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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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カテゴリー「FF」の検索結果は以下のとおりです。

[8親子]まんまるおめめがみるせかい

  • 2020/06/18 22:45
  • カテゴリー:FF
『作って遊べる画像メーカー』の「あの子がこっちを見ている」で作ってみたら気に入ったので。
レオン → https://picrew.me/share?cd=XTeRhrw33g
スコール → https://picrew.me/share?cd=ZCMBo9mYbz

レオンが7歳、スコールが4歳の現パロ風味。




キロスとウォードが旧友の下を訪ねたのは、実に4年ぶりの事だった。
その間の出来事については、案外と筆まめなラグナから綴られた、誤字誤用だらけの手紙から聞いている。
文字の中では、共に行動していた頃と変わっていないラグナだが、流石に5年ぶりに逢うと、変化がないとは言えなかった。
その事がキロスにとっては少しショックであるような、けれども彼に訪れた変化がとても良い事である事も確かで、喜ばしくもあった。

ジャーナリストを目指して、カメラを手に西へ東へ駆け回っていたラグナ。
彼の取材は、現地の人々との交流を主として、切り取られた風景写真と共に紹介され、その名を徐々に知られて行った。
文章の誤字誤用はキロスとウォードがチェックする事になっていて、独特の間違いを如何に彼特有の雰囲気を壊さずに直すか、と言う仕事が、キロスには少々特殊な楽しみとなっていた。
ウォードもラグナが撮る写真を気に入っており、投稿用に使う写真の吟味に、彼も一枚噛んでいた。
ラグナは天才肌とでも言うのか、独特の尖った感性と言うのか、独自の空気を持つものを作り出す事が出来る。
それをもう少し、一般受けし易いようにと調整するのが、キロスとウォードの役目だった。

そんなラグナが、ジャーナリストの端くれとして、業界内で名前が拡がりつつあった頃、彼は引退した。
若く、ジャーナリストとして脂も乗って来るであろうと言う所で、彼はペンを置いたのだ。
学生時代から強く憧れて已まず、自分の名前で投稿したものが雑誌の端に乗っては嬉しそうにはしゃぎ、その時の気持ちを思い出しては子供のように喜んでいたラグナ。
取材先にもお得意様と言うものが出来て、さあこれからもっと大きなネタを、と言う時に、ラグナはそうした世界から足を洗ってしまった。
非情に勿体無い、と言ったのは旧友だけではなく、彼が取材を繰り返していた人々からも零れていた。

けれどラグナは、夢を諦めた。
取材先で出逢った女性が、ラグナにその道を選ばせた。

彼女は小さな田舎町に、小さな花屋を営んでおり、取材中に事故に遭ったラグナの療養先として、縁を結んだ。
存外と大怪我だったラグナは、長い時間を療養に費やす事となり、その間に彼女との絆が深まって行った。
その様子は傷の見舞いに来たキロスとウォードの知る所でもある。
怪我が治ればまた直ぐにあちこちへ行くのだろう、と思っていただけに、彼の変わり方は友人達にとって意外なものだった。
何処か少年のようでもあったラグナが、彼女と言う存在と向き合う事で、新たな道へと歩き出す。
それは自由気儘に過ごしていた男達の、そんな時代への別れを意味しており、旧友たちにとっては寂しくも微笑ましくもあるものであった。

こうしてラグナはジャーナリストとしてペンを置いた。
代わりに、取材に使っていたカメラを武器とする事になり、住み暮らす事になった町を中心に、雑誌に掲載される為の風景写真を撮るようになる。
やがて子宝にも恵まれ、父親となったラグナを、キロスとウォードは折々に足を運んでは見守っている。

ラグナ、キロス、ウォードの三人の友情は、今も変わらず続いている。
とは言え、歳月を重ねる毎に、ラグナはラグナの生活があり、キロスとウォードもそれぞれの日常を送る事で、少しずつその時間にズレが生じるのは無理もない事だった。
三人が一同に揃える時間と言うものも必然的に減って行き、気付けば最後に逢ったのは4年前。
あの頃、まだ母に抱かれていた子供が、兄になったのだと聞いても、キロスとウォードは友の下へ足を運ぶ機会を得られなかった。
それは寂しくもあり、致し方のない事でもある。
だが、やはりまた逢いたいと言う気持ちも消えず、キロスとウォードの休暇が偶然にも揃った事もあって、久しぶりに彼の下を訪ねてみようか、と言う話になったのだ。



ラグナは、綺麗な花の咲き誇る、純朴な田舎町に住んでいる。
刺激を求めて已まなかった彼が、こんなにも平穏で静かな町に腰を落ち着けるなんて、あの頃一体誰が想像する事が出来ただろう。
事実は小説より、とはよく言ったものだと、この地を訪れる度にキロスとウォードは思う。

しかし、久々に見たラグナは、相変わらず賑やかだった。
目尻の皺こそ少し増えたように見えるものの、それは彼が幸せに過ごしていると言う証拠でもある。


「いやー、ひっさびさだなぁ!わざわざ遠くまでご苦労さん」
「何、大した距離ではないさ」
「ああ。ほんの、片道12時間のフライトだからな」
「やっぱ遠いじゃんよー」


キロスの言葉に、ウォードが冗談めかして言えば、何処がほんのなんだよ、とラグナの拳がウォードの腹を突く。
気安いスキンシップも4年ぶりと思うと、ウォードは少々感慨深いものがあった。

玄関先でそんな遣り取りをしている男達を、ダイニングから顔を出した女性が呼ぶ。


「ラグナ、お客様をそんな所で立たせっぱなしにしないで。お茶入れるから、中に入って貰って頂戴」
「おお、そうだな。上がってくれよ」
「では、甘えよう。失礼する」
「すまないな、奥さん」
「いいえ。コーヒーで良いかしら。紅茶もありますよ」
「コーヒーにしようぜ。ほら、昨日貰った豆あるだろ?あれにしよう」


夫からのリクエストに、妻───レインは「はいはい」と返事をして、コーヒーミルを取り出した。

リビングダイニングの食卓テーブルを借りて、旧友達の話に花が咲く。
誰が何処で何をしていたのか、手紙に綴られた内容はそれぞれ把握していたが、それも大まかなあらまあし程度の事。
もっと詳細に、一日一日の出来事を切り取るように報告し合えば、話題は幾らでも続いた。
逢わなかったのはほんの4年、されど4年で、自分達が出会ってから過ごした時間を思えば、ほんの一時である筈なのに、まるで長い間離れ離れだったかのような錯覚。
だからだろうか、会話もテンポも、交わされる遣り取りも、あの頃のように戻っても、何処か“変わっている”とも感じていた。
だがそれも悪い気のするものではなく、ただ、ああ年を重ねたのだなと、キロスは郷愁のように感じていた。

───レインが淹れてくれたコーヒー一杯を飲み終わる頃、キロスは感じる視線に首を巡らせる。
そうして見付けたのは、ダイニングのドアの陰から覗き込む、二対の円らな瞳だった。


「おや」
「!」
「!」


キロスが唇を緩めて声を発してやれば、円らな瞳は揃って丸く見開かれた。
一つがぴゅっと壁の向こうに引っ込んで、もう一つはじいとキロスを見返す。
その瞳は、ラグナが愛した人と同じ、澄んだ蒼灰色を宿していた。


「レオン君かな」
「お。うん、そうそう」


蒼の瞳と、濃茶色の髪。
母の面影を色濃く受け継いだその特徴を持った子供の名を呼べば、ラグナも息子の存在に気付いて頷いた。


「何歳だったか……」
「7歳か?」
「ああ。でっかくなっただろ~」


嬉しそうなラグナの言葉に、キロスとウォードも頷いた。
二人が前にラグナと逢った時は、まだ母に抱かれていたのに、ふくふくとしていた頬はまろやかな形になり、瞳には利発な光が宿っている。
引き結んだ唇から、しっかりした子なのだろうなと、そんな雰囲気も感じられた。

じっと見つめる蒼灰色は、その瞳に好奇心と少しの警戒を映し出している。
そんな息子をラグナが手招きして呼んだ。


「レオン、おいで」
「……」


父に誘われて、子供───レオンはドアを大きく開けた。
とっとっと気持ち駆け足で父の下へ来た息子を、ラグナはくしゃくしゃと髪を掻き撫ぜている。


「お客さん?」
「ああ。覚えてっかな、キロスとウォードだ。逢った事あるんだぜ」
「……んん……?」


ラグナの言葉に、レオンの視線がキロスとウォードへと向かう。
考え込むように眉間の皺を浮かべつつ、レオンはことんと首を傾げた。
よく判らないと体現するその仕草に、ウォードが無理もない事だと苦笑した。


「前に君と逢った時は、まだ小さかったからな」
「そうなの?」
「ああ。3歳だった頃だな」
「スコールより小さいとき?」
「そうだな~。あ、そうだ、スコールは?」
「スコールなら」


あっち、とレオンが指差したのは、ドアの方向だった。
大人が揃って其方を見ると、半開きのままのドアの隙間から、そぉ……っと丸い蒼がもう一対覗き込んできた。

レオンと同じ、母の面影を受け継いだ、蒼灰色の瞳と濃茶色の髪。
レオンは肩口まで髪を伸ばしていたが、こちらはすっきりと短く、細い首のラインが見えていた。
身長もレオンより低く、肩を縮こまらせるようにして此方を覗き込んでいる事も相俟って、全体的に小柄な印象を与える。
眉はハの字に下がり、瞳は不安そうに頼りなく揺れていた。

旧友間の遣り取りが手紙だけとなった頃、ラグナの下に第二子が生まれた事は綴られていた。
成程、あれが、と初めてその顔見たキロスとウォードが見詰めていると、


「……!!」


注目を浴びている事に気付いた幼子───スコールは、泣き出しそうに顔を歪めて、またドアの向こうへと隠れてしまう。
3歳の頃には物怖じせずにウォードにじゃれついていたレオンとは、どうやら全く様子が違うようだ。


「恥ずかしがり屋のようだ」
「俺が怖がらせているかもな」
「人見知りなんだよ。スコール、怖くないから、こっちおいで」
「スコール!」


父と兄に名前を呼ばれて、スコールがまた恐々と顔を覗かせる。
ラグナはレオンを膝に乗せ、落ちないように片手で支えながら、逆の手でスコールをおいでと誘う。
スコールはその手を見詰め、行きたい、行きたいけど、と言うようにその場で固まっていた。

スコールは中々動かなかった。
丸い瞳がうるうると揺れて、助けを求めるように父と兄を見ている。
どうやら、大分慎重派のようだ、とキロスとウォードが目を合わせて苦笑していると、キッチンにいたレインが息子の下へ向かう。


「スコール」
「おかあさん」


守ってくれる人が来たと、スコールはようやくドアの影から出て来て、母へと抱き着いた。
スカートをぎゅうと掴んで隠れたがる次男を、レインはやれやれ仕方のない子ねと抱き上げて、しがみ付く背中をぽんぽんと叩いてあやす。

ラグナが椅子を引いてレインに座るように促した。
レインが腰を落ち着けると、スコールは膝に乗せられて、母の胸に顔を埋める。
ちら、ちら、と蒼い瞳がテーブル向こうの見知らぬ人に向けられては、目が合う前にぱっと逸らされ、また母に縋り付いた。
レオンはそんな様子の弟を、父の膝上にじっと収まって見詰めている。

父と母にそれぞれ抱かれる、二人の息子。
何度か手紙に同封された写真のそれで見た姿に比べると、やはり違う所も目立ち、子供の成長とは早いものなのだとキロストウォードは実感した。
それと同時に、昔ながらの友人が、父親としてすっかり馴染んでいるのを見て、人は変わり行くものなのだと感慨深くなる。


(────何はともあれ、)
(皆が健やかで何より、と言う事か)


キロスとウォードの視線が交わって、そんな会話が音なく交わされる。
それから爛々と輝かしい碧を見れば、此方にも同じ言葉が伝わったか、ラグナはにっかりと歯を見せて笑った。

そうそう土産があるんだと、嘗てラグナが親しんでいた店で買ったクッキーを差し出すと、子供達の目が興味津々に輝いた。




子供のレオンと、子供のスコールで、初対面した大人への反応は大分違うと良いなぁと。
警戒心は持つけどそんなに怖がらないレオンと、初めて見たものにはとにかく近付きたがらないスコールが書きたかった。
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[ロク&ティナ×スコ]緩やかな一時に

  • 2020/06/08 22:00
  • カテゴリー:FF


人の気配の少ない秩序の塔で、ロックは暇を持て余していた。

ロックが神々の闘争の世界に喚ばれてから、それなりに時間が経っている。
相変わらず神々は気まぐれに人選を行って、秩序と混沌に分かれた闘争は繰り返されている。
その間に、新たな戦士の姿はぽつりぽつりと見られるようになり、今ではロックもそこそこ古株と言って良い位には後続が増えた。
詰まりは所帯が大きくなっている訳で、こうなると闘争の現場に赴く必要がない日も多くなって来る。
ロックが召喚されたばかりの時は、勝負がなくとも、世界の様子を確認する為にと、陣地拠点を離れて周辺の探索に向かう事も多かったが、最近はその回数も減って来た。
何もかもが判らなかった頃に比べると余裕が出て来たと言う事もあり、取り急ぎの用でもなければ、いつ呼ばれるか判らない勝負の為に体力を温存しておこう、と言う考えも湧いて来るようになる。
今日のロックも、その意図で塔の中で過ごしていたのだが、


(暇だな。と言うか、静かだ)


秩序の戦士達は、皆それなりに仲が良い。
特に、今回の初めてではないと言う十余名の戦士達は、以前からの縁と言うのもあるのだろう、一際距離の近い付き合いをしている者もいた。
だからなのか、わいわいと賑やかな声が響いている事が多いのだが、今日は一転してとても静かだ。

理由は判り易いもので、『賑やか組』と称するティーダを初めとし、彼と一緒にはしゃぎ出す事が多いジタンとバッツもいないのだ。
ブリッツボールだ即興劇だと、余興に暇なく仲間達を楽しませる彼等は、数時間前に勝負の地へと赴いたらしい。
勝負の相手が誰なのかは判らないが、今回はフリオニールやクラウド、セシルが混沌陣営に引き入れられた。
彼等は喪われた世界での闘争を秩序の陣営として過ごした者達。
詰まりは、ティーダ達にとって、陣営は違えど彼等も仲間と言う意識が根付いているのである。
若しも彼等とマッチングしたのなら、勝負の後に揃ってモーグリショップに向かい、お茶の一つでも飲んで帰る位はするだろう。

他の戦士達もそれぞれの理由で出払っているようで、塔の中には人の気配がない。
ひょっとして自分以外誰もいないんじゃないか、と思う位は静かだった。
こういう事は、滅多にないが稀にはある事なので、じゃあ今日の俺はどうしようかなと、行く宛てのない気分でロックは廊下を歩く。


(俺も何処かに出掛けようかな。って言っても、別に必要なものとか、気になるものもないしなぁ)


用がなくては外に出てはいけない訳ではないが、用もないのに外に出るのも意味がない。
外に出てから、さて此処からどうしよう、と話が振り出しに戻るのは目に見えていた。

そんな事を考えている間に、ぐう、とロックの腹が鳴る。
昼飯はティファが作り置きをしてくれたものを鱈腹頂いたので、足りない事は先ずない。
が、時刻はそろそろ八つ時を迎えようとしており、小腹が空いたような気にはなる。
冷蔵庫にあるリンゴ一つ位は貰っても良いだろうか、今日の晩飯は誰が作るんだっけ、と思いつつ、ロックはキッチンへと向かうべく、リビングダイニングへの扉を開けた。
其処も廊下と同じく、静かな空間が広がっており────


(誰もいない……って事はなかったか。ティナかな?)


十人が座れる大きなダイニングテーブルの向こう、その陰からひょこりと覗くリボンを結んだポニーテール。
位置が低いので、床に座っているのだろうか。
其処にはソファも置いてあった筈だが、何故そんな位置に───と疑問に思いつつ、ロックは足音を忍ばせて、テーブルの向こうのキッチンへ向かう。

電気で管理されている保冷庫の引き出しを開け、納められていたリンゴを取り出す。
キッチンのシンクの水で軽く表面を洗って、ロックはそのまま齧り付いた。
皮ごと口の中で噛めば、しゃりしゃりと瑞々しい果肉が音を立て、甘酸っぱい果汁が咥内一杯に溢れて来る。
それを齧りながらキッチンシンクに寄り掛かり、腹拵えが終わったら次は、と考えながら、何の気なしにヘーゼルの瞳がダイニングの向こうへと向けられた。


(……寝てるのか?)


テーブルの陰から覗くリボンは、じっと動かない。
頭の向きから見て、ソファに横になっている訳ではなさそうだが、疲れていると人は妙なポーズでも眠れてしまうものなのだ。
もし寝ているなら声をかけて、部屋に戻って休むようにと促した方が良いか。
そう思って、ロックはリンゴを齧りながら、ティナの下へと向かった。


「ティナ────あ、」



元の世界でも呼び慣れていた、仲間の少女の名を呼ぶと、彼女はくるりと振り向いた。
唇に指一本を立てて、「しぃーっ…」と静寂を促しながら。

其処にいたのは、ティナだけではなかった。
ティナはソファの前にぺたりと座っており、其処に横たわっている少年───スコールの顔を覗き込んでいる。
スコールはソファの肘掛に頭を乗せて、長い手足を縮こまらせる格好で蹲っていた。
寝ているのだ、とロックが数秒の時間をかけて、スコールが根息を立てている事に気付く。

気配を感じさせない程に静かに寝ているスコール。
ロックは、酷く珍しいものを見た気分で目を丸くしつつ、そっと二人へと近付いてみる。


「…寝てるのか」
「うん」


声を潜めて確かめ訊いたロックに、ティナはスコールの顔を眺めながら、小さな声で頷いた。

しゃり、とロックのリンゴを齧る音が、小さく鳴る。
なんとなく咀嚼音を控える意識で果肉を噛みつつ、ロックは眠るスコールの顔を見降ろした。
長い睫毛は下ろされて、彼の特徴的な蒼灰色の瞳は見えず、いつも真一文字に引き結ばれている唇が、薄らと開いて無防備な印象を与える。
意外と子供のような寝顔をしているのだな、とロックが思っていると、


「……ふふ」


隣で零れる笑みは、ティナのものだ。
此方も此方で、結構機嫌が良いな、とロックも伝染したように口角が緩む。

ティナがそっと手を伸ばして、スコールの目元にかかった前髪をそっと払う。
ぴく、とスコールの瞼が一度震えたが、持ち上げられる事はなく、またすぅすぅと規則正しい寝息が聞こえる。
人の気配に敏感なスコールにしては珍しく、深い眠りの中にいるようだ。
つくづく珍しい事があるものだと、ロックが二人の様子を観察していると、ティナが潜めた声で言った。


「スコール、やっと安心して眠れるようになったみたい」
「やっと?」


ティナの言葉に、どういう事かとロックが訊ねると、ティナはスコールの白い頬をふにっと指先で突きながら続ける。


「スコールね、人の気配に敏感なの」
「ああ、そうみたいだな。傭兵だって言ってたし、癖なんだろうな」
「うん、それもある。あとね、この世界に来てから、色んな人が召喚されるでしょ。最近は新しい人も呼ばれて来て、前よりも人が沢山になって」


ティナが言う“前”をロックは知らない。
恐らく、一部の戦士達の間で度々話に上がる、“前回までの闘争の世界”の事を指しているのだろう。
あの頃よりも人が増えていると言うのは、他者の気配に敏感なスコールにとって、聊か気疲れするものなのかも知れない。
ロックのその考えは遠くはなく、ティナも同様に考えていた。


「スコール、色んな事を気にしてくれるの。きっと誰より色んな可能性を考えていて、皆の安全の事を心配してくれてる。普段からそうなんだけど、新しい人が来ると、そう言う事をもっと沢山考えてるんだと思う。こう言う所は、前の時と変わってない」


スコールの警戒心の高さは、傭兵として年少の頃から育成され、身に染み付いたものだと言う。
最大の警戒と準備をし、物事が起これば即時対応し、躱せない被害は最小限に抑える。
その為に自分が批難される立場になってでも、彼は警戒を怠らないのだ。

────でも、とティナは言う。


「でもね。でも。ほら、今日は寝てるでしょ?」
「ああ。ぐっすりだな」
「ふふ、そうでしょ。きっと安心してくれてるの。此処は今、大丈夫なんだって」


此処。
それは秩序の女神の拠点となった、この塔を指すと同時に、今この世界で共に過ごしている仲間達を指す言葉でもある。

その性質上、スコールは初めて逢った人間を容易に信用できない。
初めてこの世界に事故的出来事で迷い込んだロックは、スコールのそんな一面をよく知っていた。
そして、仲間と認めたからと言って、平時までその信頼が適用されるかと言うと、また微妙であると言う事も。
スコールはどうしても、他者の気配と言うものを容認するのは難しい気質を持っているのだ。

そんなスコールが、今は深い眠りの中にいる。
直ぐ傍らにティナとロックがいるのに、彼は穏やかな寝息を立てているのだ。


「私、それが凄く嬉しくて。スコールのこんな寝顔、久しぶりに見れたから」


だからティナは、じっと床に座り込んで、スコールの傍についていたのだ。
彼の寝顔が一番よく見える場所を貰って、誰かが意図せず、彼の安らかな眠りを犯してしまう事のないように。

嬉しそうに頬を赤らめるティナに、ロックはいつか見た彼女の姿を思い出す。
あれは全てを終えた後、彼女が身を寄せていた村に、彼女を送り届けた時の事だ。
大人がいなくなってしまった村で、幼い子供達の母代わりをしていたティナは、久しぶりの子供達の再会をとても喜んでいた。
ママ、ママ、と呼んで甘える子供達に囲まれて、そのくすぐったさに胸を一杯にしていた────その時と同じ顔。

ちらとロックが少年を見遣れば、ロックが見慣れた野宿の際の寝顔とは違い、すっきりとした貌が浮かんでいる。
トレードマークのようにも見えた眉間の皺がすっかり消えて、尖り切らない頬のまろやかさもあり、随分と幼い印象だ。
ティナが見守りたがるのも無理はない、ロックはそう思った。


「だからね、ロック。起こさないであげてね」
「ん~……」


ティナにしてみれば、スコールは現環境に対して、ようやく慣れて来たと言う所なのだ。
人の気配が少ない事も含め、熟睡できるようになったと言うのは大事な事だ。
だから邪魔をしないでね、とティナは釘を刺したのだが、ロックは俄かに悪戯心が沸いていた。

リンゴの果汁がついていた手を服の裾で拭く。
それから、甘い匂いのついたその指で、ロックはスコールの鼻を摘まんだ。


「ほい」
「………んぅ……」
「ロック!」


鼻孔を塞がれて、スコールの眉間にきゅっと皺が浮かぶ。
ティナが潜めた声で咎めるので、ロックは早々に手を離した。


「どうして意地悪するの」
「可愛いからだよ」
「………」
「冗談だって。あんまり無防備だから、つい、な」
「……もう!」


睨むティナに、母親は怒らせると怖いものなのだと、ロックは遅蒔きに思い出す。
リンゴを持った手諸共、降参ポーズで白旗を上げて、ようやくティナの目尻は緩んでくれた。

ひどいね、と小さく声をかけられたスコールは、まだ目を覚まさない。
ロックの指で赤らんだスコールの鼻に、ティナの嫋やかな指が伸びて、慰めるようにくすぐる。
鼻元のむずついた感触がしたのか、くしっ、と猫のようなくしゃみが聞こえた。





6月8日と言う事で。
子供を見守るティナママと、ちょっかい出したくなるロックでした。
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[クラレオ]ドランク・プレイ

  • 2020/06/02 20:38
  • カテゴリー:FF


レオンがあまり酒に強くない事は、クラウドもよく知っている。
しかし全く飲めない程に弱いとか、そもそも味が駄目、と言う訳でもない事も判っていた。

故郷を失い、シドの下で身を寄せ合って成長して来た少年少女達の中で、彼は一番の年長者だった。
当然、最初に成人の年齢を迎えたのも彼であったが、彼は“大人だから出来る”娯楽や歓楽の類は基本的に興味を持たなかった。
所謂、酒、博打、女、と言うものだ。
成人でなくとも興味があれば手を出してしまい勝ちな享楽であるが、彼はそれらについて根本的に無関心であり、それよりも自身の無力を覆す為の努力に必死だった。
ストイック過ぎて、肩に力が入り過ぎているんじゃないかと、放任主義を宣うシドが真面目に心配した位だ。
その肩の力を抜かせる為にと、シドが気晴らしにどうだと酒を勧める事がなければ、今でも彼は酒の味を知らなかったのではないだろうか。

レオンが酒に弱いのは、多分遺伝的な体質だろうとシドが言っていた。
シドが知っている彼の父親も、息子同様、酒に弱かったらしい。
平時から賑やかな人物だったらしいが、アルコールが入ると一層口がよく回り、相手に喋らせる暇を与えない程によく喋るようになったそうだ。
だが、体質は受け継いでいても、酔った時の言動は父親とは違ったようで、レオンの場合はぼんやりとする表情が増える。
言葉数も───比較的多弁にはなるが、何せ普段が積極的に喋る性質ではない───少ないもので、相手の会話に対する相槌の回数が増える位だろうか。
そしていつの間にか、静かに眠りに就いている、と言うのが、皆がよく知るレオンの酔っ払うパターンであった。

クラウドが酒の味を知ったのは、レオンよりもずっと早い。
レオンが成人するよりも前、つまりはまだクラウドが15歳そこらの時に、彼はちゃっかり飲酒をした。
生活に必要な資金を作って行く為、トラヴァーズタウンで道具屋を始める為の準備をし、それに疲れたシドが酒を飲みながら寝落ちていた。
そう言う時、大抵はレオンかエアリスが片付けをしているのだが、その日は二人も、ユフィも準備の手伝いで疲れ切っており、台所は散らかったままだったのだ。
其処にのっそり目を覚ましたクラウドが来て、出しっぱなしになっていた酒の瓶に好奇心が惹かれ、保護者の目を盗んで初めての飲酒をした。
正直、その時の事は余り良くない思い出で、詰まる所、初めての酒を旨いとは思わなかった訳だが、その晩、ふわふわとした気分で眠れたのが少し心地が良かった。
それ以来、保護者の目を盗んでこっそりと、グラスの底数ミリ分の酒を舐めるように飲んでいた。
そんな事をしている内に、酒の味わい方と言うものを覚えて来て、舌もそれに慣れて行き、成人する頃にはそこそこ酒に強くなっていた。
成人祝いだとシドが持ってきた酒を、平然と飲んで行く様子から、知らない訳じゃねえなと過去の功罪についてバレてしまったが、シドとて若い内に似たような事をしていた口だと言う。
自分の限界は把握しとけよ、とだけ言って、彼はそれ以上は言わなかった。

自分の酒量の限界と言うものを、クラウドは勿論、レオンも理解しているつもりだ。
だが、判っているからと、いつもそれを守れるかと言われると微妙な所である。
気分の良い酒はついつい杯が捗るし、疲れが溜まっていれば、少しの量で目が回る事もある。
レオンがよく失敗するのは後者の方で、様々な要因から疲労を貯めた体が、アルコールの齎す緩みを受けて、よく表面化する。
レオンの平時は眠りが浅く、自警団的な真似をしていたトラヴァーズタウンでは、何かあれば直ぐに飛び出せるように構える癖がついているからなのだが、故郷に帰って来た今でも、彼のその癖は変わっていない。
帰って来たホロウバスティオンでも、黒い影は蠢いており、その被害は後を絶たないから無理もない事ではあるのだが、かと言って常に緊張の糸を張っていれば、体が本当の休息にありつけず、疲労を溜め込んでしまう事になる。
そんな彼を熟睡させる為に、シドは意図的に彼を酒の席へと誘うのだが────


(……あんたまで寝潰れてどうするんだ)


偶々ホロウバスティオンに戻って来たクラウドがユフィに捕まり、引き摺るようにハートレス退治へと駆り出されたのが、今日の正午頃。
それからなんだかんだと過ごした末に、エアリスが夕飯を作ってくれたから食っていけ、とレオンに引き摺られて、『再建委員会』なる彼等の拠点である魔法使いの家に連れていかれたのが、夕方。
食事も終わって、寝床は借りられるだろうかとレオンに打診しようとして、ちょっと付き合え、とレオン諸共シドに捕まったのが、今から約二時間前の事。

クラウドの前には、平時は会議なり食卓なりと使っているラウンドテーブルに突っ伏し、健やかな寝息を立てているレオンと、椅子の背凭れに寄り掛かって天井を仰ぎ、豪快な鼾を掻いているシドがいる。
前者はそう言う目的で飲ませたのだろうから仕方がないとして、後者は少し無責任ではないかと思う。


(まあ、パターンとして判っちゃいたが)


シドが気分の良い酒を飲んだ後、寝潰れるのはよくある事だ。
レオンと二人きりで飲んでいて、彼を寝かせる目的で誘ったのなら、敢えて酒量をセーブする事も出来るのだが、今日はクラウドもいる。
後の事はクラウドに任せておけば良いと、どんどんビールのタブを開けていた。
それだけ、シドも酒に焦がれる程、疲れが溜まっていたと言う事だ。

クラウドも世界を渡る生活をしていて、疲れていない訳ではないのだが、反面、故郷の事を幼馴染達に押し付ける形になっている事は判っている。
本当は猫の手も借りたい程に日々を追われているレオン達に対して、自分は気紛れに帰って来た時、得意分野での仕事を求められている程度なのだ。
罪悪感と言う程ではないが、一人でやりたい事をやらせて貰っている分、偶の仕事の押し付け位は飲み込んで置こう、と思う程度には、彼等を労う気にはなる。

クラウドは余りキッチンへの出入りをしないので、下手な事はしないように、食器類はシンクに纏めて水に浸けておくに留めた。
明日になったら、エアリスかユフィが片付けるか、魔法使いがなんとかしてしまうだろう。
それからシドを寝室へと運び、物で溢れたベッドの上に転がして、次はレオンの下へ向かう。

────と、突っ伏していたレオンが顔を上げ、猫手で目元を擦っていた。


「起きたのか」
「…んん……」


起きてくれるのならその方が楽だと、クラウドが声をかけてみると、むずがる声が聞こえた。
眠い目を擦りながら、レオンがきょろきょろと辺りを見回し、クラウドを見付ける。
その目はとろりと柔らかく蕩けており、酔っている事が判り易く表れていた。


「……クラウド」
「ああ。シドは部屋に放り込んだ。あんたも帰って寝ろ」
「……そうか……」


一拍遅れた反応を返しながら、しかし一応、クラウドの言葉を理解はしたらしい。
レオンは両手をテーブルについて、重そうな体をゆっくりと持ち上げる。
頭の芯は大分ぼやけているようで、次の一歩を踏み出すまでに随分と時間がかかった。

レオンは片手を顔に当てて、ふらふらと、重い一歩を少しずつ踏み出す。
と、足元に転がっていた一冊の本に爪先が引っ掛かって、それだけで彼はバランスを崩した。


「おい!」
「う」


咄嗟にクラウドが腕を伸ばし、無防備に倒れ込もうとするレオンの躰を掴んで掬う。
そのままだらんと脱力したレオンに、これは駄目だとクラウドも判断せざるを得なかった。


「ああもう……あんた、どれだけ溜めてたんだ」
「……ん……?」
「ストレスの話だ。あんたがそうなる時は、大体そうだと決まってる」


言いながらクラウドは、レオンの腕を肩に回し、彼の重い脚を引き摺りながら外へ向かおうとする。
が、そのクラウドの足に、レオンの足が引っ掛けられて、二人揃って地面に倒れる羽目になった。


「いった……おい、今引っ掛けただろ」
「ふ……くく……」
「この酔っ払いめ」


くつくつと笑うレオンの肩を見て、意図的とは質の悪い、とクラウドは呆れる。
普段はこうした悪戯を諫める方である彼が、その役割を放り投げている。
これでは帰るまでの家路が非常に遠くて面倒臭い、とクラウドは独りで起き上がり、床に座って深々と溜息を吐いた。


「同じ事をするなら、このまま放っとくぞ」
「それは、嫌だな。明日エアリス達に怒られる」
「じゃあ歩け」
「運べ」
「もう少ししおらしく頼んでみろ」


歩く気はないと、片手を伸ばして命令口調で言う年上の幼馴染に、クラウドは言い返した。
頼みを聞いてやる気になるように言い直せ、と。

すると、レオンは床に転んだままでしばし考える素振りを見せた後、のろりと起き上がる。
酒宴の前に、オンオフの切り替えなのか、手袋を外していた手が、ぺたりと床についた。
猫が近付くような仕草でレオンはクラウドへと身を寄せると、


「運べ、クラウド」


しおらしさ等とは程遠い、相変わらずの命令口調。
それから、ちろりとクラウドの耳元を舌が擽って、ぞわりとした感覚がクラウドの背を襲う。
その感覚は嫌悪の類ではなく、熱が一ヵ所に集まる時に起こるもの。

全く今日の酔っ払い方は質が悪いと、クラウドは鼻の先にいる年上の幼馴染を見て改めて思う。
だが、それだけレオンがストレスを溜めていたサインでもあると思うと、振り払うには少々ばつが悪い。
こんな状態にでもならなければ、そうやって自分を苛めるような事をしなければ、まともに眠れない程に疲弊している癖に、彼自身はそんな自分に気付かないと言う悪循環を知っているから、尚更。

クラウドは建物の奥へと続く扉を、ちらりと見遣る。
それから外への玄関口も見て、今の所は人の気配はなく、邪魔はないだろうと思う事にする。


「…あんたみたいな図体の奴を家まで運ぶなんて面倒だ」
「お前なら楽勝だろう。馬鹿力なんだから」
「あんたが邪魔をしなければな」


寝落ちたレオンを背負って彼のアパートまで連れて行った事は、これまでにも何度かある。
だから、悪戯なんて事をしなければ、運んでやっても良かったのだ。
しかし当の本人が協力を妨げる気ならば、此方も考えると言うもので。


「大人しくしていられたら、後で運んでやる」
「そうか。……どうするかな」
「好きにしていろ。俺も好きにする」


そう言いながら、クラウドはレオンのシャツをたくし上げた。
平時ならば即飛んで来る筈の咎める言葉はなく、くすくすと笑う声だけがクラウドの耳を擽る。

触れればその手が冷たかったのだろう、レオンの体が僅かに捩られて逃げを打つ。
抵抗らしい抵抗と言えばそれ位のもので、唇を重ねても、その奥へと侵入しても、レオンは受け入れた。
それ所かクラウドが促す前に、彼のフロントは緩められて、さっさと寄越せと言わんばかりだ。

其処までしている癖に、朝になって酒が抜けたら、きっと彼は忘れているのだ。
こんな風に遊びじみた空気で興じた褥の事など、すっかり頭から抜け落ちて、いつもの真面目を被った貌をする。
どうせなら常にその貌をしていられる位に、根から染まっていれば良かったものを、彼はどう足掻いてもそんな風にはなれなかった。
酒の所為で、無自覚に押し殺していた本音が零れてしまう位には。


(本当に、性質の悪い)


酒も悪いし、本人も。
そして、判っていながら誘いを咎めない自分も。



何もかもが性質の悪い、酔っ払いが見ている夢なのだ。





酔っ払いレオンさんが見たくなったので。
クラウドの我儘やマイペースに振り回されるレオンが好きですが、その実、根っこの部分ではレオンの方が意外とクラウドを振り回していたり、二人きりだとレオンの方こそ依存しているクラレオが好きです。
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[バツスコ]名残の熱に

  • 2020/05/08 22:00
  • カテゴリー:FF


放つ為に蓄積された魔力は、コントロールを誤れば、暴走に至る事もある。
それは高威力の魔法である程起こり得るもので、故にそう言った魔法を使う時には、そうしたリスクも考えた上で準備に入らなければならない。
戦闘中であれば尚の事、機転の早さ、その判断も大事で、若しも正当なルートでの放出が叶わないのであれば、大なり小なりの犠牲を伴った上で、手順を短縮化させて放つ事も考えなくてはならないのだ。
そうしなければ、巨大な魔力を抱えた無防備な格好のまま、敵の攻撃を食らう羽目になってしまう。

そうした理屈はイミテーションも同じようで、上位格の固体程、強力な一撃を仕掛ける事に慎重になる。
格下のイミテーションは、そもそも扱える魔力量が多くはないのか、思考力も弱い一因になるのか、余り大技を使ってくる事はなかった。
しかし、中には“変異種”と呼ばれる固体が存在する。
イミテーションは固体によって多少の性格の差異はあれど、基本的には模倣された人物の行動パターンに則って仕掛けて来る。
“変異種”はその法則を無視し、全く別のパターンや、特定の行動に固執したような動きを見せるものがあった。
中には特大の攻撃を仕掛ける事に躍起になる固体もあり、これらが複数の下位・上位イミテーションを従えた形で襲ってくると、戦況を引っ掻き回す非常に厄介な存在になってしまう。

バッツ、スコール、ジタンの三人を襲ったのは、皇帝のイミテーションだった。
他にティナ、クジャ、ケフカと言った、魔法に抜きん出た人形達を従えて来た暴君は、前衛を人形達に任せ、自身は後衛を陣取ってフレアを乱発して来た。
ターゲットを追尾する性能を持ったフレアが、魔法が飛び交う中に追って来るのだから、厄介極まりない。
魔法の扱えるバッツが遠方から撃破を狙ったが、他のイミテーション達が常に付きまとってくるので、まともに狙いが付けられない。
とにかく雑兵を片付けなければ話にならないと、三人三様に散って只管人形を砕き続けた。
その甲斐あって、人海戦術さながらであった人形の軍勢は数を減らし、暴君を射程圏に捉える事が出来た。
だが、その時既に暴君は、極大魔法の術式を完成させていた。
次元の彼方より呼び寄せた隕石を頭上に召喚し、自身を中心とした数百メートル圏内を吹き飛ばす、凶悪な魔法だ。
それを発動させる訳には行かないと、ジタンがその懐に飛び込み、短刀をガラスの胸に突き刺した。
致命傷となったその一撃により、暴君はノイズ混じりの断末魔を上げながら絶命した。
────それと同時に、完成済みの術式に蓄積された魔力が、出口を求めて暴走し、破裂したのである。

爆心地に最も近い位置にいたジタンは、一瞬、自分の周囲が真空化したように感じた。
その直後、飽和した大量の魔力は、周囲の空気を押し、極小規模の範囲に爆風を起こした。
周囲の空気全体が外側に向かって強烈な力を持って流れる動きに対し、人間は余りにも非力である。
爆風に対し身構える余裕もなく、周囲のイミテーションと戦っていたバッツとスコールは、囲んでいたイミテーション諸共、その身を宙へと放り出された。
そして直ぐ傍に聳えていた崖の下へと、落下したのであった。

───落ちる瞬間と言うものは、どうにもバッツにとって鬼門であった。
足が地面についていない不安定感や、中空にいる時の曖昧な重力感も苦手なのだが、何より嫌いなのは落下の瞬間だ。
宙にあって自由にならない体が、唯一判る、“下”へ吸い込まれていく恐怖とでも言うのか。
幼心に根付いたトラウマもあって、その感覚に襲われると、本能が防御か拒否反応でも示すかのように、バッツの躰は硬直する。
その状態のままで地面に叩きつけられたので、受け身も取れず、バッツは一瞬意識が飛んだ。
が、幸いにもそれは一瞬の事で、打ち付けた肩の痛みを直ぐに自覚して、目を開ける事は出来た。


「ってぇ~……」


じんじんと痛む肩を逆の手で押さえながら、バッツはのろのろと起き上がる。
何処にどう落ちたのかと首を巡らせると、前には遠く見下ろす森と、後ろには崖があった。
どうやら、崖の途中が出っ張っていたようで、遠い地面にまで落ちる事は免れたようだ。

からん、と頭上から落ちて来た小さな石が音を立てて、その方向に目を向けると、黒衣の少年が倒れている。
バッツは急いで立ち上がると、その傍らへと駆け寄った。


「スコール!」


一緒に吹き飛ばされて落ちたのだろうその名を呼ぶと、投げ出されていた指先が動いた。
眉間の皺を寄せて、小さく呻く音を漏らしながら、ゆっくりと睫毛が持ち上がる。


「う……、バッツ……?」
「うん。大丈夫か?起きれる?」
「……いっ……!」


バッツの言葉に行動で示そうと、起き上がろうとして、スコールは顔を顰めた。
何処か怪我をしたのか、とバッツがスコールの躰の状態を確認すると、スコールは苦い表情で自分の右足を睨んだ。


「…く……っ」
「ああ、無理するなよ。えーと……あそこに取り敢えず、座るか。おれが運んでやるから、じっとしてろよ」


バッツはスコールに動かないように釘を刺してから、ゆっくりとその体を抱え起こした。
その間に患部と思しき右足をゆっくりと動かして、スコールの表情が小さく顰められる様子を確認する。
抱き上げられると運ぶのも楽だったのだが、バッツの痛む肩がそれをさせてはくれなかった。
仕方なく肩を貸しながらそっと立ち上がらせ、スコールの足を引き摺りながら崖壁の前へと移動し、スコールを座らせる。

スコールは崖に背を預けて、ふう、と息を吐いた。
その額にじんわりと汗が滲んでいるのを見て、結構痛いのかも知れない、とバッツは考える。
スコールはじりじりと足を寄せると、靴と靴下を脱いで、ズボンの裾を持ち上げた。
露わになったのは、薄紫色を帯びた足首で、見た瞬間にこれは駄目な奴だとバッツは勿論、スコールも悟った。


「うわ、痛いな。回復───したいけど、ごめん。おれガス欠だ……」
「……だろうな」


バッツの魔力は、ケアルも使えない程に枯渇していた。
大量のイミテーションを相手にしていたのだから、体力も魔力も殆ど空っぽになっているのは無理もない。
しかし、スコールの足が回復できないとなると、二人がこの崖の中腹から移動する事は困難だ。
せめて回復魔法一回分の魔力があれば、スコールの足か、バッツの肩を治して、一人を背負って崖を上る事も出来るのに。

となると、頼みの綱は、此処にはいないジタンだ。
彼は爆風の最も中心地に近い場所にいたから、バッツ達よりも吹き飛ばされているかも知れない。
そんな彼が、崖の中腹に取り残された二人を見付けられるのか、そもそも彼も無事でいるのかと、バッツが思案していると、


「おーい!スコール、バッツ!いるかー!」


頭上から聞こえて来たよく通る声に、バッツとスコールは顔を上げた。
直ぐにバッツは立ち上がり、頭上数メートルの崖上ぬ向かって声を張る。


「ジターン!ジタン、おれ達ここだぞー!」
「バッツ!バッツか!」


耳の良い彼は直ぐにバッツの声を聞き留め、何処だ、と繰り返し仲間の名を呼ぶ。
こっちだこっちだ、とバッツが呼び続けると、次第に崖上から聞こえる呼ぶ声が近くなって来る。
ひょこり、と小さな影が崖上に現れたのを見て、バッツは大きく左腕を振って存在をアピールした。


「ジタン!」
「バッツ!スコールも一緒か!」


仲間達の姿を見付け、声を弾ませるジタンに、スコールも右手を上げて返事をする。


「良かった。さっきの爆発で下まで落ちたのかと思ったぜ」
「ジタンはなんともなかったのか?」
「吹っ飛ばされたけど、そうだな。お前らとは反対側だったからさ、戻ってくるのにちょっと時間かかったけど。二人とも登って来れるか?」
「いやー、厳しい。おれ、肩が上がんなくてさ。スコールは足やっちゃってて」
「マジか。オレも手首捻ってるんだよ」


ジタンの言葉に、バッツは眉尻を下げ、スコールは溜息を吐く。
頼みの綱であったジタンが崖上で無事である事は幸いだったが、やはり無傷と言う訳にはいかなかったようだ。


「どうするかな。そうだ、モーグリショップが近かった筈だ。ポーション買ってくるよ。ついでに他に使えそうな物も」
「分かった。おれ達は此処で待ってるよ。ジタンも無理するなよ!」
「大丈夫、大丈夫。なるべく早く戻ってくるからな!」


そう言うと、崖上の小さな影は直ぐに見えなくなった。
どうやら健脚は無事なようで、疲労はあるだろうが、彼の足なら最寄のモーグリショップまでそう時間はかからないだろう。
問題は道中で新たな敵や魔物に襲われないかと言う事だが、こればかりはバッツ達には祈るしかない。

ともあれ、ジタンのお陰で救助の道は担保された。
バッツの枯渇した魔力の回復は、ケアル一回分と言えど、当分の時間を要するだろうから、ジタンが動ける状態であった事は幸いであった。
後はジタンが戻ってくるまで、出来るだけ体力を消耗しないように、休息に徹するのが良いだろう。

ふう、と一つ息を吐いて肩の力を抜き、バッツは足元に座った。


「ジタンが無事で良かったな。スコールも、足の他は何ともない?大丈夫そうか?」
「……今の所は」
「ケアルが出来るようになったら、スコールの足、直ぐ治してやるからな」


笑いかけるバッツの言葉に、スコールは小さく「……ん」と返事をした。

ジタンが戻って来て、崖の上に上がれたら、聖域まで戻る為に歩かなければならない。
ジタンがポーションを購入してくれば状態は良くなるが、それで完治するとも思えなかった。
此処から聖域に戻るまで、それなりの距離がある事を思うと、スコールの足は出来るだけ早く治しておくべきものだ。
スコールの足は、動かすだけで痛みを伴うようで、彼は出来るだけ刺激をしないように、足を動かさないように努めている。
この状態だと上に上がるのも自力は辛いかも知れないなあ、とバッツが思っていると、


「…バッツ」
「ん?」
「あんたも、怪我」


スコールがバッツの顔へと腕を伸ばす。
その指先が、バッツの口元に触れるか触れないかの所で止まった。

バッツが口元に手を遣ると、ちりりとした痛みがあって、指先にじんわりと液体の感触が伝った。
見れば指先に鮮やかな赤色が付着しており、口蓋の下部が薄く切れているようだ。


「ああ、平気だよこれくらい。舐めときゃ治るって」


戦闘中に切ったのか、崖から落ちた時のものなのかは判らないが、何れにしろ大した事ではない。
スコールの足の怪我に比べれば、わざわざ治癒しなければと言う物でもなかった。
心配しなくて大丈夫だとバッツが笑いかけると、「…そうか」と呟きが零れ、じゃり、と土が擦れる音が小さく鳴る。

スコールの背が崖の壁から離れて、バッツへと近付く。
蒼灰色の瞳が柔らかく細められているのを見て、バッツはぱちりと瞬きを一つ。
スコールのその表情は見覚えのあるもので、いつもなら夜、二人きりの時に見ているもので────


「……ん、」


仄かな熱を孕んだ瞳がバッツの視界を埋め尽くす中、弾力のあるものがバッツの唇をくすぐった。

え、とバッツが目を丸くした時には、蒼の瞳はすいと逃げていた。
壁に背を預け直したスコールは、明後日の方向を向いており、瞳の代わりに赤い耳が髪の隙間から見えている。
バッツの口元には微かに濡れた感触が残り、徐に其処に指を当てると、血の感触はもうなくなっていた。

スコールが何をしたのか、自分が何をされたのかを理解して、バッツは一気に自分の体が熱くなるのを感じた。
戦闘の後の疲労と高揚が混じり合ったような熱が湧き上がるのを自覚しながら、バッツはそわそわとスコールの横顔を見詰める。
恐らく、スコールも同じものを抱いている。
だからこその大胆な行動なのだと、バッツも判っていた。


「スコールぅ~」
「……」
「キスしたい。して良い?」
「……却下」


素っ気ないスコールの返事に、なんで、とバッツが唇を尖らせる。
スコールはそんなバッツの反応を横目に見て、


「……これ以上は、止まらなくなるから、駄目だ」


熱の名残を残した体と、動物の本能を悪戯に刺激する血の感触。
そんな事に意識を傾けていられる程、悠長な状況ではないのだが、しかし今は大人しく時を待つしかない。
足の速い仲間がいつ戻ってくるかは勿論、体力を消耗しない為にも、静かに休息にしているのが一番だ。

だから駄目だと言うスコールに、じゃあ帰ってからなら良いのか───とバッツは聞かなかった。
聞くのはきっと野暮だろうと飲み込みながら、バッツはそわそわと、赤い耳へと食いつきたい衝動を堪えるのだった。





5月8日と言う事でバツスコ!

戦闘の後なので昂っているのと、バッツの血を見てじわじわ興奮していたスコールです。
そんなスコールに煽られたのでバッツも興奮してますが、此処はぐっと我慢です。
我慢してれば後が美味しい。
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[セシスコ]甘い瞳が呼んだから

  • 2020/04/08 22:00
  • カテゴリー:FF


大人びた顔をしていても、そんな表情を浮かべていても、素の彼はとても素直で可愛らしい。
セシルはそんな風に思っている。

スコール・レオンハートは、とても素直な性格だ。
彼自身は自分をそうは分析していないだろうし、そう言われれば絶対に眉根を寄せ、「あんた何言ってるんだ」と言うのだろうが、強ち外れてはいない筈だ。
確かに言葉と態度が一見冷たく見られ勝ちで、彼も少々偽悪的な物言いをする事もあるが、本音はごくごくシンプルである事が多い。
ただ、感情に従うよりも先に、様々な憶測や想像が頭の中を巡り、特に最悪のパターンと言うものを忌避しようとした結果、傍目には“冷たい人”と思われるような言動を取る事が多いのだろう。
だから神々の闘争の世界で目覚めたばかりの時のスコールは、そう言った性格もあって、彼は孤立し勝ちだった(彼自身が意図的に独りでいた所もあるようだが)。
しかし、それも今となっては昔の話で、皆彼が本当はとても仲間思いである事を知っている。
同時に、ぱっと見た形で思う程、彼が意地悪で斜に構えた性格ではない事も。

それでもスコールは、仏頂面の仮面を被って過ごす。
仮面とは言っても、その表情も彼にとって素顔の一つであるのだが、他の表情を隠すように何かと面に出て来るので、そんな表現も遠くはないのだ。
その代わり、この仮面は存外と表現豊かな所があって、眉間の皺の本数であったり、唇の形であったり、視線の向かう先であったりで、彼の心の内を見せてくれる。
だから彼は意外と判り易くて素直なのだ。
セシルにはそれが、仮面の下に隠したつもりの顔が、沢山の感情を溢れさせて、隠しながら何処かで誰かに伝わって欲しいと、幼い子供の我儘のように願っているように見えた。

強ちそれも間違ってはいないのかも知れない。
夜半、セシルの部屋に来て、温もりを求めて縋る少年を見ては、そんな事を考える。


「う……あ……」


最後の熱を吐き出して、スコールは甘やかな吐息を零しながら、くたりとベッドに沈む。
その肢体はとうの昔に力を喪ってはいたが、与えられる快感への反射で、何度も強張っていた。

張り詰めた糸のように力んでいた体から力が抜けると、今度はしなやかな猫のような線が見えて、細いなあ、とセシルは思う。
これで鎧を着た敵を蹴り落とす訳だが、何処にそんな筋力と胆力があるのだろうと、純粋に疑問に思う事もある。
どうやら事の秘密は、彼の世界で独自に発展した魔法技術に因る物だそうだが、スコールは余りその詳細を教えてはくれなかった。
本人は「余り思い出せない」と言っていたが、その目が逸らされた事をセシルは覚えている。
あれは嘘を吐いている時の仕草だと判ったが、言いたくない、とも聞こえたので、追及はしなかった。

シーツに沈むスコールの貌を見下ろしながら、セシルはゆっくりと腰を引いた。
擦れる感触が、熱を孕む躰を苛めて、スコールがむずがるようにゆるゆると頭を振る。
そうは言ってもこのままでいる訳にはいかないので、セシルは出来るだけスコールが苦しい思いをしないようにと気を付けながら、中に入っていたものを抜く。
最後の瞬間、はっ、と薄桜色の唇が声にならない声を上げたのが聞こえた。


「は…んん……」
「大丈夫かい?」
「……ん……」


蒼灰色を隠す、長い濃茶色の前髪を、そっと指で払いながらセシルが声をかけると、スコールは極々小さく頷いて返事をした。
そのままセシルの手が頬を撫でていると、スコールは猫のように目を細める。


「セシル……」
「うん?」
「……んん……」


名を呼ぶので、何か伝えたい事でもあるのかと顔を寄せると、スコールが少しだけ頭を持ち上げる。
人間の頭部は存外と重いもので、首の力だけで浮かせるのは大変だ。
疲れているのなら尚更。
それでもスコールはなんとか頭を起こすと、柔らかな唇をセシルの頬に押し当てた。


「……ふぁ……」


それは瞬きをするような一瞬の事で、スコールは直ぐにまたベッドへ沈んだ。

セシルの頬が緩み、可愛いことをしてくれる、と笑みが零れる。
気持ちのままにセシルも顔を近付けて、スコールの唇を己のそれで塞いだ。


「んぅ……」
「ふ……」
「…ん、む……」


深く口付けながら、セシルはスコールの両手を捕まえる。
投げ出されていた手は、握る力を感じ取ると、緩い力でそれを握り返した。

大人びた雰囲気を纏っているスコールだけれど、その実はとても初心で純粋だ。
事の後と言う熱もあるとは言え、キスだけで蒼の瞳がとろりと蕩けるのを見る度に、セシルはそう感じずにはいられない。
その度、無垢な子供を絡め取った悪い大人になった気がして来る。
傍から見れば、強ち変わらないのかも知れない。

たっぷりと咥内を愛撫して、セシルはゆっくりとスコールの呼吸を解放する。
ふあ、と名残を惜しむような、甘えん坊の声が聞こえて、セシルはもう一度口付けようかと思った。
けれどこれ以上を続けてしまったら、熱も再び昂って、明日の予定に響いてしまいそうだ。
部屋の隅に置かれた時計をちらと見遣ると、もう日付が変わっている。


「そろそろ休まないとね」
「……?」


セシルの呟きに、スコールが呆けた表情で、ぱちりと瞬きを一つ。
もう寝るのか、と言いたげな視線に、セシルは眉尻を下げて、こつんとスコールの額に自分の額を当てる。


「もう12時を過ぎてる。寝ないと明日に響くよ」
「……まだ平気だろ」
「起きれなくなるだろう」


スコールの手が続きを強請るようにセシルの手を握る。
足がシーツをするりと滑り、セシルの腰に摺り寄せられた。
煽ると言うよりも、もっと欲しいと甘えたがっている少年の仕草は、セシルには大変可愛らしくあるのだけれど、


「明日はジタンとバッツと宝探しに行くんだろう?」
「あいつらが勝手に決めただけだ」
「起こしに来るよ、きっと。部屋にいなかったら、こっちにも来るだろうね」


宝探しなんてものに、自分は行く気はない───とスコールは言うが、きっと二人は放って置いてはくれないだろう。
第一セシルは、スコールが二人に誘われた時、「行かない」とは言わなかった事を知っている。
言っても無駄と思っている所もあるのだろうが、溜息一つでその場を流していたので、彼のスケジュールの中に明日の予定はちゃんと書き込まれている筈だ。
バッツ達もそのつもりで、明日の朝、寝起きの悪いスコールを襲撃しに来るだろう。

二人が呼びに来る前にスコールが自室に戻っていなかったら、彼らはきっとスコールの居場所は此処だと、扉を叩きに来るかも知れない。
流石にそれは嫌だったのか、スコールは判り易く渋い顔をして唇を尖らせた。


「さ、今日はもう寝よう」
「………」


体を起こすセシルの言葉に、蒼灰色が不満そうに睨む。

怒ったようにも見えるその顔が、本当は寂しがり屋なだけなのだと知っている。
だからか、どうしてもセシルは、スコールの感情豊かなその瞳に弱い。


「此処で寝るかい?」
「……ん」


もう一度はしないけど、と言う含みを十分に持たせたつもりで、セシルはスコールを甘やかした。

事の後は素直さが判り易いスコールは、小さく頷いて、ころりと寝返りを打つ。
ベッドの真ん中から少し端へと身を寄せたスコールは、空いたスペースに来てくれる温もりを待っている。
其処にセシルが横になり、厚みの薄い体を抱き寄せれば、スコールは微かに赤らめた頬をセシルの胸板に寄せた。


「……固い」
「ごめんよ」
「……別に」


細やかな文句に詫びれば、スコールはセシルの胸に顔を埋めたまま言った。
収まりの良い所を探してか、スコールはもぞもぞと身動ぎしている。
それが落ち着くまで、セシルはじっと動かずに、恋人の好きにさせてやった。

次第にスコールの動きは鈍くなり、彼は猫のように丸くなって、セシルにくっついたまま静かになっていた。
そろそろ良いかな、とセシルがスコールの顔を覗き込むと、すぅ、すぅ、と寝息を立てている。

明日、ジタンとバッツは何時に出立するつもりなのだろう。
スコールが朝に弱い事は彼等も知っているから、早朝と言う事はないと思うが、何処に行くかと言う予定を聞いていないので、ひょっとしたら早い内に出発しようと考えている可能性はある。
若しも朝早くに出発する為に、彼らがスコールの部屋を訪れた場合────二人はセシルとスコールの関係を知っているから、スコールが部屋にいない理由は直ぐに察するだろう。
それなら野暮も何だと予定をずらしてくれるのなら良いのだが、時々彼等は「オレ達のスコール」と言って、スコールとの付き合いの深さを主張したがる時がある。
つい先日、遠征のチーム編成でスコールがセシルと一緒に、二人とは別々になっていた事を考えると、朝食が過ぎる頃の時間帯に扉が叩かれる事も在り得る。
とは言え、遠征のチーム編成の時、セシルとスコールが二人きりだった訳ではない。
他の仲間達から離れ、ようやく得られた二人きりの時間と言うものが、スコールにとってどれ程の意味を持つのか、知らない振りをする程彼等も鬼ではなかった。

セシルも明日はクラウド達と周辺の歪を見回る予定がある。
余り遅くまでのんびりと過ごせないのは、二人とも同じなのだ。
だから今少し、もう少しと、温もりを欲しがる少年の気持ちは判るし、応えたいと言う想いもある。


(でも一応、僕の方が大人だからな)


素直に真っ直ぐに、自分の求めるものを欲しがるには、少し足踏みする立場にいる。
平時は素直になれない少年が、素直になれる瞬間の大切さも判ってはいるけれど、だからと簡単に甘やかす事が出来ないのも事実だ。

だからせめてこれ位はと、セシルは愛しい少年を腕の中に閉じ込める。
長い睫毛が一度ふるりと震えたけれど、目を覚ます事はなく、穏やかな寝息のみが続いていた。
それをじっと見つめながら、セシルもゆっくりと瞼を下ろしていくのだった。





4月8日と言う事でセシスコ!

甘々系のセシスコってあんまり書いた事ないんじゃないかしら、と思ったので。
根っこが甘えん坊の弟気質なスコールを甘やかすセシルでした。
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