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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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カテゴリー「FF」の検索結果は以下のとおりです。

[レオスコ]合わせ鏡の夜が明ける

  • 2016/08/08 21:43
  • カテゴリー:FF


兄弟でもないのに、よく似ていると評判の男。
鏡を見た後、彼の顔を見ると、パーツに共通部分が多いからか、確かに似ている、と自分でも思う程。
それでも“兄弟ではない”とはっきりと言い切れるのは、自分にそう言う血の繋がりによる縁はなかった、と頭の中で答えが出るからだ。
元の世界の記憶もないのに、其処だけが明確な理由は、結局の所判らないのだが。
だが、相手もどうやら同じ感覚らしく、年下の面倒はよく見ていたが、自分に血を分け合った兄弟はいなかった、と言う。
あちらも記憶の回復は余り進んでおらず、虫食いが多いので、確信がある訳ではないようだったが、これもスコールと共通した事で、経験が感覚として沁み付いているのだろう。
ついでに、彼が操る魔法の性質が、自身の操る“疑似魔法”とは異なる性質であったので、スコールの中ではこれで決定打となった。
自分と同じ世界から召喚されているのなら、操れる魔法は───魔女でなければ───“疑似魔法”留まりだろうと思うからだ。

それなら、パラレルワールドの同一人物なのかもな、と言ったのはクラウドだ。
パラレルワールド、並行世界、決して交わる事のない別の時間軸に存在する世界。
そういった垣根を越えて、戦士達が神々の闘争の世界へ召喚された事を思うと、クラウドの発想も一理はあるのかも知れない。
が、この世界のあらましについて、スコールは特に知るつもりはないので、正否は謎のままである。

だが、そうであるならば。
この男が、並行世界の自分であるならば、この交わりは禁忌になるのだろうか。
血の繋がりを持つ親兄弟よりも、もしかしたらもっともっと近しい存在と、こうして褥を共にするのは、赦されない事なのだろうか。
世界と言う枠組みを無視して、沢山の歪な世界が入り交じって出来ているこの世界に自分達を召喚し、決して繋がらない筈の道を交わらせたのは、世界の理を握る神々だと言うのに。
だから、いつかこの世界の闘争が終わったら、別れと言う形で罰を与えようとしているのだろうか。

────スコールは、熱の余韻を残す腕の中で、そんな事を考えていた。
それを感じ取ったのか、スコールの耳元に吐息が触れ、


「……何を考えているんだ?」


低く心地の良い声に鼓膜を震わされて、スコールの胸の奥で、どきりと心臓が跳ねた。
密着した体でそれを相手───レオンに隠せる筈もなく、レオンは正直な少年の反応にくすりと笑い、耳朶に柔らかくキスをする。


「心此処に在らずだったな」
「……悪い……」


恋人との、決して多くはない、甘い睦言の時間。
そんな時に気持ちを飛ばしていた事を自覚して、スコールは俯いた。
言い訳もせず、直ぐに謝るスコールに、レオンは眉尻を下げて唇を緩める。


「別に良いさ。お前は此処にいるんだから」


スコールが心を何処かへ浮遊させていても、彼の体はレオンの腕の中に在る。
それさえ違えられる事がなければ、スコールが何を考えても良いとレオンは言う。
スコールの心の自由まで奪う事は出来ないのだから、と。

そう言ってから、レオンはスコールの髪を撫でながら、くつりと自嘲気味に笑う。


「まあ……出来れば、こっちを見ていて欲しいとは思うが」
「……」
「冗談───とは言えないのが、俺も大人げない所だな」


ばつの悪い表情で沈黙するスコールに、レオンはやれやれ、と自分に呆れながら言った。

しかし、スコールは今の彼の言葉が嬉しかった。
よく似ていると皆に言われるのに、自分と違い、レオンは“大人”である。
故に仲間達からよく頼られ、それを無碍に断る事なく快く引き受け、彼自身も他者への気配りを忘れない。
人の面倒を見るのに長けているだと、傍目に見ても判る。
そんな彼が、恋人の自由や奔放を許しきれない、独占欲と言うものを、自分に向けている事が、スコールの心に満ち足りたものを抱かせる。

項をくすぐるレオンの指を感じながら、スコールはレオンの胸に顔を寄せる。
すり、と猫のように甘える少年に、レオンの表情が嬉しそうにはにかんだ。


「どうした?今日は随分甘えたがりだな」
「……駄目なのか」
「いいや。いつもこれ位甘えてくれても良い位だ」


レオンの言葉に、じゃあもっと、とスコールは逞しい背中に腕を回す。
薄い肉がつくばかりの自分と違って、レオンの躯は無理なく盛り上がった肉がついていて、スコールは頗る羨ましい。

────彼と自分が似ていると言うのなら、いつか自分もこうなれるのだろうか。
そう思った事は何度となくあるが、それを口にすると、レオンはいつも微妙な反応をする。
無理だろう、と言われた事はなかったが、何処かそうなる事を望んでいないように見えた。
どうやら、スコールのコンプレックスは理解できるものの、今のスコールの、抱き締めると自分の腕の中に納まるサイズが彼には好ましいらしく、余り逞しくなって欲しくないのが本音のようだった。

レオンと同じ位になったら、彼に抱き締めて貰えなくなるのだろうか。
それは寂しい、と今日は妙に素直な心が、自分の本音を認める。


「……眠いか?」


胸に摺り寄せてぼんやりと思考に耽っているスコールに、レオンが訊ねる。
眠くはない、とスコールは思ったが、背中をぽんぽんと叩く手が心地良くて、黙っていた。

耳を寄せた胸の奥から、とくん、とくん、と規則正しい鼓動の音がする。
彼と体を重ね合せるようになってから、その音がとても安心を得るものだと言う事を初めて知った。
そのリズムに合わさり、溶け合うように、自分の鼓動も緩やかになって行く。
最近のスコールは、その音を聞かなければ眠れなくなる位に、レオンに依存しつつあった。


(……良く無い傾向だ)


誰かに寄り掛かる事、誰かに依存する事、される事。
それはスコールにとって避けるべきものだった。
自分一人で生きて行く力を得る為に、スコールはそう言うものに背を向け続けていた。

それなのに、いつか終わるであろう異世界で、それを得て喜んでいる自分がいる。
闘争が終われば別れなければならないのに、そうなれば二度と逢えない相手に、心を預けている。
なんて事だ、と嘆くように項垂れる自分を自覚する傍ら、ではこの温もりを手放せるのかと言う声には、答えられない。


(だって、こんなに、居心地が良い)


まるで失っていた半身を取り戻したように、彼の傍は収まりが良くて、居心地が良い。
神々の悪戯でこれを与えられたと言うならば、余りのそれは酷ではないか。
彼等の気まぐれで得た幸福を、彼等の気まぐれで取り上げられるなんて、スコールには堪えられない。

レオンの形の良い指が、スコールの髪を梳く。
猫になった気分で、スコールはレオンからの毛繕いを甘受していた。
そうしている内に、意識がまたふわふわと宙を浮こうとしているのを感じ取る。
眠くはない筈なのに、と思いつつ、スコールはうとうとと夢路の扉を潜ろうとしていた。


「疲れたか?」
「………」
「眠っていいぞ。まだ時間はある」
「……」
「明日は待機だしな」
「……」


言いながら、レオンの手はスコールの形の良い頭を撫でている。
その手付きは慣れていて、やはり子供をあやす事に慣れているのだろうとスコールは思った。
そう言う点は、子供を苦手としている自分とは、似つかない所だ。

────それとも、レオンと同じ位の年齢になったら、自分も彼と同じ撫で方を誰かにするのだろうか。
そう思ってから、いや、とスコールは自己否定する。
レオンは幼い頃から人の面倒を見る立場であったようで、スコールはそれとは真逆であった気がする。
根本的に、子供に対する意識が違うのだから、今の彼と年齢を並べた所で、スコールはレオンと同じようにはなれないだろう。

……そう考えてから、では体格もそうなのか、と思考が戻って来た。
羨ましさと同時に妬ましい気持ちが芽生えて、レオンの胸に顔を埋めたまま、スコールは唇を尖らせる。


「スコール?」


他人の───特にスコールの機微に聡い男は、すぐにスコールの様子に気付いた。
どうした、と心配そうに訊ねる声に、スコールは答えないまま、抱き付く腕に力を籠める。
ぎゅう、と遠慮なく抱き締めても、レオンは苦しがる様子もなく、寧ろ「やっぱり今日は甘えたがりだな」と嬉しそうに言った。


「ほら、眠いんだろう。そろそろ寝てしまえ」
「……」
「お前が眠るまで、こうしていてやるから」


レオンの手に撫でられて、スコールの濃茶色の髪がさらりと流れる。

今日は久しぶりにまぐわったものだから、ついつい燃え上がって、長い時間を交わし合っていた。
そんな事だから、自覚はなくともスコールの体は疲れており、休息を求めて睡魔を誘う。
レオンも判っているようで、彼はスコールを無理に起こそうとはせず、うつらうつらと舟を漕ぐ恋人を甘やかす。

その傍ら、窓のカーテンの隙間から、外界の薄ぼんやりとした光が零れて来るのを見て、レオンは呟いた。


「……このまま、朝が来なくても良いのにな」


いつか来る終わりなんて、なくても良いのにな。
レオンの言葉が、スコールにはそんな風に聞こえた。

ぎゅ、と抱き締めるレオンの腕に力が籠められて、スコールは少し身動ぎしたが、直ぐにこのままで良いか、と落ち付く。
とくとくとリズムを刻むレオンの心音を聞きながら、先のレオンの言葉に、思う。


(……俺も、このままがいい)


朝なんて来なくて良い。
離れてしまう未来なんてなくて良い。
それが闘争の牢獄に閉じ込められる事だとしても、構わなかった。

ずっとずっと、この温もりの傍にいたい。
例えこれが、決して許される筈のなかった禁忌の関係であるとしても。





異説でレオスコ。
普通にいちゃいちゃしてるのも好きですが、いつか終わる事に怯えているレオンとスコールも好きです。
いつか二人で闘争から逃げるかも知れない。

ディシディアでレオスコを考える時は、兄弟パラレルにする事が多いですが、こう言うのも雰囲気が違って良いですね。
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[クラスコ]渚の君を一人占め

  • 2016/07/08 00:20
  • カテゴリー:FF


アルバイト先で催された飲み会の、レクリエーションのビンゴ大会で、三等の旅行チケットが当たった。

旅行チケットと言っても、それ程豪華なものではない。
居酒屋のチェーンであるバイト先は、本社が色々なホテルや旅行会社と提携している関係で、よくイベント事が企画される。
店のメニューに、どこそこの地方のなんとか、と言ったものが並ぶ機会も多く、またホテルや旅行会社の方も、この居酒屋の系列店で食事をすれば何割引きとか、特別メニューとか、そう言うものがうたわれている。
クラウドが当てた旅行チケットは、そうした企画の際に用意された、余り物のチケットであった。

チケットには、ペア招待と書かれており、二人で行かなければ使えないらしい。
旅行など滅多に行かないし、どちらかと言えば出不精な性質であるので、金券ショップに持って行こうか、とも考えた。
が、ザックスから「あの子、誘えば良いんじゃね?」と言われ、一度は誘ってみようか、と思い直した。

親友の提案を、良い案だと素直に受け取れなかったのには、理由がある。
チケットに記された旅行先は、海辺の少し大きなホテルだった。
この夏の季節、海と来れば飛び付く者も少なくはないが、ザックスの言う“あの子”────クラウドの恋人である少年は、余りこう言う場所が好きではない。
まだ夏休みではないので、海水浴客はそれ程多くはない筈だが、それでも人の気配は少なくあるまい。
極端に暑いのも嫌いだし、海ではしゃげる性格でもないし、更に言えば、人の多い場所も好きではない。
ないない尽くしの恋人を連れて言っても……と思わないでもなかったが、別段、無理に海に行く必要はないのだ。
一日二日、ホテルで恋人と二人きりで、睦み合うのも悪くない。
普段、あまりのんびりと逢う時間が取れない事もあり、こんな時位は、と言うクラウドの希望も含まれている。

誘ってみると、最初は案の定、微妙な反応が返ってきた。
この暑いのに海なんて、と言いたげな表情をする恋人に、別に海には行かなくても良いんだ、と宥めた。
都会の喧騒を離れて、眺めの良いホテルで、静かに過ごせば良い。
食事もホテル側が用意してくれるし、父子二人暮らしであるが故に、家事全般を引き受けている彼の休息日と考えれば良い。
そう言うと、彼は少し考えた後、過保護な父に旅行の許可を取るべく、連絡を入れた。

クラウドにとっては幸いと言うべきか、彼の父は、旅行当日に出張が入っていた。
行っておいで、楽しんでおいで、と言う父に、息子は判った、土産は買って帰る、と返す。
恙なく父の許可を貰った事で、恋人同士の初めての宿泊旅行が決定したのだった。



海に行く必要はないとクラウドは言ったが、何せホテルから海は目と鼻の先にある。
其処まで近くにあると、興味はないと言いつつも、やはり気になるものなのだろう。
普段、自然を近くに感じる事がない都会っ子も、だからこそ余計に、少し位は────と傾いた恋人にねだられて、クラウドはホテルtに着いて早速海岸へと向かった。

ハーフパンツにタンクトップ、足元はサンダルと言うビーチスタイルのクラウドの隣で、薄水色のパーカーを着込み、しっかりと前を閉じて、頭には麦藁帽子を被っている少年がいる。
彼がクラウドの恋人であるスコールだ。
スコールは、今日も今日とて燦々と輝く夏の日差しから、日焼けが出来ない白い肌を守る為、完全防備スタイルを固めている。
ボトムこそカーゴパンツを履いて、足首の上で裾を絞り、いつもよりもややラフな格好をしてはいるが、足元はメッシュのスニーカーだし、やはりガードは堅い。

そこまでガードを固めて尚、スコールは日向には出たがらない。
レンタルショップで借りたパラソルを立て、その下にレンジャーシートを敷いて、其処で本を読んで過ごしている。
クラウドはその隣で、パラソルの陰から食み出て、シートに俯せになって背中を焼いていた。

潮騒と、家族連れの子供がはしゃぐ声を遠くに聞きながら、背中に浮かぶ汗の粒を感じつつ、クラウドは隣に座っている少年を見る。
家から持って来た文庫本を見詰めているスコールは、傍目には余り楽しそうではない。
表情筋も───クラウドが人に言えた事ではないが───余り動かないので、少し機嫌が悪そうにも見える。
眉間の皺が深くないので、大丈夫なのだろうとは思うが、念の為、クラウドは訊ねてみた。


「スコール」
「……なんだ」
「今、楽しいか?」
「……それなりに」


ぱらり、とスコールの手が本のページを捲る。

少し心許ない反応ではあったが、今のはマシな方の反応だ、とクラウドは思った。
嫌なら嫌だと彼は言うし、それが言えない雰囲気であれば、沈黙によって返事とする。
現状を不満と言う程の返事ではなかったので、多分、彼なりに楽しんではいるのだろう、と受け取る事にする。

ぎらぎらと照る日差しは暑いが、海から吹く風のお陰で、体感温度は思ったより高くない。
パラソルの下にいるスコールも、首にタオルをかけているだけで済んでいた。
が、砂浜の照り返しの熱もなくはない訳で、クラウドはじわじわと体温が篭り始めるのを感じていた。


「何か飲み物でも買って来るか」


俯せていた体を起こしながら言うと、スコールが顔を上げた。
俺も欲しい、と言外に甘えてくる恋人に、クラウドは小さく笑みを零す。


「何が良い?」
「…炭酸」
「味は?」
「…その辺は任せる」


了解、と言って、クラウドはサンダルを履いた。

夏休みなら、浜辺のあちこちに出店が構えられたのだろうが、今はまだ長期休みの前段階。
早い内から開店させたのであろう店を除けば、今正に準備真っ最中と言う屋台があるだけだ。
この海岸で一番に店をオープンさせた海の家はと言うと、家族連れが多いお陰で賑やかになっており、スコールがこの喧噪を嫌った。
クラウドもどうせなら二人で静かに過ごせる方が良いと、海の家から離れた場所にパラソルを立てたのだ。

クラウドが取った場所から、最寄にあった出店は、食べ物以外には水と茶を置いていた。
クラウドはこれでも良かったが、スコールからの希望は炭酸飲料だ。
少し足を延ばした所で、パラソルとレジャーシートを借りたレンタルショップがある。
確かあそこも飲み物を売っていた、と記憶を頼りに其方へ向かった。

クラウドの思った通り、レンタルショップには缶ジュースが売られていた。
氷水に浮かせたサイダーとビールを買って、恋人の待つパラソルへと戻る。

─────と、其処にはなんとも宜しくない光景が待っていた。


「ね、キミ一人?」
「そんなトコで本ばっか読んでないでさ、一緒に泳ごーよ」
「………」


スコールが座るレジャーシートを、二人の男が挟んでいる。
如何にも軽い風体の男達に、ワンパターンなナンパ文句を向けられて、スコールの眉間に海溝よりも深い谷が出来ていた。
その光景を見たクラウドの眉間にも、恋人に負けず劣らず深い谷が刻まれる。

どうやら男達は、スコールを女だと思ってナンパしているようだ。
肌を出来るだけ露出させないようにしている事や、着込んでいても細いシルエット、中性的な整った顔立ちと、間違われるのも無理はないかも知れない。
加えて、17歳にしては大人びた雰囲気とは裏腹に、何処か危うい色香を持つスコールである。
不埒な輩に目を付けられる事は、腹立たしい事に、珍しくはなかった。
家族連れが多いからと、少し位なら平気だろうと傍を離れた事を、クラウドは後悔する。


「なあって。無視しないでよ」
「………」
「海なんだし、もっと開放的になろうぜ」
「………」


ナンパを無視して本を読み続けていたスコールだったが、彼の手には力が篭りつつある。
落ち着きのある容姿に反し、短気な所もあるスコールだ。
自分が女と勘違いされている事も腹が立っているのだろう、後数秒で爆発するのは明らかだった。

その前に、クラウドは手に持っていた缶ビールを男の後頭部に向かって投げつけた。


「ほら、行こ」
「!」
「俺らがもっと楽しい事教えてや────」


男達の手が、スコールの腕を無理やり掴んだ直後。
缶ビールの中では大きな500ml缶は、見事に鈍器となって男の頭に激突した。

相棒が蛙のような悲鳴を上げて轟沈したのを見て、残った男が何事、と振り返った。
その顔面に、今度は250mlのサイダーの缶が命中する。
鼻頭を潰さんばかりの剛速球を喰らった男は、掴んでいたスコールの腕を放して、砂浜に引っ繰り返った。

全く、と米神に青筋を浮かべながら、クラウドは転がったビールを拾い、シャカシャカと中身を振る。


「躾の悪い連中は何処にでもいるんだな」
「クラウド……」
「大丈夫か?スコール」
「……ん」


恋人が戻って来てくれたのを見て、スコールはほっと安堵の息を吐く。
そんなスコールの手首には、薄らと男の手形が残っていた。

クラウドは眉間に深い皺を寄せて、ビール缶を逆様にし、プルタブを開ける。
ぷしゅうううっ、と気泡を立てて噴射されたビールが、男達の顔面に降り注いだ。


「ぎゃああああああああ!!!」
「貴様等の恋人はこれで十分だ」
「いてえええええええ!!!!!!」


たっぷりとビール液を目鼻に浴びせられて、男達が激痛にのた打ち回る。
おうおうと泣き喘いでいる男達を、ぽかんとした表情で見ているスコール。
クラウドはビール缶が空になるまで注がせた後、空の缶を遠くのゴミ箱へと放った。

レジャーシートの上に落ちていたサイダーの缶を拾い、タオル等を入れた鞄を肩に担いで、クラウドはスコールの手を取った。
引っ張られるまま、スコールは蹈鞴を踏みながら立ち上がり、パラソルの下から離れる。


「クラウド?」
「ホテルに戻ろう。物騒だ」
「それは良いけど、あれ、レンタルだろう。返すのは……」
「この浜辺のエリアであれば、店員が片付けてくれるそうだ。気にしなくて良い」


レンタルショップも遠くはないので、店員からもパラソル下に人がいないのは見えるだろう。
連絡も、ホテルに戻ってから、レンタル時に発券されたレシートに記載された番号から電話をすれば良い。

海岸はホテルの裏から、直接出られるようになっている。
其処を海へと向かうホテル客と入れ違いに入り、エレベーターに乗って、部屋へ上がった。
7階に取られた宿泊室は、ビジネスホテルよりは広いと言う程度のもの。
部屋が比較的質素な代わりに、朝食バイキングの無料券、夕食は提携している居酒屋かレストランの割引券、更にはスパの体験利用も出来るようになっていた。
スパはともかく、朝食夕食付のホテルに無料宿泊となれば、交通費を考えても十分お釣りが来る。
海は完全に家族向けのファミリービーチで、事故防止、トラブル防止の監視員も立っており、若いカップルよりも、家族連れの方が多かった。
だから、人目を気にする性格の恋人と、ちょっとした小旅行にするなら丁度良い、と思ったのだが、まさかこんな場所でもスコールがナンパ被害に遭うとは思ってもいなかった。

部屋に入ると、クラウドはスコールをベッドへ連れて行った。
荷物を放り、スコールをベッドへと押し倒すと、彼は素直にシーツに沈む。
きょとんとした蒼灰色に見上げられ、クラウドはその眦に唇を押し当てた。


「クラウド……?」
「消毒、しよう」


クラウドの言葉に、消毒って何の、とスコールが問う。
クラウドは何も言わず、スコールの手を取って、手首に薄く残った赤い痕にキスをする。

パーカーの前を留めるジッパーが、ジィイ、と音を立てて下げられて行く。
カーゴパンツのフロントが緩められて、スコールの顔が赤くなった。

何度も落ちるキスに、スコールはむず痒さで目を細めながら、スコールは自分の頬をくすぐる髪の感触の違和感に気付き、


「クラウド……風呂、入りたい」
「後でな」
「ベタベタするんだ。気持ちが悪い」
「ちゃんと綺麗にしてやるから」



今は、こっち。

そう言ってクラウドは、スコールの手首に甘く歯を当てた。





7月8日と言う事で、クラスコ!

ベタな展開に遭遇させてみた。
この後は、もう海に出ないで部屋でいちゃいちゃしてるんだと思います。
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[けものびと]いのりのあしあと

  • 2016/07/07 22:34
  • カテゴリー:FF


ラグナは催し物が好きだ。
それが大きな祭りなら勿論の事、小さな事でも、些細な事でも、なんでも。

夕飯の材料の買い出しに行ったスーパーに、大きな笹が飾られていた。
その細い幹枝に吊るされた細長い紙を見て、もうそんな日だったのか、と思い出す。
これと似たようなものが街の其処此処に飾られているので、今まではそれを見付けていれば、今日と言う日が近付いている事に気付いたのだが、最近はそれを見る暇もなかった。
二人の獣人と共に新しい生活を始めてから、彼等の為に、また自分自身が生活の変化に慣れる為に、忙しなくしていたのだから無理もない。

大きな笹の傍には、金箔が吹きつけられた短冊と、小さな笹が置かれていた。
ご自由にどうぞ、と書かれていたので、ラグナは遠慮なく貰って帰る事にした。
小さな笹は、店内を飾る為に用意したものの、余ってしまった処分の為に無料配布されているのだろう。
二、三日もすれば役目を終え、店に飾られた大きな笹ともども、焼き場に持って行かれてしまうが、それまではもう少し、楽しませて貰うとしよう。

一通りの買い物と、予定外の収穫物を持って家に帰ると、玄関に獣人の兄弟───レオンとスコールが立っていた。


「ただいま、レオン、スコール」
「がぁう」
「よしよし」
「…ぐぅ」
「うんうん」


返事をするレオンとスコールに、ラグナの頬がでれでれと緩む。
二人の鬣のような髪を柔らかく撫でて、廊下へ上がる。

冷蔵庫に食料を詰め込んでいるラグナを、足元でレオンとスコールがじっと見上げる。
二人は丸い鼻をふんふんと鳴らして、ラグナの匂いを検分していた。
マーキングするように、レオンがすりすりと体を寄せ、ぐぁう、と鳴き声を漏らす。

買い物袋が殆ど空になった所で、ラグナは冷蔵庫を閉め、袋の中に残っていたものを取り出した。
スーパーから持って帰って来た、短冊と小さな笹だ。
見慣れぬものだと気付いたか、スコールがラグナの手に握られたそれを見て、細い瞳孔でじぃっと見詰める。


「レオン、スコール、知ってるか?今日は七夕なんだぞ」
「……?」


ラグナの言葉に、二人は揃って首を傾げる。
円らな瞳が、全く同じタイミングで、ぱちぱちと瞬きをした。

ラグナはリビングのソファに座って、短冊と笹をローテーブルに並べる。
レオンとスコールもソファへ登り、テーブルの上の見慣れない緑をしげしげと見つめた。


「今日は織姫サマと彦星サマが、年に一度、逢える日なんだ」
「……?」
「そんで、今日は笹に願い事を書いた短冊を吊るすと、願いが叶うって言い伝えがあって…」


七夕の謂れを話すラグナを、レオンはじぃっと見上げる。
スコールは、ラグナを見て、笹を見て、テーブルの短冊に顔を近付けて、くんくんと鼻を鳴らす。
そんな弟に釣られて、レオンも短冊に顔を近付け、鼻を鳴らした後、ぺろっ、と短冊を舐める。


「あっ。コラ、レオン。それ食べ物じゃないぞ」
「がぁう……」
「美味しくなかった?そりゃそうだな~」


紙を舐めた舌を出したまま、判り易く顔を顰めるレオンに、ラグナは笑った。
兄の反応を見たスコールは、さっさと短冊から興味を失くして、笹に顔を近付ける。

ラグナはレオンを膝に乗せて、短冊を一枚手に取り、


「これはな、お願いごとを書く紙なんだ。えーと、ボールペン、ボールペンっと……あったあった」


ラグナはポロシャツの胸ポケットに入れていたボールペンを取り出した。
何を書こうか、と数秒悩んだ後、ラグナはペンを走らせる。
その様子を、レオンとスコールがじいっと覗き込んでいた。

『レオンとスコールが健康に育ちますように』────そう書いた短冊を、ラグナは笹に括り付けた。
葉が擦れる度、さらさらと音を鳴らす笹の葉に重なって、黄色の短冊が揺れる。


「こうやってお願いを飾っておくと、織姫サマと彦星サマが叶えてくれるんだってさ」
「……?…?」
「…??」


ラグナが笹を見せると、二人は顔を近付けて、ふんふんと鼻を鳴らす。
二人の顔は不思議がっているものばかりで、ラグナの説明は殆ど聞こえていないようだ。
やっぱりまだ判らないかあ、とラグナは残念に思いつつ、二人の頭を撫でてやる。

二人が七夕を理解できない事は予想していたが、それでもやりたい事が一つあった。
買い物の傍ら、携帯電話のインターネットで調べものをして、準備に必要なものが家にあるもので十分である事、並びに注意事項も確認した。
ちょっと待っててくれな、と言って、ラグナは笹をローテーブルに置き、ソファを立つ。

ラグナは寝室に入り、デスクの引き出しを開けた。
ハンコの為に備えて置いた黒インクの朱肉と、ティッシュボックスを持って、リビングに戻る────と、


「がうっ、がうっ」
「がう、がうっ。がうぅ」
「ありゃ」


四足になったスコールが、笹の端を噛んで、首を振って遊んでいる。
笹が撓ってさらさらと葉と短冊を揺らせば、本能を刺激されたのだろう、レオンが枝葉を追うように周りを跳ねていた。

笹の葉が何の為に持ち帰られたか等、幼い獣人の二人には判るまい。
見慣れない物に興味が沸いて、食べられないのならオモチャにして遊ぼう、と思ったのだろう。
それでもラグナは構わなかったが、“ライオン”モデルの彼等が夢中になって遊んだら、細く頼りない笹はあっと言う間にボロボロになってしまうだろう。
今日の所はもう少し、笹としての役目を果たして貰わねば、とラグナはスコールの口から笹を取り上げた。


「こぉーら」
「ぐぁ?がうっ、がうぅっ」
「がうぅ、がぅう」
「オモチャでもないんだって」


オモチャを取り上げられて、スコールが抗議するようにラグナの足に飛び付いた。
レオンも一緒に飛び付いて来て、二人でラグナの足をよじよじと登って来る。
ラグナは笹を持った腕を頭上に伸ばして、二人の追撃から逃げた。


「ダメダメ!今日はオモチャじゃないの」
「がうぅうう!」
「ぐぅー……」
「めっ!」


ラグナが二人を見下ろし、眉尻を吊り上げて叱ると、レオンがずるずると滑り落ちて言った。
スコールは、ぐるぐると喉を鳴らしながら、ラグナの腰に爪を引っ掛け、ぷらんと宙ぶらりんいなっている。

楽しんでいたオモチャを取り上げられ、判り易く不満そうなスコールを、ラグナは抱き上げた。
笹をテーブルに置いて、ぽんぽんとスコールの背中を叩いてやる。
そんなラグナの足下では、叱られた所為か、レオンがラグナの足に頭をぐりぐりと押し付けて謝っている。
ラグナはレオンの頭を撫でて、スコールと一緒にソファに座らせた。


「今日一日は、お願いごとしなくちゃいけないからな。オモチャにして良いのは、明日な」
「ぐぅ……」
「ぐるぅ……」
「で、今日はコレ」


ラグナは二人の前に、デスクから持って来たインクを見せた。
これもまた見慣れないものに、二人は首を傾げ、くんくんと匂いを嗅ぐ。
食べられそうなものではない事は判ったのだろう、スコールが鼻頭に皺を寄せた。

先ずは比較的大人しいレオンから、とラグナはレオンの手を取った。
獣人であるレオンの手には、人間で言う掌はなく、動物と同じ肉球が備わっている。
野生であった頃も、まだ大人のように固くはなかった肉球は、ラグナとの生活の中で、ぷにぷにとした柔らかさが保たれていた。
その肉球がある手を、蓋を開けたインクの上にぽんと乗せる。


「……ぐぅ?」
「舐めちゃダメだぞ、美味しくないからな。で、こっちにポン、と」


ラグナがテーブルを寄せ、ピンク色の短冊にレオンの手を乗せる。
直ぐに手を離してやれば、大き目の肉球がくっきりと短冊に残された。

何もなかった短冊の上に、黒い丸が残ったのを、レオンがまじまじと覗き込む。
レオンは自分の手に黒い墨が残っているのを見て、ことんと首を傾げた後、ぽん、と短冊に手を置いた。
離してみれば、また一つ、大きな丸────自分の手跡が残る。


「がう。がう」
「ん?面白かったか?」


ぽん、ぽん、と何度も短冊に手を押し付けるレオン。
房を持った尻尾がゆらゆらと揺れているのを見て、ラグナの頬が綻んだ。

次はスコールの番、とレオンがスコールの手を取る。
警戒心の強いスコールが怖がらないよう、そっとインクを近付けて、朱肉の上に肉球を乗せる。
じわりと滲む冷たい感触が嫌だったのか、スコールの手が直ぐに引っ込んだ。


「がうぅ!」
「ごめんごめん。でもスコール、一回だけ。な?直ぐに拭いてやるから」
「ぐぅう~…!」


ラグナに頼み込むように言われ、スコールは喉をぐるぐると鳴らしながらも、その場に留まった。
良い子だなあ、ありがとうな、とラグナはスコールを宥めつつ、水色の短冊にスコールの肉球を乗せる。

早く手の中の冷たい感触を拭いたいのだろう、スコールはぐりぐりと掌を短冊に押し付けた。
ぎゅううっとプレスするように押した手を離すと、くっきりと綺麗な形の肉球拓が取れた。


「ありがとう、スコール。キレイキレイしよっか」
「がう!」
「おうっ」


ティッシュでスコールの手を噴こうとしたラグナの頬に、レオンの猫パンチが炸裂した。
いてて、とラグナが頬に手を当てると、ぬる、と何かが付着している。
まさか、と携帯電話のカメラ機能で自分の顔を映せば、ラグナの頬にもまた、綺麗な肉球拓が残されていた。


「ありゃあ~」
「がう?」
「がうぅう」


ラグナが眉尻を下げて笑い、レオンがきょとんと首を傾げ、スコールが早く拭いてとラグナを急かす。

ラグナは先ずスコールの手のインクを拭いて、次にレオンの肉球も綺麗に拭いた。
肉球の周りにある毛に少しインクが残っているように見えるが、水溶性なので、風呂に入れれば流せるだろう。
それから、勿体ない気もしたが、自分の頬に押された肉球スタンプも拭き取る。
最近はレオンとスコールがよく顔を舐めてくれるので、頬のインクをそのままにする事は出来なかった。

ラグナはレオンとスコールの短冊を笹に吊るすと、それをベランダへと持って行った。
ベランダの物欲し竿の上に、ビニール紐で笹を括り付ける。


「これで良し」


落ちないようにしっかりと笹を固定して、ラグナは満足げに言った。

ベランダに出てはいけないと言い付けられているレオンとスコールが、窓の隙間から此方を見ている。
ラグナが開けた窓辺に座ると、レオンとスコールが膝の上に乗って来る。
落ちないように二人を腕に抱いて、ラグナは晴れ渡った空を見上げた。
この天気なら、今日は綺麗な星空が見えるだろう。



さらさらと、滑るように音を鳴らす笹の葉。
抜けるような青の中で、柔らかな緑色がよく映えていた。





[けものびと]で七夕でした。

肉球スタンプって可愛い。
七夕が終わっても、この短冊はずっと保管してると思う。
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[獣人レオン&獣人スコール]けものびと

  • 2016/07/02 23:00
  • カテゴリー:FF
[けものびと]の続きです。
獣人レオンと獣人スコールと、保護者のラグナのパラレル。
前の話は此方→[けものびと]

犬の獣人のザックスとクラウドも出てきます。保護者はセフィロスです。


1 [まもるためのきまりごと]
2 [きらい、きらい、きらい]
3 [どうしたらいいんだろう]
4 [ここにいるためのきまりごと]
5 [いっしょにいたい]
6 [ずっとずっと、ここがいい] 


決まりごととか首輪とかに関する話。ようやく書けました。
レオンもスコールも、故郷の事は忘れていないけど、ラグナと一緒が好きなのです。
今は皆で一緒にいられるのが幸せ。
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ずっとずっと、ここがいい

  • 2016/07/02 00:07
  • カテゴリー:FF


兄が首輪をつけるようになった。

首輪は、今までラグナが着けようと調達して来たものと、随分と形が変わっていた。
布で出来た脆いものでもなく、ザックスやクラウドが着けている黒い革の首輪とも違う。
硬くてきらきらと光る銀色の首輪で、首にぴったりとまとわりついている事もなく、首に引っ掛けているだけのもの。

ほんの少し前まで、兄は首輪を着ける事を酷く嫌がっていた。
ラグナはきつい首輪を着けようとはしなかったけれど、それを首に捲かれるだけで、酷く息苦しくなる気がしたのだと言う。
スコールも同様で、必要な事だからと言われても、息苦しさが我慢できなくて外していた。
こんな物があるから、と何回噛み千切った事だろう。
その度にラグナに叱られ、レオンに宥められたけれど、スコールはどうしても受け入れられなかったのだ。

首に触られるのは、あまり好きではない。
レオンに舐めて貰うのと、ラグナにくすぐられるのは、嫌いではないけれど、他の者には触らせたくなかった。
首輪なんて正しくスコールの嫌う所だったのだ。
だから嫌だと何度も訴えていたのに、ラグナはそれでも首輪を嵌めようとする。
レオンにも我慢するようにと言われたけれど、そんなレオンも首輪が嫌で、いつも爪を立てていた。
脆い布の首輪は、爪で引っ掻くと直ぐに破れて、レオンの爪は自分の首を掻いてしまう。
そうして傷の出来た兄の首を、何度も舐めて慰めていた。

それなのに、新しい首輪を着けられたレオンは、ちっとも嫌そうな顔をしない。
スコールは、なんだか兄に裏切られたような、置いてけぼりにされたような気分になっていた。

──────が。

ラグナが食料を調達に出掛けて、兄弟が一緒に昼寝をしていた時の事。
ふと目が覚めたスコールは、しばらくの間、ぼんやりと兄の隣で過ごしていた。

ラグナがいない家の中は、とても静かだ。
今日はセフィロスがザックス達を連れて来る予定もないようで、良い昼寝日和だったのに、こんな時に目が覚めてしまうなんて勿体ない。
窓から差し込む陽光は、ぽかぽかと暖かく、もう一回寝よう、と思ったのだが、何故か睡魔は訪れない。

段々と、睡魔を待つよりも、じっとしている事に飽きて、スコールは体を起こした。
隣で丸まっているレオンの背中に、ぐりぐりと頭を押し付けてみる。
が、兄はすやすやと眠っていて、今日は起きてくれそうにない。
スコールは今度はレオンの首の後ろに顔を近付けて、レオンの毛繕いを始めた。
日向で眠るレオンからは、ぽかぽかと暖かな匂いがして、彼が今、とても幸せである事が判る。

此処に来る前に暮らしていた場所では、兄は腹を空かせながら食料を取りに行って、僅かな肉を自分に分け与えていた。
あの頃のレオンは、毎日泥や土埃に塗れて、時には血を流しながら帰って来た。
痛い思いをしながら、なけなしの食糧で空腹を誤魔化し、次の日にはまたふらふらとした足取りで食糧を探しに行く。
自分は、そんな兄がいなければ生きていけない程、弱かった。
自分の存在が、兄の足枷になっている事を理解しているから、辛かった。
自分がいなければ、自分さえいなければ、兄はきっとこんなに辛い思いをしなくて良いのに────そう思ったのは、一度や二度ではない。

レオンが毎日のように日向の匂いをまとわせて、すやすやと眠れるようになったのは、此処に来てからだ。
此処は極端に熱い日も、寒い日もなく、雨が降っても濡れなくて済む。
食糧が尽きる事もないし、綺麗で美味しい水も飲めるし、猛禽類や大きな猛獣に襲われる心配もない。
時々大きな水溜りに入れられるのは辟易するが、その後、ラグナに毛繕いをされるのは、気持ちが良くて好きだ。

此処にいたい、とスコールは思う。
兄が辛い思いをする事もないし、ラグナも優しい。
此処にいたい─────けれど、その為には、あの大嫌いな首輪をつけなくてはいけないらしい。

眠るレオンの毛繕いをしていたスコールの鼻に、兄とは違う匂いが感じられた。
スコールは、よくよく鼻を近付けて、くんくんと繰り返し匂いを嗅ぐ。
太陽の匂いとは違う、石に似た硬い匂いは、最近になってついた匂いだ。
匂いの元は判っている。
数日前からレオンが首にかけるようになった、きらきら光る銀色の首輪だ。

スコールの鼻に、ぎゅうっと皺が寄せられる。
兄の首から体を離して、スコールはぷいっとそっぽを向いた。
鼻頭に皺を寄せたまま、スコールはその場を離れ、寝室のドアを開け、リビングへ移動する。

リビングは無人になっており、ラグナはまだ帰って来ていないらしい。
しんと静かな部屋の景色に、スコールは無性に詰まらなさを感じて、尻尾でぱしんと床を叩いた。
無人の部屋で暇潰しが出来るものを探してみるが、これと言って心惹かれる物は見当たらない。
そもそも、遊びたいのかと言われると、そう言う訳でもなかった。
目が覚めて、眠くならないし、レオンも起きる様子がないので、取り敢えず此方に来て見たと言うだけの事。
ラグナが帰って来ていれば、何かと構い付けて来ただろうが、玄関から扉が開く音は聞こえない。

スコールの尻尾がぷらんと垂れて、詰まらなそうに目線が泳ぐ。
けれど、どれだけ部屋の中を見回しても、面白そうなものはない────と、思った時だ。


「……?」


ローテーブルの上に、何かが乗っている。

なんだろう、とスコールがソファに上って見ると、テーブルの上に、レオンの首輪が置いてあった。
きらきらと光る首輪は、ベルトではなく鎖で出来ており、“首飾り”と呼ぶのだとラグナが言っていた。
輪になった鎖の端には、変わった形のプレートがついている。
プレートは、見ていると何かを彷彿とさせる形をしていたが、幼いスコールにはそれが何であるのか、はっきりとは判らなかった。

最近の苛立ちの理由でもある物を見付けて、ぐぅ、とスコールの喉が鳴る。


「……がうっ!」


スコールはソファから飛び上がって、ローテーブルの上に四足で着地した。
前足がレオンの首輪の鎖に引っ掛かり、ちゃりん、と金属の音が鳴る。


「ぐうぅうう…!」


低い姿勢で首輪を睨み、噛み付こうとした時だった。
この首飾りをラグナに渡された時、嬉しそうにしていたレオンの貌が頭を過ぎる。

剥き出しにしていたスコールの牙が、ゆっくりと形を潜めた。
じっと見下ろす瞳には、まだ拗ねた色が滲んでいるものの、眦の険は消えている。
スコールはローテーブルの上に乗ったまま、丸い指先でつんつんと銀色を突いてみた。


「………」


これは、苦しくないのだろうか。
これは、兄を苦しめてはいないのだろうか。
それなら、これを付けたら、自分も苦しくはならないだろうか。

体を屈めて、じいっと近い距離から首飾りを見詰めてみる。
きらきらと光る銀色が、深い蒼の瞳の中で、ひらひらと眩しく反射していた。
スコールは光る色に眩む目を、ぱちぱちと瞬きさせて、プレートに鼻先を寄せる。
くんくんと匂いを嗅いでみると、金属特有の匂いの他に、嗅ぎ慣れた兄の匂いがした。
それからもう一つ、ほんの僅かではあるものの、ラグナの匂いも感じ取れる。

スコールの力なく垂れていた尻尾が、ぷらん、ぷらんと左右に揺れる。
つんつん、つんつん、と指先で突いてみる。
首飾りは何も言わずに突かれており、ただただ、きらきらと綺麗な光を反射させていた。
いつの間にか、その光に夢中になっていたスコールは、玄関のドアが開く音に気付かなかった。


「ただいま~……っと、あ!コラ、スコール」
「……ぐ?」
「テーブルに上るのは駄目って言っただろ?」


リビングに入って来たラグナに、スコールはぱちりと目を丸くして顔を上げる。
そのまま動こうとしないスコールに、仕方ないなあ、とラグナはスコールを抱き上げた。


「がうっ、がうっ。がうっ」
「おっととと、」


じたばたと暴れて、腕から逃げ出すスコール。
落としてしまうと慌ててもう一度捕まえようとするラグナだったが、遅かった。
スコールは身を捻ってラグナの手から逃げると、テーブルの横に四足で着地する。
それからすっくと二足になって、ローテーブルの上にあるものを覗き込んだ。

どうしたんだ、と言ったラグナであったが、直ぐにスコールが見ているものに気付いた。


「スコール、これが気になるのか?」


ラグナが首飾りを手に取ると、スコールの視線がそれを追う。
丸めた手が、揺れるプレートを捕まえようと彷徨った。

スコールは今まで、ラグナが用意した首輪を、幾つもボロボロに噛み千切って来た。
その経緯からか、ラグナはスコールの目線の高さまで首飾りを下ろすものの、それ以上は近付けようとしない。
金属なので噛み付かれても簡単には壊れないのだが、折角レオンが気に入って身に付けてくれるようになったのだ。
まだ真新しいのに傷を作ってしまっては、レオンは勿論、その原因になったスコールも可哀想と思っての事だった。

今まで首輪を目の仇のように攻撃していたスコールだったが、ラグナの予想に反して、スコールは大人しい。
兄と揃いの蒼灰色の円らな瞳が、上下左右に揺れる銀色をじっと追い駆けている。
そぉっと右手が持ち上がると、肉球のある手でプレートをぺちぺちと叩く位だった。


「スコールも、ちょっとだけ、つけてみるか?」
「……」


ラグナが訊ねてみるが、スコールからの返事はない。
だが、その場から逃げようともしなかった。

ラグナは首飾りの鎖の端を外すと、ゆっくりとスコールの胸元まで下ろした。
ふさふさとした動物の毛並に覆われた胸にプレートを当て、そっと持ち上げて行く。
スコールは、その動きをじいっと見詰めていた。
プレートが胸の少し上、首よりも下の位置に納まった所で、鎖を輪に戻す。
ラグナが手を離せば、しゃらん、と鎖の音が鳴って、スコールの胸の上で銀色がきらきらと光っていた。


「よいしょっと」


ラグナはスコールを抱き上げて、洗面所まで連れて行った。
其処には洗面台に取り付けられた鏡がある。

ラグナがスコールを鏡に向き合わせると、銀飾りを首からかけたスコールの姿が映る。


「おおっ、格好良いぞぅ、スコール」
「……がう?」
「んで、どうかな。苦しくないか?ヤじゃないか?」
「……?」


ことんと首を傾げるスコールに、大丈夫なのかな、とラグナはスコールを抱き直す。

ラグナの腕の中で、スコールは胸に当たる固い物を見下ろした。
きらきらと光る銀色を両手に挟んで、鼻先から見詰める。
変わった形をした銀色を見ていると、また何かが頭の中に浮かんできた。
なんだろう、としばらく考えていると、ふと兄の姿が浮かんで、レオンの鬣のような濃茶色の頭毛に似ているのだと気付く。

リビングに戻ったラグナは、スコールをソファに座らせて、首飾りを外した。
遠退く銀色に、スコールの手が伸びる。
銀色を捕まえようと、両手で挟んでやれば、ラグナが困ったように笑った。


「気に入ってくれたんだなあ。良かった良かった。でも、これはレオンのなんだ」
「がうぅ」


スコールの不満そうな声に、ラグナはスコールの首をくすぐってあやす。

どれが誰のもので、と言うのは、スコールにはまだよく判らない。
しかし、プレートには裏側にレオンの名前とラグナの名前、そして住所が刻印されている。
だから、これをこのままスコールにあげてしまう訳にはいかないのだ。


「お前のも直ぐに用意するよ。違うのがいいかな?それとも、お揃い?」
「がぁう」
「お揃いか。そうだな。よしよし」


くしゃくしゃとラグナの大きな手が、スコールの頭を撫でる。

ラグナは首飾りをローテーブルに置いて、スコールを抱き、寝室へ向かう。
扉を開けると、レオンが窓の傍できょろきょろと辺りを見回していた。
蒼い瞳がスコールとラグナを見付けると、房のある尻尾が嬉しそうに揺れる。

ラグナがスコールを床に下ろしてやれば、スコールは一目散に兄の下へ駆け寄って、二人はすりすりと頬を寄せ合てじゃれ合い始めたのだった。




─────弟の首に、兄と同じ銀色が光るのは、数日後の事である。






二人でお揃いの首飾り。
これからも皆で一緒にいる為のもの。

ラグナがこれを選んだのは、レオンとスコールが“ライオン”モデルの獣人だから。
将来、二人がどんな風に成長しているのかは判らないけれど、格好良い子に育って欲しいと言う願いも込めて。
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