる。
何か勿体ぶった言い様に、意味が判らない、とスコールの眉間には今日一番の皺が寄った。

なんだか下らない話をしたような気がして───きっと強ち間違っていない───、スコールは不機嫌な表情のまま、焚火に背を向けて横になった。
寝る、と無言で告げるスコールに、ロックは「おやすみ」とだけ言って静かになる。
スコールはしばらくロックの言葉が頭に残って、その意味をぐるぐると考えていたが、しばらくすると、判らない問題を投げるように、やって来た睡魔に身を委ねた。



……少年の寝息が聞こえるようになった頃、一人現実世界に残されたロックは、蹲る背中を見てひっそりと目を細めていた。





6月8日と言う事で、ロクスコです。
朗読劇もあったし、この二人は意外と距離が近いと嬉しい。
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[バツスコ]見えない世界を見る世界

  • 2019/05/08 22:00
  • カテゴリー:FF


戦闘中、バッツが召喚されたタコの吐き出した墨を顔面で食らった。
独特の粘つきのあるタコ墨は、被っても時間が経つと浄化されるように消えていくのだが、バッツの暗闇状態はその後も回復しなかった。
原因は、タコが吐き出した墨を、頭や背中から覆い被さるように貰ったのではなく、直接顔───目元で受け止めてしまった事。
異物が眼球を襲ったのだから、全くの無事でいられる筈もなく、タコ墨そのものが消えても、バッツの目に光は戻らなかったのだ。

その場の戦闘はスコールとジタンで切り抜け、三人は急ぎ歪を脱出した。
バッツは自分にエスナを使って治療を試みたが、毒や麻痺の中和とは勝手が違うのか、効果はなし。
視力のない状態で歩き回る訳にもいかず、少し待てば治るかも知れない、と待ってもみたものの、バッツの様子は芳しくなかった。
更には目の奥に痛みを訴え始めたので、悠長にしていては症状が悪化するかも知れないと、スコールがバッツを背負って秩序の聖域まで帰還した。

ルーネス、セシル、ティナが代わる代わる治療魔法をかけてみたが、バッツの視力は戻らない。
ケアルで痛みはなくなったようだが、彼の視界は黒く塗りつぶされたままらしい。
クラウドが書庫から医学本を見付けて来たので、参考にしながら観察してみた所、“科学目外傷”に準ずるのではないか、と判断された。
洗剤や有機溶剤と言った、本来目にいれる事を想定されていない、化学物質が目に入った時に起きてしまう症状だ。
重症になると失明する事もある───と言ったクラウドに、一同はざわついたが、しかし本に因ればバッツの症状は失明状態にはあるものの、眼球の様子を見る限りでは「重症」ではないらしい。
バッツの眼球自体は、炎症もなければ瞼と癒着している事もなく、角膜が濁りを持っている事もなかったので、そう言う意味では「重症」ではなかったのだ。
ではどうして視力が戻らないのか、と言う点については、発端が召喚獣による攻撃が原因だった事も含め、正確な所は判らず仕舞いだった。

本で調べる事が出来たのは此処までで、後は経過観察しかないだろうと判断された。
そう判断するしかなかった、と言うのが正直な所である。
回復魔法を使えるメンバーが定期的に治癒魔法を施しつつ、時間が薬となる事を祈る他は、時間のある者がモーグリショップに通って、回復に使えそうな薬を探す事になった。

目が見えないのだから、当然、バッツは拠点での待機を余儀なくされている。
彼一人では色々と大変なので、必ず誰か一人が傍についていた。
バッツは「一人でもなんとかなるって!」と言ったが、実際に一人で歩いてみると、過ごし慣れている屋敷の中でもかなり危なかった。
食卓用のダイニングテーブルや椅子の位置、部屋の間取り、廊下の距離等、覚えているようで覚えていない事が多々ある。
階段の上り下りは手摺を使えば出来たが、踏み外しそうになる事もあった。
平時のバッツなら、目隠しをしていてもするすると歩けてしまいそうな空間が、視力と一緒に平衡感覚もエラーを起こしているのか、度々ぶつかったり転んだりするのだ。
当然、食事の用意や片付けも思うようには出来ず、介助の手に頼らない訳にはいかなかった。

そうしてバッツの目が見えなくなってから、一週間が経つ。
スコールは、件の日以来、初めてバッツと二人で待機組となった。


(……まだ回復しないのか…)


リビングのソファで、退屈そうに横になって伸びているバッツを見下ろして、スコールは眉根を寄せる。

バッツは、先程までスコールの手を借りて食事をしていた。
昼食はバッツも簡単に食べられるようにサンドイッチにしたのだが、皿の位置が判らないので、手に持たせるのはスコールが行った。
中身の具が零れる事にも気付かず、飲み物はグラスにストローを入れてスコールが運んだ。
どうにも不自由なバッツの様子に、スコールは酷くもどかしい気持ちになっていた。

うーん、とバッツが唸るように声を上げて起き上がる。
伸びの姿勢で体を左右に捻る姿に、エネルギーを持て余しているのが判った。
しかし、いつものように駆け回る事は勿論、今のバッツはほんの数メートルを移動するだけでも、人の手が必要になる。
何かと大人しくしていられないバッツなら、今の状態は退屈で仕方がないのだろう。


(…いや。それより、見えない不安とか。まだ治らない事とか、気になる、よな)


何せ、視覚が使えなくなってから一週間も経っているのだ。
大抵の症状なら、治癒魔法で継続治療を行いながら、三日もすれば回復傾向になる事が多いのだが、今回は随分と長い。
こうなると、ひょっとして、もう見える事はないのではないか、と言う不安が過ぎっても可笑しくはない。
傍で見ているしか出来ないスコールがそう思ってしまうのだから、当人が考えない筈もない────そうスコールは思うのだが、


「スコール、其処いる?」
「……あ。…ああ」


ふっと此方を見て名を呼ぶバッツの声は、いつも通りの明るいものだった。
どうして今の状態でそんな声が出せるのか、スコールには不思議でならない。

この一週間、散策から戻ってバッツの顔を見た時、実はもう視力が戻っているんじゃないか、と思った事もある。
何故ならバッツは、話をしている人間の方を正確に向き、いつもと変わらない様子で会話を交わしているのだ。
眼球に充血症状はなく、痛みも治癒魔法を施してから感じられなくなったことで、目元に包帯をする必要性も見られなかった為、顔は本当にいつもと変わらない。
余りにも普段のバッツと変わらない様子に、スコールはいつも期待を抱いてしまう。
しかし、ふとした折に手を彷徨わせて辺りを探る姿を見て、期待を打ち砕かれていた。

今もまた、バッツは空の手をスコールに向かって伸ばしている。
声が聞こえるから、気配があるからこっちの方にいる、と言う事は判るようだが、距離までは掴めていないのだ。
ひらひらと揺れる手が、掴むものを探しているように見えて、スコールはそっと自分の手を伸ばす。
此方から掴むと驚かせてしまいそうで、触れて良いものか迷っていると、バッツの手の方がスコールの指を掠めた。
いた、と嬉しそうな声が聞こえて、バッツの手が確りとスコールの手を掴む。


「スコール、食器の片付け終わったのか?」
「終わった」
「そっか。じゃこっちに来てくれよ」


くい、と握った手を引かれる。
逆らわないまま、スコールはバッツの隣に座った。
すると、握っていた手が離れて、代わりにバッツが抱き着いて来る。


「!」
「はは、スコールの匂いだ」
「おい……っ」


胸に顔を埋めるように抱き着くバッツに、スコールはいつものように押し退けようとして、留まった。
バッツのスキンシップが激しいのは常の事だが、今のバッツはいつもの彼とは違う。
視界が利かない事に因る身体的な問題は勿論、精神的にもやはり影響がないとは言い切れない。

べったりと体重を乗せて抱き着いているバッツ。
重い、と思いながら、スコールは彼をどうして良いのか判らず、好きにさせる形にならざるを得なかった。


「温かいなあ、スコールは」
「……あんたの方が体温は高いだろ」
「いやいや。スコールの方が温かい」


胸に抱き着く熱の塊は喧しい。
しかしその塊は、スコールの方が温かいのだと言う。
そんな訳がないのに、とスコールは思うのだが、否定するのも面倒だった。

ぐりぐりと頭を胸に押し付けて来るバッツに、やっぱりいつもよりスキンシップが激しい気がする。
声も表情もいつもと変わらないように見えるけれど、やはり何処か不安なのかも知れない───とスコールは思った。


「……バッツ」
「ん?」


名を呼んでみると、バッツは顔を上げる。
茶色の瞳はスコールの方を正確に見上げていたが、視線はスコールのそれとは重ならない。


「……あんた、まだ全然見えないままか」
「うーん。全然って事はないけど、それも最初に比べたらって位だな」
「最初は……真っ黒だって言ってたな。今は?」
「黒よりの灰色、って感じかな。よーく見たら形みたいなのが見える…ような……?」


バッツはこれでもかと眉間に皺を寄せて、相貌を細めてスコールの顔を見ている。
これじゃ見辛い、と抱き着く腕を解いて体を起こし、まじまじとスコールの貌を見る。
その顔が段々と近付いて来て、スコールは厳めしい顔つきのバッツの珍しさに目を引かれつつ、いつもの癖で体を逃がさないように気を付けた。


「んんん~……」
「……見えてるのか」
「…………ちょっと…多分……なんかやっぱり、塗り潰してるみたいな感じなんだよなぁ……」


始めに見えてたものが真っ黒な状態から、今は濃墨で塗り潰したような状態。
バッツの今の視界を例えるのなら、そう言った表現になるらしい。
とても濃い黒と、其処まで濃くはない黒が混ざり合って、微妙な濃淡のシルエットが微かに浮き上がっている、と言う。
最初はシルエットも何もなかった、と言っていた事を考えると、症状自体は緩和しつつあるのだろうか。

それでも、まだ彼の視力は戻ってきていない。
あと少しで触れそうな距離だと言うのに、バッツ自身がそうと気付かない程に。


「早くスコールの顔、見たいんだけどなぁ」


バッツのその呟きは、独り言と同じ音をしていた。
少し皮の厚いバッツの手がスコールの頬に触れて、形をなぞるように頬を撫でる。
その手はそろそろとスコールの目元へ上り、傷のある額に触れ、鼻のラインを辿り下り、唇へ。
ふに、と指先が柔らかく唇を摘まんで、バッツは見えない目を其処に近付けた。

まじまじと、見えない目で唇を見詰めて来るバッツに、スコールはきゅっと唇を噤む。
何度も感触を確かめるように触れる手を捕まえて、スコールは自分の指を絡めて柔らかく握り、


「バッツ」
「ん?」


名前を呼べば、バッツは返事をする。
見えない瞳はずっとスコールの顔を捉え、心なしか嬉しそうに笑みを作っている。

その唇に、ほんの一瞬、スコールは自分のそれを押し当てて離した。


「─────え」


スコールの目の前で、バッツの褐色の瞳が大きく見開かれる。
そんな顔をスコールが見る事が出来たのは、その瞳がスコールの顔を認識できていないからに他ならない。

ぽかんとした表情で固まっているバッツをそのままに、スコールは握っていた手を解いて、腰を上げた。
目の前にいた人物が動く気配が伝わったのだろう、待って、とバッツが手を伸ばす。
スコールがその手に軽く触れると、逃がしてしまう前にと、確りとした力で捕まえられた。
引っ張られたスコールの体は、抵抗なくソファに戻って、またバッツが全身で抱き着いて来る。


「スコール、今の」
「知らない」
「もっとしてくれよ」
「もう十分だろ」
「嫌だ。もっと」



膝の上に乗って、続きをねだって来る大きな子供に、やっぱり甘やかすものじゃない、とスコールは思った。





5月8日でバツスコ!

べったり甘えるバッツと、甘やかすスコールが浮かんだので。
見えるようになるまではスコールがバッツを甘やかして、治ったらバッツがお返しで甘々すれば良いと思います。


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