[8親子]まんまるおめめがみるせかい
- 2020/06/18 22:45
- カテゴリー:FF
『作って遊べる画像メーカー』の「あの子がこっちを見ている」で作ってみたら気に入ったので。
レオン → https://picrew.me/share?cd=XTeRhrw33g
スコール → https://picrew.me/share?cd=ZCMBo9mYbz
レオンが7歳、スコールが4歳の現パロ風味。
キロスとウォードが旧友の下を訪ねたのは、実に4年ぶりの事だった。
その間の出来事については、案外と筆まめなラグナから綴られた、誤字誤用だらけの手紙から聞いている。
文字の中では、共に行動していた頃と変わっていないラグナだが、流石に5年ぶりに逢うと、変化がないとは言えなかった。
その事がキロスにとっては少しショックであるような、けれども彼に訪れた変化がとても良い事である事も確かで、喜ばしくもあった。
ジャーナリストを目指して、カメラを手に西へ東へ駆け回っていたラグナ。
彼の取材は、現地の人々との交流を主として、切り取られた風景写真と共に紹介され、その名を徐々に知られて行った。
文章の誤字誤用はキロスとウォードがチェックする事になっていて、独特の間違いを如何に彼特有の雰囲気を壊さずに直すか、と言う仕事が、キロスには少々特殊な楽しみとなっていた。
ウォードもラグナが撮る写真を気に入っており、投稿用に使う写真の吟味に、彼も一枚噛んでいた。
ラグナは天才肌とでも言うのか、独特の尖った感性と言うのか、独自の空気を持つものを作り出す事が出来る。
それをもう少し、一般受けし易いようにと調整するのが、キロスとウォードの役目だった。
そんなラグナが、ジャーナリストの端くれとして、業界内で名前が拡がりつつあった頃、彼は引退した。
若く、ジャーナリストとして脂も乗って来るであろうと言う所で、彼はペンを置いたのだ。
学生時代から強く憧れて已まず、自分の名前で投稿したものが雑誌の端に乗っては嬉しそうにはしゃぎ、その時の気持ちを思い出しては子供のように喜んでいたラグナ。
取材先にもお得意様と言うものが出来て、さあこれからもっと大きなネタを、と言う時に、ラグナはそうした世界から足を洗ってしまった。
非情に勿体無い、と言ったのは旧友だけではなく、彼が取材を繰り返していた人々からも零れていた。
けれどラグナは、夢を諦めた。
取材先で出逢った女性が、ラグナにその道を選ばせた。
彼女は小さな田舎町に、小さな花屋を営んでおり、取材中に事故に遭ったラグナの療養先として、縁を結んだ。
存外と大怪我だったラグナは、長い時間を療養に費やす事となり、その間に彼女との絆が深まって行った。
その様子は傷の見舞いに来たキロスとウォードの知る所でもある。
怪我が治ればまた直ぐにあちこちへ行くのだろう、と思っていただけに、彼の変わり方は友人達にとって意外なものだった。
何処か少年のようでもあったラグナが、彼女と言う存在と向き合う事で、新たな道へと歩き出す。
それは自由気儘に過ごしていた男達の、そんな時代への別れを意味しており、旧友たちにとっては寂しくも微笑ましくもあるものであった。
こうしてラグナはジャーナリストとしてペンを置いた。
代わりに、取材に使っていたカメラを武器とする事になり、住み暮らす事になった町を中心に、雑誌に掲載される為の風景写真を撮るようになる。
やがて子宝にも恵まれ、父親となったラグナを、キロスとウォードは折々に足を運んでは見守っている。
ラグナ、キロス、ウォードの三人の友情は、今も変わらず続いている。
とは言え、歳月を重ねる毎に、ラグナはラグナの生活があり、キロスとウォードもそれぞれの日常を送る事で、少しずつその時間にズレが生じるのは無理もない事だった。
三人が一同に揃える時間と言うものも必然的に減って行き、気付けば最後に逢ったのは4年前。
あの頃、まだ母に抱かれていた子供が、兄になったのだと聞いても、キロスとウォードは友の下へ足を運ぶ機会を得られなかった。
それは寂しくもあり、致し方のない事でもある。
だが、やはりまた逢いたいと言う気持ちも消えず、キロスとウォードの休暇が偶然にも揃った事もあって、久しぶりに彼の下を訪ねてみようか、と言う話になったのだ。
ラグナは、綺麗な花の咲き誇る、純朴な田舎町に住んでいる。
刺激を求めて已まなかった彼が、こんなにも平穏で静かな町に腰を落ち着けるなんて、あの頃一体誰が想像する事が出来ただろう。
事実は小説より、とはよく言ったものだと、この地を訪れる度にキロスとウォードは思う。
しかし、久々に見たラグナは、相変わらず賑やかだった。
目尻の皺こそ少し増えたように見えるものの、それは彼が幸せに過ごしていると言う証拠でもある。
「いやー、ひっさびさだなぁ!わざわざ遠くまでご苦労さん」
「何、大した距離ではないさ」
「ああ。ほんの、片道12時間のフライトだからな」
「やっぱ遠いじゃんよー」
キロスの言葉に、ウォードが冗談めかして言えば、何処がほんのなんだよ、とラグナの拳がウォードの腹を突く。
気安いスキンシップも4年ぶりと思うと、ウォードは少々感慨深いものがあった。
玄関先でそんな遣り取りをしている男達を、ダイニングから顔を出した女性が呼ぶ。
「ラグナ、お客様をそんな所で立たせっぱなしにしないで。お茶入れるから、中に入って貰って頂戴」
「おお、そうだな。上がってくれよ」
「では、甘えよう。失礼する」
「すまないな、奥さん」
「いいえ。コーヒーで良いかしら。紅茶もありますよ」
「コーヒーにしようぜ。ほら、昨日貰った豆あるだろ?あれにしよう」
夫からのリクエストに、妻───レインは「はいはい」と返事をして、コーヒーミルを取り出した。
リビングダイニングの食卓テーブルを借りて、旧友達の話に花が咲く。
誰が何処で何をしていたのか、手紙に綴られた内容はそれぞれ把握していたが、それも大まかなあらまあし程度の事。
もっと詳細に、一日一日の出来事を切り取るように報告し合えば、話題は幾らでも続いた。
逢わなかったのはほんの4年、されど4年で、自分達が出会ってから過ごした時間を思えば、ほんの一時である筈なのに、まるで長い間離れ離れだったかのような錯覚。
だからだろうか、会話もテンポも、交わされる遣り取りも、あの頃のように戻っても、何処か“変わっている”とも感じていた。
だがそれも悪い気のするものではなく、ただ、ああ年を重ねたのだなと、キロスは郷愁のように感じていた。
───レインが淹れてくれたコーヒー一杯を飲み終わる頃、キロスは感じる視線に首を巡らせる。
そうして見付けたのは、ダイニングのドアの陰から覗き込む、二対の円らな瞳だった。
「おや」
「!」
「!」
キロスが唇を緩めて声を発してやれば、円らな瞳は揃って丸く見開かれた。
一つがぴゅっと壁の向こうに引っ込んで、もう一つはじいとキロスを見返す。
その瞳は、ラグナが愛した人と同じ、澄んだ蒼灰色を宿していた。
「レオン君かな」
「お。うん、そうそう」
蒼の瞳と、濃茶色の髪。
母の面影を色濃く受け継いだその特徴を持った子供の名を呼べば、ラグナも息子の存在に気付いて頷いた。
「何歳だったか……」
「7歳か?」
「ああ。でっかくなっただろ~」
嬉しそうなラグナの言葉に、キロスとウォードも頷いた。
二人が前にラグナと逢った時は、まだ母に抱かれていたのに、ふくふくとしていた頬はまろやかな形になり、瞳には利発な光が宿っている。
引き結んだ唇から、しっかりした子なのだろうなと、そんな雰囲気も感じられた。
じっと見つめる蒼灰色は、その瞳に好奇心と少しの警戒を映し出している。
そんな息子をラグナが手招きして呼んだ。
「レオン、おいで」
「……」
父に誘われて、子供───レオンはドアを大きく開けた。
とっとっと気持ち駆け足で父の下へ来た息子を、ラグナはくしゃくしゃと髪を掻き撫ぜている。
「お客さん?」
「ああ。覚えてっかな、キロスとウォードだ。逢った事あるんだぜ」
「……んん……?」
ラグナの言葉に、レオンの視線がキロスとウォードへと向かう。
考え込むように眉間の皺を浮かべつつ、レオンはことんと首を傾げた。
よく判らないと体現するその仕草に、ウォードが無理もない事だと苦笑した。
「前に君と逢った時は、まだ小さかったからな」
「そうなの?」
「ああ。3歳だった頃だな」
「スコールより小さいとき?」
「そうだな~。あ、そうだ、スコールは?」
「スコールなら」
あっち、とレオンが指差したのは、ドアの方向だった。
大人が揃って其方を見ると、半開きのままのドアの隙間から、そぉ……っと丸い蒼がもう一対覗き込んできた。
レオンと同じ、母の面影を受け継いだ、蒼灰色の瞳と濃茶色の髪。
レオンは肩口まで髪を伸ばしていたが、こちらはすっきりと短く、細い首のラインが見えていた。
身長もレオンより低く、肩を縮こまらせるようにして此方を覗き込んでいる事も相俟って、全体的に小柄な印象を与える。
眉はハの字に下がり、瞳は不安そうに頼りなく揺れていた。
旧友間の遣り取りが手紙だけとなった頃、ラグナの下に第二子が生まれた事は綴られていた。
成程、あれが、と初めてその顔見たキロスとウォードが見詰めていると、
「……!!」
注目を浴びている事に気付いた幼子───スコールは、泣き出しそうに顔を歪めて、またドアの向こうへと隠れてしまう。
3歳の頃には物怖じせずにウォードにじゃれついていたレオンとは、どうやら全く様子が違うようだ。
「恥ずかしがり屋のようだ」
「俺が怖がらせているかもな」
「人見知りなんだよ。スコール、怖くないから、こっちおいで」
「スコール!」
父と兄に名前を呼ばれて、スコールがまた恐々と顔を覗かせる。
ラグナはレオンを膝に乗せ、落ちないように片手で支えながら、逆の手でスコールをおいでと誘う。
スコールはその手を見詰め、行きたい、行きたいけど、と言うようにその場で固まっていた。
スコールは中々動かなかった。
丸い瞳がうるうると揺れて、助けを求めるように父と兄を見ている。
どうやら、大分慎重派のようだ、とキロスとウォードが目を合わせて苦笑していると、キッチンにいたレインが息子の下へ向かう。
「スコール」
「おかあさん」
守ってくれる人が来たと、スコールはようやくドアの影から出て来て、母へと抱き着いた。
スカートをぎゅうと掴んで隠れたがる次男を、レインはやれやれ仕方のない子ねと抱き上げて、しがみ付く背中をぽんぽんと叩いてあやす。
ラグナが椅子を引いてレインに座るように促した。
レインが腰を落ち着けると、スコールは膝に乗せられて、母の胸に顔を埋める。
ちら、ちら、と蒼い瞳がテーブル向こうの見知らぬ人に向けられては、目が合う前にぱっと逸らされ、また母に縋り付いた。
レオンはそんな様子の弟を、父の膝上にじっと収まって見詰めている。
父と母にそれぞれ抱かれる、二人の息子。
何度か手紙に同封された写真のそれで見た姿に比べると、やはり違う所も目立ち、子供の成長とは早いものなのだとキロストウォードは実感した。
それと同時に、昔ながらの友人が、父親としてすっかり馴染んでいるのを見て、人は変わり行くものなのだと感慨深くなる。
(────何はともあれ、)
(皆が健やかで何より、と言う事か)
キロスとウォードの視線が交わって、そんな会話が音なく交わされる。
それから爛々と輝かしい碧を見れば、此方にも同じ言葉が伝わったか、ラグナはにっかりと歯を見せて笑った。
そうそう土産があるんだと、嘗てラグナが親しんでいた店で買ったクッキーを差し出すと、子供達の目が興味津々に輝いた。
子供のレオンと、子供のスコールで、初対面した大人への反応は大分違うと良いなぁと。
警戒心は持つけどそんなに怖がらないレオンと、初めて見たものにはとにかく近付きたがらないスコールが書きたかった。
レオン → https://picrew.me/share?cd=XTeRhrw33g
スコール → https://picrew.me/share?cd=ZCMBo9mYbz
レオンが7歳、スコールが4歳の現パロ風味。
キロスとウォードが旧友の下を訪ねたのは、実に4年ぶりの事だった。
その間の出来事については、案外と筆まめなラグナから綴られた、誤字誤用だらけの手紙から聞いている。
文字の中では、共に行動していた頃と変わっていないラグナだが、流石に5年ぶりに逢うと、変化がないとは言えなかった。
その事がキロスにとっては少しショックであるような、けれども彼に訪れた変化がとても良い事である事も確かで、喜ばしくもあった。
ジャーナリストを目指して、カメラを手に西へ東へ駆け回っていたラグナ。
彼の取材は、現地の人々との交流を主として、切り取られた風景写真と共に紹介され、その名を徐々に知られて行った。
文章の誤字誤用はキロスとウォードがチェックする事になっていて、独特の間違いを如何に彼特有の雰囲気を壊さずに直すか、と言う仕事が、キロスには少々特殊な楽しみとなっていた。
ウォードもラグナが撮る写真を気に入っており、投稿用に使う写真の吟味に、彼も一枚噛んでいた。
ラグナは天才肌とでも言うのか、独特の尖った感性と言うのか、独自の空気を持つものを作り出す事が出来る。
それをもう少し、一般受けし易いようにと調整するのが、キロスとウォードの役目だった。
そんなラグナが、ジャーナリストの端くれとして、業界内で名前が拡がりつつあった頃、彼は引退した。
若く、ジャーナリストとして脂も乗って来るであろうと言う所で、彼はペンを置いたのだ。
学生時代から強く憧れて已まず、自分の名前で投稿したものが雑誌の端に乗っては嬉しそうにはしゃぎ、その時の気持ちを思い出しては子供のように喜んでいたラグナ。
取材先にもお得意様と言うものが出来て、さあこれからもっと大きなネタを、と言う時に、ラグナはそうした世界から足を洗ってしまった。
非情に勿体無い、と言ったのは旧友だけではなく、彼が取材を繰り返していた人々からも零れていた。
けれどラグナは、夢を諦めた。
取材先で出逢った女性が、ラグナにその道を選ばせた。
彼女は小さな田舎町に、小さな花屋を営んでおり、取材中に事故に遭ったラグナの療養先として、縁を結んだ。
存外と大怪我だったラグナは、長い時間を療養に費やす事となり、その間に彼女との絆が深まって行った。
その様子は傷の見舞いに来たキロスとウォードの知る所でもある。
怪我が治ればまた直ぐにあちこちへ行くのだろう、と思っていただけに、彼の変わり方は友人達にとって意外なものだった。
何処か少年のようでもあったラグナが、彼女と言う存在と向き合う事で、新たな道へと歩き出す。
それは自由気儘に過ごしていた男達の、そんな時代への別れを意味しており、旧友たちにとっては寂しくも微笑ましくもあるものであった。
こうしてラグナはジャーナリストとしてペンを置いた。
代わりに、取材に使っていたカメラを武器とする事になり、住み暮らす事になった町を中心に、雑誌に掲載される為の風景写真を撮るようになる。
やがて子宝にも恵まれ、父親となったラグナを、キロスとウォードは折々に足を運んでは見守っている。
ラグナ、キロス、ウォードの三人の友情は、今も変わらず続いている。
とは言え、歳月を重ねる毎に、ラグナはラグナの生活があり、キロスとウォードもそれぞれの日常を送る事で、少しずつその時間にズレが生じるのは無理もない事だった。
三人が一同に揃える時間と言うものも必然的に減って行き、気付けば最後に逢ったのは4年前。
あの頃、まだ母に抱かれていた子供が、兄になったのだと聞いても、キロスとウォードは友の下へ足を運ぶ機会を得られなかった。
それは寂しくもあり、致し方のない事でもある。
だが、やはりまた逢いたいと言う気持ちも消えず、キロスとウォードの休暇が偶然にも揃った事もあって、久しぶりに彼の下を訪ねてみようか、と言う話になったのだ。
ラグナは、綺麗な花の咲き誇る、純朴な田舎町に住んでいる。
刺激を求めて已まなかった彼が、こんなにも平穏で静かな町に腰を落ち着けるなんて、あの頃一体誰が想像する事が出来ただろう。
事実は小説より、とはよく言ったものだと、この地を訪れる度にキロスとウォードは思う。
しかし、久々に見たラグナは、相変わらず賑やかだった。
目尻の皺こそ少し増えたように見えるものの、それは彼が幸せに過ごしていると言う証拠でもある。
「いやー、ひっさびさだなぁ!わざわざ遠くまでご苦労さん」
「何、大した距離ではないさ」
「ああ。ほんの、片道12時間のフライトだからな」
「やっぱ遠いじゃんよー」
キロスの言葉に、ウォードが冗談めかして言えば、何処がほんのなんだよ、とラグナの拳がウォードの腹を突く。
気安いスキンシップも4年ぶりと思うと、ウォードは少々感慨深いものがあった。
玄関先でそんな遣り取りをしている男達を、ダイニングから顔を出した女性が呼ぶ。
「ラグナ、お客様をそんな所で立たせっぱなしにしないで。お茶入れるから、中に入って貰って頂戴」
「おお、そうだな。上がってくれよ」
「では、甘えよう。失礼する」
「すまないな、奥さん」
「いいえ。コーヒーで良いかしら。紅茶もありますよ」
「コーヒーにしようぜ。ほら、昨日貰った豆あるだろ?あれにしよう」
夫からのリクエストに、妻───レインは「はいはい」と返事をして、コーヒーミルを取り出した。
リビングダイニングの食卓テーブルを借りて、旧友達の話に花が咲く。
誰が何処で何をしていたのか、手紙に綴られた内容はそれぞれ把握していたが、それも大まかなあらまあし程度の事。
もっと詳細に、一日一日の出来事を切り取るように報告し合えば、話題は幾らでも続いた。
逢わなかったのはほんの4年、されど4年で、自分達が出会ってから過ごした時間を思えば、ほんの一時である筈なのに、まるで長い間離れ離れだったかのような錯覚。
だからだろうか、会話もテンポも、交わされる遣り取りも、あの頃のように戻っても、何処か“変わっている”とも感じていた。
だがそれも悪い気のするものではなく、ただ、ああ年を重ねたのだなと、キロスは郷愁のように感じていた。
───レインが淹れてくれたコーヒー一杯を飲み終わる頃、キロスは感じる視線に首を巡らせる。
そうして見付けたのは、ダイニングのドアの陰から覗き込む、二対の円らな瞳だった。
「おや」
「!」
「!」
キロスが唇を緩めて声を発してやれば、円らな瞳は揃って丸く見開かれた。
一つがぴゅっと壁の向こうに引っ込んで、もう一つはじいとキロスを見返す。
その瞳は、ラグナが愛した人と同じ、澄んだ蒼灰色を宿していた。
「レオン君かな」
「お。うん、そうそう」
蒼の瞳と、濃茶色の髪。
母の面影を色濃く受け継いだその特徴を持った子供の名を呼べば、ラグナも息子の存在に気付いて頷いた。
「何歳だったか……」
「7歳か?」
「ああ。でっかくなっただろ~」
嬉しそうなラグナの言葉に、キロスとウォードも頷いた。
二人が前にラグナと逢った時は、まだ母に抱かれていたのに、ふくふくとしていた頬はまろやかな形になり、瞳には利発な光が宿っている。
引き結んだ唇から、しっかりした子なのだろうなと、そんな雰囲気も感じられた。
じっと見つめる蒼灰色は、その瞳に好奇心と少しの警戒を映し出している。
そんな息子をラグナが手招きして呼んだ。
「レオン、おいで」
「……」
父に誘われて、子供───レオンはドアを大きく開けた。
とっとっと気持ち駆け足で父の下へ来た息子を、ラグナはくしゃくしゃと髪を掻き撫ぜている。
「お客さん?」
「ああ。覚えてっかな、キロスとウォードだ。逢った事あるんだぜ」
「……んん……?」
ラグナの言葉に、レオンの視線がキロスとウォードへと向かう。
考え込むように眉間の皺を浮かべつつ、レオンはことんと首を傾げた。
よく判らないと体現するその仕草に、ウォードが無理もない事だと苦笑した。
「前に君と逢った時は、まだ小さかったからな」
「そうなの?」
「ああ。3歳だった頃だな」
「スコールより小さいとき?」
「そうだな~。あ、そうだ、スコールは?」
「スコールなら」
あっち、とレオンが指差したのは、ドアの方向だった。
大人が揃って其方を見ると、半開きのままのドアの隙間から、そぉ……っと丸い蒼がもう一対覗き込んできた。
レオンと同じ、母の面影を受け継いだ、蒼灰色の瞳と濃茶色の髪。
レオンは肩口まで髪を伸ばしていたが、こちらはすっきりと短く、細い首のラインが見えていた。
身長もレオンより低く、肩を縮こまらせるようにして此方を覗き込んでいる事も相俟って、全体的に小柄な印象を与える。
眉はハの字に下がり、瞳は不安そうに頼りなく揺れていた。
旧友間の遣り取りが手紙だけとなった頃、ラグナの下に第二子が生まれた事は綴られていた。
成程、あれが、と初めてその顔見たキロスとウォードが見詰めていると、
「……!!」
注目を浴びている事に気付いた幼子───スコールは、泣き出しそうに顔を歪めて、またドアの向こうへと隠れてしまう。
3歳の頃には物怖じせずにウォードにじゃれついていたレオンとは、どうやら全く様子が違うようだ。
「恥ずかしがり屋のようだ」
「俺が怖がらせているかもな」
「人見知りなんだよ。スコール、怖くないから、こっちおいで」
「スコール!」
父と兄に名前を呼ばれて、スコールがまた恐々と顔を覗かせる。
ラグナはレオンを膝に乗せ、落ちないように片手で支えながら、逆の手でスコールをおいでと誘う。
スコールはその手を見詰め、行きたい、行きたいけど、と言うようにその場で固まっていた。
スコールは中々動かなかった。
丸い瞳がうるうると揺れて、助けを求めるように父と兄を見ている。
どうやら、大分慎重派のようだ、とキロスとウォードが目を合わせて苦笑していると、キッチンにいたレインが息子の下へ向かう。
「スコール」
「おかあさん」
守ってくれる人が来たと、スコールはようやくドアの影から出て来て、母へと抱き着いた。
スカートをぎゅうと掴んで隠れたがる次男を、レインはやれやれ仕方のない子ねと抱き上げて、しがみ付く背中をぽんぽんと叩いてあやす。
ラグナが椅子を引いてレインに座るように促した。
レインが腰を落ち着けると、スコールは膝に乗せられて、母の胸に顔を埋める。
ちら、ちら、と蒼い瞳がテーブル向こうの見知らぬ人に向けられては、目が合う前にぱっと逸らされ、また母に縋り付いた。
レオンはそんな様子の弟を、父の膝上にじっと収まって見詰めている。
父と母にそれぞれ抱かれる、二人の息子。
何度か手紙に同封された写真のそれで見た姿に比べると、やはり違う所も目立ち、子供の成長とは早いものなのだとキロストウォードは実感した。
それと同時に、昔ながらの友人が、父親としてすっかり馴染んでいるのを見て、人は変わり行くものなのだと感慨深くなる。
(────何はともあれ、)
(皆が健やかで何より、と言う事か)
キロスとウォードの視線が交わって、そんな会話が音なく交わされる。
それから爛々と輝かしい碧を見れば、此方にも同じ言葉が伝わったか、ラグナはにっかりと歯を見せて笑った。
そうそう土産があるんだと、嘗てラグナが親しんでいた店で買ったクッキーを差し出すと、子供達の目が興味津々に輝いた。
子供のレオンと、子供のスコールで、初対面した大人への反応は大分違うと良いなぁと。
警戒心は持つけどそんなに怖がらないレオンと、初めて見たものにはとにかく近付きたがらないスコールが書きたかった。