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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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カテゴリー「FF」の検索結果は以下のとおりです。

[ティスコ]甘やかし愛

  • 2013/10/08 23:11
  • カテゴリー:FF


ティーダは甘えたがりだ。
スコールからすると、そう見える。

彼のパーソナルスペースはとても狭く、まるで当たり前の事のように距離を近付けてくる。
子犬のように手を振って駆け寄って来たと思ったら、其処で立ち止まれば良いものをと言う距離で、地面を強く蹴って飛びついて来るのだ。
不意打ちを食らって、何度無様に尻餅をついたか判らない。
それだけでは終わらず、じゃれつくように抱き着いて来たり、頬を摺り寄せて来たり、────キスしたり。
やめろ、と何度言っても、「良いじゃん、たまには」と言って、また抱き着いて来る。

ティーダは人と触れ合う事が好きなのだろう。
人と接して、手を繋いで、温もりを重ね合わせると、それだけでティーダはとても嬉しそうに笑う。
誰かと触れ合う事で安心しているのだろう、彼に触れられるとそんな気持ちが伝わって来る気がする。

けれど時々、彼はとても寂しそうな顔も見せる。
それはほんの一瞬で、誰にも気付かれる事もないけれど、あれも確かに、彼の心を零した貌だった。
大好きだよ、と言ってキスした直後、見間違いにも思える刹那に零れるその貌が、無性に胸の奥を抉る。



スコールは甘えたがりだ。
ティーダがすると、そう見える。

彼のパーソナルスペースはとても広く、数メートル手前まで近付くだけで、毛を逆立てた猫のように身構える。
背中からこっそり近付いても同様で、後頭部に目がついているのではないかと思う程、気配に敏感だ。
それならいっその事、と正面から近付いていくと、眉間の皺が警戒レベルを判り易く示してくれるのが見えて、気弱な人間ならそれを見ただけで足踏みするだろう。
その割に、強引に接触して来る人間に対しては無防備で、お陰で勢いよく飛び付いてやると、意外と振り払われない。
捕まえた、とばかりに腕の中に閉じ込めて、柔らかい髪をぐしゃぐしゃに掻き混ぜると、スコールはやめろ、と怒鳴る。
怒鳴る割には、やっぱり振り払おうとしないから、それに甘えてキスをする。

スコールは、本当は人と触れ合いたいのだろう。
ただ、それ以上に触れ合う事を怖がっているから、触れるだけで彼はとても寂しそうな顔をする。
誰かと触れ合う事で、安心して、それ以上に不安になるから、決して自ら触れようとはしない。
でも、甘えたがり屋だから、誰かの温もりを求めずにはいられない。

彼は時々、泣き出す手前の子供のような貌もする。
それはほんの一瞬で、決して誰かにその瞬間を見せようとはしないけれど、それは確かに、彼の一番深い部分を零した貌だった。
その貌を見ているのが辛くて、安心して欲しくて、温もりは怖いものじゃないんだと伝えたくて、キスをする。




身体を重ね合わせた後の気怠さは、決して不快なものではなかった。
多分、眠い所為だな、とスコールは思っている。

そのまま眠ってしまえたら一番楽なのだが、傍らにいる存在がそれを赦してくれない。


「……ティーダ……眠い……」
「うん。いいよ、先に寝て」
「……じゃあ止めろ……」
「やだ」


そう言ったティーダの唇が、スコールの頬に触れる。

行為の後、ティーダは決まって、スコールにキスの雨を与える。
彼の唇が肌に触れる度、温かくてむず痒い感覚が生まれて、その所為でスコールは眠る事が出来なかった。
他にも、首下や胸をくすぐる指先や、彼の金糸が肌を掠めるのが、スコールには耐え難い。

このキスの雨は、スコールが眠るまで延々と続けられる。
行為の負担はスコールの方が大きいとは言え、ティーダも疲れていない訳ではないだろうに、彼は必ず、スコールが眠るまで、こうしてキスをし続けていた。
早く眠れば良いのに、と思いつつ、スコールは溜息を吐いて目を閉じる。


「痕、つけて良い?」
「却下」


ティーダの言葉をきっぱりと返すと、えー、と不満そうな声が漏れた。
その声を聞きながら、スコールは冗談じゃない、と口の中で苦く呟く。

今でもジタンやバッツにティーダとの仲を揶揄われているのに、痕なんか見付かったりしたら、彼等に余計に突っ込まれるに決まっている。
ただでさえ揶揄われては否応なく真っ赤になる自分に嫌気が差しているのに、これ以上何か言われるのは御免だ。
────と、思っていると、ちう、と鎖骨に吸い付かれて、スコールは跳ね起きる。


「あ、まだ薄い。もう一回」
「止めろ!」
「だーめ。ほら、大人しくしろって」
「このっ……!」


じたばたとベッドの上で縺れ合う。
二人の身長はそれ程差はないのに、ウェイトに差がある所為か、力でスコールが敵う事はない。
かと言ってスコールが大人しくする訳もなく、スコールは膝や肘でティーダの体を押し戻そうと奮闘する。


「いいじゃないっスか、ちょっと位」
「嫌だ!それも、こんな目立つ所……」
「じゃあ背中。背中だったら見えないし、気にならないだろ?」


ティーダはスコールが、見える所、バッツやジタンに見付かる所だから嫌がっているのだと思ったらしい。
それもあるが、そう言う問題じゃない、とスコールが顔を顰めていると、体を引っ繰り返される。

背中に重みが乗ったのを感じて、スコールは諦めた。
肩甲骨や背筋をティーダの手が撫でて、ぞくん、としたものが奔ったけれど、スコールはベッドシーツに顔を埋めて、気付かない振りをした。
ティーダの髪の毛先が肌をちくちくとくすぐっている。
その隙間に、ティーダの唇が降って来て、時折吸い付くようにピリッとした小さな痛みが感じられた。

しばらくティーダの好きにさせていたスコールだが、そのまま一分、二分と時間が経つに連れ、無性に気恥ずかしさが感じられて来た。
ちらり、と肩越しに背中を見遣れば、ティーダの赤い舌が背筋を這っている事に気付いて、顔から火を噴く。


「────っ」
「あいたっ」


スコールは、ティーダの頭を打つ事も気にせず、寝返りを打った。
シーツを手繰り寄せて巻き付き、ティーダから背を逃がすようにして横になる。


「もう終わり?」
「終わりも何もあるか。お前もいい加減に寝ろ」
「良いじゃん、もうちょっと」
「捲るな!」


シーツの端を捲って、スコールから布地を奪おうとするティーダ。
スコールはシーツの裾を掴んで全力で抵抗する。

スコールが断固として譲らない事を察したティーダは、むぅ、と不満げに唇を尖らせると、


「良いじゃん。もうちょっとだけ」


そう言って、ティーダはシーツごとスコールを抱き締める。
スコールは判り易く眉根を寄せてティーダを睨んだが、直ぐに溜息を漏らして眉間の皺を解いた。

暴れないスコールを見て、ティーダが嬉しそうに笑う。
硬いブリッツボールを投げて受けてと練習している所為か、皮の厚い手がスコールの頬に触れる。
ティーダはスコールの頬にかかる髪を避けて、そっと額の傷に口付けた。


「……もう寝ろよ……」
「うん。もうちょっとしたら、寝る」
「………」
「だからそれまで、もうちょっと、良いだろ?」


青が蒼を真っ直ぐに捉えたまま、言った。
スコールは睨むように青を睨んでいたが、逸らされない瞳に根負けしたように、また溜息を一つ。



温もりを分け合うように、キスが繰り返される。
ティーダはスコールに触れ続け、スコールはそんなティーダを好きにさせる。

────甘えているのは、果たしてどちらの方だろう。





多分どっちも、甘えたがり。
ティーダは甘やかしたがりもありそう。

ティスコははぐはぐラブラブしてると可愛い。
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[ジタスコ]君の手は此処に在る

  • 2013/09/08 21:54
  • カテゴリー:FF



キスしてやりたい。
そんな風に思う事が、唐突に、ある。



そんな時、彼は大抵、少しだけ遠くを見ていて、寂しげな横顔を覗かせている。
バッツは、そんな彼を見付けると、そっとして置いてやろうと言う。
普段、あれだけ無邪気な子供のように振る舞っている癖に、こんな時には大人なんだなと思った。

多分、きっと、その方が良いのだろうとジタンも思う。
記憶の中に映る何か、誰か、きっとそれを思い描いているのだろうと言う事は、ジタンにも判る。
記憶の中の情景は、その人の中にでしか存在し得ない不可侵的なものだから、記憶の世界に思いを馳せている彼を邪魔しては行けない。
仲間達がそれぞれ大なり小なり記憶が欠けている世界にあって、ジタンは比較的元の世界の記憶を多く所有していたが、やはり部分的に欠けてしまっている所があるのは否めない。
だから、自分自身の意義すら曖昧にしか覚えていなかった者が、懐かしい記憶を思い出した時、懐かしむようにぼんやりと立ち尽くす時の気持ちは、全く判らない訳ではなかった。

───判らない訳ではない、けれど、ジタンは彼を放って置く事は出来なかった。


「スコール!」


立ち寄った歪の中にあった、満開の花畑の中に、スコールは立ち尽くしていた。

白、藍、黄色の淡い花々の中に、黒衣の彼はよく映える。
ジタンは、そんな彼の背中に勢いよく飛び付いた。


「っ……お前か」
「おう。どーした、そんな所でぼーっとして」


突然の背中の衝撃に蹈鞴を踏みつつ、スコールは踏み止まって、腰にくっついた尻尾の少年を見た。
ジタンはゆらゆらと金色の尻尾を揺らし、一つ年上の長身の青年を見返して訊ねる。


「……別に、どうもしない」
「そうか?」
「ああ」


そうか、ともう一度ジタンが言うと、ああ、とスコールももう一度言った。

スコールの視線が、また遠くへと向けられる。
彼の青灰色の瞳は、遠くまで広がる目の前の穏やかな景色を見ていない。

ジタンは、しばらくそんな青年をじっと見詰めていたが、


「なあ、スコール」


名を呼んで、重力に従い降ろされていた手を握ると、びくっとスコールの肩が跳ねた。
構わずに捕まえた手を握り締めると、始めは強張っていたその手が、少しずつ緩んでジタンの手に委ねられる。

委ねられた手は、微かに震えていた。
まるで怯える子供のように震えていて、ジタンはその理由を彼に問うた事はない。
良くも悪くも頑固で口下手なスコールは、震えている理由を聞いた所で、言葉を探して戸惑いに視線を彷徨わせるばかりだろう。
そして、言葉よりも雄弁にその心を映し出す瞳で、ジタンをじっと見詰めるのだ。

だからきっと、ジタンがどう足掻いても、スコールが何に怯えているのか知る事は出来ない。
それは少し淋しい事ではあるけれど、知らないままでも良い、とジタンは思う。


「大丈夫だよ」


言うと、スコールがゆっくりと此方を見た。
ぎゅっと手を握って笑みを浮かべてやれば、スコールはぱち、ぱち、と瞬きを繰り返す。

スコールの口が開いた。
何を言おうとしたのか、多分、「あんたは何を言っているんだ」とか、そんな所ではないだろうか。
当たらずとも遠くはないだろうと思いつつ、ジタンはスコールの声が音になる前に、繋いだ手を引っ張った。

悔しい事に、スコールはジタンよりもずっと身長が高い。
世界の違いか、種族の違いか、二人の身長差はかなりのもので、ジタンは見上げなければ───スコール相手に限った話ではないが───スコールの顔を見る事が出来ない。
だから、ふとした瞬間に駆られた衝動に従おうと思ったら、少し強引な手段を取らなければならない。
女性が相手であれば、身長差すら演出の一つにして見せる自信があるけれど、相手は男で、それも稀代の鈍感天然となれば、話は別だ。
綺麗に飾った口説き文句も、物語仕立ての演出も、何もかも首を傾げて此方の思惑を通り抜けてしまうのだから、直球勝負しか道はない。

出逢った当初の人を寄せ付けない空気に反し、スコールは気を許した人間に対して無防備である。
突然引っ張られるとは思っていなかったのだろう、スコールはがくっと姿勢を崩して、ジタンへ向かって倒れ込んだ。
慌てて踏ん張ろうとするスコールだったが、ジタンはその肩を掴まえて、もう少しだけ引き寄せる。
一瞬、唇が触れ合って、直ぐに離れた。

すとん、とコールの膝が地面に落ちた。
呆然とした表情で、スコールは間近にあるジタンを見詰める。
ジタンはそれを真っ直ぐに見詰め返し、


「大丈夫だって。恐い事なんかないからさ」


だから今は、こっちを向けよ。

そう言って、ジタンは笑った。
スコールはぱちり、と瞬きをして、ジタン、と音なく目の前の少年の名を紡ぐ。

膝をついたままの彼を、ジタンは強く抱き締めた。
ぽんぽん、と子供をあやすように背中を叩いてやると、ことん、と彼の首が傾いて、柔らかい髪がジタンの肩をくすぐった。

そっと、額の傷にキスをする。
他の場所に比べるとほんの僅かに皮膚が薄いからだろうか、スコールは其処にくすぐったそうに目を細めた。
ついでにもう一度唇にキスをしようとしたら、黒革の手に押し返される。


「良いじゃんか。もう一回しようぜ。励ましたオレにご褒美ちょーだい」
「そう言うのは、自分から打診するものじゃない」
「言わなきゃしてくれないじゃんか」


長い腕を突っ張って押し返されれば、リーチの差でジタンの負けだ。
ちくしょう、と密かに悔しく思うジタンを無視し、スコールはすっくと立ち上がる。

いつものように眉間に皺を寄せるスコールに、ジタンは小さく笑みを零す。


「そろそろ行こうぜ。バッツがあっちで待ち草臥れてる」


そう言って差し出したジタンの手を、スコールは訝しむように睨んだ。
構わずジタンはスコールの手を掴まえて、歩き出す。

繋いだ手は、振り払われる事はない。
ジタンが羨む長い足を持つスコールの歩は、心なしか覚束なく、夢心地の中にいるように思える。
それでも、ジタンが繋いだ手を握る手に力を籠めれば、少し驚いたような間の後で、同じ力で握り返してくれた。



少し離れた場所で、バッツが青空を此方に背を向けて、抜けるような青空を見上げていた。
名前を呼んで彼の下に急ぐと、振り返って褐色の瞳が無邪気に笑う。

何も知らない、気付いていない振りをしてくれる友に感謝して、ジタンは繋いだ手を強く握った。





9月8なので、ジタスコ!
ジタンなら、スコールの不安とかも全部ひっくるめて包んでくれるくらいの包容力があると信じてる。
だってFF界きっての男前だもの。

でもちょっとムキになり易いジタンも好きです。
そして、そんな若い二人を見守る大人なバッツも好き。
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[クラレオ]プリーズ・リピート・フォー・ミー

  • 2013/08/11 22:02
  • カテゴリー:FF
クラレオでクラウド誕生日祝い。




昨夜の情交の名残だろう、腰や下腹部の違和感を覚えつつ、レオンは目を覚ました。
否応なく何度となく味わったこの感覚は、やはり慣れるものではない────と言うよりも、慣れたくない、男のプライドとして。
しかし、プライド云々と拘った所で、現在のこの関係を解消しようと言う気もないのだが。

レオンにそんな複雑な心境を抱かせる元凶とも言える男は、隣ですやすやと安らかに眠っていた。
その暢気な表情がどうにも癪に障って、レオンは男────クラウドの高い鼻を摘まんでやった。
呼吸が阻害された違和感を感じ取ったか、クラウドは常のレオンとよく似た皺を眉間に寄せて、鼻の代わりに閉じていた口をぱかりと開けた。
かーかーと寝息を立てる男をしばし見つめた後、レオンは開いていた手でクラウドの口を閉じてやる。

しん、としばしの間、静寂がその場を支配していた。
かと思うと、クラウドは目を閉じたまま、じたじたと手足を暴れさせ始めたのだが、レオンは彼を解放しようとはしなかった。
いつまでこのままでいられるかな、と十何年振りかの子供のような悪戯心をわくわくと働かせていると、


「─────~~~~~っっ!!!」


カッ!と碧眼を見開き、声にならない(出来ない)声をあげたクラウドの顔は、破裂しそうな程に真っ赤に染まっている。
いつも何処かぼんやりとマイペースを崩さない碧が、これでもかと言わんばかりに必死になっているのが見えて、レオンはくつくつと笑った。

じたばたともがき続けたクラウドは、このままでは本当に自分の命が危ういと思ったか、本気の力で暴れ始め、レオンをようやく振り払う。


「ぶはっ!!」
「くく……っ」
「レオン!」


楽しげに笑うレオンに、クラウドが眉尻をつり上げて名を呼ぶ。
殺す気か!?と怒りの形相で睨むクラウドに、レオンはこほん、と咳払いを一つして、


「おはよう、クラウド」
「おはよう。じゃない。あんた、俺に何の恨みがあるんだ」
「自分の胸に手を当てて考えるんだな」


肩を掴んで詰め寄ってくるクラウドをやんわりと退かせて、レオンはベッドを抜け出した。
裸身の体に、じっとりと湿気が染み込んでくるのを感じながら、床に落ちていたリモコンを拾って空調のスイッチを入れる。

シェルフからインナーとズボンを出して着ると、レオンは寝室を出た。
置いてけぼりにされたクラウドが、ちょっと待て、と言いながらどたばたとベッドを降りる音がする。

構わずにレオンはキッチンへ立つと、冷蔵庫から卵とパンを取り出して、パンをトースターへ、卵をフライパンへと落とす。
ジュウジュウと白身に火が通って、色が変化していく様子を眺めなていると、クラウドが寝室から出てきた。
クラウドは上半身は裸で、ズボンだけを身に付けており、腰のベルトもきちんと通すのが面倒だったのか、中途半端に腰回りにまとわりついているだけだ。
だらしのない、と思うレオンだが、そんな姿も最早見慣れた。

がりがりと金色の頭を物臭げに掻きながら、クラウドはレオンへと近付くと、卵の焼き加減お確認するレオンの背中にぴったりと密着した。


「邪魔だ、クラウド」
「…今日はやけに扱いが悪くないか」
「別に。いつも通りだと思うが」


不満を訴えようとするクラウドだったが、レオンはさっさと受け流した。
正直レオンには、子供のように不満げな顔をする男の機嫌の上下よりも、卵とトーストの焼き加減の方が気になる。

背中にくっついている所為で邪魔になる男を肘で押し退けて、レオンは焼き上がった目玉焼きを皿へと移して、クラウドに運べと命じる。
クラウドは素直にそれを聞いて、二人分の目玉焼きをテレビの前のローテーブルへと運んだ。
トースターがチン、と音を立てて、レオンは良い焼き目のついたパンを取ると、トレイに乗せた。
インスタントのブラックコーヒーを二つ並べてトレイに乗せ、ミルクとシロップを一人分だけ用意して、クラウドが待つテーブルへと運ぶ。


「ほら、何ボーッとしてる。冷めない内に食べろ」
「………ん」


レオンに促され、のろのろと食事を始めるクラウド。
レオンもその隣に座って、トーストをかじった。

はあ、と隣から露骨な溜め息が聞こえた。
いつもはレオンの作った朝食をがっつくように食べ始めるのに、妙だな、とレオンは胸中で首を傾げる。
ひょっとして、先のレオンの悪戯をまだ怒っているのだろうか、と思ったが、横目に伺う限り、彼の表情は怒っているとは言い難い。
どちらかと言えば、───彼にしては珍しく───消沈していると言う風に見えた。
確かに、ぎりぎりまでクラウドの必死な姿を楽しんでいたレオンであるが、あの悪戯が此処まで尾を引くものだろうか。
仮にそうだとしても、この男は悪戯の仕返しとばかりに、露骨なセクハラ攻撃をしてくるのが関の山だと思っていたのだが、今日は一体何の心境の変化なのか。

隣の男が妙に静かであることが、どうにも気持ちが悪い。
べたべたとくっつかれても面倒だが、それが日常であった事も確かで、レオンはどうにも落ち着かない気分になっていた。


(………ん?)


ふ、と。
なんとなく視界に入ったカレンダーを見て、レオンはしばし停止した。
それから、ああ、成る程、と。

やれやれ、と今度はレオンが溜息を漏らす。
かじったパンを飲み込んで、レオンは一口、コーヒーを飲んだ後、


「クラウド」
「……ん」


呼べばいつも、懐いた犬のように嬉しそうに振り返るのに、今日は気もそぞろな返事だけ。
ある意味判り易いな、と思いつつ、レオンは金糸の隙間から覗く丸い耳を引っ張った。


「あたたたたた」
「呼ばれたらちゃんとこっちを向け」
「いたたた判った、判った。なんだ、一体」


今朝からの些細な(少なくとも、レオンにしてみれば可愛いものである)無体が尾を引いているのだろう、クラウドは面倒臭そうに振り返る。

その唇に、レオンは己のそれを押し当てた。
ほんの一瞬、掠めるように。


「…………………………お?」


ぱちり、と碧が瞬きを一つ。
そうすると、元々の童顔さと相まってか、レオンには妙にこの男が可愛らしく見える。

零れかけた笑みを殺して、レオンは自分の食卓に意識を戻した。
ナイフとフォークで卵の黄身を割ると、半熟の卵からとろりとした黄身が溢れ出した。
何事もなかったかのように朝食を再開させるレオンの隣で、クラウドがふるふると肩を震わせる。


「………おい、レオン」
「早く食え。片付かない」


呼ぶ声に平然とした声で返せば、がしっ、とクラウドの手がレオンの肩を掴んだ。
きらきらと、これでもかと言わんばかりに輝かしい目を近づけるクラウドに、レオンは眉根を寄せる。


「レオン、さっきの」
「………早く食え」
「もう一回」
「断る」
「良いじゃないか。今日ぐらい、俺の頼み聞いてくれても」
「もう聞いてやっただろう」


レオンの言葉に、クラウドはきょとんとした表情で首を傾げる。
そんなクラウドを見て、レオンは溜め息を一つ吐いて、


「……たまには俺からキスしろって、昨日の夜、言っただろう」


そう言って碧眼を真っ直ぐに見返す蒼灰色は、静かな光が湛えている。
けれど、その傍らで白い筈の頬が微かに紅潮しているのを見て、クラウドは信じられないものを見るように瞬きを繰り返す。

かと思うと、ガバッ!とクラウドは勢い良くレオンに抱きついてきた。
思わぬ───今までの経験を思えば、十分に予測の範疇であったが───男の行動に目を丸くしている間に、レオンは床に倒れる事となる。
運良くクッションがあったお陰で痛い思いはしないで済んだが、変わりに頭を強かにぶつけて、一瞬意識が遠退きかけた。
痛む頭を抱えつつ起き上がろうとすると、腹の上に乗ったものが邪魔になって、中途半端に頭だけを起こした形で止まる。


「……おい」
「ん」
「邪魔だ」
「良いじゃないか。俺の誕生日だし」


クラウドの言葉に、レオンは溜息を漏らす。


「プレゼントなら、もうやっただろう。十分だろ」
「もっと欲しい」


明け透けに欲求をぶつけられて、レオンはやっぱり調子に乗った、と思う。
こうなると後が面倒なのが目に見えているから、日頃から甘やかすまいお思っていたのだが、ああも判り易く落ち込んだ態度を取られてしまうと、どうにも弱い。

腹の上に乗っている男は、レオンが自分の願いを叶えてくれるまで、離れようとはしないだろう。
全く以て面倒な、と思いつつ、レオンの眦は心なしか柔らかい。
今更ながら、随分と絆されたな、と思った。


「欲張りたいなら、早く飯を食え」
「食ったらもっとくれるのか。プレゼント」
「……そうだな。考えておいてやる」


それだけ言ってやると、腹の上の重みが消えた。
決して多い量の朝食ではないのに、急ぐようにがつがつと食べ始める男に、レオンはこっそりと笑う。



一心不乱にパンをかじる男の頬に、掠めるように唇を当てる。
ぽろ、とクラウドの手からパンが落ちたのを見ない振りをして、レオンは自分のパンをかじる。

嬉しそうに飛び付いてきた男を、片手で制して、レオンは食後のコーヒーに口をつけた。





誕生日なので、たまにはレオンさんの方から。
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[クラスコ]プレゼントボックス 1

  • 2013/08/11 21:25
  • カテゴリー:FF


今日がクラウドの誕生日名のだと知った秩序の面々の行動は、早かった。

様々な世界の断片が入り乱れたこの神々の闘争の世界で、今日が何月何日であるかなど、正確に判るものなどいない。
春夏秋冬等と言うものはないし、真夏日の翌日には雪が降っている、と滅茶苦茶なのは最早日常。
当てになるものと言ったら、モーグリショップで購入したカレンダーくらいのもので、これも捲り始めた日が本当は何日であるのか、明確な標になるものはなかった。
だから、今日が“8月11日”であると言うのは、カレンダーを捲り始めてからそれだけの時間が経った、と言う程度のものだ。
半年以上もこの世界で闘争を繰り返しているのかと思うと、些か気が滅入りそうにもなるが、そんな時こそ、楽しいイベントは重要視される。
常識だの理屈だのと言う事はさて置いて、今日と言う日が特別な日にして、盛り上げる事が先決だ───とは、賑やか組三名の言葉である。

バッツ、ジタン、ティーダの三人のお陰で、今日の秩序の戦士達は、籤引きでハズレを引いた二名を残し、皆でクラウドの誕生日を祝う事になった(ちなみに、ハズレを引いたのはフリオニールとジタンである)。
とは言え、ハズレのメンバーも、仲間の誕生日の祝いたいので、任務は秩序の聖域周辺をぐるりと見回って来ただけ。

改めて秩序の戦士が揃った所で、クラウドの誕生日パーティは始まった。
肉をメインにしたご馳走に、バッツが買って来たシャンパン(未成年メンバーは果実ジュースだ)、ケーキはティーダがスコールにせがみ、ルーネスに手伝って貰いながら作ったもの。
ついでに、リビングはティナとセシルとが飾り付けを行い、可愛らしくも華やかである。
ウォーリア・オブ・ライトも飾り付けを手伝ったようで、所々歪な飾り輪がそれだろう。

そんないつもより華やかなリビングで、仲間達から何度も祝いの言葉を投げかけられて、クラウドは鼻先がくすぐったくなるのを感じていた。


(二十歳も越して、今更こんなに祝って貰うような事でもないんだがな)


隣のセシルから注いでもらったグラスを傾けつつ、クラウドは喉奥で笑みを殺す。
逆隣からは、ティーダがこれも食べろあれも食べろと、沢山の肉をクラウドの皿に移して来る。
幾らなんでも、そんなには食べれない、とクラウドは思うのだが、ティーダの楽しそうな顔を見て、クラウドは断りの言葉を飲み込んだ。
ケーキも食べ終え、ティナやルーネス、フリオニールも楽しそうにしているし、此処は自分もこの空気に酔うべきだ。
ウォーリアも、明々楽しむ仲間達を叱る事なく、この賑やかな夕食を、心なしか和らいだ眦で眺めていた。

こんな風に盛大に祝って貰うような柄ではないが、祝って貰える事は、やはり嬉しい。
そう思いながら、クラウドはグラスの中身を空にした。


(だが……スコールは何処に行ったんだ?)


唯一、この祝いの席の不満を胸中で呟いて、クラウドは目線だけでリビングを見回した。

誕生日会と兼ねて夕食が始まった時、リビングには秩序の戦士十人が揃っていた。
しかし、いつの間にか三人の仲間がこの空間から姿を消している。
こうした賑やかさが好きなバッツとジタン、逆に苦手として敬遠しているスコールだ。

スコールが騒がしさを嫌うのは、クラウドもよく知っている。
だから、さり気無くを装って、こっそりとこの場を逃げたのも、無理はない────とは思う。
思うが、折角の恋人の誕生日なのだから、何か一言くらいは行って貰えないものだろうか、と密かに期待していたクラウドとしては、少々悲しいものがある。

零れかけた溜息を、もう一度グラスを傾けて誤魔化した。
そんな時、パン、パン、と大きな手拍子の音が響く。


「よーし、もうすぐ11時だ」
「お開きにしようぜ」
「えーっ。これからが楽しいトコじゃないっスか!」


スコールと同じく、いつの間にか姿を消していた筈のジタンとバッツの言葉に、ティーダが判り易く不満そうな顔をした。
無理もあるまい。
テーブルには、まだ沢山の豪華な料理が並び、シャンパンボトルも残っている。
お開きにするなんて早過ぎる、と言うティーダを、フリオニールが仕方ないだろう、と宥めた。


「明日からは、また戦いが始まるんだ。今日はもう休んで、明日に備えないと」
「ちぇー……もうちょっと楽しみたかったのにな」


今日の誕生日パーティが、夜の11時でお開きになる事は、事前に決められていた。
遅くまで騒いでいては、明日からの行動に差支えが出てしまう。
其処を混沌の戦士に攻められては、堪ったものではない。

もうちょっと祝いたかった、と言いながら、ティーダが席を立つ。


「じゃあ、クラウド。誕生日おめでと」
「ああ、ありがとう、ティーダ」
「おやすみー」


今日何度目か判らない祝いの言葉を改めて伝えて、ティーダはリビングを後にする。
ティナとルーネスも、片付けをフリオニールとセシルに頼んでから、クラウドの下へ駆け寄り、


「お誕生日おめでとう、クラウド」
「おめでとう。プレゼントも何も用意できなくてごめん」
「ありがとう、ティナ、ルーネス。俺には、その気持ちだけで十分だ」


ふわりと花のように柔らかい笑みを浮かべたティナと、少し照れ臭そうに頬を赤らめたルーネス。
そんな二人の表情と、貰った言葉だけで、クラウドは満たされた気分だった。

かしゃん、と金属の音が鳴る。
クラウドが顔を上げると、人形のように整ったウォーリア・オブ・ライトの顔があった。


「誕生日おめでとう、クラウド」


きっと、ティナやフリオニールから、誕生日にはこう言って祝うのだ、と教わったのだろう。
ウォーリアが言葉を告げた時の、何処かぎこちない言葉尻を感じ取って、クラウドは思った。


「あんたに言って貰えると、なんだか妙にくすぐったいな」
「……言わない方が良かっただろうか」
「いや、そういう事じゃない。嬉しいって事だ。ありがとう、ウォーリア」


クラウドの言葉に、そうか、と微かにウォーリアの口端が緩む。

踵を返し、ウォーリアがリビングを後にする。
ドアボーイのように扉前に立っていたジタンとバッツが、エスコートするように扉を開けた。
そして、ぱたり、と扉を閉じると、くるりとクラウドへと振り返り、


「クラウド、たんじょーびおめっとさん!」
「めでたいな!こう言う日って、もっとあれば良いのにな」
「ありがとう。ああ、そうだな」


賑やかし事好きなジタンとバッツにとっては、今日のような日は楽しくて仕方ないに違いない。
ティーダの「クラウドの誕生祝をやろう!」と言う言葉に、真っ先に乗ったのも、この二人だった。
豪華な料理を作って、リビングを飾り付けして、プレゼントも用意しよう、と彼等は言っていた。
結局、プレゼントは用意出来なかったのだけれど、代わりに二人はクラウドを楽しませる為、あれこれと曲芸や隠し芸を披露してくれた。

その割に、二人は夕食の席から、いつの間にか忽然と姿を消していたのだが。

皆の誕生日も祝いたいな、と言うバッツに、そうしよう、とジタンが頷いている。
ウォーリアの誕生日ってどうする?と言うジタンに、バッツが唸って首を捻った。
そんな二人に、クラウドは咳払いを一つして、


「あんた達、スコールは何処に行ったか知らないか?」


ジタン、バッツ、そしてスコール────この三人は、よく一緒に行動を共にしている。
だから、三人揃っていなくなっていると言う事は、てっきりスコールもこの二人と一緒にいるものだとばかり思っていたのだが、違うのだろうか。

今日一日、何も言わずに(ケーキは作ってくれたけれど)いなくなってしまった、恋人。
口下手な彼の事だから、こう言う状況になる事は予想していた。
けれども、せめて今日と言う日が終わる前に、もう一度彼の顔を見てから眠りたい。



彼の事だから、やはり自分の部屋か。

そんな事を思いながら訊ねたクラウドに、ジタンとバッツは、にんまりと笑った。




≫

長くなったので分けました。
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[クラスコ]プレゼントボックス 2

  • 2013/08/11 21:15
  • カテゴリー:FF


こっちこっち、と楽しそうに尻尾を揺らすジタンに手を引かれ。
早く早く、と此方も楽しそうに笑うバッツに背を押され。

連れて来られたのは、クラウドの自室。


「じゃっ!」
「おやすみー!」
「………は?」


軽快な挨拶をするなり、ジタンとバッツは、ぱっと踵を返して散って行った。
クラウドをその場に残し、各々の自分の部屋へ向かって。

────待て。
俺は、スコールは何処に行ったんだ、と訊いた筈だ。
それがどうして、自分の部屋に連れて来られる事になるんだ。

クラウドのその疑問は、音にする間もなく、訊ねる相手を失った。
バタン!とジタンの部屋の扉が閉じられる音が聞こえ、バッツの階段を上る足音が響く。
クラウドが彼らを追い駆ける事は簡単だが、追い駆けて捕まえて、何をしようと言う気もない。

ただただ、困惑に佇んでいたクラウドだったが、はた、と我に返ると、自分の部屋へと向き直った。


(……まさかとは思うが)


此処に、彼がいるのだろうか。
滅多に他人の領域に───部屋の主が許可しても尚───近付こうとしない、彼が。

クラウドは微かに緊張感を抱きつつ、自室の扉を開けた。
ギィ、と蝶番が音を立てて、電気のついていない部屋に、廊下の明かりが微かに差し込む。
その滑り込んだ微かな光が、部屋の真ん中にあるものを浮き上がらせていた。

クラウドは部屋に入って、電気を点けると、眼を擦った。
目の前に在るものが俄かに信じられなくて。


「…………」


しかし、何度目を擦って見ても、目の前にあるものは変わらない。
部屋の中心にどんと鎮座した、腰程の高さのある、四角形の箱は、確かに其処に存在していた。

一体何処から調達して来たのだろうか。
四角形の箱は、ピンクに白のドット柄で、如何にも可愛らしい風だ。
それに赤色の大きなリボンが括り付けられており、蓋の上で蝶結びに結われている。
如何にもな“プレゼントボックス”の様相をしたそれには、メッセージカードも添えられており、「Happy Birthday!」の文字と、チョコボの絵が綴られていた。

クラウドの脳裏に、楽しそうな表情のジタンとバッツが蘇る。
このプレゼントボックスをこの部屋に運び込んだのは、十中八九、あの二人だろう。


(………まさか)


スコールは何処に行ったんだ、とクラウドは彼等に聞いた。
そして彼等は、この部屋にクラウドを連れて来た。

……まさか、いや、まさか。
仕掛けたジタンやバッツ、ノリのよいティーダや、案外となんでも面白がって便乗するセシルならともかく。
殊更に真面目な気質故に、その真面目さを逆手に取られ、悪戯を仕掛けられる事のあるウォーリアでも、百歩譲って判る、としても。
あの気難しくて恥ずかしがり屋の彼が、こんな真似をする筈が。

いや、しかし、現状で考えられるのは、それしかない。
ついでに言うと、恋人が案外と押しに弱い性質である事も思い出し、


「……スコール」


呼んでみると、ガタッ、とプレゼントボックスが揺れた。
早く開けろ、と言わんばかりのそれに、クラウドは思わず漏れかけた笑いを噛み殺す。

リボンを解いて、蓋を開ける。
すると其処には、両手を布のリボンで縛られ、更にはリボンで猿轡をされているスコールが蹲っていた。
窮屈そうに長い足を縮め、じろりと睨む蒼灰色の瞳には、不機嫌を通り越した怒気が滲んでいる。
そんな恋人を見て、くく、とクラウドが殺し切れなかった笑いを漏らしたのは、無理もなく。


「あんた、ジタンとバッツが相手だと、本当に無防備だな。少し妬けるぞ」
「……っ!!」


上から箱の中を覗き込んで言ったクラウドを、射殺さんばかりの眼でスコールが睨む。
さっさと助けろ、と言わんばかりのスコールに、クラウドは苦笑した。

箱の中にいるスコールを捕まえて、腕の力で持ち上げる。
脇下から抱えるように持ち上げると、捕まれている場所が嫌なのか、スコールはもぞもぞと身動ぎしたが、こればかりは我慢して貰わなければならない。

スコールをプレゼントボックスから助け出すと、クラウドは彼の口に噛まれている猿轡を外した。
ようやく許された正常な呼吸に、はぁっ、と吐息が漏れるのが聞こえた。
そして、ぎらり、と凶悪な眼光が閃いた。


「あいつら、後で絶対殴ってやる…!」


あいつら────勿論、スコールをこんな目に遭わせた、ジタンとバッツの事だろう。
予想通り過ぎて、クラウドはくつくつと笑う。

ぎりぎりと怒りに歯噛みするスコールの横顔は、いつもの冷静を務めるものとは違い、非常に青臭くて、クラウドは微笑ましさを誘われる。
そんな事を当人が知れば、莫迦にしているのかと烈火の如く怒るのだろうが、それすらクラウドには愛しかった。
唯一、不満を呈するとすれば、そうした表情を引き出す事が出来るのが、自分ではないと言う事か。

猿轡を外してから、口元に笑みを浮かべて自分を見下ろす男を、スコールは見上げた。
じぃ、と無音の訴えを寄越す蒼灰色に、クラウドが気付き、首を傾げていると、


「早く解け」


可愛らしいリボンで縛られた両腕を突き出して、スコールは言った。

傭兵として教育されているのなら、縄抜け位は出来ないのだろうか。
そう思いながらクラウドはスコールを拘束するリボンを解こうとして、ぴた、と思い留まる。


「……クラウド?」


早く解いてくれ、と言うスコールだったが、クラウドの手はリボンに触れない。
それどころか、クラウドは一度出した手を引っ込めると、顎に手を当てて考え込んだ。


「クラウド、何してる」
「……うーん……」
「早く解け。あいつらが逃げる」


ジタンとバッツが逃げる前に、一発殴らないと気が済まない。
眉間に深い皺を刻んで呟くスコールだが、きっと彼らの顔を見たら、また絆されるのだろう。
いや、宣言通り一発くらいは喰らわせるのかも知れないが、彼らの口八丁に丸め込まれるのは目に見えている。
何せあの二人は、この気難しそうに見える少年の操縦方法と言うものを、よくよく心得ているのだから。

自分以上に恋人の機微に聡いあの二人に、妬ける気持ちは否めない。
しかし、スコールとクラウドの間に関わる事で、一番気を回してくれるのも彼らである事は確か。
────そんな二人が、どうしてスコールをこんな目に遭わせたのか判らないほど、クラウドはスコールのように鈍くはない。


「うん。よし」
「───うわっ!?」


熟考を重ねる事、数秒。
やっぱりそうだろうな、と結論を出したクラウドは、スコールの腕のリボンをそのままに、彼をひょいっと姫抱きにした。

突然の浮遊感に目を丸くスコールが、現状を把握する前に、クラウドはスコールをベッドに降ろす。
二人分の体重を受け止めたスプリングが、ぎしっ、と音を立てて軋んだ。


「あ、な……?」
「折角だしな」
「!」


ベッドに寝かされ、自分の上に馬乗りになった男に気付いて、スコールが目を瞠る。
ちょっと待て、とでも言おうとしたのか、開いた薄い唇を、クラウドは己のそれで塞いだ。


「んぅっ……!」


じたばたと、スコールの自由の足が暴れている。
しかし、馬乗りになった男には大した効果はなく、クラウドは存分にスコールの咥内を貪った。
二人の体の間に挟まれたスコールの腕が、ぐいぐいとクラウドを押し退けようとしていたが、スコールが純粋な力押しでクラウドに勝てる筈もない。
おまけに、スコールは未だに腕をリボンで縛られたままだ。
思う程の抵抗は出来ず、くぐもった抗議の音も、クラウドは黙殺した。

絡めようとする度に逃げていた舌を、ようやくの思いで捕まえる。
ちゅ、と絡み合わせた瞬間に、びくっと細い肩が震えたのが判った。
けれどその後からは、暴れていた足も静かになって、一時は強張った体も、少しずつ解けて行く。

ちゅぅ…と名残を惜しむように舌を吸ってやれば、ふるり、と閉じた瞼が震えたのが見えた。
ゆっくりと唇と離して行くと、銀糸が引いて、ぷつりと切れる。
キスで腫れたように膨らみ、濡れた唇を隠すように、スコールは拘束された腕で口元を隠した。


「……あんた、何してるんだ…」
「何って、プレゼントを貰おうかと」
「……誰がプレゼントだ」
「お前だろう。中々気の利いた趣向だ」


そう言いながらクラウドは、スコールの腕に結われたリボンの端を遊ばせる。
スコールはその手を見ながら、眉間に深い皺を寄せ、


「違う。こんな筈じゃなかったんだ」
「じゃあ、どうなる予定だったんだ?」
「……この箱の中に、皆が持って来たプレゼントを入れて、あんたに渡すんだって、バッツが言っていた。俺はティーダに言われてケーキを作っていたから、そんなもの、用意する暇もなかったけど…」


スコールの話を聞いて、クラウドは噴き出しそうになるのを寸での所で堪えた。

プレゼントが用意できなかったのは、何もスコールに限った話ではない。
見回りに行っていたジタンやフリオニール、部屋の飾りつけをしていたルーネス達も用意できていない。
そもそも、急な事だったので、誰もプレゼントなんて買いに行く暇もなかったのだ。
だから、「皆が持って来たプレゼント」なんてある筈がない。

普段、頭の回転は早い筈なのに、妙な所で鈍いと言うか、天然と言うか。
しかし、そんな恋人を愛らしく思うのも確かで、クラウドは不満そうに顔を顰めるスコールの額にキスを落とす。


「バッツとジタンにしてやられた訳だな」
「………」
「そう怒るな。それに、俺はちゃんとプレゼントを貰ってるつもりだから」


そう言って、クラウドはスコールの腕に結ばれたリボンを解く。
てっきり固く結ばれているとばかりおもったリボンは、思いの外あっさりと解けてくれた。

内側から解こうとするのと、外側から紐の先端を引いて解くのとでは、かかる力が逆である事は判っているつもりだが、こうも簡単に解けてしまうと、実はそれ程固く結ばれている訳ではなかったのではないか、とクラウドは勘繰ってしまう。
その辺りの真相については、後でジタンとバッツにでも聞いてみる事として。

リボンを解いたクラウドは、仲間からのプレゼントを前にして、言った。


「これで、ジタンとバッツからのプレゼントは貰ったが────お前は俺に、どんなプレゼントをくれるんだ?」


触れそうな程に近い距離で囁けば、青灰色の瞳が逃げるように彷徨った。
けれども、拘束から逃れた少年の体は、決して其処から逃げようとはしない。




おずおずと伸びた腕が、クラウドの首に回される。
真っ赤な顔で精一杯、触れるだけのキスをする恋人が、愛しくて堪らなかった。






クラウド誕生日と言う事で、クラスコ!
紳士的に振る舞いつつも、貰えるものは貰います。
スコールもこれくらいお膳立てして貰ってからじゃないと、素直になれないし。ツンデレって大変だ。
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