[絆]フロム・ディア・サンタクロース 2
- 2017/12/25 21:14
 - カテゴリー:FF
 
部屋の電気を消して、レオンは一階へと下り、ふう、と息を吐く。
それから食卓テーブルの椅子に置いていた鞄を開けていると、後を追う形でエルオーネも二階から降りてきた。
 
 
 「レオン、今年もお疲れ様」
 「ああ、お疲れ様、エルオーネ」
 
 
 今年も秘密のミッションを無事に終え、エルオーネはすっきりとした表情だ。
 そんな彼女の前に、レオンは鞄から取り出した小さな袋を差し出す。
 
 
 「エル。メリークリスマス」
 「えっ。あっ」
 
 
 兄の言葉にエルオーネは目を丸くして、その手に握られているものを見た。
 レオンの気持ち大きな掌に収まるサイズの小さな紙袋には、確りと『Merry Xmas』の文字。
 マスキングテープのデコレーションに、『エルオーネへ』と綴られているのを見て、エルオーネはほんのりと顔を赤らめた。
 
 
 「あ、ありがとう……もう、そんな年じゃないのに」
 「良いだろう、クリスマスなんだから。家の事も、スコール達の事も、いつも見てくれるエルオーネに、サンタクロースからのプレゼントだと思えば良い」
 「サンタが来くるのは、小さい子だけだよ。私、もうそんなに子供じゃないのに」
 「じゃあ、それは要らない?」
 「それとこれとは別!」
 
 
 受け取った紙袋を、エルオーネはしっかり確保して言った。
 そうしてくれると嬉しいよ、とレオンが笑えば、エルオーネはもう、と言って眉尻を下げた。
 
 
 「開けても良い?」
 「ああ。……そんなに大したものじゃないけど、似合うと思うんだ」
 
 
 レオンのその言葉を聞きながら、エルオーネが小袋を開ける。
 中身を取り出してみると、水色の花を携えたヘアピンが入っていた。
 シンプルながらも可愛らしいチョイスに、レオンがエルオーネの好みを考えて選んでくれた事がよく判る。
 
 エルオーネは早速ピンを取り出して、前髪を軽く横に流し、ピンで止める。
 鏡がないので自分では判らなかったので、見守るレオンに正面から見せてみた。
 
 
 「どうかな」
 「ああ。よく似合ってる」
 「ふふ、ありがとう」
 
 
 良かった、と笑うレオンの反応に、私も良かった、とエルオーネは思う。
 似合わなかったりしたら、折角選んでくれたレオンに悪い、と思うからだ。
 
 それからエルオーネは、背に隠すように手に持っていたものを差し出す。
 
 
 「じゃあ、これ。レオンにクリスマスプレゼント」
 「俺に?」
 
 
 小さな正方形のプレゼントボックスを差し出し、思いも寄らなかった妹の言葉に、レオンは目を丸くした。
 どうして、と言う表情で見詰める兄に、エルオーネはくすくすと笑いながら言った。
 
 
 「スコールとティーダがね、レオンは多分、もうずっとクリスマスプレゼントを貰ってないって言ったら、そんなの可笑しいって。だから自分達で用意して、サンタクロースにお願いして、お兄ちゃんにプレゼント贈るんだって言ってたの」
 
 
 サンタクロースは一年間を良い子で過ごした子供の下に来るのに、レオンやエルオーネの所に来ないのは可笑しい。
 スコールとティーダは真剣にそう考えつつも、サンタクロースは世界中を飛び回る為に、どうしても配り切れない子供も出てしまうのだと考えていた。
 嘗てティーダの所にも訪れなかった事もあり、世界中の子供達の数が、彼等の想像をはるかに上回る数である事も手伝って、それは仕方のない事だとも思った。
 それなら、サンタクロースが準備出来ない分は自分達が用意して、サンタクロースにお願いし、兄にプレゼントを贈りたいと考えたのである。
 
 エルオーネの言葉を聞いて、レオンの脳裏に、眠り落ちる寸前の弟と妹の会話が浮かぶ。
 エルオーネが言った、「お願いを伝えておくから」と言うのは、この事か。
 
 彼等は幼いなりに、一所懸命に考え、準備を頑張った。
 プレゼントを選び、今まで貯めたお小遣いを使って必要なものを買い、自分達でラッピングした。
 自分達だけで、と言うのは流石に無理があったので、エルオーネも手伝っている。
 それでも、殆どの作業を弟達が主導で行った事は間違いなく事実であった。
 
 
 「だから、受け取らないなんて言わないでね」
 
 
 そう言って、はい、とエルオーネは改めてプレゼントボックスを差し出す。
 よくよく見れば、そのボックスの包装紙には所々に不自然な折り目がついていて、リボンも歪になっている。
 名入りのメッセージカードは手書きだし、それがティーダの癖字とスコールの几帳面な字である事を、レオンは直ぐに悟った。
 
 見れば見る程、目頭が熱くなるような気がして、レオンはどんな顔をして良いか判らない。
 ただ唇が緩むは堪えられなくて、なんとも顔の締まりがなくなっている気がして、堪らず口元を手で隠した。
 しかし、しっかり者の妹にはやはりバレていたようで、ふふ、と楽しそうに笑う声が聞こえる。
 
 
 「…この年で、サンタクロースに逢えるなんてな」
 「凄く可愛いサンタさんでしょ?」
 「ああ。全くだ」
 
 
 こんなに可愛いサンタクロースは、世界中の何処を探しても、他にはいない。
 レオンはそう思いながら、プレゼントボックスを受け取った。
 
 
 「開けても良いか?」
 「うん」
 
 
 弟達が何を贈ってくれたのかが気になって、レオンは我慢が出来なかった。
 ソファに座り、きっと頑張って結んだのであろうリボンを解くと、テープ留めの粘着が弱かったのか、箱を包む包装紙がばらっと開いた。
 あらら、と苦笑するエルオーネに、レオンも微笑ましさを感じてくすくすと笑う。
 
 箱を開けると、中に入っていたのは、小さな袋が二つと、折り畳まれた画用紙が一枚。
 画用紙を開いてみると、『お兄ちゃん レオン へ。メリークリスマス』と言う文字と共に、レオンの似顔絵が入っていた。
 恐らく、文字を書いたのはティーダで、絵を描いたのはスコールだろう────いや、所々の塗り方が違う所を見ると、それぞれ分担作業にしたのかも知れない。
 
 その隣に並べられた小さな袋を手に取ると、中に入っていたのは赤いビーズのヘアゴムだった。
 
 
 「あ、それ。皆で一緒に作った奴なんだ」
 
 
 レオンが何某かの作業や仕事をしている時、長い髪をよく束ねているのを、スコールは幼い時から見ていた。
 その時に使っているヘアゴムは、何処でも安価に売られているシンプルなものばかりだ。
 特に執着している訳でもなく、必要であるから使っていただけで、千切ればそれきりのものだったのだが、スコール、ティーダ、エルオーネが揃って手作りしてくれた物なら、無碍には出来ない。
 
 大事に使わなくちゃな、と思いつつ、もう一つの袋を手に取ると、少し感触は違うが、此方もビーズらしき小さな凹凸が感じられる。
 
 
 「二つも作ったのか」
 「え?時間もあまりなかったから、一つだけだったと思うけど……?」
 「……?」
 
 
 エルオーネの反応に、おや、とレオンは首を傾げる。
 袋を開けて中身を取り出したレオンは、黄緑色の小さな輪───ビーズの指輪と一緒に出てきた小さなメッセージカードを見て、ああ、と納得した。
 
 
 「エル。お前宛てだ」
 「えっ?」
 
 
 今度はエルオーネが目を丸くする番だった。
 どう言う事、と訊ねて来る妹に、さあ、どう言う事だろう、と推し量るしか出来ない兄はそれだけを言って、淡い緑を基調にしたビーズを手渡した。
 
 
 
皆それぞれサプライズ。
エルオーネが最後まで自分の欲しいものを弟達に言わなかったので、弟達はこっそり頑張りました。