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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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カテゴリー「FF」の検索結果は以下のとおりです。

[8親子]世界で一番幸せ者

  • 2013/01/07 22:38
  • カテゴリー:FF

遅刻しましたがラグナパパ誕生日おめでとー!
息子娘がお祝いです。





誕生日と言うものを、いつまでも指折り数えていられると言うのは、きっととても幸福な事なのだろう。
20代、30代、40代、そして50代になった今でも、もういくつ寝ると誕生日、と年の瀬の歌に合わせて歌い出す父を見て、レオンとエルオーネはくすくすと笑いながら、そんな事を思った。
「プレゼント、楽しみにしてるぜ!」と満面の笑顔で言って、一つも卑しさが感じられないのが、父の良い所だ。

そして迎えた1月3日────何よりも今日を楽しみにしていたラグナは、うきうきとした気分で帰路を辿り、家の玄関を開けた。
「たっだいまー!」と元気よく響いた声の直後、弾けた音に、何事かと目を丸くして、


「ハッピーバースディ、父さん」
「おじさん、誕生日おめでとう!」
「…おめでと、」


赤、黄、青のクラッカーをそれぞれ手に、祝福の言葉を投げかける子供達。
それを見ただけで、ラグナは目頭が一気に熱くなるのを感じた。


「うぉおおお!レオン~、エル~、スコールぅうう~!!」
「きゃっ」
「!!」


3人を一度に抱き締めるラグナに、今度は娘と末息子が目を丸くする。
長男は父の行動に予想がついていたので、特に驚く事も抵抗する事もなく、父の温もりに身を預けた。

ぎゅうぎゅうと抱き締める父に、スコールが顔を顰める。
思春期真っ盛りで気難しい年齢のスコールにとって、父の過剰なスキンシップは受け入れ難いものなのだ。
しかし、今日は姉や兄から“父の誕生日だから”と言い含められている為、逃げ出そうとまではしない。
エルオーネは昔からラグナのスキンシップが好きだし、レオンも良い歳をしてと少し恥ずかしくは思うものの、昔からの事だから慣れたものだ。


「あー、俺生きてて良かったあ」
「なんだ、大袈裟だな。と言うより、まだ早いぞ、その台詞は」
「そうよ、おじさん。ほら、こんな所に立ってないで、リビングに行こう?」
「……息、出来ないから…そろそろ離してくれ」


エルオーネとスコールの言葉に、ラグナは渋々、子供達を抱き締めていた腕を解く。
ちぇ、と拗ねたように唇を尖らせるラグナに、エルオーネがその手を取ってこっちこっちと引っ張る。
スキンシップから解放されて、ほっと息を吐いているスコールを、レオンが手を引いてリビングへと促した。

リビングに入ったラグナは、おお、と目を見開いて感歎の声を漏らした。
リビングのテーブルには、いつも遅い帰宅を余儀なくされる父の為に夕食が用意してあるのだが、今日は並べられた全ての料理がラグナの好物になっていた。
メイン料理からサラダやスープまで、彩も盛り付けも綺麗で、食べてしまうのが勿体ない位だ。

きらきらと目を輝かせる父に、レオンとエルオーネが顔を見合わせて笑い合う。
それから、良かったな、と音なく兄が呟けば、弟が赤い顔でふいっと目を逸らした。


「どうする、父さん。風呂も沸いてるけど」
「先にお風呂に入る?スコールが背中流してくれるって」
「えっ、マジ?」
「エル!しないからな、そんなの!」
「え~」


判り易く残念がるラグナに、スコールはふんっとそっぽを向いてしまう。
スコールが冷たいよう、と父に抱き着かれたレオンは、慰めるように父の頭を撫でてやる。


「よしよし」
「レオン~」
「それで、風呂と夕飯、どっちにするんだ?」
「ん?うーん」


ぎゅうぎゅうと抱き締める父を好きにさせて問えば、ラグナは首を傾げて考えた。
うーんうーんと唸る父に、其処まで悩む事だろうか、と眉根を寄せたのはスコールだ。


「スコールと一緒にお風呂も捨て難いけど、」
「入らない!」
「皆はもう晩飯食べちゃったのか?」
「いいや」
「おじさんが帰って来てから、皆で食べようと思って」


威嚇するように目尻を吊り上げるスコールを宥めながら、レオンとエルオーネが答える。
二人の言葉に、またラグナの目頭が熱くなった。
ラグナはじわじわと浮かんで来る涙をそれをごしごしと拭い、


「よし、じゃあ先に飯にしよう!3人ともお腹ぺこぺこだろ、こんな遅くまでありがとな~!」
「大袈裟だな」
「でもお腹減ったよ~」
「だろだろ。さ、食べようぜ!スコールも座って座って」
「判ったから押すな!」


ラグナがスコールの背を押して、定位置の椅子に座らせる。
その隣にラグナが座ったのを見て、スコールの前にエルオーネを座るように促し、自身はラグナと向かい合って座る。

拗ねた表情をしているスコールに、エルオーネが笑いかけた。
ちら、とそれを見た青灰色が、仕方ないから、と言いたげな空気を滲ませて伏せられる。
くすくすと笑うレオンとエルオーネ、拗ねた表情のスコールを見渡して、ラグナは嬉しそうににこにこと頬を緩ませ、


「はいっ、手を合わせて!頂きまーす!」
「頂きます」


ラグナの号令に合わせて、レオン、エルオーネ、スコールも言葉を繰り返す。

4人揃って食事をするのは、随分と久しぶりの事だった。
高校生のスコールと、大学生のエルオーネは規則正しい生活をしている為、午後6時か、遅くても7時には夕飯を食べる。
レオンは日によって仕事が終わる時間が違うが、早く帰れる日には、必ず妹弟と一緒に食事をするようにしている。
しかし、ラグナだけは遅くなってしまう為、息子達がそろそろ眠ろうかと言う時間にならなければ帰る事すら出来ていなかった。
酒を飲むレオンと語らいながら遅い夕食をする事はあるけれど、娘や末息子と過ごす時間が減っている事は────仕方のない事ではあるけれど────、ラグナにとってとても寂しい事だった。

それを思うだけで、無性に涙が出そうになるのを堪えながら、ラグナはスプーンを手に取った。
どれから食べよう、と目移りしたラグナだが、先ずは手前にあるものから、と自分の下に置かれたオムライスを見て、ぱちりと瞬きを一つ。


「あ、それね、私が書いたの」
「オムライスを作ったのは、スコールだな」
「言わなくて良い…!」


鮮やかな黄色のオムライスには、ケチャップで『おめでとう』の文字。
ラグナが隣に座る末息子を見れば、彼は明後日の方向を向いていた。
しかし、母譲りのダークブラウンの髪から覗く丸い耳は、これでもかと言う程真っ赤になっていて、


「スコールぅうう!」
「うわっ!」
「あ」
「危ない!」


顔を背けていたが為に、無防備になっていたスコールは、抱き着いて来た父に押されて、椅子から転がり落ちた。
レオンとエルオーネが思わず声を上げたが、遅い。

どたたた、と穏やかではない音がする。
兄姉が慌てて椅子を立ってテーブルの反対側に回り込むと、カーペットの上に座り込んだ弟と、弟に抱き着いて離れない父の姿。


「ありがとな、ありがとな!」
「べ、別に…!夕飯くらい、いつも作ってるから、今更…」
「うん、そうだけど。いっつも美味いもの作ってくれるもんな。でもやっぱり嬉しいんだよ~!」
「……う、な、泣くな!判ったから、頼むから夕飯ぐらいで泣くな!」


顔をくしゃくしゃにして喜ぶ父に、スコールは顔を真っ赤にして叫んだ。

取り敢えず、二人とも怪我はないらしい。
それなら良かったと、レオンはラグナを抱え起こして、スコールから離させた。


「ほら、父さん。早く食べないと、スコールが作ったご飯が冷めるぞ」
「え。ひょっとしてこれ、全部スコールが作ってくれたのか?」
「……エルも作った」
「でも、殆どスコールがやってくれたんだよ。プレゼント用意できなかったから、ご飯は作ってあげたいって言って」
「エル!」


なんで言うんだ、と慌てて姉の口を塞ぐスコールだったが、既に遅い。
ちら、と父を伺い見れば、エメラルドグリーンにじわじわと大粒の涙が浮かんでいて、スコールはぎょっとした。


「だ、だから、泣くなって……」
「だってよぉおおお~!」
「よしよし。ほら、父さん、ちゃんと席に着いて」
「スコールも座って。おじさんの隣ね」


おいおいと泣くラグナの隣に座らせたスコールが、変わって欲しい、と言う目でエルオーネを見詰めたが、エルオーネは素知らぬ振りで自分の席に戻った。
その隣にレオンも座ったので、スコールは眉根を寄せて俯く。
眉尻が吊り上がっている所為で、怒っているようにも見える表情だったが、恥ずかしがっているだけだと言う事は、赤くなった頬や耳を見れば直ぐに判る事だ。


「全部!全部食べるからな、スコール!」
「……腹壊さないようにしてくれ」
「平気平気。おっ、ポテトサラダ美味い!スープも!」
「あ、このナゲットはね、私が作ったの」
「うん、美味い美味い!」
「父さん、さっきからそれしか言ってないぞ」
「だって本当に美味いんだよ~」


今日は息子達が、自分の為に夕飯を作ってくれたのだ。
それも、ラグナの好きな物ばかりを。
そんな息子達の気持ちだけでも、ラグナには食卓に並んだ全ての料理が美味しくて堪らなく思えてくる。
実際に食べてみれば、これまた頬が落ちそうな程に美味しくて、いつもは薄味に作られている料理も、今日ばかりはラグナの味覚好みに味付けがされている。

涙を浮かべながら、家族と囲んで食べる夕飯の美味しさを、ラグナはひしひしと噛み締めていた。
仕様がないなと見詰める長男、くすくすと楽しそうに笑う娘、恥ずかしがり屋だけれど優しい末息子、────そして窓辺には、優しく笑う妻の写真。


「ご飯食べ終わったら、プレゼントもあるからね」
「おおっ、なんだなんだ?」
「まだ内緒ー」
「え~、なんだよぅ、教えてくれよぉ」
「開けるまでのお楽しみだ」
「…………」
「スコールからのプレゼントは、ご飯と、ケーキね」
「スコール、ケーキも作ったのか?」
「……暇だったから」
「ティーダ達から遊ぼうってメールを断ってたな」
「…レオン…!」


だからなんで言うんだ、と睨む弟に、兄も姉も微笑んで見せるだけ。
隣からひしひしと伝わる熱い視線に、スコールは知らない振りを決め込んだ。

ずぴっ、と鼻を啜るラグナに、レオンとエルオーネが耐え切れずに笑い出した。
酷い顔、と言う二人に、だってよぅ、とラグナは言う。
そんな父の顔を、スコールはこっそりと伺い見て、こっそりと笑みを漏らすのだった。





皆でパパのお祝いです。
遅刻したけど、ラグナ誕生日おめでとう!

うちのラグナは感動屋らしい。子供たち皆可愛いくて仕方ない。

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[絆]寒い日の夜

  • 2012/12/28 00:58
  • カテゴリー:FF



ガーデンでの授業時間が終わり、学生が解放される放課後になっても、レオンがのんびりとする時間はない。
高等部の一年生となった今年から、レオンは夕方にアルバイトを始めた為、放課後は直ぐに帰宅して夕飯の準備を済ませた後、直ぐに家を出なければならなかった。
お陰でレオンの一日のスケジュールは、徹頭徹尾埋まっており、友人と遊ぶような余裕はない。

遊ぶ余裕がないので、勉強する時間も殆どない。
だからと言って、それを言い訳にするようにして、勉学を疎かにはしたくなかった。
育て親であり、現在も後見人として生活を支えてくれるクレイマー夫妻の顔に泥を塗らない為にも、恥ずかしい成績を取る訳には行かない。
だからレオンは、アルバイトが終わって帰宅した後でも、直ぐに寝床に着く事はなく、遅くまで起きて課題に張り付いているのが常だった。
自然と起きている時間が長くなってしまう為、妹弟達とは寝室を別にしたのだが、彼らが眠ったであろう時間を過ぎても、レオンは自室に鍵をかけないようにしていた。
まだ幼い弟達は、時折怖い夢を見たとか、ティーダは父の夢を見て泣いてしまう事がある。
スコールが泣き出すとティーダも泣き出す(逆も)事は少なくないので、エルオーネ一人では手に余ってしまう事が多かった。
そんな妹弟達がいつでも頼って来れるように、レオンは自室に鍵をかけないようにしているのだ。

─────その日も、レオンはいつも通り、鍵をかけずに自室に篭っていた。
休憩時間だけでは終わらせられなかった課題の残りを片付けてしまおうと粘っていると、気付いた時には日付が変わってしまっていた。
明後日提出の分まで、慌てて片付ける必要はなかったか、と思ったレオンだったが、面倒な事は前倒しで片付けて置いて損はない。
だが、提出期限が一週間先のものまでは手を付ける気にならなかったので、今日はもう終わりにしよう、とノートを閉じた所で、


「……おにいちゃん、入ってもいい…?」


かちゃ、とドアの開く音と、同時に聞こえた幼い声。
振り返ってみれば、スコールがドアの隙間からひょこりと顔を出していた。

レオンは椅子を引いて、体ごとスコールに向き直る。


「ああ、良いぞ。おいで」
「うん。おじゃまします」


レオンの許可を貰って、スコールが部屋に入ってくる。
とてとてと兄に駆け寄ってくるスコールの腕には、お気に入りのライオンのぬいぐるみがあった。


「どうした?もうお休みなさいする時間だろう」
「うん……でも、」
「眠れない?」
「……うん」


スコールは、寝る時間を過ぎても寝られない事に、悪い事をしているような気分になっていた。
眉をハの字にして、ぬいぐるみを抱き締めて視線を彷徨わせる弟に、それ位の事で怒りはしないのにとレオンは苦笑する。

レオンは勉強用の机から離れて、立ち尽くすスコールの前に膝を折って目線の高さを合わせる。


「今日、お昼寝したか?」
「ううん」
「寝る前にティーダと遊んだ?」
「カードしてた」
「ティーダは、寝てるのか?」
「うん。お姉ちゃんも」


話を聞いて、成る程、とレオンは納得する。
最近、スコールはカードゲームにハマっている為、お小遣いを溜めてはカードパックを買っていた。
気に入ったカードが集まり、デッキを作れるようになったので、ティーダやエルオーネ、レオンに相手をして貰って、カード勝負もするようになった。
今日も寝る前にカードバトルをしていたので、興奮で眠気が晴れてしまったのだろう。

ティーダもエルオーネも、同じように過ごしていたのに、眠れないのはスコールだけ。
それが余計にスコールにばつの悪さを感じさせているようだ。

レオンはぽんぽんとスコールの髪を撫でて、抱き上げる。
小柄とは言え、やはり幼い子供の成長は早いもので、日に日に重くなって行く体重を改めて甘受しつつ、レオンは自室を出た。
スコールはぬいぐるみを持ったまま、レオンの首に抱き着くように腕を回す。

二階の寝室から、一階のリビングに降りて、電気を点け、レオンはスコールをソファに下ろした。
冷えないようにブランケットを肩にかけて、シェルフに置いていた絵本をスコールに渡す。
スコールは絵本を受け取って、きょとんとした表情でレオンを見上げる。


「お兄ちゃん…?」
「何か温かいものを作って来る。良い子で待ってるんだぞ」
「うん」


頷くスコールに、よし、と頭を撫でてやる。

キッチンに入ったレオンは、食器棚からマグカップを取り出すと、ポットの湯を入れた。
マグカップは邪魔にならない所に置いておいて、ココアパウダーと砂糖を取出し、鍋に入れて少量の水と共に火にかける。
ゴムベラでゆっくりと掻き混ぜていると、水と粉が混じってペースト状になった。
焦がさないように気を付けながら、少しずつ牛乳を混ぜ、茶色と白がゆっくりと交わり、溶け合って行くのを確かめながら温め続ける。
鍋の縁でじわじわと小さな泡が生まれ始めたのを見て、レオンは火を止めた。
冷たくなっていたマグカップが、ポットの湯で温まっているのを確かめて、湯を捨てる。
空になったマグカップに、零れないように注げば、ほこほこと温かな湯気と甘い香りが鼻腔をくすぐる。

マグカップを両手に持ってリビングに戻ると、スコールはソファの上で丸くなっていた。
裸足の足が冷えたのか、ソファの上に足を乗せている。
レオンがそれを見ると、行儀の悪い格好をしている事を怒られると思ったのか、慌てて足を下ろす。
レオンはくすりと笑って、スコールの隣に腰を下ろす。


「足、気にしなくて良いぞ。足、寒いだろう」
「う、ん…」


スコールはほっと安心したような表情を浮かべて、ソファにもう一度足を乗せる。
足の親指を擦り合わせるのを見て、スリッパを出せば良かったな、とレオンは思った。


「ほら、ココアだ。温まる」


レオンがマグカップを差し出すと、スコールが嬉しそうに表情を明るくする。
三角座りになったスコールは、足と体の間にぬいぐるみと絵本を挟んで、マグカップに両手を伸ばした。

マグカップは、レオンの手には小さいが、幼いスコールには少し大きい。
それを両手で包むように受け取って、スコールは指先にじんわりと広がって行く熱を感じていた。
ほこほこと揺れる湯気に、ふー、ふー、と息を吹きかけて冷まし、そっと口をつける。

温かくて甘いものが、ゆっくりとお腹の中で広がって、


「ふあ……おいし」


ふわ、とスコールの表情が緩む。
まろい頬がピンク色に温まるのを見て、レオンの唇に笑みが浮かぶ。


「お兄ちゃんのココア、すごくおいしい」
「そうか」
「ほんとだよ」
「うん」
「えへへ」


レオンがくしゃりとダークブラウンの髪を撫でれば、スコールは嬉しそうに笑う。

レオンは、ほんのりと火照ったスコールの頬に手を当てて、優しく撫でた。
スコールはくすぐったそうに目を細めて、えへへ、と猫のように自分の方からもレオンの手に頬を寄せる。
柔らかな頬を緩くつまんでやれば、ふにふにと心地良い弾力があって、赤ん坊の頃から変わらないな、とレオンは思った。

それから、十分ほど経っただろうか。
コールはココアを飲み終えると、眠そうに目を擦り始めた。
レオンは空になったマグカップをシンクに置いて、スコールを抱き上げて二階に戻り、二階の寝室のドアを開ける。
子供三人が横になって眠れる広めのベッドの上には、エルオーネとティーダが並んで眠っている。
一番端のぽっかりと空いたスペースは、スコールの居場所だったのだろう。
レオンは其処にそっとスコールを下ろして、寝かしつけた。


「……おやすみ、スコール」


くしゃ、と頭を撫でて、ベッドから離れようとする────しかし、くん、と何かに背を引っ張られて阻まれる。
何かに引っ掛かったかと思って振り返れば、小さな手がレオンのシャツの端を握っていた。


「…四人は無理だぞ」


しっかりとシャツを握っている弟を見て、レオンは困ったように笑って言った。

ティーダが来る以前、レオン・スコール・エルオーネの三人で一つのベッドで寝ていた。
けれど、あの頃よりもスコールもエルオーネも大きくなったし、15歳のレオンは言わずもがなである。
ティーダと言う新しい家族が増えた今、ベッドは既に定員オーバーだ。

と言う事を、眠る弟に言った所で、小さな手が兄を引き留めるのを止める訳もない。


(まあ、一日くらいなら大丈夫か)


レオンはスコールを包んでいたブランケットを自分の肩にかけて、ベッドの傍に腰を下ろした。
シャツを握るスコールの手を握り、やんわりと離させると、布団の中に入れてやる。
布団の中で、小さな手がきゅっと握って来るのを感じながら、レオンはスコールの柔らかな頬を指先で突いた。




すぅすぅと静かに眠る弟の向こうで、やはり静かに眠る妹と、大きな口を開けて寝ているもう一人の弟。
寝室を別々にしてから、あまり見る機会がなかった、妹弟達の健やかな寝顔。

たまにはこんな夜も良いな、と思いつつ、レオンはベッドに寄り掛かって目を閉じた。






翌日、まさかレオンが一緒に寝てると思ってなくて、早目に起きたエルがびっくり。

そしてやっぱり風邪ひいたレオンだけど、薬飲んで誤魔化して気合いで半日で治します。
妹弟達に心配かけるなんて以ての外。妹にはバレて怒られると思うけど。

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[レオン&子スコ]サンタさんへ おねがいします

  • 2012/12/26 23:17
  • カテゴリー:FF

一日遅れだけど、サラリーマンなレオン&子スコの現代パラレルでクリスマス。





クリスマスの前日、レオンはいつもよりも早めに家に帰るつもりだった。
家で待っている弟にも、今日は出来るだけ早く帰るよ、と伝えていた。

───────が。

6時を過ぎた頃、弟に非常用にと渡してある携帯電話からメールが来た────『なんじにかえるの?』と。
送り主は、今年6歳になったばかりの幼い弟だ。
それに対し、レオンは『7じごろにはかえるよ』と返信を送った。

しかし、ちょっとしたトラブルによって残業が出来てしまい、7時上がりは絶望視となった。
止むを得ず、『すまない、もうちょっとかえれない。8じごろにはかえるよ』とメールを送った。
弟からは『まってる』と返信が来た。

しかし、またもトラブルが起きて、更に残業が追加され、8時上がりも絶望視となった。
それでもレオンは出来るだけ早く帰ろうとしていたのだが、こんな時に運命の悪戯とでも言うのか、次から次へとトラブルが起こる。
もういっその事全部投げ出してしまおうかと、自暴自棄な思考にも至ったが、元来「責任感が強過ぎる」と言われるきらいのあるレオンが、そんな自由な真似が出来る筈もなく、結局、最後の最期まで会社に残る事になった。

ようやく仕事を終えたレオンは、電車を使う時間も惜しいと、仕事終わりの目処が立った時に呼んでおいたタクシーに乗り込み、家の近くのコンビニまで走らせた。
釣り銭なしできっちり支払を終えた後は、只管走ってマンションに向かう。
エレベーターでは遅いと、階段を駆け上って、自分の家がある8階に到着すると、通路を急ぎ足に歩きながらカードキーを取り出した。
そして予定を大幅にオーバーして家の前に着くと、直ぐにカードキーをドアの施錠に当てた。
ガチャリ、と音が鳴るのを確認して、ドアを開け、


「ただい、ま、……」


は、は、と肩で息をしながら、帰宅の挨拶。
けれど、いつも其処に帰って来る、無邪気な声はない。

無理もないか、とレオンは暗い部屋の中を見つめて思った。
時刻は11時半を周ろうかと言う所で、小さな子供が起きていられる時間ではない。
レオンはいつもは遅くても8時前後には帰宅できるように努めており、弟もそれを覚えている為、夕飯も食べずに兄の帰りを待っているのだが、流石にこんな時間までは起きていられなかったのだろう。

レオンはリビングに入ると、壁のスイッチを押して灯りを点けた。
煌々とした蛍光灯の下、テーブルの上にラッピングされた夕飯が置いてある。
今日の夕飯は、昨日の内に作り置きしていた唐揚げやミートボールなどで、仕事から帰ったら直ぐに食べられるようにと、今朝盛り付けを済ませて冷蔵庫に入れていた。
どうやら弟は、それを自分で取り出し、温めをして兄の帰りを待っていたようだ。

弟が知らない内に随分と成長していた事と、仕事で疲れて帰るであろう兄を想ってくれた事に微かに頬を緩めたレオンだったが、


「……?」


テーブルに並べられた夕飯は、二つ。
可笑しい、と思ってレオンは眉根を寄せた。

レオンは鞄を椅子に置いて、ラッピングの上から皿に触れた。
冷たくなっているそれは、一度は温められたのだろうに、そのまま放置されて長い事が知れる。
それは良いのだが、判らないのは、皿が二つとも残されていると言う事だ。
てっきり、弟は先に夕飯を食べ、待ち切れずに寝室で眠ってしまったものと思っていたのだが、ならば何故二つ分の皿が手つかずで置いてあるのか。


「スコール?」


レオンは辺りを見回して、弟の名を呼んだ。
返事はなく、部屋の中はしんと静まり返っている。

まさか、とレオンの脳裏に厭な思考が過ぎる。
小さな子供が夜遅くまで一人で留守番をしているのは、非常に危ない。
マンションのセキュリティは上質な方だが、それも完璧なものではないし、擦り抜ける方法は幾らでもある。
そして世の中には、小さな子供を狙った犯罪が横行しており、一週間前にもそれがニュースで取沙汰されていた。
だからこそ、レオンは出来るだけ早く家に帰ろうとしていたのに、この有様。


「スコール。スコール!」


声を大きくしながら、弟の名を呼ぶ。
やはり返事はない。

どうして食事が2人分あるのだろう。
食べなかった?食べる暇がなかった?食べられなかった?
メールは9時を過ぎた頃に『まだ?』と言う短い一文だけが送られていて、それに対しレオンは『ごめんな、もうちょっとでかえるよ』と返事をした。
何かあったとしたらその後か、それともその時には既に──────

巡る思考を打ち切ったのは、かたん、と言う小さな音だった。
ともすれば聞き逃しそうなその音に釣られて、レオンは顔を上げる。
音が聞こえたのは、寝室だった。


「────……スコール?」


ドア越に呼びかけてみるが、また返事はなかった。
レオンは息を詰めて、キ、とドアを押し開ける。

ふわり、冷たい風がレオンの頬を撫でる。
開け放たれた窓から吹き込んでくる風が、ふわふわとレースのカーテンを躍らせていた。
その直ぐ下、ベッドの上で丸くなっている影が一つ。

─────ほ、とレオンは安堵の吐息を漏らした。


「いつもソファで寝てるのに。今日はちゃんとベッドに行ってたんだな」


すぅ、すぅ、と寝息を立てている小さな子供────スコール。
レオンはベッドの傍らに膝をついて、丸くなっているスコールの頬をそっと撫でた。

眠る幼い小さな手には、レオンが昨日洗って部屋干ししていたポロシャツが握られている。
スコールはそれを抱き締めるように抱えていて、シャツはすっかりしわくちゃになっていたのだが、レオンはそれを見ても口元が緩むだけ。
寂しがり屋の小さな弟は、一人での留守番に寂しさを感じると、こうして兄を求めて、兄の気配がするものを探すのだ。

すやすやと眠るスコールに、良かった、とレオンは一気に肩の力が抜けて行くのを感じた。
大袈裟だったな、と先程までの自分の取り乱しようを思い出し、ひっそりと顔を赤らめる。
けれど、空いた窓を見上げて、強ち冗談じゃ済まされない事もあるかも知れない、と思い直した。
スコールを起こさないように、音を立てないように気を付けつつ、腕を伸ばして窓を閉める。


「ん……」


ぎしり、と鳴ったスプリングの音の所為か、もぞ、とスコールが身動ぎする。


「ふぁ……おにいちゃん…?」
「……ああ。ごめんな、遅くなって」


青灰色が覗いて、レオンを映し出す。
くしゃ、と頭を撫でてやれば、スコールは嬉しそうに頬を綻ばせた。

すり、と擦り寄って来る小さな弟の体を抱き締める。


「スコール、ご飯食べてないのか?」
「うん……」
「お腹痛い?」
「んーん……おにいちゃん、いっしょ…」


お兄ちゃんと一緒に食べたい。
だから、お兄ちゃんが帰って来るまで良い子で待ってた。

ポソポソと零れる弟の言葉に、レオンはついつい口元が緩む。
可愛いな、と抱き締めてやれば、柔らかい頬がすりすりと猫のように寄せられた。


「どうする?ご飯、食べるか?」
「んぅ……」


スコールからの返事ははっきりとはしなかった。
そのまま、腕の中で再度寝息を立て始める弟に、無理はないか、とレオンは苦笑する。

眠るスコールをそっとベッドに戻して、部屋着にきがえ、レオンは寝室を出た。
すっかり冷めてしまった夕飯は、冷蔵庫に入れて置き、明日の朝食ないしは昼食にしてしまおう。
幸い、明日は仕事が休みになったので、今日の埋め合わせに、夕飯にはスコールが好きなものを用意してあげよう。

そんな事を考えながら、レオンは食卓を片付けると、寝室へ戻る前に、一度キッチンに向かう。
吊り棚の扉を開けて、手前に並んでいる食器を退かし、奥に隠していたのものを取り出す。


「喜んでくれると良いんだが」


赤と緑のクリスマスカラーでラッピングされた、人の頭程の大きさの袋。
それは今晩、クリスマス・イブに良い子の下へやって来る、サンタクロースからのプレゼント。
吊り棚は、小さなスコールでは椅子に乗っても届かないので、此処に隠していたのだ。

寝室に戻って、すやすやと眠るスコールの枕元に、そっとプレゼントを置いておく。
これでよし、と自分も床に就く為、スコールの隣に潜り込んで、


「……ん?」


レオンは、見上げた窓辺に、何かが挟まっているのを見付けた。
腕を伸ばして取ると、それは一週間前にスコールがレオンに珍しくおねだりした、便箋だった。

携帯電話を灯りにして、『サンタさんへ』と書かれたそれを開いてみる。
其処に綴られた、幼い弟の文章を見たレオンの目尻は、何処までも優しく柔らかく。


『サンタさんへ

プレゼントを もってきてくれて ありがとうございます
でも きょう ぼくは プレゼントは いりません
ぼくのプレゼントは おにいちゃんに あげてください
おにいちゃんは まいにち おしごと がんばってます
ぼくは おにいちゃんに なんにもあげられません
だから ぼくは がまんするから
サンタさんが ぼくのかわりに おにいちゃんに プレゼントを あげてください

スコールより』


便箋をおねだりされた日、スコールは「サンタさんにお手紙書くの」と言った。
レオンはてっきり、自分の欲しい物を書いておねだりしたのだとばかり思っていた。
だから、何度も手紙を見せて欲しいとさり気無くお願いしてみたのだが、スコールは恥ずかしがってばかりだった。

─────その理由がこれ。
成る程、レオンに見せたがらない筈だ。



すやすやと眠る、幼い弟を抱き締める。

小さな小さな、自分だけのサンタクロース。
ぎゅ、と抱き着いて来るその温もりが、何よりのクリスマスプレゼントだと思った。





≫[おねがい、とどいた?]



社会人レオンと子スコでメリークリスマス。
一日遅れたけど。書きたかったので!

  • この記事のURL

[レオン&子スコ]おねがい、とどいた?

  • 2012/12/26 23:06
  • カテゴリー:FF

[サンタさんへ おねがいします]の続きです。





レオンが目を覚ますと、小さな弟はまだ腕の中ですやすやと眠っていた。

スコールを起こさないように、ゆっくりと起き上る。
カーテンの隙間から滑り込んでくる陽光は、眩しく、暖かい。
しかし、ベッドから一歩降りると、ひんやりとした冷気が足下から上って来て、レオンは顔を顰めた。
床暖房のあるマンションに引っ越した方が良いかな、と思いつつ、寝癖のついた頭を掻く。

ころん、とベッドの上でスコールが寝返りを打った。
小さな手が何かを探すように彷徨うのを見て、レオンは小さく笑みを零す。
スコールの手は、ベッドシーツを手繰るように握り締めたけれど、それだけでは不満なのだろう、スコールの眉間にシワが寄っている。
寂しげに握り開きを繰り返している小さな手に、レオンは自分の手を重ねた。
すると、きゅ、と小さな手が柔らかい力でそれを握り、


「んぅ……」


レオンの手を握ったまま、スコールはもそもそと身動ぎした。
目元にかかった前髪をそっと払ってやると、ふる、と長い睫が震えて、瞼が開く。


「……ふぁ……」
「おはよう、スコール」
「…おにいちゃ…おはよ…」


眠そうに目を擦りながら、スコールが起き上がる。
レオンと同じ、ふわふわとした猫っ毛の髪が、あちこちに跳ねていた。

それを優しく撫で梳いていると、スコールはぼんやりとした目できょろきょろと部屋を見回す。
何かを探している様子の弟に、レオンはくすりと笑みを漏らし、


「ほら、スコール。其処、見てみろ」
「……あ!」


レオンが指差した先を見て、スコールの目がきらきらと輝いた。
赤と緑のクリスマスカラーでラッピングされたそれには、サクタクロースの柄のリボンが結ばれている。
リボンにはメッセージカードが添えられており、『スコールくんへ』と宛名が書かれていた。

スコールは自分の頭ほどの大きさのそれを手に取って、じっと見つめる。
そして宛名に書かれた名前を見付けると、へにゃ、と眉をハの字にした。


「どうした?サンタさんからのプレゼントだろう?」
「うん……」
「一年間、良い子にしてたからな」


ぽんぽんとスコールの頭を撫でるレオンだったが、スコールの表情は以前として晴れない。
おや、とレオンがその様子を見守っていると、スコールはまたきょろきょろと部屋の中を見回した後、


「お兄ちゃんのは?」
「俺?」


鸚鵡返しのレオンに、うん、とスコールは頷いた。


「僕、サンタさんにお願いしたの。僕、今年はクリスマスプレゼント我慢するから、代わりにお兄ちゃんにプレゼントあげてって。お兄ちゃん、いっつもお仕事頑張ってるから」


それを聞いて、ああ、とレオンは昨晩見たものを思い出す。

可愛らしい便箋に書かれた、スコールからサンタクロースへ宛てられた手紙。
その手紙には、自分のプレゼントはいらないから、お兄ちゃんにプレゼントをあげて、と書かれていた。
まだ幼くて、兄の為に何も用意できない自分の代わりに、自分の分を我慢するから、と。

我慢すると決めていたスコールだけれど、サンタクロースからのプレゼントは、一年間を良い子に過ごしていたスコールへのご褒美だから、貰えるとやっぱり嬉しい。
でも、お願いした筈の兄へのプレゼントは、何処にも見当たらない。
それが自分へのプレゼントの喜び以上に悲しく思えて、スコールはしゅんと落ち込んでしまっていた。

レオンは、しょんぼりとした表情で自分へのプレゼントを見つめるスコールを抱き上げて、膝上に乗せる。


「大丈夫だよ、スコール。実はな、昨日の夜、サンタさんに会ったんだ」
「ほんと?」
「ああ。それで、スコールからの手紙、きちんと読んだって言ってたよ。でも、サンタさん、ちょっと困ってたんだ」
「困ってた…?」


どうして?と首を傾げるスコールに、レオンは努めて優しい声で言った。


「スコールは、クリスマスプレゼントは我慢するって言ったけど、サンタさんは凄く感動してて。こんな良い子には、とびっきりのプレゼントをあげたいって思ったらしいんだ。でも、スコールの手紙には、自分は良いからお兄ちゃんにって書いてある。どうしようかな、と思ってた所で、俺の目が覚めてしまってな」


びっくりしたぞ、起きたらサンタさんがいたんだから。
そう言うレオンに、スコールはきらきらと目を輝かせた後、ぷく、と頬を膨れさせる。
起こして欲しかった、と言わんばかりの表情に、レオンは誤魔化すように苦笑した。


「それと、サンタさん、プレゼントは今年配る子の分しか用意できていなかったらしいんだ。俺はもう大人だから、数に入ってなかった。だから、俺にプレゼントをあげたら、今年良い子にしていた誰かの分がなくなってしまう。それじゃあ、貰えなかった子が可哀想だろう?」
「うん」
「だから、俺からサンタさんにお願いしたんだ。俺の分のプレゼントを、スコールにあげて下さいって」


レオンの言葉に、スコールはむぅ、と口をへの字にした。


「それじゃ、お兄ちゃんのプレゼント、なくなっちゃう」


スコールは、どうしてもレオンにプレゼントを贈りたいらしい。
不満そうなスコールに、レオンはくすくすと笑って言った。


「俺には、スコールのその気持ちだけでも、凄く嬉しいよ。それに、サンタさんとは約束したからな。来年は、スコールの分と、今年の俺の分を用意してくれるそうだ」
「……ほんと?」
「ああ。本当だ」


ぱああ、とスコールの表情が明るくなって行く。
それを見て、よしよし、とレオンは満足げにスコールの頭を撫でる。

其処へ、きゅうぅ、と可愛らしくもいじらしい音が鳴り、スコールの顔がぽわっと赤くなる。
レオンはくすくすと笑って、スコールを抱いて寝室を出た。


「お腹が空いたな、スコール。昨日は夕飯、食べないで待っててくれたんだな」
「だって、お兄ちゃんと食べたかったんだもん」
「うん。遅くなっちゃってごめんな。直ぐに朝ご飯の用意するから、その間にプレゼント、開けてみたらどうだ?」


リビングのソファにスコールを下ろし、レオンはキッチンへ向かう。
朝から唐揚げはちょっと重いかな、と思いつつ、一晩の空腹を思えば、大丈夫かも知れないと思い直す。

リビングからはがさがさと袋を開ける音。
それから、わあ、と嬉しそうな声がした。
はしゃぐ声で兄を呼ぶスコールに、レオンはほっと安堵に胸を撫で下ろす。



─────さて、来年は何を用意しよう。

二人でお揃いのものがいいかな、と思いつつ、相変わらず弟が喜びそうなものからリストアップするレオンであった。






どうしてもお兄ちゃんにクリスマスプレゼントがしたい子スコが書きたかった。
でも、お兄ちゃんもどうしても子スコにクリスマスプレゼントがしたかった。

スコールへのサンタさんからのプレゼントは、ライオンのぬいぐるみだったそうです。

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  • 2012/12/25 23:32
  • カテゴリー:FF



今日がクリスマスだなどと言われても、特にする事はない。
いつもの通り、紙面と向き合って、予算と予定外の出費の都合を見て、戦士として勘が鈍らないように訓練施設でアルケオダイノスを適当に狩り、また紙面と向き合って、依頼と派遣者を選定する。
魔女戦争が終わってからは、ずっとそんな毎日だ。
それ以前を遡っても、指揮官としての仕事の代わりに、ガーデン生としての授業や訓練が入るだけで、やはり特別に変わった事などなかった。
違うと言えば、この日は大抵冬休みに入った直後であると言う事くらい。
それも指揮官になってしまえば、休日祝日などあってないようなもので、やはり今日が特別な日であると言う認識は薄かった。

────と言うのは、どうやらスコールに限った話であったらしい。

セルフィにせがまれて、缶詰になっていた指揮官室から、数日振りに外に出た。
外の空気を吸わないと石になっちゃうよ、等と言われたが、スコールとて好きで指揮官室に篭っていた訳ではない。
この時期、世間一般で言えば所謂年末進行と言う奴で、年度末決算だの来期のあれこれ+任務でスケジュールがパンパンになっているのだ。
それを期実までに全て仕上げるには、缶詰になって只管紙面と睨み合うしかなかった。
これはスコールだけではなく、魔女戦争で共に戦い、スコールと並んで英雄の誉れ高い幼馴染+諸々あってガーデンに戻る事となった風紀委員も同様である。
とは言え、その中でもスコールの忙しさは群を抜いており、寝る間も惜しんで、ワーカーホリック宜しく仕事に打ち込んでいたのは確かだ。
繰り返すが、好きでそんな生活をしていた訳ではない(そもそもデスクワークを好む人間と言う訳でもない)。
そうしなければならなかった、そうしなければ片付きそうになかったから、そうしていただけの事。
今日もそれは変わらず、今日中にあれを済ませて、明日までのあれを此処までやってと綿密に計算して予定を立てていたのだが、セルフィはそんな事はお構いなしだった。


「ほらほら。皆待ってるんだよ~」
「どうして待ってるんだ?」
「それは行けば判るから。いっそげ~!」


セルフィに背中を押されるまま、スコールは溜息を漏らしながら廊下を歩く。
その傍ら、辺りに目配せをしながら、浮かれてるな、とひっそりと思った。

バラムガーデンの中は、現在、クリスマスムード一色になっている。
あちこちにクリスマスの飾りが飾られ、リボンが巻かれ、電飾がチカチカと点滅している。
飾りを採り付けたのは在籍している生徒達で、授業が終わった放課後に集まった有志が行ったらしい。
ガーデンは傭兵を育成する機関であるが、其処に籍を置いているのは未成年ばかりで、ガルバディアガーデンを除けば生徒の自主性が広く許可されている為、年中行事の都度、こうした光景が見られている。

クリスマスムードに彩られた廊下を黙々と歩いていると、ちらほらと突き刺さる視線があった。
なんなんだ、と思いながら目尻に険を尖らせていると、


「皆スコールの事見てるね~。無理ないか。久しぶりにこっちに降りて来たもんね」
「…久しぶりって言う程のものでもないだろ」


確かに缶詰生活をしていたが、その間、指揮官室から一歩も外に出なかった訳ではない。
キスティスやサイファーから、まともな食事を食べて来いと追い出され、食堂に行かざるを得なかった事もある。
が、その時間は大抵、生徒達が授業を行っている平日の昼間で、廊下を歩いていても誰とも擦れ違わなかった日もあった。
…だとしても、こんなにもジロジロと見られなければならない程ではない、筈。

スコールはそう思っているのだが、周囲はそうは思っていないようで、相変わらず視線が痛い。

鬱陶しい視線を黙殺しながら歩いていると、あそこ、と言ってセルフィが指を指した。
校門へ続く道である。
年間平均気温が高いバラムとは言え、冬ともなれば、それなりに冷たい風が吹く。
そんな中、どうして校庭になんて行かなければならないのだと思いつつ、早く早くと背を押すセルフィに抵抗する気も沸かない(沸いたとして、通用する筈もない)ので、大人しく歩を進めた。

嘗て、バラムガーデンが移動要塞として機能した時に使い物にならなくなった校庭は、今はすっかり元の様相に戻っている。
そして今、其処には、スコールの見慣れた面々が勢揃いしていた。


「お、来た来た」
「遅いよ、スコール~」
「ほら、何処でもいいから早く座って」
「スコール、スコール!ここ空いてるよん」
「って、俺を落とすんじゃねえよ!」


ゼル、アーヴァイン、キスティス、リノア、サイファー。
彼らは何処から持って来たのか、キャンプなどで使う簡易折り畳みのテーブルに、校庭の端に並べられていたベンチを運んで来て坐っている。
彼らの傍らには、バーベキューセットが広げられ、ぱちぱちと火の弾ける音が聞こえていた。

一体、何をしているのだろう。
仲間達の意図がいまいち理解出来ず、校門と渡り廊下の境目で立ち尽くすスコールの背を、セルフィが押した。
ほらほら、と押されるままに歩を踏むスコールの下へ、待ちきれなくなったのか、リノアが駆け寄って来た。


「ほら、スコール!」
「な、ちょっ…」


ちょっと待て、と言う言葉は、いつだって最後まで言えない。
グローブ越しに繋がれたリノアの手がとても暖かくて、結局口を噤み、されるがまま。

テーブルまで連れて来られると、スコールはベンチの真ん中に座らされた。
其処へゼルがグラスを置き、アーヴァインがワイン色の飲み物を注ぎ(アルコール独特の香りがないので、恐らくジュース類だ)、キスティスが火に当てていたバーベキューから良い具合のものを選んで皿に取り、スコールの前に置く。
右隣にはサイファー、左隣にはリノアが座って、リノアは冬空の寒さを嫌うように、スコールに密着する。
腕に絡む柔らかさと温かさがどうにも慣れなくて、スコールの眉間に皺が寄ると、ゴツ、と右肘をサイファーの左肘が押した。


「久しぶりだね~、皆が揃うのって」
「皆結構忙しいからね~」


テーブルについたセルフィに、アーヴァインがバーベキューのを差し出しながら言った。


「俺、昨日までデリングシティにいてさ」
「僕はエスタだよ~」
「私達は缶詰だったわね」
「ったく、なんで俺が書類整理なんかしなきゃなんねえんだよ」
「リノアはどうしてたの~?」
「昨日は実家に帰ってたよ」
「あ、ゼルのデリングシティ任務ってそれ?」
「そうそう」
「パパがたまには帰って来いって言うから。でも、またやっちゃった」
「ケンカ?」
「大したことじゃないけどねー。あ、仲直りは今朝したから」
「そう。なら、私達が特に気にする必要はなさそうね」
「お世話様です」
「どういたしまして」


賑々しい声がする。
それを聞きながら、これは何なんだ、とスコールは自問を繰り返していたが、答えてくれる者はいない。
自問した所で、自分がその答えに行き付く情報を何一つ知らないのだから当然だ。

それぞれ自分のグラスに飲み物を注ぎ、バーベキューを確保して、席に着く。


「それじゃ、音頭は我らが指揮官に取って貰いましょうか」


キスティスがそう言ったのを聞いて、それまで呆然と座っていたスコールは、はっと我に返った。
はいどうぞ、と言うキスティスに、スコールは慌てて制止をかける。


「ちょっと待ってくれ。これ…一体、何なんだ?」


訝しげな顔をして問うスコールに、一同はそれぞれ顔を見合わせる。
それから、スコールを指揮官室から此処まで先導[押して)来た人物────セルフィを見て、


「言ってなかったのか?」
「見たら判るかな~と思って」
「判らない事もないけど~、判るとも思えないかなぁ、この状況…」
「それでも、一言位は言っておくものでしょう…」
「誰だ、こいつに行かせた奴」
「セルフィが、私が行く~って」


一同が溜息を吐くのを見て、セルフィはえへ、とちょろりと舌を出す。
やっぱり俺が行った方が良かったかな、と呟くゼルに、今更仕方がないわと首を横に振ったのはキスティスだった。

そんな仲間達の様子を、相変わらず眉間に皺を寄せて見ていたスコールに、隣に座ったリノアが言った。


「あのね、今日はクリスマスなんだよ、スコール」
「……知ってる」


つい先程まで、そんな事は欠片も意識してはいなかったが。
認識だけは一応、していたので、そう言った。


「でね、今日は皆でクリスマスパーティやりたいねって話になって」
「……クリスマスパーティって、これか?」
「うん、そう」


寒空の下、ガーデンの校庭でバーベキュー。
今は体育授業のクラスがないのか、校庭は自分達以外に人の影はない。
春夏であれば、選択授業などで空き時間の出来た生徒の姿が見られる事もあるのだが、今は真冬である。
そんな生徒の姿は見られず、故に尚の事、何故こんな場所でパーティなんてするんだと、スコールの疑問は尽きない。

無言で見つめるスコールの疑問が感じられたのか、リノアはだよねえ、と言うように眉尻を下げて笑う。
それにスコールが益々眉間の皺を深くしていると、ごつ、とスコールの側頭部に大きな拳が当てられた。
リノアとは反対隣りを陣取っていたサイファーである。


「此処以外にバーベキューなんざ出来る場所なんかなかったからな」


いや、他にも場所はあるだろう。
SeeD就任記念の時に使用したパーティ会場だってあるし、訓練施設でも良いし(魔物は出るし鬱蒼としているので、のんびりは出来ないが)、寮の裏にあるスペースでも良い筈。
建物内でも探せば何処かあるだろうし、そもそも、こんな寒空の下でやらなくても良いだろうに。

溜息愚痴疑問諸々を、噤んだ口の中でのみ零していたスコールを、リノアが覗き込んできた。
笑みを浮かべた彼女の表情に、スコールが相変わらず口を閉じていると、


「あのね。皆の暇な時間が重なってるの、今日しかないの。今しかないの」
「…そう、だな」
「たまたまなんだよね、これって」
「…そうだな」


特に意図して、そのようなスケジュールを作った覚えはない。
頷いたスコールに、リノアはやっぱりね、と言った。


「スコールはさ。お休みって訳じゃないとは思うんだけど。でも、折角のクリスマスなんだもん。ちょっとでいいから、一緒にいて欲しいんだ」


指揮官であるスコール、それを支えるキスティスとサイファーの多忙は言わずもがな。
セルフィは復興の最中であるトラビアとバラムガーデンの連絡係を担っており、ゼルとSeeD資格を取ったアーヴァインは、人員不足を補う為に任務に追われている。
リノアは現代唯一の魔女として、バラムガーデンに監視と言う名目で保護されている傍ら、イデアを師としてマリョクコントロールの修行に励んでおり、時折、父の顔を見にデリングシティに足を運んでいる。

此処にいる皆が、忙しい日々を送っている。
皆が落ち着いて顔を突き合わせられる時間など、無いに等しい。

今日も、夜になれば皆それぞれの仕事に戻らなければならない。
指揮官室に缶詰になっていたスコールも、明日はエスタに赴いて、大統領────ラグナの警護任務に当たらなければならない為、今晩から準備をする必要がある。
年末、年明けまでのスケジュールもぎっちりと詰まっていた。
他のメンバーも似たようなものだから、仲間全員が揃っていると言う今の時間は、とても貴重な物であった。


「だから、今やるの。皆がいるから」
「………」
「だからね、スコール。忙しいの、判ってるけど。ちょっとだけ、此処にいてくれないかな」


一時間なんて言わない、30分だけで良い。
お願い、と両手を合わせて頼み込んでくるリノアに、スコールは短い溜息を吐いた。


「……あまり根を詰めても、能率が下がるだけだからな……」


息抜き程度の時間なら。
それ位なら、仕事に支障を来す事もないだろう。

呟いたスコールに、リノアの目がきらきらと輝いて、


「スコールぅ!」
「…!!」
「でぇっ!重てっ!」


勢いよく抱き着いていたリノアに押され、スコールは隣に座っていたサイファーを押し潰す形で倒れ込む。
どたんばたんと賑やかな音がして、グラスが倒れてジュースが零れる。
あーあー、とアーヴァインの気の抜けた声がした。

さっさと退け、と背中で喚く男の声を聴きながら、スコールは嬉しそうに抱き着いている愛しい魔女を見下ろす。
それから、ちらり、と周囲を見渡してみれば、片付けに勤しみながら楽しそうに談笑している幼馴染達の姿。



ふ、と零れる息。
寒空の下、触れた温もりが優しくて、愛しい。

響く笑い声と怒鳴り声が、こんなにも心を安らかにしてくれるなんて、言わない。






クリスマス色が全くないけど、メリークリスマス!
スコリノ+皆できゃっきゃしてればいい。

うちのサイファーは苦労性かも知れない。

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