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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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カテゴリー「FF」の検索結果は以下のとおりです。

[バツスコ]冷たい手

  • 2013/05/08 23:14
  • カテゴリー:FF


スコールの手は冷たい。
それで良いと、バッツは思っている。

握った手から伝わる体温を感じながら、バッツはそう思った。


「……おい」


ジタンやティーダ、ルーネスやフリオニールは、高い体温を持っている。
本人の体質なのか、若しくは気質なのか、まあその辺りが原因だろうとバッツは思っている。
割と低いのがクラウドやセシルで、ティナは精神状態が体調に影響するタイプなのか、落ち付いている時は温かく、不安や焦っている時には体温が低下しているような気がする(バッツの思い込みかも知れないが)。
一貫して、正しく恒温であると思えるのはウォーリア・オブ・ライトで、温度的には、ジタン達に近しいような気がする。

そんな秩序の面々の中で、スコールは特に体温が低い。
バッツは自分の体温が高い方だと自覚があるが、その手で彼の手を握ると、体温の違いがありありと感じられた。


「……おい、バッツ」


感じられる温度の低さと、彼の手が白いからだろうか。
まるで雪みたいだ、とバッツは思う。

スコールはいつも長袖のジャケットを着ており、手には黒い手袋を嵌めている。
時折袖と手袋の隙間に、白い手首が覗く事があった。
僅かに覗く肌が白いのだから、完全防備している場所など尚更で、日焼けと言う言葉を知らないかのよう。
顔や首、シャツの襟縁から見える肌も白いので、ひょっとしたら日焼け自体が無理なのかも知れない。

日焼けをしたら、もう少し雰囲気も違って見えるのだろうか。
そんな事を考えて、目の前の少年が、太陽のような少年のように健康的に日焼けをしている姿を想像しようとして、上手くまとまらなかった。


「バッツ、手を離せ」


こう言ったら彼はきっと怒るだろう。
戦士にしては細いシルエットと、雪のように白い肌と、低い体温を感じる度、バッツは、彼がいつか雪のように溶けて消える日が来るのではないかと思う事がある。

目の前の存在を、か弱い人間だと思っている訳ではない。
ウェイト不足を補って余りある知識や機動力、観察眼は、正に彼が“傭兵”として幼い頃から戦う術を身に付けて来たのだと言う事を実感させる。
手袋をしている所為か、フリオニールやセシル程はっきりとはしないが、剣胼胝もあるし、裸になれば細い背中や肩に古傷のようなものもある。

けれども、何処か儚いのだ。
何かが酷くぎこちなく、頼りなく見えてならない。
それは多分、大人びているのに、時折置いて行かれた子供のような顔をする事があるからだ。


「……バッツ?」


覗き込んでくる青灰色は、いつもの鋭さを感じさせない。
そんな時、彼がまだ幼さを残す“少年”である事を、改めて実感する。


「どうしたんだ、あんた。さっきから」


バッツの手の中で、冷たい手がぎこちなく動いている。
振り払うべきなのか、それともこのままでいるべきなのか、迷いの表れだった。

ちらちらと此方を覗き見る青灰色は、きっと此方から見ようとしたら逃げてしまう。
それは嫌だな、と思うから、バッツはじっと、自分の手の中で迷っている白い手を見つめ続けていた。


「………」


白い雪は、熱に触れると、熔けて消える。
溶けて消えて水になり、大地の底へと沁み渡って行くからこそ、緑が萌えて、沢山の命が輪を描く。
溶けて消えてしまう儚い存在だからこそ、一瞬の美しさは旅人の記憶に焼き付いて、消えない。

たった一度、ほんの一瞬の刹那を生きる、六花。
それがどれ程美しく、尊く、気高いものか、記憶はなくとも沢山の風景に触れていたバッツには判る。

けれど、目の前の少年が消えてしまうのは、困る。
その瞬間が、どんなに美しく気高いものであったとしても。


「……バッツ。何か言え」


ぎゅう、と白い手を強く握り締める。
驚いたようにビクッとしたのが判ったけれど、離さなかった。


「なあ」


久方ぶりに声を出すと、また驚いたように、彼の冷たい手がビクッと跳ねた。


「なん、だ」
「しばらく、こうしてても良いか?」


逃げ勝ちな手を確りと捕まえて言えば、暫くも何も、もうずっとこのままでいるじゃないか、と青灰色が言う。

自分の手の中で、冷たいスコールの手が、じんわりと熱を帯びて行く。
それでもバッツの体温よりも低い訳で、やっぱりスコールの手は冷たいんだなとバッツは一人ごちた。

ちら、とスコールの顔を覗いてみると、白い頬が微かに赤い。
其処に触れたら、其処もいつもよりも熱いのかな、とバッツは思った。
手を伸ばしたくなったが、そうするときっと彼は逃げるから、代わりにぎゅうと手を握る。


「……何してるんだ、あんた……」


意味不明だ、と呟くスコールに、なんだろうなあ、とバッツは呟いた。
ふざけているなら離せ、と冷たい手に力が篭ったが、バッツはそれよりも強い力で、彼の手を握り続けた。




スコールの手は冷たい。
今はそれで良いと、バッツは思っている。
冷たい手が、時折、彼の気持ちを表すように、僅かに上昇するのが判るから。

ただ、願わくば、この冷たい手が雪のように溶けて消える事のないように、自分の熱がほんの少しでも彼に分け与えられたら良いと思う。






5月8日と言う事で、バツスコ……の筈なんだがこれは誰だ。

真面目にスコールを振り回すバッツでした。
握られた時点で振り払おうとしていないから、スコールの方もまんざらではない感じ。
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[セシスコ]ボーダーライン・オーバー

  • 2013/04/08 22:38
  • カテゴリー:FF


かりそめの魔女の放った斧によって、切り裂かれた肩。
戦闘中に悠長に治療している暇などない為、放置したまま闘い続けた。
────となれば、戦闘が終わった時には、“大量出血”と言われても仕様のない位には、出血している事になる。

単独で行動している時には、簡単に止血をして、ポーションがあるのなら使うし、ないのであれば近くのモーグリショップへ向かう。
ケアルのストックがあれば良いのだが、スコールにとって、魔法と言うものは基本的に消費物であった。
ティナやルーネスのように、“魔力の消費”とは若干異なる性質なので、使う場面は出来るだけ慎重に選ばなければならない。
しかし、失血死は御免なので、出血が多い時には、躊躇わずに治癒魔法を使う事にしている。

だが、ポーションもケアルもストックがない、と言う場面に遭うのも避けられない。
今が正にその時だったのだが、


「────これで良いかな。動かせるかい?」


スコールの肩に当てていた手を離して、セシルが言った。
その手が触れていた場所には、真っ赤に染まったシャツがあった。

スコールはゆっくりと腕を持ち上げて、肩を軽く回した。
僅かに神経が引き攣りを訴えたような気はするが、動作に支障が出る程ではない。
ケアル一つでこんなにも治るものなのか、と、つくづく自分の知る“疑似魔法”と仲間達の使う“魔法”は種類の違うものなのだと実感させられる。

地面に突き立てていたガンブレードを抜いて、袈裟がけに振るう。


「どう?」
「問題ない」


短い質問に簡潔に答えると、良かった、と柔らかな笑み。

一人で斥候に赴いていた(要は単独行動である)スコールが、セシルと合流したのは一時間前の事だ。
単独行動をするスコールを追ってくるのは、いつもジタンとバッツなのだが、今日は彼が後を追ってきた。
滅多にない事に少々困惑したスコールだったが、それも始めの内だけ。
仲間との距離の取り方をよく知っているセシルは、ジタンやバッツのように激しいスキンシップをするでもなく、静寂が苦ではないので可惜と喋る事もなく、ただ黙々と警戒と探索を続けていた。
何故か賑やかし事好きなメンバーに囲まれる事が多いスコールだが、自身は騒がしさを厭う性質だ。
だから、セシルとの二人での行軍は、馴染みのない事であるとは言え、気を遣う必要のある相手でもないので、気楽であったし、戦力としても信頼できる。
次いで、セシルが回復系の魔法を使用できると言うのが、スコールにとって最も助かる事であった。

血を吸ってべっとりと張り付くシャツは、もう使い物にならないだろう。
こればかりは、回復魔法でもどうにもならない。
帰ったらゴミ箱行きだな、と思いながら、ジャケットを羽織る。


「もう少し見通しの良い所まで出たら、今日は休憩にしよう」
「ああ」


歩き出したセシルの後を、スコールも追って歩き出す。

土を踏む音と、具足の音と。
互いに気遣う程の会話が必要な仲ではないので、ただ黙々と歩を進めて行く。
いつもこうなら楽だな、と思うスコールの脳裏には、何かを見つけてはスコールを引っ張って走り出し、怪しい宝箱を躊躇なく開け、罠に嵌っては大騒ぎする仲間達の顔が浮かんでいた。

思い出しただけで疲労感が襲って来たような気がして、スコールは溜息を吐く。
それは、先行して進む青年に確り聞こえてしまったらしく、


「疲れたかい?」
「……いや」


気遣う色を見せる藍色に、スコールは緩く首を振った。
伺うようにじっと見つめる瞳から、スコールは目を反らす。


「あいつらも、あんた程じゃなくても、もう少し静かだったらと思ったんだ」
「ああ。ジタンとバッツか」


うんざりとしたスコールの表情の意味を察して、セシルはくすくすと笑う。


「確かに、もうちょっと落ち着いてくれると良いなあって思う事はあるね」
「ジタンはまだ良い。悪ふざけが過ぎる所はあるが。それより……バッツとあんたが同じ歳だって言うのが信じられない」
「ふふ。でも、ちゃんと頼りにしてる所もあるんだろう?」
「………」


セシルの言葉に、スコールは判り易く顔を顰めた。

バッツが頼りにならない、とはスコールも思わない。
生粋の旅人であり、自身を“ジョブマスター”“ものまね師”と称するに相応しく、彼はありとあらゆる知識武芸に精通している。
故に、仲間達の技をものまねし、独自にアレンジを加える事が出来るのだ。
野草や薬草にも詳しいので、野宿の際には彼の知識はとても役に立つし、戦闘後の応急処置も的確だ。
魔法もティナやルーネス、セシルに負けず劣らずの腕を持っている。

しかし、それを簡単に認めてしまう事は、スコールには出来ない。
平時、自分から罠に嵌りに行くような真似をして、本当に罠に嵌ってトラブルを呼び込むのも、彼なのだ。
そんな彼に、ジタンともども毎回のように振り回される身としては、素直に彼を褒める事が出来ない、複雑な心情があった。

眉間に皺を寄せて唇を噤んだスコールに、セシルは眉尻を下げて笑う。


「大変だね、スコールは」
「……そう思うなら、替わってくれ」
「それは無理かな。バッツもジタンも、あんなに構いたがるのは、君だけだから」


遠慮も何もなく、抱き着いたり引っ張り回したり。
バッツもジタンも、人懐こい性格ではあるが、あそこまで遠慮も躊躇もなく飛び付いて行くのはスコールのみだ。

どうして俺ばっかり────と言わんばかりに、眉間の皺を深くするすスコールに、セシルは柔らかい表情を浮かべ、


「バッツもジタンも、君の事が好きなんだよ」
「……意味不明だ」


益々顔を顰めて行くスコールだったが、その白い頬が微かに赤らんでいる事に、セシルは気付いていた。
あんなに判り易いのにね、と言えば、益々頬が赤くなって、知らない、とスコールは吐き捨てるように言った。

にこにこと笑みを深めるばかりのセシルから目を反らし、スコールは歩を再開させた。
心持早足になってしまうのは、立ち話をして遅れた分を取り戻す為だ、と、誰に対してか判らない言い訳を胸中で呟く。
そんなスコールの後ろを、カシャ、カシャ、と鎧具足の音が追って来た。


「羨ましいね」


聞こえた言葉に、スコールは肩越しに背中を振り返り、


「だから、そう思うなら────」
「いや、其処じゃなくてね」


同じ言葉をもう一度言おうとしたスコールを、セシルが遮った。

其処じゃなくって、其処って、何処だ。
それがまず理解できず、スコールが訝しんでいると、


「ジタンとバッツがね。あんな風に君に接して、拒否されないから。二人もそうだって信じてるし」
「言ってもあいつらが聞かないだけだ」


拒否した所で、彼らはスコールへのスキンシップを止めない。
振り落とそうが、蹴り飛ばそうが、彼らは諦める事なく、スコールを捕まえに来る。
半ば根気勝負となったスコールと彼らの遣り取りは、疲労したスコールの方が負けた形となり、以来、彼らのスキンシップを(本人の心情はどうあれ)受け入れるようになったのだ。

容認ではなく諦めなのだと、スコールは言った。
何度も何度も、懲りずに飛びついてくる彼らを振り払うのは、とても疲れる事なのだと。
それなら、気が済むまで好きにさせておけば、その内飽きて離れて行く筈────と思っているのはスコールのみで、ジタンとバッツがスコールに飽きるなどと言う事はないだろうと、セシルは思う。

溜息を吐いて前に向き直るスコール。
セシルは、その隣へと並んで、僅かに自分のよりも低い位置にある青灰色を覗き込んだ。


「それなら、僕も二人を見習ってみたら良いのかな」
「……は?」


突然のセシルの言葉に、スコールは「何が?」と目を丸くする。
直後、スコールの世界は淡い銀色に包まれる。

ほんの一瞬、柔らかなものが唇に触れて、離れて行く。
離れて行くと、銀色だけで包まれていた世界に藍色と白い肌が映って、それがセシルの顔だと知る。

─────今、何が。
何が起こったのか判らず、立ち尽くすスコールを見て、セシルの唇が緩く弧を描く。
細められた藍色には、目を丸くした、常の大人びた顔を忘れた少年が映っている。


「好きだよ、スコール」


隠さず、明け透けに、判り易く。
真っ直ぐに向けられた言葉と、触れた場所の意味に、スコールは呆然とするばかりで、思考は完全に停止しているのが見て取れる。
そんな言葉を、そんな行為を、冗談でもするような相手ではないと思っていたから、混乱は尚深く。

固まった動かなくなったスコールに、可愛いなあ、と思いつつ。
セシルはもう一度、柔らかな唇に己のそれを押し当てた。





4月8日でセシスコです。
大人に翻弄される青少年って良いですね。

最初はジタンとバッツがスコールを追い駆けようとしたけど、セシルがさり気無くブロックしたと言う裏話があったりなかったりする。
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[絆]お返しの日です

  • 2013/03/15 01:15
  • カテゴリー:FF
一時間遅刻しましたが、[絆]でホワイトデー!
[約束が運んだ未来]と繋がっています。


[ないしょのやくそく]

[ないしょのひ 1]
[ないしょのひ 2]

お姉ちゃん大好きな子スコと子ティーダが頑張ります。
ちっちゃい子が一所懸命に何かをしようとするのって、可愛い。
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[絆]ないしょのやくそく

  • 2013/03/15 00:53
  • カテゴリー:FF


一ヶ月前の今日、スコールとティーダは、大好きな姉の作った、ハートや星の形をした可愛いお菓子を貰って、おおいに喜んだ。
口の中でとろりと溶けて行く生チョコに、二人とも口の周りをすっかり茶色にしながら、美味しい美味しいと言って平らげた。
エルオーネが一人で菓子作りをしたのは、殆どこれが初めてだったのだが、弟達を喜ばせるには十分な出来栄えであった。
また、兄のレオンも、エルオーネの作ったチョコレートを貰い、ありがとう、と妹の頭を撫でてやった。

それから一ヶ月が経ち、テレビや街の店先で『White day』の文字が躍るようになって、先月のお返しを用意しないといけないな、とレオンが考えていた所、


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「レオン、レオン」


アルバイトに向かう前に、キッチンで夕飯を作っていたレオンの下に、スコールとティーダがやって来た。

レオンは野菜を刻んでいた手を止めて、小さな弟達を見下ろす。


「なんだ?晩ご飯なら、もうちょっとかかるぞ」
「んーん。ご飯じゃないの」


レオンの言葉に、スコールがふるふると首を横に振る。
その隣で、ティーダがちらちらとリビングを気にしていた。

リビングにはエルオーネが残っており、窓辺のテーブルに座って、宿題のノートを開いている。
悩んでいる様子はないので、順調にこなしているのだろう。

くいくい、とシャツの裾を引っ張られて、レオンは其処にいる弟達に視線を戻した。
手招きの仕草をするティーダに、レオンは首を傾げつつ、膝を追って二人と目線を合わせる。
すると、スコールが小さな小さな声で「あのね、」と言った。


「お兄ちゃん、お姉ちゃんに、バレンタインのお返し、あげるの?」


ひそひそと、内緒話をするような声で、スコールは尋ねた。
レオンも弟に合わせて、声を潜める事にする。


「ああ。そのつもりだよ」
「お菓子、買うの?」
「いや、作ろうかな。エルも作ってくれたんだから」


買うのが一番手っ取り早いし、失敗する事もないのだが、折角エルオーネが頑張って作ってくれたのだ。
やはり、お返しとなれば、特別に彼女が好きなものを作ってあげたい。
彼女のように、女の子が喜ぶようなデコレーションが出来るか自信はないが、それも頑張ってみよう。

と、レオンが考えていると、


「あのね、あのね、お兄ちゃん」
「ん?」
「エル姉ちゃんのお返し、オレとスコールも作りたい。一緒に作ってもいい?」


二人の小さな手が、レオンのシャツの端をきゅっと握る。
それは、弟達の『おねがい』のサインだった。

スコールもティーダも、お菓子作りどころか、料理自体、殆どした事がない。
兄と姉の手伝いとして、皿を出したり、サラダの盛り付けを手伝ったりはするけれど、何かを切ったり焼いたりと言う経験は一度もなかった。
二人とも8歳になって、初等部の二年生になり、家庭科の授業も加わるようになったけれど、調理実習はまだ始まっていない。

兄を見詰める蒼と青は、真っ直ぐで、真剣な目をしている。
いつの間にこんな貌をするようになったのかな、と思いつつ、レオンは小さく笑みを浮かべて頷いた。


「ああ、良いぞ」
「ホント?」
「ああ。ただし、作っている最中に悪ふざけはしない事。判ったな?」
「はーい!」
「判ったー!」


先程までの潜めた声を忘れたように、スコールとティーダは元気よく返事をした。


「そんでね、レオン、これエル姉ちゃんには」
「あっ、ダメ!ティーダ、声大きい!」


嬉しさの余りか、弾んだ声で言い始めたティーダを、スコールが慌てて止める。
そのスコールの声もまた大きくて、リビングの方でそれを聞いたエルオーネが首を傾げていた。

スコールとティーダは、弾んだ声を消そうとするかのように、それぞれ口を手で覆って押し黙る。
レオンはくすくすと笑って、声を潜めて言った。


「エルオーネには内緒、だな?」
「そう」
「びっくりさせてあげるの」
「だからレオン、エル姉に言ったらダメだよ」
「ぜったい、ぜったい、ダメだからね」


念を押すように、繰り返す弟達の言葉に、レオンは頷く。
絶対だよ、と言う二人の方が、よっぽどうっかりしてしまいそうな事は、決して言うまい。


「詳しい事はまた後で話そうな。エルに聞こえないように」
「うん」
「ん!」
「よし。ほら、夕飯が出来るまでもうちょっとだ。向こうで良い子にしていろよ」
「「はーい」」


ぽんぽんと二人の頭を撫でてやると、スコールとティーダは良い返事をして、とてとてとキッチンから出て行った。

リビングにいたエルオーネが、戻って来た弟達を見る。
二人で手を繋いで戻って来たスコールとティーダは、隠しきれない程に嬉しそうな顔をしていた。


「なーに?二人とも、凄く楽しそうだけど」
「えへへー」
「ないしょー」
「あ、ずるい。レオン、何話してたの?」


弟達と密談をしていたレオンに、教えてよ、と問い掛ける妹。
しかし兄は、くすりと小さく笑みを浮かべて、調理台へと向き直り、


「悪いな。内緒だ」
「えー?」
「ないしょー」
「ないしょー」
「なあに?私だけ仲間外れなの?」
「違うのー!」
「違うけどないしょー!」


傷付いた顔をして見せる姉に、スコールがそうじゃないと一所懸命に言って、ティーダもそうじゃないけど内緒なんだと繰り返す。
両手をばたばたと羽のように羽ばたかせ、違う違うと必死になる弟達を前に、エルオーネは本当かなあと疑う表情を浮かべる。
しかし、よくよく見ればその表情は、悪戯を思い付いた子供のものとよく似ている。

きちんと内緒に出来るだろうか。
姉を傷付けたくない思いで、早くも揺れ始めている弟達の心を察して、レオンはくつくつと笑った。




≫[ないしょのひ]

隠し事が出来ないちびっ子たち。
適当な所で、お姉ちゃんが「信じるね」って弟達を宥めて終わりです。
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[絆]ないしょのひ 1

  • 2013/03/15 00:47
  • カテゴリー:FF


バラムガーデンの春休みは、他国の就学機関に比べると、早く始まるらしい。
レオンは生まれ故郷にいた時でさえ、学校と言うものに入った事がないので、現在のクラスメイトから聞いた話だ。
代わりに春休みの終了も早く設定されているのだが、経営しているクレイマー夫妻曰く、この辺りはまだ調整中の段階らしい。
設立してからまだ五年も経っていない事と、増える生徒達の郷里事情等々を考慮したいと言う気持ちで、今は年毎に細々とした日程が変更されている。

今年の春休みも、例年通り早目に始まり、バラムの街では平日に遊びに出掛ける若者が増えた。
エルオーネもその一人で、ガーデンで仲の良いクラスメイト達とウィンドーショッピングに行っている。
────その時間が一番のチャンスだと、レオンは考えていた。

昼食を食べた後、友達と遊びに行ってくる、と言って出掛けたエルオーネを見送った後、レオンは弟達と一緒に今日分の春休みの課題を片付けた。
うんうん唸るティーダが、きちんと自分で答えを見つけられるまで根気強く教えていたので、終了するまでに少々時間がかかったが、それでも時計は午後3時前。
エルオーネが帰って来るのは夕方なので、これ位なら問題ないだろう、とレオンは判断した。

そして、この日の為にと弟達に買ってやったエプロンを身に付けさせ、自分も手本になるようにと、ガーデンの裁縫の授業で作った自前のエプロンを結び、


「よし。準備は出来たな?」
「はーい!」
「おーっ!」


レオンの確認に、スコールとティーダは元気良く返事をする。

レオンは窓辺のテーブルの上に大きなビニールを広げ、その上に溶かしておいたバター、小麦粉やココアパウダー等の材料の他、ボウルやホイッパーを並べる。
作るのはプレーンとココアの型抜きクッキーで、焼き上がったらチョコペンやアイシングでデコレーションをするのだ。


「じゃあ、最初は材料を量る所から」
「オレ!オレやりたい!」
「あっ、ずるい!」


やる気満々の二人は、先を争ってやりたいやりたいと主張する。
レオンはスコールの頭をぽんぽんと撫でて宥めてやった。


「量るものは一つじゃないから、交代で順番にしよう。早かったから、ティーダが先だな」
「やった!」
「……むぅ」


ぷく、とスコールの頬が不満そうに膨らむ。

レオンは、量り台の上にボウルを置いて、重さで動いた針をゼロの位置へ戻すと、大きめの計量スプーンと一緒に砂糖の入った袋をティーダに渡した。
ティーダはスプーン一杯に砂糖を掬い、ボウルへと移していく。
繰り返していると、目標だった数値をオーバーしてしまったのを、スコールが見付けた。


「ティーダ、ストップ。お砂糖、多いって」
「えっ……えーっと、えっと…」
「うん、確かに多いな。ティーダ、少しずつ砂糖をこっちに戻して」


レオンに言われた通り、ティーダはボウルの中から袋へ、少しずつ砂糖を戻していく。
スコールは、ゆっくりと量り台の針が戻って行くのをじっと見詰め、


「ストップ!」


針がぴったり目標に達した所で、スコールは言った。
ティーダは思わず、砂糖を掬った姿勢でぴたりと固まる。
レオンはそんなティーダにくつくつと笑って、砂糖の袋に最後の一匙を戻すように促した。

次は別のボウルを使って、スコールが小麦粉の分量を量る。
ティーダと同じように計量スプーンを使って移すスコールだが、几帳面に、一匙入れる量る毎に重さを確かめている。
レオンはくすくすと笑って、退屈そうにしているティーダの頭を撫でながら、


「スコール、そんなに毎回、目盛を見なくても良いんだぞ」
「だって、丁度良いのが判んないんだもん」
「そんなに直ぐには丁度良くはならないさ。目盛を見るのはティーダに任せて、スコールは零さないように気を付けて、続ければいい」


レオンの言葉に、ティーダが「オレ?」ときょとんとした顔で見上げる。
スコールがティーダを見て、蒼と青が交じり合い、


「オレ、数字見る!」
「ちゃんとストップって言ってね」
「ん!」


役目を与えられた事が嬉しかったのだろう、弾んだ声で言うティーダに、スコールがお願いする。
しばらくすると、几帳面なスコールらしく、小麦粉は分量ぴったりで止まり、ティーダも其処でストップを言って、材料の量りは終わった。

小麦粉の入ったボウルは横に置いて、レオンは砂糖の中に溶かしたバターを入れる。
ホイッパーでカシャカシャと小気味の良い音を立てて掻き混ぜていると、半透明の黄色だったバターが色を変えて行き、左右それぞれからじっと熱い視線がそれを見詰めている。
こんもりと山を作っていた砂糖が、少しずつバターの中に溶けて行く。

うずうず、うずうず。
左右でそわそわとする気配を感じて、レオンはバターがとろりとして来たのを確認し、


「スコール、やってみるか?」
「うんっ」
「オレは?」
「ティーダは後で、な」


さっきはティーダからだったから、今度はスコールから。
先程とは逆に、スコールは嬉しそうにボウルとホイッパーを受け取り、ティーダは不満そうに頬を膨らませる。

かちゃかちゃ、かちゃかちゃとホイッパーとボウルがぶつかり合う音が響く。
スコールは、たどたどしい手付きで、一所懸命にバターを掻き混ぜていた。
頑張った甲斐あって、バターは更に色を変え、半透明の黄色だったそれは、程なく白っぽいものになった。


「上手いな、スコール」
「ほんと?」
「ああ」


兄に褒められて、スコールが嬉しそうに頬を赤らめる。

白っぽくなったバターに、レオンが卵を入れて、またスコールが混ぜる。
卵が入ると、クリームのように軽く柔らかかった生地が固まり始め、ホイッパーにまとわりつくようになった。
スコールは頑張って生地を混ぜ続けていたが、慣れない作業で腕に疲れが出始める。
それでも気合いで混ぜ続け、何処に力を入れているのか、スコールは顔を真っ赤にしながら、もたもたと腕を動かしていた。

うーうー唸りながら格闘するスコールに、レオンはそろそろ限界か、と眉尻を下げる。
素直に放してくれると良いんだが、と思いつつ、レオンはボウルに手を添えた。


「スコール、変わろう」
「んぅ…」
「疲れただろう?」
「……はぁい」


もうちょっとやりたい、と大きな丸いブルーグレイは言っていたが、疲れていたのも事実。
スコールは眉をハの字にして、ボウルとホイッパーをレオンに渡した。

それを見たティーダが、待ってましたとばかりにレオンに飛び付く。


「レオン、次!次オレがやる!」
「ああ。ほら、落とさないように気を付けろよ」


レオンからボウルとホイッパーを譲られ、ティーダの目がきらきらと輝く。
よし、と気合を入れるようにティーダはボウルと向き合い、


「うりゃあああああああああ!」


ガッシャガッシャガッシャガッシャ、ガッシャガッシャガッシャガッシャ。

やる気を漲らせたティーダのホイッパー捌きは、凄まじかった。
スコールは、なるべく周りにバターを飛び散らせないようにと遠慮勝ちに混ぜていたのに対し、ティーダは遠慮も何もなく、只管腕を上下に振るっている。
長かった退屈の鬱憤を晴らすかのように、ティーダは勢いよく、実に豪快に、ボウルの中の生地を掻き混ぜた。

卵が生地の繋ぎになるので、バターと砂糖だけの時に比べ、もったりと重くなっている。
それを振り払うように、力を入れてホイッパーを操るのは良いのだが、


「やあー!」
「うりゃうりゃうりゃ!」
「ティーダ、ちょっと待て、飛び散ってるから!」
「ティーダ、ストップー!」


白やら黄色やら、どろりとした液体のような固体のようなものが、テーブルのあちこちに飛び散る。
レオンやスコールの顔にも服にも、勿論ティーダの顔も髪もエプロンも、生地でびちゃびちゃだ。

レオンとスコールの声に、ティーダはぴたりと掻き混ぜるのを止める。
きょとんとした表情でレオンを見上げるティーダは、自分のやり方の何が悪かったのか、理解していないようだ。
そんなティーダに、スコールはむぅと眉を吊り上げた。


「ティーダ、遊んじゃダメ!」
「遊んでないよ」
「悪ふざけしちゃダメって、お兄ちゃん言ってたのに」
「悪ふざけなんてしてないよ」
「してた!」
「してない!」


悪ふざけをした、していない、と言い合う二人に、レオンは溜息を一つ。

ティーダは至って真面目であった。
悪気があって生地を撒き散らしていた訳ではなく、ただ勢いが良過ぎて、それが空回りしているだけ。
しかし、スコールにはティーダがふざけて遊んでいたようにしか見えなかった。

レオンは濡らしたタオルをキッチンから持ち出し、ティーダと言い合いをしているスコールの顔を拭いてやった。
それから、やはり言い合いをしているティーダの顔や髪についた生地を綺麗に拭き取った後、


「ティーダがガサツだから」
「スコールがしんけーしつなんだよ!」
「スコール、ティーダ。ケンカをするなら、もう手伝わせないぞ」


滅多に聞かない、怒気を含んだレオンの低い声に、スコールとティーダがぴたっと固まる。
それから、恐る恐る、蒼と青が兄を見上げ、仁王立ちを見下ろすレオンを見て、また固まった。


「ケンカしてたら、美味しいお菓子が作れないぞ」
「……う……」
「エルオーネに、お返しをするんだろ?」
「……ん……」


レオンの言葉に、スコールとティーダが小さく頷き、


「…ご…ごめんなさい…」


消え入るような小さな声で、スコールとティーダは言った。
二人はエプロンの端を握り締めて、泣き出しそうな顔をしていた。

レオンは二人の言葉を聞いても、しばらくの間、眉尻を吊り上げた厳しい目をしていたが、すっかり縮こまった二人の姿に、ようやく頬を綻ばせ、


「皆で一緒に、仲良く作ろう。その方が、エルオーネも喜んでくれるぞ。良いな?」
「はいっ!」
「うん!」


レオンの言葉に、二人の弾んだ声が返る。
良い返事だ、と濃茶色と金色の頭を撫でてやれば、二人は嬉しそうに頬を赤らめた。



≫[ないしょのひ 2]

ティーダならやりそうだなって……勿論悪気はありません。真剣です。
スコールなんかは恐る恐る始めて、もっと思い切りやっていいぞって言われるタイプだと思う。
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