[猫レオン&猫子スコ]リトルガーディアン・ファンタジア
- 2014/03/05 22:51
- カテゴリー:FF
太陽が南天を迎える頃、用意された食事を二匹並んで平らげる。
小さな器に山になった食事は、あっと言う間に空っぽになって、その後は綺麗な水で喉を潤した。
食後の毛繕いをしっかりやって、一心地ついた所で、欠伸が出る。
その欠伸を見て、食後の毛繕いを続けていた幼子が顔を上げた。
お兄ちゃん、お兄ちゃん。
おなかいっぱい、眠たいの?
腹が膨れて、窓から差し込む春の訪れを告げる陽気を感じていると、不思議と睡魔が手招きする。
眠たいの、と問う幼子に、うん、ちょっと、と頷いた。
冬が終わって春先の今、窓を開ければまだまだ冷たい風があるが、閉め切っていれば問題ない。
春の陽光は昼寝をするのに丁度良い暖かさだから、日向で目を閉じていると、眠るつもりはなくても眠ってしまいそうだった。
睡魔が手招きする今なら尚の事、良い夢を見る事が出来そうだ。
この家はいつでもぽかぽかと暖かいけれど、冬の窓辺は、やはりつんと冷たい冷気が滑り込んでいて、窓辺の昼寝も満足に出来なかった。
けれど、窓の向こうで色とりどりの花が芽吹き始めたこれからなら、そんな心配もないだろう。
幼子もこの位の時間にはいつも眠たそうにしているし、久しぶりに窓辺でゆっくり眠ろうか、と幼子を誘って昼寝をしようとしたのだが、幼子からは意外な返事が返ってきた。
お兄ちゃん、お昼寝するの?
じゃあ、お兄ちゃんがお昼寝してる間、お兄ちゃんを守ってあげる。
思いも寄らない幼子の言葉に、きょとんと瞬き一つ、二つ。
そんな兄を見て、幼子は楽しそうに尻尾を揺らして、ぴしっと背筋を伸ばして座る。
前は、兄が昼寝をする時は、幼子も一緒に眠っていた。
最近は、兄が昼寝をする時は、クッションで一人遊びをしていたり、広くなった家の中を探検したり、やっぱり兄と一緒に眠ったりしていた。
そんな中で、此処に来て新しいパターンが現れたようだ。
きょとんとしている兄を見て、幼子は可愛らしい丸い顔を、精一杯凛々しく引き締めた。
お兄ちゃん、いつも守ってくれるから。
今日はお兄ちゃんを守ってあげる。
幼子の言葉に、なんだか目頭が熱くなったような気がしたのは、何故だろう。
嬉しいような気もしたから、額をぐりぐり押し当てると、くすぐったいよぅ、と幼子の声。
守ってあげるね、と繰り返す幼子と一緒に、窓辺の寝床に戻って座る。
幼子は寝床の隣で、前足を揃えて身体を伏せ、窓の外を睨むようにじっと見詰める。
家の中は危ない事など何もないから、何かが襲ってくるとしたら、庭と繋がるこの窓だと、幼子も判っているのだろう。
幼子は尻尾をゆらゆら振りながら、凛々しい顔で、怪しい奴を見逃すまいと丸い瞳を精一杯鋭くさせて、外の世界を注視する。
さて、自分はどうしよう。
寝床のクッションに体半分を埋めて、考える。
このまま眠ってしまっても良いけれど、幼子の事が気になって、余り眠れないような気もするのだ。
そんな事を考えていると、窓の外を見詰めていた幼子が顔を上げて兄を見て、
大丈夫だよ、お兄ちゃん。
絶対、守ってあげるから。
幼子はそう言って、兄の頬を舐めてあやす。
きっと、いつも兄にして貰っている事を真似したに違いない。
幼子は悪いものが現れた時、兄を守って戦う気満々のようだが、思えば、家の中に怖いものがないように、外に怖いものが現れても、それは絶対に入って来れない訳で。
仮に悪いものが家の中に入って来た時、怖がりな幼子が、爪を牙を突き立てて戦えるのかは、正直、ちょっと判らない。
それでも頑張ろうとしている幼子の成長と、守ってくれると言う言葉を無碍にする事はないだろうと、改めて寝床に身を委ねる。
ぽかぽかと、暖かい日差しに抱かれるのが心地良い。
今日は正しく昼寝日和と言えるだろう。
そのまま、うつらうつらと幾らかの時間を過ごした後、ふと幼子の様子が気になった。
幼子は寝床の傍らで伏せたまま、ぴくりとも動かず、固まったようにじっとしている。
閉じていた目を、そっと開いてみると、楽しそうにゆらゆらと揺れていた尻尾が止まっていて、微かに見えた幼子の腹がゆっくり、ゆっくり動いていた。
幼子の顔がきちんと見えないのが何と無く淋しくて、姿勢を変えようと起き上がる。
そうして見えた幼子の姿を見て、兄はやっぱり、と苦笑した。
……んぅ…むぅ……
うつら、うつら。
兄よりずっと眠たそうに、幼子は瞼を伏せてとろんとしている。
……んぅ…むぅ……
…………ふぁっ。
かくん、と頭が少し落ちて、幼子はぱっと目を開けた。
自分が眠りに落ちそうだった事に気付くと、幼子はぷるぷると頭を振って、ぱっちりと目を開ける。
頭を乗せていた、揃えた前足をにぎにぎと動かして、眠くなんかないぞ、と言わんばかりの横顔だった。
が、それも長くは続かずに、また幼子の瞼がとろり、とろりと落ちて行く。
完全に目を閉じると言う所で、またかくんと頭が落ちて、目を開ける。
……んぅ…むぅ……
…………ふぁっ。
とろり、とろり。
かくん、ぱちっ。
……んぅ…むぅ……
…………ふぁっ。
…とろり、とろり。
……かくん、ぱちっ。
幼子は、眠るまいと頑張った。
かくんと頭が落ちて目を開ける度、眠くないもん、眠くない、と呟いているのが聞こえる。
何処からどう見ても眠そうだったけれど、兄は何も言わず、そんな幼子をこっそり見守る。
眠っていいぞ、と言う事は簡単だ。
けれど、幼子はきっと、眠くないもん、と言うに違いない。
今日はお昼寝しないで、お兄ちゃんを守るんだ、と頑張るに違いない。
けれど、幼子の気持ちとは裏腹に、小さな身体は春のぽかぽか陽気に包まれて、うとうと眠気に捕まった。
……んぅ…むぅ……
……すぅ……すぅ……
すぅ、すぅ、と小さな寝息が聞こえるようになって、体を起こしてそっと寝床の外を覗いてみれば、揃えた両脚に顔を伏せるようにして、寝息を立てている幼子がいる。
起こさないように顔を覗き込めば、おにいちゃん、と小さく呼ぶ声がした。
眠る幼子を起こさないように気を付けながら、小さな体を持ち上げる。
温まった寝床に幼子を下ろしてやれば、幼子はくるんと丸くなって、すやすや眠る。
気持ち良さそうな寝顔が愛しくて、頑張ったご褒美に口元を舐めてやると、眠っているのに幼子の尻尾が嬉しそうに動いた。
そんな幼子の反応が、嬉しくて可愛くて堪らない。
幼子を包み込むように抱いて、丸くなる。
今日の昼寝は、特別、良い夢が見れそうだと思った。
ペットショップで、前足揃えて伏せの姿勢のままで、ゆーっくり眠りについた子がいたので。
うとうとして、頭がちょっとカクンッてなって目を開けて、またうとうとして行くのが可愛かった。