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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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カテゴリー「FF」の検索結果は以下のとおりです。

[猫レオン&猫子スコ]リトルガーディアン・ファンタジア

  • 2014/03/05 22:51
  • カテゴリー:FF


太陽が南天を迎える頃、用意された食事を二匹並んで平らげる。
小さな器に山になった食事は、あっと言う間に空っぽになって、その後は綺麗な水で喉を潤した。
食後の毛繕いをしっかりやって、一心地ついた所で、欠伸が出る。

その欠伸を見て、食後の毛繕いを続けていた幼子が顔を上げた。



お兄ちゃん、お兄ちゃん。
おなかいっぱい、眠たいの?



腹が膨れて、窓から差し込む春の訪れを告げる陽気を感じていると、不思議と睡魔が手招きする。
眠たいの、と問う幼子に、うん、ちょっと、と頷いた。

冬が終わって春先の今、窓を開ければまだまだ冷たい風があるが、閉め切っていれば問題ない。
春の陽光は昼寝をするのに丁度良い暖かさだから、日向で目を閉じていると、眠るつもりはなくても眠ってしまいそうだった。
睡魔が手招きする今なら尚の事、良い夢を見る事が出来そうだ。

この家はいつでもぽかぽかと暖かいけれど、冬の窓辺は、やはりつんと冷たい冷気が滑り込んでいて、窓辺の昼寝も満足に出来なかった。
けれど、窓の向こうで色とりどりの花が芽吹き始めたこれからなら、そんな心配もないだろう。
幼子もこの位の時間にはいつも眠たそうにしているし、久しぶりに窓辺でゆっくり眠ろうか、と幼子を誘って昼寝をしようとしたのだが、幼子からは意外な返事が返ってきた。



お兄ちゃん、お昼寝するの?
じゃあ、お兄ちゃんがお昼寝してる間、お兄ちゃんを守ってあげる。



思いも寄らない幼子の言葉に、きょとんと瞬き一つ、二つ。
そんな兄を見て、幼子は楽しそうに尻尾を揺らして、ぴしっと背筋を伸ばして座る。

前は、兄が昼寝をする時は、幼子も一緒に眠っていた。
最近は、兄が昼寝をする時は、クッションで一人遊びをしていたり、広くなった家の中を探検したり、やっぱり兄と一緒に眠ったりしていた。
そんな中で、此処に来て新しいパターンが現れたようだ。

きょとんとしている兄を見て、幼子は可愛らしい丸い顔を、精一杯凛々しく引き締めた。



お兄ちゃん、いつも守ってくれるから。
今日はお兄ちゃんを守ってあげる。



幼子の言葉に、なんだか目頭が熱くなったような気がしたのは、何故だろう。
嬉しいような気もしたから、額をぐりぐり押し当てると、くすぐったいよぅ、と幼子の声。

守ってあげるね、と繰り返す幼子と一緒に、窓辺の寝床に戻って座る。
幼子は寝床の隣で、前足を揃えて身体を伏せ、窓の外を睨むようにじっと見詰める。
家の中は危ない事など何もないから、何かが襲ってくるとしたら、庭と繋がるこの窓だと、幼子も判っているのだろう。
幼子は尻尾をゆらゆら振りながら、凛々しい顔で、怪しい奴を見逃すまいと丸い瞳を精一杯鋭くさせて、外の世界を注視する。

さて、自分はどうしよう。
寝床のクッションに体半分を埋めて、考える。
このまま眠ってしまっても良いけれど、幼子の事が気になって、余り眠れないような気もするのだ。
そんな事を考えていると、窓の外を見詰めていた幼子が顔を上げて兄を見て、



大丈夫だよ、お兄ちゃん。
絶対、守ってあげるから。



幼子はそう言って、兄の頬を舐めてあやす。
きっと、いつも兄にして貰っている事を真似したに違いない。

幼子は悪いものが現れた時、兄を守って戦う気満々のようだが、思えば、家の中に怖いものがないように、外に怖いものが現れても、それは絶対に入って来れない訳で。
仮に悪いものが家の中に入って来た時、怖がりな幼子が、爪を牙を突き立てて戦えるのかは、正直、ちょっと判らない。
それでも頑張ろうとしている幼子の成長と、守ってくれると言う言葉を無碍にする事はないだろうと、改めて寝床に身を委ねる。

ぽかぽかと、暖かい日差しに抱かれるのが心地良い。
今日は正しく昼寝日和と言えるだろう。

そのまま、うつらうつらと幾らかの時間を過ごした後、ふと幼子の様子が気になった。
幼子は寝床の傍らで伏せたまま、ぴくりとも動かず、固まったようにじっとしている。
閉じていた目を、そっと開いてみると、楽しそうにゆらゆらと揺れていた尻尾が止まっていて、微かに見えた幼子の腹がゆっくり、ゆっくり動いていた。
幼子の顔がきちんと見えないのが何と無く淋しくて、姿勢を変えようと起き上がる。

そうして見えた幼子の姿を見て、兄はやっぱり、と苦笑した。



……んぅ…むぅ……



うつら、うつら。
兄よりずっと眠たそうに、幼子は瞼を伏せてとろんとしている。



……んぅ…むぅ……
…………ふぁっ。



かくん、と頭が少し落ちて、幼子はぱっと目を開けた。
自分が眠りに落ちそうだった事に気付くと、幼子はぷるぷると頭を振って、ぱっちりと目を開ける。
頭を乗せていた、揃えた前足をにぎにぎと動かして、眠くなんかないぞ、と言わんばかりの横顔だった。

が、それも長くは続かずに、また幼子の瞼がとろり、とろりと落ちて行く。
完全に目を閉じると言う所で、またかくんと頭が落ちて、目を開ける。



……んぅ…むぅ……
…………ふぁっ。



とろり、とろり。
かくん、ぱちっ。



……んぅ…むぅ……
…………ふぁっ。



…とろり、とろり。
……かくん、ぱちっ。



幼子は、眠るまいと頑張った。
かくんと頭が落ちて目を開ける度、眠くないもん、眠くない、と呟いているのが聞こえる。
何処からどう見ても眠そうだったけれど、兄は何も言わず、そんな幼子をこっそり見守る。

眠っていいぞ、と言う事は簡単だ。
けれど、幼子はきっと、眠くないもん、と言うに違いない。
今日はお昼寝しないで、お兄ちゃんを守るんだ、と頑張るに違いない。

けれど、幼子の気持ちとは裏腹に、小さな身体は春のぽかぽか陽気に包まれて、うとうと眠気に捕まった。



……んぅ…むぅ……
……すぅ……すぅ……



すぅ、すぅ、と小さな寝息が聞こえるようになって、体を起こしてそっと寝床の外を覗いてみれば、揃えた両脚に顔を伏せるようにして、寝息を立てている幼子がいる。
起こさないように顔を覗き込めば、おにいちゃん、と小さく呼ぶ声がした。

眠る幼子を起こさないように気を付けながら、小さな体を持ち上げる。
温まった寝床に幼子を下ろしてやれば、幼子はくるんと丸くなって、すやすや眠る。
気持ち良さそうな寝顔が愛しくて、頑張ったご褒美に口元を舐めてやると、眠っているのに幼子の尻尾が嬉しそうに動いた。
そんな幼子の反応が、嬉しくて可愛くて堪らない。




幼子を包み込むように抱いて、丸くなる。

今日の昼寝は、特別、良い夢が見れそうだと思った。






ペットショップで、前足揃えて伏せの姿勢のままで、ゆーっくり眠りについた子がいたので。
うとうとして、頭がちょっとカクンッてなって目を開けて、またうとうとして行くのが可愛かった。
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[絆]ひみつのやくそく

  • 2014/02/15 03:12
  • カテゴリー:FF


庭で縄跳びの練習をしていたスコールとティーダが家に入ると、甘い匂いがした。

兄弟達の家では、時々、甘い匂いが一杯に広がる事がある。
それは兄や姉が、三時のおやつに弟達と一緒に食べるお菓子を手作りしているからだ。
弟達も最近はすっかりそれを覚えており、甘い匂いを嗅ぎつけると、心得たようにくぅうう、と腹の虫が鳴る。

待ち遠しくなったスコールとティーダは、洗面所で手を洗った後、大急ぎでキッチンに走った。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん」
「今日のおやつ、なーに?」


ひょこっとキッチンの入り口から頭を出した弟達に、キッチンに立っていたレオンとエルオーネがくすりと笑う。


「今日はフォンダンショコラだよ」
「ふぉんだん?」
「ガトーショコラみたいなケーキの中に、チョコレートが入ってるの」
「ガトーショコラって、この前のおやつ?」
「うん」


頷いたエルオーネに、スコールとティーダは先週食べたガトーショコラの味を思い出して、嬉しそうに笑う。
そんな妹弟達を、レオンはデコレーション用のチョコレートを作る手を止めて見遣り、


「もう直ぐ出来上がるから、リビングで良い子にしていろよ」
「はーい」
「はーい!」


兄の言葉に、スコールとティーダは片手を挙げて元気よく返事をして、ぱたぱたとキッチンを出て行く。

フォンダンショコラと言うお菓子が、一体どんなお菓子なのか、スコールとティーダにはまだ判らない。
けれど、絶対に美味しいものなんだと、二人はそう信じていた。
何故なら、レオンとエルオーネが作ってくれるお菓子は、いつだって美味しくて、ほっぺが落ちそうな位なのだ。
レオンとエルオーネは、時々失敗していると言う事もあるけれど、それだってスコールとティーダは美味しく食べていて、何が失敗なのか判らない。
それは失敗作を作った二人が自ら食べていて、大急ぎで別のお菓子を作って失敗した分を取り戻しているからなのだが、幼い弟達には、まだ兄姉の其処までも気遣いは知らないのであった。

スコールとティーダは、リビングのソファに座って、テレビを点けた。
キッチンから漂ってくる甘い香りに、うきうきとした気持ちを隔せずにいると、テレビに綺麗にラッピングされた沢山のお菓子が映し出される。


「またお菓子の特集やってる」
「うん。多いね」


お菓子の特集番組は、見ているととてもお腹が空いて来る。
案の定、くぅうう、と腹の虫が鳴って、スコールとティーダはまだかなぁ、とキッチンの方を伺い見た。

キッチンからは、時々、レオンとエルオーネの話声が聞こえていた。
こっちかな、この方が良いか?と話し合いながらお菓子を作り続けているようだ。
スコールとティーダは、わくわくしながら、二人がキッチンから出て来るのを待っていた。

そんな二人の耳に、テレビの明るいナレーションが届く。


『これでバレンタインのプレゼントはばっちり!大好きな彼氏も、きっと喜んでくれるに違いない!』


ナレーションの声に、スコールがテレビに向き直ると、『Happy Valentine』の綴りと共に、色とりどり、ハートや星やリボンの形をしたチョコレートが映し出されていた。


(ばれんたいん……)


綴りをゆっくり読んだ後で、スコールははっと気付く。
今日は2月14日のバレンタインデーで、好きな人にチョコレートを渡して「好きです」と言う日だ。

スコールは、そわそわとした顔でキッチンの方を見ているティーダの肩をぽんぽんと叩き、


「ティーダ、ティーダ」
「何?」
「今日、バレンタインデーだって」
「……あ!」


スコールに言われて、ティーダもようやく気付いた。
だから今日はチョコレートのお菓子なんだ、と言うティーダに、スコールもこくこくと頷いた。

去年、スコールとティーダとレオンは、エルオーネからバレンタインデーのチョコレートを貰った。
レオンも例年と変わらず、チョコレートを用意していて、妹弟達に振る舞っている。
そして、その一ヶ月後のホワイトデーと言う日、それがバレンタインデーのお返しをする日だと聞いた二人は、レオンと一緒にエルオーネにお返しのクッキーを作ったのだ。


「お兄ちゃんとお姉ちゃんのチョコ、貰えるんだ」
「じゃ、来月のお返し、考えないと」
「しーっ。内緒にしようよ。今年は、お兄ちゃんにも内緒にするの」
「なんで?」
「お姉ちゃん、去年、びっくりして喜んでくれたでしょ。だから今年は、お姉ちゃんも、お兄ちゃんも、びっくりさせるの」
「そっかぁ。うん、びっくりさせよう!」


意気込んで声高らかになるティーダに、スコールは慌てて彼の口を塞いだ。
「しーっ」と言うスコールに、ティーダも口を噤んでこくこくと頷く。

其処へ、甘い焼き立ての香りを漂わせ、トレイに丸皿とオレンジジュースを乗せたレオンとエルオーネがやって来た。


「随分楽しそうだな。何の話をしてるんだ?」
「ふぇっ。えっ、えっと、」
「内緒!」


兄の質問に、おろおろと視線を彷徨わせるスコールに変わって、ティーダが溌剌とした声で言った。
それに救われて、スコールも「内緒」とこくこくと首を縦に振る。

エルオーネが窓辺のテーブルにトレイを置いて、くすくすと笑う。


「楽しいお話、2人占めなの?ずるいなあ」
「違うよ。でも内緒なの!今は内緒!」
「ん、内緒なの。言わないもん」


絶対に言わない、と言うポーズに、口の前で指でバツ印を作る二人。
そんな弟達の可愛らしい仕草に、レオンはエルオーネは顔を見合わせて、くすくすと笑いながら、ソファに座っている弟達を食卓テーブルへ促す。


「ほら、今日のおやつが出来たぞ」
「おやつ!」
「おやつー!」


待ちに待ったおやつの時間に、スコールとティーダは先を争うように食卓テーブルの椅子へ上る。
弟達がちょこんと椅子に座ると、スコールの隣にエルオーネ、ティーダの隣にレオンが座った。

四人揃って両手を合わせて、いただきます、と食事の挨拶をして、スコールとティーダはフォークを手に取った。
今日のおやつだと言うフォンダンショコラは、見た目はチョコレート生地で作られたケーキで、上には雪を思わせる白い粉糖が振り掛けられている。
スコールとティーダは、じぃっとそのチョコレートケーキを見詰め、つんつん、フォークの先で生地の表面を突いてみる。


「チョコ……どこ?」
「中だよ。割ったら判るよ」


首を傾げるスコールに、エルオーネが教えた。
そんな妹弟を見て、レオンが手本を示すように、フォークでフォンダンショコラの上を斜めに割って見せる。
すると、フォンダンショコラの中から、とろりと溶けたチョコレートが泉のように溢れ出した。


「ふわ!」
「すげー!」


スコールとティーダがきらきらと目を輝かせ、弾んだ声を上げる。

弟達は凄い凄いとはしゃいだ後、わくわくとした表情で、フォンダンショコラにフォークを刺した。
爛々とした瞳でフォンダンショコラを見詰めながら、フォークをゆっくり底まで落として行く。
割れたフォンダンショコラの間から、とろり、とチョコレートの泉が溢れ出すのを見て、益々スコールとティーダの目が輝く。


「すごーい、すごーい!」
「出来たてだから、チョコレートも熱くなってるからな。気を付けて食べろよ」
「はーい!ふーっ、ふーっ……あむっ」


レオンに言われた通り、ティーダはフォンダンショコラの欠片に息を吹きかけて冷まし、一口。
甘さ控えめのケーキ生地と、溶けた甘いチョコレートが口の中で溶け合うと、ティーダはその美味しさにはしゃぐように、ぱたぱたとテーブルの下で足を動かした。

そんなティーダを見たスコールも、フォンダンショコラの欠片をフォークに刺して、息を吹きかけて冷ます。
目一杯大きく口を開けて、ぱくっ、と口の中に入れたスコールは、「んーっ」と高い声を漏らして、にこにこと嬉しそうに笑う。


「どうだ?」
「美味しい?」


レオンとエルオーネの問いに、スコールとティーダはこくこくと首を縦に振った。



甘くて美味しい、フォンダンショコラ。
こんな風に凝ったものはきっと作れないけれど、絶対にお返しするんだ、と子供達は心に決めたのだった。





段々周りが見えるようになってきたスコールとティーダ。
成長著しい弟達に、お兄ちゃんお姉ちゃんも毎日が楽しみです。
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[レオスコ]甘い吐息を分け合って

  • 2014/02/15 03:01
  • カテゴリー:FF
バレンタインで現パロレオスコ!






バレインタインデーだからと、浮足立って用意しようと思った訳ではない。
自分がその手の年中行事に極端に疎い事も、彼───レオンがこうした行事に拘る人ではない事も判っている。
自分に至っては、寧ろこうした行事に浮かれ、騒ぐ人々を、白い目で見ているタイプだ。
それでも、彼とは一応“恋人同士”と言われる関係だから、全く何もしない訳にも行かないのではないか、と思ったのだ。

もう一つ理由を挙げるなら、普段、何かと“して貰う側”でいる自分でも、こう言ったタイミングなら、何かを“する側”になれるのではないか、と思ったのだ。
彼は何もかもを持っているから、今更何かをして貰う事もないだろうけれど、それでも、いつも自分が彼に何かを“して貰う側”である事に、後ろめたさとプライドが疼かないと言ったら、嘘になる。
何気なく、さり気無く、スコールの為に手を回してくれたり、欲しがっていたものをプレゼントしてくれる彼に、お返しがしたい、と思う事は少なくないのだから。

学校帰り、甘い匂いが漂う、可愛らしい洋菓子店に立ち寄って、きゃっきゃと商品を選ぶ女性達の中に混じるのは、非常に抵抗があったが、何とかやり遂げた。
選んだのはビターチョコレートを使った、ワイン入りのチョコレートトリュフだ。
リボン付のラッピングが施されたそれは、三個セットになっていて、甘い物が余り得意ではない彼でも、無理なく食べられるのではないかと思えた。
これで準備は万端、後は帰って来た彼に渡せば良い────筈だったのだが、それが簡単には行かなかった。

仕事を追え、家に帰って来た彼の手には、会社の女性社員達から贈られたのであろう、沢山のチョコレートがあった。
同僚としての義理よりも、明らかに本気を意識した、市販の高級品から手作りまで、様々なチョコが紙袋一杯に詰め込まれていたのである。
それを見て口を噤んだスコールを見て、レオンは眉尻を下げて「断る訳にも行かなくてな…」と言った。
確かに、渡されたチョコレートの本気度云々は置いておくとしても、基本的にそれらは好意の上で贈られたものであるから、無碍に突き返す訳にも行くまい。
かく言うスコールも、学校の下駄箱やら、自分の席やら、ロッカーやらと、至る所にチョコレートやクッキー等が置かれていた為、レオンも同様───それ以上───の出来事に見舞われているであろう事は、容易に想像が出来た。
本音を言えば、内心複雑な気持ちを禁じ得ないのだが、それを口にして不満を吐露出来る程、スコールは独占欲をあからさまにする事は出来なかった。

しかし、独占欲以上に、スコールは別の気まずさで閉口せざるを得なかった。

スコールが決死の想いで買って来たチョコレートは、学校帰りに学生が立ち寄っては買い食いをして帰る様な店のもの。
レオンが会社で貰って来たような高級品や、ラッピングまで手の込んだチョコレートに比べると、なんともチープであった。
こう言うものは気持ちの問題であって、幾ら金を使ったとか、時間を費やしたとかは別問題なのだが、包装紙まで判り易く手の込んでいる代物が詰め込まれているのを見ると、気持ち負けした気がしてならない。

そんな訳で、スコールは完全に委縮してしまっていた。


(……もう、渡さない方が良いかも知れない)


冷蔵庫を占拠したチョコレートの山───三分の二がレオンが貰った分、残りの三分の一がスコールが学校で貰って来たものだ───を見る度、どうしようか、と眉尻を下げるレオンを見る度、スコールはそんな思考に行き着く。
元々、甘い物がそれ程得意と言う訳ではないのだから、これ以上食べなければならないものを増やすのも良くない。

……それに、自分が渡したチョコレートが、あのチョコの山の中に紛れてしまうのが、何だか嫌だった。


(……でも……)


あれは、レオンの為に買ったチョコレートだ。
いつも自分を愛してくれる彼に、何か返したいと思った、その形。
あんなもの一つで、今まで彼から貰ったものの対価になるとは思っていないけれど、素直に口に出来ない“ありがとう”の代わりに渡したい。

いっその事、彼の部屋のデスクの上に置いておこうか。
学校で、机やロッカーに一方的にチョコレートを置いて行く女子生徒の気持ちが、今は少し判るような気がする。

ちら、とスコールが視線だけでレオンの姿を探すと、彼はキッチンに立っていた。
遅い夕飯を終えて、食器の片付けをしているのだ。


(……今、レオンの部屋に置きに行けば…寝る前には、見る、よな?)


本当は直接手渡せたらと思っていたのだが、既にスコールの心は折れている。

今の内に、こっそり部屋に置いて行けば、今晩、遅くても、明日出掛ける前に必要なものを集めている時、デスクの上にあるものに気付いてくれる筈。
そうしよう、それが良い────そう思って、スコールは座っていたソファから腰を浮かせた時だった。


「スコール」


名を呼ばれてスコールが顔を上げると、キッチン前に立っているレオンが振り返っていた。
こっちへ、と手招きされて、スコールは首を傾げつつ、レオンの下へ向かう。

上背のあるレオンを見上げて、スコールは「なんだ?」と問う。
するとレオンは、口元に小さな笑みを浮かべて、「ちょっとな」と言った。
何処か悪戯好きな子供を思わせる笑顔を浮かべている男に、スコールが眉根を寄せていると、


「スコール、口を開けてみろ」
「……?」


レオンの言葉に、スコールの眉間に深い皺が刻まれる。
何故、と無言で理由を問うスコールに、レオンは笑顔のまま動かない。
仕方なくスコールが薄く口を開かせると、「もっと」とレオンは言った。

怖々と口を開けて行きながら、自分が随分間抜けな顔を晒しているような気がして、スコールはもう口を閉じようか、と思った。
そのタイミングを狙ったかのように、レオンが動き、スコールの口の中に何かが放り込まれる。


「……!?」


反射的に閉じた口の中で、とろりと甘いものが蕩けて行くのが判る。
甘い中にほんのりとしたカカオの苦味を伴ったそれは、柔らかい口どけの、生チョコレート。

あまり馴染みのない口の中の甘さに目を丸くしていると、顎を捉えられて、上向かされる。
其処に柔らかい唇が押し当てられて、驚いて開いた口の中にレオンの舌が滑り込む。
侵入者は、スコールの咥内で舌を捉え、その上に乗っていたチョコレートごと、ねっとりと舐って行く。


「ん、んっ…!ふぅっ……、んっ…」


レオンの舌が、スコールの口の中で蕩けたチョコレートを舐め取るように、ゆったりと舌の表面を撫でる。
スコールは背中を奔るぞくぞくとした感覚から逃げようとしたが、顎を捕えられ、腰に腕を回され、目の前の男から離れる事も出来ない。

あやすように赤らんだ頬を擽られて、スコールは観念したように目を閉じた。
ちゅ、ちゅぷ、ちゅぱ、と舌を舐めるそれに、同じように自分の舌を絡めて応えれば、腰に回された腕に力が篭る。


「んぅ…ふ……あむっ、んん……」
「は、ふっ……ん……」


口の中も、零れる吐息までもが甘い気がする。

スコールは、甘い物は苦手だ。
食べられないと言う程ではないが、好んで手を付ける事もないし、匂いも長く嗅いでいると胃もたれに似た感覚を覚える。
────それなのに、今だけは、もっと味わっていたい、と思う。

けれども、チョコレートがすっかり溶けた頃に、スコールの舌に触れていた甘味はするりと逃げてしまった。


「……あ……」


思わず、心許ない声が漏れた事に気付いて、スコールは顔が熱くなるのを感じた。
それを間近で見詰める蒼灰色の瞳が、悪戯が成功したように楽しげに輝き、


「来月は、お前の方から貰えると、嬉しいな」


期待してる、と付け加えて囁かれ、スコールは耳まで赤くなっていた。



鞄の中にあるチョコレートは、結局、直接手渡す事は出来ないまま。
デスクの上に置いて行く事は出来たし、それにも「ありがとう」と言われた。

けれどそれ以上に、また貰った分が大きくて、来月の“お返し”こそはと密かに心に決めるのであった。





いちゃいちゃしてるだけヾ(*´∀`*)ノ
来月は来月で、またレオンもお返し考えてると思います。そんな感じで堂々巡り。
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[フリスコ]花、一輪

  • 2014/02/08 22:24
  • カテゴリー:FF
2月8日なので、フリスコで現パロ!




働かざる者食うべからず───母のこの精神は、息子であるスコールに対しても変わらず発揮される。
学生と言う身分なのだから、まだ就労の義務はないが、家の手伝い位はやって然るべき、と言う一家の長である母に、養われる身である息子が逆らえる筈もない。

家の手伝いと言っても、スコールが請け負っているのは、家事一般の事ではない。
花屋を経営しているレインの手伝いとして、重い鉢植えを運んだり、レインが少し店を開けている間に店番したり、と言うものだ。
殆ど毎日のように駆り出されるので、正直面倒臭い、と思いつつも、習慣付くには然程時間はかからなかった。
テスト期間中は、一応配慮されており、無理に呼びつけられる事もないので、やはり学生の本分は勉強、と言うラインは越えるつもりはないらしい。

レインの花屋にやって来るのは、大体、決まった客である。
スコールが物心ついて間もない頃から足を運ぶ客も多いので、最近は見知った人間ばかりが店にやって来る。
人見知りが激しく、愛想笑いなど浮かべられないスコールにとって、これは幸いであった。
母のようににこやかな対応が出来ないので、一見の客には総じて悪印象になるであろう自分でも、見知った客ならスコールの性格をよく知っているから、仏頂面で相手をしても問題はない(接客業として如何かとは自分でも思うが)。
だから、店番中にレジの横で勉強していても、やって来る客はいつもの事と気にする事はない。

その日も、スコールは一人で店のレジを預かっていた。
レインは父を借り出して、大きなコンサートホールに飾る為の花を届けに行っている。
そのまま幾つかの配達先を回る予定なので、父母が家に帰って来るまで、短く見積もっても二時間以上はあるだろうと言う事で、その間、スコールが店番に宛がわれたのだ。

テストが開けたばかりなので、勉強をする気にはならなかった為、スコールはレジ横の椅子に座って小説を読んでいた。
彼がレジを預かってから既に30分程度の時間が流れたが、まだ客が来る様子はない。
このまま誰も来なければ、面倒な仕事が増えなくて良い───と思っていると、ぴんぽーん、と店の出入口のドアが開く音がして、スコールは顔を上げた。


「……いらっしゃいませ」


母から「これだけはちゃんと言いなさい」と教わった言葉を、全くの棒読みで口にすると、それを受けた銀髪の青年は、ぎこちなく「ど、どうも」と言った。

やって来たのは、此処数ヵ月で常連になった人物だった。
少し傷み勝ちで、尻尾のように長く伸びた銀色の髪と、燃えるような赤い瞳、野性味のある尖った眦。
体の肉付きも良く、しかし余分な脂肪分はなく、腕は無駄のない筋肉で覆われており、上背もあるので中々に迫力がある。
その割に、彼はいつも何処かオドオドとして挙動不審で、赤い瞳も人好きのする色を宿している為か、風貌の割には随分と大人しそうな印象を受けた。


(……よく来るな、こいつ)


店に来た客に対して、口にしないとは言え、“こいつ”呼ばわりした事が母に知られたら、きっと叱られるのだろうが、此処には今自分と彼しかいない。
何も言わなければボロが出る事もないと、スコールは特に気にしていなかった。

青年の名前を、スコールは知らない。
知っている事は、彼が自身の見た目の大きさに反して、小さな可愛らしい花を好む事と、何故かいつも微かに赤らんだ貌をしていると言う事。
それから、スコールが通っている学校に在籍していて、弓道部の部員であると言う事、そしてスコールの一学年上だと言う事だ。
学校と学年、部活については、部活動後の遅い時間に、道具を背負って制服のままでやって来た事があり、学校では学年事に配布されたバッヂを身に付ける事が校則で義務付けられている為、これで知る事が出来たのだ。

青年は、今日は土曜日とあって私服だった。
その事に気付いて、珍しいな、とスコールは思う。


(私服なんか初めて見た。……そう言えば、土曜日に来たのも初めてだな)


彼はいつも、平日の夕方から夜にかけて、店を訪れる。
制服の時は部活動の後(たまに部活がない時に来る事もある)、私服の時は一端家に帰った後、彼はアルバイト先で飾られる花を買いに来ているようだった。
…この辺りの情報は、彼が常連になった頃、レインとラグナが話しかけた時に交わされた会話を、偶々手伝いをしていたスコールが聞いた所に因る。

制服ではない青年を、スコールは珍しい動物を見付けた気持ちで見詰めていた。
じ、と見詰めているスコールを、青年は気付いていないのか、気にしていないのか、きょろきょろと店内を見回している。


(……今日は随分、時間がかかるな)


迷うように、あっちへこっちへと視線を彷徨わせ、顎に手を当てて考え込みながら店内を歩き回る青年。
いつもは何かのメモ───多分、アルバイト先で必要とされている花の種類に関するものだ───を見ながら、これとこれを、と幾つかの鉢植えや生花を買っていくのだが、今日はどうも違うらしい。
よくよく見れば、彼はメモを手にしていないし、真剣な貌で花を吟味している。


(……誰かに渡す花か?)


うんうんと唸りながら花を吟味しているその横顔に、スコールは今までに何度か見た事のある客の様子を思い出す。
例えば彼女への贈り物、家族への感謝の気持ち等、プライベートで贈られる花について、迷う人間は多い。
自分が伝えたい気持ちもありつつ、相手がどんな花を喜んでくれるかと言う悩みの迷路に嵌り込む人間は、よくいるものだった。

スコールは青年から目を逸らした。
うっかり目を合わせて、「店員さんが選んで下さい」等と言われたら、面倒臭い事この上ない。
此処にいるのがレインであれば、青年から贈る相手の特徴を聞いて、この花が良いんじゃないですか、と選ぶことも出来るのだが、生憎スコールにそんな器量の良さはない。
スコールが出来る事と言ったら、客が選んだ花をラッピングして(この技術は母から丁寧に教わった。父は手先が不器用なので、これに関しては戦力にならない為だ)、レジを通す事だけ。
それ以上は出来ないと自覚があるので、スコールは早く青年が目当ての花を決める事を祈った。

レジ台の影で文庫本を開いていたスコールの下に、人の気配が近付いて来る。


「あ…あの……これ、ラッピングして貰って良いですか?」


恐る恐ると言う様子がありありと判る声をかけられて、スコールは仕方なく顔を上げた。
すると予想通り、青年の赤らんだ貌があり、手には一本の小さな赤バラの蕾。
取り敢えず、「選んで下さい」と言われる事だけは回避できた事に、スコールは胸中でホッとした。


「…ラッピングですね」
「は、はい」
「メッセージカードを添える事が出来ますが、如何ですか」
「え、あ、えーと……お、お願いします」
「では、此方に」


レジ横に束ねていたメッセージカードから、一枚取り出し、6色セットのカラーペンと一緒に差し出す。
青年が真剣な顔でメッセージを綴り始めるのを横目に、スコールは白いバラのラッピング作業を始めた。

それにしても────珍しいな、とスコールはもう一度思う。
頼まれて買っていく花は別として、小さく素朴な花が好きだと言う青年が、やはり小振りで蕾とは言え、バラの花。


(バラの蕾……確か、花言葉は────)


花言葉の類は、ラッピングを教わると同時に、母から教えて貰った。
スコールは特に興味があった訳ではないのだが、客に「選んで」と言われた時、参考にしなさいと言われて教わったのだ。

赤いバラの花言葉は、『愛情』や『情熱』。
そして、バラの蕾の花言葉は、『愛の告白』。
青年が知っていてこれを選んだのかは判らないが、一世一代の大勝負のような貌をして、真面目にメッセージを考えて唸っている彼を見ていると、強ち外れてはいないのかも知れない。

青年がメッセージを考えるのに時間がかかりそうだったので、スコールはゆっくりとラッピング作業に従事した。
が、沢山の花を使う束や、凝った装丁をする程でもない、一輪バラである。
程無く作業は終わってしまい、青年のメッセージ待ちになって、スコールは少々の時間を持て余した。

結局、五分から十分はかかった所で、ようやく青年が顔を上げる。


「こ、これ、で、お願いしますっ…!」


一体何を其処まで緊張しているのか、と思う程、青年は挙動不審であった。
余程望みのない告白なのか、と野暮な事を頭の隅で思いつつ、スコールは青年が震える手で差しだしたメッセージカードを受け取り、ラッピングテープで蕾に添えようとして、手を止める。

メッセージカードには、宛名と差出人の名前を書く所があるのだが、其処に書かれているのは差出人の名前だけ。
スコールは一瞬疑問に思ったが、そんな事の詳細を聞ける程に、スコールは相手のテリトリーに踏み込める性格ではない。
これが告白に使われるのなら、直接手渡しするだろうし、必要ないと思ったのかも知れない。
どの道、自分には関係のない事だと切り捨てて、メッセージカードを貼って固定した。


「350円になります」


ラッピング代と併せて請求すると、青年は焦るように財布を取り出した。
ぴったりの値段を支払い、スコールはそれを受け取って、レシートを渡す。
青年がレシートを財布に押し込んでから、スコールはレジ台に置いていた花を手に取って、青年に差し出した。

青年がおずおずとした所作で、バラの花を受け取る。


「ありがとうございました」


入店の挨拶と同じく、これはちゃんと言いなさいと言われているので、これもやはり棒読みで言った。
「ど、どうも…」と青年が言って、背中を向ける────かに思われたのだが、何故か青年は、その場に立ち尽くしたまま動かない。

用事は終わっただろうに、その場から動かない青年に、スコールは眉根を寄せた。
何か不都合でもあったか、思い出したか、何れにしろ何か用事があるのなら、早く済ませて欲しいと思う。
今は彼の他に客がいないので、特に忙しい訳でもないのだが、出来るだけ客の相手をしたくないスコールとしては、長居されるのは正直歓迎できる事ではなかった。


「……何か?」
「その……」
「……はい」
「………」
「………」


青年はふらふらと視線を彷徨わせ、赤らんだ頬を掻き、黙り込んでしまった。
なんだよ、と思いつつ、憮然とした表情のままで青年の反応を待つ。


「……これ、」
「……?」


青年は消え入りそうな声で呟くと、手に持っていたバラの花を差し出した。
何か気に入らない所があったか、とスコールが身構えていると、


「……受け、取って…くだ、さい」


そう言った青年の顔は、まるで差し出した赤バラの蕾のように真っ赤で。




「あなたの事が、好きです」

「嘘とか、からかってるとかじゃなくて」

「ずっと前から────好きでした」




赤い瞳が、真っ直ぐに、嘘のない目で見詰めながら言ったからだろうか。
其処に映り込んだ自分の貌が、馬鹿みたいに赤くなっているのを、スコールは見た。






フリスコの日!なのでフリオが頑張りました。
スコールはびっくりですが、フリオニールがどんな人間なのか、なんだかんだ観察してる時点で若干の脈アリ…かも知れない。

いっぱいの花束じゃなくて、一輪の花で告白とか好きです。
しかし、なんでこうフリスコって初々しいんだろうね。見てる方が恥ずかしいわ!
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[ウォルスコ]ここは安らぎの中

  • 2014/01/08 21:13
  • カテゴリー:FF


どちらも甘い睦言を囁き合うような性格ではないが、そうした触れ合いを疎んでいる訳でもない。
だが、オブラートに包んだ言い方をすれば、両者ともに口下手と言われる性質だ。
更に言えば、相手は他人と目を合わせる事すら不得意なので、目と目で通じ合う等と言う事も難しい。

幸いなのは、彼が案外と判り易い性質だと言う事か。

生まれて間もない仔猫を思わせるキトゥンブルーの瞳は、彼自身は全く自覚していないのだろうが、彼の心の内をありありと映してくれる。
平時、其処には不機嫌、不愉快、不満と言った、尽くマイナスの感情面が浮かんでいるのだが、それだけに、反ってそれ以外のものが浮かび上がった時、蒼の光は顕著に揺らぎを見せるのだ。
彼が目と目を合わせて会話をする事を苦手としている理由に、「心の中を覗かれているようで落ち着かない」と言うものがあるのだが、強ち、間違ってはいないのかも知れない。
遠目に見ていると、複雑に折り重ねられているかのように隠された彼の胸の内は、もっと近くで覗き込んでみると、意外と真っ直ぐに見通せるのだ。

だからこそ、彼に心魅かれた事は、確かなのだけれど。





一人で斥候に出ていたカインは、その帰路の途中、山道を上る一人で歩く少年を見付けた。

心なしか煤けて見えたその背中は、今日の予定では、賑やかな仲間二人に挟まれていた筈だ。
火薬の痕跡を残す気配を見るに、此処から遠くはない何処かの歪で、イミテーションか混沌の戦士と戦闘をしたのは間違いないだろう。
仲間達とは、その時に逸れたのだろうか。

カインが少し歩く速度を上げると、カシャリ、カシャリ、と言う具足の音が聞こえたのだろう、俯き気味に歩いていた少年の足が止まる。


「スコール」


声に出して名を呼ぶと、ゆっくりと顔を上げた少年は、蒼の瞳にカインの姿を認めて、微かに空気を緩ませた。


「……あんたか」
「一人か?」
「……悪いか」


カインの問いに、スコールは傷の走る眉間に皺を寄せて答えた。
確認しただけなのに、そうも機嫌を損ねる問い方をしただろうかと考えて、一昨日、目の前の少年が、リーダー役の光の戦士と口論していた事を思い出す。

原因は、秩序の聖域付近に現れたイミテーションを駆除する為、スコールが独断・単独で行動した事を、ウォーリア・オブ・ライトが咎めたと言う事。
聖域付近までイミテーションが現れたと言う事は、女神の加護の力が弱まっているからだ。
もたもたしていては、イミテーションは増殖し、混沌の戦士が指揮する軍勢となって、聖域に押し寄せて来るかも知れない。
その前に早急な対応が必要────と言う判断の結果、その日、待機組だったスコールは、一人先行してイミテーションの駆逐に赴いたのだ。
これを探索組に割り当てられていたウォーリア・オブ・ライトが事後に報告を受け、仲間がいるのに何故一人で無茶をしたのか、とスコールに言った事で、一触即発の空気となった。

昨日の今日で一人で行動している事を言及されたのが、今のスコールには不愉快だったようだ。
眉間にこれでもかと言わんばかりの深い皺を刻むスコールに、カインはそれに気付かぬふりをして、考えるように顎に手を当てる。


「お前は今日は───確か、ジタンとバッツと素材集めに行っていた筈だな。二人はどうした?」
「……」
「戦闘中に逸れてしまったか?」


置いて来た訳ではないのだろう、とカインは確信していた。
昨日の今日で、意図して単独行動している訳ではない筈だ。

カインの言葉に、スコールはしばしの沈黙の後、深々と溜息を吐いて、


「……闇の神殿の中で、時空転移が起きて」
「脱出が間に合わなかったのか」
「……ああ」


不安定な次元の歪みに巻き込まれ、仲間達と逸れる事は、この世界では珍しくない。
それぞれ近くに身を寄せ合っていれば、バラバラに飛ばされる事もないのだが、戦闘中はそれぞれが敵を相手に立ち回っているので、大抵、お互いの間合いの邪魔にならないように距離を取っている。
そんな時に転移に見舞われると、皆全く別の場所に転送されてしまうのだ。

スコールが飛ばされたこの場所は、混沌の大陸に程近い事もあり、上級種のイミテーションの姿がちらほらと見かけられる所だった。
イミテーションに発見、襲撃される前に、急ぎテレポストーンの場所まで向かおうとしたスコールだったが、その前に秩序の気配を感じ取った。
ひょっとしたらジタンとバッツかも知れない、と一先ず合流しようと決め、テレポストーンの位置とは逆から感じられる秩序の気配を辿り、────今に至る。


「あんたは、ジタンとバッツ、どっちか見なかったか」
「いや。此処から向こうには、誰もいなかった。コスモスの気配もないな」


カインの言葉に、スコールは短く嘆息した。
何やら、“宛てが外れた”と言う風なその反応に、カインの琴線が微かに震えた。

テレポストーンに向かって歩き出すスコールの背中は、いつも通り真っ直ぐに伸ばされている。
それなりに上背のあるスコールだが、カインよりはまだ低い。
加えて、坂道を下りている所為で、スコールの頭はカインの目線よりも僅かに低い位置にあった。
旋毛の見える後頭部を見下ろしながら、カインは口を開く。


「お前は、あの二人に随分気を許しているな」
「……は?」


カインの言葉に、スコールが振り返る。
いきなり何を言い出すんだ、と言外に告げる蒼の瞳を見下ろして、兜の下でカインは笑う。


「よく一人で行動している割に、あの二人と一緒にいる事も多いだろう」
「それは、あいつらが勝手に俺を引き摺って行くからだ」
「振り払おうと思えば出来るだろうに」
「……疲れるんだ、そう言うのは。あいつらはしつこいから」


スコールの言葉に嘘はない。
実際に、スコールがうんと言うまで、ジタンとバッツが粘り強く彼を誘っている場面はよく見るものだ。

しかし、彼等がスコールを誘う事を諦めないのは、決して彼等の粘り強さだけが理由ではない。
スコールは確りとしているように見えて、意外と押しに弱い。
そして、蒼灰色の瞳の奥に、決して彼等を嫌っている訳ではない事が見て取れるから、あの二人はスコールの事を諦めないのだ。

何かと他人を突き放す言動が多いスコールが、秩序の戦士達の中で孤立せずに済んでいるのは、間違いなくジタンとバッツのお陰だろう。
カインも、そんな二人に感謝している。
カインがスコールの本質を知る事が出来たのは、スコールの頑なな殻を破ってくれた、彼等のお陰なのだから。

………とは言え、これでも一応、カインはスコールの“恋人”だ。
それらしい会話を全くする事がないとは言え、“恋人”が自分以外の誰かを、自分以上に信頼するのは、少々妬けるものがある。

────カシャリ、と具足の音が一つ鳴って、止まる。
カインが立ち止まった事に気付いて、数歩遅れて、スコールも足を止めて振り返った。


「カイン?」


カインの突然の静止を、異変が起きたものと思ったスコールの瞳に、警戒が灯る。
スコールは辺りに目を配り、何か不自然なものや、イミテーションの影はないかと探した。
が、それらしいものはどこにも見当たらない。

数秒の静寂の後、変異が何処にもない事を確かめて、スコールの眉間の皺が深くなった。


「カイン、何か─────」


あったのか、と問い掛けたスコールの声は、最後まで形にならなかった。
数歩分の距離があった筈の二人の距離は、スコールが僅かに意識を逸らしている間になくなっている。




少年の狭い世界で、細い金糸が閃く。

蒼の瞳に映る男は、其処に自分だけが存在している事を確かめて、ひっそりと笑った。






4月8日なので、カイン×スコール!

気を許した相手には、無自覚に無防備になるスコールと、スコールが仲間と仲良くしているのは良いけど、ひっそり焼きもち焼いてたカインでした。
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