[レオスコ]合わせ鏡の夜が明ける
- 2016/08/08 21:43
- カテゴリー:FF
兄弟でもないのに、よく似ていると評判の男。
鏡を見た後、彼の顔を見ると、パーツに共通部分が多いからか、確かに似ている、と自分でも思う程。
それでも“兄弟ではない”とはっきりと言い切れるのは、自分にそう言う血の繋がりによる縁はなかった、と頭の中で答えが出るからだ。
元の世界の記憶もないのに、其処だけが明確な理由は、結局の所判らないのだが。
だが、相手もどうやら同じ感覚らしく、年下の面倒はよく見ていたが、自分に血を分け合った兄弟はいなかった、と言う。
あちらも記憶の回復は余り進んでおらず、虫食いが多いので、確信がある訳ではないようだったが、これもスコールと共通した事で、経験が感覚として沁み付いているのだろう。
ついでに、彼が操る魔法の性質が、自身の操る“疑似魔法”とは異なる性質であったので、スコールの中ではこれで決定打となった。
自分と同じ世界から召喚されているのなら、操れる魔法は───魔女でなければ───“疑似魔法”留まりだろうと思うからだ。
それなら、パラレルワールドの同一人物なのかもな、と言ったのはクラウドだ。
パラレルワールド、並行世界、決して交わる事のない別の時間軸に存在する世界。
そういった垣根を越えて、戦士達が神々の闘争の世界へ召喚された事を思うと、クラウドの発想も一理はあるのかも知れない。
が、この世界のあらましについて、スコールは特に知るつもりはないので、正否は謎のままである。
だが、そうであるならば。
この男が、並行世界の自分であるならば、この交わりは禁忌になるのだろうか。
血の繋がりを持つ親兄弟よりも、もしかしたらもっともっと近しい存在と、こうして褥を共にするのは、赦されない事なのだろうか。
世界と言う枠組みを無視して、沢山の歪な世界が入り交じって出来ているこの世界に自分達を召喚し、決して繋がらない筈の道を交わらせたのは、世界の理を握る神々だと言うのに。
だから、いつかこの世界の闘争が終わったら、別れと言う形で罰を与えようとしているのだろうか。
────スコールは、熱の余韻を残す腕の中で、そんな事を考えていた。
それを感じ取ったのか、スコールの耳元に吐息が触れ、
「……何を考えているんだ?」
低く心地の良い声に鼓膜を震わされて、スコールの胸の奥で、どきりと心臓が跳ねた。
密着した体でそれを相手───レオンに隠せる筈もなく、レオンは正直な少年の反応にくすりと笑い、耳朶に柔らかくキスをする。
「心此処に在らずだったな」
「……悪い……」
恋人との、決して多くはない、甘い睦言の時間。
そんな時に気持ちを飛ばしていた事を自覚して、スコールは俯いた。
言い訳もせず、直ぐに謝るスコールに、レオンは眉尻を下げて唇を緩める。
「別に良いさ。お前は此処にいるんだから」
スコールが心を何処かへ浮遊させていても、彼の体はレオンの腕の中に在る。
それさえ違えられる事がなければ、スコールが何を考えても良いとレオンは言う。
スコールの心の自由まで奪う事は出来ないのだから、と。
そう言ってから、レオンはスコールの髪を撫でながら、くつりと自嘲気味に笑う。
「まあ……出来れば、こっちを見ていて欲しいとは思うが」
「……」
「冗談───とは言えないのが、俺も大人げない所だな」
ばつの悪い表情で沈黙するスコールに、レオンはやれやれ、と自分に呆れながら言った。
しかし、スコールは今の彼の言葉が嬉しかった。
よく似ていると皆に言われるのに、自分と違い、レオンは“大人”である。
故に仲間達からよく頼られ、それを無碍に断る事なく快く引き受け、彼自身も他者への気配りを忘れない。
人の面倒を見るのに長けているだと、傍目に見ても判る。
そんな彼が、恋人の自由や奔放を許しきれない、独占欲と言うものを、自分に向けている事が、スコールの心に満ち足りたものを抱かせる。
項をくすぐるレオンの指を感じながら、スコールはレオンの胸に顔を寄せる。
すり、と猫のように甘える少年に、レオンの表情が嬉しそうにはにかんだ。
「どうした?今日は随分甘えたがりだな」
「……駄目なのか」
「いいや。いつもこれ位甘えてくれても良い位だ」
レオンの言葉に、じゃあもっと、とスコールは逞しい背中に腕を回す。
薄い肉がつくばかりの自分と違って、レオンの躯は無理なく盛り上がった肉がついていて、スコールは頗る羨ましい。
────彼と自分が似ていると言うのなら、いつか自分もこうなれるのだろうか。
そう思った事は何度となくあるが、それを口にすると、レオンはいつも微妙な反応をする。
無理だろう、と言われた事はなかったが、何処かそうなる事を望んでいないように見えた。
どうやら、スコールのコンプレックスは理解できるものの、今のスコールの、抱き締めると自分の腕の中に納まるサイズが彼には好ましいらしく、余り逞しくなって欲しくないのが本音のようだった。
レオンと同じ位になったら、彼に抱き締めて貰えなくなるのだろうか。
それは寂しい、と今日は妙に素直な心が、自分の本音を認める。
「……眠いか?」
胸に摺り寄せてぼんやりと思考に耽っているスコールに、レオンが訊ねる。
眠くはない、とスコールは思ったが、背中をぽんぽんと叩く手が心地良くて、黙っていた。
耳を寄せた胸の奥から、とくん、とくん、と規則正しい鼓動の音がする。
彼と体を重ね合せるようになってから、その音がとても安心を得るものだと言う事を初めて知った。
そのリズムに合わさり、溶け合うように、自分の鼓動も緩やかになって行く。
最近のスコールは、その音を聞かなければ眠れなくなる位に、レオンに依存しつつあった。
(……良く無い傾向だ)
誰かに寄り掛かる事、誰かに依存する事、される事。
それはスコールにとって避けるべきものだった。
自分一人で生きて行く力を得る為に、スコールはそう言うものに背を向け続けていた。
それなのに、いつか終わるであろう異世界で、それを得て喜んでいる自分がいる。
闘争が終われば別れなければならないのに、そうなれば二度と逢えない相手に、心を預けている。
なんて事だ、と嘆くように項垂れる自分を自覚する傍ら、ではこの温もりを手放せるのかと言う声には、答えられない。
(だって、こんなに、居心地が良い)
まるで失っていた半身を取り戻したように、彼の傍は収まりが良くて、居心地が良い。
神々の悪戯でこれを与えられたと言うならば、余りのそれは酷ではないか。
彼等の気まぐれで得た幸福を、彼等の気まぐれで取り上げられるなんて、スコールには堪えられない。
レオンの形の良い指が、スコールの髪を梳く。
猫になった気分で、スコールはレオンからの毛繕いを甘受していた。
そうしている内に、意識がまたふわふわと宙を浮こうとしているのを感じ取る。
眠くはない筈なのに、と思いつつ、スコールはうとうとと夢路の扉を潜ろうとしていた。
「疲れたか?」
「………」
「眠っていいぞ。まだ時間はある」
「……」
「明日は待機だしな」
「……」
言いながら、レオンの手はスコールの形の良い頭を撫でている。
その手付きは慣れていて、やはり子供をあやす事に慣れているのだろうとスコールは思った。
そう言う点は、子供を苦手としている自分とは、似つかない所だ。
────それとも、レオンと同じ位の年齢になったら、自分も彼と同じ撫で方を誰かにするのだろうか。
そう思ってから、いや、とスコールは自己否定する。
レオンは幼い頃から人の面倒を見る立場であったようで、スコールはそれとは真逆であった気がする。
根本的に、子供に対する意識が違うのだから、今の彼と年齢を並べた所で、スコールはレオンと同じようにはなれないだろう。
……そう考えてから、では体格もそうなのか、と思考が戻って来た。
羨ましさと同時に妬ましい気持ちが芽生えて、レオンの胸に顔を埋めたまま、スコールは唇を尖らせる。
「スコール?」
他人の───特にスコールの機微に聡い男は、すぐにスコールの様子に気付いた。
どうした、と心配そうに訊ねる声に、スコールは答えないまま、抱き付く腕に力を籠める。
ぎゅう、と遠慮なく抱き締めても、レオンは苦しがる様子もなく、寧ろ「やっぱり今日は甘えたがりだな」と嬉しそうに言った。
「ほら、眠いんだろう。そろそろ寝てしまえ」
「……」
「お前が眠るまで、こうしていてやるから」
レオンの手に撫でられて、スコールの濃茶色の髪がさらりと流れる。
今日は久しぶりにまぐわったものだから、ついつい燃え上がって、長い時間を交わし合っていた。
そんな事だから、自覚はなくともスコールの体は疲れており、休息を求めて睡魔を誘う。
レオンも判っているようで、彼はスコールを無理に起こそうとはせず、うつらうつらと舟を漕ぐ恋人を甘やかす。
その傍ら、窓のカーテンの隙間から、外界の薄ぼんやりとした光が零れて来るのを見て、レオンは呟いた。
「……このまま、朝が来なくても良いのにな」
いつか来る終わりなんて、なくても良いのにな。
レオンの言葉が、スコールにはそんな風に聞こえた。
ぎゅ、と抱き締めるレオンの腕に力が籠められて、スコールは少し身動ぎしたが、直ぐにこのままで良いか、と落ち付く。
とくとくとリズムを刻むレオンの心音を聞きながら、先のレオンの言葉に、思う。
(……俺も、このままがいい)
朝なんて来なくて良い。
離れてしまう未来なんてなくて良い。
それが闘争の牢獄に閉じ込められる事だとしても、構わなかった。
ずっとずっと、この温もりの傍にいたい。
例えこれが、決して許される筈のなかった禁忌の関係であるとしても。
異説でレオスコ。
普通にいちゃいちゃしてるのも好きですが、いつか終わる事に怯えているレオンとスコールも好きです。
いつか二人で闘争から逃げるかも知れない。
ディシディアでレオスコを考える時は、兄弟パラレルにする事が多いですが、こう言うのも雰囲気が違って良いですね。