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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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カテゴリー「FF」の検索結果は以下のとおりです。

[絆]レインドロップ 1

  • 2012/02/13 12:51
  • カテゴリー:FF



ガーデンでの授業を終え、エルオーネが二人の弟と共に家に帰って間もなく、バラムの街には雨が降り始めた。
朝から空に曇が出ていた事は知っていたが、天気予報で『今日は雨が…』とは言っていなかった。
傘を持っていなかったエルオーネは、小さな弟達を濡らせる事にならなくて良かった、とほっと息を吐いた。


雨は時間が経つと共に、その足音を強めて行った。
最初はリビングでゲームをしてはしゃぐティーダとスコールの声に掻き消されていたのだが、少しずつ、キッチンで夕飯の下拵えをするエルオーネの耳に届くようになって来た。

刻んだ野菜を鍋に入れて、昆布出汁を取った水に入れて浸し置きし、シンクの片付けをして、エルオーネはキッチンを出た。



「また負けちゃった…」
「あいつは普通に『たたかう』使ったら、カウンターして来るんだよ。『まほう』でやっつけるんだ」



コントローラーを握ってしょんぼりするスコールと、得意げに攻略法を教えているティーダ。
楽しそうだな、と思いつつ、エルオーネは二人に声をかけた。



「スコール、ティーダ。洗濯物、片付けるから、手伝ってくれる?」
「うん」
「はーい」



スコールがゲームデータを保存して、ゲーム機の電源を落としたのを確認し、エルオーネは洗面所へ向かった。


洗面台の横に置いてある洗濯機は、蓋が横側についている。
これならスコールとティーダでも服を出し入れする事が出来るので、お手伝いも順調に捗るのだ。
スコールとティーダが交代で順番に服を取り出して、エルオーネが絡まりを解きながら籠に入れる。

全ての服を出し終わったら、バスルームに移して、取り付けの物干し竿に吊るして行く。
此処でもスコールとティーダは、交代でエルオーネに洗濯物を渡して行った。

空になった籠を元の位置に戻して、最後にバスルームの換気扇のスイッチを入れる。


これでよし、とエルオーネがバスルームのドアを閉めた時、くいくい、と小さな手がエルオーネのスカートを引っ張った。



「なぁに?スコール」



視線を落とすと、スコールがエルオーネを見上げている。
柔らかく笑んで訊ねると、スコールが洗面所の小さな窓に視線を移した。



「雨、一杯降ってるよ、お姉ちゃん」
「うん、そうだね」
「お兄ちゃん、傘持ってってないよ」



スコールの言葉に、エルオーネも、ああそうだ、と思い出す。


高等部になって授業時間が長くなったレオンは、まだガーデンに残っているが、時計を見ればそろそろ授業が終わる時間だ。
今日は珍しくアルバイトがないので、ひょっとしたら友人達とのんびり過ごすかも知れないが、過保護な兄の事だ、授業が終わったら直ぐに此方に帰ってくるだろう。
─────降りしきる雨が止むのを待たずに。

天気予報を信じて、エルオーネ達が傘を持って行ってなかったのだから、彼も持って行っていない。
仮に振ったとしても、直に止むだろうと思っていたのだが、今の様子を見る限り、雨雲はまだしばらくバラム上空に停滞するようだった。


ティーダも窓の外に視線を移す。
小さかった雨粒が、大きな水滴となって窓に残っていた。



「レオン、大丈夫かなあ……」
「お兄ちゃん……」



心配そうなブルーグレイとマリンブルーは、今にも泣き出しそうに見えた。
幾らいつも強くて頼りになる兄とは言っても、やはり心配になるのだ。

エルオーネは、二人の頭を優しく撫でて、膝を折って目線を合わせる。



「私、レオンに傘、届けに行くけど。スコールとティーダはどうする?」
「お兄ちゃんのお迎えするの?」
「うん、そう。二人は、お留守番してる?」
「お迎え行くー!」



ティーダが元気よく両手を上げて言った。
「スコールは?」とエルオーネが再度聞くと、「僕も」とスコールが言った。



「じゃあ、先に玄関に行って、長靴を履いてね。外に出ちゃ駄目よ?」
「うん」



エルオーネの言い付けに、スコールが頷く。

それから二人が揃って玄関に向かい、エルオーネは洗面所、リビング窓の施錠を確かめ、キッチンでは窓の施錠と火元をきちんとチェックする。
二階は今朝ガーデンに向かう時にレオンが確かめたから、きっと大丈夫だろう。


リビングと続きになっている玄関では、スコールとティーダが言いつけ通りにして待っていた。
早く早く、と急かすティーダを宥めながら、エルオーネは二人にレインコートを着せる。



「カエルさーん!」
「僕、ネコさん?」
「似合うよ、二人とも」



フードをかぶった二人の頭を撫でて、エルオーネは下駄箱横に立て掛けていた二本の傘を手に取った。

さあ、しゅっぱーつ。
エルオーネの明るい声に、二人も楽しそうに雨の世界へ踏み出した。





レインコート着たちびっ子は可愛い。
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[絆]レインドロップ 2

  • 2012/02/13 12:49
  • カテゴリー:FF


バラムの街に、色とりどりの花が咲いている。
それは右へ左へ進んで、それぞれの安らぎの家へと向かっていた。

その流れとは反対方向進んでいる花が一つと、その花の中を出たり入ったりしているカエルが一匹。
子猫は花の下にいて、花を咲かせた少女と手を繋いでいた。



「ティーダ、走ると転んじゃうよ」
「平気ー!」



エルオーネの言葉も構わずに、ティーダは雨に濡れた道をあちこち駆け回っている。
仕事帰りの大人とぶつかりそうになる度に、大人の方がおっとっととよろめいた。
それに気付かず駆け抜けてしまうティーダに代わって、エルオーネは何度も頭を下げ、スコールも一緒になってごめんなさいをする。

レオン、エルオーネ、スコール、そしてティーダの四人は、バラムでは有名な兄弟であった。
レオン達がまだクレイマー夫妻が経営していた孤児院にいた頃からの話である。
だから、擦れ違ったのが兄弟である事、雨ではしゃぐ無邪気な子供のやる事だからと、大人は皆許してくれた。
でも後できちんと叱らなきゃ、とエルオーネは駆け回るカエルを見て思う。


バラムのバス停留所に来ると、エルオーネは屋根の下に行って、傘を畳んだ。



「ふう……ちょっと肌寒くなって来たかな」



薄着の上に一枚羽織っているのだが、少し足りない気がして、エルオーネは二の腕を摩った。
それを見たスコールが、心配そうにエルオーネを見上げる。



「お姉ちゃん、寒い?僕の上着、貸してあげる」
「ありがとう。でも、大丈夫だよ。スコールが風邪ひいちゃうから、上着はスコールが着ていていいよ」



そう言って、安心させるようにエルオーネが笑うと、スコールも嬉しそうに笑顔を零す。


ぱしゃぱしゃと水が跳ねる音がする。
屋根の外で、ティーダが水溜りでステップして遊んでいた。

私もやったなぁ、なんて思いながら眺めていたら、つるん、とティーダがバランスを崩す。



「あっ」
「あ」



思わず声が漏れて、エルオーネとスコールの声が重なった。

ばちゃん、と一つ大きな水が跳ねて、ティーダが水溜りの真ん中で俯せに転んでいた。
エルオーネは傘を開いて、慌ててティーダの下に駆け寄る。



「ティーダ、大丈夫?」
「ティーダ」
「………うわああああああん!」



エルオーネとスコールの呼ぶ声に返って来たのは、盛大に泣く声だった。
大人達が何事かと振り返る中、エルオーネはティーダを起こして、屋根の下へと戻る。

閉じた傘を柱に立て掛けて、エルオーネはハンカチを取り出した。
ティーダはぐすぐすと泣いて、泥のついた顔を泥のついた手で拭こうとしている。
それを手で制して、エルオーネはハンカチでティーダの顔を丁寧に拭き取ってやった。



「ひっく…ひっ…エル姉ちゃーん……」
「冷たかったね、痛い所はない?」
「ひっく……うん……」
「痛いのない?ティーダ、ホントに痛いのない?」



心配そうに繰り返したのはスコールだ。
うん、とティーダがもう一度頷く。
良かったあ、とスコールも泣きそうだった顔を綻ばせた。


ぷしゅー、と音がして、停留所にバスが到着した。
スコールが其方を見て、ぱっと表情を変えて走り出す。



「お兄ちゃん!」



両手を広げて駆けていくスコールの先には、丁度バスから降りて来たばかりの兄の姿。

レオンは一瞬驚いた表情を見せた後で、すぐにそれを笑みへと変えた。
膝を曲げて、飛び込んできた弟を抱き留める。
塗れたレインコートから滴が移って、服が濡れてしまう事なんて、きっと彼にとってはごくごく些細な事に違いない。


エルオーネもティーダを連れてレオンの下へ急ぐ。



「お兄ちゃん、お帰りなさい」
「お帰り、レオン」
「ああ、ただいま。……ティーダ、どうしたんだ?」



まだ少し目元の赤いティーダを見て、レオンは先程とは違う意味で驚いた顔をした。
ティーダはごしごしと目を擦って、ころんだ、と言った。



「大丈夫か?」
「うん」



痛いのもない、と言うティーダに、レオンは「なら良かった」と笑って、ティーダの赤らんだ頬を撫でた。



「それにしても、どうしたんだ?お前達」
「どうって、レオン。こんな雨だもの。濡れちゃうと思って」



エルオーネが腕にかけていた大き目の傘を見せると、ああ、とようやく合点が行ったらしい。

弟達と違い、小さな子供ではないのだから、レオンがちょっとやそっとの事で体調を崩す事がないのは、エルオーネも判っているつもりだ。
しかし、万が一と言う事もあるし、兄は絶対に自分の体調不良を隠して、家事をして授業に出て、アルバイトもこなして……といつも通りに過ごそうとするに違いない。
それはエルオーネが嫌だった。



「あのね、お兄ちゃん。僕たち、お兄ちゃんのお迎えしに来たんだよ」
「レオンの傘、持って来たんだよ」
「ああ。ありがとう、スコール、ティーダ」



嬉しい事をしてくれる弟達に、レオンは唇を緩ませて、二人の頭を撫でる。
それから彼は立ち上がり、



「エルも、ありがとうな」



大きな手が、エルオーネの艶のある黒髪を撫でた。

もう小さな子供じゃないのに。
そう思いながら、エルオーネはくすぐったさで笑った。




花が二つ、並んで歩く。
子猫とカエルを、空から落ちる涙から隠して。






お兄ちゃん幸せ。子供のお迎えってなんか和むし、無性に嬉しい。
確り者のお姉ちゃんも、なんだかんだでお兄ちゃん子です。

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[クラスコ?]レンズ向こうの青灰色

  • 2012/02/02 00:30
  • カテゴリー:FF


コスモスの陣営が日々を過ごす屋敷には、書庫がある。
あまり大きなものではないのだが、其処には様々な世界で読まれている書物が集められていた。

小さな窓が一つついているだけの書庫には、椅子が一つ用意されている。
その使用者は、主にクラウドかセシルだった。
ルーネスはリビングか自室に戻って読むので、あまりこれを使用する事はない。


其処に、珍しい人物を見付けて、クラウドは足を止めた。



「……スコールか?」



確かめるように声をかけると、ダークブラウンが頭を上げた。
細い光が、薄いガラス越しの青灰色に反射して、ああスコールだ、とクラウドは改めて認識する。



「珍しいな。あんたが此処で読んでるなんて」



スコールの手には一冊の本があり、『魔大戦の歴史』と言うタイトルが箔押しで綴られている。

スコールが読書好き───と言うより、暇を持て余すと本を開くのは、よくある事だった。
ただし、それは専ら自室に限っての事。
リビングには賑やか組の誰かしらがいて襲撃を受け、落ち着いて読めないし、何より、スコールは自分個人の空間を何よりも好んでいた。
自分の趣味のものと、必要なものだけで誂えた部屋の中で、静かに読書をするのがスコールの時間潰しの一つであった。


スコールはクラウドの言葉をどう受け取ったのか、微かに眉根を寄せた後、本を閉じて立ち上がる。



「……邪魔した」
「まあ待て。誰もいて悪いなんて言ってないだろう?」



クラウドが言うと、スコールは足を止める。
ブルーグレイが不機嫌そうに潜められたが、クラウドは気にしなかった。



「それと、今廊下に出ない方がいいぞ。バッツとジタンとティーダが、花瓶を割った罰掃除の真っ最中だ」
「………」



賑やか組三名の名前を聞いて、スコールは眉間に皺を寄せた後、くるりと踵を返した。
書庫から出る予定であっただろう足は真逆に向かい、先程まで座っていた椅子の手前で止まる。
座るか座るまいか悩んでいるのが、クラウドには判った。

クラウドはそんなスコールの後ろを通り過ぎて、本棚の一つに近付いた。
四日前に此処に来た時、途中まで読んで閉じていた一冊を手に取り、その場で開く。


クラウドは本に視線を落としたまま、言った。



「あんた、目が悪かったのか?」
「……ああ…これか」



かちゃ、と小さな音が聞こえる。
クラウドが振り返ると、スコールは顔にかけていた眼鏡を外した所だった。



「…少し、ピントが合い難いんだ」
「そうなのか。戦闘中も?」
「気を抜いたら、多少影響が出る」



傭兵を育成する学校にいたと言うスコールだから、その手の矯正訓練は受けているだろうが、それでも正常な眼よりも負担はかかるのだろう。
お陰で眼精疲労が酷い、と呟くスコールは、体質で仕方がないとは言え、些かうんざりしているようだった。
先程、眼鏡をかけていたのは、平時にまで眼に負担をかけたくないからだと言う。

……だから本を読む時、部屋に帰るのか。
クラウドは眼鏡を外した、いつも通り、見慣れた少年の横顔を見ながら考える。


スコールの整った面立ちには、額に大きな傷があり、これは非常に目立つ。
ジタンやバッツはこれに興味津々で、ティーダも少なからず気になるらしく、バッツなどはスコールの隙を見ると額の傷に指をあててぐりぐりと押しており、スコールはこれらを非常に鬱陶しがっていた。

これで普段は仕様していない眼鏡をかけている所を見られたら、彼らの餌食になるのは想像に難くない。
先程、スコールが三人の名前を聞いて書庫から出るのを止めたのも、これが理由の一つであるに違いない。
単純に、彼らの騒がしさに巻き込まれるのを嫌ったのかも知れないが。



「……ふぅん」



特に意味もなく呟いて、クラウドは本を棚に戻し、スコールへと歩み寄る。

スコールの皮手袋の手には、シルバーフレームの眼鏡。
それを取り上げると、おい、と言う声があったが、相手がクラウドであるからか、慌てて取り返そうとする事はなかった。


手に取った眼鏡は、レンズもフレームも細く、薄いもので、重みもあまり感じられなかった。
それを見下ろしながら、クラウドはふと湧いた疑問を訪ねる。



「あんたの世界は、かなり文明が発達してたようだから、医療技術も大分進んでいるように思うんだが……視力を治すような、眼に関わる手術のようなものはなかったのか?」
「あるにはあった。だが、100%成功するとも限らなかったし、手術自体、負担がかかる。施術代もそれなりに高かった筈だし、…学生が無理にそんなものに手を出すよりは、眼鏡かコンタクトをした方が安価だし、安全だった」



説明を聞いて、成程その通りだとクラウドも思い直す。

大人びた風貌と落ち着きの所為で、ついつい忘れ勝ちになってしまうが、目の前にいる青灰色を持つ戦士は、まだ成人すら迎えていないのだ。
フリオニールやセシルのような世界であれば話は違うかも知れないけれど、少なくとも、クラウドやスコール、ティーダの世界では、未成年や学生は庇護対象であり、家庭事情を問わなければ、就労義務もなかった。
ティーダのように、プロのスポーツ選手としてチームと契約する、と言う環境でなければ、収入の上限など知れている。


納得したクラウドの前に、スコールの右手が差し出される。
顔を見れば、ブルーグレイが不機嫌そうに此方を睨んでいた。

「返せ」と言う意図なのだろう、掌。
それぐらい口に出しても良さそうなものだけどな、と思いつつ、クラウドは自分の手の中の眼鏡に視線を落とす。


………徐に、テンプルを開いて、スコールの顔に当てる。



「……ちょ、…何、」
「動くな」



何してるんだ、あんた。
そう言おうとしたのだろうスコールの言葉を遮って、クラウドはゆっくりと、スコールに眼鏡をかけさせる。

きちんと耳にかかってズレないのを確認して、クラウドは眼鏡から手を離し、代わりにずいっと顔を近付けた。
ガラス玉に似た光沢を持つ碧眼の接近に、スコールが上体を逸らして逃げる。



「……なんなんだ」
「……いや、」



薄ガラス一枚越しの青灰色を、クラウドはじぃ、と見詰めた。
そして、其処からゆっくりと顔を引いて、青灰色で一杯だった視界に、スコールの整った面立ちが見えるようになる。



(傷。眼鏡。……うん)



いつもと少し違うスコールの顔を眺め、クラウドは言った。



「悪くないな」
「は?」
「あんた、これから此処で本を読め。俺も此処で読むから」



きょとんと首を傾げるスコールに、椅子をもう一つ用意した方が良いな、とクラウドは考えていた。






クラス…コ……?
オールキャラだと、物静かで頼れるお兄ちゃんなのに、カップリングにすると途端に電波りました。あれ?

眼鏡スコールってなんかいい。
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[レオン/謎パラレル]氾濫せよ、0と1の海

  • 2012/01/22 00:06
  • カテゴリー:FF
レオン・クラウド・スコールで電子妖精的なパロ。
情報学の勉強なんぞ何もしたことがないので、全部ただのイメージと妄想。
尻切れトンボ。今の所、続ける気はない。




電源を入れて、起動した機械の中に入る。
ゴーグルを嵌めれば世界は黒に閉ざされるが、スイッチを入れれば0と1の数字で埋め尽くされる。

いいか、と言う声がして、右手を挙げた。
それを合図に、カチ、と音が鳴って、耳の奥でヴ……と軌道音が響く。
0と1が頭の中へと潜り込み、急激な速さで侵攻し、頭の中を塗り替える。


耳障りな軌道音が消え、0と1の波が落ち着いて、目を開ければ────其処は無数の情報で溢れた、電子の世界。


ひゅう、と言う、無風無重力の世界でありながら、落ちて行く感覚に襲われる。
インプットし、学習された重力演算情報に倣っての表現のだろう、それに従うようにして後ろ髪が流れて行く。

それがしばらく続き、ようやく落ちる感覚が緩んで来ると、程なく、足が地面に辿り着く。
いや、実際は其処には“地面”と呼べるものもないので、単純に“落ちて行く”感覚が終わっただけと言うのが正しいか。
……言葉の表現については、この電子世界ではなんと説明しても当て嵌まりそうにないので、レオンは考えるのを止めた。



ピ、ガ、ザ、と耳元で不快な雑音が鳴る。




『どうだ、レオン』



聞こえた声は現実世界からのもの。

ゴーグルに取り付けられたインカムは、この電子世界内では視覚として再現されていない。
だからレオンを覆っていたあったごちゃごちゃとした機械は、この世界にはないのだが、現実の躯はそれらに縫い止められている。


レオンは辺りを見渡して、溜息を吐いた。



「酷い有様だな。ウィルスだらけだ」
『あんたの視覚情報をモニタに映していいか』
「ああ」



しばらくの沈黙の後、「映った」と言う声が聞こえた。



『……なんだ、これ』
「見たままだ」



レオンを囲っている風景は、嘗ての煌びやかで、けれど落ち着いた電子世界とは似ても似つかない。
規律正しく並んでいる筈の0と1の数字があちこちに飛び散り、配列の隙間には意味不明な数字の羅列が敷き詰められている。

この電子世界は、本来ならば0と1だけで構成されている世界だ。
其処に別の数字が入り込むなど、本来ならあってはならない出来事なのである。
一つでも潜り込めば、其処から様々な所に不具合が起きると言うのに、こんなにも沢山の誤情報が紛れ込むなど、有り得ない。


この風景も異常なものだが、この光景よりもレオンが異常に思うのは、



「此処までウィルスが広がっているのに、外には何も影響がないとは……」



0と1の世界を歩き出し、レオンは辺りを見回しながら呟いた。



『だから気付かなかったんだろ、そっちの世界がこんなになってるなんて』



聞こえてくる声には、溜息が混じっている。

今回の電子世界の異常に気付くのが遅れたのは、外の世界に全くの異常情報が出て来なかったからだ。
管理システムからの警告も、ウィルスチェッカーにも反応がなく、外の世界は平穏無事に過ごしている。
こうして異常状態を確認している今も、現実世界にいるパートナーは、何処かのんびりとしたものであった。


レオンも彼と共に外の世界だけを見ていた時は、それ程大きな異常はないだろうと思っていた。
しかし、現状を目の前にすると、悠長にしてはいられない事を実感させられる。



レオンは、0と1と、意味不明の数値の羅列が並んだ、情報の壁に近付いた。
手を伸ばして誤情報の塊に触れてみると、其処から小さな波紋が広がる。
すると、レオンの脚元ががくんと落ちて、レオンはその場に片足を揺らして座り込む羽目になる。



「……驚いた」
『なんだ?どうかしたか?』
「いや、なんでもない。大丈夫だ」



息を吐いて零した声にパートナーが問うてきたが、レオンは自分自身には問題ないと返す。
問題があるのは、この世界の方だ。



「ウィルスの所為だと思うが、あちこち可笑しなバグが起き易くなっている。ウィルスがデータを食い散らかしている所もあるし、除去プログラムだけだと追い付きそうにないな…」
『一応プログラムの注入だけ済ませて置くぞ。効果は期待できないと思うけど』
「ああ」



返事をすると、外の世界からの声はそれきり途絶えた。
プログラムの準備をしているのだろう。

レオンは外での対処はパートナーに任せる事にして、電子世界をしばらく歩き回る事にする。



一般人は中々入る事が出来ない電子世界であるが、レオンにとっては幼い頃から慣れ親しんだ場所だった。
閉ざされた空間で育たざるを得なかったレオンにしてみれば、情報が氾濫せんばかりに溢れている電子世界は、無限の遊び場のようなものだったのだ。

大人になるにつれて、電子世界は遊び場以上の意味を持つようになったが、愛着があるのは変わらない。
寧ろ、行った事のない、見た事のない外の世界よりも、レオンにとっては此方の方が故郷のように思える。
だから、こんなにも大量のウィルスに侵食されるまで、電子世界の異常に気付く事が出来なかった事が、レオンにとって悔しくてならない。


この世界は、レオンの遊び場であり、沢山の思い出が眠る場所だった。
そして、自分だけが知る“彼”に出逢える、唯一の世界でもあった。



────その“彼”の姿が、見当たらない。
レオンが電子世界にダイブすると、必ず“彼”は姿を見せてくれたのに。



早く、“彼”に逢いたい。

何かあったのかも知れない。
こんなウィルスに汚染された世界だ、“彼”も侵食されているかも知れない。


そう考えて、ひやりとしたものが背中を辿った直後、




「…れ、おん……」




呼ぶ声がして前方を見て、レオンは目を見開いた。




「スコール!」




0と1の粒子の中で、細い腕を伸ばす少年に、レオンは駆け寄った。






テクノ系でダークな音楽を聞いてたらふわ~っと浮かんできた話。
多分、レオスコでクラレオでクラスコな話。続かないけど。
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[絆]息抜きだって必要です

  • 2012/01/14 21:37
  • カテゴリー:FF
[受け止められるものには限りがある]の続き



「うわあああ終わんねええー!!」
「煩い、ティーダ。近所迷惑だ」



リビングに響き渡ったティーダの悲鳴に、スコールは冷静とした反応。
そんな素っ気ない幼馴染に、スコール酷い!とティーダが言った。


リビングの窓辺のテーブルに陣取っている二人が向き合っているのは、明日が提出期限の数学の課題だった。

スコールとティーダのクラスの数学を受け持つ教師は、堅物人間で通っている。
期限までに課題を提出しなかった生徒の成績は容赦なく引かれて行き、温情裁定などしてくれた事がない。
その癖課題の量は他の教師とは群を抜く多さで、毎回大量のプリントを寄越してくる。

そんな事は高等部に進学した時からなので、今更嘆いても仕方のない事だ。
喚いている暇があったら頭と手を動かせ、と言うのがスコールの率直な意見である。


ティーダは情けない声を上げながら、プリントの重なったテーブルの上に突っ伏す。



「もう無理っス。頭ぐるぐる~……」
「半分は終わったんだろ。あと少しだ、頑張れ」
「頑張ってこれが限界なんスよ。もうやだ。スコール、答え写させて」
「断る。自分ばかり楽できると思うなよ」



スコールとて、大量のプリントを片付けるのが面倒に思わない訳ではない。
しかし真面目な性格をしているので、放置する訳にも行かない、と思うのだ。
だから、面倒でも厄介でも、本音はティーダと同じ気持ちが欠片でもあろうとも、きちんと済ませるつもりだ。

其処に来てティーダの「写させて!」と言うのは、正直ズルいと思う。
スコールは自分で考えて解いている問題を、彼は無条件にクリアしてしまうなんて、不平等だと思う。


うーうーと唸りながら、ティーダがテーブルの下で足をじたばたさせる。
テーブルがガタガタと音を立てて、スコールは眉根を寄せた。



「やめろ、ティーダ」
「じゃあ答え写させて」
「………」
「いてっ!なんで蹴るんスか!」
「お前が悪い」



テーブルの下で邪魔をする足を蹴飛ばせば、ティーダが直ぐに抗議して来た。
抗議したいのはこっちの方だ、とスコールは判り易く眉根を寄せてみせる。

テーブルが動かなくなったので、スコールは改めてプリントと向き合う。
先日習ったばかりの公式を頭の中で思い出して、数字を当て嵌めて書き出して行く。
それをティーダが覗き込んでいた。



「……ティーダ」
「いーじゃないっスか、一問くらい」



判んないんだもん、と頬を膨らませる幼馴染に、ティーダは溜息を吐いた。

甘やかしてはいけないのは判っている。
しかし、こうでもしないとティーダの課題が終わらないのも確かだった。



「終わったら教えてやるから、ちょっと待て」



その間に、出来る所だけをやって置くように言いつける。

丸ごと転写は腹立たしいので、多少面倒ではあったが、スコールは自分の労力を使う方を選んだ。
今日の夕飯は遅くなりそうだ───そんな事を考えながら、連なる数字を連結させる作業を続けていると、



「ただいま、スコール、ティーダ」
「レオン!」
「…お帰り」



数日振りに見た兄の顔に、スコールとティーダの顔が綻ぶ。


レオンは抱えていたガンブレードケースを床に下ろし、逆の手に持っていた紙袋をテーブルに置いた。

いつも最低限の荷物だけを持って仕事に向かうレオンは、帰ってくる時も最低限の物だけで帰ってくる。
スコール達が幼い頃、レオンがSeeDになったばかりの頃は、エスタやデリングシティ、イヴァリース大陸に行った時には何某か土産を買って帰る事もあったのだが、数年前からそういった事はめっきりなくなった。
ほぼ毎週、毎日のように海外に行き、弟達にとってもそれが当たり前のようになったからだ。

そんなレオンが珍しく、何かを持って帰って来た。
何かと思って目を丸くするスコールに代わり、ティーダが紙袋を覗き込む。



「なんスか、これ。食い物?」
「ああ」
「土産?」
「まあ、そうなるな」



出先からのものじゃないんだが、と断るレオンだが、ティーダはそんな事は気にしなかった。
早速紙袋から中身を取り出し、箱を開ける。

中に入っていたのは、小さなカップに入った卵色とチョコレート色のスフレだった。



「うまそー!」
「食べて良いぞ。それはお前の分だからな」
「やりっ!」
「もう一つはエルオーネに送る分だから、そっちは駄目だぞ」
「はーい。じゃ、こっちはスコール?」



ティーダは違う箱の一つを手に取って、また蓋を開ける。



「クッキー?」
「コーヒークッキーだ」
「……ドールの?」
「ああ」



スコールが思い当る節を一つ見つけて尋ねれば、レオンがその通りと頷いた。

いつであったか、レオンがドールでの任務中、先方からの差し入れで貰ったクッキーを持って帰った事があった。
コーヒー独特の香りと、ほんのりと苦みのあるそれを、スコールも殊の外気に入ったものである。



「俺、ジュース持って来るっス!」
「おい。まだ課題が途中だぞ」
「後で後で!」



言うなり椅子を立ってキッチンに駆けこむティーダに、スコールは呆れて溜息を吐いた。
レオンはそんな弟の隣に立って、テーブルに広げられた課題プリントを覗き込む。



「数学か。成程な、ティーダが逃げる訳だ」
「……あんなのだから、いつまで経っても終わらないんだ。明日提出しないといけないのに」
「お前は大丈夫なのか?」
「もう半分終わったし、難しくもないし……」



じゃあ心配ないか。
そう言って、くしゃりと大きな手がスコールの頭を撫でた。

しかし、スコールにとっては然程難しくない内容でも、ティーダにとっては違う。
数字の羅列を見るだけで眠くなる、と言っているティーダである。
彼もスコール同様になんとか半分までは終わらせたが、もう集中力は残っておらず、勉強への気力は皆無だ。


どうやってもう一度プリントに向い合せよう、と考えているスコールに、レオンがくすりと笑んだ。



「俺がティーダに教えよう。だからスコール、お前は自分の分に集中していろ」
「…でも疲れてるんだろう」
「お前が気にする程じゃない。ティーダに教える位、どうと言う事はないさ」



そう言って、レオンはティーダが座っていた椅子の隣に腰を下ろした。

疲れていない訳がない───スコールはそう思ったが、口にした所で、兄が引き下がる訳もない。
こうなったら自分が早く終わらせて、レオンと交代しよう、とスコールは決めた。


ジュースを持ってきた幼馴染の顔を見て、お前は暢気でいいな、とスコールは前触れもなく言ってやる。
なんスか、急に!と怒る声は無視して、土産のコーヒークッキーを口の中に放り込んだ。





学生だって大変なんです。
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