[レオスコ]傍にいたいと願うから
- 2014/12/31 21:44
- カテゴリー:FF
俳優レオン×弟スコールで大晦日。
年末ともなれば、あちこちから忘年会だとか、特別番組の打ち上げだとか、何かしらに呼ばれるものなのではないだろうか────と、今年も例年通りに年末年始を家で過ごす兄を見ながら、スコールは思った。
熟れっ子芸能人の年末年始は忙しい。
生放送か否かに関わらず、特別番組が全チャンネルで企画され、人気のある芸能人はそれに引っ張りだこになる。
ドラマ、音楽、お笑い番組と、その垣根も越えて、様々な内容の番組が放送されるのだ。
芸能人はその年末年始に向けた収録に11月頃から追われるようになり、年末から年始を跨ぐ生放送番組、或いは新年の朝から始まる番組等、とにかく、予定が入る理由としては、枚挙に暇はあるまい。
正月休みと言ったものは、世間一般から遅れたタイミングで取られる事が多い。
しかし、スコールの兄であり、現在人気俳優として様々なドラマ、映画に出演している兄レオンはと言うと、年末年始は必ず家で過ごしている。
打ち上げや忘年会を全て断っている訳ではないのだが、日付が変わる前には必ず帰って来ていた。
「……忙しいんじゃないのか?」
炬燵に入って毎年恒例の歌番組を見ている兄に、スコールは尋ねた。
レオンは蜜柑の皮を剥いていた手を止め、唐突だな、と言った。
「藪から棒にどうした?」
「どうもこうも……あんた、毎年この時期は家で過ごしてるだろ」
「駄目か?」
テレビを見ていた蒼灰色の瞳が、スコールへと向けられる。
心なしか寂しそうな色を宿す目に、スコールはそう言う事を言ってるんじゃない、と言って、
「芸能人の年末年始って、忙しそうな感じがするから」
「まあ、確かにな。今日も特番の収録があったし」
その収録は午前中に行われたので、午後からレオンはオフなっていた。
昼過ぎに帰って来たレオンは、スコールと一緒に年末用の買い物を済ませた後、弟と共に炬燵に入ってのんびりと過ごしている。
「クラウドから聞いたけど、あいつは今日、新春特番ドラマの出演者と新年会だって」
「ああ」
「あんたは誘われなかったのか?」
「いや、呼ばれた。声をかけて来たのは監督だったかな」
「行かなくて良いのか?」
「行って良いのか?」
質問に質問で応えられて、スコールは一瞬、レオンの言葉を判じ兼ねた。
頭の中でレオンの言葉を反芻している間に、レオンが剥き終わった蜜柑をスコールの前に置く。
序に、とレオンはテーブル端に置いていた急須に茶葉と湯を入れ、温かな茶を注いだ湯呑みも、スコールの前に置いた。
スコールは数秒の間を開けた後で、ようやく我に帰り、レオンを見て言う。
「付き合いとか、大事なんだろ」
「そうだな」
「監督からの誘いなら、尚更……」
「まあな」
「誘われてたの、どうせ其処だけじゃないんだろ。他にも色々…」
「出た番組からは一通り声をかけられたかな」
「それ全部断ったのか?」
「ああ」
にべもなく、レオンはきっぱりと言って、自分の分の茶を淹れた。
のんびりとそれを傾けるレオンに、スコールは眉間に深い皺を寄せる。
大丈夫なのだろうか────と、スコールの頭に過ぎっているのは、心配であった。
スコール自身、友人達から年末年始のあれこれに誘われて、全て断った身であるが、それでも学生同士の話である。
友人達は皆スコールの性格を熟知しているので、無理に連れ出そうと言う人間もいなければ、少々付き合いが悪いからと言って、気を悪くする者はいない筈だ。
しかし社会人であるレオンはそうも行くまい。
人付き合いと言うものは、華やかな芸能界であっても疎かにしてはならず、人脈を作って仕事を恒久的に貰う為にも、こうしたタイミングの飲み会は断らない方が良い。
大御所ならば自分の都合を優先しても文句は言われないだろうが、レオンは人気俳優と言えど、まだまだ20代半ばの若手である。
ドラマの監督と言えば、番組を作る中でも特に上にいる人物になる訳で、それに飲み会に誘われたとなれば、余り断れるものではないのではないか、とスコールは思う。
一時は大物女優に誘われ、それを断ったと言う理由で、業界内で根も葉もない噂が流れていただけに、また同じような事になりはしないか、と気掛かりなのだ。
訝しげに見詰めるスコールの胸中に対し、レオンは相変わらず、のんびりとしている。
出涸らしになった茶葉を淹れ直しているレオンを見ながら、スコールは彼が剥いた蜜柑を手に取った。
丁寧にスジも取られ、つるんとした薄皮に包まれた蜜柑を、口の中に入れる。
口一杯に広がる甘酸っぱい味を飲み込んで、一口茶を飲んでから、スコールは改めて訊ねた。
「…良いのか?飲み会とか、行かなくて」
「お前は、行って欲しいのか?」
また質問を質問で返されて、スコールは眉根を寄せる。
俺の質問に答えろよ、と拗ねた顔で睨む弟に、レオンはくつくつと笑いながら「悪い」と詫びた。
「良いんだ、俺は。まあ、周りが何か言ってるかも知れないが、そんなのは今更だしな」
「でも……」
「俺が飲み会に殆ど参加しないのは、今に始まった話じゃないし。人との付き合いは確かに大事だが、お前よりも優先される様な理由もない」
そう言って、レオンはスコールを見て双眸を細める。
柔らかな笑みと、仄かに熱の篭った蒼の瞳に見詰められ、スコールは数瞬、きょとんとしていた。
そして笑みと彼の言葉が齎す意味を知って、俄かに白い頬に朱が奔る。
テーブル向こうにいたレオンがスコールの隣に移動する。
赤くなったスコールの頬に、レオンの手が触れて、ほんのりと柑橘系の匂いがスコールの鼻腔をくすぐり、スコールは俯いた。
「俺は、正月くらい、お前とゆっくり過ごしたいと思っている」
「……」
「お前は、どうだ?」
耳にかかる吐息と、鼓膜を震わせる通りの良い低い声に、スコールはじんわりとした熱が体内に生まれるのを感じる。
触れられた場所からその熱が知られてしまうような気がして、スコールは身を捩って、目の前の兄から離れようとした。
しかし、レオンの片腕がそれを阻むようにスコールの細腰に回される。
近い、とスコールは思った。
レオンもそれは思っているだろう、しかし彼が体を離す事は絶対にない。
視線を彷徨わせるスコールを、レオンはゼロに近い距離で見詰め、
「俺は、いつだってお前と一緒にいたいと思ってるんだ」
それが特別な日でなくとも、レオンにとって何よりも大切なのは、スコールの存在だ。
彼以上に大切にするもの等ないのだから、レオンが仲間達の誘いを断り、スコールを優先するのも当然の事であった。
無いに等しかった距離が、更に埋められて行く事に耐えられず、スコールはぎゅうっと目を閉じた。
真っ赤になって固まっている弟に、レオンはくすりと笑い、唇を重ねる。
恥かしさからか、噤まれている唇に、レオンはゆっくりと舌を這わせた。
ぞくん、としたものがスコールの背を奔って、唇が僅かに解けると、レオンの舌がするりと滑り込む。
「…ん…ふ…ぁ……っ……」
スコールの喉からくぐもった音が零れる。
頬に添えられたレオンの手に、スコールの手が重なって、緩く握った。
レオンはその手を捕まえて握り締め、口付けの角度を変える。
「ん、ぅ……」
レオンがそっと体重をかければ、スコールは抵抗なく、ゆっくりと床に倒れた。
炬燵布団に隠されたテーブルの下で、もぞ、とスコールの足が身動ぎする。
見えない筈のその気配を覚ったように、スコールはレオンが微かに笑ったような気がした。
歌番組がカウントダウンを始めている。
僅かに離れた唇が、また重なった。
年末年始は基本的に仕事を入れない方針の俳優レオンさん。
スコールもスコールで、レオンが自分より仕事を優先したら、仕方ないと思いつつ寂しがってると思う。
だから正月は絶対に家にいる。弟と過ごす方が大事です。
年末ともなれば、あちこちから忘年会だとか、特別番組の打ち上げだとか、何かしらに呼ばれるものなのではないだろうか────と、今年も例年通りに年末年始を家で過ごす兄を見ながら、スコールは思った。
熟れっ子芸能人の年末年始は忙しい。
生放送か否かに関わらず、特別番組が全チャンネルで企画され、人気のある芸能人はそれに引っ張りだこになる。
ドラマ、音楽、お笑い番組と、その垣根も越えて、様々な内容の番組が放送されるのだ。
芸能人はその年末年始に向けた収録に11月頃から追われるようになり、年末から年始を跨ぐ生放送番組、或いは新年の朝から始まる番組等、とにかく、予定が入る理由としては、枚挙に暇はあるまい。
正月休みと言ったものは、世間一般から遅れたタイミングで取られる事が多い。
しかし、スコールの兄であり、現在人気俳優として様々なドラマ、映画に出演している兄レオンはと言うと、年末年始は必ず家で過ごしている。
打ち上げや忘年会を全て断っている訳ではないのだが、日付が変わる前には必ず帰って来ていた。
「……忙しいんじゃないのか?」
炬燵に入って毎年恒例の歌番組を見ている兄に、スコールは尋ねた。
レオンは蜜柑の皮を剥いていた手を止め、唐突だな、と言った。
「藪から棒にどうした?」
「どうもこうも……あんた、毎年この時期は家で過ごしてるだろ」
「駄目か?」
テレビを見ていた蒼灰色の瞳が、スコールへと向けられる。
心なしか寂しそうな色を宿す目に、スコールはそう言う事を言ってるんじゃない、と言って、
「芸能人の年末年始って、忙しそうな感じがするから」
「まあ、確かにな。今日も特番の収録があったし」
その収録は午前中に行われたので、午後からレオンはオフなっていた。
昼過ぎに帰って来たレオンは、スコールと一緒に年末用の買い物を済ませた後、弟と共に炬燵に入ってのんびりと過ごしている。
「クラウドから聞いたけど、あいつは今日、新春特番ドラマの出演者と新年会だって」
「ああ」
「あんたは誘われなかったのか?」
「いや、呼ばれた。声をかけて来たのは監督だったかな」
「行かなくて良いのか?」
「行って良いのか?」
質問に質問で応えられて、スコールは一瞬、レオンの言葉を判じ兼ねた。
頭の中でレオンの言葉を反芻している間に、レオンが剥き終わった蜜柑をスコールの前に置く。
序に、とレオンはテーブル端に置いていた急須に茶葉と湯を入れ、温かな茶を注いだ湯呑みも、スコールの前に置いた。
スコールは数秒の間を開けた後で、ようやく我に帰り、レオンを見て言う。
「付き合いとか、大事なんだろ」
「そうだな」
「監督からの誘いなら、尚更……」
「まあな」
「誘われてたの、どうせ其処だけじゃないんだろ。他にも色々…」
「出た番組からは一通り声をかけられたかな」
「それ全部断ったのか?」
「ああ」
にべもなく、レオンはきっぱりと言って、自分の分の茶を淹れた。
のんびりとそれを傾けるレオンに、スコールは眉間に深い皺を寄せる。
大丈夫なのだろうか────と、スコールの頭に過ぎっているのは、心配であった。
スコール自身、友人達から年末年始のあれこれに誘われて、全て断った身であるが、それでも学生同士の話である。
友人達は皆スコールの性格を熟知しているので、無理に連れ出そうと言う人間もいなければ、少々付き合いが悪いからと言って、気を悪くする者はいない筈だ。
しかし社会人であるレオンはそうも行くまい。
人付き合いと言うものは、華やかな芸能界であっても疎かにしてはならず、人脈を作って仕事を恒久的に貰う為にも、こうしたタイミングの飲み会は断らない方が良い。
大御所ならば自分の都合を優先しても文句は言われないだろうが、レオンは人気俳優と言えど、まだまだ20代半ばの若手である。
ドラマの監督と言えば、番組を作る中でも特に上にいる人物になる訳で、それに飲み会に誘われたとなれば、余り断れるものではないのではないか、とスコールは思う。
一時は大物女優に誘われ、それを断ったと言う理由で、業界内で根も葉もない噂が流れていただけに、また同じような事になりはしないか、と気掛かりなのだ。
訝しげに見詰めるスコールの胸中に対し、レオンは相変わらず、のんびりとしている。
出涸らしになった茶葉を淹れ直しているレオンを見ながら、スコールは彼が剥いた蜜柑を手に取った。
丁寧にスジも取られ、つるんとした薄皮に包まれた蜜柑を、口の中に入れる。
口一杯に広がる甘酸っぱい味を飲み込んで、一口茶を飲んでから、スコールは改めて訊ねた。
「…良いのか?飲み会とか、行かなくて」
「お前は、行って欲しいのか?」
また質問を質問で返されて、スコールは眉根を寄せる。
俺の質問に答えろよ、と拗ねた顔で睨む弟に、レオンはくつくつと笑いながら「悪い」と詫びた。
「良いんだ、俺は。まあ、周りが何か言ってるかも知れないが、そんなのは今更だしな」
「でも……」
「俺が飲み会に殆ど参加しないのは、今に始まった話じゃないし。人との付き合いは確かに大事だが、お前よりも優先される様な理由もない」
そう言って、レオンはスコールを見て双眸を細める。
柔らかな笑みと、仄かに熱の篭った蒼の瞳に見詰められ、スコールは数瞬、きょとんとしていた。
そして笑みと彼の言葉が齎す意味を知って、俄かに白い頬に朱が奔る。
テーブル向こうにいたレオンがスコールの隣に移動する。
赤くなったスコールの頬に、レオンの手が触れて、ほんのりと柑橘系の匂いがスコールの鼻腔をくすぐり、スコールは俯いた。
「俺は、正月くらい、お前とゆっくり過ごしたいと思っている」
「……」
「お前は、どうだ?」
耳にかかる吐息と、鼓膜を震わせる通りの良い低い声に、スコールはじんわりとした熱が体内に生まれるのを感じる。
触れられた場所からその熱が知られてしまうような気がして、スコールは身を捩って、目の前の兄から離れようとした。
しかし、レオンの片腕がそれを阻むようにスコールの細腰に回される。
近い、とスコールは思った。
レオンもそれは思っているだろう、しかし彼が体を離す事は絶対にない。
視線を彷徨わせるスコールを、レオンはゼロに近い距離で見詰め、
「俺は、いつだってお前と一緒にいたいと思ってるんだ」
それが特別な日でなくとも、レオンにとって何よりも大切なのは、スコールの存在だ。
彼以上に大切にするもの等ないのだから、レオンが仲間達の誘いを断り、スコールを優先するのも当然の事であった。
無いに等しかった距離が、更に埋められて行く事に耐えられず、スコールはぎゅうっと目を閉じた。
真っ赤になって固まっている弟に、レオンはくすりと笑い、唇を重ねる。
恥かしさからか、噤まれている唇に、レオンはゆっくりと舌を這わせた。
ぞくん、としたものがスコールの背を奔って、唇が僅かに解けると、レオンの舌がするりと滑り込む。
「…ん…ふ…ぁ……っ……」
スコールの喉からくぐもった音が零れる。
頬に添えられたレオンの手に、スコールの手が重なって、緩く握った。
レオンはその手を捕まえて握り締め、口付けの角度を変える。
「ん、ぅ……」
レオンがそっと体重をかければ、スコールは抵抗なく、ゆっくりと床に倒れた。
炬燵布団に隠されたテーブルの下で、もぞ、とスコールの足が身動ぎする。
見えない筈のその気配を覚ったように、スコールはレオンが微かに笑ったような気がした。
歌番組がカウントダウンを始めている。
僅かに離れた唇が、また重なった。
年末年始は基本的に仕事を入れない方針の俳優レオンさん。
スコールもスコールで、レオンが自分より仕事を優先したら、仕方ないと思いつつ寂しがってると思う。
だから正月は絶対に家にいる。弟と過ごす方が大事です。