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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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カテゴリー「FF」の検索結果は以下のとおりです。

[ラグレオ]泡沫の夢

  • 2014/08/08 21:50
  • カテゴリー:FF
ラグナ←レオンの現代ものです。二人の間に血縁関係はありません。






誰にも心を預けないように、誰にも寄り掛からないように生きて来たつもりだ。
それが、邪魔にしかならない存在である自分の、精一杯の他者への気遣いだから。



物心がついて間もなく、両親が離婚した。
一人息子だった自分の行先について、両親が延々と言い争っていた事を覚えている。
幼い耳に聞こえてきたのは、どちらが引き取るか、と言う言葉ではなく、貴方がお前が引き取れと言うもの。
何が原因で両親が離婚に至ったのかは、今となっても判らない。
ただ何となく、自分が原因だったのではないかと感じ、それを否定する者もいなかったから、きっとそれで正解なのだろうと自己完結した。

押し付け合いは決着を着かず、一先ずは母の下に引き取られる事となったが、母子の暮らしは長くは続かなかった。
夏の暑い日、大きな駅に連れて行かれ、母は此処で待っていなさいと言って、何処かに行った。
母の背が遠退くのを見詰めながら、ああ自分はやっぱり要らない子だったんだと知るまで、それ程時間はかからなかった。

駅の待合ベンチに子供が一人、いつまで経っても其処から動かないとなれば、流石に周りも怪しむ。
駅員が来てお父さんは?お母さんは?と聞いたので、初めは母に言われた言葉を繰り返し、母を待っている子供を演じ続けていたが、判っていた。
母は自分を迎えに来る事はない、母にとって自分は要らない存在なのだと。
何時間が経っても迎えが来ないのだから、駅員も流石に察したのだろう、やがて警察がやって来た。
母は息子に、身分証明になるものは一つも持たせず、三日分の着替えと水筒とお菓子だけをリュックに詰めて背負わせていた。
子供がそれ以外に持っていたのは、自分の名前一つだけ。

行く宛てのない子供は、養護施設に入る事になった。
同じような境遇の子供達が集められた中、彼は少しだけ、異質だった。
頭が良く、よく気が付く性格で、甘え下手だが年下をあやすのは上手かった。
そんな子供を引き取りたいと言う大人は数知れなかったが、子供は一度として首を縦には振らず、かと言って施設で過ごす事に執着している訳でもない。
彼が目指していたのは、一刻も早く自立する事で、一人で生きる術を身に付ける事。
率先して施設員の手伝いを買って出ていたのは、少しでも早く、自分一人で生活する術を得る為であった。

彼は、誰にも心を許していなかった。
優しい職員にも、懐いてくれる年下の子供達にも、誰にも。
それは、彼自身が、“要らない子”として生まれた自分に課した、二度と捨てられない為の防衛手段であった。


────それでも、やっぱり。
意識していない心の深い場所では、寂しかったのだろう、と他人事のように自分の胸中を分析する。

大人数でわいわいと飲むのが好きだと言う彼が、自分を酒宴に誘う時は、決まって静かなバーを選ぶ。
それは、人が多いのが苦手だと零した自分の愚痴を覚えていて、こっそり気遣ってくれているからだ。
気にしなくて良いのに、と言っても、彼は「俺がお前と飲みたいの」と言って笑う。
その笑顔が、少しずつ少しずつ、甘い果実酒の杯を重ねるように、レオンの内側に沁み込んで残って行く。

今日もまた、ラグナはレオンを連れてバーに入った。
出張先のホテルの地下一階に設けられた、ダウンライトに照らされたシックな空間で、二人静かにグラスを傾ける。


「んでさぁ、スコールも試験前で忙しいだろうから、俺が代わりに部屋の掃除してやろうと思って」


愛する一人息子について語るラグナの顔は、熟れた林檎のように赤い。
すっかり酔いが回っている横顔を眺めながら、レオンはくすりと小さく笑って、


「掃除をしたら、後でしこたま怒られた、と」
「そうなんだよぉ。勝手に俺の部屋に入ったな!?って」


ありがとうって言って貰えると思ったのに、とさめざめと泣くラグナ。

ラグナの愛息子であるスコールを、レオンはよく知っていた。
出逢った頃には、まだランドセルを背負っていた子供は、今では思春期真っ盛りの高校生になっている。
父に対して厳しい態度を取る事が増え、息子を溺愛して止まないラグナは、度々寂しい寂しいと言って泣いていた。
とは言え、スコールが父を本気で毛嫌いしているかと言えば、そうではない。
父には素直に言えない事も、兄代わりのように接しているレオンには零せるようで、気難しい少年の本音はそんな所にぽろりと出て来る。
今日の議題についても、スコールは「一応、感謝はしてる…」とレオンに伝えており、試験期間が終わったら、出張から帰った父の為に好きな料理を作ってやると言っていた。
これを伝えればラグナが泣く事もないのだろうが、言うとまたスコールが恥ずかしがって怒ってしまい、料理も作らなくなってしまうのが予想に難くないので、レオンは口が堅い男を守っている。

その後もラグナは、泣いたと思ったら笑い、惚気話を思わせるような表情で、息子について語り続けた。
しっかり者に育ってくれて嬉しい、でも偶には昔に見たいにパパ~って呼んで甘えて欲しい。
最近は段々レインにも似て来て……と語るラグナに、レオンは相槌を打ちながら、聞き手に終始した。

グラスの中を何度目かの空にして、そろそろ頃合いか、とレオンはバーのマスターを呼ぶ。


「会計を」
「かしこまりました。少々お待ちを」
「え~?もう終わりかぁ?」


まだ飲みたい、と言うより、まだ喋りたい、と言う表情でレオンを見るラグナ。
殆どテーブルに突っ伏し、上目遣いでねだる彼の顔は、すっかり赤らみ、眦も緩んでいる。


「駄目ですよ。明日の朝も早いんだから、この辺りでお開きにしないと、起きられなくなります」
「俺は平気だよ~。レオンがいつも起こしてくれるもんなっ」
「その為にも、お開きで。俺もあまり酒には強くないって知ってるでしょう?」


起きて下さい、と肩を揺すり、ラグナはようやく渋々と起き上がった。

マスターが差し出した伝票を見て、レオンは足下に置いていた鞄から財布を取り出す。
と、その間に、ラグナが背広のポケットから財布を取り出し、紙幣をマスターに渡していた。


「あ、ちょ……」
「ん?あ~、いいからいいから」
「でも、」
「俺の方が年上なんだし。じょーしだし。遠慮せずに甘えなさい!」


言いながら、ラグナはマスターから釣銭を受け取り、財布をしまう。
ごちそーさま!と無邪気に笑って店を出て行く彼を、レオンも追った。

エレベーターへ向かうラグナの足取りは、ふらふらと踊っていて危なっかしい。
通路に人気がないのが幸いだ、と思いつつ、レオンはラグナの背を追いながら言った。


「あの、ラグナさん。飲み代、俺も出します」
「いーっていーって。気にすんなって」
「……でも……」


どうにも気が引けて、レオンは口籠る。

エレベーターの扉が開いて、二人で箱の中に乗る。
何階だっけ、と訊ねるラグナに代わり、レオンが部屋のあるフロアのボタンを押した。

唐突に、レオンは甘えるのヘタだなぁ、とラグナが言った。
昔からそう言われます、と返せば、そうだろうなあ、とラグナは笑う。
莫迦にしている訳ではない、そうした意図はラグナの声には微塵もなく、純粋に思った事を呟いただけだろう。
そして、もっと甘えって良いんだぞ、と言って、ラグナがレオンの頭を撫でるのが、お決まりの流れだった。

くしゃりと頭を撫でられた所で、エレベーターが停止する。
エレベーターからそう遠くないツインの部屋に入ると、ラグナは真っ直ぐベッドに向かって倒れ込んだ。


「あー、なんかきもちいー」
「上着、脱がないと皺になりますよ」


良い具合にアルコールが回っているのだろう、幸せそうなラグナに、レオンは忠告する。
が、そのまま反応しなくなったラグナに、やれやれ、と溜息を吐いて、レオンはベッドに近付いた。


「ほら、上着脱いで。明日も着るんですから」
「んぁ~」
「ネクタイも。楽にしておいた方が良いですよ」


言いながら、レオンはラグナのジャケットを脱がせる。
全く、と言いながら、脱がせたそれをハンガーにかけていると、


「レオンは、世話焼きだなぁ」
「……否定はしません」
「いい嫁さんになるなー」


ふわふわと楽しそうな声には、他意は感じられなかった。
エレベーターで会話をしていた時と同じで、思った事が口を突いて出ただけだろう。

レオンも上着を脱いでハンガーにかけ、ネクタイの結びを緩めながら、ラグナの下に戻る。


「俺は男ですよ」
「あはは、そうだった。───そういやレオン、お前、結婚とかしねえの?」
「…藪から棒ですね」


レオンはそう言ったが、自身の年齢を考えれば、何処かで出る話題であったと言える。
二十代の半ばで、仕事は順調、社交性も決して低くはないレオンだから、社内の女性達からは頗る人気である。
バレンタインデー等は箱単位のチョコレートを貰うし、積極的な女性から食事に誘われる事も少なくない。
が、レオンはそれらを受け流してばかりで、バレンタイン等は全員に平等のお返しを配る程だから、社内に特に気になる女性はいないと思われていた───実際、その通りである。

そもそも、レオンに結婚であるとか、恋人を作る意識があるかと言われれば、否だ。
レオンは誰にも寄り掛かるつもりはないし、誰かの心の中に居場所を作るつもりもない。
そうする事は許されない人間なのだと、レオン自身が思っていた。

レオンの表情が微かに影を深めている事に、ラグナは気付かない。
なあ、と無邪気に見上げて問うラグナに、レオンは喉奥に詰まった物をゆっくりと吐き出すように息を吐き、


「当面、予定はありません。相手もいないし」
「なんで?勿体ないな。俺ならお前みたいないい男、ほっとかないのになぁ」


ああ、高見の花って思われてるとか?
そんな事を言う相変わらずの上司に、高嶺の花です、そんな大層なものじゃありません、と言った後、────ぎしり、とベッドが軋む音が鳴る。

暗く深い蒼灰色と、宝石のような眩しい碧が、ごく近い距離で交差して、


「そんなに言ってくれるのなら、貴方が俺を貰ってくれますか?」


しっとりとした唇に、何処か歪な笑みを浮かべて、レオンは言った。
細められた眦が、獲物を吟味する猫のように、見上げる男を見詰めている。

ゆっくりと近付いて来る青年の顔を見詰めて、あれ、とラグナは瞬きを繰り返す。
普段、彼との物理的距離はあってないようなもの───だが、それはラグナがスキンシップを好むからだ。
レオンの方はと言うと、自ら他人に触れる事は勿論、近付く事もせず、しかし他人行儀にはならない微妙な距離感を保っているのが常であった。
ラグナに対してだけは、繰り返されるスキンシップの中で慣れたのか、比較的近い距離を許してくれるようになったが、それでもレオンから訳もなく近付いて来る事はない。

ふ、とアルコールの匂いが、ラグナの鼻腔をくすぐった。
近付く蒼灰色の宝玉は、綺麗な筈なのに、何か薄暗いものを滲ませているように見えて、ラグナは密かに息を飲む。


「貴方は、俺を、」


鼓膜を震わせた声に、ラグナの意識が戻る。
眠っていた訳でもないのに、白昼夢でも見ていたような、そんな気分だった。
改めて眼前の青年との距離感に気付いて、目を瞠る。


「え、あ、…おぉ?」
「………」
「れ、れおん、くん?」


名前を呼ぶと、ぴたり、と近付く蒼が止まった。
ラグナは、どくどくと心臓の音が煩く打ち鳴るのを聞きながら、じっと青年の挙動を見守る。

それから幾許か、数秒か、数分か────判然としない時間が経った後、す、と蒼が瞼の下に隠れ、


「なんて顔してるんですか」


くすくすと笑う声に、ラグナはぱちくりと瞬きを一つ。
離れて行く顔を目線で追ってみれば、レオンはすっくと立ち上がり、悪戯が成功した子供のように口角を上げて笑っていた。


「本気にしましたか?冗談ですよ」
「あ……うん、そう、だな。そうだよな」
「驚きました?」
「そりゃまぁ。なんつーか、らしくない冗談って感じだったし」
「そうですね……結構酔ってるのかも知れません」


言いながら、レオンはアメニティのグラス二つを持って洗面所に入り、浄水を注ぐ。
部屋に戻って、グラスの一つをラグナに差し出すと、ラグナは呆けた表情のままでそれを受け取った。

ちびちびとグラスを傾けるラグナの目が、伺うようにレオンに向かう。
レオンはそれに気付かない振りをして、自分のグラスを空にした。


「じゃあ、俺、先にシャワー頂きますね」
「あー……って、酔ってるのに大丈夫か?」
「直ぐに出ますから」


何かあったら直ぐに呼べよ、と言うラグナの言葉に頷いて、レオンは風呂場へ向かう。

脱いだ服を乱雑に籠に入れて、微かに冷えた空気に支配された浴室に入る。
シャワーの温度を確かめずにコックを捻ると、水とも湯とも言えない温度の雨が降り出した。
高い位置に設置されたシャワーから降り注ぐ雨を、レオンは頭から受け止める。
不精に伸ばしていた前髪が、額に、頬に張り付いて、水滴がレオンの頬から顎へ伝って落ちて行く。

────酔っていたのか否かと聞かれれば、酔っていた。
では、自分の行動に抑制が効かない程に酩酊していたのかと聞かれれば、そうではない。
意識ははっきりしているし、自分が何をしているのか、何を言っているのかも判っていた。
だから、「冗談です」と言って離れる事が出来た。

肩から背中に流れ落ちて行く水は、体温よりも低い所為で、表記されている温度よりも冷たく感じられた。
だが、今はそれが心地良い。


(……馬鹿な事をした)


間近で見た透明な碧を思い出しながら、レオンは独り言ちる。
呆けた貌で、信じられない物を見る目で此方を見詰める男の顔が、脳裏に浮かぶ。


(俺は、あの人の幸せを壊したいのか?)


彼がどんな人なのか知っている。
彼が、どんなに家族を愛しているのか知っている。
そんな彼の幸せを、自分なんかが壊して良い訳がない。

それは判り切っている事だった。
だから、どんなに彼と繋がる事を望んでも、その願いは決して口にしてはいけない。

危うく禁忌を破る所だった、と自身の行動を後悔しながら、─────それでも、と思う。


(……振り払われなかった)


あんなに距離を近付けても、押し退けられなかった事が、レオンの胸を微かに温かくさせていた。
単に、彼が驚いて身動きできなかっただけだと判っていても、嬉しかった。


(……それに)


レオンの脳裏に、ラグナの言葉が蘇る。



『俺ならお前みたいないい男、ほっとかないのになぁ』



(あんたがそう言ってくれるだけで、俺は、)




幸せを望んでも良いんじゃないかと、そう思えるだけで、幸せになれるんだ。







ラグナ×レオンで不倫ネタを頂いたので。
不倫ネタから始まった筈なのに、設定広げてる間にレオンさんの切ない大人の片恋物語になったので、その片鱗を書き散らしてみた。
段々日常でこんなモーションかけるようになって、ラグナに露骨に拒否されない事だけに幸せを感じてたら、ラグナもレオンを気にし始めて、レオンの方が怖くなって逃げ出したりとか。そんな話でした。

しっかり者で通してるレオンが誰かに甘える図が可愛い。
あと、頭からシャワー被ってぼんやり考え込んでるレオンは色っぽい。
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[ラグスコ]プライベート・ワンタイム

  • 2014/08/08 21:26
  • カテゴリー:FF


国際社会に復帰して以来、エスタの大統領は世界各国に引っ張りだこになっている。
元敵国であったガルバディアへも外交の窓口は開いており、頻繁に来国していた。
その際、未だ混乱の多いガルバディア軍は勿論、今も地下で政府打倒を目論んでいるレジスタンスと、不安要素が拭えない為、特別編成の警護チームが作られている。
その編成が“特別”とされる最たる所は、やはり、先達ての魔女戦争の“英雄”が含められている事に尽きるだろう。

魔女戦争の“英雄”ことスコール・レオンハートは、専ら大統領の近衛警備に当てられている。
一時の休憩時間や公的な会談の場を除き、常にエスタ大統領ラグナ・レウァールに最も近い場所にいるのだ。
各々の打ち合わせの為、一時離れる時であっても、直ぐに互いの連絡が取れるように専用の通信機を持ち歩いている。
この通信機はラグナが持つ方に特殊なGPSが組み込まれており、スコールの持つ通信機からその場所が割り出す事が出来る。
止むを得ず離れなければならない時、万が一を考えて、スコールがラグナに持たせたものだった。

─────のだが、その通信機は、現在の所、専らスコールの想像の斜め上の使われ方をしている。

ラグナが特別編成の警護チームと共に、ガルバディアの首都デリングシティに来て、今日で三日目。
ラグナが午後の打ち合わせの為、限られた官僚とエスタ兵の護衛を連れてホテルの部屋に引き籠った後、スコールも同様に打ち合わせの為に別の部屋へと移動した。
午後の警備予定に関して再確認し、明日の予定についてもう一度目を通す。
今日の午前の警備中、不審な影が見られると言う情報を元に、警備プランを部分的に修正し、念の為明日の警備は増員する事が決まった。
今のガルバディア軍は、何処で何が破裂するか判らない上、それを狙うレジスタンスもあちこちで不穏な動きが増えている。
準備には念を入れておくに越した事はないのだ。

そうして、入念にチェックを繰り返した打ち合わせが終わって間もなく、スコールのジャケットの中で電子音が鳴り始めた。
ピーピーピーと言う味気ないその音に、書類をまとめていたキスティスが顔を上げた。


「あら。何かあったかしら」
「……さあ」


ポケットからシンプルな通信機を取り出して、スコールは眉根を寄せた。
通信をオンにして、直ぐに耳に当てる。


「此方レオンハート、何か────」
『スコール!打ち合わせ終わったぜ!な、まだ戻れないか?もうちょっと時間かかるか?』


ありましたか、と言うスコールの問いは、最後まで形にならなかった。
聞きなれた陽気声が通信機の向こうでスコールを呼ぶ。
ざわっと周りのSeeD達がざわめくのが判って、スコールの眉間に深い皺が刻まれた。

スコール、スコールと何度も呼ぶ声に、周囲のざわめきが益々大きくなって行く。
無理もあるまい、スコールが手にしている通信機は、非常時用の大統領との直接回線だ。
それが鳴り出し、たとなれば、警護に集められた者達が騒然とならない訳がない。

しかし、スコールは溜息を吐き、キスティスはくすくすと笑う。
全く緊張した様子のない指揮官とその補佐官に、周囲がおや、と思い始めた頃、通信機から聞こえる声が静かなものに変わった。


『すまない、スコール君。打ち合わせは終わったかな』
「はい」
『では、至急此方へ来て貰えると助かるのだが』
「……了解しました」


短い返答をして、スコールは通信を切った。
もう一度深い溜息を吐くスコールに、キスティスは咳払い一つ。


「こっちは私に任せて良いから」
「……ああ。俺はそのまま警備につくから、後は予定通りに動いてくれ」
「了解」


最低限の指示を残して、スコールは部屋を出て行く。
何かあったんですか、と問うSeeD達に、スコールは答えなかった。

会議用に使っていた部屋を出て、エレベーターを使って大統領宿泊の為に貸し切られているフロアに上る。
フロアは静かなもので、所々にエスタ兵とガルバディア兵の警備がある以外には、人の姿はない。
これを見る限り、大統領の身に危険が起きた訳ではない事が判る。


(……緊急時以外は使うなと言ってるのに……)


何度目かになる溜息を吐いて、スコールはある扉の前で止まる。
壁は熱いが、扉はそれ程でもないのだろう、その向こうから騒がしい声が聞こえていた。
それが自分の名前を連呼している事に気付いて、頬に朱が上る。

正直言って、入りたくない。
しかし、入らない訳には行かない。

腹を括るまでたっぷり十秒を使って、スコールは扉をノックした。
直後、ドタバタと騒がしい音がしたが、ドアを開けたのは想像とは違う人物だった。
厳つい顔をした、丸みのある筋肉を乗せた大きな体躯の男────ウォードを見上げて、スコールはほっと息を吐く


「大統領閣下はご無事ですか?」
「……」


一応とばかりに固い表情で問うスコールに、ウォードは大きく頷いた。

扉が大きく開けられ、入るようにと促される。
些か重い足を動かして、スコールは数十分振りに大統領の部屋へと入室した。
大統領が使う部屋とあって、上等な調度品が揃えられた部屋の中、凡そ肩書きとは程遠いラフな格好をしたラグナ・レウァールがソファに座っている。
ラグナは拗ねた貌をして其処にいたが、ウォードの翳になっていたスコールの姿が見えると、ぱっと破顔してソファを立った。


「スコール!午前の仕事、終わったぜ!」
「打ち合わせが終わっただけでしょう」


外交に出て来ている以上、国に帰るまではどんな時でも仕事中だ───とスコールは思うのだが、ラグナは気にしていない。
いや、判っていない訳ではないのだろう、彼は馬鹿な男であっても、決して愚鈍な馬鹿ではないのだから。

ラグナはスコールの下へ駆け寄ると、スコールの手を取って強く引く。


「よし、行こうぜ!」
「は?」


何処に、と言うスコールの声は、音にはならなかった。
引っ張る手に流されるままに部屋を出て行く、間際に「行ってらっしゃい」と言うキロスの声が聞こえた。

エレベーターホールでは、先に部屋を出ていたらしいピエールが、エレベーターの扉を開けて待っていた。
ラグナはさんきゅー、と言って、スコールの手を引きながらエレベーターに乗り込む。
行ってらっしゃい、とピエールは言って、エレベーターの扉が閉じた。

二人きりになった小さな箱の中で、スコールはじろりとラグナを睨む。
視線を感じてか、振り返ったラグナがへらりと笑ったのを見て、スコールは腕を掴んでいる手を振り払った。


「あー……」


振り払われた手を見下ろして、ラグナの情けない声が漏れる。
それに構わず、スコールはフロアボタンを一つ押した。
直ぐにエレベーターが止まり、扉が開く。

エレベーターから降りようとしたスコールを、ラグナの手が掴んで止めた。


「スコール、怒って、」
「着替えるだけだ」


怒ってるのか、と言うラグナの声を遮って、スコールは言った。
きょとんとした表情で、ラグナは振り返らない少年を見詰める。


「SeeD服のままじゃ目立つ」
「…あ、」
「あんたがエスタ大統領だって気付かれる。そんな格好していても」
「…ああ、うん」


草臥れたワイシャツと、スラックスと、サンダルは流石に止められたのだろう、シンプルな靴。
髪は後ろで無造作に結び、テレビで報道されているような、洗練された雰囲気はない。
それでも気付かれる人には気付かれるかも知れないが、そんなまさかな、と言う気持ちで流される事を祈る。

だと言うのに、スコールがSeeD然とした格好していては意味がない。
せめてデリングシティの街に溶け込む服装にならなければ、此処にいるのがラグナ・レウァールであると忽ち知られてしまうだろう。


「エレベーター、そのまま止めて待っててくれ」


スコールが宿泊する為に取っている───と言っても、殆ど使う予定はないが───は、エレベーターホールの直ぐ近くにある。
急げば五分もなく戻って来れる距離だろう。

早足で部屋へ向かうスコールの背中に、急がなくて良いからな、と言う声。
それに応えずに、スコールは部屋に入ると、ベッド上に投げ出していた荷物を広げた。



三分足らずでエレベーターに戻って来たスコールを見て、ラグナが嬉しそうに笑う。
再び閉じた小さな箱の中で、ラグナは赤らんだスコールの耳にキスをした。





一部の人には公認、それ以外には秘密の関係で、仕事の合間にお忍デート。
ラグナに振り回されてるだけのように見えても、案外満更でもないスコールでした。
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[レオスコ]消えない傷痕

  • 2014/08/08 21:21
  • カテゴリー:FF


闘争の世界なのだから、傷なんてものは逐一気にしていたらキリがない。
近距離での戦闘を自分の持ち場としていれば尚更で、迫る敵との対峙は勿論、後方に控える仲間を庇う事も少なくない。
となれば、生傷なんてものは次から次へと作られるもので、それを一つ一つ丁寧に治療していたら、あっと言う間に魔力も薬も枯渇してしまう。

だと言うのに、レオンはスコールが怪我をする度、一つ一つに丁寧に治療魔法を施して行く。
無論、擦り剥いたとか打ち身程度の傷なら気にしないが、明らかに刃が掠めた痕だとか、火傷になりかけた皮膚の炎症は、スコールが何度言っても放って置かなかった。
魔力を回復する方法は、魔法薬に頼る以外には、自然な回復を待つしかない。
ティナやルーネスのような、魔法に秀でたタイプは比較的回復が早いようだが、レオンはそうではなかった。
どちらかといえばスコールと同じ、物理戦を得意とする彼の魔力は、貴重なものである。
戦術の一部としても活躍し、時に刃ともなるその魔力は、決して無駄遣いして良いものではないのだ。

────と、何度も言っているのに、今日もまた。


「スコール」


呼ぶ声に、スコールは判り易く不機嫌な顔をして振り返ってやった。
眉間に深い皺を刻んだ少年の顔を見て、レオンはぱちりと瞬き一つしたが、それ以上は気にしない。


「さっき、脇腹をやられただろう。見せてみろ」
「……特に問題はない。放って置いて良い」
「それは確認してから判断する。ほら」


レオンはスコールの腕を捕まえて引き寄せると、シャツの裾を捲った。
うわ、と引き攣った声を上げるスコールに構わず、レオンは赤黒く擦れたスコールの脇腹を見て、目を細める。

傷を作ったのは、義士が放った闘氣をまとった矢だ。
詰めた距離から放たれたそれを、スコールは寸での所でかわしたが、氣と風圧に皮膚を持って行かれた。
戦闘に支障が出る程の傷にはならなかったので、皮膚が引き攣る感覚は無視して、戦闘を続行していたのだが、やはり激しく動けば傷は広がるものである。
じっとりと赤い色を滲ませた皮膚に、今度はレオンの眉間に深い皺が刻まれた。

レオンの右手が傷に宛がわれる。
スコールはそれから逃れようと身を捩ったが、レオンの左腕が腰に回され、しっかりと捕まえられた。


「動くな、傷が開く」
「あんたは無闇に魔法を使うな!これ位、放って置けば塞がる!」


持って行かれた皮膚の幅が大きかった所為で、見た目には酷い傷に見えるが、肉を削がれた訳でもない。
初めこそ裂かれた皮膚の痛みがあったが、それももう終わった。
赤も大方固まっており、これ以上の出血はないだろう事が伺える。

しかし、レオンにはそんな事は関係なかった。
淡い光がレオンの手の中に生まれて、スコールの傷口を覆い隠して行く。

スコールが幾ら言っても、暴れても、レオンは治療が終わるまでスコールを離そうとしなかった。
体格も筋力もレオンに劣るスコールでは、力勝負で叶う筈がないのだ。
結局、スコールが眉間に深い皺を寄せ、レオンが気が済むのを待つ事になる。
そうしてようやく解放された頃には、脇腹にあった傷は、その痕すらも残されていなかった。


「よし」
「………」


満足したように頷いて、捲っていたシャツを戻すレオン。
スコールは違和感のなくなった脇腹に手を当てて、唇を尖らせていた。


「他に傷はないな?」
「……ん」
「ん?」


問いに小さく頷いたスコールであったが、そんなスコールを、レオンはまじまじと見詰める。


「……ない」
「そうか」


スコールの言葉を、信じているのか、いないのか。
読めない表情でレオンは頷いて、スコールに背を向け、歩き出す。

スコールは、レオンの背中を見詰めて歩いていた。
レオンは、後ろをついて来る気配には気付いているのだろうに、時折確認するように後ろを振り返ってスコールを見た。
まるで、小さな子供が迷子になってしまわないように確かめているようで、スコールは益々不機嫌になる。

レオンは、いつでもこんな調子だった。
彼の方が年上で、精神的にも余裕があるのは仕方がないとしよう────納得は出来ないが。
だが、だからと言って、あからさまに子供扱いされるのは、スコールのプライドが許さなかった。


「……レオン」


いい加減に、言ってやらねばなるまい。
そう思ったスコールが、遂に行動に移したのだから、レオンの此の行動は本当に長い間続いていた事が伺える。

呼ばれて振り返ったレオンが足を止めたので、スコールも立ち止まった。
どうした、と問い掛けるレオンの声は、心配の色が滲んでいる。
やはり何処か痛めていたのか、とでも言い出しそうな男を、スコールは眦を尖らせて睨む。


「いちいちこっちを振り返るな」
「…唐突だな」
「それと、俺が怪我をしたからって、一々治しに来るな」


固い口調で言ったスコールに、レオンの眉間に皺が寄せられる。

不機嫌な顔をした者同士で睨み合う。
いや、レオンは特に睨んでいるつもりはないだろう、眉間の皺とスコールの思い込みの所為でそう見えるだけだ。
そうして向き合っていると、お前らやっぱりよく似てるなー、と揶揄いに来るジタンとバッツは、今日はいない。


「俺は、あんたが思ってる程子供じゃない。あいつらと違って逸れる事もないし、少し傷を放って置いたって何ともない」
「………」
「だから、一々俺なんかに、魔力の無駄遣いとか、するな」


小さな女子供ではないのだと、スコールは言った。
傷一つで泣く事もないし、道に迷ったからと言って立ち尽くして泣き出す程幼くもない。
自分がするべき事も、その為になにをすべきかと言う事も、何を優先するべきかも、スコールは判っている。
それなのに、それらをまるで無視して子供扱いするレオンには、いい加減に業が煮える気分だった。

────が、レオンはしばらくきょとんとした表情を浮かべた後、


「……別に、そんなつもりはなかったんだが」


眉尻を下げ、スコールと同じ濃茶色の長い髪を掻いて呟いた。
蒼の瞳が言葉を探すように彷徨い、数秒の間が開く。


「お前は、放って置くと傷を隠すから、早い内に治した方が良いと思ったんだ」
「深い傷なら自分でちゃんと治療する」
「…悪いが、お前のその言葉は信用ならないな」


直ぐに意地を張るから、と苦笑して言うレオンに、スコールの眉間に深い皺が浮かぶ。
また子供扱いだ、と不機嫌を深めるスコールだったが、


「それに、俺が確かめたいんだ。お前の身体に、俺以外の痕はないんだって事を」


スコールの身体に刻まれる“痕”────それが傷痕であれ、何であれ、レオンは許せなかった。

日焼けを知らない白い肌は、痕が残ると殊更目立つ。
腫れて赤くなるのも、血の巡りが悪くなって内出血を起こすのも、実際の傷以上に際立って見える。
此処は闘争の世界で、スコールは傭兵なのだから、傷などあって当たり前のものであり、スコールの言う通り、一々気に留める方がどうかしていると言えるだろう。

それでも、レオンは許せなかったのだ。
額に刻まれた傷は仕方がないとして(自分にも同様のものもあるし)、他はどうしても許容する事が出来ない。


「お前の身体に、俺以外が触れた痕跡なんていらないから」


レオンの持ち上げた手が、指が、スコールの首筋を撫でる。
ジャケットのファーで見え隠れする微妙な位置に、赤い華が咲いている事を、スコールは知らない。
そして首の後ろには、微かに噛み付いた痕が残っている事も、彼は知らない。

レオンの言葉の意味を判じ兼ねたのだろう、スコールはぽかんとした表情でレオンを見上げていた。
そんなスコールの額に、レオンは徐に唇を寄せる。
ちゅ、と言う小さな音が聞こえて、スコールはようやく我に返った。


「ちょ……あんた、何して」
「……くく、」
「なんで笑ってるんだ」


睨むスコールを交わすように、レオンはくるりと踵を返す。
先を歩きだしたレオンに、スコールは眉間に深い皺を寄せて、後を追って歩き出した。

前を歩きながら、レオンは振り返らずに言う。


「スコール。俺は別に、お前を子供扱いしてはいないぞ」
「…嘘吐け」
「本当だ。嘘なら、あんな事をする筈がないだろう」


────あんな事。

何とは明言されていないその言葉に、スコールの顔が思わず赤くなる。
それを読んだように肩越しに振り返った蒼が、「何を思い出したんだ?」と笑って問うから、スコールの不機嫌は益々増した。





逐一スコールの傷を治すレオンを書いてみたら、過保護と独占欲まみれになった。
でもスコールの方も満更でもない。
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[8親子]今、此処にある幸せを抱いて

  • 2014/08/08 21:15
  • カテゴリー:FF


ごちん、と言う音の後、わあああん、と大きな声が響いて、レインは振り返った。
声の発信源を探せば、ローテーブルの足下で座り込み、わんわんと泣いている小さな息子がいる。


「うわっちゃ~。スコール、大丈夫か?」


テーブル傍のソファに座っていた夫が、泣きじゃくる息子スコールを抱き上げた。
スコールは額に大きな赤を作っており、ラグナが其処に触れると益々声を上げて泣く。
どうやら、原因はそれで間違いないらしい。

レインは持っていた包丁をまな板に置いて、息子と夫を振り返る。


「大丈夫?ぶつけたの?」
「うん、そう。テーブルの下に落ちた玩具を取ろうとして、ごーんって」


よしよし、痛かったなあ、とラグナがスコールの頭を撫でる。
ぐすん、ぐすん、と愚図りながら、スコールは父を見上げた。

ばたばたばた、と階段を下りてくる足音が響く。
転ばないと良いけど、と言うレインの胸中は杞憂で済み、ガチャバタン、と慌ただしくリビングのドアが開く。
現れたのは、今年で五歳になったエルオーネと、九歳になったレオンだ。


「スコールが泣いてる声が聞こえたけど。何かあった?」
「スコール、だいじょうぶ?」


二階でぬいぐるみ遊びに夢中になっていたのに、末弟の事となると、本当にこの兄妹は敏感だ。
二人は父の腕の中で泣きじゃくる弟を見付けると、一目散に駆け寄った。


「スコール、どうしたんだ?」
「おでこごちーんってしちゃったんだよ」
「スコール、いたいの?いたいのね。かわいそう」


父の説明に、エルオーネがスコールの頭を撫でて慰める。
スコールはまだ愚図りながら、潤んだ瞳で姉を見た。
引っ込みかけていた涙が、またじわぁ、と滲み出して、ぼろぼろと溢れ出す。


「……ふわぁあああん!」
「いたいの?よしよし。いたくない、いたくない」
「父さん、スコール、ぶつけただけ?他には?」
「ないよ。それより、其処の玩具、取ってやって」


ラグナが指差したのは、テーブルの下に転がった、ラッパの玩具だ。
レオンが身を屈めてテーブルの下に潜り込み、玩具を拾う。
そんな間にも、スコールは大きな声で泣きじゃくり、弟を慰めようと奮闘するエルオーネも、泣き止まない弟に釣られたように、泣き出す一歩手前の顔になる。

空気ポンプで音が鳴るラッパの玩具は、スコールの今一番のお気に入りだった。
レオンは、そのラッパの空気ポンプを押して、ぱふ、と音を出した。
泣いていたスコールの声がぴたっと止み、くるりと首が巡ってレオンを見る。

ぱふ、ともう一度音を鳴らせば、小さな手が伸びて来る。


「うー、あう」
「あ、泣き止んだ」
「スコール、いたい、ない?」
「あーう、あー。ふぁう」
「うん、コレな。落とさないように」


レオンはスコールの小さな手を取って、ラッパの玩具を握らせた。
自分や妹よりも、ずっと小さな手が玩具を握るのを確かめて、レオンは手を放す。
玩具は床に落ちる事なく、スコールの両手に収まり、空気ポンプが押されてぱふっと音を鳴らした。

ぱふっ、ぱふっ、とラッパが鳴る度、スコールが楽しそうに笑う。
それを見て、エルオーネも嬉しそうに笑い、レオンもほっと安堵した。
ラグナは、そんな三人の子供達の様子を、すっかり蕩けた貌で眺めている。


「うー、う。はぐ」
「あっ。スコール、それ食べちゃダメ!」
「食べ物じゃないんだぞ、スコール」
「んぐぅ」
「美味しくないだろ?ほら、離して」
「うーうー、うぅうううう…!」


ラッパの端を口に含んだスコールに、レオンとエルオーネが叱る。
ラグナが強引に口に含んだそれを取り出そうとすると、スコールはまた泣き出してしまった。
おろおろと戸惑う幼い兄と姉の姿に、レインはくすりと笑って、キッチンを離れた。

リビングにやって来た母に、レオンとエルオーネの目が輝く。


「母さん、スコールが」
「はいはい。こら、スコール、お口開ける」
「うぇあああああああ……」
「よいしょ。ラグナ、これ拭いておいて」
「はいよー」


スコールの唾液でべとべとになってしまったラッパを、ラグナがティッシュで綺麗に拭く。
レインは泣きじゃくるスコールを抱き上げて、ぽんぽんと背中を叩いてあやし始めた。

リビングの食卓テーブルの回りをぐるりと歩きながら、レインは腕に抱いた息子をあやす。
その後ろを、エルオーネが弟を見上げながらついて歩く。
妹が弟を見上げてばかりで歩くから、転んでしまうんじゃないかと心配した兄が、その後ろをついて歩く。
今はまだ家族四人分の椅子が並んだテーブルの回りを、妻と子供達がぐるぐると歩くのを、ラグナはソファに座って眺めていた。


「ふぁ、あー、あー…あーっ」
「よーしよし。あれは食べ物じゃないのよー」
「スコール、スコール。食べちゃダメなのよ」
「エル、足元見て。転ぶぞ」


エルは母の真似をして、スコールに玩具は食べ物じゃないんだと言い聞かせる。
そんな小さな姉も、ほんの三年前までは、スコールと同じように色んな物を口に入れて、小さな兄を大慌てさせていた。
そしてそんな小さな兄も、生まれたての頃は、なんでも口に入れて父親を大いに慌てさせていた。

腕に抱いた小さな息子が少しずつ泣き止んで、ぐすん、ひっく、としゃくり上げる声だけが聞こえて来る。
このまま眠ってしまうかな、と背中を撫でていると、ぱふっ、と言う音がリビングに響いた。
ぴくっ、と小さな体が反応して、音の発信源を探してきょろきょろと首を巡らせる。


「スコール~」


夫の声がして、スコールの視線が其方へ向かう。
ぱふっ、ぱふっ、とラッパの音が鳴った。


「あーう、あーう」
「はいはい、あっちね」


音のする方へ行きたがる息子に応じてやる。

振り返ったレインに夫の姿は見えず、彼は身体を縮めてソファの背凭れに身を隠していた。
レオンとエルオーネがぱたぱたと駆け足でソファに向かい、背凭れの裏側から乗り出して、其処に隠れている父を見付ける。


「父さん、何してるんだ?」
「なにしてるの?」
「わっ、しーっ、しーっ」


末息子を驚かせてやろうとしたのに、上の二人のお陰で台無しだ。
レインはくすくすと笑いながら、ソファの前へと回り込んだ。
妻と末息子とばっちり目があったラグナが、へらりと笑って、ラッパの玩具をぱふっと鳴らす。


「だぁう」
「うん、これ、スコールのな」
「もう食べちゃ駄目よ」


母から父へ、末息子を抱く腕が交代する。

キッチンへと戻るレインに代わって、ラグナはスコールを膝上に乗せた。
その両隣にレオンとエルオーネが座る。


「ほーら、ぱふぱふー」
「だう、あぅ、あうー」
「スコールは音の出るオモチャが好きだな」
「ああ、そうだな。レオンやエルと一緒だな~」
「わたし、オモチャ食べたりしないもん」
「あははは」
「どうして笑うの?」
「はは、なんでもない、なんでもない。そうだ、レオン、宿題は?」
「さっき終わった」
「エルは、明日の幼稚園の準備は?」
「終わった!」
「そっかそっか。よしよし」


ラグナはスコールを抱き締め、エルオーネの頭を抱き寄せて、レオンの額と自分の額を合わせる。
レインは鍋の具をおたまでくるくると掻き回しながら、夫と子供達の様子を見て、小さく笑う。

すっかり蕩けた夫と、恥ずかしそうな長男と。
嬉しそうな娘と、玩具に夢中になっている末息子。
子供の成長は大人が思っているよりずっと早くて、手を放す日が訪れるのもも、きっと自分が思っているよりずっとずっと早いのだ。
けれども、それは明日今直ぐにと言う事ではないから、その日まで、こんな日々を大切にしたい。



お母さん、お腹空いた。
催促する子供の声に、はいはいもう直ぐよと応えて、レインはコンロの火を止めた。





スコールくん1さい。エルオーネちゃん5さい。レオンくん9才。パパとママもいっしょ。
幸せ目指して書いてたのに、なんで私泣きそうなんだろうか。レインさーん!!!

音の出るオモチャに夢中だったのは、うちの姪っ子甥っ子です。死ぬほど可愛かった。
ちなみに甥っ子は1歳未満の時、オモチャよりもサッ○ロポ○トの袋の方が気に入っていた(手が当たるだけで音がするので)。
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[クラ&子スコ]親子タンデム

  • 2014/08/02 22:58
  • カテゴリー:FF
先日、大型バイクで親子タンデムしてるのを見かけました。
ほとんど直進の大きな道を往復していたようです。
小学生の女の子が制服で乗っていて、パパ(多分)の背中にぴったりくっついて掴まってるのが可愛かった……

と言う訳で、現パロで子スコをクラウドのバイクに乗せてみた。
23歳のクラウドお兄ちゃんと、小学生のスコールです。


[ある夏の日の風景 1]
[ある夏の日の風景 2]
[ある夏の日の風景 3]


気になるものしか見えてない子供って可愛い。
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