日々ネタ粒

日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

  • Home
  • Login

日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

エントリー

カテゴリー「FF」の検索結果は以下のとおりです。

[レオスコ]傍にいたいと願うから

  • 2014/12/31 21:44
  • カテゴリー:FF
俳優レオン×弟スコールで大晦日。






年末ともなれば、あちこちから忘年会だとか、特別番組の打ち上げだとか、何かしらに呼ばれるものなのではないだろうか────と、今年も例年通りに年末年始を家で過ごす兄を見ながら、スコールは思った。

熟れっ子芸能人の年末年始は忙しい。
生放送か否かに関わらず、特別番組が全チャンネルで企画され、人気のある芸能人はそれに引っ張りだこになる。
ドラマ、音楽、お笑い番組と、その垣根も越えて、様々な内容の番組が放送されるのだ。
芸能人はその年末年始に向けた収録に11月頃から追われるようになり、年末から年始を跨ぐ生放送番組、或いは新年の朝から始まる番組等、とにかく、予定が入る理由としては、枚挙に暇はあるまい。
正月休みと言ったものは、世間一般から遅れたタイミングで取られる事が多い。

しかし、スコールの兄であり、現在人気俳優として様々なドラマ、映画に出演している兄レオンはと言うと、年末年始は必ず家で過ごしている。
打ち上げや忘年会を全て断っている訳ではないのだが、日付が変わる前には必ず帰って来ていた。


「……忙しいんじゃないのか?」


炬燵に入って毎年恒例の歌番組を見ている兄に、スコールは尋ねた。
レオンは蜜柑の皮を剥いていた手を止め、唐突だな、と言った。


「藪から棒にどうした?」
「どうもこうも……あんた、毎年この時期は家で過ごしてるだろ」
「駄目か?」


テレビを見ていた蒼灰色の瞳が、スコールへと向けられる。
心なしか寂しそうな色を宿す目に、スコールはそう言う事を言ってるんじゃない、と言って、


「芸能人の年末年始って、忙しそうな感じがするから」
「まあ、確かにな。今日も特番の収録があったし」


その収録は午前中に行われたので、午後からレオンはオフなっていた。
昼過ぎに帰って来たレオンは、スコールと一緒に年末用の買い物を済ませた後、弟と共に炬燵に入ってのんびりと過ごしている。


「クラウドから聞いたけど、あいつは今日、新春特番ドラマの出演者と新年会だって」
「ああ」
「あんたは誘われなかったのか?」
「いや、呼ばれた。声をかけて来たのは監督だったかな」
「行かなくて良いのか?」
「行って良いのか?」


質問に質問で応えられて、スコールは一瞬、レオンの言葉を判じ兼ねた。
頭の中でレオンの言葉を反芻している間に、レオンが剥き終わった蜜柑をスコールの前に置く。
序に、とレオンはテーブル端に置いていた急須に茶葉と湯を入れ、温かな茶を注いだ湯呑みも、スコールの前に置いた。

スコールは数秒の間を開けた後で、ようやく我に帰り、レオンを見て言う。


「付き合いとか、大事なんだろ」
「そうだな」
「監督からの誘いなら、尚更……」
「まあな」
「誘われてたの、どうせ其処だけじゃないんだろ。他にも色々…」
「出た番組からは一通り声をかけられたかな」
「それ全部断ったのか?」
「ああ」


にべもなく、レオンはきっぱりと言って、自分の分の茶を淹れた。
のんびりとそれを傾けるレオンに、スコールは眉間に深い皺を寄せる。

大丈夫なのだろうか────と、スコールの頭に過ぎっているのは、心配であった。
スコール自身、友人達から年末年始のあれこれに誘われて、全て断った身であるが、それでも学生同士の話である。
友人達は皆スコールの性格を熟知しているので、無理に連れ出そうと言う人間もいなければ、少々付き合いが悪いからと言って、気を悪くする者はいない筈だ。
しかし社会人であるレオンはそうも行くまい。
人付き合いと言うものは、華やかな芸能界であっても疎かにしてはならず、人脈を作って仕事を恒久的に貰う為にも、こうしたタイミングの飲み会は断らない方が良い。
大御所ならば自分の都合を優先しても文句は言われないだろうが、レオンは人気俳優と言えど、まだまだ20代半ばの若手である。
ドラマの監督と言えば、番組を作る中でも特に上にいる人物になる訳で、それに飲み会に誘われたとなれば、余り断れるものではないのではないか、とスコールは思う。
一時は大物女優に誘われ、それを断ったと言う理由で、業界内で根も葉もない噂が流れていただけに、また同じような事になりはしないか、と気掛かりなのだ。

訝しげに見詰めるスコールの胸中に対し、レオンは相変わらず、のんびりとしている。
出涸らしになった茶葉を淹れ直しているレオンを見ながら、スコールは彼が剥いた蜜柑を手に取った。
丁寧にスジも取られ、つるんとした薄皮に包まれた蜜柑を、口の中に入れる。
口一杯に広がる甘酸っぱい味を飲み込んで、一口茶を飲んでから、スコールは改めて訊ねた。


「…良いのか?飲み会とか、行かなくて」
「お前は、行って欲しいのか?」


また質問を質問で返されて、スコールは眉根を寄せる。
俺の質問に答えろよ、と拗ねた顔で睨む弟に、レオンはくつくつと笑いながら「悪い」と詫びた。


「良いんだ、俺は。まあ、周りが何か言ってるかも知れないが、そんなのは今更だしな」
「でも……」
「俺が飲み会に殆ど参加しないのは、今に始まった話じゃないし。人との付き合いは確かに大事だが、お前よりも優先される様な理由もない」


そう言って、レオンはスコールを見て双眸を細める。
柔らかな笑みと、仄かに熱の篭った蒼の瞳に見詰められ、スコールは数瞬、きょとんとしていた。
そして笑みと彼の言葉が齎す意味を知って、俄かに白い頬に朱が奔る。

テーブル向こうにいたレオンがスコールの隣に移動する。
赤くなったスコールの頬に、レオンの手が触れて、ほんのりと柑橘系の匂いがスコールの鼻腔をくすぐり、スコールは俯いた。


「俺は、正月くらい、お前とゆっくり過ごしたいと思っている」
「……」
「お前は、どうだ?」


耳にかかる吐息と、鼓膜を震わせる通りの良い低い声に、スコールはじんわりとした熱が体内に生まれるのを感じる。
触れられた場所からその熱が知られてしまうような気がして、スコールは身を捩って、目の前の兄から離れようとした。
しかし、レオンの片腕がそれを阻むようにスコールの細腰に回される。

近い、とスコールは思った。
レオンもそれは思っているだろう、しかし彼が体を離す事は絶対にない。
視線を彷徨わせるスコールを、レオンはゼロに近い距離で見詰め、


「俺は、いつだってお前と一緒にいたいと思ってるんだ」


それが特別な日でなくとも、レオンにとって何よりも大切なのは、スコールの存在だ。
彼以上に大切にするもの等ないのだから、レオンが仲間達の誘いを断り、スコールを優先するのも当然の事であった。

無いに等しかった距離が、更に埋められて行く事に耐えられず、スコールはぎゅうっと目を閉じた。
真っ赤になって固まっている弟に、レオンはくすりと笑い、唇を重ねる。
恥かしさからか、噤まれている唇に、レオンはゆっくりと舌を這わせた。
ぞくん、としたものがスコールの背を奔って、唇が僅かに解けると、レオンの舌がするりと滑り込む。


「…ん…ふ…ぁ……っ……」


スコールの喉からくぐもった音が零れる。
頬に添えられたレオンの手に、スコールの手が重なって、緩く握った。
レオンはその手を捕まえて握り締め、口付けの角度を変える。


「ん、ぅ……」


レオンがそっと体重をかければ、スコールは抵抗なく、ゆっくりと床に倒れた。

炬燵布団に隠されたテーブルの下で、もぞ、とスコールの足が身動ぎする。
見えない筈のその気配を覚ったように、スコールはレオンが微かに笑ったような気がした。



歌番組がカウントダウンを始めている。
僅かに離れた唇が、また重なった。





年末年始は基本的に仕事を入れない方針の俳優レオンさん。
スコールもスコールで、レオンが自分より仕事を優先したら、仕方ないと思いつつ寂しがってると思う。
だから正月は絶対に家にいる。弟と過ごす方が大事です。
  • この記事のURL

[絆]不器用なサンタクロース 1

  • 2014/12/25 22:16
  • カテゴリー:FF


スコールとティーダがサンタクロースの存在を信じていたのは、初等部の六年生までだった。
それを遅いと見るか、そうでないかは一概には言えないが、純粋な幼年期の延長が長らく続いていたのは確かだろう。
それは一重に、彼等を溺愛する兄姉の功績であると言えた。

まだ孤児院が機能していた頃から、レオンは年中行事と言うものに余念がなかった。
それは父がそう言う人物であったからと言う影響もあり、妹弟の喜んだ顔を見る事が何よりの楽しみであった事も理由にある。
孤児院では子供達を楽しませる為、頻繁に行事ごとが行われており、始めはレオンもそれを受ける側であった。
しかし、エルオーネや弟妹分達が嬉しそうに行事に参加するのを見て、企画する側に回りたいと思うようになり、彼は孤児院に来て間もなく、イデアやシドと同じ立場になった。
そんな彼がサンタクロースを信じていたのは、六歳の時までである。
これは父親のうっかりの所為であったが、彼は行事ごとが好きな父を寂しがらせないようにと、クリスマスの夜は寝た振りをして、プレゼントの到着を待っていた。
これはこれでレオンは楽しかったのだが、サンタクロースが父であったと知った時、少なからずがっかりしたのも事実だ。
妹弟達にはそんな思いをさせないよう、彼はサンタクロースのプレゼントについては、子供達に見付からないように念入りに準備をしていた。
スコールとティーダが長らくサンタクロースを信じていたのは、そう言う理由だ。
因みにエルオーネはと言うと、八歳の時にはなんとなく“サンタクロースはいない”と感じていたようで、兄弟で孤児院を出て生活するようになってからは、ごく自然にレオンと同じ立場として、クリスマスの準備を始めるようになった。

こうした弟達の素直な可愛らしさは、兄姉にとってはとても可愛らしく、良い思い出であるのだが、思春期の少年達にとっては、そう簡単に笑って語れる事ではなく。

そもそも、スコールとティーダがサンタクロースの正体を知ったのは、同じ孤児院の出身であり、一つ年上の幼馴染、サイファーからであった。
彼も、レオンと同じく、幼い内からサンタクロースの正体に気付いていた。
他の子供達にそれを言わなかったのは、レオン程ではないにしろ、彼も早熟な面があったからだ。
毎年クリスマスを、サンタクロースのプレゼントを楽しみにしている子供達に、ガキ大将ながらも兄気質のあるサイファーは、彼等の夢まで壊すまいと黙っていた。
しかし、12歳になっても未だにサンタクロースを信じているスコール達には流石に呆れ、「いい加減に大人になれよ」と言った。
其処には、12歳になっても兄離れが出来てないスコールに対する嫌味もあり、与えられる事が当たり前だと感じている幼馴染達への発破でもあった。
何せサイファーは、レオンが、エルオーネが、イデアやシドが、家事や勉強の傍ら、時間を削ってクリスマスの準備をしている事を知っていたのだ。
彼等はそれを楽しんでいるようだったが、負担がないとは言えない訳で、いつまでもそれに甘えてばかりでいるな、とサイファーは思っていた。

かくして、サイファーの所為或いはお陰で、スコールとティーダは大人の階段を上る事となる。
ティーダは、バラムに来るまでサンタクロースはいないと思っていただけに、反芻されたショックは大きかったらしく、サイファーと言い合いにまで発展した。
スコールはと言うと、サンタクロースの存在を信じながらも、レオンとエルオーネが忙しなくしていた事は知っており、比較的すんなりと納得した。
納得したが、それがサイファーから子供扱いされて、揶揄同然に言われた一言が切っ掛けであった事は些か腹が立ち、サイファーと口論こそしなかったものの、不貞腐れた顔で帰宅する事となった。

その後、兄弟の家にサンタクロースが来る事はなくなった─────等と言う事はなく、スコール達が17歳になった今でも、兄弟の家にサンタクロースはやってくる。
白ではなく黒い不精髭を生やした、筋骨隆々のサンタクロースが。


「……毎年言ってる気がするけどさ。虚しくないのか?」
「るせぇ、クソガキ。俺だって好きでやってんじゃねえよ」


いつの間にか見慣れてしまった、父親のコスプレ姿を見て、ティーダは引いた顔を浮かべていた。
その隣では、スコールが同情の篭った表情で、赤い衣装に身を包んだジェクトを見詰めている。

スコール達がサンタクロースの正体を知った頃、レオンは既にバラムガーデンを卒業しており、SEEDとして海外を飛び回っていた。
そんな彼の代わりにサンタクロース役を担っていたのは、ジェクトである。
彼はブリッツボールのエキシビジョン等で忙しい傍ら、なんとか時間を捻出し、息子の住むバラムに戻って来ると、彼等の枕元にプレゼントを並べていた。
ジェクトも都合がつかない時は、エルオーネがそれを行った。
その際、ジェクトもエルオーネも、判り易いサンタクロースの衣装を着ており、初めてそれを目にしたスコール達は、ぽかんとした顔で彼等を見詰めたものであった。

この“サンタクロースは実はパパ・ママでした”的事件の後も、彼等の下にサンタクロースはやってくる。
もう子供の頃のように、目を覚ました時に正体がバレないようにと言う心配も不要だと言うのに、わざわざ確りと扮装して、ジェクトは息子とその幼馴染の下へ現れるのだ。


「あとさぁ。やるんだったら、ちゃんと白髭もつけろよ。黒髭のサンタとか、変だろ」
「いちいち細けえ事で文句言ってんじゃねえよ。おら、今年の分だ」
「……どーも」
「……ありがとう」


ジェクトは肩に担いでいた大きな袋を下ろし、小さなプレゼントボックスを二つ取り出した。
プレゼントの割に袋がやたらと大きいが、これもやはり、サンタクロースのイメージの為だろう。
サンタクロースは、沢山のプレゼントを大きな袋にパンパンに詰めてやってくるのだから。

差し出されたプレゼントボックスを、ティーダは渋々と言う顔で、スコールは無表情で受け取る。
可愛げがなくなったもんだ、とジェクトは思ったが、17歳ともなれば幼い頃のように無邪気に喜べるものでもないので、仕方のない事なのだろう。
下らないと言って跳ね付けられないだけでも良しとするべきだ。
ついでに、よくよく見ると、早速プレゼントを開けている息子達の表情は、決してこの行事を疎んでいる訳ではないので、ジェクトは今年も気持ち良く自分の仕事を終える事が出来た。


「やった、ピアス!スコールは?」
「リング。シルバーの」


二人は、蓋を開けたプレゼントボックスを互いに見せ合った。
スコールは首にかけているネックレスと同じ意匠を抱いたシルバーリング、ティーダは瞳の色と同じ色の石のピアスだ。
スコールのものはレオンが事前に買ってジェクトに預け、ティーダのものはジェクトがザナルカンドにいる間に探して購入したものだ。
どちらも、二人が前々からアクセサリー雑誌等で気になっていたものである。

子供の頃と違い、金のかかる物を欲しがるようになったな、と思うジェクトだが、それも彼等の成長の一つだろう。
何より、自分は普段からまともに父親らしい事していないのだから、こんな時位は息子の願いを叶えてやりたいとも思う。
そうして息子の、その幼馴染の少年の嬉しそうな顔が見られるのなら、それで十分だ。

一頻りプレゼントを見せ合い、それぞれ指や耳に嵌めて楽しんだ後、スコール達はアクセサリーを箱に仕舞った。
今直ぐつけても良いのだが、真新しいそれを落として傷付けたりするのは嫌だった。
明日か明後日にでも、服装と合うようにコーディネートして、それから楽しむ事にしよう。


「へへー、楽しみっスね」
「…ん。ジェクト、コーヒーでも飲むか?」
「ああ、淹れてくれ。砂糖一つな」
「スコール、俺のも入れて」
「判った。ティーダ、これを部屋に持って行っておいてくれ」
「了解ー」


スコールの手からプレゼントボックスを受け取り、ティーダは二階への階段を上がる。
ジェクトはリビングのテーブルにつき、着込んでいた赤い衣装を脱いでいる。

スコールはキッチンに入って、三人分のコーヒーを作り始めた。
程無く二階から戻って来たティーダとジェクトの話声がキッチンに届く。


「エル姉には何か送ったのか?」
「ああ」
「変なの渡してないだろうな」
「ンだよ、変なのって。嬢ちゃんへのプレゼントは何にすりゃ良いか判らなかったから、ハンカチにしておいた。それなら幾らあっても邪魔にはならねえだろ」
「気が利かないっスねー。エル姉、今はトラビアにいるんだから、マフラーとか送れば良かったのに」
「そんなモン、向こうで自分の好みの奴を買ってるだろ。それか、送るならレオンが選んでるんじゃねえか」
「オシャレするなら、色んな種類のがあったって困んないと思うけど。あ、でも親父が選んだマフラーなんか、絶対に趣味悪いだろうから、結果オーライか」
「おいコラ、クソガキ。誰の趣味が悪いって?」


あんた以外に誰がいるんだよ、と言うティーダに、もう一遍言ってみろ、とジェクトが挑発する。
スコールはやれやれ、とキッチンで一人溜息を吐き、コーヒーの入ったカップをトレイに乗せた。


≫
  • この記事のURL

[絆]不器用なサンタクロース 2

  • 2014/12/25 22:15
  • カテゴリー:FF

リビングに戻って見れば、案の定、じっとりとした雰囲気が満ちている。
どうしてさっきの今で喧嘩が出来るのか、スコールには甚だ不思議であった。
取り敢えず此処はスコールの家なので、暴れられるのは非常に困ると、スコールはもう一度溜息を吐いて、


「コーヒー、入ったぞ」


いつもなら無言でテーブルに出す所を、わざわざ口に出して言った。
親子は一拍程無言になった後、「……ん」「……おう」と返事を寄越して、それぞれ目を逸らす。

スコールはテーブルにコーヒーを並べると、ソファに向かおうとしているティーダを呼び止めた。


「ティーダ。あれ、持って来い」
「………えっ!今!?」


あれ、とスコールが指した物に気付いて、ティーダは顔を真っ赤にする。
早くしろ、と蒼の瞳が睨んで急かすが、ティーダはその場をうろうろと彷徨い、助けを請うようにスコールを見る。
今じゃなくても、と言う表情なのは判ったが、スコールは黙殺した。

結局、ティーダの方が根負けし、彼は覚束ない足取りで階段を上って行く。
うーうーと唸りながら二階に向かう息子に、ジェクトが訝しげな表情を浮かべていた。


「なんだぁ?」
「………」


説明を求めるようなジェクトの声を、スコールは無視した。
此処で口に出して、またジェクトが余計な茶々を入れては、何もかもが台無しになってしまう。
面倒臭い親子だな、とスコールはこっそり嘆息する。

ティーダは直ぐにリビングに戻って来たが、彼は階段の出入口から中々出て来なかった。
青い瞳はふらふらと彷徨い、時折父親に向けらるが、父が自分を見ている事に気付くと、さっと逸らされる。
どうにも煮えない態度の息子に、ジェクトの眉間の皺が深くなって行く。
それを察したスコールは、やっぱり面倒な親子だ、と愚痴を零しつつ、階段で立ち尽くすティーダの腕を掴んで引っ張った。


「ちょちょちょ、スコール!」
「早くしろ」
「ま、待って待って!タンマ!俺のタイミングで…」
「そんなの待ってたら、来年になる」


きっぱりとティーダの訴えを殺して、スコールは幼馴染をその父の下へと連れて行った。
ジェクトは相変わらず眉間に深い皺を刻んでいたが、口を噤んで息子達を見守っている。

スコールはティーダをジェクトの前に置くと、自分はさっさとキッチンに引っ込んだ。
キッチンで何かする事がある訳でもなかったが、人目があるとティーダはいつまでも行動に出ないと思ったからだ。
リビングからは「スコール!」と助けを求める声がしたが、スコールは反応する気はなかった。
うわああ、と嘆くような焦るような声もしたが、これも無視する。


「…何やってんだ、お前は」
「……うるさい」
「で、さっきから後ろに隠してるのは何だ?」
「う……いや、別に……」


スコールはこっそりと、キッチンの出入口から、リビングの様子を伺った。
其処からはティーダの背中が見え、彼が腕ごと背に回して隠しているものが見えている。
それは青色に雪の白を模様にした包装紙で、赤色のリボンが施され、金色のシールが貼られている。
箱のような固いものではなく、袋を包んだような柔らかさで、ティーダが手元を動かす度、かしゅかしゅとビニールが擦れあうような音が聞こえていた。

ティーダはしばらく唸り、座り込み、頭を掻きともだもだとしていた。
ジェクトはそんな息子に焦れつつ、辛抱強く待っている。


「……………あーもうっ!」


立ち上がって、ティーダは叫んだ。
息子の突然の咆哮に、ジェクトは目を丸くする。
ティーダはそんな父親に気付かず、背に隠していたものを押し付けるように突き出した。


「これ!」
「あ?」
「あんた、いつも腹出して寝てるから!」
「は?」
「じゃ!」


そう言う事で、としゅたっと右手を挙げた後、ティーダはぐるんと方向転換した。
呆然とした表情を浮かべる父に背を向け、ソファに突進してそのまま俯せに倒れ込む。
更に縮こまるように丸くなる息子を、ジェクトはしばしぽかんと見詰めていた。

しんとした静寂が落ちた後、かさり、とジェクトの手元で音が鳴った。
視線を落とせば息子が押し付けて来たものがあり、それは誰が見ても判る、プレゼントとしてラッピングされた袋であった。
何やら、息子の心中が伝染したように、一気にむず痒いものに襲われたジェクトであったが、


「あー……開けるぞ?」
「勝手にしろよ!」


一応の確認をと問えば、ツンツンに尖った返事が帰って来た。
いつもなら、クソガキ、と毒づいてやる所であったが、今のジェクトにそんな余裕はない。

細かい作業を苦手としているジェクトは、こうした包装紙を破くのも上手くない。
自覚がある為、こんな時にはいつもビリビリに破いてしまうのだが、今日はそれは憚られた。
封に貼ってあるセロハンテープをどうにか───結局幾らか敗れたが―――剥がして、口を開けて中を覗き込む。
入っていたのは、シンプルな青生地に黄色のラインがあしらわれた腹巻だった。

中を覗き込んだ格好のまま、ジェクトは停止している。
恐らく、予想だにしていなかった息子からのクリスマスプレゼントに、思考ごと停止しているに違いない。
ティーダはそれを横目で見遣った後、うーうーと唸りながらソファの背凭れに顔を埋めて丸くなった。
スコールはすっかり傍観者として、そんな親子を眺めた後、ほっと息を吐く。


(まあ、今年はこれで良いか)


ティーダがジェクトに渡したものは、スコールとレオンがティーダを宥めて諭して、ようやく準備させたものであった。
買いに行く時は渋々顔だったティーダだが、選ぶ時には真剣な表情で、毛糸は解れるから駄目、体に厚みがあるので伸縮がないと小さくて入らない、明るいカラーは違う、と悩んでいた。
店もあちこち覗いて探しており、それらに付き合ったスコールにとっても、今回は渡されなければ意味がなかった。
結局、渡し方は酷く不格好であるが、無事に父の下へと届けられたのは幸いであった。

これで此方は一安心────と、スコールはリビングを覗くのを止める。
それからスコールは、調理台の上の吊戸棚の扉を開けた。
必要な物のみが揃えられているので、すっきりと片付いた棚の奥に、ひっそりと日の目を待つ小箱がある。

紺色の包装紙に包まれ、赤いリボンが結ばれたそれを見て、スコールは溜息を吐く。
中身はレオンが愛用しているグローブの新品で、長年使っているお陰であちこち傷んでいるのを見付けてから、プレゼントはこれにしようと決めていた。
SEEDとして出先で使用しているものなので、頑丈且つ柔軟性のある素材で作られており、値段もそこそこ張るものであったが、スコールは自分が欲しかったアクセサリーを我慢して、これを用意した。
普段、専ら自分か何かをする側、与える側だと思っている兄に、今年こそは何か返したいと思っての事だ。
どんな顔をしてくれるのかは全く想像がつかなかったが、少しでも喜んでくれたら良いと思う。
そして、今回は時間が足りなかった為に、姉に用意は出来なかったが、来年こそはと決意する。

────そんな決意の傍らで、


(……どうやって渡そう)


レオンが自分を与える側だと思っていたなら、スコールも無意識に与えられる側として定着していた。
一念発起して用意した箱を見詰めながら、今度は、スコールが思い悩む番であった。




頑張ったティーダと、これから頑張るスコール。
スコールとしては、意識しないように普通に渡せば…と考えてたけど、本人を前にすると普通ってどうやるんだったっけ、って思う位に緊張すると思われる。
ティーダと「お前から渡して置いてくれ」「なんで?!自分で渡せよ」って言う押し問答も始まる。
  • この記事のURL

[ヴァンスコ]猫のポルカ

  • 2014/12/08 22:18
  • カテゴリー:FF
12月8日なので、現代パラレルでヴァン×スコールだと言い張る!





「スコール、ピアノ弾いてくれよ」


昼休憩に食事を終えると、ノート見せてくれよ、と言うトーンと全く同じ音調で、ヴァンは言う。
それを聞いた周囲の生徒達は、また恐れ多い事を、と言わんばかりの表情で、ヴァンとスコールを遠巻きに見つめていた。
スコールはその瞬間の、針の筵にいるような感覚が嫌いで、何も言わずにさっさと教室を出て行く。
その後をヴァンが躊躇わずについて来るのは、いつもの事だった。

────スコールは高校生で、プロのピアニストだ。
今年の春まで海外で生活しており、去年の夏まではプロとしてステージに立ち、鍵盤を弾いていた。
そんなスコールが、実に十年振りに母国に帰り、普通科の高校に編入したのには、訳がある。

スコールとヴァンは、幼い頃、同じ養護施設で暮らしていた。
その養護施設で、スコールは義姉と慕った少女を喜ばせようと弾いたピアノで、自身の才能を開花させた。
その後、スコールは七歳の時にスカウト同然の形で引き取られ、海外へと移ってしまう。
ヴァンとは手紙の遣り取りが長らく続いていたが、十五歳の時にスコールの方から返事が届かなくなり、二人の関係は疎遠になった。
その頃にはスコールは既にプロとして舞台に立っていたと言う話を聞いていた為、ヴァンはきっと仕事が忙しくなったのだろうと思ったが、真実は少し違っていた。
仕事が忙しく、筆を執る時間も減っていたのは確かだが、それ以上にスコールを蝕んでいたのは、生まれて初めてのスランプと言うものだった。

天才少年と誉めそやされた少年の、人生初のスランプを、周囲はしばらく静観していたが、スランプは一年以上も続き、このままではどうにもならないと判断した近親者は、一度ピアノの事をすっきりと忘れ、普通の少年として生活してはどうかと提案した。
スコールは初めは拒んだものの、幼い頃から変わらずに接してくれた義姉にも勧められ、ようやく鍵盤から離れる決意をし、母国の土を踏むに至る。

スコールが世界に名立たる天才ピアニストだと言う事は、母国でもよく知られていた。
ミーハーな少年少女達も、人伝いにその噂を聞き、転校初日には物見遊山でスコールの周りには人だかりが出来た。
しかし、生来からコミュニケーションに関しては全くの不得手である上、人嫌いのスコールである。
「ちょっと弾いてみて」と言う生徒達のリクエストを黙殺し続けている内に、好奇の目は次第に減り、代わりに「お高くとまった奴」と言う目で見られるようになった。
他人に構われる事が嫌いなスコールにとっては良い事だったが、唯一、ヴァンだけがスコールに構うのを止めなかった。

きっちりと制服を着込んだスコールと、ネクタイ所か襟下も緩め、シャツも崩してと言う格好のヴァンが並んで歩く光景は、最近はすっかり見慣れたものになった。
天才ピアニストと、マイペースで知られた少年が並んでいる事に、始めは目を丸くしていた生徒達も、今は呆れたように見守るだけだ。
その呆れた視線は、専らヴァンに向けられたものであったが、ヴァンはそれも気にしていない。


「なあなあ、スコール。この間の現国のテスト、どうだった?」
「……別に」
「いつもと一緒?良いよなあ。俺、赤点ギリギリだった。答えのプリント見たらさ、ちゃんと合ってるのに、バツにされてるんだ。なんでだろ」


不思議そうに首を傾げるヴァンを横目に見て、スコールは一度だけ見た事のある、ヴァンの答案用紙を思い出していた。
答案用紙に書かれた文字は、まるで暗号かと思うようなものであった。
スコールが見た時には、数学の答案用紙だった為、答えとなる数字を何とか読解する事が出来た───それも、幼馴染でヴァンの字癖を知っているからこそ出来た事だ───が、現国となるとそうは行くまい。
長々と書かれた長文の答えを解読するのを、教師が早々に諦めたのは、想像に難くない。

不満げに唇を尖らせるヴァンに、字の練習をしろ、とスコールは思った。
口に出して言わないのは、言った所で渋い顔が帰って来るだけなのが判るからだ。

階段を下りて行くスコールとヴァンの横を、女子生徒のグループが擦れ違う。
後ろの方で「噂の天才ピアニスト!」「見ちゃった!」等と言う声が聞こえて、スコールは眉根を寄せた。
その肩書きを聞くのもうんざりして、スコールは母国に帰って来たと言うのに、結局耳から離れない。

苛々とした表情で階段を下りる横で、ヴァンはいつもと変わらず、雑談を振って来る。


「うちのクラス、五時間目って化学なんだ。実験とかやらないかな」
「実験は先週したんだろう」
「そうだけど。ただ机に座ってカリカリ書いてるより、実験の方が面白いだろ」


スコールにしてみれば、机に座って書くのも、実験をするのも大差ない。
黒板に書いてあるものをノートに書き移して行くか、目の前で起きている事を書き記して行くかの違いだけだ。

ヴァンの話は取り留めもなく、定まりもなく続く。


「二時間目の体育でさ、バスケやったんだ」
「……で?」
「俺、シュート入った。凄いだろ?でも負けちゃったんだよな」


惜しかったのに、と言うヴァンに、ふぅん、とスコールは気もそぞろな返事だ。
聞いているのかいないのか判らない反応も、ヴァンは気にせず話し続ける。

そうしている内に辿り着いた教室の前で、スコールは足を止めた。
鍵の具合を確認する為、扉の取っ手を軽く弾いてみると、抵抗なく隙間が開く。
これ幸いと、スコールが教室へ入ると、ヴァンも後ろをついて中に入る。

扉を閉めれば、昼休憩の喧騒すらも遠くなる其処は、音楽室だ。
確りとした防音の壁と、二重窓で閉じられたこの教室は、音楽の授業以外では余り使われる機会がなかった。
この学校のブラスバンド部は、活動にはあまり積極的ではないらしく、週に二回の放課後に練習が行われるのみであった。
ヴァンは今までその事を気にした事もなかったが、スコールが転校して来てからは、これで良かったのだと思っている。


「静かだよなぁ、此処」
「…防音が効いてるからな」


喚起の為か、空いていた窓をスコールは全て閉めて行く。
それに倣って、ヴァンも窓を一つ一つ閉め、鍵をかけた。

全ての窓を閉め終わると、外の喧騒は全く聞こえなくなり、閉じた世界に二人きりになる。
ヴァンが壁際に立てかけ並べてあるパイプ椅子を運び出している間に、スコールの足は教卓の横に置かれたグランドピアノへと向かった。


「スコールって、昔から静かな所が好きだよな」
「煩いのが嫌いなんだ」
「俺は嫌いじゃないけど。でも、静かな所も好きだな」
「…あんたは場所に好き嫌いなんてないだろ」


スコールはピアノの蓋を開け、椅子に座った。
目の前に並ぶ音の階段に、適当に指を置くと、ぽーん……と音が鳴る。

スコールの脳裏に、嘗てこの鍵盤の上で絶え間なく動いていた自分の指が思い出された。
その形をなぞろうと、手を鍵盤に置いてみるが、それきり、体は動かない。

─────天才ピアニストと謡われた少年は、ある時から全くピアノが弾けなくなった。
流麗に滑っていた指は、始めはぎこちなく惑うようになり、次第にそれは悪化し、遂には一指と揺れる事がなくなったのだ。
周囲はこれに驚いたが、最も困惑していたのはスコールだ。
ピアノだけが自分の拠り所であったと言っても過言ではないスコールにとって、それを弾く手を失う事は、自分の存在理由を失うも同然である。
何とか早い復帰をと、無理矢理ピアノを弾こうとした事もあったが、改善の兆しはなく、去年の夏には遂に舞台に立つ事も、その場所に向かう事も出来なくなった。

義姉や信頼の置ける人々から勧められた母国での生活でも、スコールは思うようにピアノを弾く事が出来ない。
そんな自分を思い知る度、スコールは自分の心の空虚が広がって行くような気がしていた。
だから───生来の人嫌いもあるけれど───同級生達の「ピアノを弾いて」と言う言葉を黙殺するしかなかったのだ。

……しかし、何故だろうか。
スコールにもよく判らなかったが、母国に帰って来て、一つだけ判った事がある。


「……それで、何を弾けば良い?」
「いつもの奴」
「…そればっかりだな」
「だって俺、それしか知らないもん」


ヴァンの言う“いつもの奴”とは、スコールが幼い頃、初めて義姉とヴァンの前で披露した曲の事だ。
当時、引っ込み思案だったスコールと親しくしてくれたのは、姉とヴァンくらいのものだった。
その姉に喜んで貰おうと、こっそり練習した曲を、姉だけでなく仲の良いヴァンにも聞いて貰いたいと思い、発表の場に誘った。

ヴァンが知っているスコールのピアノの音は、あの頃から変わっていない。
姉に喜んで貰う為、一生懸命に頑張って、緊張しながら弾いた曲────それがヴァンの“スコールのピアノ”だった。

スコールはもう一度、両手を鍵盤の上に置いた。
今まで動く気配を見せなかった指が動き、ぽぽ、ぽん、ぽん、ぽん、と単音が鳴る。
それは次第に音層を重ねて行き、楽しげなリズムを刻んで、スコールの指が鍵盤を跳ねる。


「それ、なんてタイトルだったっけ」


パイプ椅子に逆向きに座って、ヴァンが問う。
スコールはピアノを弾く手を止めないまま、答えた。


「“Kissanpolkka”」


ああ、そうだ、とヴァンは言う。
しかし、明日になってもヴァンはきっと「いつもの奴」と言うだろう。
幼い頃も彼は、スコールにピアノを強請る時、「いつもの奴」と言っていたから。



ピアノを弾きながら、スコールはちらりと見詰める幼馴染に目を遣った。
彼はスコールのピアノに合わせて体を揺らしながら、誰もが知っている歌を歌っている。

幼い頃と変わらないその光景に、スコールは知らず知らず、口元を緩めていた。





12月8日なので、ヴァンスコ!
天才ピアニストなスコールと、幼馴染のヴァンでした。

色々ストレスが溜まってスランプになったスコールだけど、ヴァンの前だけなら弾けると言う設定(言わないと判らない)。
オフ用に考えていた話なので、色々とごちゃごちゃした背景設定とかがあったりする……しかも本筋はヴァンスコよりもティダスコメインと言う……
いつかきちんと書けたら良いなと思ってます。そんなのばっかりだな!

Kissanpolkka=猫のマーチ=猫ふんじゃった
  • この記事のURL

[シャンスコ]特別講義申込み

  • 2014/11/08 22:02
  • カテゴリー:FF
11月8日と言う事で、初のシャントット×スコール。





ぼぅっ、と掌に生まれた炎は、攻撃魔法にも使えない、小さなものだ。
しかし、炎魔法は大きく育てる事は比較的易しいが、火力を押さえて制御するのは案外と難しい。
それをやってみなさいと指示され、スコールは言われた通りに、極小のファイアを灯して見せた。

黒の皮手袋を嵌めた手の上で、微風に揺れる程度の灯を運だスコールを、じっと見詰める瞳が一対───シャントットであった。
彼女はスコールの掌にある炎は勿論、それを灯したスコールの立ち姿も含め、頭の天辺から爪先までをしげしげと眺めている。
スコールは出来るだけその視線を意識しないように、炎の制御だけに神経を注いでいた。

立ち尽くすスコールの下にシャントットが歩み寄り、右から左から、前から後ろからと、スコールの周りをぐるぐると回りながら検分する。
近くなる気配に、一瞬炎がゆらりと大きく揺れたが、直ぐに形は元に戻った。

シャントットが視界の端で、つい、と正面を指差したのを見て、スコールは掌で炎を握り潰す。
スコールの手の中が熱くなり、腕を振り被って手を開く。
放たれた炎の矢が真っ直ぐに飛び、数十メートル先に鎮座していた岩にぶつかって弾けた。


「ふむ。魔法のコントロールに関しては、理想通りと言えば理想通りですわね」


焦げ痕の残った岩を見て、シャントットは言った。
視線を落としたスコールに、シャントットは続ける。


「教科書で習った通りと言う感じかしら。学院のテストであれば、90点以上は確実ですわね」


シャントットの言う通り、スコールは魔力コントロールの成績では常に90点以上をキープしている。
体調に因り多少上下する事はあるものの、十分上位の成績が取れていた。

でも、とシャントットは付け加え、


「魔力の流れが整い過ぎているのが気になるかしら」
「何か悪い事があるのか?」
「テスト向きと実戦向きは別と言う事ですわ」


そう言って、シャントットは背に負っていた杖を手に取った。
背を向けた彼女が、言外に「見ていなさい」と言っているのを察して、スコールは彼女の背を見詰める。

シャントットが杖を手に早口で呪文を唱えると、シャントットを中心に魔力の渦が生まれる。
ゆっくりと円を描くようにシャントットを取り巻いていた魔力は、少しずつ濃度を増して行き、彼女の腕を伝って杖に注がれて行く。
杖の先に埋め込まれた宝玉が赤い光を照らし、シャントットが杖を振り翳した直後、焦げ痕のついた岩に向かって炎の矢が放たれた。
スコールが放ったそれよりも、遥かに大きく速く奔る矢は、標的に衝突すると大きく弾けて岩を灼いた。

────相変わらず、凶悪な魔法だとスコールは思う。
傍目に見ればガ系レベルを思わせる威力だが、あれでシャントットはファイア一発しか唱えていない。
スコールが魔法戦よりも物理攻撃による近接戦闘を得意としている事を差し引いても、その威力は雲泥の差であった。
どれだけ魔力を持て余しているのだろう、と思う事も、一度や二度ではない。

魔力の供給源が尽きた所為か、炎は暫く岩を灼いた後、萎むように鎮火した。
そのタイミングで、シャントットはスコールに向き直る。


「先程の貴方の手順を真似ると、こう言う形かしら。じっくり練って、完成させた魔法を放つ、と。別にこれでも良いと言えば良いのですけど、実戦でじっくり練っている暇なんてありませんわ」
「……判っている」
「もっと早く、出来れば即座に最大限の力で魔法が使えれば理想的ですわね。まあ、最大限と言っても、貴方の魔力はそれ程強くはないから、主戦力にはならないでしょうけど」


スコールが近接戦を主力とする戦士タイプである事は、シャントットも知っている。
彼が使う魔法が、他の戦士達とは異なる"疑似魔法"と言うものである事も、スコール本人から聞き得ていた。
それでも、魔法に関する事なら、シャントットの分野である。
彼女もその自負があるのか、スコールからの「魔法の訓練に付き合って欲しい」と言う頼みには、二つ返事で了承を返してくれた。

シャントットはふぅむ、としばし考える仕草をした後、


「魔力の底上げはさて置くとして───コントロールの早さと、一度に扱える魔力量の増加。最短の準備で即発動可能にすると言った所かしら」
「最短の準備?……どう言う意味だ?」


コントロール速度を上げる事は当然として、扱える魔力量を増やすと言うのは、言葉の通りだから判る。
スコールもそれは必要不可欠だと考えていた事だ。
しかし、“最短の準備”と言う意味が解らない。

シャントットは持っていた杖をスコールに見せた。


「先程、私は教科書通りに魔力を集めましたわね」
「ああ。周囲の魔力を集めて、高めたエネルギーを杖に移して、この宝玉に集約させた」
「その通り。そうすれば確かに、エネルギーは綺麗な流れで、この石に集まりますわ」


ひらり、とシャントットは杖を揺らした。
緋色の石が微かに光を反射させ、スコールの目許を射る。


「でも、それでは余りにも時間がかかる。それなら、最初からこの石に魔力を集めてしまえば良い」


岩へと向けられた石に、魔力が吸いこまれるように集まって行く。
秘石の赤が、内側から炎を灯したようにゆらゆらと揺らめくと、シャントットは杖を振り翳した。
紅の閃光が迸ると同時に、渦をまとった炎の矢が岩に向かって放たれる。

岩にぶつかった炎は、岩を数秒取り巻くように焼いた後、間もなく鎮火した。
先の炎の一撃に比べると早い鎮火であったが、岩は燻されたように黒く焦げている。


「大分簡単に説明すると、こう言う事ですわ」


発動への形成を整えながら、魔力を集めると言う同時進行の作業。
練った魔力を完全に形作ってから、発動形態へと移行すると言う手順を踏まず、即発動の姿勢で魔力を高める───シャントットはそう言っているのだ。
スコールは整った眉を潜め、下方にあるシャントットの顔を見た。


「確かに、これが出来れば戦闘中に魔法を使う際のロスは減るが……これは、最初から高レベルのコントロールが出来る奴がやる事じゃないのか」


授業では好成績を収めているが、それはスコールの世界で、それも“疑似魔法”に限った話である。
この世界に置いて、スコールの魔力は非常に弱いレベルでしかなく、ウォーリア・オブ・ライトやフリオニールと同レベルと言って良い。
魔法の性質を鑑みると、彼等よりも不得手としていると見ても良いだろう。

が、シャントットは方針を変えるつもりはないらしい。
シャントットは丸い鼻をフン、と鳴らして、傲岸不遜を絵に描いたような表情で言った。


「私に特訓を頼んだ以上、私の方針に従って貰いますわよ。心配ご無用、出来ない事をやれとは言いませんわ」
「……それって……」


出来る事しか言わないから、言われた事は出来なければいけない、と言う事ではないだろうか。
これは、頼る相手を間違えたかもしれない、とスコールは密かに思う。
準備から発動までの作業を大幅に短縮させ、且つ威力も挙げられるのであれば確かに言う事はないだろうが、スコールは何も其処まで高望みして頼みに来た訳ではないのだ。
ただ、もう少し発動までのロスを軽減できれば……と考えていただけだったのに。

眉根を寄せるスコールだったが、シャントットはそんな彼の表情には全く興味を持たない。
方針が決まったら次は特訓方法と順番を考え始めたシャントットに、スコールは零れかけた溜息を飲み込んだ。
魔法に関して、シャントット以上に詳しい者がいない以上、誰を頼っても最終的に此処に行き着く事になるのは、想像に難くない。

此処まで来て、考え込んでいても仕方がない。
スコールがそう腹を決めた所で、シャントットは唇に笑みを浮かべ、


「貴方のセンスがあれば、そう難しくはない事ばかりですわ。そもそも、私が指導して差し上げるのだから、相応の結果を出して貰わないと」
「……努力する」
「宜しい」


スコールの返事に、シャントットは満足げに頷く。


心なしか、楽しそうな笑みを浮かべるシャントットに、スコールはまたも零れかけた溜息を寸での所で飲み込んだ。





シャントット×スコールだと言い張る!
実技特訓は無茶苦茶だけど、ちゃんと理に適ってるシャントットと、真面目に講義を受けるスコールって良いなと思います。
  • この記事のURL

ページ移動

  • 前のページ
  • 次のページ
  • ページ
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • 31
  • 32
  • 33
  • 34
  • 35
  • 36
  • 37
  • 38
  • 39
  • 40
  • 41
  • 42
  • 43
  • 44
  • 45
  • 46
  • 47
  • 48
  • 49
  • 50
  • 51
  • 52
  • 53
  • 54
  • 55
  • 56
  • 57
  • 58
  • 59
  • 60
  • 61
  • 62
  • 63
  • 64
  • 65
  • 66
  • 67
  • 68
  • 69
  • 70
  • 71
  • 72
  • 73
  • 74
  • 75
  • 76
  • 77
  • 78
  • 79

ユーティリティ

2025年07月

日 月 火 水 木 金 土
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
  • 前の月
  • 次の月

カテゴリー

検索

エントリー検索フォーム
キーワード

新着エントリー

[ヴァンスコ]インモラル・スモールワールド
2020/12/08 22:00
[シャンスコ]振替授業について
2020/11/08 22:00
[ジェクレオ]貴方と過ごす衣衣の
2020/10/09 21:00
[ティスコ]君と過ごす毎朝の
2020/10/08 21:00
[ジタスコ]朝の一時
2020/09/08 22:00

過去ログ

  • 2020年12月(1)
  • 2020年11月(1)
  • 2020年10月(2)
  • 2020年09月(1)
  • 2020年08月(18)
  • 2020年07月(2)
  • 2020年06月(3)
  • 2020年05月(1)
  • 2020年04月(1)
  • 2020年03月(1)
  • 2020年02月(2)
  • 2020年01月(1)
  • 2019年12月(1)
  • 2019年11月(1)
  • 2019年10月(3)
  • 2019年09月(1)
  • 2019年08月(23)
  • 2019年07月(1)
  • 2019年06月(2)
  • 2019年05月(1)
  • 2019年04月(1)
  • 2019年03月(1)
  • 2019年02月(2)
  • 2019年01月(1)
  • 2018年12月(1)
  • 2018年11月(2)
  • 2018年10月(3)
  • 2018年09月(1)
  • 2018年08月(24)
  • 2018年07月(1)
  • 2018年06月(3)
  • 2018年05月(1)
  • 2018年04月(1)
  • 2018年03月(1)
  • 2018年02月(6)
  • 2018年01月(3)
  • 2017年12月(5)
  • 2017年11月(1)
  • 2017年10月(4)
  • 2017年09月(2)
  • 2017年08月(18)
  • 2017年07月(5)
  • 2017年06月(1)
  • 2017年05月(1)
  • 2017年04月(1)
  • 2017年03月(5)
  • 2017年02月(2)
  • 2017年01月(2)
  • 2016年12月(2)
  • 2016年11月(1)
  • 2016年10月(4)
  • 2016年09月(1)
  • 2016年08月(12)
  • 2016年07月(12)
  • 2016年06月(1)
  • 2016年05月(2)
  • 2016年04月(1)
  • 2016年03月(3)
  • 2016年02月(14)
  • 2016年01月(2)
  • 2015年12月(4)
  • 2015年11月(1)
  • 2015年10月(3)
  • 2015年09月(1)
  • 2015年08月(7)
  • 2015年07月(3)
  • 2015年06月(1)
  • 2015年05月(3)
  • 2015年04月(2)
  • 2015年03月(2)
  • 2015年02月(2)
  • 2015年01月(2)
  • 2014年12月(6)
  • 2014年11月(1)
  • 2014年10月(3)
  • 2014年09月(3)
  • 2014年08月(16)
  • 2014年07月(2)
  • 2014年06月(3)
  • 2014年05月(1)
  • 2014年04月(3)
  • 2014年03月(9)
  • 2014年02月(9)
  • 2014年01月(4)
  • 2013年12月(7)
  • 2013年11月(3)
  • 2013年10月(9)
  • 2013年09月(1)
  • 2013年08月(11)
  • 2013年07月(6)
  • 2013年06月(8)
  • 2013年05月(1)
  • 2013年04月(1)
  • 2013年03月(7)
  • 2013年02月(12)
  • 2013年01月(10)
  • 2012年12月(10)
  • 2012年11月(3)
  • 2012年10月(13)
  • 2012年09月(10)
  • 2012年08月(8)
  • 2012年07月(7)
  • 2012年06月(9)
  • 2012年05月(28)
  • 2012年04月(27)
  • 2012年03月(13)
  • 2012年02月(21)
  • 2012年01月(23)
  • 2011年12月(20)

Feed

  • RSS1.0
  • RSS2.0
  • pagetop
  • 日々ネタ粒
  • login
  • Created by freo.
  • Template designed by wmks.