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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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カテゴリー「FF」の検索結果は以下のとおりです。

[フリスコ]初めての朝

  • 2017/02/08 22:51
  • カテゴリー:FF


体にじんわりとした重みがまとわりついているのを感じながら、フリオニールは目を開けた。
少し肌寒さが滑り込んでくる中で、最初に見たのは天幕の天井だ。
明かりとりの窓から白んだ光が零れ落ちているのを見付けて、朝が来た事を知る。

今日の食事当番は誰だっただろう。
そんな事を考えながら、フリオニールはのろのろと起き上がった。
心なしか腰が痛いような気がして、寝違えでもしたか、誰かに蹴られたのだろうか、と寝惚けた頭で考える。
よく一緒のテントで過ごすティーダ等は、寝ている時も元気が良いので、フリオニールはよく蹴られる。
しかし、ティーダの鼾と言うものも聞こえず、辺りはとても静かなものだ。
テントの外から鳥の囀りが聞こえると言う事は、このテントの中にティーダはいない。
食事当番かな、と思いながら、フリオニールは取り敢えず布団から出ようと起き上がった。

その時だ。


「……ん……」


微かに聞こえた小さな声。
ああ、誰か他にも此処にいたのか、と声のした方を見て、


「────!!」


直ぐ隣───正しく傍らに寄り添うように蹲っていた少年を見て、フリオニールの眠気は吹き飛んだ。

濃茶色の髪、白い肌、色の薄い小さな唇、見紛う事のない額の傷。
戦士と言うにはやや華奢な印象を与える身体つきと、少し力を入れて握れば折れてしまいそうな首。
その首下に、細いシルバーチェーンが絡み付き、鎖骨の上を通っているのが扇情的に映る。
チェーンに通された銀細工が、窓からの光を柔らかく反射させていた。
銀細工を抱いた肌は、日焼けを知らないかのように白く透き通り、少し体温は低いけれど、だからこそ熱を持つと判り易く赤くなる。
その様子をフリオニールは、つい数時間前まで見ていた。

固まるフリオニールの傍らで、寒さを嫌う猫のように丸くなっていたのは、スコールだった。
細い躯には一糸と身に着けてはおらず、フリオニールが起き上がって毛布を攫ってしまった所為で、彼の白肌は冷たい朝の冷気に晒されている。


「……んぅ……」
「!」


眼を閉じたまま、ふるりと肩を震わせたスコールに、フリオニールは我に返った。
慌てて毛布をスコールの体にかけ、裸身を隠すように包み込む。
暖が戻って来た事に安心したのか、スコールの眉間の皺がふにゃりと解け、すうすうと穏やかな寝息が聞こえ始めた。

起きる様子のないスコールに、ほうっと胸を撫で下ろしたフリオニールだったが、今度は自分が寒くなった。
ぶるりと身震いした体を自分の腕で抱き慰めて、自分も裸であった事を思い出す。


(そうだ、昨日……)


自分の有様と、スコールの格好と。
それぞれの認識をして、ようやく、フリオニールは昨夜の事を思い出した。

昨晩、フリオニールとスコールは、初めて閨を共にした。
想いを遂げても長らく清い仲であった二人だが、仲間達の後押し───スコールは要らない世話だと言っていた───のお陰で、昨晩、ようやく身も心をも繋げるに至った。
どちらも経験がある訳ではなかった上、ぼんやりと聞いていた知識とも違う状況に、初めは探り探りで覚束なかった。
どうしても受け入れる側のスコールの負担は否めないし、フリオニールはそれを和らげてやる術もよく知らない。
それでも、なんとか体を繋げることが出来ると、頭の中が真っ白になる位に満ち足りた。
後は少しずつ、少しずつ……と思っていられたのは、途中まで。
何度目の口付けだったか、その時にスコールが「……来てくれ」と言った瞬間、フリオニールの理性は完全に焼き切れた。
其処から先は無我夢中で、細い躯を掻き抱いて、やがて精も根も尽きて眠りに落ちた。

融け合った時の熱を思い出して、フリオニールは顔と言わず体と言わず真っ赤になる。
頭の中に走馬灯のように駆け巡る恋人の痴態に、鼻の奥から何かが競り上がって来た。
思わず鼻頭を抑えて、フリオニールは毛布に包まっているスコールから目を逸らす。


(あんな、に……なるなんて……)


姿形から言動から、スコールはストイックであった。
同い年であると言うティーダや、よく一緒に行動するジタンやバッツと並んでいると、尚の事それが強調される。
だからと言う訳でもなかったが、フリオニールは、スコールがあんなにも乱れるとは想像もしていなかった。
普段が禁欲的な雰囲気がある分、ギャップはかなりのもので、それがフリオニールの理性を吹き飛ばす原因にもなったのは間違いない。

そんな事を考えながら、取り敢えず服を着よう、とフリオニールは思った。
昨夜、始める前に脱いだ服は、テントの隅に丸めてまとめられている。
取りに行こうと腰を上げた時、


「……フリオ……?」
「あ……」


身動ぎする気配を感じ取ったか、スコールがぼんやりと目を開けていた。

スコールは毛布に包められていた身をもぞもぞと捩らせて、毛布の中から這い出た。
白くしなやかな背中が現れるのを見て、ごくり、とフリオニールの喉が鳴る。


「んん……っ」


体に違和感があるのか、スコールは腰に手を遣っている。
摩るように細い指が自分の腰を撫でて、楽な姿勢を探して、何度も足を組み替えた。
昨夜、その足が自分の体に絡み付いて来たのを思い出して、フリオニールの顔がまた赤くなる。

毛布から出たスコールは、ぺたりと座り込んだまま、猫手で目を擦っていた。


「…さむ……」
「ほ、ほら。ちゃんと毛布被らないと、風邪を引くから」


フリオニールはスコールの下へ戻って、彼の足下に塊になっている毛布を拾った。
拡げたそれでスコールの体を包み直すと、まだぼんやりとした蒼灰色がフリオニールを見上げる。


「……フリオニール……?」
「あ、ああ」


名を呼ばれて、フリオニールはどぎまぎと返事をした。

心臓の音が煩い。
恋人が自分を見ていると言うだけで、こんなにも緊張するなんて知らなかった。
いや、スコールと恋仲になって以来、二人きりになる度に似たような緊張感を抱いてはいたが、こんなにもガチガチになった事はない筈だ。
────昨夜は事の直前まで、今以上の緊張に見舞われたのだが、今のフリオニールに其処まで思い出す余裕はない。

眠気の所為だろう、いつもよりも幼い雰囲気を宿す蒼の瞳が、じっとフリオニールを見ている。
それを見ていると、なんだか小さな子供を見ているような気がしたが、毛布の隙間から覗く鎖骨や白い足は、間違いなく昨夜フリオニールが具に見ていたもので。


「………!」
「……?」


真っ赤になって目を逸らすフリオニールに、スコールはことんと首を傾げる。
蒼灰色の瞳は、じっとフリオニールの顔を見ていたが、ふとその視線が下へと落ち、


「……フリオニール」
「なっ、なんだ?」


名前を呼ばれて、今度の返事は思い切り裏返った。
どうにも平静には戻れないフリオニールに、スコールの白い手が伸びる。

ぐっ、とフリオニールの腕が強い力で引っ張られ、不意を突かれた形になったフリオニールの体は簡単に傾いた。
膝から落ちたフリオニールの体が、毛布をまとったスコールの腕に受け止められる。
重みに負けて、二人の体が諸共に床に倒れたが、スコールは目を白黒させるフリオニールに構わず、自分より一回り大きな体を毛布で自分ごと包み込んだ。


「え、ちょ、スコール、」
「あんたも、風邪引く……」


スコールはフリオニールの胸に頬を寄せ、また丸くなってしまった。
濃茶色の髪が、フリオニールの胸板や鎖骨をくすぐっている。
ぴったりと密着する肌の温もりに、フリオニールはスコールの耳元で自分の心臓が煩く鳴っているのを自覚していた。
しかしスコールはそんな音は露とも聞こえていないようで、猫のように目を細めると、そのまますぅすぅと寝息を再開させてしまった。

呆然としていたフリオニールが現実に戻って来たのは、それから一分後。
今までの、触れ合う事すら避けるような頑なさが、まるで嘘のような恋人の姿に驚く。
その傍ら、安心し切ったスコールの寝顔が嬉しい。
これはやはり、身も心も繋げ合う事が出来たからこそ、見る事が出来るものなのだろう。



テントの外から、朝食を思わせる匂いがする。
起きなければと思いつつ、腕の中の温もりが心地良くて、フリオニールはまた目を閉じた。





2月8日と言う事でフリスコ。
いつも周りがやきもきするようなフリスコばかり書いてる気がしたので、ド直球(の翌朝)を書いてみた。

仲間達は空気を読んでいるので、起こしには行かない。
そんで二人は、お膳立てされてるので事はバレバレなんだけど、必死にいつも通りの顔で起きて来ようとするんだと思います。意味ないけど。
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[ウォルスコ]幸福の朝

  • 2017/01/08 21:20
  • カテゴリー:FF


朝食と言うものは大事だ。
その事をウォーリア・オブ・ライトが知ったのは、ごく最近の事である。

元々ウォーリアは健啖家の類であり、痩せの大食いと言われる事もあるのだが、その癖、彼自身は食事と言うものに無頓着な所があった。
一日を過ごすエネルギー源と言う意味での摂取は怠らないが、その内容であるとか、それらを揃える為に必要となる金額であるとか、そう言ったものは全く気にしていなかった。
ついでに言うと、時間がないのであれば食事時間を削るも已む無しと考えるタイプなので、一日一食しか食べない、と言う事もざらに起こる事だった。
流石に丸一日何も食べない、と言うのは仕事の効率が落ちるのでいけないと思うが、健康補助食品や、湯に溶かしたインスタントスープであるとか、場合によっては糖分の補充のみを目的としたチョコレート一欠けらを食事と見做して過ごす事もある。

根本的に仕事人間なのだ。
だから物事の最優先事項は仕事の完遂であり、食事はそれを求める過程に必要不可欠なプロセスであるから行う、と言う程度の感覚だった。

しかし、此処数ヶ月のウォーリアの食事は、中々充実している。
毎日が、と言う訳ではないが、平日に職場で食べる弁当と、土曜日の夜と、日曜日の朝は理想的な品目が揃う。
そう言う暮らしをするようになってから、ウォーリアは食事の時間と言うものが楽しみになって来た。
其処には、食事を作ってくれる人がいる、と言う幸福感もある。
いや、その人の存在があるからこそ、ウォーリアは日々の幸福と言うものを知る事が出来たのだろう。

幼い頃から面倒を見ていた少年が、昨年高校生になり、恋人になった。
その時にはウォーリアは既に社会人となっており、都内で一人暮らしを始めていた。

少年はウォーリアを追うように、都内の私立高校を受験し、無事に合格。
家から通うのは遠いと言う事と、彼自身が一人暮らしを強く望んだ事もあり、彼は過保護な父親を説き伏せて、その年の春に一人暮らしを始めた。
因みに父親を説得する材料として、父が指定したマンションに住む、と言うものがある。
お陰で少年は、高校生にしては高級なマンションに入る事が出来、セキュリティも完備されているので父もウォーリアも安心しているのだが、彼自身はその事を若干不満に思っているらしい。
だが、過保護で知られた父が、大事な大事な一人息子の一人暮らしを許すのであれば、それも致し方のない事である。
ついでに彼が住む事になったマンションは、ウォーリアが住んでいるアパートに程近い距離にある為、何かあれば直ぐにウォーリアを頼る事が出来る、と言うのも、父が息子の一人暮らしを許容した理由の一つとなっている。

そんな訳で、少年───スコールは頻繁にウォーリアの家にやって来る。
付き合い始めて一年目は、思春期特有の色々な事が気になって、トラブル事でさえ頼るのを躊躇ってあまり近付かなかったスコールだったが、二年目ともなれば彼も流石に慣れたようだった。
一年目のうち、ぽつぽつと訪れていた時に見たウォーリアの生活ぶりを見て、思う所があったらしく、今年の春から週に一度は必ずウォーリアの下を訪れるようになった。
そして一週間分の食事を作り置きし、平日の弁当用のおかずも作って行く。
と言った生活をしている内に、二人の恋人としての距離も近付き、土日を跨ぐ際には泊まって行く事も増えていた。

昨夜が土曜日だったので、今回もスコールはウォーリアの家に泊まっている。
彼を腕に抱いて眠れる事が、最近のウォーリアの密やかな楽しみであった。

だが、日曜日の朝に目を覚ました時、スコールがウォーリアの腕の中に治まっている事は少ない。
いつも通りの時間にウォーリアが目覚めると、彼は必ずキッチンに立っていた。
今日もまた、目覚めたウォーリアの耳に、トントントン、と包丁の小気味良い音が聞こえる。


(……良い匂いだな)


トースターでパンが焼ける匂いがする。
バターを塗ってから焼いているのだろう、ほんのりと香ばしい。

ウォーリアは起き上がってベッドを抜けると、タートルネックのシャツとジーンズに着替えた。
銀色の髪があちこち寝癖をつけていたが、ウォーリアは気にせずにダイニングへ向かう。


「おはよう、スコール」
「ん」


卵を混ぜる事に忙しいスコールの返事は、一文字だけの短いもの。
かちゃかちゃと手際よく混ぜ終えると、熱しておいたフライパンに流し込み、菜箸で混ぜながら火を通して行く。
焦げないように火加減を調整しつつ、卵を丸めて行き、最後にぽんっと跳ねさせて、完璧な形のミニオムレツが出来上がった。

スコールは物心を着く前に母を失くし、父と二人暮らしで過ごしてきた。
父は息子の為に一所懸命に家事を担っていたが、父も決して時間に余裕がある訳ではない為、スコールは幼い内に自主的に家事全般を引き受けるようになった。
一人暮らしを始める頃には、それについては全く心配が要らない程に成長している。

ウォーリアが洗面所で顔を洗って戻って来ると、食卓テーブルには朝食が揃っていた。
狐色の焼き目がついたトースト、刻み玉葱入りのコンソメスープ、レタスと胡瓜を添えた黄金色のミニオムレツにとろりと流れるケチャップソースがよく映える。


「朝飯、出来た」
「ああ。頂こう」


席に着けば、スコールが向かい合う席に座って手を合わせる。
頂きます、と言うスコールに倣って、ウォーリアも手を合わせた。

フォークでオムレツの端を切り、口に入れる。
もぐもぐと顎を動かして咀嚼するウォーリアを見て、スコールがパンを齧りながら言った。


「…オムレツ、少し失敗した」
「そうは思えない。とても美味しい」
「……表、もう少し柔らかくしたかったんだ。火を入れ過ぎた」
「……確かに。だが、これも悪くない」


スコールの言う通り、オムレツの表面は少し固かった。
しかし、固めに焼けた表面とは裏腹に、とろりと中から甘い半熟が漏れてくる。
十分に美味しい、と言うウォーリアに、スコールは微かに頬を赤くして、そうか、と言った。

朝食を綺麗に平らげると、スコールがコーヒーを淹れてくれる。
以前はウォーリアが淹れていたのだが、通い見ている内にウォーリアの淹れ方を覚えたらしく、ある日から彼が用意してくれるようになった。
初めは摘出し過ぎて苦味が強かったりした事もあったが、今ではすっかり完璧にウォーリア好みにしてくれる。
ついでにスコールは自分のコーヒーも淹れており、砂糖一本とミルク一杯を入れて飲んでいた。

きちんとした朝食を食べて、食後のコーヒーを飲んで。
朝をコーヒー一杯で済ませ、それを食事と計算していた頃を思えば、想像もつかなかった事だ。
それらを用意してくれるのが、愛しい恋人だと言う事が、無性に嬉しい。

コーヒーの熱を逃がそうと、ふー、ふー、と息を吹きかけているスコール。
程良く冷めたそれに口を付けて、こくりと飲んだ後、スコールはウォーリアを見て言った。


「ウォル。卵と牛乳がない」
「では、買いに行かなくてはな」
「あと……サラダの作り置きがなくなってたな。ポテトサラダ作るから、ジャガイモがいる」
「いつもの所で買えば良いか?」
「…一駅向こうのスーパーの方が安い」
「車を出そう」
「昼で良い。タイムセールがある」


こんな生活間の溢れる会話と言うのも、スコールが此処に来るようになってから。
彼のお陰で、毎日が充実しているのだと、ウォーリアは度々実感している。

そんな気持ちが表に出ていたのだろうか。
スコールが眉根を寄せて、訝しげにウォーリアを見て、


「あんた、なんで笑ってるんだ?」


何か面白い事でもあったのか、と問うスコール。
その時になってウォーリアは、初めて自分の顔が緩んでいる事に気付いた。

ふむ、と顔が緩む理由を探して、直ぐに思い当たる。


「君と一緒にこうして過ごせる事が嬉しくてな」
「……は?」
「幸せとは、こう言う事を言うのだろうと思っていた」
「な……」


唇に笑みを浮かべるウォーリアの言葉に、スコールはぽかんと目を丸くする。
その後、かあああ、と沸騰したように少年の白い頬が真っ赤に染まった。

馬鹿じゃないのか、と言って、スコールは空になったコーヒーカップをシンクへ持って行く。
逃げるような足取りの少年の背を、ウォーリアの目が追った。



かちゃかちゃとやや乱暴ながら、几帳面に食器を洗い始めたスコールは、首まで赤くなっていた。





1月8日と言う事でウォルスコ。

もう一緒に暮らせばいいのに、的な。
でもスコールが高校を卒業するまでは、同棲もしないんだと思う。ウォルさんのけじめとして。
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[ヴァンスコ]寒い夜の過ごし方

  • 2016/12/08 22:33
  • カテゴリー:FF


なあ、と言う声に、スコールは閉じていた目を開けた。
テントに入った頃に手招きしていた眠気は、何度も呼ぶその声の所為で、何処かに行ってしまった。
自分が大概寝入り難い人間である事を、スコールは自覚している。
だからこそ、スムーズに眠れそうな時は、さっさと眠ってしまいたかったのだが、反応するまで呼び続けられては、神経質なスコールにはとても眠れる環境ではない。

渋々瞼は持ち上げたスコールだったが、横を向いた姿勢のまま、動く事はしなかった。
声の主に背中を向けた格好のまま、スコールはこれみよがしに溜息を吐いてやる。


「……なんだよ」
「やっぱり起きてた」
「…お前が起こしたんだ」


スコールの後ろには、薄手の毛布に包まっているヴァンがいる。
此方もテントに入った時には、スコールと同じように眠気のある目を擦っていた筈なのだが、今はその瞳はぱっちりと開いていた。

ヴァンは毛布に包まった体を、ずりずりとスコールへと寄せながら、


「そっち行って良いか?」
「…来ながら聞くな」
「今日、なんか寒くってさ」


スコールからの反応を、ヴァンは気にしていない。
会話をしてくれ、とスコールは思う。

毛布ごしに、二人の背中がぴったりと添う。
近過ぎる、とスコールは眉根を寄せるが、触れた場所から伝わる温もりは、冷え込んだ今夜には良い湯たんぽだ。
ヴァンがスコールに身を寄せて来たのも、それが目的だったのだろう。
ふう、とヴァンが安堵したような息を漏らした。


「なんか今日は寒くてさ。寝られなかったんだ」
「……そうか」
「スコールも寝られなかった?」
「……俺は……」


あんたの所為で寝られなかった、と思ったが、それを言うのは面倒だった。
黙っていると、ヴァンは自分で好きに想像して納得したようで、そっか、とだけ言った。
何がそっか、なのかはスコールにも判らないが、掘り返すのもやはり面倒なので、好きにさせて置く。

今日のテントの中の温度は、お世辞にも快適とは良い難い。
風もないので、冷気の原因の大半は、只管空気の冷え込みと足元からの底冷えだ。
こうなると、焚火を焚いている見張の方が、暖を取れる分過ごし易いのではないだろうか、とも思えてくる。
しかし、見張のバッツとジタンの「寒いよな」「なー」と言う声が聞こえるので、隣の芝かも知れない。

そんな夜に、湯たんぽになってくれる存在があるのはありがたい。
背中越しのぽかぽかとした熱に、今日はこれで良いか、とスコールは改めて睡魔を待つ事にする───が、


「なあ、スコール」
「……なんだ」


折の悪い所で呼ばれ、無視しようかと思ったが、また反応するまで呼ばれると面倒だったので、直ぐに返事をした。


「あのさ、そっち向いても良いか?」
「……断る」


背中越しだから、この密着度でも良いか、と思ったのだ。
これ以上の譲歩はしない、とスコールは固い声で返した。

が、背中の気配がごそごそと身動ぎし、スコールの体に後ろから伸びて来た腕が絡み付く。


「おい!」
「あー、やっぱり温かい」
「離せ!断るって言っただろう!」
「うん、そうだけど。やっぱり寒いんだよ。俺、もうちょっと温かくなりたい」


じたばたと暴れるスコールを意に介さず、存外と力持ちなヴァンは、スコールに抱き付いたまま離れない。
首の後ろに吐息がかかるのを感じて、スコールは顔を顰めた。

しばらくもがいていたスコールだったが、腹に回されたヴァンの腕は離れない。
ジタンやバッツとは別の意味で、ヴァンも中々頑固───スコールにしてみれば、しつこいと言うべきか───である。
実力行使で引き剥がせないとなると、スコールが諦めるまで、それ程時間はかからなかった。
……背中から伝わる温もりが、先程よりも高い温度で、スコールの抵抗意識を少なからず削いだのも功を副うした、かも知れない。

結局今日も、スコールの方が諦めて、スコールは腕を投げ出してヴァンの好きにさせた。
そんなスコールの首筋に、ヴァンは顔を寄せて、猫か犬のようにふんふんと鼻を鳴らす。


「……それ、止めろ」
「ん?」
「…嗅ぐな」
「でもスコールってさ、なんか良い匂いがするんだ」
「はあ?」


何を言っているんだ、とスコールが顔を顰めて肩越しに睨むと、鶸色の瞳とぶつかった。
その余りにも近い距離感と、真っ直ぐに見詰める瞳に、スコールの喉が詰まる。
結局、ふい、と顔を背けて、スコールは手繰り寄せた毛布に顔を半分埋めた。

スコールの項に、ちくちくと硬い質の髪の毛が当たる。
また嗅いでるのか、とスコールは眉根を寄せたが、鼻を鳴らす音は聞こえず、規則正しい静かな鼻息意外は当たらない。


「スコールの匂いって、なんか落ち着くんだよな」
「……だからって嗅ぐなよ」
「そんなに嫌か?」
「あんただって、俺があんたの匂いを嗅いだら嫌だろ」
「別に嫌じゃないし、嗅いでもいいぞ。スコールと違って良い匂いはしないと思うけど」
「………」


ヴァンの返事に、そもそも物事の考え方、感じ方が違う相手であった事を思い出し、スコールは閉口した。

マイペースを崩さないヴァンに、いつまでも構っていても仕方がない。
夜半を過ぎれば見張を交代するのだから、今の内に眠って体を休めて置かなければ。
そう思い直して、スコールは背中の引っ付き虫は好きにさせ、改めて入眠の体勢を取る。

一度散った睡魔は、いつになったら戻って来るかと思っていたが、存外と早かった。
一人で冷気に宛てられていた時と違い、背中はヴァンが覆っているお陰で、ぽかぽかと暖かい。
抱き締める腕が、少しばかり邪魔に思えたが、暴れる事を止めた所為か、大した力は入っておらず、ただ添えられているだけだった。
首筋にかかる呼吸の気配は、やはりくすぐったかったが、不思議と気にならない。
それよりも、温もりから手招きされるようにやって来る睡魔で、意識がふわふわと水面に浮いたように心地良い。


「やっぱりこうしてると暖かいな」
「……ん」


ヴァンの声は独り言のようであったが、スコールは素直に同意した。
返事があるとは思っていなかったヴァンは、ぱちりと目を丸くする。
が、直ぐにすぅ、すぅ、と静かな寝息を立て始めたスコールに唇を緩めて、一つ欠伸を零して、目を閉じた。





12月8日と言う事でヴァンスコ。
この二人は、毛色の違う猫がにゃごにゃごしてるイメージがある。
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[プリスコ]その瞳に映るもの

  • 2016/11/08 23:00
  • カテゴリー:FF


プリッシュが散策に飽きて秩序の聖域に戻った時、其処には珍しい光景があった。

歩き回って減った腹を満たそうと、食べるものを求めて、リビング向こうのキッチンに向かう。
冷蔵庫の中から林檎を見付けて失敬し、リビングでのんびりと食べようと思って戻った時だ。
ソファに座ろうと赴いたら、ジタンとバッツが静かにカードゲームに興じていた。
普段、プリッシュに負けず劣らず賑やかな彼等が、今の今までプリッシュが気付かない程に静かにしていたと言う事に少し驚く。
それから、二人の傍らで、ソファに座ったまま眠っているスコールを見て、プリッシュはもう一度驚いた。

スコールはとても物静かな人間だ。
が、その実、彼の心の中はとても賑やか───と言うか、忙しない。
その忙しなさは、半分は周囲の騒がしさによって起きているものらしく、そうでなくとも、彼は何かと考え事をする時間が多いようだった。
そんな彼が、波風一つない穏やかな眠りを晒していると言うのは、非常に珍しい事だ。
ああ、だからジタンもバッツも静かなのか、とプリッシュは納得した。

手に持っていた林檎をしゃりっと齧ると、ジタンが顔を上げた。


「よっ、プリッシュちゃん」
「おかえり」
「んんんん」


林檎を齧りながら、ただいま、とプリッシュは言った。
物を食べながら喋るのは良くない、と仲間達によく叱られるので、口は閉じたままだ。

ジタンが席をずれて、隣に座ってと促した。
遠慮なく座らせて貰うと、眠るスコールの正面位置を取る事となる。
バッツはスコールの隣でうんうん唸っているが、隣人にその唸り声は聞こえていないようだ。
スコールがそれなりに深い眠りについている事が判る。

ジタンとバッツは、トリプルトライアドに興じている。
プリッシュはカードゲームに全く興味がないので、何が面白いのかは勿論、ルールも判らない。
けれども、このカードゲームにスコールが酷く執着している事は、日々過ごしている中で知っている。

プリッシュは口の中の林檎を飲み込むと、ジタンに声をかけた。


「なあ。それって面白いのか?」
「ああ。オレは面白いと思うよ。特殊ルールもあって変化があるし」
「ふーん」


訊ねはしたものの、かと言ってプリッシュがカードゲームに興味が沸いたと言う程もない。
ただ、このカードゲームに興じている時のスコールの顔が、脳裏に浮かぶ。


「スコールってこのゲーム好きだよな」
「元々、スコールの世界のカードゲームらしいからな」
「カードを全部集める位にハマってたらしいよ」
「このカードも、こっちに来てからスコールが集めたものなんだ。見てみるか?」
「うん」


バッツが傍らに置いていたカードの山を差し出す。
プリッシュは林檎を持っていた手を拭いてから、それを受け取った。

カードには明らかに魔物と判る生物、或は怪物のようなイラストが載っている。
プリッシュが知った姿の魔物もいれば、違うようで特徴が似ている物、全く知らない物もいた。
人間の顔がプリントされたカードもあり、其処にスコールの顔が載っている物を見付ける。

プリッシュはカードを掲げて、向かいの席に座っているスコールを見た。
本人とカードの間を、藤色の瞳が行ったり来たりを繰り返し、二種類の顔を見比べる。

カードに描かれたスコールの顔は、眉根を寄せ、唇を引き結び、蒼の眦は此方を睨んでいる。
顰め面、とよく仲間達から言われている、見慣れたスコールの表情だ。
対してプリッシュの正面に座っている人物は、唇を引き結びつつもやや緩く、時折薄く隙間が開いてまた閉じる。
プリッシュの耳には何も聞こえないが、夢で見ているのか、寝言を零しているのだろうか。
特徴的な傷が奔る眉間には、いつもある筈の皺がなく、その所為か、心なしか顔立ちが常よりも幼く見える気がした。

なんとなくカードを眺めていたプリッシュの鼻に、奇妙な匂いがまとわりついた。
リビングで過ごしている時、嗅いだ事のないそれに、プリッシュは鼻に皺を寄せる。


「なあ、なんか変な匂いしないか?焦げたみたいな臭い」
「え?……あっ、ヤカン!やべっ」
「おいおい、かけっ放しかよ」


持っていたカードをテーブルに投げて、バッツが慌ててキッチンに駆けて行く。
どうやら、今日の夕飯担当のバッツが、夕飯の準備のついでにと火にかけていたヤカンを、そのまま放置していたようだ。
そういやさっきヤカンが置いてあった気がする、とプリッシュは朧な記憶を振り返った。

バタバタと言うバッツの足音が切っ掛けだろう、もぞ、とスコールが身動ぎする。
背凭れに預けていた体がゆっくりと起き上がって、猫手が目許を擦った。


「おう、スコール。悪いな、起こしちまって」
「ん……」


ジタンの詫びに、スコールの反応は鈍い。
まだ眠気が残っているのだろう、手で隠した口から欠伸が漏れた。

薄らと涙の膜を張った蒼灰色の瞳が、ぼんやりと彷徨った後、少しずつ確りとした光を宿す。
スコールはもう一度手で目許を拭った後、体を起こして、正面に座っているプリッシュに気付いた。


「……あんた、帰ってたのか」
「うん。ただいま」
「……」


スコールから“お帰り”の言葉はなかったが、プリッシュは気にしなかった。
言葉の少ない彼は、仲間との挨拶すら積極的には行わないので、いつもの事と言えばそうだ。

ぼんやりとしているスコールと、林檎の残りを齧るプリッシュの傍らで、ジタンはカードを集めて整えている。
そんな三人の下へ、キッチンからバッツが戻って来た。


「いや~、やっちまった。お、スコール、おはよう」
「……ああ」
「やっちまったって、何やったんだ?」
「空焚きになってて、ヤカンに罅が入っちゃって。買い直しに行かないといけないんだ」


プリッシュが異臭に気付いたお陰で、火事のような大きな事になはらなかったものの、火にかけていたヤカンには罅が入った。
キッチンには電気で動くポットもあるが、湯を急ぎで欲しい時には、やはりヤカンの方が早い。
使う頻度もそこそこあるので、罅の入ったヤカンをそのままにして置く訳にはいかないだろう。


「ジタン、買いに行くの付き合ってくれるか?ついでに不足してる物も買い足したいから。スコールはまだ眠そうだし」
「オレかよ~、仕方ねえなあ……スコール、プリッシュちゃん、留守番頼んで良いか?」
「おう。いいぞ」
「……ああ」


ジタンの言葉に、未だ睡魔が抜け切らないのか、スコールの返事は遅かった。
そんなスコールに、ジタンは集めたカードを手渡して、バッツと一緒にリビングを出て行く。

二人きりになったリビングで、スコールはまたソファに背を預けた。
賑やかな二人がいなくなったので、リビングには静けさが戻っている。
その静寂に、プリッシュは少し落ち着きのない気分を抱きつつ、あと少しになった林檎を齧る。
大きく口を開けて齧っているので、林檎の消費は早く、あと三口か四口程で食べ終えるだろう。

しゃり、とプリッシュがまた林檎を齧った所で、スコールと目が遭った。
じっと見詰めるスコールの視線に、プリッシュはことんと首を傾げた後、手に握っている林檎を見て、


「食うか?」
「………いい」


腹が減ったのかと思って林檎を差し出したプリッシュだったが、スコールは眉根を寄せて手を振った。
そうか、とプリッシュは最後の一口を齧る。

腹が減ったのではないなら、何故みられていのだろう、と思った後、プリッシュは蒼灰色の先にあるものに気付いた。
プリッシュが左手に持ったままにしていた、トリプルトライアドのカードである。


「悪い、お前のだったな」
「……ん」


カードを差し出すと、スコールは今度は受け取った。
ジタンがまとめたカード束の上に置いて、トントン、と床に落して端を揃える。

綺麗に芯だけになった林檎を、プリッシュはキッチンの三角コーナーへ持って行く。
キッチンは先程プリッシュが感じた異臭が残っていたが、換気扇が回っているので、直に消えるだろう。
深く気にせず、プリッシュはリビングへと戻った。

ソファではスコールが目を細めながら、手元をカードを捲っている。
その表情が常よりもずっと柔らかな空気を醸し出している事を感じ取って、プリッシュも伝染したように胸奥がほかほかと暖かくなる。
暖かみの感触をそのままに、プリッシュはスコールの後ろから、彼の手元のカードを覗き込んだ。


「なあ。コレって面白いのか?」
「…!」


背後に立たれていると気付いていなかったのか、スコールはビクッと肩を跳ねさせて硬直した。
眉間に皺を寄せ、じろりとプリッシュを睨み上げるスコールだったが、プリッシュは気にしない。


「な、面白いのか?」
「……ああ」


プリッシュの行動に害意は勿論、悪意も他意もない事は、スコールも理解している。
無邪気振りにややついて行けない、ともすれば迷惑そうな顔を浮かべたスコールであったが、問いには素直に答えに応じた。

スコールの短い返事に、ふうん、とプリッシュはカードに目を遣る。
スコールが持っていたのは、プリッシュには見慣れない魔物を記したものだった。
トリプル・トライアドはスコールの世界のゲームだと言うから、この魔物もスコールの世界のものなのだろうか。
シャントット辺りなら何某かの興味を示し、魔物の特性や生態について訊ねるのかも知れないが、プリッシュにはどうでも良い事だ。

じっとカードを見ていたプリッシュだったが、何か熱い視線を感じて、目線を横に流すと、蒼灰色とかち合った。
スコールと目が合うのは、プリッシュとしては珍しい事だ。
なんだ?と訊ねようとして、先にスコールの方が口を開いた。


「あんた、興味があるのか」
「興味?何が?」
「……このカード」


スコールの言葉に、プリッシュはことんと首を傾げる。


「んん?ん~……」
「……」


考え込むプリッシュに、スコールの眉間に皺が寄ったが、プリッシュは気付かなかった。

興味があるかないかと言われると、正直に言えば、ない。
カードゲームは腹が満たされるものではないし、カードも食べれる訳ではない。
体を動かす訳でもないし、頭を使ってあれこれと策を弄するような事は、プリッシュは得意ではなかった。
けれども、カードゲームをしている仲間を見ていると、和気藹々として楽しそうだ。
普段は殆ど一人で過ごしているスコールも、カードゲームとなると、いつの間にか其処に混じっている事も少なくない。


「カードは興味ないけど」
「……そうか」
「でも、お前はこれが好きなんだよな」
「……まあ」


スコールの返事はぼやかされていたが、白い頬が僅かに赤らんでいる。
照れてる時の顔なんだ、と言っていたのは、バッツだったか。

プリッシュはソファの背凭れに後ろから寄り掛かり、スコールの肩口から身を乗り出した。
遠慮のない肩の重みにスコールの眉間の皺が深くなるも、振り払われる事はない。
カードをまじまじと覗き込むプリッシュを、スコールは好きにさせていた。


「面白いんだよな」
「……ああ」
「じゃあ、今度お前がやってる所、見ててもいいか?」
「…別に、構わない」


スコールの言葉に、プリッシュが破顔するように笑う。
興味もないのに見るのか、とスコールは思ったが、眩しい太陽を思わせる無邪気な笑顔に、毒気を抜かれたような気がした。

ジタンとバッツが帰って来たら、きっとまたカードゲームが再開されるだろう。
その時プリッシュは、スコールの隣に座って、彼を眺めているのだろう。
カードを見詰めるスコールの横顔は、いつもよりも柔らかく暖かく、少しだけ無邪気さが滲む。
プリッシュは、それを見るのが好きなのだ。



早く帰って来ないかな、と待ち侘びた声が、リビングの扉を開けるまで、そう時間はかからなかった。





相変わらずこれでもプリッシュ×スコールと言い張る。
プリッシュの無邪気さを掴みかねているスコールと、なんだかんだ言って拒絶されないので懐いているプリッシュでした。
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[絆]家族とお菓子といたずらと 1

  • 2016/10/31 22:00
  • カテゴリー:FF


世界はどうしてこんなに広いのだろう。
最近のレオンは、よくそんな事を考える。

バラムガーデンを卒業した後、レオンはセキュリティ会社『ミッドガル』に就職した。
それは半ば衝動的に決めた就職先ではあったが、それ以前に見付けた自分自身の目的に最も近道になりそうなのが、この職であったのだから、後悔はない。
危険と隣り合わせのSEED部門に就職するとあって、妹弟は勿論、育ての父母にも随分と心配をかけた。
これからもその心配は続いて行くと言うのは、否応なくそれに付き合わされる家族には申し訳ないと思うものの、どうしてもレオンはこの仕事に就きたかったのだ。
その理由は────今はまだ、別の話である。

ともかくも、バラムガーデンで18才以上の者が任意で取得する卒業試験を、レオンは19歳で受験して無事に合格。
その試験と並行して受けた『ミッドガル』の就職活動も、レオンはクリアする事が出来た。
そして今年の春から晴れてSEED部門に配属され、二ヶ月の研修期間も終え、そろそろ社会人生活も慣れたかと言う頃、レオンは頻繁に長距離移動をするようになっていた。

元々、バラム自体が小さな島国であり、他国からは切り離された立地にある。
周囲の海の潮流も些か特殊なもので、所々に暗礁も点在している為、嘗ては船での往来もやや難しく、慣れた船頭の案内が必須と言われていた。
そのお陰で、ガルバディア大陸とエスタ大陸に挟まれた位置に存在しながらも、かの戦争の影響を受ける事なく、独立自治を保ったまま、平和な環境が続いていた。
その後、急激な造船技術・操舵技術の進歩や、ガルバディア国から友好の一歩として、ガルバディア大陸の方々を繋ぐ大陸横断鉄道の路線が延長され、造られた海底を走る線路が出来たお陰で、バラムと他国との繋がりは強くなりつつある。

が、立地条件として、已然としてバラムが海の真ん中に存在する島国である事は変わらない。
温暖気候に育まれた豊富な自然資源や、年中を通しての過ごし易さは変わらず、景観も含めてよい観光資源となっているものの、此処から外国に渡るとなると、どの手段を取っても大なり小なりの時間がかかる。
イヴァリース大陸で製造されている飛空艇が購入できれば、そして空港等が整備されれば、───国ごとの事情はさて置くとして───国外旅行も簡単になるのだろうが、特定の支配層や富裕層と言う者がいないバラムでは難しいだろう。
その為、現状では、バラムと国外を結ぶには船か大陸横断鉄道を使用するしかない。

レオンはこの数ヶ月、週に二度三度と国外に出ている。
セキュリティ会社『ミッドガル』のSEED部門に所属する者としては、ごく普通の事だ。
SEED部門は、警備部門と並んでの警備任務を初めとし、要人警護の任務もあれば、増えすぎた魔物、危険度の高い魔物の討伐と言った任務もこなす。
任務は元々、世界中から舞い込んでくる依頼を振り分けて宛がわれる為、任務地はその時々で変わる。
研修中はバラムの警備、ガルバディア大陸の各町都市の周辺を主とした任務が多かったが、正SEED扱いになると、任務地は一気に広がった。
ガルバディア大陸はいざ知らず、トラビア大陸、スピラ大陸、イヴァリース大陸と、最近は開国したエスタ国からも依頼が来ており、其方に赴く事もある。
移動費や宿泊費は会社が負担してくれるので、その点は何も心配しなくて良いのだが、体力気力だけはサービスされるものではないのが辛い。

自分で選んだ仕事に後悔はないつもりだが、こうも頻繁に西へ東へと送り出されると、帰って来る度にぐったりと疲れ果ててしまう。
レオンを指導教育する立場の先輩からすれば、レオンは「まだマシ」と言うレベルだと言うが、今まで殆どバラムの島から出る機会がなかった人間にとっては、現状でも些か辛いものがある。
レオンが覚えている一番の長距離移動と言ったら、生まれ故郷からバラムの島へ移る時位のもの。
それも、あの時は往路の一回きりで良かった訳だから、今のようにあっちへこっちへ奔走するのとは訳が違う。

最近は、次は何処へ行かされるのか、と考える事も増えて来た。
初めは見知らぬ土地に行く事も多かった為、緊張と少々の期待もあったのだが、今はそんな事を楽しむ余裕もない。
任務が終わった翌日には、新しい任務に付かなければならないと言うのも、疲れの原因だろう。
街灯の灯った家路を進む足の重さを自覚しながら、レオンは今もそんな事を考えている。


(……休暇の申請って、もう出来たかな……)


一年目でそんな事、と思う気持ちもあったが、このままだと疲労で潰れてしまいそうだ。
先輩からは、「仕事は体が資本だが、体の資本は精神だ。使い物にならなくなる前に、意識して休暇を取れ」と言われている。
特にレオンは、生真面目から来る疲労もあるだろうから特に注意しろ、と重ねて言われた。

倒れてしまっては元も子もないのだ、と言われたレオンが最初に浮かんだのは、妹弟の顔だ。
まだ孤児院で過ごしていた頃、風邪を隠して弟達の面倒を見た末に、熱を拗らせて倒れた事がある。
あの出来事は幼かった弟のトラウマ同然にもなったようで、当分の間、彼を酷く不安にさせてしまった。
妹からも泣いて怒られ、他の子供達も不安にさせ、クレイマー夫妻からもこってりと絞られた。
あの時のように、家族に心配をかけるような無茶をする訳には行かない。

申請の仕方を今一度確認して、可能な限り、早い休みを取るようにしよう。
そう決めた所で、レオンは自宅の玄関扉を開けた。


「ただいま」
「お帰り、レオン」
「お帰りー!」
「お帰りなさい」


疲労の色が滲むレオンの声に、柔らかな声と、元気な声が帰って来て、それから控えめな声。
いつもと変わらない家族の声に、レオンはほうっと息を吐いた。

重たげな動作で上着を脱ぐレオンに、食卓でプリントを広げていたスコールが席を立つ。
まだ丸みが残る手を差し出されて、レオンは小さく微笑んで、その手に上着を渡した。


「ありがとう、スコール」
「ううん」


感謝を述べるレオンに、スコールは照れ臭そうに頬を染めて、ふるふると首を横に振る。
ハンガーに上着をかけに行くスコールを目で追っていると、キッチンからエルオーネが顔を出した。


「お疲れ様、レオン。晩御飯、食べる?」
「ああ」
「じゃあ直ぐ用意するね。お風呂入る?」
「いや、食べてからにする」
「判った。ちょっと休んでてね」


エルオーネがキッチンへ戻ると、レオンはソファに腰を下ろした。
天井を仰いで、ゆっくりと息を吐くレオンを、スコールと一緒にプリントを広げていたティーダが振り返り、


「今日は何処に行ってたの?」
「今日は……大塩湖だ」
「だい……どこ?」
「何処だと思う?」


首を傾げて訊ねるティーダに、レオンは問いで返してみる。
うんうんと唸るティーダの前に戻ったスコールも、プリントを進める手を止めて考えていた。

そのまま、30秒程考えていたティーダだったが、


「判んないよ」
「地図帳に載ってるぞ。持って来て探してみると良い。地理の勉強だ」
「うえー、もう勉強やだあ」


顔を顰めるティーダだったが、スコールは気になるのだろう、席を立って二階へ向かう。
ティーダはそんな幼馴染に、真面目だなあ、と呟いた後、手許のプリントへ視線を戻す。
が、直ぐにやる気を失くして、プリントの上に突っ伏した。

うーうーと唸るティーダを横目に、レオンは時計を見る。
時刻は午後8時、最近の帰宅時間を思えば、早い方だろう。
だからスコールとティーダもまだ起きていて、夕食を終えての課題に取り組んでいたのだ。

キッチンからトレイに夕食を乗せたエルオーネが現れ、ソファ前のローテーブルに置く。
ほこほこと湯気を立ち上らせているのは、カボチャのスープだ。
その傍ら、小さなオレンジ色の顔付カボチャがちょこんと置かれているのを見て、レオンはふと腕時計で今日の日付を確認する。


「────そうか、ハロウィーンか」
「うん。だから今日のご飯はカボチャ尽くしです」


確かに、よくよく見ると、スープの他にもカボチャが入っている。
カボチャのグラタン、サラダ用にカボチャのディップ、おまけでカボチャ型のクッキーだ。

頂きます、と言ってから、レオンはスープを一掬い。
10月末となれば、温暖なバラムの気温も下がる一途の時期である。
家路で冷えた体に、温かなスープが沁み渡って行くのを実感して、ほうっとまた安堵の息が漏れた。


「美味いな……しかし、ハロウィーンなんてすっかり忘れてたよ」
「お仕事、忙しいもんね」
「今年は皆も仮装していないし」
「うーん。まあ、もうそろそろ、ね?」


私は仮装しても良かったんだけど、と言うエルオーネ。
眉尻を下げる彼女の視線は、プリントの上で潰れているティーダと、二階から降りてきたスコールに向けられる。

二次性徴を迎える時期となったエルオーネは勿論、まだまだ小柄と言われる弟達も、身長が伸びて来て、小さな子供と言われる程ではなくなった。
楽しい祭りや行事は好きでも、そろそろ無邪気にはしゃげる年齢ではなくなったか。
元々、子供達だけの生活と言う事もあり、相互補助の意識は早い内に育ったようで、彼等も兄姉の力になれるようにと言う努力は惜しまなかった。
自立心が早く芽生えるのも自然な事で、並行して無邪気な幼さにも卒業を迎えつつあるようだ。

妹弟の成長は嬉しくも、些か寂しいものである。
特に最近、社会人として仕事に従事する為、家にいる時間が少なくなった────家族と共に過ごせる時間が減った所為か、レオンは富にそう思う。


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