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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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カテゴリー「FF」の検索結果は以下のとおりです。

[サイスコ]君はいつでも言葉が足りない

  • 2012/12/22 22:48
  • カテゴリー:FF

サイファー誕生日おめでとう!





エスタでの魔物討伐の仕事を終えて、一週間ぶりにバラムガーデンへと帰還したサイファーは、苛々とした足取りで指揮官室へと向かっていた。
その眉間には、バラムガーデンのSeeDが誇る指揮官にも負けず劣らずの皺が刻まれ、それを見た生徒達は、触らぬ神に祟りなしとそそくさと道を開ける。
元より、魔女戦争で魔女の尖兵としてガルバディアを指揮したサイファーを厭う生徒は少なくなく、彼に遠慮なく声をかけられる人間などごくごく限られた者のみであったが、そうした人々も今日ばかりは近付き難さを感じていた。
実際、彼の帰還を喜んで出迎えに言った筈の風神と雷神も、カードリーダーを通る以前から厳めしい顔をした彼に声をかけるのを躊躇った程だ。

風神と雷神の出迎えには、僅かに頬を緩めたサイファーだったが、報告書の提出に行くからと別れた後は、また顰め面に戻った。
それから、元学園長室を改修して作られた指揮官室に辿り着くまで、それは解かれる事はなく─────


「─────クソッたれ!おいスコール!」


渋面を般若の形相に変え、サイファーは怒声と共に指揮官室の扉を蹴り開けた。
その部屋の専用デスクに、常に張り付いて紙面と睨み合っている幼馴染兼恋人に一言文句を言ってやる為に。

しかし、サイファーを出迎えたのは青灰色の瞳ではなく、自分とよく似た碧色のみだった。


「あら、お帰りなさい、サイファー。遅かったわね」
「……ちっ、センセーだけかよ……っつか、遅かったとはなんだ。これでも朝一の便で帰って来たんだぞ、俺は。我儘指揮官の命令のお陰で!」


室内には、指揮官であるスコールのものと、補佐官を任命されたサイファーとキスティスの為のデスクがある。
キスティスは自分のデスクについて、書類の山の整理をしていた。
ちなみに、いつも彼女と同じ程度に紙に埋もれているスコールのデスクは、その持ち主の不在に合わせたように何も置かれていない。

サイファーは、ずかずかと彼女に近付いて、書類に埋められたデスクに拳を叩きつける。
整えられていた紙束がはらはらと舞い飛ぶのを見て、キエスティスは溜息を吐いた。


「折角整頓したって言うのに。またやり直しじゃない。貴方、やっておいてくれるの?」
「……センセー。俺ぁ今、最高に機嫌が悪いんだ。我儘指揮官様は何処にいる?言わねえとあんたでも何をするか判らねえぜ」
「相変わらず物騒ね」


腰に差したままのガンブレードの柄に手を当て、凄むサイファーだったが、キスティスからの反応は淡白なものであった。
ゼルやアーヴァインではないのだから、そんなものだろうとはサイファーも予想していたが、此処までけろりとした反応をされると、些か癪に障る。
苛立ちがピークであるから、尚の事。

ぎりぎりと歯を噛んで睨むサイファーに、キスティスは「…冗談よ」と言って、かけていた眼鏡を外した。


「スコールなら寮よ」
「重役出勤かよ。人にさっさと帰って来いって命令しておいて、暢気なもんだな」


サイファーは、昨日までエスタで月の涙により発生した魔物群の討伐任務に出ていた。
月から落ちて来た魔物たちは、いつの間にかエスタの地のあちこちに根付いている種も少なくないらしく、これによってエスタ周辺の魔物の生態系にも異変が及んでいるものもあった。
以前は単体行動でのみその姿が確認されていた魔物が、群れを率いた行動を取るようになったり、放浪する筈の魔物が巣を作っていたり。

今回、サイファーの任務は、エスタ大陸東部の魔女記念館近辺で確認された、クァールの巣と、群れを成して人を襲うエルノーイルの駆逐だった。
サイファーの他にも数名のSeeDがこれに同行していたが、サイファーはそれらを戦力として数えてはいなかった。
SeeD達は専ら情報処理諸々に宛がわせ、サイファーは単独で魔物の駆除を遂行しており、事は順調に片付けられていった─────が、本来ならこの任務は、明日の午後までに終えれば良いスケジュールであった。
だからサイファーもそのつもりで行動しており、巣や群れの位置の確認、魔物の数の把握などを順当にこなし、今後の予定を立ててていたのだが、一昨日になって、一通のメールがその予定をすべてご破算にした。

メールはSeeD指揮官であるスコールからのもので、『今日、或いは明日中に任務を終えて即時帰還せよ』と言うものであった。
三日分のスケジュールを一気に短縮させた上、片道数時間はかかる任務地から、即日で帰って来いとは無茶な話だ。
ラグナロクがあれば話は別だが、現在この機はスコールがエスタ大統領から譲り受けたものと鳴っており、所持はバラムガーデンが預かっているものの、動かすにはスコールの許可がいる。
その上、現在はセルフィがトラビアへの足として使用した為、手元にない。
サイファーは直ぐに通信を繋いで「無茶言うな!」と怒鳴り付けたが、スコールからの反応は一貫して「良いから帰れ」と言うものだった。
ちなみに即日期間を命令されたのはサイファーだけで、他のSeeDはエスタで二日間の休暇を許されている。

─────そんな無茶な命令を見事に遂行して帰って来たが為の、サイファーの超絶不機嫌である。
恋人の我儘と言うものは、赦してやるのが男の役目(相手も男なのだが)とは思うが、極稀に見せてくれる可愛らしい我儘ならともかく、こんな無茶はサイファーとて寛容出来るものではない。
それでも律儀に任務を完了させたのは、それ位こなせなければ、スコールは自分の文句など聞かないだろうと思ったからだ。

そして疲労でガタガタの体を引き摺り、ようやっと帰還し、さあ積もり積もった苛立ちを全部ぶつけてやろうと思ったら、本人不在とは。
サイファーは昇華できない苛立ちの度合いを示すように、ゴツゴツと床を蹴った。
キスティスはそんなサイファーを横目に見て、散らばった書類を集めて整え、


「いつも朝から晩まで書類と仲良しやってるあいつが、今日に限って重役出勤。俺への嫌がらせか?これは」
「さあ、どうかしら」


キスティスからの返事は素っ気ない。
補佐官として、仕事中は殆どスコールと一緒にいる筈のキスティスである。
自らを“スコール研究家”と称するキスティスが、スコールの唐突な我儘の理由に気付いていない筈がないのだが、彼女はそれをサイファーに説明するつもりはないらしい。

サイファーは舌打ちすると、手の中で握り潰していた報告書をデスクに投げた。
足早に指揮官室を出て行くサイファーに、キスティスは行ってらっしゃい、と投げかけて、


「てっきり、途中で思い出して帰って来ると思ってたけど。まぁ、スコールもこの前まで忘れてたみたいだし、お互い様ね」


静かになった指揮官室で零れた言葉を、彼は知らない。

再び、ずんずんとガーデンの廊下を歩くサイファーを、また生徒達はそそくさと避けて歩く。
今のサイファーには、そんな生徒達の反応さえも苛立ちの材料になる。
が、彼らに何の罪もないのは判っているので、只管口を引き結んだまま、サイファーは早足で進む。

数日振りに戻った寮内は、静かなものだった。
人の気配も殆ど感じられないので、生徒の殆どは寮外にいるのだろう。
カツカツと足音が嫌に響くのを聞きながら、サイファーは目当ての人物の部屋まで来ると、暗記しているパスワードを押して扉のロックを解除した。


「おい、スコール!てめぇ、我儘も大概に─────」


指揮官室を蹴り明けた時と同じ音量で、サイファーは怒声を上げた。
しかし、それは最後まで紡がれる事なく、半端な所で途切れる。

珍しくも重役出勤らしい恋人がいる筈の部屋は、がらんと無人になっていた。
ベッドには布団がダマになっているので、使った様子はあるが、他は全く使われた形跡がない。
基本的に寝て起きるだけ(たまに読書をしたり、ガンブレードやカードを弄ってはいるようだが)の自室なので、生活感が感じられないのは今更だが、平時、暇があればごろごろと惰性に過ごしているベッドにすら彼の姿がないのには、サイファーも頭を掻くしかない。


「……何処行きやがった、あの野郎」


本日二度目の舌打ちをして、サイファーは恋人の部屋を後にした。

まさか、バラムの街に遊びに行ってるとかじゃないだろうな。
休みとなると、出不精のスコールは何処にも行かずに部屋で常の睡眠不足を取り戻すかのように惰眠を貪るのが常であった。
それを思うと、街に繰り出すと言うのは考えられず、じゃあ訓練施設か、とサイファーは見当をつけた。
だとしたら、怒鳴りつけてやりたいのは山々だが、訓練施設の魔物を一々相手にする気にはなれなかった。

取り敢えず、一度寝たい。
この二日間のハードスケジュールの所為で、体のあちこちが悲鳴を上げているのだ。
若く、体力にも自信のあるサイファーだったが、流石に一日でクァールの巣の排除とエルノーイルの群れを駆逐するのは重労働だった。
寝てしまったら、文句も苛立ちも勝手に昇華されてしまいそうなので、今後また同じような無茶を振られない為にも、この苦労をぶつけてやりたかったのだが、悉く出鼻をくじかれた所為で、そんな気力も萎えて来た。


「ったく、これだから……」


何時まで経っても俺が苦労させられるんだ、と。
彼が覚えていないであろう、幼い頃からいつまでも変わらない手のかかる恋人に、サイファーは溜息を吐いた。

何やら、一気に増したような気がする両肩の重みを抱えつつ、サイファーは自室前に辿り着いた。
其処で違和感を感じ、ロック用の電子パネルに触れようとしてた手が止まる。

ロック時は赤く光っている筈のパネルが、青く光っている。
かけ忘れたか、と思ったサイファーだったが、確かにロックはかけて行った筈だと記憶している。
パスワードは各自の部屋で設定が可能なので、寮生であっても、サイファーの部屋に入れる者は限られる。
その限られる人物は、サイファー以外を除けば、一人しかなく。


「スコール─────」


ドアを開けて、其処にいた人物の姿に、サイファーは呼ぶ声を途中で切る。
そして、ドアの端に寄り掛かって、今日何度目かの溜息が漏れた。

スコール程ではないにしろ、趣味が少ないサイファーらしく、無駄なものの少ない部屋の中。
白が基調にされた部屋の中で、丸く蹲っている猫が一人。
いつも着ている、獅子の鬣を思わせるファーのついたジャケットはなく、黒のインナーシャツとジーンズのみ。
青灰色の瞳は瞼の裏に隠れていて、家主が戻って来たにも関わらず、開かれる様子はない。

なんで此処にいるんだ、とサイファーは胸中で呟いて、部屋に入る。
ベッドの上で蹲るスコールは、まるで寒さに耐えるかのように蹲るその姿に、布団ぐらい被れば良いものを、と思う。
遠慮をしたのか、それとも少し休むつもりで横になって、そのまま眠ってしまったのか────多分後者だろうなと思いつつ、サイファーはテーブルの上に荷物を置こうとして、其処に並べられたものを見て、動きを止めた。

ファンシーな柄で彩られたボックスと、その傍らに置かれた小さな黒の箱。
対照的なその二つから、黒の箱を手に取って、蓋を開ける。


「……は。そういう事かよ」


苛立ちが消えて、浮かんで来るのは苦笑。

命令と言う形でしか、自己の我儘を表現できない、不器用な恋人。
せめて一言言えば良いものを、それだけできっと、こんなにも怒りはしなかったのに。
ただ早く帰ってやろうと、我儘な恋人の願いを叶えてやろうと思っただろうに。

全く、可愛げがない。
けれど、そういう所がまた、放って置けない。



荷物を床に放り投げて、ベッドに蹲った恋人の傍に、音を立てないように腰を下ろす。
柔らかなダークブラウンの髪を撫でてやる。

─────テーブルの上、小さなメッセージカードの隣で銀色の指輪が光っていた。





サイファー誕生日おめでとう!
サイファーも帰還の為に頑張りましたが、実はスコールも書類全部片付けて一日開けられるように頑張りました。

基本的に物騒なのに、それでも甘々(多分)な二人。
うちのスコールが一番対等で一番我儘になれるのはサイファーかも知れない。

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[レオスコ]蒼の世界と鎮魂歌

  • 2012/12/09 01:19
  • カテゴリー:FF

マフィアなレオンでレオン×スコール。
自己満足が甚だしいので畳んでおきます。

 

[レオスコ]蒼の世界と鎮魂歌

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[ヴァンスコ]約束に夢見る

  • 2012/12/08 22:27
  • カテゴリー:FF



「スコールは、飛空艇って知ってるか?」


秩序の聖域に用意された、戦士達の為の屋敷の玄関前。
じっと自分の武器の調整に時間を費やしていたスコールに声をかけたのは、何をするでもなく玄関扉に寄り掛かっていたヴァンだった。

今日の待機番として聖域に残されたのは、スコールとフリオニールとヴァンの三名。
フリオニールは遅くに帰ってくるであろう仲間達へ、夕飯の下拵えの為にキッチンに篭っている。
スコールは特にする事もなく、取り敢えず見張りの体として、玄関前を居場所にした。
ヴァンは最初はリビングにいたのだが、キッチンから漂う香ばしい匂いが腹に多大なダメージを与え、昼食にはまだ早い時間だとフリオニールから摘まみ食いを制され、暇と腹の虫を持て余した末、玄関前にやって来たのだが、────何故“此処”なのか、スコールにはまるで理解が出来ない。

理解は出来ないが、しようと思っていないのも確かだったので、スコールは背中に感じる少年の視線は無視する事に決めた。
決めていたのだが、こうして名指しで声をかけられると、無視をし続けるのもばつが悪い……ような気がする。


「スコールは、飛空艇って知ってるか?」


一言一句、先と違わぬ言葉が振って来た。
普通、相手が何かに集中している時は、邪魔にならないように静かにしているものではないだろうか────とスコールは思うのだが、ヴァンはその辺りの事は気にしない性質らしい。
繰り返された言葉に、聞こえない振りをしたら、また同じ言葉が降ってくるような気がする。

かちゃ、と鳴った金属音は、ヴァンの足下の具足だろうか。
近付いて来る気か、とスコールは眉根を寄せた。
見下ろしていたガンブレードの銀刃に、微かに影が落ちて、彼が近付こうとしている気配に気付く。

スコールのパーソナルスペースは広い。
自分で自覚がある。
対してヴァンは、人と距離感を縮める事に(物理的にも精神的にも)拒否感を覚えないらしく、誰にでも遠慮をしない。


「なあってば。スコール」


ひょい、と隣にしゃがむ気配。
磨いていた銀刃に、スコールの顔を覗き込んでくるヴァンの姿が映り込んだ。
それだけではなく、銀刃を見下ろしていたスコールの視界にも、ひょいっとヴァンの姿が映り込んだ。

近い。
スコールは無言で訴えたが、ヴァンは気にせず問い続ける。


「スコールは、飛空艇って知ってるか?」


三度目の質問だった。
こうなっては、答えない限り彼が問い続けるであろう事は、流石のスコールにも判る。

スコールは近距離にあるヴァンの顔から離れるように、上体を逸らして数時間振りに口を開いた。


「…知っている」
「ホントか?」


スコールの言葉に、ヴァンの表情が明るくなる。
バッツやジタンとは別の意味で、小動物を思わせるその表情の変化に、スコールは眉根を寄せた。


「本当だ。…それがどうかしたか」
「じゃあ、高い所って平気か?」


─────Q&Aが成り立っていない。
マイペースに二つ目の質問をしたヴァンに、人の話を聞けよ、とスコールは胸中で呟いた。

スコールは一つ溜息を吐いて、手元の愛剣を手放した。
ふい、とヴァンのいる方向とは逆へと首を巡らせて、立てた膝に頬杖を突く。


「なあ、高い所」
「……特に問題はない」


足下が見えないほどの高場から下を見て、竦まずにいられると言う程の自信はないが、バッツのように極端な高所恐怖症と言う訳でもない。
次元城の無限の空や、バハムート要塞のような場所でも、スコールは特に高所である事を気にしてはいなかった。
その程度には、スコールにとって高所と言うものは深い意味を持つものではない。

それを端的にして応えれば、またヴァンの表情が緩んだ。


「そっか。じゃあ、大丈夫だな」
「……おい。さっきからあんた、何の話をしてるんだ」


胡坐を掻いて、満足そうによしよし、と頷いているヴァンに、話しが見えないスコールは不機嫌に眉を顰めて言った。
語尾が強くなったのは、目の前の少年の言動の意味が掬えない事と、それでも付き合わなければいけないと言う苛立ちの所為だ。

しかし、やはりヴァンはそれを気にした様子はなく、


「あのな、スコール。俺、空賊になるのが夢なんだ」
「………」


唐突に夢の話をされても、スコールには返事のしようがない。
夢の話をするなら、今日は彼も待機組だから丁度良いだろうし、フリオニールの所にでも行けば良い。
フリオニールでなくても、ノリの良いジタンなりバッツなり、ラグナなり、幾らでも話が弾みそうな仲間はいる。
少なくとも、夢だの希望だのと言う類の話は、自分に向けられるようなものではない、とスコールは思っていた。

だが、ヴァンは相変わらずお構いなしだ。
ヴァンは鶸色の瞳を上機嫌にきらきらと輝かせて、続ける。


「空賊になるには、飛空艇が必要なんだ。別に大きくなくても良いんだよ、一人二人乗れる感じのがあれば」
「……そうか」
「俺、一人乗りでも良いかなあって思ってたんだ。でも、それだと俺一人しか乗れないし。気楽だけど、つまんないかもなーって思って」
「……ふぅん」
「だから二人乗りが出来る奴かな。座席、並んでる奴がいいな」


楽しそうに話すヴァンに、スコールは相槌さえ打たない。
いつまでこの話は続くのだろう、誰でも良いから帰って来ないか、そうすれば適当に押し付けて行けるのに────とつらつらと考えるスコールの胸中を、ヴァンは知らない。
ヴァンの方も、相槌があろうがなかろうが構わないようで、ただただ喋り続けるばかり。

こういう作りの、こういう感じの、こういう風に飛ぶような。
語り続けるヴァンは、ひょっとして、飛空艇について語り合う相手が欲しかったのだろうか。
ヴァンの話を聞く限り、彼の知る“飛空艇”とは随分と発達した代物のようであるから、他の仲間達では話が通じない部分も多いのかも知れない。
異なる世界から召喚された仲間達は、それぞれ異なる文明レベルの中に身を置いていた為、同じ事柄について話をしていても、ジェネレーションギャップのようなものが起こる事は少なくない。
その中でも、スコールやライトニング、ジェクトの世界はかなり発達した文明レベルにあったようだ。
ライトニングは厳しい性格なので、ヴァンの無駄話的なこのような会話には興味がないだろうし、ジェクトは機械の構造云々と言う話はさっぱりだろう。
スコールも夢の話になど興味はないのだが、先の二人に比べると、同じ年齢であると何かの折に知った所為もあってか、白羽の矢が向けられるのも無理ないのかも知れない。
消去法で選ばれた人選に、無理はないかと思うだけで、スコールが彼の話に耳を傾ける理由にはならないが。

それにしても、フリオニールはいつまで夕飯の用意をしているのだろう。
ヴァンは空きっ腹を抱えていたようだし、フリオニールは世話好きだから、適当に菓子でも作って呼びに来そうなものだが。
どうせなら、さっさと回収しに来てくれないか─────と特に決められた訳でもない事を望んでいると、


「だからさ、スコール」


一頻り、飛空艇云々について語り終えてすっきりしたのだろう。
ヴァンは一つ呼吸して、強い声でスコールの名を呼んで、傍らの青灰色を覗き込み、


「俺が飛空艇手に入れたら、乗せてやるよ」
「……は?」
「一番最初に、俺の席の隣に」


真っ直ぐに覗き込んでくる瞳に、スコールは瞬きを繰り返す。
告げられた言葉の意味が判らずに呆けていると、


「約束な」


─────それが、この世界で、どれ程意味のないものか。
目の前の少年が判っているのか、いないのか、スコールにはよく判らないし、知りたくもない。

ただ、そう言って笑った少年の顔で、自分の世界で埋まった事だけは、判った。





12月8日なので、ヴァンスコ!
マイペースで無自覚押せ押せなヴァンと、無意識にヴァンにたじたじなスコールでした。

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[レオスコ]シークレット・スケジュール

  • 2012/12/06 22:06
  • カテゴリー:FF

レオン×スコール(兄弟)で現代パラレル。
サラリーマンなレオンと、高校生のスコール。らぶらぶ。





携帯一つにスケジュール管理を任せるのは楽で良い。
しかし、どういう誤差が起きたのか消していないのに消えていたり、入力したつもりでしていなかったり、コピー・ペーストと言う簡単ツールに甘えて肝心な所の修正を忘れてしまっていたりと言う事も頻発し兼ねないので、それを思うと、幾らデジタルがこれだけ発展した現代と言えど、手書き記入のシステム手帳は手放せない。
人間は見て聞いて書いてと、この全ての行動でそれぞれ記憶しているから、聞いて覚え、見て覚え、書いたものをまた見て覚えと言う、アナログ作業を馬鹿にする事は赦されない。

レオンのシステム手帳と携帯には、それぞれ同じ内容が重複して記載されている。
手帳はアナログな代物なので、其処に記したものは、所持している自分が消さない限り、勝手に消える事はない。
携帯電話は今の時代、誰でも何処でも持っているし、小さなポケット一つに収めて手放しで持ち歩けるので、ふと気になった時にいつでも何処でも片手で取り出して確認する事が出来る。
ついでに大事な事は頭の中にもしっかりと記述し、忘れないように心掛けているので、レオンは重要な事柄については三重の管理をしていると言う事になる。


「────はい。はい。判りました。では、また後日、改めて……はい。日程については明日、また…はい」


ビルとビルの隙間から滑り込んでくる風は、随分と冷気含んでいて、先程まで室内にいた所為で温まっていたレオンの吐く息を白くさせる。
灰色の空からは、雨の匂いはしないものの、このまま冷えて行けば近日中に雪が降るかも知れない。

レオンの耳元で、ぷつり、と通信の切れる音がした。
リップノイズの酷かった通話から解放された事に、レオンはほっと胸を撫で下ろす。
それから携帯電話のカレンダーツールを開いて、記されているスケジュールメモに修正を加えようとして、手を止める。
ずらりと並んだスケジュールメモは、簡素な事のみをまとめて記載しているので、少々詳細に欠ける所があった。
レオンは嘆息して、携帯電話をスーツの胸ポケットに落とすと、マフラーと一緒に脇に抱えていた鞄の蓋を開けようとする。
が、マフラーが邪魔で仕方がなかったので、都合良く信号に引っ掛かったのを幸いに足を止め、シックなグレーカラーのマフラーを首に回す。

荷物が軽くなった所で、改めて鞄を持ち上げ、サイドポケットに入れていた手帳を取り出した。
パラパラとページを捲れば、スケジュール表には上から下までびっしりと文字が書き込まれている。


(全く、都合が悪くなりそうだと前々から判っていたのなら、もう少し早く連絡を寄越してくれれば良いものを……こっちの予定まで組み直さないといけないじゃないか…)


書き込まれたスケジュールを眺めながら、空き時間のありそうな日を探す。

横断歩道の信号が青へと代わり、周囲の人々が一斉に動き出した。
その流れに逆らわず、レオンも横断歩道を渡り始める。

白と黒の縞模様の上を、レオンは手帳に目を落としたまま、歩き続けた。


(8、9、10は…駄目だな。今週一杯、ねじ込む隙間はない。来週…そうだな、早くても来週だ)


三列目の数字の枠を追うと、週末に僅かに余裕の空白があった(一行の文字を書き込める程度のスペースだが)。
取り敢えず其処にボールペンでチェックを入れて、暫時予定として置く。
決定するには事務の指示を仰いでからだ。
丁度信号を渡り切った所で、レオンはシステム手帳を鞄に戻す。

首を撫でた冷気に眉根を寄せ、マフラーで口元まで覆った。
手触りの良いカシミアのマフラーは、今年の誕生日の時、弟からプレゼントとして贈られたものだ。
夏真っ盛りのあの時期、店頭に並んでいたのはマフラーではなく専らストールの類だったと思うのだが、インターネットの通販サイトでも利用したのだろうか。
カシミアはピンからキリまであるような商品で、安価なものならば3000円程度で手に入るが、弟がくれたこのマフラーは、明らかにケタがもう一つ増えるような、上等なものであった。
成程、夏休み前から何かコソコソやってるなと思ったらこれか────と、その数日前から必死に「なんでもない!なんでもないからな!」と言って、それまで気にしていなかった筈のレオンの部屋への入室拒否の理由を察して、レオンは心底安堵した。
世界で何より大切な弟に、思春期の親離れ(兄離れと言うべきだろうか)の兆候を感じて、喜び半分寂しさ半分で見守るつもりでいたレオンだったが、やはり思春期特有の現象とは言え、大切な弟に拒絶を示されるのは悲しい。
その内、父に対して今そうであるように、兄の自分にも手厳しい態度になるのだろうかとひっそりと憂いていたレオンであったが、本当に杞憂で良かったと思う。
レオンは、彼が贈ってくれたマフラーを身に着ける度に、そんな事を滔々と思い起こしていた。

不機嫌そうに眉間に皺をよせ、しかし頬も耳も真っ赤にして、ラッピングされた箱を差し出した弟。
ああ、彼に愛されている、大切にされている────それを感じ取る度に、知らずレオンの口元は緩む。

しかし、そんな彼を現実に引き戻す音が鳴る。
ポケットに入れていた携帯電話のバイブレーションだった。
取り出して液晶に表示された名前を見て、レオンは短く溜息を吐き、通話ボタンを押した。


「もしもし、レオンです。……クラウドか?」
『……ん』
「また何をやったんだ?お前は」
『…お詫び用のケーキがだな。どうやら店員が間違えて上下逆さまにして箱に入れていたようで』
「荒唐無稽も大概にしろ。やっぱりお前一人で行かせるんじゃなかった」


突飛な嘘をついて可愛げがあるのは、小学生の低学年までだ。
電話相手の後輩は、そんな年齢は十五年も昔に卒業している。

レオンは駅の改札に向かいながら、鞄を脇に挟んで、ポケットから定期入れを取り出した。
駅の改札口でカードの入った定期入れを翳し、奥へと進む。


「今何処だ」
『LOVELESS通りの広場』
「近くに何かないか。ケーキ屋でも和菓子屋でも。土産に持って行けそうなものを扱っている店。何か買って、何処かベンチにでも座っていろ。それ以上動くな」
『えー……俺、給料日前だから余分な金持ってないぞ』
「だったらもう動かなくて良い。俺が何か買っていく。お前は其処で待機」
『何処か建物入って良いか。寒い』
「好きにしろ。場所が落ち付いたらメールで連絡、いいな」
『ん』
「返事の仕方は?」
『はい。判りました』
「よし」


駅のホームに到着した所で、レオンは通話を切った。
ごう、と風が吹いて、通過電車が走り去り、風に煽られたマフラーの尻尾が、ひらひらと流れ踊る。
がたん、がたたん、と列車が通り過ぎた後、レオンは電車と突風が運んできた砂埃を嫌うように、コートの裾を軽く払った。

最近、美容院にすら行く暇がなかった所為で、不精に伸ばしていた髪が目元にカーテンを作る。
いつになったら切りに行けるかな、と前髪を人差し指と親指で摘まんで遊ばせていると、


「……レオン?」


耳に、いや体に、細胞に馴染んだ声が聞こえて、レオンは振り返る。

レオンと同じダークブラウンの髪と、ブルーグレイの瞳を持った少年。
ただし、髪の長さは首を隠す程度で、レオンのように肩に届くほどではない。
体格は、大人のレオンよりも発展途上の青さが目立って、有名進学校の制服の袖口から覗く手首は、その白さも相俟って、華奢な印象が強かった。
襟元はきちんと第一釦を嵌め、校章の刺繍が施されたネクタイもきちんと占めて、生真面目な性格である事が伺える。

少年の名は、スコールと言った。
正真正銘、血の繋がった、レオンの弟である。


「────そうか。試験前だったな」
「…ん」


十七歳、学生であるスコールが平日の昼間に駅にいる理由を察して、レオンは納得した。
この駅は丁度学校と自宅を結ぶ乗り換えになる駅なので、試験前で午前授業が終わって帰宅となったスコールがいても、何ら不思議はない。


「レオンは、仕事…?」
「ああ」
「…会社、戻るのか?」
「いや。その前に、寄る所が出来た。────ああ、悪い、ちょっと待て」


何処に、と問おうとしたのだろう口を開けたスコールを制して、レオンはポケットで震えていた携帯電話を取り出した。
着信の相手を確認し、通話ボタンを押す。


「もしもし、レオンハートです。はい。いえ、帰社はもう少し先になります。ストライフの件で────ええ、はい。一度、彼の様子を見てから、はい」
「………」
「────ああ、それは…私の方は、来週末なら空いているのですが。はい。宜しくお願いします。え?電話番号…?」


じ、と横から見詰める弟の視線を感じながら、レオンは電話相手の言葉に意識を傾ける。
鞄を足下に置いて手帳を取り出すと、ページを捲って電話帳一覧を開く。


「042-…XXX-XXXX…変わった?ああ、施設内の異動で…はい」


ボールペンで記載していた番号に消線を引いて、数字を書き直す。

アナウンスが鳴って、電車がホームに入って来た。
隣に立っているスコールが、通話を切らないレオンを見上げ、戸惑うような表情を浮かべている。
乗らないのか、と無言で指差すスコールに、先に乗るように目だけで促した。
スコールはちらちらとレオンの方を振り返りながら、促されたまま、素直に電車へと乗り込む。


「すみません、電車が来たので……はい。ああ、その件でしたら、後で確認します。折り返しまた、はい」


レオンは手短に返事をして通話を切ると、足下の鞄を拾って電車に乗り込んだ。
反対側のドアに寄り掛かっていたスコールの下へ行き、ドアを背にしたスコールと向かい合う位置に立つ。
そうすると、小柄ではないがレオンに体格で負けるスコールの体は、すっぽりとレオンの影に隠されてしまった。


「良かったのか、電話。急ぎの要件とかじゃなかったのか」
「いや。ただの連絡事項だから、それ程の事じゃない」


言いながら、レオンはもう一度システム手帳を開いた。
一つ、二つ、三つ、電話で聞いて変更した点や、書き直した記述が間違っていないか確かめる。
それから重要案件等の箇所書きメモを確かめ、電話で最後に確かめておいてくれと言われた内容を確認した。

これで一段落、とシステム手帳を鞄に戻し、顔を上げると、じっと此方を見つめる青灰色とぶつかった。
蒼の瞳には、レオンの首に巻かれたマフラーが映り込んでいる。
何か言いたげに緩んでいる唇を見つけて、レオンは小さく笑みを浮かべてスコールに訊ねる。


「どうした。何か可笑しかったか?」
「あ……い、いや。別に」


レオンの言葉に、スコールは小さく首を横に振った。
慌てたように明後日の方向を向くスコールに、レオンは可笑しな奴だな、とくすくすと笑った。
そうすると、ダークブラウンの髪の隙間から、赤くなった耳が更に赤くなるのが見えた。

スコールの額が、ドアの窓ガラスに押し付けられている。
ガラスの向こうで通り過ぎる風景の速度が落ちていくのが判ったが、この路線は開くドアの方向が決まっているので、此方のドアが開けられる事はない。
無理にスコールをドア前から離す必要はなかった。

─────ので、レオンはスコールを腕の中に囲うようにして、ドアと自分の体の間に閉じ込める。


「夕飯」
「…!」


耳元で囁けば、びくっ!と跳ねる細い肩。
その素直過ぎる反応に、くつくつと笑えば、じろりと横目に睨む蒼。


「夕飯、なんだ?」
「……まだ、決めてないけど…魚、にしようと思ってる」
「いいな。折角だから鱈にして、鍋にしないか?」
「鱈鍋?…なんでまた、急に」
「寒くなったからな。試験も近いし、準備に手間はかからない方が良いだろうと思ったんだが」


鱈はスーパーに売っている鍋用の切り身があるだろうし、野菜も冷蔵庫に残っているものを適当に切れば良い。
最近は便利なもので、ちょっと凝った出汁などは、入れて混ぜるだけと言うパックも売っている。
期末試験前とあって、スコールも勉強に集中したいだろうし、可惜に手の込んだものを作ろうとは思っていないだろう。
だったらいっそ鍋にしてしまえば、(大雑把に言えば)出汁と具を入れて火にかければ良いだけなので、簡単だ。

ぐぅん、と電車がカーブに差し掛かって、乗客の姿勢が傾いた。
レオンの背中に、どんっ、と人がぶつかる。
微かに揺らいだレオンに気付いて、スコールが気遣うような視線を向けたが、大丈夫、とレオンは小さく笑んだ。
ぶつかった人は、すみません、と背中越しにレオンに謝って、直ぐに離れて行った。


「────で、どうだ?今日の夕飯」
「別に、俺は何でも良かったし……レオンがそれが良いなら」
「お前が作ってくれるものなら、なんでも良いんだぞ」
「……じゃあ、今日は鍋にする……」


ふい、と視線を逸らし、窓ガラスに額を押し付けるスコール。
耳だけでなく、制服の襟口から覗く首も赤らんでいるのを見て、レオンはこっそりと笑みを浮かべた。

車内アナウンスが告げられ、電車が停止する。
レオンが下車する予定の駅に到着したのだ。

ちゅ、とスコールの耳元で小さな音が鳴って、スコールは目を見開いて振り返った。
その時には、レオンは既に電車を降りていて、


「じゃあ、また後でな」


ホームからひらりと手を振るレオンの唇が、そう紡いだ。
音がなくても、スコールにはちゃんと読み取れた。

ドアが閉まり、電車が遠退いて行くのをレオンは見送る。
四角い窓の向こうで、真っ赤になって耳を押さえている弟の姿があった。
中学生の頃から素直に甘えてくれなくなったのに、恥ずかしがる事ばかり素直に表す───本人は好きで表している訳でもないのだろうが───弟に、やはり可愛いものだなとレオンは思いながら、


「─────さて、」


本音を言うなら、あのままスコールと一緒に家に帰って、一緒にスーパーに行って、夕飯を作って。
試験に向けて勉強するスコールと、同じ空間で、ゆっくりとデスクワーク分の仕事を片付けて。
明日の朝まで、これからずっと二人きり────……と、そんな予定で行きたい所だったのだけれど、生憎、それは叶わない。

取り敢えず、この駅は西口から出た所に老舗の和菓子屋があった筈なので、其処に寄って。
いつの間にか来ていたメールに記された場所にいるであろう、手のかかる後輩を一発殴る事を決めて、緩んだマフラーを巻き直し、歩き出した。





出来る男なサラリーマンレオンさんに萌えた。
と言うか、スーツなレオンさんに悶えた。

なんでも完璧にこなせる若き有望社員の実態は、 全てが完璧なブラコン です。

どうでも良いけど、うちのKHクラウドは営業回りに行かせちゃ駄目だと思うw

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[絆]カボチャおばけが主役の日

  • 2012/10/31 21:23
  • カテゴリー:FF

[絆]のスコール・ティーダ幼少期で、ハロウィンネタです。





「とりっく・おあ・とりーと!」


─────そんな元気な声に迎えられて、レオンはぽかんとして立ち尽くした。

成人していないレオンがアルバイトを出来るのは、夜の22時まで。
しかし、22時きっちりまで仕事をする事は殆どなく、21時半には帰りの支度に入る事が多い。
これは小さな妹弟を抱えるレオンの為に、カフェバーのマスターが気を遣ってくれているからだ。
レオンとしてはきちんと決められた時間まで働いて、給金に見合うだけの仕事をしたいのだが、レオンの後見人であるシド・クレイマーと旧知だと言うマスターは、気にしなくて良いと笑顔で言うばかり。
夕方の一番人が多い時間に仕事に入り、真面目に勤しんでくれるだけでも十分だと、マスターは言った。
そして、家で兄の帰りを待つ小さな妹弟を安心させてやる為にも、一刻でも早く帰宅するのが最善であると。

陽も暮れて、夜の町に響く波音を聞きながら歩く、カフェバーから自宅までの距離は、時間にして約15分。
妹弟達は、レオンが下拵えを済ませていた夕飯を食べた後、いつもリビングで兄の帰りを待っている。
とは言え、まだ幼い弟と預かり子は、待ち切れずにソファで眠っている事も少なくない。
何れにしろ、いつまでも子供達を待ち惚けにさせない為にも、レオンは自ずと帰路を急ぐ事となる。

そして、約4時間振りに帰って来ての、この言葉。


「……あ…と……」
「とりっく・おあ・とりーと!」
「と、とりーと!」


玄関ドアを開けた格好のまま、呆然とした表情で立ち尽くすレオンに、もう一度同じ声がかかり、少し遅れてもう一つ。

その声の主は、大きなカボチャ頭とマントを身に付けた生き物と、真っ白な布で全身を覆った生き物だった。
カボチャと布には顔が書いてあり、カボチャの方は凶悪そうながらユニークな、布の方は少し困ったような顔をしている。


「……ティーダ、スコール。何をしているんだ?」
「えっ」
「えっ」


カボチャと布を見下ろして、その中身であろう子供達の名前を呼べば、2人はぴたっと動きを止めた。
それからしばらくフリーズしたあと、もそもそと布がずり落ちて行って、見慣れたダークブラウンの髪が顔を出す。


「なんで判っちゃったの?」
「エル姉ちゃーん。バレたー!」


スコールは不思議そうに兄に訊ね、ティーダは頭に被っていたカボチャを脱ぎながらエルオーネを呼ぶ。

エルオーネはキッチンから顔を出し、水洗いでもしていたのか、濡れた手を拭きながらレオンを迎える。
そのエルオーネは、黒いとんがり帽子を被っており、レオンはまたも目を丸くした。


「お帰りなさい、レオン」
「ただいま」
「お兄ちゃん、おかえりなさい」
「レオンおかえりー」
「ああ、ただいま」


姉に倣ってお迎えの挨拶をする子供達に、レオンも挨拶を返す。
被り物をしていた所為で、ぴんぴんと髪を跳ねさせた弟達の頭を撫でながら、レオンはエルオーネに訊ねた。


「それで、二人は何をしてるんだ?」
「ハロウィーンのコスプレだって」
「……ハロウィーン?」


聞き慣れない単語にレオンが首を傾げると、マント遊びをしていたティーダが「知らないの?」と言った。


「ハロウィーンは、トリック・オア・トリートって言ったら、お菓子貰える日なんだ」
「ザナルカンドではそういう習慣があったんだって」
「ふぅん……バラムじゃ聞かない習慣だな。それで、この格好は?」


レオンは、頭だけを布から出しているスコールを見下ろして聞いた。

スコールが被っていた布は、体をすっぽり覆う程の大きなものを扇状にして円錐形を作り、頂点にフードの要領で顔を取り付けている。
頭は出したスコールだったが、布はまだ被ったままで、てるてる坊主のような井出達になっている。
ティーダのカボチャは、食用とは思えない、オレンジ色をした皮の大きなもので、中身は綺麗に刳り貫かれていた。
マントは黒の無地で、カボチャのオレンジ色がよく映える。

エルオーネは、じゃれついて来るティーダの相手をしながら、レオンの問いに答える。


「ハロウィーンの日は、子供は皆こういう格好をするんだって」
「決まりなのか?」
「そうみたい。で、この格好で色んなお家を回って、お菓子を貰うの」


成程、行事の決まりの仮装と言う事か。
行事の謂れ云々はさて置くとして、取り敢えず、レオンは納得した。

そんなレオンに、ティーダが元気よく言った。


「だからレオン、とりっく・おあ・とりーと!」


トリック・オア・トリート────悪戯かお菓子か。
その意味と、わくわくと、単純にお菓子への期待感だけではなさそうなティーダの表情に、レオンは小さく笑みを浮かべ、


「お菓子をあげなかったら、俺は何をされるんだ?」
「え。レオン、ハロウィーン知ってるの?」
「なんだ、やっぱり何かあるのか」


レオンの言葉が、思いも寄らなかったのだろう。
驚いた表情で言ったティーダに、レオンは「いいや」と答えたものの、なんとなく予想はつくと付け加えた。
知らない筈なのに判った、と言うレオンに、ティーダとスコールがすごーい、と目を輝かせる。

エルオーネはティーダの持っていたカボチャの被り物を取り上げると、窓辺に置かれていた小さな豆電球の上に被せた。
豆電球のスイッチを入れると、カボチャの顔が灯りを零し、それまでの凶悪的な(けれどもユニークで可愛らしい)表情が少し和らいだように見える。


「ティーダが言うにはね。お菓子をくれない人には、イタズラしても良いって決まりがあるんだって」
「随分、物騒な決まりだな」
「だよねえ」


頷き合う二人だが、その表情はクスクスと笑い合っていて楽しそうだ。
そんな二人の腰には、兄の帰宅に嬉しそうに抱き着くスコールと、イタズラの可能性をレオンが知っていた事が残念なのか、少しばかり拗ねた顔をしたティーダがいる。


「ちぇ、レオン知ってたんだ」
「そうなの…かな…?」
「あっ、でも、お菓子なかったらイタズラできるんだ!」
「いたずら…良くないよ、困らせちゃ」
「だって、お菓子ダメだったらイタズラするって決まりだもん」
「でも……」


やっぱり良くないよ、と言うスコールに、ティーダは決まりだからいいの、と言う。
そんなティーダをエルオーネが咎めないので、スコールはもっと困った顔でレオンを見上げる。

レオンは、くしゃくしゃとスコールの頭を撫でてやると、スラックスのポケットに手を入れた。


「ほら、スコール」
「……?」
「ティーダの分も」
「へ?」


呼ばれたスコールの前には、握られたレオンの手があった。
スコールが両手を開いて差し出すと、ころん、と小さなものが転がった。
透明なセロファンに包まれたそれは、綺麗な色をした空色の飴玉。

ぱちりと瞬きをするスコールの隣で、ティーダも同じように手を出して、ころん、と飴玉が転がる。
二人ならんできょとんとした表情で手の中の飴を見つめる子供達に、レオンはく笑みを深め、


「お菓子を上げたから、イタズラはなしだよな」
「…!」
「あ」
「だね、ティーダ」


レオンから渡されたお菓子に、スコールが嬉しそうに目を輝かせた。
ティーダも一度嬉しそうに口元を綻ばせたが、イタズラが出来なくなったと気付いて、残念そうな、でもやっぱりお菓子は嬉しいような、ぐるぐると忙しく表情を変える。
エルオーネはそんなティーダの頭を撫でて、飴玉良かったね、と宥めてやる。

ちなみに、飴の出所はカフェバーのマスターで、良い子で待っているであろう妹弟達へのご褒美、らしい。

レオンは、ポケットにもう一度手を入れた。
取り出したのは、スコールとティーダに渡したものと同じ、空色の飴。


「エルオーネ、お前にも」
「え?私も?そんな、私は」


別に良いのに、と受け取るのを遠慮しようとするエルオーネに、レオンは言った。


「正直、お前のイタズラが一番怖い気がするからな」


兄の言葉に、頬を赤らめて目を逸らすエルオーネに、やっぱりな、とレオンはくくっと笑う。
決まりごととは言え、ティーダにイタズラについて咎めなかった時点で、レオンはエルオーネがこっそりイタズラを仕掛ける気である事を察していた。

スコールが生まれて以来、姉らしく手本になるようにと日々頑張っているエルオーネだが、根っこの部分はそう簡単には変わらない。
彼女は元々、イタズラ好きの子供であったから、こんな絶好の機会に便乗しない訳がないのだ。
生まれ故郷にいた頃に行われた、『Jの悲劇』をレオンは忘れていなかった。

しかし、いつも自分達のイタズラや無茶な遊びを叱ってくれる姉が、そんな子供であった事など、小さな弟達は知る由もなく、赤い顔をしたエルオーネを不思議そうに見上げる。


「お姉ちゃん?」
「エル姉ちゃん、どうしたの?」
「あ…う、ううん。なんでもない。えっと…わ、私も貰っておくね」
「ああ」


覗き込んでくるスコールとティーダに、エルオーネは慌てて平静を取り繕った。
差し出されていた兄の手から飴を受け取って、胸に寄せ、


「それじゃ、レオンは晩ご飯だね」
「悪いな、いつも準備して貰って。ほら、スコールとティーダはもう部屋に」
「あ、待って」


窓辺のテーブルの席に着きながら、そろそろ小さな子供は眠る時間だと弟達を促そうとしたレオンを、エルオーネが遮った。

どうしたのだろうとレオンがエルオーネを見遣ると、彼女はキッチンで何か忙しなくしている。
それに気付いたスコールとティーダが、あっと思い出したように声を上げ、慌ててレオンと一緒にテーブルへついた。


「どうした?」
「あのね。お姉ちゃんがケーキ焼いてくれたの」
「カボチャのケーキ!」


カボチャ、と聞いて、レオンは傍らの窓辺に飾られている、カボチャの被り物を見た。
食用には見えないので、恐らくこれとは別のもので作っているのだろうが、それにしても何故カボチャ。
カボチャでケーキとは、あまり聞かない組み合わせのような気がする。

レオンのそんな疑問が伝わったのか、自分だけが知る習慣を話して聞かせたかったのか、ティーダが続ける。


「ハロウィーンにはカボチャなんだ。カボチャのおばけが主役で、カボチャのケーキ食べるのが決まり!」
「それじゃあ、今日はティーダが主役だったのか」
「うん!」


カボチャの被り物をしていた事からレオンが言うと、ティーダは嬉しそうに頷いた。
そんなティーダを、レオンの隣に座ったスコールが羨ましそうに見ている。
僕も被りたかった、と呟くスコールに、ティーダが自慢げに笑うものだから、スコールはぷくーっと頬を膨らませる。

しかし、スコールの拗ねた表情も其処まで。
キッチンから、大きなトレイにレオンの食事とケーキを乗せたエルオーネが現れた。


「レオン、ご飯だよ。スコールとティーダにはケーキ」
「わーい!」
「二人とも、食べたら寝る前にちゃんと歯磨きするんだぞ」
「はーい」


レオンの遅い夕飯と、四人分のケーキがテーブルに並べられる。
エルオーネもティーダの隣に座り、四人揃って手を合わせた。





ハロウィンだと言う事で、お兄ちゃんヘイタズラを計画してみた……が回避されました。残念w
翌年からレオンがえらく手の込んだお菓子を用意するようになると思います。

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