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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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カテゴリー「FF」の検索結果は以下のとおりです。

[レオン&子スコ]まってる 2

  • 2013/01/19 23:49
  • カテゴリー:FF



今日は二次会も参加しろよ、と言っていたレオンの上司は、一次会の終わりに既に酔い潰れていた。
絡み酒でやたらと高かったテンションも、一次会の終盤には落ち着いてしまったようで、座敷の隅で座布団を抱き枕にしてかーかーと寝息を立てていた始末だ。

一次会が終わり、店を出る時に上司を抱えて来たのは、レオンであった。
レオンでなければ動かないと上司が駄々を捏ねたからだ。
どうやらそれは、稀に飲みに参加しても、一次会終わりにはするりといなくなってしまうレオンを捕獲する為の駄々であったらしく、


「行くぞ!レオン!二次会だ!」


一次会が終わった店を出て、誰が二次会に行くのかと幹事が確かめていた所で、上司が叫んだ。
二次会だ、二次会だと意味不明な唄を歌う上司に、夜ですから静かに、と窘めるレオンだが、効果はない。

────しかし、レオンが二次会に行く事はなかった。
家で待っているである弟に、帰りが遅くなると言う旨は伝えてあるものの、何せ弟はまだ6歳の幼子である。
一人で夜の街に出歩かない事、誰か来ても絶対に玄関を開けないように教えていても、やはり兄の不安は拭えない。
出来るだけ早く家に帰って、弟の無事な姿を確かめたい。
その気持ちを汲んでくれた同僚達のお陰で、レオンは此処で飲み会から外して貰う事となった。

レオンの離脱と同時に、すっかり飲み潰れた上司も離脱を余儀なくされた。
明日は早朝から大事な会議があるのだから、と部下達に窘められた彼だが、レオンがいなくなった後の絡み酒の被害を皆が敬遠したと言うのが、正直な話だったりする。
部下達のそんな心情は露知らず、上司は酒の席から強制離脱させられる事に駄々を捏ねていたが、レオンが家まで送り届けると言う条件の下、帰宅を受け入れた。

それから、もう一人、二次会不参加を表明した者がいる。
レオンの大学時代から続く後輩である、クラウドだ。


「良かったのか?二次会に行かなくて」


上司を背負って、タクシーを捕まえる為に大通りへ向かう道すがら、レオンは後輩の男に訊ねた。
クラウドはちらりとレオンを見遣った後、直ぐに視線を前方へ戻し、


「構わない。明日は俺も早出だから。二次会に行っても、途中で抜けただろうし」


クラウドはレオンの後輩だが、言葉遣いは砕けている。
大学の頃から続いている仲だし、会社にいる時は別だが、プライベートでは自然体のままで良いと、レオンが言ったからだ。

クラウドの返答に、そうか、とだけレオンは言った。
背中にあるものが、ずるる、と落ちる気配がして、抱え直す。
クラウドは夢と現実の狭間を行き来している上司を見て、策士だな、と呟いた。


「何か言ったか?クラウド」
「策士だなと」
「誰が?」
「お前が」


小さな横断歩道の赤信号に引っ掛かって、レオンとクラウドは立ち止まった。


「俺が策士って、何の話だ?」


問うレオンに、クラウドは溜息を一つ漏らす。
よくもまあ、と言いたげな碧色に、レオンは眉根を寄せる。


「……あんた、あんまり飲んでないだろう」
「まあな。お前に比べれば」
「グラス一杯飲んだか?」
「飲んだ。見ていただろう?」
「見ていた。だから聞いている。俺には、お前がグラス一杯分も飲んだとは思えない」


クラウドの言葉に、レオンは眉根を寄せた。

酒の席で、クラウドはレオンの隣に座っていた。
だから、上司がレオンのグラスにどんどん酒を足して行ったのも、自分と同じ焼酎やカクテルを注文して飲ませていたのも知っている筈。
それなのに、どうしてそんな事を言われなければならないのか、とレオンが顔を顰めていると、


「あんた、自分のグラスと俺のグラス、こっそり摩り替えてただろう」


─────クラウドが、自分の飲んでいた焼酎のグラスを空にした時の事。
摘まみを食べて、そろそろ次の酒を注文しようか、と思って何気なく自分のグラスを見ると、其処には並々と入った焼酎のグラスがあった。
全部飲んだと思ったのだが、思い違いか、それとも誰かが注ぎ足してくれたのだろうか。
れまでにそこそこの飲酒をしていたので、もう酔ってしまったのだろうかと首を傾げつつ、酒を飲むのは決して嫌いではないので、取り敢えずこれをもう一度飲み干してから、新しいものを注文しようと考えた。

しかし、飲めども飲めども、酒はなくならない。
空になったと思い、次の酒は何にしようかとメニュー表を見た後、ふっと顔を上げると、またグラスには並々とした酒が。
一度や二度ではなく、三度、四度と続くその現象に、一体何が自分の身に起きているのかと混乱した。

取り敢えず、飲んでいた焼酎に飽きてしまったので、元に戻るグラスについては飲む事を放棄し、新しいものを注文した。
……それが、この『飲んでも飲んでも中身が減らない魔法のグラス』の謎を解明するに繋がった。


「最初は俺もあんた達と同じ焼酎を飲んでたけど。途中、カクテルを頼んで飲んでた筈なのに、また途中から味が焼酎に変わってた。あれ、あんたの仕業だろう」


味の変化は明確なものであった。
其処でクラウドは、余り酒の飲めないレオンが、酔い潰れないようにと、自分のグラスと隣に座っていたクラウドの空のグラスを隙を見ては取り替えていた事に気付いた。
実際、クラウドがグラスを空けてしばらく放置していると、レオンの手が伸びて来て、上司のお陰で一杯に注がれた焼酎のグラスと、飲み干されたグラスとを入れ替えている現場を捉える事が出来た。

クラウドの言葉に、レオンは暫く沈黙していたが、ちらりと背中の上司を見た後、彼がすっかり熟睡しているのを見て、観念したように溜息を一つ。


「悪かったな。だが、お陰で俺は助かった」
「それはどうも。俺はすっかり酒が回ったが」
「そうは見えないな」
「まあまあ強いし、俺は顔に出難いらしいからな」


だが、今回ばかりは飲み過ぎた、とクラウドは呟く。
その原因とも言えるレオンは、苦い笑みを浮かべて「悪かった」ともう一度詫びた。

酒に弱いレオンが、上司と同じハイペースで飲み続け、いつまでも素面でいられる訳がなかったのだ。
だからレオンは、絡み酒で評判の上司に捕まった時から、上司だけに飲ませて潰してしまおうと考えていた。
意識がある限り、彼は自分を解放してはくれないだろうから。

しかし、、隣席を余儀なくされた以上、レオンも全く飲まない訳にも行かない。
最初はグラスに口をつけるだけで誤魔化していたのだが、酒が減っていない事を指摘されてから、クラウドの言った通り、彼のグラスと自分のグラスを交換する戦法に出た。
先にクラウドに一言断る事が出来れば良かったのだが、上司はようやく実現できたレオンとの飲みの席に感極まっていたようで、とにかくレオンを独占したがったのである。
少しでもレオンがクラウドや他の社員に話しかけようとすると、「俺を無視するなよ~」と甘えるように頬擦りをして来たのだ。
大の大人に甘えられるのは、父のお陰で慣れていたレオンであったが、父と上司では勝手が違う。
止む無くクラウドには黙ったまま、後で言及されたらその時に謝ろうと、最後まで自分とクラウドのグラスを交換し続け、酒を飲んでいるように見せかけたのであった。

レオンがあまり酒に強くない体質である事も、家で一人待つ小さな弟がいる事も、クラウドは知っている。
だから、途中からレオンの行為に気付いても、何も言わなかったのだ。
飲み会中の後輩の無言の気遣いに、レオンは心から感謝した。


「明日の朝一の仕事、大丈夫か?」
「なんとかなるだろ。二日酔いになった事はないから」


信号が青に変わって、横断歩道を渡る。
その直ぐ傍の道沿いに、客待ちのタクシーが数台並んでいた。

レオンは一台のタクシーに近付いて、ドアを開けて貰った。
クラウドの手を借りながら、背中に負ぶっていた上司をタクシーに乗せる。


「ふう……」
「熟睡だな。暢気なもんだ。あれだけ騒いでおいて」


タクシーの後部座席を占領し、ぐうぐうと寝息を立てる上司を見て、クラウドが言った。

クラウドもこの上司の事は嫌いではないが、やはり、酒の席だけは隣になりたくないと思う。
以前隣になった時、ノリが悪いと言われた上、何度も一発芸をやらされたのがトラウマになっているのだ。
取り敢えず持っているネタを一通り披露してその場は解放されたが、ネタは受けるものばかりではなく、見事に大スベリしたものもあり、その後クラウドは三日間会社を休む程のダメージを負ったと言う事件は、レオンも会社の噂で耳にしている。

そんな上司も、完全に飲み潰されてしまった今日は、もう目覚めそうにない。
ならば家まで送る道中も平和だろう、とレオンが最後の一仕事、と気持ちを切り替えて、上司と同じタクシーに乗ろうとすると、


「待った」
「?」


ぐい、とクラウドに腕を引かれて、レオンは止まった。
なんだ、と思って振り返ると、クラウドは後ろに控えているタクシーを指差し、


「あんたはあっちだ」
「……は?」
「で、こっちには俺が乗る」


レオンを押し退けて、クラウドはタクシーに乗り込んだ。
ぐうぐうと眠る上司に、邪魔だな、と呟いて退かし、自分の据わるスペースを確保する。


「おい、クラウド。何を…」
「何をって。こいつを家に送ってくる」


こいつ、と言ってクラウドが指を差したのは、無論上司である。
会社だったら叱ってる所だ、と思いつつ、レオンが溜息を吐いていると、


「早く帰れ、レオン。スコールが待ってるんだろう」


此処から先の面倒は、自分が引き受けてやる────クラウドはそう言っているのだ。

レオンが家まで送ることを条件に、二次会離脱を渋々了承した上司だが、当人はすっかり夢の中。
明日になったら覚えているかどうかも判らない事を、この後もレオンが生真面目に守り通す必要はないのだ。
それよりも、きっとこんな遅い時間になっても、健気に兄の帰りを待っているだろう弟を、早く安心させてやらなければいけない。

レオンは眉尻を下げて、小さく笑みを浮かべた。
すまん、と呟くレオンに、別に、とシンプルな返事が投げられる。


「来週、何処でも良いから、都合が合う日があったら言ってくれ。礼に夕飯ぐらい奢ってやる」
「奢りも良いが、俺はあんたの作った飯がいい」
「……なら、何が食べたいのか、考えておけ」
「ああ。じゃ、お休み」


レオンが一歩後ろに下がると、タクシーのドアが閉められた。
程なく発車したタクシーの窓から、クラウドが手を振っているのが見えた。

隙間を埋めるように後続のタクシーが滑り込み、レオンの前で停止する。
それを見て、レオンはようやく帰れるのだと、文字通り荷が下りて軽くなった肩を落として、ほっと安堵の息を吐いた。




まってる 3



レオンとしては、クラウドは判ってくれると思ってるから巻き込んで良いと思ってる。
クラウドも判ってるし、レオンもスコールも好きだから、これ位いいやと思ってる。

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[レオン&子スコ]まってる 3

  • 2013/01/19 23:48
  • カテゴリー:FF



帰りが遅くなって、エレベーターののんびりとした早さに苛立ちつつ、若しくは階段を駆け上って息を切らせる度、1階か2階の部屋に引っ越した方が良いだろうか、と思う。
しかし、セキュリティ的な面を考えると、やはり中・高層マンションでオートロックのカードキー認証、玄関は暗証番号と言う点は外せない。
結果、やはり引っ越しはなしだな、と言う結論に行き着くのがパターン化していた。

街からマンションの下までタクシーで帰る最中、もう眠ってしまったかな、と思いながら、携帯電話で弟に『いまからかえるよ』と言うメールを送った。
すると、5分と経たない内に『まってる』と言う返信があって、レオンは口元を緩ませると同時に、可哀想な事をしたな、と思った。
時刻は夜の10時で、いつも通りにレオンが家に帰っているなら、夕飯も終えて風呂も入って、もうベッドの中で眠っている頃だ。
レオンはそれでも構わないと思っているのだが、弟はいつも、レオンが仕事から帰って来るのを待ちたがる。
それがどんなに遅くなる日でも。

だからレオンは、いつも出来るだけ早く帰るのだ。
仕事が詰まっている時でも、会社内で残業をする事は殆どなく、会社内でなければ出来ないような仕事でもない限り、必ず家に持ち帰る。
そして弟と一緒に過ごした後、弟が寝付いてから、一人仕事の続きを始めるのである。

階段を上り切った所で、レオンは軽く呼吸を整えた。
一回、二回、三回と、意識しながら深呼吸をして、どくどくと煩かった心臓の鼓動を落ち着ける。
額に滲んだ汗を掌で拭って、いつもと同じ歩調で歩き出す。

ようやく帰り着いた家のドアに、カードキーを押し当てて認証。
ドアノブを捻れば、がちゃり、と音が鳴って、


「ただいま────」
「おかえりなさい!」


帰宅の挨拶を追い抜くように、レオンに届いて来た迎えの言葉。
レオンが敷居を跨ぐよりも早く、小さくて温かいものが抱き着いた。


「おかえりなさい、お兄ちゃん」
「…ああ。ただいまスコール」


ぎゅ、とレオンの腰に抱き着いて、爛漫の笑顔で迎えてくれた小さな子供────スコール。
柔らかなダークブラウンの髪を撫でて笑いかければ、スコールは嬉しそうに頬を赤らめた。

レオンは鞄を腋に挟んで、スコールを抱き上げた。
わ、と驚くような声を漏らした後、スコールはきゃらきゃらと笑ってレオンの首にしがみ付く。
ほんの十時間ぶりの温もりが、レオンにはとても愛しく思えて堪らない。


「遅くなって悪かったな。寂しかったか?」
「ううん」


レオンの言葉に、スコールはふるふると首を横に振る。
それが甘えん坊の幼い弟の強がりだと、レオンは直ぐに判った。

玄関が開くなり、直ぐに飛び付いて来たスコールの体は、ひんやりとした冷気に包まれている。
きっと、レオンからのメールを貰ってから、玄関の前でずっと兄の帰りを待っていたのだろう。
ひょっとしたら、その前から、あの冷たい冷気の蔓延る玄関前で待ち続けていたのかも知れない。
リビングにいれば、暖房もあるし、電気カーペットもあるし、テレビだってあるのに、レオンに早く逢いたいが為に、スコールは外の冷気が滲む玄関前で、兄の帰りを待つのだ。

レオンがリビングに入ると、ピーッ、ピーッ、と言う音が鳴った。
何事かとレオンは辺りを見回して、音の発信源がキッチンの電子レンジだと気付く。


「あの、あのね、ね」


くいくい、と服の端を引かれて、弟を見ると、


「ご飯、ね。冷めちゃったから。もう一回、温めてたの。ご飯、温かい方が美味しいから」


スコールの言葉に、レオンはついつい口元が緩む。
くしゃくしゃとスコールの頭を撫でてやれば、スコールはくすぐったそうに目を細める。


「今日も夕飯、食べないで待っててくれたんだな」
「うん」
「ありがとう」
「んーん」


ぎゅ、と強く抱き締めてくれる兄に、スコールは照れたように顔を赤らめた。
それを兄に知られるのが無性に恥ずかしくて、スコールはレオンの首下に顔を埋める。

耳や頬にかかる柔らかい髪と、触れた場所から伝わる弟の温もり。
レオンはそれを確かめるように、スコールを抱き締めたまま、ゆっくりと呼吸を一つ。
離れ離れだった今日一日の不足分を取り戻すように、しっかりと弟の存在を確かめてから、レオンはスコールを椅子に下ろしてやった。


「スコール、お腹空いてるだろう」
「うん。お兄ちゃん、ご飯、食べて来ちゃった?」
「いいや」


酒の摘まみに少し食べたが、食事と言う程の量ではない。
上司からは色々と食べるように言われ、皿を受け取る事はしたものの、殆ど口をつけなかった。
それも全て、レオンと一緒の夕飯を楽しみにしている弟の為だ。

温め終わった食事をテーブルに並べる。
レオンと向かい合って座るスコールの腹から、くきゅぅ、と可愛らしい音が鳴った。
赤くなったスコールに、レオンは小さく笑みを漏らし、手を合わせる。




チキンライスを頬袋一杯に詰めて、嬉しそうに笑う小さな弟。
その笑顔が見たいから、レオンは早く帰らなくちゃと思うのだ。






子スコが待っててくれるんだもの。早くおうちに帰らなきゃ。

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[ウォルスコ]抱き締めて眠る

  • 2013/01/08 23:59
  • カテゴリー:FF



ウォーリアは、仰向けで眠る。
自分でそうと判っている訳ではないが、セシルから「寝ている時も姿勢が良いんだね」と言われ、ティーダも「ウォルって寝返り打たないんスか?」と言われた。
誰かと共に探索や斥候に向かった時、不寝番をしていたメンバーからは、「寝てから起きるまで殆ど同じ格好」であるらしい。
ティーダが疑問に思っていたように、寝返りを全く打っていないと言う訳ではなかったが、姿勢の変化も概ね数パターンで行われているらしく、豪快に布団を蹴飛ばすようなティーダやジタン、大の字で眠るバッツのようにはならないそうだ。

スコールは、そんなウォーリアと正反対だった。

スコールは、丸くなって眠る癖がある。
ウォーリア・オブ・ライトがその事に気付いたのは、彼と褥を共にするようになってから、暫くの事だった。

まるで、寒さに耐えて蹲る猫のように、彼は丸くなって眠る。
枕があるとそれを抱き締めている事もあり、其処に顔を埋めて、寝返りも打たずに眠っている。
時折、もぞもぞと動いて身動ぎする事もあるが、そう言う時は、大抵、眉間に深い皺を刻んでおり、安らかな夢を見ているとは到底考え難い。
寒いのだろうかと思い、布団を肩まで引き上げてやるウォーリアであったが、スコールはそれでも丸まっていた。
枕に顔を埋めたり、世界から隠れようとするかのように縮こまる彼を見る度、寝苦しくはないのだろうかとウォーリアは思う。
その姿勢が一番楽で、その姿勢で眠っているのだろうから、ウォーリアのこの思考は杞憂であるとは思うのだが、眉間に皺を刻んで眠る彼を見ていると、やはり何か辛いのではないかと思ってしまう。

―――――と言った事を、ウォーリアは、セシルとクラウドとの酒宴の席で打ち明けた。
心なしか、寂しげに目元を伏せて語るウォーリアに、セシルとクラウドはじっと黙って耳を傾けた後、


『丸くなって眠るとか、何かに抱き着いて寝るとか。甘えたがっているという意味があったような気がするな』


とクラウドが言い、


『僕らはそういうスコールを見たことがないけど。ウォルと一緒に寝ている時にだけ、枕に抱き着いて寝たりしてるのなら、その時にだけ甘えられる何かを探しているのかも知れないね』


とセシルが言った。

甘えられる“何か”とは“何”なのか、ウォーリアは尋ねてみたが、彼らは教えてはくれなかった。
ただ、微かな笑みを浮かべてじっと此方を見ていただけで、その意味もウォーリアにはよく判らなかった。
結局、はっきりとした解決の糸口がないまま、その日の酒宴はお開きとなり、ウォーリアも眠りについた。

……それが、今から一週間前の夜のこと。

ウォーリアは、スコールと夜を共に過ごした。
いつものようにウォーリアは斥候と探索へ、スコールはバッツとジタンに引き摺られてイミテーション退治とお宝探しへ行った日の事で、特別に変わった事はない。
部屋はウォーリアの自室で、日付が変わる頃に、スコールの方がやって来た。
と言っても、彼はじっと部屋の前で佇んでいていて、気配だけが室内のウォーリアにひしひしと伝わってくるばかりで、来ていると判っているのに入ってこないスコールに焦れ、ウォーリアの方がドアを開けて、彼を部屋に招き入れた。
顔を赤らめ、疲れているのに悪い、と言うスコールの言葉を聞いて、彼の気遣いを感じたウォーリアは、一日の疲れの癒しを求めてスコールを抱き締めた。
それからしばらくは、何をするでもなくただ抱き締めあっていたのだが、スコールの「……しない、のか?」と言う言葉に応える形で、ウォーリアは彼を抱いた。

何度抱いても、スコールの反応は初々しさが抜けない。
真っ赤になって「嫌だ」と首を横に振るが、ウォーリアが離れようとすると、嫌がって引き留める。
声にならない求める言葉を、一体何度聞いただろうか。
そうして存分に熱を共有した後、充足感と気だるさに流されるように、スコールは意識を手放し、ウォーリアも眠りについた。

――――――が。

ふっとウォーリアの意識が浮上した。
寝起きとは思えないほどにクリアな思考と視界の中で、ウォーリアは隣で蹲っているスコールを見付けた。


(……震えている?)


ベッドシーツを掻き抱くようにして、丸くなっているスコール。
ウォーリアは、その細い肩が微かに震えているのを見付けて、微かに眉根を寄せた。


(寒いのか)


裸身で眠れば、布団を被っていても、寒いかも知れない。
ウォーリアは特に肌寒さは感じなかったが、スコールは全体的に脂肪も筋肉もない方なので、ウォーリアよりも寒さには弱いようだった。

布団をかけ直してやると、ぴく、とスコールの体が小さく跳ねた。
気配に敏感なスコールの気質を思い出し、起こしてしまったかと思ったウォーリアだったが、青灰色は瞼の裏に隠れたままだ。
目覚める様子がない事にウォーリアがホッとしていると、スコールはもぞもぞと身動ぎし、頭の下にあった枕を掴むと、引き寄せて抱き締め、顔を埋めて丸くなった。


(……甘えられる、何かを)


一週間前に聞いた、セシルの言葉を思い出した。


(……私では、駄目なのだろうか)


ぎゅう、としがみつくように抱き締められている、スコールの枕。
それは本来ならウォーリアが使う筈だったものなのだが、スコールがこの部屋で眠る時は、いつも彼が使っている。
だからその枕には、ウォーリアの気配が強く残っていた。

ウォーリアは、スコールの腕に抱き締められた枕を、そっと取り上げた。
想像していたような抵抗のようなものはなく、あっさりと腕から抜けたそれを、自分の後ろに隠す。


「……う、ん……」


もぞ、とスコールが寝返りを打った。
俯せにになったスコールの顔を覗き込めば、何かに耐えるように、眉間に皺が刻まれている。

ウォーリアは徐に腕を伸ばして、スコールの細い肢体を抱き寄せた。


「……んっ……」


固く引き結ばれた唇に、己のそれを押し付ける。

意識のないスコールが、ウォーリアからのキスに応えてくれる事はなかった。
しかし、心なしか、縮こまって強張っていたスコールの体から、ゆっくりと力が抜けて行くような気がする。
噤まれていた唇も、ウォーリアの熱を受け取るように、薄らと開かれた。


「ふ…ぅ……?」


ふる、と長い睫が震えて、瞼が持ち上がる。
ぼんやりとした青灰色が、ウォーリアを間近で捉え、


「……うぉる……?」
「………」
「………ん……」


舌足らずに名を呼ぶスコールを抱き寄せ、濃茶色の髪を撫でれば、微かにスコールの目元が緩んだ。

細い腕がウォーリアの首に回されて、ぎゅ、と身を寄せられる。
甘えているようだな、と思って、ウォーリアは小さく笑みを浮かべた。


「うぉる……」


ほっと、安堵したような声。
まるで安心できるものを見付けたような。




すぅ、すぅ、と小さな寝息が聞こえてくる。

その音に、良かった、と小さく笑みを漏らして、ウォーリアは目を閉じた。





1月8日でウォルスコ!

甘えたいけど、プライドと、そんな事して嫌われないか飽きられないかって思って、寝てる時まで甘えられないスコールでした。

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[レオン&子スコ]はるのななくさ

  • 2013/01/07 23:30
  • カテゴリー:FF

レオンお兄ちゃんと子スコで春の七草。
レオンが成人しているので、設定はおそらく[サンタさんへ おねがいします]と同じです。





「せり、なずな、ごぎょう、は、は…」
「はこ?」
「はこべら、ほとけのざ、すずな、すず、す、…」
「すず、し?」
「すずしろ!」


最後の一つを元気よく発表したスコールに、レオンはくすくすと笑いながら、よくできましたと頭を撫でてやった。


「凄いな、スコール。もう全部覚えたのか」
「うん!」


膝の上に乗せた小さな弟は、嬉しそうに兄を見上げて頷いた。
ぷくぷくと丸い頬が赤らんでいるのが、なんとも可愛らしい。

そんな二人の前には、クッキングヒーターが出されており、その上には鍋が置かれている。
その中で温かな湯気を立ち上らせているのは、今日の夕飯の七草粥。
柔らかく溶けた粥の中に、所々に散らばっている緑色が鮮やかで、他にも輪切りにされた白い茎が入っている。
年末年始から色々と華やかな食卓が続いたが、今日は質素なこの一品と、薄味の味噌汁と漬物のみ。
しかし、スコールは質素な食卓をつまらなく思う事はなかったようで、そんな事よりも、兄から教えてもらった“七草”を暗記暗唱する事に夢中になっていた。

レオンは膝上のスコールを抱え直すと、半纏の垂れた袖を捲りあげて、鍋に入れていたお玉を手に取った。
ぐるぐるとかき混ぜて、もう良いかな、と呟くと、スコールが炬燵テーブルの端に置いていた大小のお椀の内、大きなお椀を取る。


「はい、お兄ちゃん」
「ああ、ありがとう」


差し出されたお椀を受け取って、レオンは鍋からお椀に粥を移す。
それから、スコール用の小さなお椀にも粥を移し、


「ほら、スコール。熱いから、ちゃんとふーふーして食べるんだぞ」
「うん。いただきます」


お椀をテーブルに置いて、きちんと手を合わせて、食前の挨拶。
レオンも一緒に手を合わせ、習うように挨拶をした。

粥は箸では少し食べにくいだろうと、レオンが用意したのはレンゲだ。
猫のマークが描かれたレンゲはスコール専用で、使う度に嬉しそうにしている。
今日もスコールは、レオンに渡された猫のレンゲを嬉しそうに見つめた後、粥を掬ってふーふーと息を吹きかける。
あーん、と大きく口を開けて、ぱくん、とスコールは一口。


「はふ」
「まだちょっと熱いか」
「ん、でもおいし」


はふはふと口の中の熱さを逃がそうとするスコールに、レオンはくすくすと笑う。
こくん、と粥を飲み込んで、スコールは二口目は念入りに冷ましてから口の中に入れた。


「梅、あるぞ。塩の方が良いか?」
「ウメがいい」
「丸ごとは大きいか。解そうな」


小さな器に入れていた梅は、ふっくらと果肉を膨らませている。
レオンは箸で梅の果肉を解して細かくし、スコールの粥の中に少量入れてやった。
少し掻き混ぜてから、スコールは粥を掬い、ふーふー、と息を吹きかけて、口の中へ。


「どうだ?」
「んぅ……ふへへ」
「そうか」


見上げるスコールの後頭部が、こつんとレオンの胸に押し当てられる。
にこにこと嬉しそうに見上げてくる弟に、レオンは笑みを浮かべて良かったと言った。
零れるぞ、と苦笑しながら言えば、うん、と素直な返事が返ってきて、スコールは食事に向き直った。

レオンも膝上のスコールに粥を零さないように気を付けながら、自分の分を口に入れる。
すっきりとした味が口内に広がって、少し塩気が足りなかったかなと思っていたのだが、これくらいなら許容範囲だろうと安堵した。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「ん?」
「これ、なあに?せり?なずな?」
「スズシロかな」
「すずしろ。これ、すずしろ?」
「うん」
「すずしろ」


確かめるように繰り返して、あーん、とスコールはスズナを口の中に入れた。
むくむくと顎をしっかりと動かして、スコールは粥を飲み込んだ。


「これは?」
「うーん……ナズナかな?」
「なずな」
「多分」


蕪のスズナや、大根のスズシロは、刻んでも触感や見た目ですぐに判るが、他は混ぜてしまうと少し判り難い。
よくよく見れば、茎や葉にもそれぞれ特徴があるから判るのかも知れないが、レオンもそこまでは把握していなかった。
曖昧な返事にスコールが起こることはなく、なずな、と確かめるように呟いて、ぱくりと食べる。

普段、あまりハイペースで食べる事がないスコールだが、今日は腹が減っていたのか、薄味の粥が食べ易かったのか、あっという間にお椀を空にした。
すっきりとしたお椀を見詰めて、物足りなさそうな顔をするスコールに、レオンは遠慮しなくて良いのに、とくすりと笑う。


「お代わり、あるぞ」
「食べるっ」
「よしよし」


もしも動物のような耳や尻尾があったら、きっと耳はピンと立って、尻尾は嬉しそうに振られていたことだろう。

二杯目は一杯目よりも、心持少なめに。
粥は食べ易いものではあるが、案外と腹に溜まる。
今日のスコールはいつもよりもよく食べているが、元々スコールは小食な方だから、あまり沢山は食べられないだろうと思ったのだ。

クッキングヒーターの上で温まっていた粥。
ほこほこと湯気を立てる二杯目のそれを、スコールはレンゲで掬ってふー、ふー、と冷ました後、


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「ん?」
「あーん」


レンゲから粥が零れ落ちてしまわないように、気を付けながら持ち上げて、スコールは言った。
ぱちり、とレオンが瞬きをすると、スコールはにこにことして、


「はい、あーん」


言葉と一緒に、どうぞ、と差し出されるレンゲ。

レオンはくすりと笑みを零し、あーん、と口を開けた。
子供用のレンゲはレオンには小さくて、掬われていた粥も一口で空になる。
もぐもぐと顎を動かすレオンを、スコールはじっと見つめていた。


「おいし?」
「ああ。おいしいよ」
「……えへへ」


粥はレオンが作ったものだけれど、夕飯の買い出しをスコールは手伝った。
ハーブや香菜が売られている棚で、七草粥に使う七草がまとめて入ったパックを探して来て、と言われたスコールは、棚の端から端まで順番に捜して、「ななくさ」と書かれたパックを見つけた。
これ?と言って持って行ったら、レオンは笑顔を浮かべて頭を撫でてくれたから、スコールは大きな使命を終えたような気持ちで嬉しくなった。

だからこの七草粥に入っている七草は、スコールの功績なのだ。
それを食べて、おいしい、と言って貰えて、嬉しくない訳がない。

レオンの膝の上、炬燵の中でスコールの足がぱたぱたと遊ぶ。
ずり落ちそうになるスコールを支えながら、レオンはスコールの手からレンゲを取る。
きょとんとして見上げるスコールの視線を感じながら、レオンは自分のお椀から粥を掬って、ふーふー、と冷まし、


「ほら、スコール。あーん」
「あーん」


促すレオンに応えるように、スコールが小さな口を大きく開ける。
ぱく、とレンゲを口いっぱいに頬張れば、丸い頬がぷくんと膨らんで、レオンはくすくすと笑った。

口端から粥が零れないように気を付けながら、スコールの口からレンゲを抜く。
むぐむぐと顎を動かすスコールの口端に、米がちょこんとくっついていた。
レオンは炬燵テーブルの上に置いていたティッシュを取って、スコールの口のまわりを優しく拭く。


「おいしいか?」
「んく……うん!」


きちんと口の中にあったものを飲み込んで、スコールはレオンを見上げて頷いた。



今年も一年、どうか元気で。
膝上で無邪気に懐いてくる弟を抱きながら、レオンは心からそう願った。




おこたでおひざ抱っこであーんし合ってるお兄ちゃんと子スコが書きたかっただけです。
あと七草を暗記しようと頑張る子スコって可愛いなと思って。

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[サイスコ]ほだされていると知りつつも

  • 2013/01/07 23:10
  • カテゴリー:FF



表の顔と裏の顔、と言うものがある。
人前に出ている時に見せるものが表の顔、人のいない所などで覗く本性や、本音を漏らす時の様子を指して言うのが裏の顔。
それはどんな人間にも、多かれ少なかれ潜んでいるものだろう。

─────だが、こいつの裏の顔は酷い、と自分のベッドで滾々と眠る少年を見て、サイファーは思った。
平時が自立を象徴するかのように確りとしているだけに、落差がより一層酷いと思う。


「……おい、スコール」


眠る少年に声をかけた所で、返事がないのは判り切っている。
これが任務中であれば、サイファーがドアを開けた時点で覚醒しているのだろうが、今は休日。

指揮官と言う立場上、忙殺されているのが常である彼にとって、ようやく得られた久々の休日である事を思えば、こうしていつまでも惰眠を貪りたがるのも無理はないと言えよう。
サイファーとて、昨日まで目の下に隈を作りながら書類だの会議だの作戦立案だのに追われていた彼を見ていたのだから、安寧の時間を邪魔するのは非常に無粋である事は判っているつもりだ。
判っているのだが、サイファーはどうしても彼を起こさなければと思っていた。

スコールが眠っている場所は、サイファーの部屋のベッドだ。
彼は部屋主の事など露程も気にしていない様子で、すやすやと健やかな寝息を立てて眠っている。
それは別に良い、彼が何処で寝ようとサイファーは気にしない、例え此処が自分のテリトリーであるとしても、其処でスコールが日向の猫宜しく寝ているのはいつもの事だ。
だから、サイファーがスコールを起床させる事に拘っているのは、彼が陣取っている場所に問題があるからではない。

すぅ、とサイファーは息を吸い込んだ。
ベッドシーツの端を握って、せーの、と勢いよく掴んで上に乗っているスコールごと力任せに引っ手繰り、


「起きろテメェ!人に朝飯作らせといて、ぐーすか寝てるたぁどういう了見だコラ!」


怒声と同時に、どたん、と人が床に落ちる音。
言わずもがな、落ちたのはスコールだ。

サイファーがスコールを起こす事に執心していた理由は、ただ一つ。
昨夜の睦から押し流されるように眠りに付き、朝を迎え、先に起きたのは珍しくもスコールの方だった。
スコールはまだ眠っていたサイファーを揺り起し、寝惚け眼で舌足らずに「おなかすいた」と言った。
寝惚けている時にだけ見られる、子供返りしたスコールの言葉に、はいはいとサイファーは彼の頭を撫でて、朝食を作る為にベッドを出て、作っている間に顔を洗って着替えて置くようにとスコールに言い付けた。
その時スコールは、「……ん」と頷いて、ぼんやりとベッドの上に座り込んでおり、遠い記憶の幼い彼を思わせるその様子に、サイファーはこっそりと和んでさえいた。
……が、朝食の準備を終えて、出来たぞと呼びに来てみれば、スコールは主のいなくなったベッドの中で、布団に包まってすやすやと眠っていたのである。

本当は、サイファーとてもう少し眠っていたかったのだ。
指揮官であるスコールが多忙であるなら、補佐官であるサイファーも同様に多忙である。
二人の休みが重なる事など尚更貴重で、だからこそ昨日は睦み合った訳で、その末に、今日の午前はゆっくり惰眠を貪り、何某かの活動を始めるのなら午後からにしようと、サイファーはひっそり考えていたのだ。
それをスコールに話した訳ではなかったから、スコールに起こされた時は、仕方がないかと言う気分で起きる気になったのだが、


「おい!お前だけ寝てんじゃねえ、起きろ!」
「…………ぐー……」
「起きろっつーの!」


このままでは、折角作った朝食が冷めてしまう。
朝はあまり重いものが食べられない、しかし昨今のハードワークで栄養失調の気もあるスコールの為、色々と気を遣って作ったと言うのに。
せめてベッドの上に座って、起きていようとする努力をしていると言うならまだしも、見事に熟睡とは。

床に転げ落ちても、枕を抱いて眠り続けるスコールに、サイファーの米神に青筋が浮かぶ。
スコールの寝顔は、眉間の皺が取れていて、リノアの言葉を借りて言うなら「かわいい」訳で、サイファーも少なからずそれを気に入っている。
しかし、今ばかりはその愛らしい寝顔も、サイファーの苛立ちを助長させるものにしかならなかった。


「起きろ、ほら!朝飯だ!」
「……んぅ……要らない……」
「おめーが腹減ったっつったんだろうが」


ぎゅ、と頬を抓って言うサイファーに、スコールは嫌がるように頭を振る。
まだ寝惚けているのだろう、仕草が酷く幼い。
それも可愛らしくはあるのだが、やはり今のサイファーには苛立ちが増すばかりだ。

スコールの腕から枕を強引に奪って、強引に引っ張り起こす。
無理やり起こされたスコールは、取り上げられた枕を取り戻そうとするかのように、ふらふらと腕を彷徨わせた。


「起きろっつーの。顔洗って来いっ」
「うあ…」


立ち上がらせて背中を押すと、スコールはふらふらと歩き出した。
ごちん、と壁に体をぶつけながら洗面所に向かうスコールに、サイファーは深々と溜息を吐く。

スコールが寝汚い事は、幼馴染の間ではよく知られている事だ。
傭兵らしく、作戦中やガーデン生などの人目に着く所では、気配に敏感で、小さな物音でさえ睡眠を阻害されてしまう事があるスコールだが、気心の知れた者だけと一緒にいる時や、何事も警戒しなくて良いと安心しきっている時は、誰かに起こされない限り、中々自分で起きようとしない。
人一倍人目を気にする性格の所為か、限られた者にしか見せない無防備な姿は、見ていて微笑ましく思える事も多い。

だが、それも見る側が心穏やかでいる時の事。


「ったく……ンっとに手のかかる奴だぜ」


呟いた直後、がたーん!と言う物騒な音が洗面所から響いた。

いつもなら、その程度の物音を気にするサイファーではないのだが、こういう時はそうも行かない。
何をやらかした、と思いつつ、洗面所を除いて、サイファーはがっくりと項垂れた。


「何処をどうすりゃ、そうなるんだよ……」


スコールは、洗濯物の山に埋もれていた。
洗面台の横に設置している洗濯機の上に置いていた籠に入れていた洗濯物が、丸ごと引っ繰り返っているのである。
空っぽになった洗濯物が横倒しに転がっている様が、無性に虚しいものに見えた。

洗濯物に埋もれたスコールは、床に座り込んだまま動かない。
何処かぶつけたかとサイファーが覗き込んでみれば、またうとうとと舟を漕いでいた。


「オイ」
「………う、」


ぴしゃん、とサイファーがスコールの頭を叩く。
かくん、とスコールの頭が一度落ちたが、衝撃は覚醒を促す事には成功したらしい。
ぼんやりと霞む光を宿した青灰色が、サイファーを見上げる。


「サイファー……」
「顔洗ったのか」
「……ん」
「ちったぁ目ぇ覚めたか」
「……ん」


たどたどしい返事ばかりが繰り返されるのを聞いて、サイファーは溜息を吐く。
全然起きてねえ、と思ったが、何度怒鳴っても無駄であるのは判り切っているので、これ以上怒っても自分が疲れるだけだと言い聞かせ、スコールの手を引いて立ち上がらせる。


「リビング行って、先に食ってろ。腹減ってんだろ」
「洗濯物……」
「俺が片付ける」
「……ん」


こんな奴に片付けなんて任せたら、いつ終わるか。
寧ろ状況が悪化する、と決めつけて、サイファーはスコールを洗面所から追い出した。

まとめて片付ける方が良いと溜めていた洗濯物が、まさかこんなトラップになるとは思わなかった。
サイファーは床に散らばっていた洗濯物を掻き集めると、籠ではなく、洗濯機の中に投げ入れる。
ゆっくり休めるのはどうせ今日だけなのだから、洗濯物は今日の内に洗って干してしまおう。
幸い、外は晴れているし、天気予報でもバラム島は全域に渡って快晴となっている。
この機を逃せば、またいつ洗濯できるか判らないので、今日の内にやるべき事は全て済ませてしまうに限る。

洗濯機に洗剤を入れて、スタートボタンを押す。
回り出した洗濯機の音を聞きながら、すっきりとした洗面所を見て、これでよし、と一区切り。
やっと朝飯だとリビングに戻ったサイファーは、食卓の席についているスコールを見て、ぱちりと瞬きを一つ。


「……スコール」
「……ん」
「先食ってろっつったろ」
「……うん」


スコールは、食卓の席にはついているものの、食事を始めてはいなかった。
両腕でサイファーの枕を抱えて、うとうとと舟を漕いでいたばかりで、スプーンすら握っていない。

スコールは猫手で目を擦りながら、傍らに立って見下ろすサイファーを見上げ、


「朝ご飯、サイファーと食べようと思って」
「……」
「早く座れ。冷めるぞ」


いや、それはこっちの台詞だったのであって。
ついさっきまで、自分がスコールに言っていた言葉であって。
何を自分が待ってやっていたみたいな台詞をいけしゃあしゃあと。

─────と、思わないでもないのだが、


「う」


サイファーがぐしゃぐしゃと髪を掻き撫ぜてやれば、スコールは猫のように目を細める。
髪質の所為か、寝癖であちこちぴんぴんと跳ねた髪が、更にあちこちへ跳ねる。


「なんだ」
「なんでもねーよ」
「……意味不明だ…」


拗ねたように唇を尖らせるスコールに、サイファーはくつくつと喉で笑う。
それを見たスコールが、益々意味不明と首を傾げていたが、サイファーは何も教えるつもりはなかった。



なんだか、無性に気分が良い。
先程までの苛立ちは、さっさと忘れて、思い出さない事に決めた。
人間、気分の良い方にいるのが気持ちが良いものだ。

食事が終わったら、洗濯物を干して、スコールをバラムの街へ連れて行こう。
ジャンクショップにでも行けば、スコールの気を引く物が見つかるかも知れない。


卵焼きが甘くない、と言うスコールに、晩飯で作り直してやると約束して、サイファーはパンを齧った。





スコールの世話を焼いてるお兄ちゃん気質なサイファーが好きです。
色んな意味でサイファーには自分のことを隠さないスコールとか。

そんなまったりサイスコが書きたかった。
結果、何故かスコールが緩い子になってしまったw

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