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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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[ティナスコ]秘密の放課後

  • 2016/06/08 22:52
  • カテゴリー:FF


幼い頃から、自己主張が苦手だった。
なまじ空気を読む事に長けたいたものだから、この雰囲気を壊してはいけない、此処でこの発言は間違い、と悟ってしまい、結果的に、大きい物に捲かれる形で、和を乱す事を避けていた。
そうしたスコールの言動は、なんとなく他の子供達も感じていたのだろう。
「本音で話そう」等と言う学級会でも、スコールは出来るだけ自分の存在を小さくし、「悪い所があるなら正直に言い合って直そう」と先生に言われても、「特にありません」で通していた。

仕方がなかったのだ。
保育園にいた頃から、消極的な性格と、運動神経もあまり良くない事が相俟って、遊びの輪について行けずにいる内に、仲間外れにされたり、いじめられたりするようになった。
自分の所為で空間のペースが乱れると、良くない結果を生んでしまう事を、スコールは早過ぎる内に学んでしまった。
そう言う事を大人に相談すると、いじめられないように学級会を開こうとか言われたり、貴方もきちんと嫌な事は嫌だと言わないと駄目、と言われてしまう。
学級会なんてもので、何も知らないクラスメイトにまで巻き込んで、大仰な話し合いをして欲しいなんて望んでいない。
先生は、クラスの皆が仲良く過ごして欲しいと思っているようだったが、スコールは自分をいじめる子と仲良くしたいなんて思わなかったし、いじめられなければ、自分が辛い思いをする事がなくなればそれだけで良かったのに、それでは駄目だと先生は言う。
自分の意思を言えなんてものは、一朝一夕で出来るものではなく、自分を小さくして隠れている事が処世術であったスコールには、海を一足飛びで越えて、見えない島へ辿り着けと言われる程、難題であった。
そんな調子だから、スコールはどんどん意志を示さなくなり、その方が今以上に哀しい事も起きない事を学び、段々と無口になって行った。

スコールが露骨ないじめに遭っていたのは、小学生の頃まで。
中学生に上がる時、スコールは学区外の進学校に入学した。
地域ではそれなりに高レベルと言われている進学校に進むのはスコールだけで、殆どの児童は学区内、それ以外も別の中学校へ進んだ。
お陰でスコールは、自分の過去を誰一人知らない場所で、新たな生活を始める事が出来た。

その頃にはスコールはすっかり無口になり、対人関係への消極的さもあって、友人と呼べるものは殆どいなかった。
いじめられなければそれで良い、嫌な思いをする事がなければそれで良い。
そんな気持ちで中学校の三年間を過ごし、高校もまた、レベルの高い場所に受験する事を決めた。

高校の入学試験の際、最も優れた成績で入学を果たしたスコールは、新入生代表の挨拶を任された。
誰にも見付からないように隠れ過ごしていたスコールにとって、出来れば嫌だと言いたい話ではあったが、相変わらずそんな事が言える筈もなく、なし崩しに引き受ける事となる。
幸いなのは、挨拶文は今まで行われてきたものを参考にと見せて貰える事が出来たので、それを部分的に改変するだけで済んだと言う事だ。

そして、入学式の直前、スコールは他の生徒よりも一足早く学校へ入り、生徒会役員の先輩に案内されて、式辞の際の段取りを聞いていた。
普通は教師がこうした案内を行うようだが、この学校では生徒の自主性が重んじられており、何事も生徒が率先して行動する事に重きを置いているらしい────それはともかく。
未だに人前に出る事への憂鬱さは拭えなかったスコールは、案内の時分から緊張と不安で顔色が青くなっており、生徒会役員からも随分と心配された。
「大丈夫?」と聞かれ、なんとか小さく頷く事は出来たが、顔色の悪さは変わらない。
そんなスコールに、一人の少女が、「何かあったら、私達がついてるから」と微笑んで、彼の体温の低くなった手を握った。
それが、当時二年生の書記を務めていた、ティナ・ブランフォードである。




新入生代表を務めたと言う経緯から、スコールは一年生になって早々、生徒会役員に推された。
推薦で名前を出された時、心の底から「は!?」と思ったが、反対意見が出る事もなければ、他に推薦者も出ず、当然ながら立候補などいる訳もなく。
その後、他のクラスからも選出された役員候補を含め、一年生全体で、学年代表ともなる生徒会役員選挙が行われる筈だったのだが、前述の通り、クラスメイトの事も判らなければ、学校のこれからの事も知る筈のない新入生に、それ程意欲がある筈もなく。
立候補者が定員内で治まってしまった為、貧乏クジを引かされる形で、スコールは生徒会に所属する事になった。

正直、死ぬほど面倒臭いと思っていたのだが、予想に反して、生徒会の空気は然程悪くない。
想像していたような厳格なものではなく、かと言って無法地帯になっている訳でも、絶対的な権限で圧政を働いている訳でもない。
大きな行事の時には忙しさで嫌気も差すが、生徒会室の雰囲気はいつでも明るく和やかだ。
ゲーム機の持ち込みなど、校則に引っ掛からない範囲───授業中に遊ぶとか───であれば許されている為、備品のテレビを使ってちゃっかり遊んでいる者もいたりする。
スコールも、暇があればカードゲームに興じる余裕が許されていたので、妙に気合の入った先輩がいると言う噂のある体育委員や、お局先生がいると噂の美化委員に入るよりも良かった、と思っている。

そんなこんなで、意外と悪くない生徒会生活を送りながら、スコールは二年生になる。
クラス代表とも言える生徒会役員を、改めて考え決めると言う話し合いがクラスで催されたが、結果はスコールの予想通り、「経験のある人間が良いだろう」と言う事で、引き続きスコールになった。
大体、生徒会役員は各学年ごとの立候補と選挙で決められているのに、一人だけ話し合いで下ろされる可能性があると言うのが可笑しいのだ。
この辺りは、学級会好きのクラス担任が、議題のネタが尽きたので、無理矢理持って来た議題なのではないかと噂されている。
一体何の為に開かれた話し合いなのか判りもしない、とスコールは胸中で愚痴るが、結果的にはそれで良かったとも思う。
一年間を其処で過ごし、特に大きなミスもなく───勿論、其処には他の生徒会役員の補助もあった事は忘れていない───やり通したのに、急に下ろされ、勝手の判らない場所に飛ばされても、スコールには困るだけだからだ。

クラスで改めて生徒会役員を決める話し合いがある事は、生徒会の諸メンバーにも伝えてある。
隣のクラスで同じく生徒会役員となっていたジタンと、三年で新生徒会長となったバッツからは、やめるなよまた一年一緒にいようよと泣き付かれたが、話し合いは担任が言い出した事だから仕方がない、と一蹴した。
結果的に、その涙は全くの無意味であった訳だが。
改めてスコールが生徒会を継続する事を聞いたら、彼等はまた、大袈裟に喜んでみせるのだろう。
そんなに騒ぐ必要もないだろうに、と嘆息しつつ、スコールは三日ぶりに生徒会室のドアを開けた。


「あ、スコール」


生徒会室にいたのは、三年生のティナだった。
男ばかりの生徒会にあって、ティナは唯一の女子生徒である。
その為か、生徒会のメンバーは揃いも揃ってティナに甘いが、それも無理はない。
亜麻色の髪にリボンを結び、ふわふわと柔らかく笑う少女を見ていると、守りたい、と思う。
それでいて彼女は芯が強い所があり、包容力もあって、下級生からは「姉になって欲しい人№1」と言われていたりする。

スコールは肩にかけていた鞄を下ろし、黒板を掃除しているティナを見た。
ティナが毎日綺麗に掃除しているお陰で、黒板は使われた形跡もない程ピカピカだ。
掃除の最後には、黒板消しを叩いてチョーク粉を飛ばしているので、こちらもいつも綺麗に保たれている。

ぽんぽんぽん、と窓辺で黒板消しを叩く音がする。
スコールはしばらく、ぼんやりとその後ろ姿を見ていたが、彼女のふわふわと揺れる赤いリボンが何かに似ている気がして、何だったかと首を捻る。
くるりと辺りを見回すと、木箱のロッカーの上に飾られた、赤い花を見付けた。
窓から滑り込む風にふわふわと揺れる花弁に、ああ、と納得し、


「……花瓶の水、替えて来る」
「あ、待って、私も行くわ」


ティナは黒板消しを元の場所に戻すと、小走りでスコールを負う。

ロッカーに飾られた花瓶は、大小の二つがある。
一つは一輪挿しのアクリル製で軽いもの、もう一つは大きな陶器製で重い。
スコールは陶器の花瓶を持って、出入口へと向かった。
一輪挿しの花瓶を持ったティナがドアを開けてくれ、すまない、と言って廊下に出る。

最寄の手洗い場へと向かう道すがら、ティナが嬉しそうに言った。


「ジタンから聞いたわ。今年の生徒会役員、スコールのままだって」
「…ああ」
「ふふ、良かった。スコールがいなくなっちゃうと寂しいものね」
「……大袈裟だ。誰がなっても同じだろ、こんな役」


言いながら、同じと言う程同じではないか、とも思う。

往々にして貧乏クジと思われ勝ちな生徒会役員だが、それなりに美味い事もある。
教師の評価や成績と言ったベタなものもあるが、自由な校風と言うモットーと、恵まれた諸先輩の影響か、この学校の生徒会は、イメージ程堅苦しくはない。
しかし、それなりに行動力と責任感のある人間でなければ、行事の時の忙しさにはついて行けないだろう。
メンバーも前年度からの引き継ぎが多い為、それぞれの人となりを知っており、連携もスムーズに行えなければ、この学校の生徒会は回らない。
此処に来て、二年生で会計を務めるスコールが抜けるのは、生徒会にとっても痛手だったかも知れない。

手洗い場で花瓶から花を抜き、花瓶の水を全て棄てる。
水道水を入れて、簡単に水洗いを済ませ、また花を活けた。
濡れた花瓶をハンカチで軽く吹き、滑り落とさないように気を付けながら、生徒会室へと戻る。


「よいしょ…っと」


ティナが花瓶をロッカーに置く。
一輪挿しの花がきちんと見えるように角度を調整するのを見て、スコールも陶器の花瓶を回し、花の角度を変える。

一仕事を終えて教室に向き直るが、相変わらず其処は無人であった。
スコールが時計を見ると、そろそろ会議が始まる時間なのだが、


「誰も来ないね」
「……ジタンとティーダは遅刻する」
「そうなの?」
「テストで赤点になったからな」


春休み開けの試験で早々に赤点を喰らった仲間達に、スコールは呆れるばかりだ。
休みの間、気を付けろと言っていたのに、と溜息を吐くスコールの隣で、ティナがくすくすと笑う。


「大変ね、二人とも」
「自業自得だ」
「ふふふ。でも、そっか。そうなんだ」


遅くなるんだね、とティナが何処か楽しそうに言う。
あの二人の赤点なんて珍しくもないのに、何がそんなに面白かったんだ、とスコールが首を傾げていると、


「あのね、スコール。バッツとフリオニールもね、今日は遅いの」
「バッツはともかく、フリオニールもか?」
「サッカー部の練習試合があって、助っ人が断れなかったみたい」
「…ああ。ティーダもそんな事言ってたな。補習で行けなかったけど」


サッカーがあるのに!と泣きながら補習授業を受けていたティーダ。
生徒会役員でありながら、サッカー部にも所属し、どちらも両立させるように奮闘しているティーダの事は尊敬する。
が、其処で勉強ももう一つ頑張ってくれれば、言う事はないのに、と言うのはティーダのクラスの担任の言葉だ。
全く以て、ご最も、とスコールも思う。

現三年生で生徒会副会長を任されているフリオニールは、そんなティーダの穴埋めに呼ばれたに違いない。
彼はティーダの練習相手をよく努めている為、サッカー部エースと渡り合える数少ない人材だ。
サッカー部としては、是非とも入部してティーダと共に活躍して欲しい所だろうが、フリオニールは生徒会で手一杯だから、と断っている。
その割に、サッカー部のみならず、色々な運動部から助っ人を頼まれては、断れずに引き摺られて行ってしまうので、実質的に彼は複数の運動部と生徒会を掛け持ちしているような形になっている。


「……それで、バッツは?」


フリオニールの事を聞いたので、ついでに、とスコールは訊ねた。
ティナは眉尻を下げて、少し困ったように笑いながら答える。


「ホームルームが終わったら、マティウス先生に捕まっちゃった」
「また何かしたのか?」
「今日は何もなかったと思うけど……数学の時にいなかったから、その所為かなあ。マティウス先生は厳しい人だから」


生徒会長であるバッツだが、彼は非常に落ち着きがない。
サボり同然にいつの間にか姿を眩まし、かと思えばいつの間にか戻って来ている。
かと言って素行不良と言う程でもなく、要領が良いのか、成績もちゃっかり上位に食い込んでおり、教師としては下手な不良より反って扱い辛いと定評があった。
視野が広く、何事も器用に卒なく熟し、気さくな性格もあって同級下級生問わずに人気が高く、昨年度に晴れて新生徒会長として選ばれたのだが、その後も彼の落ち着きのなさは相変わらずだった。

そんなバッツを目の仇にしているのが、三年生の数学を担当しているマティウスである。
授業のサボりは勿論、居眠りや忘れ物にも厳しいマティウスは、風来坊気質のバッツを如何にして机に縫い止めるか頭を悩ませているらしい。
今の所、自由度の高いバッツが白星を稼いでいるようだが、偶に捕まると、サボりの罰として大量の補習プリントを課しているようだ。

今日のバッツは、そのプリントが終わるまで、生徒会室には来られない。


(……これじゃ会議にはならないな)


ジタンとティーダは、バッツと同じく、補習授業。
此方も終わるまでは解放されない。
フリオニールはサッカー部の練習試合が終われば来るだろうが、いつ終わるのかはスコール達には判らなかった。

そんな訳で、生徒会室にいるのは、スコールとティナの二人だけ。
これでは会議も何も始まらないし、会長も副会長もいないのでは、会議の議題すら上がらない。


(……帰るか……?)


そんな事を考えていたスコールだったが、ふと、頬に何かが当たっているような気がして、目を向ける。
其処にはティナが立っており、彼女が自分に触れている事はなかったが、代わりに藤色の瞳がじっとスコールの顔を見詰めていた。


「………」
「……」
「…………」
「……ふふ」


見つめ合う形でスコールが固まっていると、ティナがふわりと笑う。
嬉しそうなその笑顔に、何が楽しいんだ、とスコールが益々混乱に固まっていると、


「スコールと二人っきりって、初めてね」
「……そう、だな」


ティナの言葉に、スコールは頷いた。

昨年は、前年度の三年生がおり、基本的に真面目揃いであった為、別件の用事でもなければ、生徒会に遅刻してくる者はいなかった。
全生徒会長に至っては、生徒会が行われる日は、ホームルームが終わると直ぐに生徒会室に赴いていた程だ。
それでいて、自由な校風は今と変わらず、自由な中の文鎮役として構えており、バッツとは違うカリスマ性を備えていたものだ。

前年度が終わり、三年生が卒業し、生徒会役員は減った。
メンバーは引き継ぎ続投となったのだが、このメンバーも生徒会室に集まるのは吝かではないので、呼集率は高い。
今日はフリオニールが助っ人で遅くなるが、そうでなければ、彼も真面目な性格なので、スコールよりも早く来ている事は珍しくなかった。
加えて、スコールの周りには必ずと言って良いほど、ジタンやバッツ、ティーダがじゃれついているので、スコールがティナと二人きりで過ごす事がなかったのである。

其処まで考えて、スコールは改めて、現状に気付いた。
女子と二人きり。
特別な間柄ではないとは言え、思春期真っ只中の少年には、中々緊張する状況だ。
途端に落ち付かない気分になって、どうすれば、とスコールが視線を彷徨わせていると、


「皆、まだ来ないかな」


時計を見て、ティナが言った。
倣ってスコールも時計を見ると、スコールが此処に来てから、30分が経っている。
ティーダとジタンの補習授業が終わるには、もう少しかかるだろう。
バッツとフリオニールの事は判らないが、グラウンドではまだ賑やかなサッカー部の声が聞こえるし、マティウスが教員用の下駄箱から出て行く姿も見えない。


「……多分、まだ、なんだろう」
「…そっか」


スコールの答えに、ティナは呟いて、もう一度スコールを見上げる。


「じゃあ、もう少しだけ、スコールを一人占め出来るのね」


そう言って微笑むティナに、スコールは再三固まった。
そのまま、ぽこぽこと頬を赤らめて行く後輩に、かわいい、とティナが思っている事を、スコールは知らない。





6月8日なのでティナスコ。
うちのティナはスコールを見るのが好きだな。可愛いから仕方ない。

前生徒会3年:ウォル、セシル、クラウド
現生徒会3年:バッツ、フリオニール、ティナ
現生徒会2年:スコール、ジタン、ティーダ
参加予定の1年:ルーネス(まだ1年生の役員は決まっていない)
……と言う、どうでも良い詳細設定。すごく眩しい生徒会だ。
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[バツスコ]背中の熱と、傷の跡

  • 2016/05/08 23:00
  • カテゴリー:FF



背中の重みが心地良い。
もう少しこのままでいたいと、思う位に。



スコールとバッツの二人で秩序の聖域を出発し、エルフ雪原でイミテーション退治をしていた。
ちらほらと出現するイミテーションの中に、少々厄介なレベルまで成長した物が在ったが、それの駆除も終わった。
しかし、騎士と道化のイミテーションを同時に相手取っていたスコールが足を負傷してしまった。
戦闘中は治療している間も惜しいと、気合と気力で殺していたダメージは、一段落ついた所で一気に襲い掛かって来た。
駆け回っている間に傷は悪化し、出血も少なくはない。
バッツが直ぐに回復させる事が出来れば良かったのだが、此方も幻想と英雄のイミテーションと同時に戦っていた為、魔力をすっかり使い果たした。
出血だけはなんとか止める事が出来たものの、スコールが自分の足で立って歩く程には至らない。
スコールの負傷、バッツの魔力も枯渇となれば、これ以上イミテーション退治は続けられない。
空はまだ夕焼けも見えていなかったが、今日はもう帰ろう、と言うバッツに、スコールも頷いた。

近辺のイミテーションは掃除する事が出来たので、帰路は比較的安全である。
とは言え、雪原を棲家にする魔物がいない訳ではないし、最も警戒すべきは、神出鬼没の混沌の軍勢だ。
帰路は出来るだけ早く進みたい────が、足を負傷したスコールには難しい。
そこで、バッツが「おれがおんぶするよ」と言い出した。
初めこそスコールは赤い顔で「断る!」と言っていたが、幾らも歩かぬ内に痛み出す足と、此処で意地を張ってもバッツの足を引っ張るだけと思い直してからは、バッツの背に甘える事にした。

雪原を抜けた先にあるテレポストーンへ向かうバッツの歩調は、のんびりとしている。
急いだ方が良いんじゃないのか、とスコールは思うのだが、バッツも疲労していない訳ではないのだ。
自力で歩けない自分が急かしても詮無い事で、大人しくバッツの背中で揺られている。


「おっ、ウサギ」


カサカサと音がした茂みの向こうを見て、バッツが言った。
見れば、確かにバッツの言う通り、茶色と白のまだら模様のウサギがいる。


「良い大きさだな。食ったら美味そう」
「…あんた、腹減ってるのか」
「もーペコペコ。だから魔力も中々回復しないんだよ、多分」


ウサギを見るなり、胃袋を鳴らしたバッツに、スコールは呆れた溜息を吐く。
昼にあれだけ食べた癖に、と聖域出発前の昼食時の光景を思い出すが、バッツの燃費の悪さは今に始まった事ではない。
何より、今のバッツは魔力が底を尽いているのだ。
ティナやルーネス、セシルにも見られる傾向であるが、魔力が尽きると空腹感を覚えるものらしい。
魔力が尽きると言う事は、魔力を当たり前に有する魔法使いにとって、スタミナエネルギーの枯渇と同等の意味を持つのだろう。
早い内に空腹を満たす事が出来れば、魔力の回復も早まるようだが、現状のバッツにそれは望めない。

腹減ったなあ、と言いながら、バッツは緩やかな坂道を上っている。
その言葉が聞こえたかのように、茂みの向こうにいたウサギが逃げ出したのを、スコールは見た。
お前を捕まえる気力もない、と見えなくなったウサギに呟いて、スコールは歩を進めるバッツに言った。


「…腹が減ってるなら、もう下ろせ。俺を背負ってるんじゃ余計に辛いだろ」
「おっ、スコールが心配してくれた。お陰で元気出たぜ」
「……ふざけてないで、さっさと下ろせ。もう足も痛くない」
「そんな訳ないだろ。あんなに血が出てたんだから」


下ろせ、と繰り返すスコールに、ダーメ、とバッツは言う。
スコールの両脚を抱えるバッツの腕は、しっかりと力が込められていて、離すつもりはないようだ。
スコールは唇を尖らせ、バッツの剥き出しの肩を抓って、下ろせ、と急かすが、バッツは痛がる様子も、足を止める事もない。


「もうちょっと魔力が回復したら、スコールにケアルかけるからさ。そしたらスコールも今より歩き易くなるだろ?」
「…だから、俺を背負っていたら、その魔力も回復が…」
「これ位、大した事ないって。スコールって軽いから」
「………」


自分が戦士としてはウェイトが軽い事は、スコールにとって喜ばしくない事だ。
しかし、こうして他人に背負われている状態では、重いよりは軽い方が良い事は確か。
拗ねた顔はしつつも、スコールは大人しくバッツに背負われている事を諦めて受け入れた。

辿り着いたテレポストーンにバッツが触れると、二人の視界が白く反転する。
一秒、二秒もすれば、次の瞬きの時には、辺りの風景はすっかり変わっていた。
茂る森の木々の向こうに、聖域の中央に位置する白銀の塔が見える。
バッツは、よいしょ、とスコールを背負い直すと、聖域に向かって歩き始めた。

ゆっくりと近付く聖域のシンボルに、スコールは、相変わらずのんびりと歩くバッツに声をかけた。


「…バッツ」
「んー?」
「……聖域に着く前には下ろせ」
なんで?」
「………」


この状況を見られたくないからだ、とスコールは唇を尖らせる。
負傷した情けない姿を見られるのも癪だし、バッツに背負われているのも、正直余り見られたくない。
スコールとバッツが付き合っている事は、秩序の戦士達の間では周知されているのだが、知られているからこそ、スコールは余計に今の状態に抵抗があった。
揶揄って来るような人間はいないとは思うが、ジタンやティーダは遠巻きにニヤニヤと此方を見ていたり、セシルやクラウドからは生温かい視線を送られるに違いない。
スコールはそれが嫌なのだ。

しかし、バッツはまだスコールを下ろす気はなかった。
いっそ自力で降りようか、と背中でもぞもぞと身動ぎするスコールには気付いているが、彼の足はまだ自由に動ける状態ではない。
止血しただけでどうにかなる傷ではなかったのだ。
スコールもそれが判っていない訳ではないだろうに、未だに彼は、こうして恋人と密着している事を他人に見られるのが苦手らしい。

案の定、もがくだけ無意味だったスコールは、はあ、と溜息を吐いて、バッツの背に体重を預ける。
バッツの項を、スコールの柔らかい髪がくすぐった。


「……バッツ」
「ん?」
「あんた、魔力はまだ……」
「うーん。イマイチ」


バッツの歩調はゆっくりとしており、散歩にも思えるものであった。
しかし、このまま歩いていれば、バッツがケアル一回分の魔力を回復させるよりも早く、聖域に着くだろう。


「もう帰ってから誰かにケアルして貰った方が良いかもな」
「……そうか」
「ティナもルーネスもセシルも、今日は聖域で待機だったっけ。皆、おれより魔法が上手いし、綺麗に治してくれるよ」
「……ああ」


彼等の丁寧な治癒魔法は、生傷の絶えない生活の中で、非常に重宝されている。
バッツも治癒魔法が使えるが、専門職には及ばない所はある、らしい。


(でも……)


スコールの視線が、すぐ目の前のバッツの頭から、抱えられている自分の足へと落ちる。
なけなしの魔力を使い切って止血を止めた傷には、破ったバッツのマントが包帯代わりに巻かれている。
聖域に着き、誰かに治療して貰う時には、この包帯は解かれる────それは何も構わないのだけれど、


(……あんたに、治して欲しかった───かも知れない)


治療魔法なんて、誰から受けても違いはない。
魔法を使う本人の腕に差はあっても、癒してくれるのなら、それで十分有難い事だ。
特にスコールは、自身の魔法は彼等に遠く及ばない事、使う為に一定のリスクを課せられる分、その有難みは一入強いものになる。
だから、誰が治療してくれるにしろ、相手に感謝の念を忘れる事は無い。

けれど、個人的な我儘が許されるのなら、バッツが良い、とスコールは思う。
何故と問われると非常に答えに窮してしまうのだが、“彼が良い”と望む自分がいる。
しかし、それを口に出せる程、スコールは自分が素直な人間ではないと自覚がある。

ひっそりと溜息を吐いて、スコールはバッツの肩に頭を乗せた。
バッツが歩く度に揺れるスコールの髪が、バッツの首をふわふわとくすぐる。


「スコール?」


心配そうに呼ぶ声が聞こえたが、スコールは顔を上げなかった。
足が痛いのかとバッツは問うが、やはりスコールは答えない。
そのまま黙っていると、寝ちゃったかな、とバッツが呟いたので、そう思って貰う事にした。

スコールを起こさないように慮ってか、バッツの歩調が更に遅くなる。
お陰でスコールへ伝わる揺れは小さくなり、揺り籠で揺られているような気分になった。
背負われている所を誰かに見られるのは嫌だったが、それも段々とどうでも良くなる。
ほんのりと草いきれの匂いがするバッツの肩に顔を埋めて、とろとろと目を閉じた。



自分を背負って歩く青年が、こっそりと遠回りしながら帰路を歩いている事を、スコールは知らない。





5月8日でバツスコ!

言えば良いのに、なスコールでした。
バッツもバッツで、傷を治す為には、早く聖域に着いた方が良いんだけど、そうしたらスコールを下ろさなきゃいけない、二人きりの時間も終わるので、ゆっくり帰ってたって言う。
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[ゴルスコ]無音の月と蒼の音

  • 2016/04/08 23:17
  • カテゴリー:FF


今回の輪廻で、新たに召喚された混沌の戦士は、年若い傭兵だった。
混沌の戦士に限った話で言えば、最年少の彼を見て、戦力になるのかと小馬鹿にしていた者がいた事は確かである。
アルティミシアに因れば、どうやら彼女の因縁の人物であるようだが、当の本人はそれは知らないと言う。

この世界に召喚された者は、初めの頃、須らく自己の記憶の大半を失っている。
敵陣営の者と戦う内に記憶は回復されて行く為、召喚されてから息の長い混沌の戦士の殆どは、この世界での過去の輪廻も含め、ほぼ殆どの記憶の回復が終わっていた。
だからアルティミシアは、この少年が己の知り得る人物であると、直ぐに判ったのだろう。
その割に、彼女は少年が此方側に召喚された事に驚いた様子もあったので、どうやら、彼が混沌の神によって召喚されたのは、些かイレギュラーな出来事だったようだ。

傭兵の少年────スコールは、何処か人形めいていた。
ケフカが執心している魔導の少女と少し似た雰囲気もあるが、此方は自分の意思がない訳ではない。
しかし、召喚された直後と言う事もあってか、自分の意識や感情を主張する場面は少ない。
戦闘となれば躊躇なく火の中へ飛び込む胆力を持っているが、その行動は何処か捨て鉢で、己を顧みていないように見えた。

昨今、繰り返される輪廻に疲れ、意味のない戦闘を避けるようになった戦士がいる中、告げれば剣を振るう事を厭わない彼の存在は、有用な駒である。
皇帝の命令や、アルティミシアの気まぐれな指示すら、“任務”の単語がつけば特に逆らわずに従う。
傭兵然としていると言えばそうなのだろう。
この世界に、働いた代価となる賃金の類は無意味なものでしかない為、その価値はないが、彼等の命令に従う事で、記憶の回復と言う代価と、突き詰めれば“元の世界に帰る”と言う報酬が果たされれば十分と思っている節もある。
“元の世界に帰る”と言う報酬については、後々に嘘がばれてしまうだろうが、その時の事を皇帝やアルティミシアは気にしてはいないだろう。
いざともなれば、適当な理由を付けた任務で特攻させ、一度息の根を止めてしまえば、次の輪廻で復活した時には、過去の輪廻の事は忘れている。
この世界に生きる戦士達は、差異はあれど、そう言うサイクルの中で戦い続けているのである。

ゴルベーザもまた、そうした輪廻の中で、この闘争の世界を生きていた。
終わりのない輪廻が続く世界で、永遠に戦い続ける事が、嘗ての自身の世界を破滅に追い込もうとした償いであるのだと思いながら。
浄化される度、勝利を信じて立ち向かって来る秩序の戦士達について、思う所がない訳ではない。
多くが世界を破滅に導いた経緯を持つ混沌の戦士達と違い、彼等はこの牢獄のような世界に閉じ込められている理由がないように見えるのだ。
世界が何度も繰り返し、自分達が何度となくその命を散らしている事を知る由もなく、見せかけの希望を追い駆けて戦い続ける彼等は、ゴルベーザには哀れで、眩しく映るのだ。
時折、彼等の中から、魂を使い果たした戦士が世界から消え去る事がある。
死と同等の意味を持つであろう、この世界での解放を意味するのであれば、願わくば彼等が元の世界へと戻っている事を祈る。
そして己は、この終わらない輪廻の檻の中で、永遠に等しい闘争を続けて行く運命なのだと、それを受け入れていた。

そんな無限の輪の中で、未だ“元の世界へ戻る”事を報酬として、戦い続ける少年兵。
少年と形容するには、些か大人びた容姿ではあるが、ゴルベーザにはその立ち姿も含め、何処か必死に背伸びしているような印象が拭えなかった。
表情についても、皇帝やクジャは無表情、変わり映えのしない顔だと言っていたが、ゴルベーザはそうは思わなかった。
どちらかと言えば、ケフカが言った「かっこつけクン」と言う揶揄の方がしっくり来る。
彼をよく知る筈のアルティミシアは、これについて言及した事はないが、今の少年の様に特に不満はないようだった。
ただ、黙々と任務をこなす彼を見て「哀れな子」と呟いた事があったので、やはり、少年のあの無表情は、何かを押し殺している顔なのではないか───とゴルベーザは分析する。

だから、気になるのかも知れない。
荒野の向こうで、二人の秩序の戦士を相手取っているスコールを見ながら、ゴルベーザはそう独り言ちた。

秩序の戦士が混沌の大陸に侵入したのは、ほんの数時間前の事。
恐らく、斥候の為に侵入したのであろう彼等を、皇帝はスコールに追い払って来いと命令した。
スコールは無言でそれに従い、一人、風変りな剣を持って戦場へと赴いた。
殺すのではなく追い払えと命令した皇帝は、恐らく、スコール一人では彼等を倒せないと判っていたのだろう。
ただの露払い、若しくは暇潰し────納得させる理由を無理やりつけるのであれば、スコールの力試しと言う辺りか。
何れにせよ、年齢の若い戦士が、それなりに歴を数えているであろう戦士を相手にするのは無理があるだろうと知っていた上で、スコールを送り出したのは間違いない。

実際に、スコールは押されていた。
相手が自分と同じ年若い戦士であれば、彼の実力が物を言ったのかも知れないが、今スコールが相対しているのは、ジェクトとカインの二人だった。
カインの実力はゴルベーザが誰よりも良く知っている。
ジェクトは、典型的な力押しを得意とする為、クジャやケフカのような魔法使いなら、距離を取って魔法で牽制し続けるのが常作だが、スコールは近距離を持ち場とする剣士だ。
完全なインファイターである上、この世界に召喚されて長いジェクト相手では、経験の差もあり、劣性になり易い。
かと言って距離を取れば、カインが竜騎士の本領を発揮して追って来る為、体勢を立て直す暇もないようだ。


(……このままでは、力尽きるか)


戦闘が始まってから十数分、スコールにしてはよく耐えたと言った方だろう。

年若い少年を相手にするとあってか、ジェクトが少し手加減しているように見えるが、このままスコールが引かなければ、彼も本気を出して来る。
カインも同様で、槍を握る手に力が篭りつつあった。
そうなれば、現状で耐え凌ぐのが精一杯になっているスコールの敗北は明らかだ。

この世界では、死んだとしても、次の輪廻では蘇る。
例外が魂を使い果たす程の疲弊、それぞれの神々の加護が受けられなくなり、存在が保てなくなった場合だ。
スコールは召喚されて間もなく、魂を擦り減らす程の戦闘を行っていないので、間違いなく、次の輪廻では蘇るだろう。
今の輪廻で過ごした記憶を、全て忘れて。

前回の輪廻で過ごした記憶を忘れた者は、大抵、次の輪廻では誰かに操られる事が多い。
以前の経験を忘れている為、仲間である筈のカオスの面々の事すら、一からやり直しになっているからだ。
長らく敗北を味わっていない混沌の戦士達は、その利便性を理解しており、記憶を失った者は、仲間───そもそも、そうした言葉の意識すら、此方の者達は希薄だ───さえも己の策の道具として扱っている。
だからこのまま、スコールが倒れたら、これから繰り返される輪廻の中で、スコールは繰り返し誰かに利用される道具として生かされ続けるのだろう。


(─────……)


ゴルベーザの脳裏に、この世界で目覚めたばかりの頃のスコールが思い浮かぶ。
あの頃から彼は無表情であったが、その瞳に時折、揺らぐ光が映る事があった。
何かを探しているような、求めているような、迷子にになった子供の様な色の瞳だと、ゴルベーザは感じた。

あれを見たから、放って置けないのだろうか。
彼が、単純に無感動な、任務のみに従事する戦人形ではないと、そう思っているのだろうか。


(……だから、何だと言うのだろうな)


独り言に胸中で呟く問いに、答えてくれる者はいない。

砂埃の向こうでは、まだ戦闘が続いている。
退く事を知らないのか、スコールは満身創痍にも関わらず、戦い続けていた。
策でもあるのかとゴルベーザは思ったが、彼の表情には企みを隠している様子もなく、ただ後ろを振り返らないように必死になっているように見える。


(……今此処で、あの少年を失うのは、此方にとっては得策ではない)


繰り返される輪廻で、助け合っても意味がない事を、息の長い混沌の戦士は知っている。
だが、だからと言って、年若い少年が使い捨ての駒になるのは、余り気分の良いものではなかった。

ジェクトがスコールの横腹へと、強烈な蹴りを喰らわせる。
戦士にしては軽い躯が一気に吹っ飛び、スコールは肩から地面に落ちた。
直ぐに体を起こして追撃への構えを取ろうとするが、それよりも早く、頭上から紫電色が降ってくる。
それも蒼は強い閃きを持って、迫る槍を睨んだ。

そして、深い夜色を溶かしこんだような尖鋭が眼前まで迫った瞬間、


「カイン!」
「─────!!」


ジェクトの声が響き、カインは少年に突き立てようとした槍を咄嗟に振り上げた。
切っ先が数センチと言う距離まで迫った黒球を割り、左右に割れた半月の黒が破裂する。
その破裂した場所から、強烈な引力が働き、カインは唇を噛んで丹田に力を溜め、その場に踏みとどまった。

引力が消えた頃、カインは足下にいた筈の少年が消えている事に気付いた。
身体に覚えのある気配を辿り振り返れば、傷だらけの少年を腕に抱えた魔人が砂丘の上に立っている。


「……ゴルベーザ」
「ちっ、新手かよ」


面倒な奴が来た、と拳を握り構えるジェクトの隣で、カインはじっとゴルベーザを見上げている。

ゴルベーザの腕に抱かれたスコールは、呆然としていた。
自分の状況を判っていないのだろう、目を丸くして、大人しくゴルベーザの腕に収まっている。
軽いな、と場面を忘れて考えていると、


「……退くぞ、ジェクト」


槍を引いたカインの言葉に、今度はジェクトが目を丸くする。


「あ?マジかよ」
「奴には随分と粘られた。此処で更に奴を追うのは無謀だ」


カインの言葉は最もで、優勢を保っていたとは言え、ジェクトもカインも手傷を追っている。
退く事を知らないスコールとの戦いは、確かに彼等を消耗させていた。
この状態で下手に深追いすれば、反って混沌の戦士達に囲まれてしまうかも知れない。
その為にスコールを此処まで粘らせたのかも────と可能性を話すカインに、ジェクトも納得した。

敗北ではないとは言え、逃亡するのが些か気に入らない様子のジェクトであったが、愚策を押す程、状況を理解していない訳ではない。
後ろ頼むぜ、と言って、ジェクトは背を向け、砂の荒野を走り出した。
カインはジェクトの言葉に頷いたが、長く此方を警戒する事もなく、ジェクト同様に此方に背を向けて走り出す。
ゴルベーザが自分達を追って襲撃しない事を、彼は理解していた。

カインが考えた通り、ゴルベーザは当分の間、その場から動かなかった。
乾いた風が吹き抜ける中、先に動いたのはスコールだ。
状況と自分の有様を理解して、顔を顰め、もぞもぞと身動ぎして鎧の腕から逃げようとする────が、


「あれの蹴りを喰らったのだ。しばらくは動かない方が良い」
「……問題ない」
「あばらに罅でも入っているかも知れん。調べるまでは大人しくておけ」
「………」


ゴルベーザの言葉に、スコール自身の心当たりがあるらしい。
蹴りを喰らった横腹にそっと手を当て、息を飲んで顔を顰める。


「ジェクトは誰が相手取っても中々手強い。カインも軍団長を務めた手練れだ。それだけで済んだのは幸いだったな」
「………」


鎧を素手で打ち割る程の強力を持つジェクトだ。
ゴルベーザやガーランドと違い、ほぼ生身の身体で戦っているスコールでは、加減された一撃であろうと相当重かったに違いない。
カインが放った攻撃も、スコールはギリギリの所で裁いていたが、やはり経験の差か、軍配は彼にあったようだ。
体のあちこちに残された裂傷が、彼がまだまだ上手であった事を示している。

ぎり、とスコールが唇を強く噛む。
皮膚を食い破りそうな程に噛むスコールに、ゴルベーザはなんと言ったものかと考える。

よくやったと褒めた所で、この戦士が喜ぶ事はないだろう。
そもそも彼は、褒めて貰う為に迎撃に出た訳ではない。
彼はただ任務を果たす為に、彼は自分の不利を承知で戦い続けていたのだ。

ふむ、としばし考えた所で、ゴルベーザはテレポを唱えた。
抱えていたスコールごと転移した先は、ゴルベーザの世界から召喚された断片の空間────月の丘だ。
普段、パンデモニウムかアルティミシアの下で過ごす事が多い所為か、スコールは見慣れない環境だったようで、スコールはゴルベーザに抱かれたまま、きょろきょろと辺りを見回している。


「此処は……」
「月の丘だ。私やカインの世界に存在していたもの、か」
「月……?」


此処が?と首を傾げるスコール。
納得しないような表情をしていたスコールだったが、ゴルベーザはそれ以上の説明はしなかった。

適当な岩を見付け、其処にスコールを下ろし、横に寝かせてやる。
痛みを刺激しないよう、ゆっくりと下ろしたつもりだったが、振動だけでも彼には辛かったようだ。
唇を噛んで痛みに堪えるスコールの体に、ゴルベーザは掌を掲げ、


「得意ではないのだがな」
「……っ?」


呟いたゴルベーザの掌から放たれたのは、治癒の力だった。
動かなくとも、熱に似た痛みに苛まれていたスコールの体から、少しずつその痛みが消えて行く。


「う……」
「…生憎、私には白魔法の才はなかった。戻るまではこれで堪えてくれ」
「……いい。楽には、なった…」


呼吸をする分には楽になった、と言う事だろうか。
まだ表情を引き攣らせながらも、スコールは小さな声で答えた。

そのまま、もうしばらくの間、スコールは痛む傷を堪えて唇を噛んでいた。
本来なら、直ぐに連れ帰り、アルティミシアかクジャにでも診せた方が良いのだろう。
アルティミシアはスコールに執心があるようだし、傷付いた彼が戻ると、魔女の力でその傷を全て癒している。
クジャはクジャで、案外と付き合いが良いのか、面倒見が良いのか、多少の事ならば、面倒臭がりながらも頼みを聞いてくれる事があった。
しかし、ゴルベーザはそうしなかった。
今しばらく、この少年と、誰にも邪魔をされたくなかったのだ。

痛みの波が落ち付いた頃、スコールはもう一度辺りを見回した。
月の丘と言いながら、空に月を持つ世界を見て首を傾げつつ、自身の傍らで立ち尽くしている鎧の男を見る。


「……あんた、どうして俺を助けたんだ」
「……不服か?」


問いに対して問い返せば、スコールは思い切り眉根を寄せた。
質問に質問で返すな────と蒼の瞳が不機嫌を滲ませる。

ゴルベーザは睨むスコールに背を向けて、さてな、と呟く。


「理由は────あるようで、見付からんな」
「はあ?」
「お前は私達の仲間だ……と言った所で、納得はしないだろう。仲間など、我々にはあってないようなものだからな」


全員が全員、個人主義で、好きに動いているものばかりだ。
策を弄しているものも、何も考えずに破壊を楽しんでいる者も、戦いに飽きた者も、皆好き好きに過ごしている。
そんな状態で、“仲間”等と言う単語はそぐわない。


「お前が納得し易い事を言うのなら、まだ死なせるのは惜しい、か」
「……この戦いに勝つ為に、出来るだけ戦力の欠落は避けると言う事か?」
「それでお前が得心するなら、それで良い」
「………」


はっきりとした答えを寄越さないゴルベーザに、スコールの眉間の皺が深くなって行く。

ここまで不機嫌な顔を見たのは初めてかも知れない。
ゴルベーザが見る限りでは、スコールは、皇帝やアルティミシアからの指示に対し、「了解」と言葉少なに答える顔しかなかったのだが、


(……だが、案外とその眼はよく喋るようだ)


さっきから不満や不服を露骨に見せる蒼灰色に、ゴルベーザの口元が緩む。
兜のお陰でその表情が見えなかった事は、幸いだったと言って良い。
見えていれば、間違いなく、またスコールの不興を買っただろう。

スコールはしばらくの間、不機嫌な顔で視線をあちらこちらへ彷徨わせていた。
何かを言いたそうな表情に見えたが、結局その後、彼が口を開く事は無く、ゴルベーザもまた、何も言わなかった。
そして、スコールが「…帰らないのか」と訊ねるまで、二人は月の丘で沈黙の時間を過ごす事となる。



─────その沈黙の時間が、何処か心地良くて、やはり無意味に死なせるのは惜しい、とゴルベーザは思った。





4月8日なのでゴルベーザ×スコールに挑戦してみた。でもって混沌スコールにも萌えてます。
危なっかしい生徒を放って置けないベテラン先生みたいな雰囲気になったような。
二人の距離感はそれ位のものが好きかも知れない。

ゴルベーザに白魔法は使えませんが、フースーヤが白黒両方使えるし、ケアル位は……と言う願望。
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[レオスコ]銀色の契り

  • 2016/03/14 22:16
  • カテゴリー:FF
あまりホワイトデーっぽくはないですが、バレンタインの[甘い香りと銀色と]の続きに当たります。





一ヶ月前のバレンタインの日、スコールは兄の為にチョコレートケーキを焼いた。
生まれて初めて作ったガトーショコラは、思いの外良い出来で、兄も嬉しそうに食べてくれた。
小さな12センチのホールケーキは、四日をかけて消費され、食べる度にレオンがコーヒーを淹れてくれた。
豆から選んだレオンのコーヒーは、甘いガトーショコラの上手さを引き立てる、抜群のバランスだ。
そして、レオンからスコールへと贈られたシルバーリングは、大事に大事に机の引き出しに仕舞ってある。
つけてくれれば良いのに、とレオンにさりげなくねだられたが、うっかり傷を付けたり、落として失くしてしまうのが嫌で、どうしても身に着ける気にはならなかった。

それから一ヶ月が経ち、俗にバレンタインのお返しをする日とされるホワイトデーがやって来た。
これまた世間の勝手な俗説であるが、バレンタインのお返しは、三倍返しが基本だと言う。
しかし、バレンタイン限定で販売されたシルバーアクセサリーに対し、三倍の価値のあるもので返せと言われたら、スコールは破綻してしまう。
レオンがスコールにとプレゼントしたリングは、社会人であり、其処で地位を築いているレオンだから渡せたものであって、スコール自身では絶対に手が届かない代物だったのだ。
アルバイトをしても、桁が一つ二つ違う物なので、これに見合う物など、学生のスコールが見付けられる筈もなかった。

それでも、出来れば何か返したい、と言う思いから、スコールは今朝、出勤前の兄を呼び止め、「バレンタインのお返しは何をすればいい?」と訊ねた。
バレンタインは、こっそりガトーショコラを作って兄を驚かせると言うサプライズ───結局、ケーキが焼き上がる前に兄が帰って来たので、成功したかは半々と言った所か───をしたスコールだったが、今回はそれは諦めた。
バレンタインのように、チョコレートと言った代表的なものがこれと言って思い付かなかったし、当日が平日と言う事もあり、前回のように準備をする時間もなかった。
兄を驚かせる事は出来ないが、率直に、彼が欲しいと思うもの、喜んでくれる事をしようと思ったのだ。

そしてレオンからの返事は、


「じゃあ、今夜は一緒に食事に行くか」


────と言うものだった。

普段、レオンとスコールの食事は、専らスコールが料理をしている。
レオンの帰りが遅い事もあって、日常的な家事一般の殆どは、スコールが担っているのだ。
そんな生活の中、外食を促されると言うのは、スコールにとっては準備と片付けの手間が要らない為、嬉しい事ではある。
が、それでは“レオンの為のお返し”ではなくなってしまうのではないか、とスコールは思った。

しかし、レオンの本当の“して欲しい事”はその先にあった。

……その言葉を聞いた後、スコールはしばらくの間、玄関前で立ち尽くしていた。
行ってきます、と兄が玄関を出てからも、五分程はフリーズしていたように思う。
遅刻しないようにと毎日鳴るようにセットしていたアラームのお陰で我に返ると、慌ただしく自分の支度を整えて出たので、学校には遅刻せずに済んだ。
しかし、その日一日、スコールの頭の中には、兄の言葉がこびり付き、勉強にはまるで手がつかなかった。

夕方になって家に帰ると、スコールは直ぐに自分の部屋に入った。
鞄をベッドに投げて、机の引き出しを開け、小さな黒いボックスを手に取る。
そっと蓋を開ければ、傷一つも埃一つもない、真新しいままのシルバーリングが収められている。


(……これを……)


今朝の兄の言葉が、頭の中で蘇る。
今日、学校にいる間、何度も何度も繰り返し再生していた言葉だった。

レオンはスコールに、食事に行く際、このシルバーリングを身に着けて欲しいと言った。
傷をつけるのが嫌で、身に着ける事を躊躇っていたスコールだったが、兄にねだられる事は吝かではない。
だから今までにも、家の中で何も作業をしない時、少しの間だけ嵌めていた事はあった。
それを見付けると、レオンが嬉しそうに笑ってくれるからだ。
その後、どうにも恥ずかしさと浮つく自分に耐えられなくて、二時間もうするとボックスの中に戻してしまうのだが。

だから、決して嫌ではないのだ。
外で落として失くしたくないと言う気持ちはあるが、リングはちゃんとスコールの指のサイズに合っていて、そう簡単には抜け落ちたりしない。
それでも余り身に着けようとしないのは、大事にしたい余りに過保護にしてしまっている所為だ。
それに一時目を瞑り、兄を喜ばせる為、リングをボックスから取り出すのは、一向に構わない。

─────構わない、けれども。


(……指……)



普段スコールは、シルバーリングを身に着ける時、邪魔にならない左手に嵌めている。
指の位置は特に定めてはおらず、デザインや微妙なサイズのフィット感から、適当に選んでいた。
どの指に嵌めるかで意味があるだとか、ジンクスやらと謂れはあるようだが、スコールはその手の話には興味がない。

ないが、“其処”に指輪がある事にどんな意味があるのかは、判っている。

ちらりと部屋の時計を見ると、直に短針と長針が一直線になろうとしている。
いつもならもう少し早く帰って来るのだが、試験結果が思わしくなかったクラスメイト達の補習終わりを待って帰宅したらこの時間だった。
クラスメイト達が待っている間にも、兄の言った言葉について考えていたのだが、気持ちの進展は全くなく、ただただ考え待ち続けていただけであった。

その傍ら、巡らせ続けていた思考が、本当は大した意味を持っていなかった事も、自覚している。


(……別に……嫌な訳じゃない)


取り出した指輪をじっと見詰め、スコールはきらきらと光る反射に射抜かれる双眸を細めた。

徐に左手を広げて、右手に持ったリングを中指へと通す。
リングは細いスコールの指をするりと潜り、付け根の手前で止まる。
そのまま手を握り開きと繰り返してみるが、特に邪魔立てするような感触もなく、上手く収まっているように見える。
指に通したままのリングを、右手の親指と人差し指で摘まみ、左右に回すように動かすと、指の付け根に摩擦の抵抗感が伝わった。


(……此処でも良いんだろうな。別に。多分何処でも)


中指でも良いし、人差し指でも良い。
親指は流石にサイズが違うので嵌らないだろうが、可能であれば、其処でも良いのだろう。
だから、素知らぬ振りをして、このまま中指につけていても良いし、いっその事右手でも構わないに違いない。
ひょっとしたら、チェーンを通してネックレスにしても良いのかも知れない。
大事にしすぎて身に着ける事を躊躇う指輪を、スコールが身に付けているだけで、きっとレオンは満足してくれる。

だが、彼の喜ぶ顔が見れるのは、それは一等良いものであって欲しい。
そんな気持ちを抱きながら、スコールは中指に通した指輪を抜き、隣の指へと通した─────その時だ。


「ただいま、スコール」
「!!」


がちゃっとドアを開ける音と共に聞こえた声に、スコールは思わず肩を跳ねさせた。
丸く鳴ったままの目で振り返ると、驚いた顔の弟に、きょとんと不思議そうに首を傾げる兄が立っている。


「レ、レオン……」
「ああ。どうした、そんなに驚いた顔をして」
「あ……は、早かったから」


スコールは身体の向きをレオンに対させると共に、左手を背中に隠しながら言った。
時計を見ると、いつの間にか長針が頂上を僅かに過ぎている。
ぐるぐると考え込んでいる内に、時間が経ってしまったようだ。
それでも、平時のレオンの帰宅時間を思えば、遥かに早い訳だが、その理由は明らかだ。


「今日は外に食べに行くからな。余り遅くなったら、お前も腹が減るだろう」
「……別に……」
「そうか?でも、食べる所は予約してしまったからな。この時間には帰っておきたかったんだ」
「予約……じゃあ、直ぐに出るのか?」
「そうだな……今から出れば、丁度良い時間には着くと思う」
「着替えるからちょっと待ってくれ」
「ああ。俺も直ぐに着替えて来るよ」


そう言って、レオンはスコールの部屋を後にした。

レオンが店を予約したと聞いて、一瞬、ドレスコードが必要になるような高級店を思い浮かべたスコールだったが、仕事で使うのならともかく、弟と食事に行くだけなのにそんな場所は選ぶまい。
服について指定がある様子もないし、レオンも着替えるようなので、特に気取る必要はないのだろう。

制服を脱いで、カジュアルながら落ち着いた色味の服を選ぶ。
何処に連れて行かれるのか判らないが、静かでのんびり食事が出来る所であれば良いと思う。
その辺りは、レオンも同じ趣向なので、恐らく心配しなくて良いだろう。

一通りの身支度が済んだ後、スコールはふと、左手に嵌めたままの指輪を思い出した。


(……これは……)


レオンが帰って来た時、勢いで嵌めたままになった指輪。
嵌められた指を見て、一気に顔が赤くなり、過剰に意識している自分が酷く恥ずかしく思えた。
こんな思いをする位なら、とリングを抜こうと右手の指をかけた所で、スコールの動きが止まる。

今朝、玄関先で聞いたレオンの言葉が蘇る。
その時、蒼灰色の瞳が、とても柔らかく優しく、ほんのりと熱を孕んでいた事を思い出した。



スコールは自室を出て間もなく、レオンも部屋を出て来た。
タクシーを呼んであるから、と言う兄に、スコールは契りの指に嵌めた指輪を背中に隠したまま、頷いた。





ホワイトデーでレオスコ!
あんまりホワイトデーっぽくない気もしますが。バレンタインで貰った物を身に付けて、と言う事で。

スコールは隠してますが、どうせバレてるんだよ。部屋に入った時からレオンは気付いてるんだよ。恥ずかしそうに隠すのが可愛いので、言わずに見てるレオンでした。
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[ラムスコ]聞きたい事、知りたい事

  • 2016/03/08 22:32
  • カテゴリー:FF
ディシィアに参戦したので、ラムザを書いてみた。
タクティクスはプレイしましたが、偽物感一杯。





秩序の女神の下、新たに召喚された戦士は、年若い少年であった。
年齢を聞けば、スコールやティーダ達と言った“年下組”とそう変わらない。
一見すると女顔とも揶揄されそうな童顔であるが、何処か世間知らずにも見える外観とは打って変わって、剣には培われた技術と魂が籠められている。
目覚めたばかりである為、持ち得る記憶は少なく、彼の軌跡を確かめる事は本人でさえ出来ていないが、それでも彼が自身の事を「傭兵」と名乗った事を納得させるだけの材料にはなった。
────「傭兵」と名乗った時、僅かにその表情に苦味が滲んでいた事は、目敏い者なら感じ取っただろうが、それについて訊ねても、恐らく本人もその感情の出所は判っていないだろう。
判っていたとしても、可惜に他人が踏み込んで良い事とも思えず、似たような感覚を持つ者も少なくない為、気付かない振りをするのが暗黙の了解となっていた。

戦闘に置いて、彼の力は非常に有用である。
剣と魔法の両方にバランスが取れており、仲間をサポートする魔法も持っている。
重みのある一撃を放つクラウドや、脚で駆け回って敵陣を引っ掻き回すティーダやジタンと言ったように、一方に突出した能力を持つ者と向き合うとやや押される所もあるが、これはオールラウンダーの苦い所か。
しかし、前衛にも後衛にも配置できる人物がいると言うのは、非常に有難い事である。

と言ったように、様々な方面で活躍する力を持った人物であるが、その性格はやや控えめで大人しい。
賑やかし屋が多い年下の中では、やや印象が薄くなる事も儘あった。
雰囲気で言えばセシルに近く、わいわいと騒がしい面々を遠目に眺め、適当な所で声をかけて諌めている。
かと思ったら、案外とノリの良い所もあり、賑やか組に遊びに誘われると、ちゃっかり参加している事もあった。
ティーダのように明らかにテンションが高くなると言う事は───今の所───ないが、年相応の少年らしい一面も持っているようだ。

そのラムザと、スコールは共に行動していた。
持ち回りで行っている、秩序の聖域近辺の見回りと、イミテーション退治の為だ。
パーティにはジタンとバッツも同行しており、彼等はあちらこちらへちょこまかと寄り道しながら歩いている。
ラムザはそんな二人を楽しそうに眺め、スコールは溜息を漏らしながら、規定のルートを進む。

神々の闘争や、あちこちに蔓延り襲い掛かってくるイミテーションの事など、最低限を説明すればラムザは程無く理解した。
状況が状況、応じなければ元の世界に戻れないだけに、理解せざるを得なかったのはあるだろう。
それでも、セシルやクラウドが必要な事を話すと、それだけで自分のするべき事、置かれた状況を理解し受け止めたのだから、決して愚鈍ではないのだろう、とスコールは分析している。

その証左ではないが、不可思議な次元の扉のような役目を持つ“歪”についても、彼は既に馴染んでいる。


「スコール、あの歪。赤い色だ」


指差したラムザに倣って目を向けると、確かに赤く光る紋章陣があった。
赤色の歪は、混沌の侵食を受けて、イミテーションがうろついている可能性が高い。
此処から出現し、聖域周辺をうろつき回るイミテーションも出てくる為、早い内に混沌の力を消し、浄化してやる必要があった。

スコールは少し後ろでじゃれ合いながら歩いていたジタンとバッツに声をかける。


「ジタン、バッツ。歪に入るぞ」
「ほいほーい」
「おれ一番!」
「あ、ちょっと。もう少し慎重に────」


ジタンとバッツは、スコールとラムザを追い越して、先を取り合うようにして歪に飛び込んだ。
危険度を確認してから、と呼び止めようとするラムザの声は、虚しく宙を掻く。

ぽかんと立ち尽くすラムザに、スコールは一つ溜息を吐いて、


「いつもの事だ。言っても無駄だから、好きにさせておけば良い」


言いながら、スコールも歪へと飛び込んだ。

光が氾濫する数瞬を過ごした後、スコールは硬い雪を踏みしめた。
何処だ、と辺りを見回すと、見慣れない雪景色が広がっている。
初めて見る歪内の光景に、眉根を寄せていると、後を追って来たラムザが雪の上で蹈鞴を踏んだ。


「おっと……雪のある世界か」
「……初めて見る世界だ」


スコールの呟きに、「そうなのか?」とラムザが確かめるように訊ねる。

雪に覆われた景色は、闘争の世界にも存在しているが、此処はその雪山ではなさそうだった。
真っ白な斜面のずっと下方───麓と思しき場所に、小さく人里のようなものが見え、煙を焚いている煙突もあった。
斜面を挟む道は、高い崖で挟まれており、これもスコールには見覚えのないものだ。

先に飛び込んだジタンとバッツは何処に行ったのか、と見回してみると、高い崖の上に立って斜面の道を見下ろしている。
斜面には、真っ白い雪が光を反射させて見え難かったが、ガラス細工の人影がうろついているのが確認できた。
動きはぎこちなく、ロボットにも見えるので、どうやら下位のイミテーションのようだ。

スコールとラムザの到着に気付いたジタンが、スコール達に向かってハンドサインを送る。
崖の下に二体、更に下った位置に二体のイミテーションがいるようだ。
レベルはどちらも低そうだが、早目に片付けてしまおう、とスコールがガンブレードを握ると、ラムザも腰のロングソードを抜いた。
ジタンとバッツは、「オレ達はあっち」と斜面の向こうを指差して、崖を大回りして駆けて行く。


「スコール。僕は援護に回った方が良いかな」


新たに召喚された身とあって、この世界に限って、ラムザはまだ経験が少ない。
それ以前から存在している混沌の戦士の特徴、それを真似て動くイミテーションに対しては、まだまだ情報が少なかった。
この為、敵のレベルが高い状態であれば、ラムザは可惜に近付かず、援護に回っている事が多いのだが、


「いや、あそこにいるのはガーランドと皇帝のイミテーションだ。イミテーションのレベルも低いし、皇帝は放って置くとこっちの動きを封じるように動くから、こっちから近付いて片付けた方が良い。ガーランドは俺が相手をするから、そっちを任せる」
「判った」
「足元に気を付けろ。罠を仕掛けてくるからな」


必要となるべき点を簡潔に伝えると、スコールは地面を蹴った。
足元の雪は、水分が少なくさらさとしたパウダー状になっており、踏み込むスコールの足を沈めてしまう。
それに足を取られないように注意しつつ、スコールは猛者と暴君へと肉迫した。




スコールの分析通り、イミテーションは簡単に片付ける事が出来た。
離れた場所にいた二体の下へ向かったジタンとバッツも、スコールとラムザの戦闘終了後、無事に合流を果たす。

その後、ジタンとバッツは雪合戦をして遊び始めた。


「うりゃ!」
「とうっ!」
「あいてっ。お返し!」
「うおぉっ!」


崖に挟まれた斜面の真ん中で、手早く作った雪玉を投げ合う二人を、スコールは崖の上から眺めていた。
近くにいると巻き込まれるのが想像に難くないので、さっさと避難したのは正解だった。
柔らかなパウダー状の雪で作られた玉は、当たっても直ぐに弾けてしまうので、大して痛くはないが、やはり冷たい。
基本的に寒い事を嫌うスコールが、雪玉遊びに参加する訳もなかった。

そんなスコールの背中に近付いて来たのは、ラムザだ。
ざくざくと雪を踏む音を鳴らす仲間を、スコールは肩越しに見遣って、直ぐに崖下へ視線を戻す。


「少し周りを見て来た。他にイミテーションはいないみたいだ」
「そうか」
「ジタンとバッツは……楽しそうだな」


崖下で無邪気に雪遊びに耽っている仲間を見て、ラムザはくすりと笑った。


「スコールは参加しないのか?」
「断る」
「楽しそうだよ」
「それなら、あんたが参加すれば良い。俺はこの世界を調べて来る」


立ち上がって、足元にまとわりつく雪埃を払い、スコールは仲間達に背を向けた。

この雪景色は、初めて見るものだ。
歪の中の景色は幾つもの世界の断片が混ざり千切れて存在している為、その時限りで二度と見る事が出来ない世界も在る。
しかし、そうした消え行く断片の世界には、イミテーションが湧いてくる事はなかった───少なくとも、今までの経験では。
イミテーションが存在すると言う事は、其処に混沌の力が流れ込んで定着している訳だから、新たな世界の断片として、歪の中で繰り返し出現する可能性がある。
下位のイミテーションだけで事が済んだ今の内に、この世界の特性や、注意するべき物事を確認して置いた方が良いだろう。

ざくざくと深い雪を踏みながら歩いていると、後ろから同様の音が聞こえてきた。
振り返れば、進む毎に深くなる積雪に足を取られつつ、ラムザが後を追って来る。


「手伝うよ、スコール。此処、スコールも初めて見る世界なんだろう?」
「……ああ」
「それなら単独行動は危ないんじゃないか」
「……眩しい奴と同じ事を言うな。俺はそんなに弱くない」


眉根を寄せたスコールの言葉に、「眩しい奴?」とラムザは首を傾げる。
スコールはそんなラムザからついと視線を逸らし、雪向こうに点々と岩が顔を出している高場に向かう。
ラムザは足を速めて、スコールの隣へと並んだ。


「別に弱いとか強いとかって言う問題じゃないさ。ただ、色々見ておきたいんだ」
「……色々?」
「地形とか、使えそうな物とか。僕はまだこの世界の事もよく判らないし、出来るだけの事はしたい。皆の足を引っ張りたくないから」


真面目な奴だ、とスコールは胸中で感想を零す。
だが、向上心があるのは良い事だし、慣れない場所で単独行動が危険と言うのも事実。
況して雪深く足元が取られやすい場所は、奇襲されると厄介で、一人では目の届かない範囲を補える者がいるのは有難い事だ。

崖の向こうでは、まだジタンとバッツが雪遊びに興じている。
彼等の力はスコールもよく知っているし、傍目にはただ遊んでいるようでも、視野が広い彼等の事だ、異常があれば直ぐに気付いて切り替えるだろう。
ついでに、スコールとラムザが場所を離れた事にも直に気付くだろうから、その内追って合流して来るのも、想像に難くない。


(……それまでに確認できる所はして置くか。こいつなら、あの二人のように騒がしくはならないだろうし)


何故かジタンとバッツによく絡まれるので、賑やかし事の中心に巻き込まれているが、元来、スコールは静寂を好む性質である。
控えめな性格のラムザとなら、苦になる事はないだろう───と、思ったのだが、


「それに、スコールの事も色々見ておきたいんだけど、駄目かな」
「……は?俺?」
「僕達、普段はあまり話をする機会もないだろ?」


ラムザの指摘は事実で、スコールは普段、ラムザとほぼ接点を持っていない。
召喚されて間もなかった為、パーティを組む時は、セシルやフリオニールと言った気遣いの上手い面々と一緒にいる事が多く、単独行動が多い、或いは自由───一歩間違えれば、トラブルメーカーにもなる事がある───なジタンやバッツと共にいる事が多いスコールとは、パーティを組む事がなかったのだ。
スコールはそれを深く気にした事はないが、ラムザの方はそうではなかったらしい。


「いつかスコールとゆっくり話が出来たらって思ってたんだ」
「……そう言うのは、俺はパスだ。大体、記憶の回復も大して進んでいないのに、何を話せって言うんだ?」
「それは僕も同じさ。だから、この世界でスコールが感じた事や、出逢った事を教えて欲しい。僕はこの世界の事もよく知らないから、勉強の一環として聞きたいんだ」
「……」
「もっと君達の力になりたいんだ。だから、頼むよ」


何れにしろ、スコールにとっては宜しくない話題である。
しかし、ラムザも引くつもりはないようで、「少しで良いから」と言って来た。
こう言う手合いは、断っても断っても諦めはしないのだと、先に同じように食い付いて来た仲間達から学習している。

対して面白い話は無い、と最後の言い訳のように言ったスコールだが、それでも良いよ、とラムザは笑った。





ディシディアアーケードに参戦と言う事で、ラムザ×スコールを目指してみた。

タクティクスはプレイしましたが(途中までだけど)、物語が物語なだけに、ラムザの明るい所って殆どないんですよね。大体がシリアスなシーンだから、素の喋りと言うものがあまり浮かばない。
公式で年齢が出てないと思うのですが、個人的には17歳前後だと思ってます。なので同年代のスコールやティーダ、ジタン達とわいわいやってくれたら楽しいなーと。
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