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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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カテゴリー「FF」の検索結果は以下のとおりです。

いっしょにいたい

  • 2016/07/02 00:06
  • カテゴリー:FF


ある日の午後の事。
ラグナが食糧を調達しに行って、昼寝の最中に目を覚ましたレオンは、暇を持て余して家の中を歩き回っていた。
スコールは午前中に遊び疲れてまだ眠っており、起こすのは忍びなかったので、一人で暇潰しをしている。

何かないかと見回していた青灰色が留まったのは、リビングのテーブルの上に、ぽつんと置かれた二組の布切れ。
ついこの間、スコールが噛み千切った首輪の成れの果てだ。
それを見付けたレオンは、ボロボロになってしまったそれを取って、じいっと見詰めた。

これをつけておかないと、いつかラグナと一緒にいられなくなる。
一緒にいられなくなったら、何処に行かなければならないのかは、判らない。
けれど、ラグナと一緒にいるのが駄目なら、此処にもいられなくなるに違いない。
スコールも首輪を嫌がっているから、このままでは、兄弟揃って何処か別の場所に行かなければならない。
ひょっとしたら、バラバラにされる可能性もあるのかも知れない。

弟と一緒にいられなくなるのは嫌だ。
ラグナの傍にいられくなるのも嫌だ。
そう思ったら、我慢しないと────とレオンは思うのだが、その我慢が難しい。

ボロボロで輪の形にもならなくなった布きれを、首に当ててみる。
それだけなら、特に苦しさや気持ち悪さは感じなかった。
長めに残っていた切れ端があったので、首を一周させてみる。
むずむずとした違和感が首に生まれ、レオンはしばらく息を詰めて我慢していたが、一分もせずに離してしまう。


「ぐぅ……」


自分がこれを我慢する事が出来れば、スコールも我慢するように頑張ってくれる筈。
首輪を激しく嫌がっている弟に、我慢を強いるのは心苦しかったが、これが着けられないと今の生活は続けられないのだ。
兄である自分が手本を示し、恐いものではないのだとスコールも知る事が出来れば、きっと慣れてくれる。

そう思っても、考えたように出来ないのが悲しい。
此処にいたいのに、と思うと、眼の周りがじわじわと熱くなる。

なんとか我慢できる方法はないか、レオンは色々と試し始めた。
首にぴったりと密着すると息苦しくなるから、余裕を作ってみたり、後ろ首に引っ掛けて垂らしてみたり。
首の後ろだけなら、布が当たっても平気だった。
前だけはどうだろう、と試してみるも、此方は気持ち悪い気がする上に、手を離すとぽろっと落ちてしまう。
前に当たると嫌な感じがする、と当てた感覚が残る首を、カリカリと引っ掻いた。

これなら、とレオンは布を首の後ろに引っ掛けて垂らしてみた。
首の後ろの違和感はあるものの、息苦しさは感じないので、その内慣れる事が出来るかも───と思ったのだが、


「……がう?」


布を首の後ろに引っ掛けて歩いていると、段々とずれてきて、いつの間にか落としてしまう。
布には首輪として留める為のワンタッチの留め具が縫い付けられているが、プラスチック製のそれに大した重さはない。
押さえるものがないと、レオンの歩調で揺れた布が滑り落ちてしまうのだ。

レオンが何度試してみても、布は床に落ちてしまう。
思うようにならない事に段々と腹が立って来て、レオンは布に噛み付いた。
ただでさえボロボロになっていた布は、レオンの牙で直ぐに穴が空き、ビリビリと破れてしまう。


「ぐるぅ……」


もっとボロボロにしてしまった布を見て、レオンの尻尾がしょんぼりと萎える。
折角、我慢できる方法が見付かりそうだったのに、このやり方では駄目らしい。

レオンは短くなった布を、もう一度首の後ろにかけた。
布の端と端を引っ張りながら視線を落とすと、ぎりぎり視界に入る長さが残っている。
レオンは両脚を投げ出して、ぺたりとフローリングの床に座り、布の端を擦り合わせたり交差したりと、首輪状になるように試し始めた。
端と端を結べば輪にする事は出来るのだが、レオンにはまだ判らない。
ラグナが紐を結んで輪を作っているのを見て覚えてはいるのだが、“結ぶ”と言う所まで理解していないのだ。

布の端を擦り合わせては、手を離し、ぷらんと解けてしまう布に、レオンの鼻に皺が寄る。


「うぅ~っ!!」


子供が駄々を捏ねるような声で、レオンは唸った。
普段、レオンがこうした声を上げる事は珍しい。
警戒心が強く、神経質なスコールに比べ、レオンは心持ち穏やかな気質だからだ。
しかし、兄とは言えレオンも幼い事に変わりはなく、思い通りにならない事には、ストレスを溜める事もある。

うーうーと唸りながら、また布の端をぐりぐりと擦り合わせていた時だった。
玄関の扉が開く音がして、「ただいま~」と言う声が聞こえる。
いつもなら、その声に反応し、玄関まで走るレオンであったが、今日はそんな気分になれなかった。

買い物から戻って来たラグナは、リビングの床に座り込んでいるレオンを見付けて、目を丸くする。


「レオン、起きてたのか。そんな所でどうしたんだ?」
「がぁう」
「ん~?」


返事をするレオンだったが、ラグナからの反応は鈍い。


「がぁ。があう。あう」
「ちょっと待ってな~。直ぐ終わるから」
「がぅうう」
「なんだ、今日は随分甘えんぼだなあ」


鳴くのを止めないレオンに、ラグナが微笑ましそうに笑う。

ラグナは買い物袋の中身を冷蔵庫に詰めてから、レオンの下へ。
確りとした腕がレオンを抱き上げて、ラグナはソファに座り、膝上にレオンを下ろしてやった。


「スコールはまだ寝てる?」
「がう」
「そっかそっか。……ん?これは────」


レオンの首にかけられているものを見付けて、ラグナがそれを手に取る。
ボロボロの布切れの正体を、ラグナは直ぐに思い出した。

ぷらぷらと揺れる布きれを、レオンの手が追う。
ぱしっ、ぱしっ、と弾いて遊ばせるレオンに、ラグナは眉尻を下げて苦笑した。


「オモチャじゃないぞぅ~」
「がう、がっ。がうっ」
「ま、これだけボロボロになったら、オモチャでいいか」


猫じゃらしの代わりに、ゆらゆらと振ってやれば、レオンの目がきょろきょろとそれを追って動く。
むずむずとした様子で布きれを見詰めるレオンに、ラグナの頬も綻んだ。

しばらく布きれでレオンを遊ばせていたラグナだったが、ふと、


「レオン。これ、こうするのは嫌じゃないのか?」


こう、と言ってラグナは、レオンの首の後ろに布を引っ掛ける。
レオンは首の後ろを気にして頭を二、三度揺らしたものの、表情には特に嫌悪感は浮かんでいなかった。

ふむ、とラグナは思案し、布の端と端を緩く結ぶ。
首輪と言う程小さな輪にはならないように、十分に余裕を作ってやる。
ラグナが手を離すと、首輪代わりの布切れは、首飾りの要領でレオンの首下に残った。
それがつい先程、レオンが自力で作ろうと思っていた形だと、ラグナは知らない。

緩い瘤を作った布を、レオンが両手で挟んで遊ぶ。
ラグナはその表情をじっと見て、


「レオン。これ、平気か?」
「ぐぅ?」
「苦しくない?」
「がぁう」


布の瘤を口で噛んでいるレオンだが、引き千切ろうとはしない。
あぐあぐと顎を動かしているので、布にはまた穴が空いているが、もうボロボロだし、とラグナは気に止めなかった。

布切れで遊んでいるレオンを抱いて、ラグナは寝室へ向かう。
其処には、日当たりの良い窓辺ですやすやと眠っているスコールがいる。
ラグナがレオンを床に下ろしてやると、レオンはスコールの下へ。
クッションに顔を埋めて眠っているスコールに顔を近付け、ふくふくとその匂いを嗅いだ後、レオンは満足そうな顔で弟の隣で丸くなった。

日向で丸くなっているレオンとスコールは、まだまだ体が小さく幼い事も手伝って、“ライオン”と言うより“猫”に見える。
可愛いなあ、と双眸を細めつつ、ラグナはパソコンの電源を入れた。


(取り敢えず、先ずはレオンの分だな)


弟と一緒に丸くなったレオンの首には、布の首飾りがそのままになっている。
首輪の訓練をしていた時と違い、拒否反応も見られない。
恐らくレオンは、首と言うよりも、喉を圧迫されるのが嫌いなのだろう。
だから、喉を締め付ける事のない、ゆったりと余裕のある首飾りなら平気なのだ。

とは言え、レオンもスコールも、首下に触れるものについて、敏感である事は変わらない。
余りにも余裕を作ると、遊んでいる間に落として失くしてしまう可能性もある。
玩具にしてしまわないように、工夫もしなければ。
身分証明書としての役目も果たせなければいけないし、検討の必要がある事項は少なくない。

けれど、一先ず考えるべきは、彼等が嫌がらない事。
少しの間は慣れと我慢も必要とは思うが、其処さえクリアできれば、あとはきっと大丈夫だろう。




────数日後、小さなライオンの首に、銀色の獅子が誇らしげに光っていた。






一緒にいたくて、頑張るレオンでした。
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ここにいるためのきまりごと

  • 2016/07/02 00:04
  • カテゴリー:FF


生まれ育った地から離れ、いつの間にか見知らぬ場所にいて、どれ程の時間が流れたか。
此処はとても不思議な場所で、狩りをしなくても食べるものが手に入り、長い間歩き回らなくても水を飲む事も出来る。
目覚めた時には戸惑い、警戒したものだったが、次第にそれも慣れて行き、今の環境がとても良い事も理解した。
あの日、硬い牙に噛まれた足は、しばらくじゅくじゅくとした痛みに苛まれたけれど、時間が経つ内に消えて行き、それがいつもの傷よりもずっと早く治った事に気付いた時、此処は危険な場所ではないのだと判った。
何より、大切な弟と離れ離れにされる事もなく、彼が空腹で苦しむ事もない。

母と暮らした場所は、何処にあるのか判らず、戻る道も判らない。
二度と戻れないのかも知れないと思うと、酷く寂しくなったけれど、あのままあそこにいても、弟は腹が減るばかりだっただろう。
そして、いつかきっと、動けなくなって、冷たくなってしまったに違いない。
それを考えると、きっと此処にいる方が良いのだろう。

兄弟に食事を持って来てくれるのは、あの日、兄を助けた“人間”だった。
毎日を共に過ごす“人間”は、とても優しく、何かあると話しかけて来て、様々な事を教えようとする。
それを吸収し、真似をして見せると、“人間”はとても喜んだ。
喜ぶ“人間”の顔を見ると、兄は胸の奥がぽかぽかと暖かくなって、記憶に霞んだ母に褒められた時の事を思い出した。
ああ、きっとこの“人間”は恐くない。
弟はまだまだ恐がり癖が抜けないけれど、兄の自分が守れば良い───そう思った。

それから兄弟は、“名前”をつけられた。
兄の名前はレオンと言い、弟はスコールと呼ばれている。
今までは兄弟だけで暮らしていたから、呼ぶ名前など無くても困らなかったけれど、名を呼ばれると嬉しいのだと言う事を初めて知った。
兄が人間を真似て、弟の名前を呼んでみると、弟が振り返って首を傾げる。
弟も真似て兄を呼ぶと、呼ばれた兄が振り返るので、弟も嬉しくなった。

一緒に暮らしている“人間”は、“ラグナ”と言う名前らしい。
呼んでも直ぐには反応してくれなかったが、何度も呼ぶと振り返って、「どした?」と笑い掛けて来た。
腹が減った時には食事を、喉が乾いたら水を、催促してみると、ラグナはそれを準備してくれる。
時々、見当違いのものを出される事もあり、どうやら彼に自分達の言葉は通じていないようだと知った。
けれど、理解しようとしてくれているのは判ったから、伝わるまで何度でも彼の名前を呼ぼうと思った。

そんな生活が始まって、戸惑って、慣れて来て。
スコールの恐がり癖も少しずつ形を潜めて来た頃に、彼等に出逢った。

故郷で犬や狼は見た事があったけれど、自分達と同じ、後足だけで歩く事が出来る犬は初めて見た。
犬の名前はザックスとクラウドと言い、彼等はセフィロスと言う人間と一緒に暮らしている。
彼等は随分前から人間と共に過ごしており、今はセフィロスの下で色々な訓練をしていると言う。
訓練と言うのは、人間と一緒に生活する為のものだと思っていたら、二人はもっと難しい訓練を受けているようだった。
そんなに色々な事をしてどうするんだ、と訊ねると、ケイサツになるんだ、とザックスは言った。
ケイサツとは何だと訊ねると、悪い人間を捕まえたり、困っている人間を助けたりするんだ、と言う。
二人はその為に、一等難しい事が出来るように特訓しているのだと。

ザックス達の棲家で、スコールにじゃれつくクラウドをザックスが止め、逃げるスコールを宥めながら、そんな話を何度か交わしていた時だ。
ザックスがふと、不思議そうな顔をして言った。



お前ら、これ付けないのか?



そう言ったザックスが指差したのは、自分の首輪。
それを見た瞬間、自分の顔が歪むのが判った。

首の周りに沿って一周しているもの。
最近、似たようなものを、ラグナが自分達に付けさせようとしている事を、レオンは確りと覚えている。
ラグナが「大事なものだから」と言うので、何度か大人しくつけていたが、どうしても落ち着かなくて爪を立ててしまった。
スコールに至っては、全身で拒否し、自力で外した上に噛み千切ってしまう。
脆いもので作られているので、簡単にボロボロになってしまうそれを見付かる度に、スコールはラグナに叱られていた。
此処で生活していく上で、あれが必要なものだと言う事は、何度も何度も言われたので、判っているつもりだ。
けれど、身に付けていると、首の周りが締め付けられるような感覚に襲われて、酷く落ち着かない。
スコールも同じようで、大事なものだと判らない訳ではないようだけど、どうしても我慢できずに外してしまうようだった。

つけたくないんだ、と正直に言うと、ザックスはそりゃ駄目だ、と言った。



俺達がこれをつけてないと、セフィロスが困るんだってさ。
他の皆もつけてるぞ。
お前らもつけなくちゃいけないんじゃないのか?



そんな事を言われても、どうしても受け付けられないのだ。
ザックスの言葉を聞いたスコールも、鼻の頭に皺を寄せて、嫌だ、つけたくない、と言う。

顔を顰めるスコールの首の後ろに、クラウドが鼻を近付ける。
くんくんと匂いを嗅がれて、スコールが止めろ!と怒った。
レオンの後ろに隠れて威嚇するスコールに、物怖じしないクラウドは近付こうとするが、ザックスに留められる。

不服そうなクラウドを宥めながら、ザックスは続けた。



これがないと、俺達、セフィロスと一緒にいられないんだ。



その言葉を、自分達の立場と置き換えると、どう言う事になるのか。
少し考えただけで、レオンにも理解する事は出来た。

大事なものだと言っていたあれを首につけないと、ラグナと一緒にいられなくなる。
今までなくても一緒だった、とスコールが言うと、ザックスはあれ?と首を傾げた。
────だが、最近のラグナの行動を見ると、ザックスの言う事も間違いではないのだろう。
今まではいらなくても、これから必要だから、ラグナは二人の首に首輪をつけようとしているのだ。

レオンは自分の首に、爪を引っ込めた手を当てる。
首輪を嫌って何度も何度も引っ掻いていたら、いつの間にか其処には傷が出来ていた。
風呂に入れられる時に沁みるので、引っ掻かないようにとラグナに言われたが、首を締め付けられるような感覚を思い出すと、どうしても我慢できなくて引っ掻いてしまう。

レオンがカリカリと首を掻いていると、どんっと背中に何かが当たった。
振り返ってみれば、スコールがぐるぐると喉を鳴らしている。
スコールは引っ掻き痕が浮いたレオンの首を見ると、其処に顔を近付けて、赤くなったレオンの喉を舐めた。

首を舐める弟を好きにさせながら、レオンは話をしているラグナとセフィロスを見た。
最近、頻繁にお互いの棲家を行き来しては、二人は何かを話している。
何を話しているのか、レオンにはよく判らなかったが、こうして話をした後、ラグナが新しい首輪を持って来たり、色々と試そうとしているのは判った。
……このまま首輪をつけずにいたら、いつかラグナと一緒にいられなくなるのだろうか。
そう思うと、レオンはきゅううと体の中が痛くなった気がして、レオンは蹲った。
縮こまった兄を見て、スコールが心配そうに鼻を鳴らす。

すりすりと頬を寄せて来る弟。
その毛並はふわふわと柔らかく、気持ちが良い。
生まれた場所にいた時は、幾ら毛繕いをしても傷んで行くばかりだった毛並は、今ではラグナに毎日のように梳いて貰っているお陰で、すっきりと綺麗に保たれている。
レオンの毛並も同様で、ラグナの手で毛繕いが終わった後は、スコールが身を寄せて来ては気持ち良さそうに目を細めている。
こんな弟の姿が見る事が出来るようになったのは、ラグナに拾われてからだ。
以前は日に日に弱って行く姿ばかりを見ていたように思う。
弟も、自分も、毎日を元気に過ごす事が出来、空腹や寒さで辛い思いをしなくて済むのは、ラグナのお陰なのだと、レオンは理解している。

心配そうに覗き込んでくる弟を見て、レオンは頭を上げた。
じぃっと見詰めるスコールの顔を舐めると、弟は少し安心したように鳴く。
其処へ、ひょこりと顔を出したのはクラウドだ。



そんなに首輪をするのが嫌なのか?



そう言ったクラウドに、お前は嫌じゃないのか、と聞くと、嫌じゃない、と彼は言った。
寧ろ気に入ってる、と言って、クラウドは頭を持ち上げて、首輪を見せて来る。

ザックスとクラウドの首輪は、黒い鞣し革製で、セフィロスが特別に揃えてくれたものらしい。
黒の傍らで、きらきらと銀色が光っている。
自慢げに見せて来るクラウドに、本当に気に入ってるんだな、とレオンは思った。
そんなレオンの隣では、スコールが興味深そうに、しげしげとクラウドの首輪を見詰めている。

スコールがクラウドの首輪に顔を近付け、ふんふんと鼻を鳴らす。
その鼻息がくすぐったいのか、クラウドの尻尾がぴくっ、ぴくっと跳ねるように動いた。
スコールの視線は、クラウドの首輪と言うよりも、きらきらと光る銀色に釘付けになっている。
首を右へ左へ傾けては、どんどん首に顔を近付けて鼻を鳴らすスコールに、好きにさせていたクラウドの体がふるふると震え、


「わぉうっ!」
「!!!」


大きな声を上げて飛び掛かって来たクラウドに、スコールが目を丸くして固まった。
どたっ、と音がしてスコールが床に倒れると、クラウドがその上に伸し掛かって来る。
スコールは目を白黒させながら、無我夢中で暴れ始めた。


「ふぎゃーっ!ふぎゃっ、ぎゃーっ!」


首に鼻を近付け、ばたばたと尻尾を回転させるように大きく振りながら伸し掛かって来る犬に、スコールは逃げようと必死になる。
遠目に見れば、犬のクラウドが、ライオンのスコールを食おうと襲い掛かっているようだった。
慌ててレオンが駆け寄り、スコールとクラウドの間に、自分の体を捻じ込ませる。


「ぎゃうう、ぎゃう、ぐぅーっ」
「わふっ!」
「ぐぅっ?」


弟を救出したかと思いきや、クラウドは今度はレオンに飛び付いて来た。
ばったばったと尻尾を振って顔を寄せて来るクラウド。
レオンが何が起きたのかと目を丸くしていると、今度は兄を助けるべく、スコールがクラウドに飛び掛かる。

スコールがクラウドの耳を噛んで、ぐいぐいと引っ張る。
以前なら加減を忘れて、クラウドの耳が千切れんばかりに噛んでいたのだろうが、ラグナやバッツ、ジタンのお陰で、スコールは力加減を守る事を覚えた。
が、この場合は、それで良いのか悪いのか。
甘噛み程度で堪えないクラウドに、スコールはぐるぐると喉を鳴らし、


「ふぎゃーっ!ぎゃーっ!ふぎゃうううう!」


全身の毛を逆立てて、レオンから離れろ!とスコールが叫んだ時だった。
部屋の向こうで話をしていたラグナとセフィロスの声がかかる。


「ありゃりゃ。クラウドくーん、もうちょっとお手柔らかに…」
「ザックス、クラウドを止めてやれ」


セフィロスに言われて、ザックスがクラウドを捕まえる。
ザックスがクラウドの首の後ろに歯を当てると、クラウドの動きがぴたっと止まった。
そのままザックスがクラウドを引き摺り、兄弟から離す。

ようやく解放されたレオンの下に、スコールが駆け寄った。
スコールはレオンの体を隅から隅まで臭いを嗅いで、怪我がない事を確認し、ほっと息を吐く。
それから、ザックスから興奮しちゃ駄目だって言われただろ、と叱られているクラウドに向かって、ぐるぐると警戒に喉を鳴らした。


「レオン、スコール。こっちおいで」
「ザックス、クラウド。お前達も来い」


それぞれ名前を呼ばれたのが聞こえて、レオンはスコールを促した。
両腕を広げているラグナの下へ行けば、いつものように片腕ずつで抱き上げられる。

ラグナは、警戒で興奮し切ったスコールを宥めながら、レオンの首をくすぐる。
首輪は嫌いなレオンだが、ラグナの指に其処をくすぐられるのは好きだ。
同じ場所に触られているのに、何故こんなにも違うのだろう。

セフィロスと会話を終えたラグナが、レオンとスコールを抱いて席を立つ。
ラグナの足が玄関へと向かっているので、どうやら今日はこれで帰るらしい。
ラグナの歩を追って来る匂いを感じ取ったレオンが、ラグナの腕の陰から彼の後ろを覗いてみると、ザックスとクラウドの姿があった。

玄関前で、ザックス達に気付いたラグナが、膝を曲げてしゃがむ。
レオンとスコール、ザックスとクラウドの距離が近くなって、レオンは二人が詰まらなそうな顔をしている事に気付いた。
もう帰るのか、と言いたげな二人に、レオンは手を伸ばした。
届く距離ではなかったのだが、それを見たラグナが床に下ろし、兄を追ってスコールもラグナの腕からすり抜け降りた。
レオンは、背中にくっついている弟と一緒に、クラウドの頬に自分の頬を摺り寄せる。


「……がぁう」


また来る。
そう言った兄の後ろで、また、とスコールも言った。

驚いたように丸く見開かれていた碧眼が、きらきらと輝いたのが、なんだかくすぐったかった。





レオンとスコールにとっても、ザックスとクラウドにとっても、お互いが初めての“友達”。
そしてレオンとスコールにとっては、人間社会の中で生きていく為の先輩でもあるのです。
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どうしたらいいんだろう

  • 2016/07/02 00:03
  • カテゴリー:FF


どうやら、レオンもスコールも、首に何かをつけられる事が、本能的に嫌らしい。
二人の訓練の様子を観察したバッツは、ラグナにそう伝えた。

バッツの仕事のパートナーである“猿”モデルの獣人であるジタンも、彼等と同じような反応を示す箇所があった。
ジタンが苦手としているのは手首で、何かが此処を擽るような感覚がするのが駄目なのだと言う。
リストバンドのように、ぴったりと隙間なく密着しているものなら平気なのだが、例えばポロシャツの長袖と言ったように、微妙に隙間があるものが受け付けられない。
手首を擦られるのが駄目なんだ、とジタンは言っていた。
理屈ではなく、感覚的に襲われる拒絶反応である為、我慢しようとすると反ってストレスとなって跳ね返る事が多いと言う。

首輪じゃなくて、別のものを探した方が良いかも知れない、とバッツは言った。
他のものでも良いのか、とラグナが訊ねると、獣人に詳しくない者が傍目に見た時、判り易く目に付き易いのが首輪である為、推奨されてるだけなのだ、との事。
実際にジタンが首に捲いているのはリボンで、裏地に名前、所属している機関と部署の正式名称が記されている。
獣人である事を隠しているジタンの兄に至っては、ブレスレットやネックレスにタグを付け、カリグラフィ的な刻印を施しており、身分証明書を掲示しなければならない時だけ、それを見せているらしい。
隠していても、身に付けていなければ保護を受けられなくなってしまう為、ジタンの兄曰く、“苦肉の策”だそうだ。

その話を聞いて、ラグナは少し気が楽になった。
どうしてもレオン達が嫌がるのなら、彼等が嫌がる事はしたくないが、ではきちんと彼等を守る為にはどうすれば良いのかと、悩み続けていたからだ。
とにかく“身に付けられるもの”である事が絶対条件であり、その形状が“首輪”に拘る必要がないのなら、色々と探してみれば良い。


「────って訳で、何か良い物知らないかな~と思って、聞きに来たんだけど」


どうかな、とラグナが訊ねているのは、セフィロスだった。

セフィロスは、ラグナと獣人の兄弟が暮らしているマンションの上層フロアに住んでいる。
長めの良い其処で、彼は自身が育てている“犬”モデルの獣人達と暮らしていた。
彼等はセフィロスに引き取られてから長いようで、ヒトとの暮らしにかなり慣れている。
レオンとスコールにとっては、ヒト社会の中で生きていく為の先輩とも言えるので、交流するのは彼等にとっても勉強になるだろうと、ラグナは時間が合えば二人を連れて此処に来ていた。
セフィロスも、訓練仲間とは別の仲間を持つのも悪くない、と言って、ラグナ達の来訪を暖かく迎え入れている。

レオンとスコールの首輪嫌いについては、セフィロスもラグナ本人から聞いていた。
自身が見ている獣人───ザックスとクラウドは、特に抵抗もなく首輪を受け入れたので、そうした話は初めてだった。
だが、クラウドが腹を触られるのを嫌がる癖がある為、あれに近いのだろうな、と想像する。
それなら、訓練スタッフが言った通り、首輪ではない他のものを探した方が良いだろう。


「ほら、ザックス君とクラウド君、格好良いのつけてるからさ。何か知らないかなって」
「ふむ……」


ちらりとセフィロスが視線を遣った先には、じゃれあう四人の獣人がいた。

“ライオン”モデルのレオンとスコール、“犬”モデルのザックスとクラウド。
ザックスは犬種で言えばラブラドールレトリバー、クラウドはシベリアンハスキーに当たる。
大型犬の特徴を生まれ持つ彼等は、成長すれば体格も育ちそうだったが、今はまだレオンやスコールと同じように、子供と変わらない姿をしている。
丸みのある頬をクラウドがスコールに摺り寄せており、スコールが猫手でクラウドの顔を叩いていた。
どうやらクラウドはスコールの事が気に入っているようで、逢うと必ず飛び付いて離れない。
スコールはそんなクラウドが苦手で、いつもレオンの傍に隠れようとしていた。
レオンとザックスはと言うと、激しいスキンシップは少なく、それぞれの弟分の面倒で忙しそうにしている。
団子のようにくっついたり離れたりを繰り返している彼等だが、遊び付かれると一ヵ所に固まって眠っているので、仲良くやっているのだろう。

今日もスコールに構い倒しているクラウドを横目に見ながら、セフィロスは彼等の“首輪”について話す。


「あの二人につけているものは、正式には首輪じゃない。チョーカーだ」
「チョーカー……ってなんだっけ」
「判り易く行ってしまえば、ファッション用の首輪だな」


今はすっきりとして身軽なザックスとクラウドの首には、外出時、黒のチョーカーが嵌められていた。
それは獣人用のものと言う訳ではなく、セフィロスが贔屓にしていたブランドで売られていたものだ。
このチョーカーにシルバーのタグを縫い留めて、首輪の代わりにしているのである。


「ブランド品かぁ……」
「最初は訓練も兼ねて、適当に買ったものにしていたんだが、どうせ義務なら、奴らの気に入りそうなものにしてやろうと思ってな」
「ザックス君とクラウド君、気に入ってる感じ?」
「あれに替えてから、嫌がった事はない。まあ、首輪自体、あいつらが拒否した事もないんだが……そっちの二人のように引っ掻いたり、噛み千切ったりした事もないから、気に入ってるんじゃないか」
「そっかぁ。やっぱり好みってものもあるのかも知れないな。レオンとスコールはどんなのが良いかな……」


首輪に限らなくて良いのなら、選択肢の幅は広がる。
慣れるまでに多少の時間を要しても、物が気に入ってくれれば、スコールが噛み千切ったり、レオンが爪を立てたりする事も減るかも知れない。

色々試してみよう、とラグナが心を躍らせていると、わおぉんっ、と大きな犬の鳴き声が聞こえた。
音の発信源を見ると、金色頭に三角形の耳を持った犬───クラウドが、スコールに抱き付いている。
押し倒されるように抱き付かれたスコールは、じたばたと暴れて、クラウドを振り解こうとしていた。


「ふぎゃーっ!ふぎゃっ、ぎゃーっ!」
「ぎゃうう、ぎゃう、ぐぅーっ」


助けを求めて暴れるスコールを助けようと、レオンがスコールとクラウドの間に割り込もうとする。
と、クラウドは今度はレオンに抱き付いて、ぶんぶんと尻尾を振った。
突然の事に訳が分からず固まるレオンに、クラウドが鼻頭を寄せてくんくんと匂いを嗅いでいる。
兄が襲われているように見えたのだろう、スコールが全身の毛を総毛立たせて「ふぎゃーっ!!」と叫んだ。


「ありゃりゃ。クラウドくーん、もうちょっとお手柔らかに…」
「ザックス、クラウドを止めてやれ」


セフィロスに言われ、三人の遣り取りを眺めていたザックスが割り込む。
ザックスがクラウドの首の後ろを甘噛みすると、クラウドの動きがぴたっと止まった。
そのままレオンに抱き付いていたクラウドが引っ張り剥がされると、ぽかんとしているレオンにスコールが駆け寄る。
スコールがすりすりとレオンに擦り寄り、それを羨ましそうに見つめるクラウドを、ザックスが耳元を舐めて宥めた。

スコールがレオンを庇って、クラウドを睨んでぐるぐると喉を鳴らす。
飛び掛かりはしないものの、完全に警戒体勢になっているのを見て、ラグナは腰を上げた。


「レオン、スコール。こっちおいで」
「ザックス、クラウド。お前達も来い」


それぞれに呼ぶと、レオンは駆け足で、スコールは二人の犬を警戒しながらラグナの下へ。
避難よろしく保護者の下へ駆けて来た二人を、ラグナは両腕に抱き上げた。
ザックスとクラウドもセフィロスの下へ行き、彼が座っているソファに登って落ち着いた。


「ごめんなあ、折角遊んでくれてたのに」
「構わんさ。謝るなら此方だ、こっちの方が興奮してしまったんだろう。うちの訓練所には、他にも獣人はいるが、こうやって遊ぶ相手は初めてだからな。一緒にいて楽しいんだろう」



セフィロスの手がクラウドの頭を軽く押さえる。
クラウドはその手から逃げようと、首を右へ左へ捻った。
ザックスはソファの背凭れに登り、座っているセフィロスの後ろで落ち付きなく遊んでいる。

クラウドはレオンとスコールを痛く気に入っているのだが、二人はそんなクラウドを持て余し気味だった。
自分達以外の獣人と言ったら、訓練で世話になっているジタン以外に見た事がなかったのだろう二人は、初めて出逢った時から、ザックスとクラウドを気にしていた。
だが、興奮したクラウドの激しいスキンシップには戸惑い気味で、スコールは毎回逃げ回っている。
噛み付いたり引っ掻いたりと言う攻撃行動には出ないので、嫌っている訳ではないのだろう───とラグナは思っている。

ラグナはソファへ戻ると、レオンとスコールを膝に下ろした。
スコールはまだぐるぐると喉を鳴らしており、ローテーブルの向こうにいるクラウドを睨んでいる。
クラウドはそんなスコールを見詰め返して、長い毛に覆われた尻尾を振っていた。


「スコール~、そんなに怒るなよ」
「がうぅう……!」
「よーしよーし。落ち付いて落ち着いて。良い子だからなー」
「うぅー……」
「レオンもよしよし。ザックスもクラウドも、意地悪してる訳じゃないから。な?」
「ぐぅ……?」


宥めるラグナの言葉に、レオンがことりと首を傾げる。
その喉を指先で擽ってやると、レオンは眩しそうに目を細め、ごろごろと喉を鳴らした。

それを見ていたセフィロスが、ふむ、と顎に手を当て、


「首に触られるのが全て嫌、と言う訳ではないようだな」
「そうなんだ。だから、あんなに首輪を嫌がるとは思ってなかったんだよ」
「もっと余裕のあるものなら……まあ、首に固執する事もないか。先ずは他に嫌がる場所がないか、紐やベルトのようなもので確かめてみると良い」
「うん、そうするよ」


一通りの相談を終え、案を貰った所で、時刻は夕方になっていた。
そろそろ家に戻って夕飯の支度をしなければ、と腰を上げる。

ラグナがレオンとスコールを腕に抱いて、玄関へと向かうと、その後をついてくる足音があった。
靴を履いてラグナが向き直ると、ザックスとクラウドが立っている。
レオン達が帰るのが判っているのだろう、クラウドの耳と尻尾が垂れており、ザックスも詰まらなそうな顔をしているように見える。
そんな二人を、セフィロスがくしゃくしゃと頭を撫でた。


「今日は此処までだ」
「くぅー」
「……」
「また逢える。楽しみにしていれば良い」


不満そうに見上げる二人をセフィロスが宥めると、ザックスは頷いた。
しかし、クラウドはじぃっとレオンとスコールを見上げている。

ラグナは膝を折って、レオン達とクラウドの距離を縮めてやる。


「クラウド君、今日はごめんな。また今度、一緒に遊んでくれるかな」
「うぅ」


こくり、とクラウドが頷き、ありがとう、とラグナは言った。
その様子を見ていたレオンが、ラグナの腕に抱かれたまま、腕を伸ばす。
猫が手招きをするように手を揺らすレオンに、ラグナが床へと下ろしてやると、スコールも一緒に下りる。
レオンはクラウドに顔を近付け、その後ろにスコールがぴったりとくっついている。
レオンは鼻を鳴らしてクラウドの匂いを嗅いだ後、すり、と頬を寄せた。

クラウドが自分達を好いていてくれる事を、二人もきちんと判っているのだ。
ただ、激しいスキンシップに慣れていないから、どうしても驚いてしまうだけ。


「がぁう」
「……がぅ……」


また明日。
ラグナとセフィロスには、レオンとスコールがそう言ったように聞こえた。
クラウドとザックスも、寝かせていた耳がピンと立ち、きらきらと眸を輝かせる。

尻尾を振って飛び付いて来たクラウドに、二人のライオンが押し倒されるまで、あと二秒。





犬の獣人のザックスとクラウド。
ザックスの方が気持ち落ち着いていて兄貴分。
警察獣人になる為に特訓していて、他の獣人とも交流経験あり。ただし競争相手や仲間としてであり、“友達”はレオンとスコールが初めて。
そんな訳で、クラウドはレオンとスコールが大好きです。
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きらい、きらい、きらい

  • 2016/07/02 00:01
  • カテゴリー:FF


ラグナがメールを送信して間もなく、バッツからの折り返しのメールが届いた。
首輪はやはり今後を思えば必要である事、バッツ達との訓練でも課題として行く旨が綴られている他、気に入った首輪があればそれを持って来て欲しいとも書かれていた。

ラグナは早速、首輪を探して歩き回った。
レオンとスコールは、留守番ならば二人だけで熟せるようになったので、食事の時間等に気を付ければ、ラグナ一人の外出は難しくはなくなっている。
とは言え、やはり彼等を残して出掛けるのはラグナの気持ちが落ち着かない為、ラグナが日々出掛けるのは、ほんの二、三時間程度だ。
セフィロスから獣人用に揃える道具を売っている店を幾つか教えて貰い、車で梯子して、ようやく似合いそうな色の首輪を見付ける事が出来た。

ラグナが買って来た首輪は、彼等の瞳の色に似た、深い紺色の首輪。
上等な革製のものに少々惹かれたが、それなりに重さがあった事や、将来的に成長すれば更に大きな首輪を用意する必要がある為、先ずは安価な合成繊維で編まれた布製から始めてみる事にした。
太さも各種あったが、まだ幼い事、首輪そのものに慣れていない事を鑑みて、圧迫感の少なそうな細いものに決めた。
身に付ける習慣が着くまでは、着脱が簡単なワンタッチのものにして、苦しそうにしていたら直ぐに外せるようにする。

────が、このチョイスが悪かったのか、そもそも彼等に首輪の習慣がない為か。
ラグナが兄弟の揃いで買って来た首輪は、当人達には頗る不評であった。


「あ~……また……」


床に落ちていた千切れた布の切れ端を見て、ラグナは溜息を吐く。
屈んで拾うと、直ぐ傍にあったソファの後ろから、ガタッと音が鳴る。
顔を上げれば、ソファの陰から飛び出した四足の陰が、寝室のドア向こうへと滑り込んで行った。


「今のは、スコールかな……」


呟いて手元の布きれに視線を落とすと、布の端にワンタッチ式の留め具と、『Squall』と文字の入ったタグがついている。
やっぱり今のはスコールだな、とラグナは確信した。

セフィロスの注意と助言に従い、獣人の兄弟に首輪を付けさせるよう努めているラグナだったが、中々これが捗らない。
元より、首は生き物の急所に当たる上、食事や呼吸に重要な場所で、此処に何か身に付けるとなると、多少圧迫される感覚は避けられない。
つい最近まで野生の世界で生きていたレオンとスコールも、首が自身にとって守らなければならない場所である事は判っているのだろう。
其処に食い付かれれば自分は死ぬ、と言う事を身を以て知っている為か、其処を支配される事への恐怖が強いようで、何度試しても直ぐに千切り破ってしまうのだ。
バッツに因れば、野生から保護された獣人にはよく見られる傾向であるらしく、とにかく着けては外しを繰り返す反復訓練をするのが一番だと言う。
根気との勝負なのだ、とバッツに言われ、ラグナも辛抱強く向き合うつもりでいる。

しかし、理屈で判ってはいても、目に見えて状況が進まないのは、苦いものがある。
特にスコールの首輪への嫌がり振りは顕著で、最近はラグナが首輪を持って来るだけで威嚇する程だった。
なんとか着けさせても、ワンタッチのものは自力で外せる事を覚えた為、ラグナが見ていないと直ぐに外してしまう。
おまけに、外したそれを仇の如く噛むので、“ライオン”モデルの発達した犬歯に齧られた布製の首輪は、あっと言う間にボロ切れと化してしまうのであった。

ラグナはボロボロになった首輪をゴミ箱に捨てた。
三つ四つに千切られていては、もう修復は不可能だ。
安価なので懐には痛くないのだが、既に何度も買い直している事を考えると、多寡が首輪とは言えない金額になりつつある。


「もうちょっと頑丈な奴に……いや、そもそも着けるのに慣れるのが先決だもんなぁ。どうしたもんか……」


溜息を漏らしながら、ラグナは寝室の扉を開けた。

ラグナの寝室には、生活に必要な収納用品とローテーブルの他、大きなベッドが置かれている。
ベッドはラグナと兄弟が一緒に寝ても十分に広い大きさだ。
いつか三人で一緒の布団で眠れたら、と言う願いで買ったベッドは、最近ようやくその役目を担えるようになった。

そのベッドの上に、レオンが座っている。
隣にはスコールも丸くなっていたのだが、ラグナが入って来た事に気付くと、脱兎のように逃げ出して、窓辺のカーテンの奥に隠れてしまった。


(やっちゃいけない事をしたって自覚はあるんだなあ)


カーテンの向こうでもそもそと動いている影を目で追いつつ、ラグナはレオンの隣に腰を下ろした。
レオンはラグナが来た事には気付いているようだが、尻尾をぷんっと振っただけで、顔を上げる事はない。

レオンは、自分の首にあるものを頻りに気にしていた。
其処には、スコールが千切ったものと同じ、紺色の首輪がある。
レオンは丸い指先から爪を出して、カリカリ、カリカリと首輪を引っ掻いていた。


「こら、レオン。傷になっちゃうだろ」
「……ぐぅ……」


ラグナがやんわりとレオンの両手を捕まえると、レオンの鼻先に皺が寄った。
ぐるぐると喉を鳴らし、不満を隠さないレオンに、ラグナは弱ったもんだと頭を掻く。

首輪を見るのも嫌と言わんばかりのスコールに比べると、レオンは比較的大人しかった。
しかし、首輪を許容できている訳ではなく、鬱陶しそうにいつも爪を立てている。
爪切りをするようになって、レオンもスコールも爪で人を傷付ける事はなくなったが、それでも何度も何度も同じ場所を引っ掻いていれば、布は解れて千切れるし、皮膚も負けて傷になる。

ラグナはレオンの頬をくすぐりながら宥め、彼の首を覗き込んだ。
心配した通り、レオンの首には細かい引っ掻き傷が残っており、薄らと血を滲ませている。
首輪をつける度、レオンはこうなってしまうので、これならスコールのように外される方が良いかも知れない、とラグナは思う。


「……しょうがない、外すか……」
「ぐぅ……」


ラグナの言葉に、早く、と急かすようにレオンの喉が鳴る。
ワンタッチの留め具のボタンを押さえると、パチン、と音がして、布の輪が解けた。

と、思った瞬間、素早い影がラグナの手を掠めて通り過ぎる。
遅れてそれを目で追うと、スコールが床に押さえ付けた首輪紐を噛んでいた。


「こら、スコール!」
「ふーっ!ぎーっ!」
「駄目だって言ってるだろ~っ」


この首輪が兄を苦しめていた事を、スコールは理解していた。
伏せの姿勢で、爪を立てた両手で端と端を押さえ付け、解れていた布に歯を立ててぎりぎりと引っ張る。

ラグナが慌てて首輪紐を取り上げようと掴むと、スコールは全力で抵抗した。
顎に力を入れて歯を食いしばり、引っ張り奪おうとしている。
既に解れていた首輪には耐久力など残っておらず、ぶちぶちぶちっ、と裂け千切れた。


「あーっ!」
「ぎゃうううううう!」
「スコール!」
「!!」


ラグナが声を大きくして名を呼ぶと、ビクッ!とスコールの体が硬くなった。
開いた瞳孔で。眉尻を吊り上げているラグナを見たスコールは、千切り取った布を放って逃げ出す。
スコールは、フローリングの床でつるっつるっと足を滑らせながら、ベッドの上へ飛び乗ると、まだ首を気にして丸めた手を当てているレオンの陰へと身を隠した。

ラグナはボロボロになった布切れを見て、何度目か判らない溜息を吐く。
ちらりと兄弟を見遣ると、怯えきって丸くなっているスコールを、レオンが舐めて宥めていた。
切れ長の眦に、大きな雫を浮かべているスコールに、ラグナの胸がずきずきと痛む。


(あ~、怒っちまった……でも、今のはなぁ……)


キロスやウォードに、兄弟に対して大甘だと言われるラグナだが、躾はするべきだと言う事は判っている。
人を噛んだ時や引っ掻いた時は勿論、故意ではなくとも物を壊してしまった時など、人間の子供に対する時と同じように叱っていた。

スコールが首輪紐を千切り壊してしまう度、ラグナは彼を叱った。
これは玩具ではない事も教え、バッツに借りた写真を見せて、身に付けるものだと言う事も教えている。
持って遊ぶ様子がないので、玩具ではない事は早い内に理解したのだろう。
それは良いが、身に付けると言う事が受け入れ難いスコールは、こんなものは要らないんだと全力の抵抗で訴えている。
しかし、彼等の今後の生活を思うと、その我儘を許す訳にも行かない。
だから根気強く教えよう、慣れて貰おうと思っているのだが、此処まで攻撃的に出られると、上から押さえ付ける行為にも出なくてはならなかった。

ラグナは床に座り、立てた片膝に額を押し付けた。
苛々してはいけない、と頭では思っているものの、中々進まない現状には、どうしてもささくれ立ってしまう。


「あー……」


ばたり、とラグナは仰向けに転がった。
電気のついていない電灯を見詰め、どうしたもんかなあ、と何度目かの呟きを零す。

ちらりとベッドを見ると、スコールが兄の首を仕切りに舐めていた。
レオンはくすぐったそうに目を細め、房のついた尻尾をゆらゆらと揺らしている。

────彼等の行動に、悪気と言うものはない。
スコールにしてみれば、つけたくもない首輪を無理やり付けさせられて、嫌だと主張しているだけ。
レオンは判り易く嫌がりはしないものの、つけていると窮屈に感じているのは間違いないだろう。
スコールがレオンの首輪紐まで噛み千切ったのは、そんな兄の気持ちを掬い、彼を助ける為だったに違いない。

それが判るだけに、ラグナは心苦しい。
彼等の嫌がる事はしたくない、けれども、と板挟みになる胸中に、どうするべきか、答えは未だ見えない。


(……明日はまた訓練所だな。幸いなのは、スコールもレオンも、あそこに行くのは嫌がってないって事か……)


首輪の訓練もあり、最近は頻繁にバッツ達の待つ訓練所に通っている。
其処で逢うバッツとジタンにスコールが懐いている為か、レオンも通う事を嫌がる事はなかった。
“猿”モデルであるジタンは、二人の言葉を正確に聞き取る事が出来るので、話し相手に逢えるのが嬉しいのだろうか。
バッツも彼等の運動量に負けない体力を持っているので、彼等は訓練をしていると言うより、遊び相手に会いに行っている、と言う意識の方が強いのかも知れない。

ラグナは、手の中に残っているボロ布を持ち上げた。
怒りに任せて引き千切られたそれが、レオンとスコールを苛んでいるのは確かだ。
彼等を守る為、必要なものとは言え、もっと何か別の方法はないだろうか、と思案していると、


「……がぁう」


控えめな声が聞こえたかと思うと、ラグナの視界に、ひょこり、とレオンが顔を出す。
首輪をしていた時、鼻に寄っていた皺はない。
じぃっと見詰める青灰色の瞳が、心なしか気まずそうに揺れていた。

ラグナが起き上がると、レオンの後ろにはスコールがいた。
兄の背中に隠れて、ちらちらと此方を覗いては、眉間に皺を寄せている。
しかしその表情は、不満と不安が入り交じって見え、また叱られるのを怖がっているのだと判った。


「……レオン」
「がう」
「スコール」
「……」


呼ぶ声に、スコールは返事をしなかったが、代わりに尻尾がぱたりと振られた。

ラグナは布切れを床に置いて、二人の頭を撫でる。
レオンは眩しそうに目を細め、スコールは俯いてされるがままになっていた。
そんなスコールにラグナはくすりと笑みを零し、


「スコール」
「……」
「首輪が嫌なのは判った。でも、これは噛んじゃ駄目なんだ」
「……」
「レオンも窮屈なんだよな」
「……くぅ……」
「ごめんな、二人とも。今日はもう良いから。明日は、ジタンとバッツのとこ行こうな」
「……がう」


ラグナの言葉に、スコールはこくんと頷いた後、すりすりとラグナの胸に頬を寄せる。
悪い事をした時、叱られた後に謝っている時の仕種だった。

ラグナはスコールの背中をぽんぽんと宥めながら、レオンの頬を撫で、


「レオン。首、もう一回見せてご覧」


ラグナに言われて、レオンは素直に上を向いて、首を晒す。
首の皮膚には、薄らと引っ掻き痕は残っているが、滲んでいた血は止まったようだ。


「今日はもうコレ付けないから、もう引っ掻かないような」
「がぁう」
「よしよし」


良い子だ、とラグナがレオンの耳の後ろをくすぐる。
レオンは気持ち良さそうに頭を差し出し、ぐりぐりとラグナの胸に頭を押し付けた。






言わないけど嫌なレオンと、全力抵抗のスコール。
でもラグナを困らせたい訳ではないのです。
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まもるためのきまりごと

  • 2016/07/01 23:58
  • カテゴリー:FF


マンション裏の小さな庭で遊んで以来、其処はレオンとスコールのお気に入りの場所になった。
まだまだ人馴れしているとは言えないので、遊ぶのは専ら平日の昼間、其処に誰もいない時に限られる為、頻繁に行ける訳ではないのだが、それでも週に一度は必ず其処で遊べるように、ラグナは努めていた。

ラグナが二人を引き取ってから、直に十ヶ月が経とうとしている。
動物であれば、一年も経てば子供から大人へと成長している所だが、獣人である彼等の成長速度は、人間のそれとほぼ同じだ。
引き取った頃に比べ、身長体重は増えつつあるものの、それこそ人間の子供の変化と違わない程度だ。
頭身もまだまだ三歳児か四歳児に相当しており、まだまだラグナが一人ずつ両腕で抱える事が出来る。

生活面での変化については、ラグナと二人のコミュニケーションが少しずつ増えている事が挙げられる。
人間に近い“猿”モデルの獣人として生まれたジタンは、早い内からヒトの中で暮らしていた為、尻尾さえ隠せば人間と変わらない程に喋れるが、“ライオン”モデルであり、野生に生まれてから数年は経っていると見られるレオンとスコールの声帯は、動物のものと同じような発達をしているらしく、彼等が人語を発するには至らない。
しかし知能の発達は著しい所があり、毎日ラグナが話しかけ、幼児向けの番組を見ていたお陰か、簡単な単語から始まり、幾つかの会話文なら、その意味を理解する事が出来るようになった。
食事の準備や後片付けから始まり、掃除や洗濯と言った家事も手伝うようになっている。
ラグナが頭を悩ませていた爪研ぎは、ジタンとバッツによる爪切り作業を訓練した後、定期的にラグナの手で施される事となった。
爪切りは初めは嫌がる傾向が強かったが、爪きりの後に外へ連れ出したり、良い子にしていたご褒美にとおやつを用意すると、段々とその習慣が身に着いたようで、大人しく身を任せるようになって来た。
兼ねてより課題ともされていたスコールの噛み癖も、大分加減が出来るようになり、ラグナの生傷も減りつつある。
まだまだ課題やトラブルはあるが、野生から保護された“ライオン”モデルの獣人の育成記録としては、順調なものだろう。

────と、此処でまた一つ、ラグナに考えるべき壁にぶつかった。



ラグナ達が暮らしているマンションには、他にも獣人と同居している者がいる。
主はセフィロスと言う名の美丈夫で、彼は警察機構に所属しており、同居している獣人は二人、どちらも“犬”モデルであった。
将来的には、従来から採用されている警察犬とのコンビネーションを期待されているらしく、普通の獣人よりも遥かに難しい訓練を熟していると言う。
年齢で言えばレオンより年下、スコールよりは年上に当たるそうだ。

ラグナがセフィロスと“犬”の獣人に逢ったのは、つい最近の事だ。
レオンとスコールを庭で遊ばせている所を、訓練から帰って来たセフィロス達が見付け、声をかけられた。
身近に獣人と同居している人物がいたと知り、ラグナは諸手で喜んだ。
獣人保護機関に所属してはいるものの、子供を育てた経験もなければ、動物と過ごした事もなかったラグナである。
良ければ色々教えて欲しい、と言うラグナに、セフィロスは勿論だと頷いてくれた。

そして何度か交流を重ね、レオンとスコールも、セフィロスの下の獣人と顔馴染み程度になった頃、セフィロスはラグナの家を訪ねて、こう言った。


「あの二人、首輪はしていないのか?」


セフィロスの問いは、獣人との関わりのみならず、動物を飼っているものにとっても、当然のものだった。

獣人は人間と動物の特徴を持ち合わせ、特殊な“獣人”として扱われているが、やはり“ヒト”とは一線を隔すものがある。
動物に比べると、知能が高く、器用な獣人であるが、理性よりも本能が強い所、爪や牙と言った特徴は、人間よりも動物に近い。
こうした事がトラブルを呼ぶ事も少なくない為、区別の枠は簡単には外せない。
これはジタンのように、人間社会にほぼ溶け込んでいる獣人には色々と複雑なものがある(実際に、ジタンの兄は、尻尾を隠して人間と同じように振る舞っているらしい)ようだが、この枠によって、獣人が庇護されている所も少なくなかった。

この枠によって定められたルールの中に、“ヒト”と共存する獣人は、自分がヒトの下で暮らしている事を示す為、何某かのアクセサリを着ける事が義務付けられている。
アクセサリには、自分の保護者となる人物の名前、住所、そして本人の名前が記されたシール等を貼る。
飼い犬や飼い猫に首輪をつけるのと同じ事だ。

それらを簡潔に説明して、セフィロスは続けた。


「家の中にいる時は外していても構わないが、外出時は必須だ。公共空間では特に、な」
「そんなのがあったのか……俺、全然知らなかったな」


しみじみと呟きながら、ラグナはセフィロスの下で暮らしている獣人たちを思い出す。
外で彼等を見る時、確かに二人の首には、首輪のようなものが装着されていたように思う。

野生の獣人とは度々向き合ってきたラグナであったが、ヒトの社会で過ごす獣人と向き合う事になったのは、レオンとスコールが初めての事だった。
野生の社会に関与してはならない、と言う規則は判っていても、ヒトの社会でのルールについては、やや鈍い所がある。
勉強し直さないと、と遅蒔きに自分の無知を自覚する。


「でも、首輪かあ。なんだか無理矢理従わせてるみたいで嫌だなあ」
「飼われている犬猫に首輪を付けるのは、無理矢理従わせる事になるか?」
「うーん……違う、かな……」
「首輪やタグには、保護者や飼い主の情報も記載される。それを身に付けている事で、正式な手続きを踏んで此処にいる事、法的にも守られていると言う証になる。要は、身分証明書の代わりと思えば良い」


セフィロスの言葉に、そう言う事か、とラグナは考えを改める。


「俺、今まで危ない事してたんだな。何も考えずに外に連れて行ってたよ」
「まあな……トラブルがなかったのは、幸いだと言えるだろう。だが、今後もそうでいられるとは言えない」
「そうだな。じゃあ、急いで用意しなきゃいけないのか」


ラグナの視線は、リビング横の寝室へと繋がるドアへと向けられる。
その向こうで、ぱたぱたとじゃれ合っているのであろう物音が聞こえていた。

レオンもスコールも、マンション裏の庭で遊ぶのを楽しみにしている。
ラグナはそれ以外にも、色々な場所に連れて行って、沢山のものを見せてやりたいと考えていた。
となれば、多少彼等に窮屈な思いをさせるとしても、トラブルによって彼等を不幸にさせない為、ルールは守るべきである。


「普通の首輪で良いのかな?普通のペット用とかでも?」
「使うものに細かい指定はなかった筈だ。それより、今まで装備していなかったものなら、当分は嫌がる可能性があるから、それはどうにかしないとな」
「嫌がる事はあんまりしたくないんだけど……でも、外に出るなら必要なんだよなあ。これも訓練か…」
「獣人の生活訓練施設に所属している知人がいるそうだな。相談してみたらどうだ?俺よりももっと専門的に知っていると思うが」
「そうだなあ……うん、そうしてみるよ」


忘れない内に、とラグナは早速携帯電話を取り出し、メールを打ち込んで行く。
送信先は、スコールの生活訓練に協力してくれているバッツだ。
彼はすっかりスコールの事が気に入ったらしく、相棒として一緒に訓練に携わっているジタン共々、頻繁に連絡を取り合う仲になっている。
スコールも彼等に逢うのは吝かではないようで、警戒心の強いスコールが懐いている、数少ない人物であった。

ラグナがメールを打っている間に、セフィロスはコーヒーを傾ける。
少し冷めていたが、コーヒーの香りは損なわれてはいない。
何処の豆だったか、とセフィロスがぼんやりと考えていると、キィ、と蝶番の鳴る音がした。

そっと開かれたドアの隙間から、ひょこり、と蒼灰色が二対覗く。
トーテムポールのように上下に並んだそれは、此処で暮らしている二匹の獣人のものだ。
二対の蒼が銀色を見付けると、細い瞳孔がじいぃっとセフィロスを見詰める。
警戒と観察の視線にセフィロスに、セフィロスが微かに唇を持ち上げてやると、下の蒼がドアの陰へと引っ込んだ。


「相変わらず、警戒されているようだな」
「ん?ああ、スコールか。やっぱり人見知りみたいでなあ」


携帯電話から顔を上げ、養い子達に気付いたラグナは、眉尻を下げて言った。

陰に隠れてしまったスコールに比べると、レオンは余り物怖じしない。
警戒はしているものの、逃げる事はなく、じっとセフィロスの方を見詰めていた。
その瞳が、微かに何かを探すように動いているのを見て、セフィロスは苦笑する。


「すまないな。ザックスとクラウドは留守番だ」
「残念だったなー、レオン。また今度、一緒に遊んで貰おうな」
「……がう…?」


ザックスとクラウドとは、セフィロスの下にいる“犬”モデルの獣人だ。
恐らくレオン達は、セフィロスの匂いがしたので、彼等も来たのだと思って覗いていたのだろう。
しかり、彼等は今日の午前中、セフィロスと共に訓練を熟し、今は昼寝の時間だと言う。
レオン達に比べ、セフィロスに引き取られてから長く暮らしている彼等は、二人だけで過ごしていても特に問題は起こさない────らしい。
時折、落ち着きのないザックスが、遊んでいる時に物を落とす事がある程度だった。

レオンはしばらく此方を覗いていたが、遊び相手が来たのではない事を知って、ぱたりとドアを閉じた。
引っ込んでしまったスコールを構いに行ったか、宥めに行ったのだろう。

まだまだ気難しい子供達を、これからも守って行く為。
ラグナは、先ずは彼等に似合うものを探さなければと、改めて気合を入れた。





また一つ、越えなくてはならない壁。
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