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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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カテゴリー「FF」の検索結果は以下のとおりです。

[オニスコ]僕だけの為の先生

  • 2016/03/08 21:42
  • カテゴリー:FF


教育熱心な両親の薦めで、家庭教師を雇う事になったのは、今から半年前の事。
自分でも自覚がある程に成績優秀な自分が、どうしてそんなものを必要としなければならないのか、初めの頃は随分と反発したものだ。
なんでも、両親同士が知り合いで、相手方の息子は進学校に在籍しており、成績も優秀だから信頼できると言うが、ルーネスには其処は大した問題ではなかった。
きちんとした教育免許を持った大人ならまだしも、アルバイト、それも大して年齢の変わらない高校生になんて、何を教われと言うのか。
今にして思えば、随分と生意気な言い分であるが、当時はそれを言い切れるだけ、自分に自信があったのだ。
結局、両親に辛抱強く説き伏せられ、先ずは一ヶ月だけのお試しと言う期限を設けた上で了承した。
その間に自分が如何に優秀かを見せつければ、家庭教師の方も「教える必要はない」と退散してくれるだろう、と言う腹積もりで。

しかし、意外にも、半年が経った今でも、家庭教師は止める事なく続いている。
それ所か、週に二回の家庭教師を伴った勉強の時間を、ルーネスは待ち遠しく思うようになっていた。
彼が家に来る事が、自分の部屋で二人きりで勉強をする時間が、楽しみになっていたのである。

その待ちに待った時間、ルーネスは学年末テストの結果を彼に見せた。
其処に綴られた点数を見て、彼───スコールは、鉄面皮に近い顔を、僅かに緩ませる。


「オール満点か」
「ね、言った通りだったでしょ」


胸を張って言うルーネスに、確かにな、とスコールは言った。

学年末テストが実施された直後、ルーネスはスコールに対し、「絶対に全部100点だよ」と言い切っていた。
スコールに見て貰いながら、自己採点も繰り返し、それも全てパーフェクト。
何も心配する事はない、と言うルーネスの自信は、確固たるものであり、その言葉の通り、ルーネスは見事に完全勝利を収めたのだった。

が、それだけの結果を得ても、ルーネスはそれ程の達成感を感じてはいない。


「どの教科も簡単過ぎるんだよ。スコールが作る問題の方がずっと難しかったもの」


同級生の中でも頭一つ抜きん出て優秀な成績を収めているルーネスである。
クラスメイト達が頭を抱えるような問題でも、ルーネスにとっては大した問題にはならなかった。
それよりも、週に二度の過程授業で行われる際に使われる、スコールが手作りした問題の方が、余程レベルが上だと思う。

その言葉には、スコールも少なからず嬉しく思う所があるようで、彼は表情だけはいつもと同じ平静を崩さないまま、白い肌を微かに紅潮させる。


「……それなら、作った甲斐があったな」
「お陰で先生の意地悪な引っ掛け問題にも引っ掛からなくなったし。あれ、絶対に僕を狙って作ってたと思うんだよね」


ルーネスの言葉に、それは幾らなんでも考え過ぎじゃないか、とスコールは思ったが、口には出さなかった。
ルーネスの学校の詳細について、スコールはよく知らない。
中学生にしては優秀過ぎる成績を納め、性格については小生意気さが目立つルーネスに対し、大人が気に入らないと思うのは無理もないだろう。
スコールも似たような所があり、在学中の高校では教員から露骨に目の仇にされている自覚があるので、ルーネスの言う事が強ち思い込みとも言い切れなかった。
家庭教師の授業が始まった頃は、スコールもルーネスに対し、生意気な子供だと思っていた事もあるので、ルーネスの扱いに手を拱いている教員の気持ちも判らなくはない。

しかし、こまっしゃくれた顔が目立つ反面、ルーネスは素直な所も多い。
成り行きから始める事になったルーネスの家庭教師を、子供が苦手と自覚していながら、半年が経った今でも辞める事がなかったのは、徐々に顔を出す少年の素直さに絆された所もあった。

ルーネスは返されたテストを引き出しに入れ、今日の授業の為にノートと教科書を取り出した。
教科書には中学三年生用と記されており、本来ならルーネスはまだ持ってもいない物である。
この三年生の教科書は、スコールが中学生の時に使用していたもので、今の内に来年度の予習をしたい、と言うルーネスの希望の下、棄て忘れて残していたのを譲って貰ったのだ。


「えーと、先ずは……そうだ、宿題のプリント、やって置いたよ」
「ああ。採点するから、こっちの問題集の7ページをやっておけ」
「はーい」


ルーネスが教科書に挟んでいた宿題のプリントを渡すと、スコールからは問題集が渡される。
少し古びた───それでも丁寧に使われていたのだろう、綺麗なものではある───教科書と違い、問題集は新品同然で、表紙にもまだ光沢がある。
これは来年度の授業を始めた次の授業の時、スコールがわざわざ本屋で購入して来てくれたものだった。

指定されたページを開いて、教科書とノートを参考に、問題を解いていく。
ルーネスにはどれも簡単な問題ばかりであった。
すらすらとシャーペンを走らせていると、彼の為にと用意した椅子に座り、宿題の採点をしていたスコールに名を呼ばれる。


「ルーネス」
「何?」
「計算ミスだ」
「えっ、うそ!」


スコールの言葉に、ルーネスは慌てて席を立った。
スコールの下に駆け寄り、「何処?」と詰め寄ると、スコールはプリントを見せた。
殆どが正解で埋まっている問題の中、最初の計算問題の中から、二問に不正解のバツがついている。


「うそぉ……」


プリントを手に愕然とした表情で立ち尽くすルーネス。
そんな教え子に、スコールは硬い口調で言った。


「見直しをしなかったな。お前の悪い癖だ」
「……うう……」


スコールの指摘に、ルーネスはぐうの音も出なかった。

幼い頃から頭が良く、自分に自信がある所為か、ルーネスは余りテストの見直しをしない。
その所為で、こうした些細なミスを見逃してしまい、失点を喰らう事が儘あった。
スコールからもそれを注意され、テストの際には二度、三度と見直しをするようにと念を押されている。
お陰で学年末テストは満点を取れた訳だが、テストが終わって気が抜けたか、やっつけ仕事と宿題を終わらせてしまった為に、一切見直しをしなかった。

しゅんと落ち込むルーネスに、スコールはしばしの沈黙の後、立ち尽くすルーネスの頭をぽんぽんと撫でた。
きょとんとした顔でルーネスが顔を上げると、スコールの手は直ぐに離れ、蒼の瞳は明後日の方向を向いている。


「……次の時に活かせ。それで十分だ」
「……はい。気を付けます」


スコールの言葉に、ルーネスは素直に頷いた。
落ち込んでいた翠の瞳に光が戻り、やる気を取り戻して、ルーネスは机に向き直る。

問題集に取り組み直す前に、ルーネスは添削されたプリントを拡げた。
バツが書かれた部分を確認し、確かに計算ミスがある事を確かめてから、消しゴムをかける。
一から順に計算し直して、更にそれを改めて確認してから、ルーネスはプリントをスコールの下へ持って行った。


「直したよ」
「………よし。正解だ」


書き直した部分を確認して、スコールは赤ペンを滑らせた。
正解の丸が綴られ、返されたプリントを見て、ルーネスは満足に笑む。

そんなルーネスをしばし見詰めた後、スコールはふと思い出す。


「そう言えば、お前の親御さんから、来年も頼むと言われたんだが」
「頼むって、何が?」
「家庭教師の事だろう。来年は受験もあるから是非、と」


そう言ったスコールに、ルーネスの瞳が輝く───が、逆にスコールは渋い顔をしている。
その表情に引っ掛かりを覚え、ルーネスは訊ねた。


「駄目なの?」
「…駄目と言うか……俺も大学受験があるからな……」
「あ……」


大人びた表情と、落ち付いた態度の所為か、他人に───ルーネスも含め───度々忘れられ勝ちであるが、スコールはまだ高校生だ。
現在二年生なので、来年になれば三年生、ルーネスと同様に受験を控えている。
進学校に在籍しているので、受験に向けた勉強そのものは一年生の時から始まっており、二年生の夏頃から更に本腰を入れる仕様となっているらしい。
受験当日まで一年を切っている来年度からは、志望校を定め、各自更に的を絞って勉強して行く事になる。
それを思うと、よくそんな環境で、ルーネスの家庭教師を始めたものだ───これには各両親それぞれの想いがあったようだが、ルーネスは詳しく聞いてはいない。

ともかく、自分の人生の一大転機にもなり得る時期に、他人の面倒は見ていられないだろう。
それを思うと、ルーネスは何も言えなかった。

口を噤んでも、素直なルーネスの感情は、表情に出てしまう。
唇を噛んで俯くルーネスに、スコールは視線を彷徨わせていた。
なんとも気まずい空気が、部屋の中を支配して、重苦しささえ感じる。


(僕の受験の為に、スコールに我儘を言っちゃいけない。でも……)


スコールが家庭教師を辞めるなら、他の誰かが雇われるのだろうか。
両親はそれを薦めて来るかも知れないが、ルーネスはスコール以外に教わる気にはならない。
勉強の教示力への信頼性は勿論の事、ルーネスはスコールと過ごす二人の時間が好きだった。
滅多に褒めない彼が、不器用に褒めてくれた時や、すこしぎこちなく頭を撫でてくれた時など、手放せないものは幾らでもある。

だが、それはルーネスの都合であって、スコールの都合は全く違う。


「……仕方ないよね。受験だもの」


ルーネスが言える事は、それしかなかった。
仕方がない、と言う言葉に全ての気持ちを押し隠し、彼の邪魔をしないように退散する。

もやもやとした気持ちに目を逸らし、机に戻って、勉強の続きをしようとした時だった。


「……夏、までなら」


聞こえた言の葉を、ルーネスは直ぐに理解出来なかった。
理解が追い付いた後も、聞き間違いかと思ったが、彼の声を、言葉を、聞き間違える事は有り得ない。

振り返ると、スコールは此方に視線を向けてはいなかった。
蒼灰色の瞳を明後日の方向へと流し、ペンを手にしたままの手で口元を隠しながら、スコールはもう一度言う。


「夏までなら、此処を続けられる。…と、思う」
「……本当?……でも、受験でしょ?」


スコールの言葉に思わず声に喜色が混じったルーネスだったが、直ぐにそれを押し殺した。
自分の為に、スコールが此処に残ってくれるのは嬉しいが、彼の足を引っ張りたくはない。
もどかしい気持ちで、念を押すように訊ねると、スコールは少しの沈黙の後で、


「両親から聞いたが、お前の希望校は俺が通っている学校なんだろう」
「うん。そのつもり」
「対策や範囲や、変わっている所もあるだろうが、出来る事はしよう」


きっとスコールは、ルーネスの気持ちを察して、もうしばらく家庭教師を続けようと言ってくれているのだろう。
しかしルーネスは、どうにも両手話で喜べず、煮え切らない態度を見せてしまう。


「……その……本当に良いの?」
「……ああ。ただ、来れる回数は減ると思う」
「そんなの良いよ。それ位。スコールの迷惑にならないのなら」
「迷惑だったら、最初からこの話は断っている」


何度も確かめるルーネスに、スコールはきっぱりと言った後、


「……それとも、お前は俺が此処に来るのが迷惑か?」
「そんな事!」


スコールの問い返す言葉に、ルーネスは迷わず首を横に振った。
それを見たスコールが、ふっと口元を緩める。

滅多に見る事のない、柔らかく温かい、スコールの優しい微笑み。
決まりだな、と言うスコールに、うん、と頷きながら、ルーネスは胸の鼓動が高鳴るのを感じていた。





3月8日と言う事で、オニスコ!
……なんだけどうちの二人はいつもカップリング未満な気がする。まあ良いか。

スコールもルーネスも、頭が良いだけに周囲と上手く馴染めず、コミュニケーションの仕方に難あり(ルーネスの方はまだマシ)。
そんな息子達を心配したそれぞれの両親が、なんとなく似通ってる者同士なら判り合える事もあるんじゃないかと逢わせてみた……と言う設定を作中に書き切れなかった。
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[けものびと]おそとへいこう

  • 2016/02/22 23:12
  • カテゴリー:FF
猫の日と言う事で、ケモレオン&ケモスコールと、二人を引き取ったラグナの話。
設定他前に書いた話は此方。






ラグナが保護した獣人の兄弟は、まだまだ幼い為、単に運動するだけであれば、室内でも十分事足りる。
高さのある丈夫なインテリアを購入したり、本棚を倒れないように固定したりしているので、上下運動も出来るように配慮した。
兄レオンはすっかりその生活に慣れ、中々人馴れしなかったスコールも、生活訓練を経てからは、少しずつ順応しつつある。

しかし、心配事はそれで終わりと言う訳ではなかった。

ライオンモデルの彼等が、将来的にどのように成長するのか───ヒトの特徴が目立つようになるか、動物の生態に近いままか───も、まだ判らない。
それでも、今はヒトの3歳~4歳程度の身長しかない彼等が、大きく成長するのは想像に難くなかった。
元々が大型動物であるライオンモデルである事、彼等の肢が猫の獣人よりも遥かに大きい事が、彼等の将来性を暗示している。
となると、成長に伴い、ストレス発散や日々の生活に必要とされる運動量も増えて行く事が予想される。
個体によって成長速度が大きく異なる為、彼等が何年で大人と呼べる体躯になるかは判らないが、その時の為にも、今の内に室外で運動する事に慣れておくべき────と、獣人の生活訓練を担当しているバッツからの助言があった。

ラグナとしては、ようやく今の生活にも慣れてきたばかりの兄弟を、次のステップに進めるのは早過ぎはしないか、と思う。
しかし、多くの獣人と接して来たバッツの助言は、的を射ている。
成長してから新しい物事、環境に慣れさせるのは、中々難しい事だと言う。
レオンとスコールが、比較的早い内に今の環境に慣れる事が出来たのは、彼等がまだ幼かったからだ。
多少強引にでも彼等を御する事が出来る内に、その必要がないように教えるのが、保護者の義務だ。
そうしなければ、いずれは彼等が不幸になってしまう。


「────……うん。よし」


悩みに悩んだ末、キロスとウォードからも背を押されて、ラグナはようやく決断した。
幼い獣人の兄弟を、広い世界へと連れ出す事に。




野生育ちの後、ラグナに保護されてからは、移動以外はずっと室内で過ごしていた彼等にとって、都会の景色は見慣れないものばかりだった。
彼等が棲み暮らしていたサバンナには、コンクリートの地面も、レンガ詰みの塀も、何もかもが初めてのもの。
移動の時は必ずラグナに抱えられている───最初の頃は抱き上げられるのも嫌がっていた為、寝ている内にケージに入れて運んでいた───為、自分の足で都会の地面を踏むのも、彼等は初めての事だった。

最近は温かくなっては来たものの、不意打ちのように冷たい風が吹くので、念の為にとレオンとスコールに服を着せて、ラグナは二人を両腕に抱えて外に出た。
外出時は、念の為にサポートとしてキロスとウォードがついている事が多いのだが、今日はそれもない。
兄弟はその事に気付いたらしく、ラグナに抱えられて、きょろきょろと不思議そうな顔で辺りを見回していた。


「取り敢えず、先ずは庭かな」


コンクリートの階段を下りて、ラグナはマンション裏の庭へ向かった。
其処には猫の額程のスペースに、小さな子供が遊べる遊具が備えられている。
休日であればマンションに住んでいる子供が遊び場にしているのだが、平日の昼間は静かなものだ。
地面は砂場を覗いて柔らかな芝で覆われているので、慣れればレオンとスコールにも良い遊び場になるかも知れない。

自分達が知らない場所に連れて行かれる事が判ったのか、腕の中でレオンとスコールが緊張している。
きょろきょろと辺りを見回しながら、毛束を持った尻尾がぴくぴくと動いていた。
そんな二人に、「怖くないからなー」と言い聞かせながら、ラグナは庭の真ん中で足を止める。


「さあ、レオン、スコール。下ろすぞぉ」
「……?」


ラグナの声掛けに、レオンがラグナを見上げて首を傾げる。

ラグナは膝を曲げて、二人の後肢を地面につけてやった。
抱えていた腕を解こうとすると、スコールの前脚が爪を引っ掻けた。
レオンは前脚も地面に下ろして、四足になって辺りを見回す。


「広いだろ。今日は此処で遊んでいいんだぞ」
「……が?」
「最初は、そうだな~……ま、砂場が一番危なくないな」


おいで、と言ってラグナは砂場に向かって歩き出した。
その後をとてとてと四足になったレオンがついて来る────が、スコールが動かない。


「スコール、おいで」
「………」
「スコール」


ラグナが声をかけて呼んでやるが、スコールは石になったように微動だにしなかった。
レオンが弟の様子に気付き、四足でスコールの下へ駆け寄る。
スコールの顔に自分の顔を寄せ、促すようにすりすりと頬を当てるレオンだが、スコールはまだ動こうとしなかった。
そんな弟が放って置けなかったのだろう、レオンは座り込んで動かないスコールの傍らで、ころんと丸くなってしまった。

ラグナはゆっくりと兄弟に近付いて、膝を曲げる。
目線を近くすると、丸くなったレオンが顔を上げた。
スコールはと言うと、普段は細い瞳孔を大きくさせ、尻尾をピクッ、ピクッ、と動かしていた。


「ちょっと怖いか、スコール」
「………」
「レオンも?」
「……がぁう」


黙ったままのスコールと、返事をするように鳴いたレオン。
そうか、とラグナは眉尻を下げ、二匹を抱き上げた。

ラグナは砂場の横に設置された、子供用の低いベンチに腰を下ろし、レオンとスコールを膝に乗せた。
二匹はしっかりとラグナの胸に掴まっている。
スコールは硬直からは解放されたものの、小さな体がぷるぷると震えていた。
レオンは弟程怯えている様子はないが、見慣れない場所には警戒心が先立つのだろう、辺りを伺うようにきょろきょろと辺りを見回している。

虫でもいれば、彼等の興味も動くだろうか。
膝の重みを感じながら、そんな事を考えていると、ふわふわと一匹の蝶が三人の頭上を横切った。


「お?レオン?」


レオンの視線が、頭上を通り過ぎていく蝶を追う。
蝶は庭の端の花壇に身を寄せると、しばらく蜜を吸った後、また飛び立った。
悠々と頭上を横断して行く蝶に、レオンが前肢を伸ばして、手招きするようにぴくぴくと手先を動かす。

ラグナがレオンを抱く腕の力を弱めると、レオンはよじよじとラグナの身体を登り始めた。
肩に昇ったレオンが落ちないように、ラグナはその背を後ろから支えてやる。
一つ高い位置に四足で立って、レオンは身体のバランスを取りながら、そおっと右の前肢を持ち上げた。
距離を測るように、精一杯伸ばした前脚で手招きの仕種を繰り返した後、


「がうっ!」


可愛らしい気合の一声と共に、レオンはラグナの肩を蹴って飛んだ。
宙をかいた前肢の僅か先で、慌てたように、蝶がふらふらとした起動で高く舞う。
一歩惜しい距離で空振りして、レオンは芝の地面に着地した。


「がうぅっ」


もう一回、とレオンが地面を蹴って飛ぶ。
しかし、跳び上がった高さは全く足りず、蝶は悠々と高い位置を飛んでいた。


「がうっ。ぎゃうっ。がうっ」
「頑張るなあ」
「………」


空振りを続けながら、一所懸命にジャンプしては蝶を追うレオン。
その後ろ姿は、獲物を捕らえる為と言うよりも、追いかけっこを楽しんでいるようにも見える。
低い耐性を取りながら、尻尾をピンと上に立て、上機嫌だと言う事も判った。
子猫を見ているものとして考えるなら、狩りの練習をしながら遊んでいると言った所か。

考えてみれば、サバンナにいた頃と違い、食べるものに困る事がないので、切羽詰って獲物を狩る必要はないのだ。
そして、本来ならば───恐らくではあるが───彼等はまだ、親の庇護下にある時期で、狩りも遊びながら学んでいる段階である。
親を失った事から、自らの力で生きる為に、彼等は必死で覚束ない狩りを行っていたのだろう。
ラグナが保護した頃は、こうして遊びで虫を追う余裕もない程、餓えていたに違いない。

ラグナは、膝に乗ったまま、遊ぶ兄を見ているスコールを見下ろした。
じぃっと兄を見詰めるスコールも、本能が疼くのか、兄に触発されたか、むずむずとした様子で蝶を目で追い始めている。
ラグナはそんなスコールの濃茶色の髪をくしゃりと撫でた。


「お前達、大変だったんだなあ」
「……ぐぅ…?」


ラグナの呟きに、スコールがラグナを見上げて、ことんと首を傾げる。

何処か切なそうな翠の瞳に見つめられ、スコールの丸い鼻がふくふくと動く。
スコールはラグナの顔に鼻を寄せ、くんくんと匂いを嗅いだ。
最近、ようやく此処まで顔を近付ける事を許してくれるようになったスコールに、ラグナの眉尻がへにゃりと緩む。


「俺、絶対お前達を幸せにしてやるからなっ」
「ぐぁうっ?がうっ、がううっ」


ラグナは、両腕でぎゅうっとスコールを抱き締めた。
小さな体はすっぽりとラグナの胸の中に包まれる。

自ら近付く事、抱き上げられる事には慣れたスコールだが、どうやらスキンシップは余り好きではないらしい。
スコールは抱き締める腕の中で、じたばたともがいて、ラグナの腕から抜け出そうとしている。
ぎゃうぎゃうと声を大きくし始めた事に気付いて、これはまだ駄目かあ、と少し淋しく思いつつも、引っ掻く事はしないスコールに感謝しつつ、ラグナは腕の力を緩めた。

解けた腕から逃げるように抜け出したスコールは、四足でレオンの下まで走る。
弟がやって来た事に気付いた兄が、ぴんっと尻尾を立たせてスコールを迎えた。


「がう。がぁう」
「くぅうー……」
「がうぅ」


すりすり、すりすりと顔を寄せ合わせる獣人の兄弟に、ラグナの口元が綻ぶ。

レオンが追っていた蝶は、兄弟がじゃれ合っている間に、何処かに行ってしまった。
しかし、兄弟は蝶の事などすっかり忘れ、芝の中でじゃれ合っている。
小さな庭の中で、無邪気に遊び始めた二人の姿に、ラグナはほっと安堵の息を零したのだった。





2月22日でにゃんにゃんにゃんの日。
と言う事でケモレオンとケモスコールをもう一度。ライオンだって猫だよ!

ラグナ(大人)に片腕で抱っこされるサイズのレオンとスコールって可愛いじゃないですか。
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[クラレオスコ]アフター・スイーツ・パラダイス

  • 2016/02/14 22:25
  • カテゴリー:FF
クラ×レオスコで、随分前に書いた[ハッピー・スイーツ・パラダイス]の続きに当たります。




堂々と二股をして、それで関係が成り立っているのは、奇跡と言って良いと思う。
それで良い、と言ってくれる二人の恋人に、何度感謝しても足りない。
許してくれる彼等の気持ちに恥じないよう、何に置いても自分は彼等を優先し、大事にし、裏切るまいと何度心に誓ったか知れない。

しかし、この時ばかりは、その努力も投げ出してしまいたいと思ってしまう。

クラウドがレオンとスコールの家を訪れるのは、珍しい事ではない。
最低でも週に一度は彼等のマンションに足を運び、睦まじい夜を過ごす。
何もなくとも、のんびりと過ごす事もあるし、それなりに平和な時間を過ごしていると言って良い。
しかし、クラウドの方から「行っても良いか?」と訊ねる事はあるが、二人の方から「今週の日曜、家に来てくれ」と誘われる事は滅多になかった。
その滅多にない誘いを受けて、更には日曜日の日付を見て、浮足立った気持ちで足を運んだクラウドであったが、


「クラウド、チョコレートのスフレが焼けたぞ。早く食べないと萎むからな」
「チーズケーキ、これから切り分けるから、それ食べて待ってろ」
「あ、ああ……」


玄関で、愛しい二人と共に、甘い匂いに出迎えられてから一時間。
今日と言う日を理解していたので、微かに期待していただけに、甘い匂いに心が弾んだ。
その後、リビングに通され、「この前、ケーキバイキングに連れて行った礼もしたいから」と言う二人に、クラウドは連れて行って良かったと思った────が、それは初めの頃の話。

クラウドの前には、次から次へ、様々な種類のケーキが運ばれてくる。
カットサイズは、食べ切り易い小さいものや細いものになってはいたが、それが一時間の間、引っ切り無しに運ばれてくるのだ。
基本の生クリームを使ったショートケーキに始まり、チーズケーキ、ムースケーキ、パウンドケーキにシフォンケーキ、etc。
当てにコーヒーとクラッカーが用意されているので、甘い物ばかり食べるよりはマシではあったが、それも今となっては殆ど効果がない。
既に胃もたれを起こしているような気がするが、クラウドはそんな自分を堪えて、ふっくらと綺麗な形に膨らんだスフレにスプーンを入れた。


「スコール、クッキーも焼けてるぞ」
「ん」
「それが終わったら、次はフォンダンショコラにしよう。ガナッシュは固まっているかな…」
「昨日作ったし、冷凍庫に入れてあるから、切り分けられる固さになってる筈だ」
「生地も丁度出来た所だ。オーブンの予熱だけ入れ直しておいてくれ」
「了解」


此処はスイパラ用のファミレスの厨房だろうか。
そんな考えが浮かぶ程、兄弟は忙しなく菓子作りに奔走している。

クラウドの前に並べられるケーキ群は、全てレオンとスコールの手作りだ。
作り置きの出来る物、冷やし固めるものは昨日の内に作り、温かい出来たてを食べるものは、今日の朝から作り続けているらしい。
二台あるオーブンレンジをフル稼働させ、次々と新しい菓子を作っている。
プロのパティシエもスカウトに来るんじゃないだろうか、と思う手際の良さに、彼等が本当に甘いものを好いている事を改めて実感する。

レオンとスコールは、所謂スイーツ男子と言われる類の甘党だ。
しかし、周囲からは真逆に思われており、スコールに至っては甘いもの嫌いだと思われている。
本人達も自分がそう見られていると判っており、男の癖に甘いものが好きなんて、と言うイメージ───彼等ならそれも許されると思うが、本人達がそう思っていないのだから仕方がない───もあって、自分達が大の甘いもの好きである事を隠している。
それを知っているのは、家族である父や義理の妹(スコールにとっては姉か)、そして恋人であるクラウドのみだった。

甘党にとって楽園とも思えるケーキバイキングは、自分のイメージを気にしている兄弟にとって、些か重い門であった。
が、それをクラウドが気を利かせ、同僚や学校の友人に見付からない所を見付け、念願のケーキバイキングに連れて行った。
その時、二人はとても嬉しそうな顔をしていて、二人の手からそれぞれ「あーん」もして貰ったし、クラウドは連れて行って良かった、と思っている。
……「あーん」によって許容量をおおいに越える甘味を摂取した事により、翌日、丸一日胃もたれで動けなかった事は、墓まで持って行く秘密だ。

人目を気にするレオンとスコールが、クラウドに自分の甘党を打ち明ける事が出来たのは、彼等がクラウドを“仲間”と思っているからだ。
自分達と同じように大の甘党で、二人ほど人目を気にしない性質なので、ファミレス等で代わりにデザートのケーキを頼んでくれる。
因みにクラウドは、食事は健啖と呼ばれるものの、甘いものは嫌いではないが、ケーキは食後に一切れ食べれば良い方で、二人には申し訳ないが、甘味については“普通”と言えるタイプだ。
だからクラウドは、食後に頼んだデザートは、半分も食べずにレオンやスコールに譲るのがお決まりだった。

そんなクラウドにとって、目の前に絶え間なく並べられるケーキの山は、見ているだけで胃に来る。
しかし、エーキバイキングに連れて行ったお礼と、恋人達がわざわざ手作りで作ってくれているのだ。
無碍には出来ないし、食べた時の嬉しそうな二人の顔に絆されて、コーヒーとクラッカーで誤魔化しながら、また一口、クリームを口に運ぶ。


「……うん、美味い」
「そうか。良かった、チョコのスフレは初めて作ったから、少し心配だったんだ」
「レオン、ガナッシュ切り分けた。余熱もそろそろ終わる」
「判った、直ぐに準備しよう」


クラウドの一言に満足しつつ、レオンは機嫌良くリビングを出て行った。
入れ替わりにスコールがリビングに入って来、持っていたベイクドチーズケーキの乗った皿をテーブルに置いて、スフレを食べているクラウドをじっと見詰める。


「………」
「ん?」


見つめる視線にクラウドが顔を上げると、蒼灰色とぶつかった。
何処か羨ましそうに見える色に、クラウドはくすりと口元を緩め、まだ温かいスフレを一口スプーンで掬う。


「食べるか?」
「!」


差し出したスプーンを見て、スコールの瞳が輝く。
兄と同じく、言葉よりもお喋りな瞳にくすりと笑みを浮かべ、ほら、とスプーンを寄せてやる。

が、スコールははっと我に返った顔をして、ふるふると頭を振った。


「い、いらない」
「どうして。欲しいんだろう?」
「別に……」
「レオンが作ったスフレだ。美味いぞ」
「………」


ちら、とスコールの視線がスフレを見る。
ココット皿の中のスフレは、すっかり萎んでしまったが、風味はまだ損なわれていない。

レオンの菓子作りの腕は、スコールもよく判っている
二人で一緒に菓子作りをして、レオンが作ったケーキの味を一番知っているのがスコールだ。
レオンが初めて作ったスフレも、きっと美味しいに違いない。
うずうずとした様子で見つめるスコールに、クラウドはもう一度スプーンを差し出し、


「作ってばっかりで腹が減ってるだろ。お前も食べると良い」
「……いい。それは、あんたに作ったものだから」


決意は頑ななのか、スコールはふるふると首を横に振る。
こうなると頑固だよな、と思いつつ、それじゃあ、とクラウドはスプーンを自分の口に持っていた。
ぱく、と食んでしまうと、また羨ましそうな蒼がクラウドを見詰める。

次の菓子をオーブンに入れ終えたか、レオンがリビングに戻って来た。
スコールが焼いて、粗熱が取れるのを待っていたクッキーを乗せた皿が、テーブルに置かれる。


「チョコチップクッキーだ。美味いぞ」
「ああ、置いといてくれ。先ずこっちを食わないといけないだろ」
「そうだな……ん?どうした、スコール」
「べ、別に……」


立ち尽くして固まっているスコールに、レオンが声をかけると、スコールは慌てて顔を背けた。
赤い顔を隠す弟に、レオンはことんと首を傾げ、何があったのか問うようにクラウドを見る。
クラウドが手元のチョコレートスフレを指差すと、レオンはしばし考えた後、合点が行ったかくすりと微笑み、


「スコール。お前の分のチョコスフレは、また今度な」
「……ん」


こくりと頷くスコールに、レオンはくしゃくしゃと頭を撫でてやる。

そんな兄弟の光景を眺めているのも、クラウドは気に入っている。
が、微笑ましさに頬は緩むも、そろそろ胃が限界を訴えているのが辛い。


(しかし、折角作って貰ったものを残すのは……)


思いながら、クラウドはチョコレートスフレを食べ切った。
空になったココット皿をレオンが回収すると、スコールがチーズケーキを差し出す。

昨日焼いて冷蔵庫で冷やされたベイクドチーズケーキは、表面に良い焼き色がついている。


「これは、スコールが作ったのか?」
「……ああ」
「流石だな。美味そうだ」


クラウドの言葉に、スコールの頬に朱が上る。
目を逸らす年下の恋人の初々しさに和みつつ、クラウドはケーキにフォークを入れた。


(このタイミングでチーズケーキか……いや、食べられる。スコールが俺の為に作ってくれたものだぞ)


食べられない訳がない、と自己暗示のように胸中で繰り返し、ケーキを口に入れる。
ほんのりとレモンの酸味が効いて、さっぱりとした味わいがクラウドの舌の上で蕩けて行く。

チーズケーキは少し重みのある食べ物だ。
既に一時間近く、ケーキバイキングでも持て余しそうになる時間を、クラウドはケーキを食べ続ける事で消費している。
全ては彼等の愛の為、と自分に言い聞かせているクラウドだが、このタイミングでチーズケーキはかなり苦しい。
恥ずかしがり屋の年下の恋人を悲しませない為にも、このチーズケーキを残す訳には行かない。


(でも、この後はフォンダンショコラが……クッキーもあるのか。俺一人で食うのはもう流石に…)


レオンとスコールと付き合うようになってから、菓子の種類や名前には随分詳しくなった。
フォンダンショコラが、如何に手間がかかり、失敗し易い菓子かと言うのも、判っているつもりだ。
それを惜しむ事なく、クラウドの為に作ってくれている事は、とても嬉しいと思う。
それに限らず、今日クラウドが食べたケーキは、全てレオンとスコールが腕を振るってくれたものなのだから、何一つ無碍にはしたくない。

したくないが、これ以上は本当に辛い。
せめてスコールとレオンが一緒に食べてくれたら、と思っていると、またじっと見詰める視線を感じた。


(……食べたいんだろうな)


気付かれないように視線を主を見れば、じっと見詰める蒼灰色がある。
今日はずっとクラウドが食べているのを見ているだけなので、スコールにしてみれば羨ましい立場に見えるのだろう。
先程、クラウドがスフレを勧めた時には「クラウドの為のものだから」と断ったが、やはり本音は別にあるに違いない。

クラウドはチーズケーキを切り分け、フォークに差したそれをスコールに差し出した。


「スコール。ほら」
「……い、いい。いらない」
「良いから来い。一人で食べてばっかりなのも寂しいんだ」
「………」
「自分だけずるいと思ってるか?レオンも後で誘って一緒に食べよう。それで平等だ」


クラウドの誘いは、スコールにとって魅力的だったのだろう。
しばらく迷うようにうろうろと視線を彷徨わせた後、スコールはおずおずと近付いてきた。

差し出すクラウドのフォークに、スコールが顔を近付ける。
あ、と小さな口が開いて、クラウドは其処にケーキを寄せた。


「……ん」
「どうだ?」
「……うん」


口に入れたケーキを、もくもくと噛みながら、スコールは小さく頷く。
言葉少ない反応とは裏腹に、蒼灰色の瞳が嬉しそうにきらきらと輝いているのを見て、クラウドはくすりと笑みを零す。
スコールは口の中の味を堪能するように、ゆっくりと食べながら、食べる手を再開させるクラウドを眺めていた。

甘いチョコレートの匂いがして振り返ると、レオンがフォンダンショコラを運んできた所だった。
焼き立てのチョコレートケーキの甘く香ばしい香りに、スコールが反応を示している。


「焼き立てだからな。火傷しないように気を付けて食べろよ」
「ああ……それは良いが、レオン」
「ん?」


クラウドは差し出されたフォンダンショコラにフォークを入れる。
頭から下までフォークを通し、二つに割ると、とろりとしたチョコレートソースが蕩け出す。
ソースとケーキ生地を絡めつつ、レオンに顔を寄せるように手招きする。
なんだ、と素直に顔を近付けるレオンの口に、クラウドはショコラを近付けた。


「あんたも食え。作ってばっかりで疲れただろ」
「まあ……でも、それはお前の為に作ったものだから」
「良いから食べると良い。一人で食うのも味気ないんだ」


クラウドの言葉に、レオンはぱちりと瞬きを一つ。
立ち尽くす弟を気にして、レオンの目がスコールへと向けられる。
スコールは知らない振りをするように、此方からは目を逸らしたまま、椅子に座ろうとしている。

レオンが口を開いて、チョコレートソースのかかったショコラを口に入れる。
少し口端に残ったソースを舌で舐め取り、レオンは温かいチョコレートの味に口元を緩めた。


「良い出来だ」
「だろう」
「お前が作ったんじゃないだろう」
「ああ。あんたが俺の為に作ったものだ」


何故か自慢げに言うクラウドに、レオンは呆れたように笑みを零す。
その頬が微かに赤い事に満足感を抱きつつ、クラウドもフォンダンショコラを口に運ぶ。

───と、羨ましげな視線があった事を思い出し、クラウドはフォークに差したショコラにチョコレートソースを絡め、見ない振りをしているもう一人の恋人にフォークを向けた。


「スコールも食べろ。美味いぞ」
「……!」


まさか、と言うように此方を振り向いたスコールに、クラウドだけでなく、レオンも噴き出しかけて口を手で覆う。

良いのか、と無言で問うスコールに、クラウドはフォークを近付ける事で答えとした。
スコールは、クラウドと兄を交互に見た後、テーブルに体を乗り出させて、そっと口を開ける。
まだ温かいチョコレートソースと、柔らかい食感のショコラを口に含んで、スコールは椅子に腰を戻した。
もくもくと口を動かすスコールの口端に、チョコレートソースがついているが、それに気付かない程に夢中になっている様子が可愛らしい。

フォンダンショコラは、クラウドが分け食べさせる形で、三人の胃に納められた。
残るクッキーは、合間にコーヒーとクラッカーを摘まみながら、雑談の中で消費されて行く。



─-──まあ概ね、良い日であったと、クラウドは振り返る。
明日にはまた胃凭れになるのだろうが、それについては野暮と言うものだ。





甘党男子再び。
クラウド頑張れ。大分大変な人生送ってるけど、これでも彼は幸せですww

もうパティシエになれば良いのにと言いたい所だが、好きな時に好きなお菓子を作って好きに食べたいのですよ。お店のケーキも食べたいのですよ。
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[レオスコ]甘い香りと銀色と

  • 2016/02/14 22:00
  • カテゴリー:FF


この時期、チョコレート一枚を買うだけで、酷く緊張しなければならないのは理不尽だと思う。
スーパーに置かれているものは、誰が買っても良い筈なのに、この時期だけは、其処に結界のようなものが張られている気がする。
だからなんだと言えばそれまでなのだが、全ては菓子会社の陰謀と、それに流されてゆく人間社会の所為だ。
あからさまに女性向けを意識したPOP看板や、ピンクやらハートマークやらが飛び交う一角に、男はどうしても入って行き辛いものがある。
其処に近付くと、「男なのに」とか「自分で買うなんて可哀想」なんて目で見られているような気がする。
それが単なる被害妄想であると判っていても、そう考えずにはいられないのだ。
人一倍、人目を気にする性質であるスコールなら、尚更。

それをなんとか乗り越えて、スコールは目当てのチョコレートを手に入れた。
と言っても、凝った形や包装紙に包まれているような代物ではなく、何処にでも言っているような板チョコレートだ。
ついで小麦粉や卵、砂糖を買い込み、卵は不自然にならないように冷蔵庫にストックとして並べ、小麦粉や砂糖は自分の部屋に隠しておいた。
普段、自分で買う事のないチョコレートは、何処に置いても不自然になりそうで、悩んだ末、卵パックの下に下敷きにして隠す事にした。
レオンは普段、充実を覘けば料理をする時間がないので、卵パックに触る事はないだろうと踏んでの事だ。

普段、日曜日は家にいるレオンだが、今日は何か用事があると言っていた。
スコールにとっては好都合な事だ。
彼がいない間に、やる事を全て済ませて置きたかった。


「メレンゲ…8分……?どれ位なんだ?」


一週間前、生まれて初めて買った菓子のレシピ本を見ながら、スコールは眉根を寄せた。

兄と二人暮らしの生活の中で、食事用の料理はほぼ毎日作っているので慣れたものだったが、菓子作りはこれが初めてだ。
レシピに記されている用語に、聞き慣れないものが現れる度、スコールは顔を顰めている。

スコールは卵白の入れたボウルを横目に、携帯電話を取り出した。
インターネットに接続して単語を検索すると、メレンゲの泡立て具合について写真つきで表示されたページが見付かった。
書かれている通りのものが出来上がるように、逐一確認しつつ、卵白を泡立てて行く。


「結構面倒だな……」


事前に動画で勉強していた時のように、簡単には泡立ってくれない卵白に、愚痴が零れる。
ハンドミキサーを使えばもっと早いのかも知れないが、今日だけの為に買うのは躊躇われた。
動画では泡立て器を使っていたので、自分でも出来るだろうと思ったのだが、やはりプロと素人とでは話が違うようだ。

それでも、なんとか目標の固さになるまで卵白を泡立てると、スコールは先に作って置いたチョコレート生地のベースに流し込む。
木ベラを使って生地とメレンゲを混ぜ、メレンゲの白がすっかり見えなくなると、今度は12㎝のホール型に生地を流し込む。
型をトントンと軽く作業台に落とすと、生地の表面がすっきりと平らに慣らされた。


「……よし、」


此処まで来れば、とスコールは型を持ってオーブンレンジへ。
事前に余熱を入れて置いたオーブンの中に型を入れ、レシピ通りの時間を設定して、スタートボタンを押す。
これで後は焼き上がりを待つだけだ。

ふう、と一つ息を吐いて、スコールはキッチンに向き直る。
チョコレートを溶かす、卵白を泡立てる為に使った、複数のボウルを流し台に移し、水道から湯を出した。
洗剤をつけたスポンジで、こびり付いたものを洗い落とし、乾燥機に入れて、最後に布巾でキッチンを綺麗に拭いて、掃除も終了。
まるで手を付けていないかのように綺麗になったキチンを見て、ふう、ともう一度息を吐いた。

時計を見ると、時刻は午後三時を過ぎている。
レオンが外出したのは午前中の事で、昼は帰って来なかった。


(遅いな……いや、こんなものか)


慣れない事をしていた所為か、もう三時か、と言う思考から、レオンが長らく出ているように感じたが、思い直せばそれ程でもないと気付く。
レオンが何の為に出掛けたのかは知らないが、午前から午後~夕方まで帰って来ないのはよくある事だ。

オーブンの中のものが焼き上がるまで暇を潰そうと、スコールは自室から本を持ち出し、キッチンの隅に置いていた椅子に腰かけた。
のんびりと本を読んでいると、段々と甘く香ばしい香りがキッチンに漂ってくる。
熱が入って温まったチョコレートの匂いに、スコールはちら、とオーブンを見る。
オーブンの中では、庫内灯で照らされたケーキ型が映っていた。


「……」


徐に席を立って、オーブンの中を覗き込む。
型の中で、トロトロに蕩けていた生地が、焼色を付けて微かに膨らんでいるのが見えた。
恐らく、順調に焼けているのだろうと、スコールの唇が微かに緩む。

焼き上がりの時間まであと少し、とスコールが椅子に戻ろうとした時だ。
ガチャ、と玄関の方から鍵を外す音がして、兄が帰って来た事を知る。
スコールは落としかけていた腰を浮かせ、オーブンレンジを見る。


(……まだ出来てない…)


帰ってくるまでに完成させておく予定だったのに、とスコールは眉根を寄せた。
不慣れな作業で、上手く出来ない事ばかりで、時間がかかったのがいけなかった。

そう思っている間にも、「ただいま」と言う声がする。
漂う匂いか、帰って来た兄───レオンがひょこりとキッチンに顔を出した。


「ただいま、スコール」
「……お帰り」
「良い匂いだな」
「……そう、か?」
「ああ」


そう言いながら、レオンはスコールの下へ向かう。
スコールは本を片手に持ったまま、近付く兄の顔が見れなくて、視線を逸らして立っていた。

レオンの手には、何処かで何か買って来たのだろう、紙袋がある。
小さく記されたロゴは、兄弟が気に入っているシルバーアクセサリーのブランドが入っていた。
そう言えば、バレンタイン限定で発売されるアクセサリーがあった。
予約が出来ず、店頭販売で個数限定で売られるので、きっと自分は手に入れられないもの───そもそも値段も頭一つ飛び出していて、学生には高嶺の花だ───だったと思い出していると、


「スコール。これをお前に」
「……え?」


差し出された紙袋に、スコールはぱちりと目を丸くした。
ほら、と促され、ぼんやりとしながら袋を受け取って覗き込むと、シルバーグレイのリボンでラッピングされた、黒いボックスが入っている。
え、とスコールが顔を上げると、レオンは笑みを浮かべてから、スコールの傍らを通り過ぎた。

レオンは、タイマーを動かしているオーブンレンジを覗き込んだ。
つい昨日まで家には見なかった筈の小さなケーキ型の中で、ケーキ生地がふっくらと膨らんでいる。


「チョコレートケーキか」
「あ……あの、ガ、ガトーショコラ……」
「うん。美味そうだ」
「は、初めて作ったから、その、味は…あまり……」


自信がない、とか細い声で呟いたスコールに、レオンはくすりと笑う。


「大丈夫、良い匂いだ。これならきっと美味いよ」
「……」
「楽しみにしてる」


そう言って、レオンはスコールの頭を撫でて、キッチンを後にした。

甘い匂いで一杯になったキッチンで一人佇んでいたスコールだった、ふと我に返って、紙袋からボックスを取り出す。
リボンの端を摘まんで解き、蓋を開けると、傷のない真っ新な銀色のリングが納められていた。
例の、バレンタイン限定で発売されたシルバーアクセサリーだ。

ケーキが焼き上がったと、オーブンレンジから音がする。
しかしスコールは、当分の間、真っ赤な顔で座り込んだまま動けなかった。





レオンをびっくりさせたくて頑張ってたスコール。でも不意打ち食らいましたw
レオンが出掛けたのは、勿論スコールへのプレゼントを買う為です。多分前々から目を付けてた。
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[獣人レオン&獣人スコール]けものびと

  • 2016/02/09 23:15
  • カテゴリー:FF
ツイッターにて、動物寄りの獣人なレオンとスコールの萌えを頂きました。
野生で生きていた二人がラグナに拾われる妄想をして、勝手に精製しました。

レオンとスコールは獣寄りなので、人語は喋りません。がうがう言ってる。


1 [かえらなくちゃ、かえらなくちゃ]
2 [まもらなくちゃ、まもらなくちゃ]
3 [こわい、こわい、こわい]
4 [ここは、こわくないところ]
5 [こわくないから、いっしょにあそぼう] (589)


ずっと警戒していた二人が、少しずつ懐いていったら可愛い。パパ溺愛必至。
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