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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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カテゴリー「FF」の検索結果は以下のとおりです。

[クラスコ]ここは帰り道の途中

  • 2015/07/08 23:01
  • カテゴリー:FF


大学での授業を終え、アルバイトの配送業務を終えると、体力に自信があるクラウドと言えど、襲い来る疲労感からは逃れられない。
必要最低限の教材や、財布やタオルを入れた、然程大きくはない鞄が、無性に重く感じられる。
此処から当然乍ら、帰宅しなければならないのが、また体を重くする。
テレポートってどうやったら出来るようになるんだ、等と考えながら、愛車の大型バイクへ向かう。

社員用駐車場がある裏口へと向かう途中、これから夜勤に入るのであろうザックスと擦れ違った。
ザックスは気合を入れるようにジャケットの腕捲りをしながら、横切る友人を振り返り、


「クラウド。来てるぞ」
「……ああ」
「お熱いね~」


判り易く揶揄うザックスに、クラウドは何とも言えない貌をしていた。
怒るような事ではないが、照れる程の事でもないし、しかし浮かれた顔をするのも違う気がして、結局無表情になる。
が、ザックスはクラウドの無表情にも何か意味を読み取るらしく、茶化すように口笛を吹いた。

ザックスと別れ、突き当りの裏口ドアを開ける。
すっかり暗くなった駐車場の端にある、自転車置き場へと向かう。
自転車置き場には、資材庫から都合させて貰ったハロゲンライトが備えられており、今日も明々と照っている。
その光の陰となる、自転車置き場を囲う壁のすぐ外側に、ぽつんと寄り掛かる人影があった。

ハロゲンランプは熱を持ち、この時期だと誘蛾灯にもなる。
人影は、恐らくその両方を避けたのだろうが、暗い場所は危険も多い。


「こっちで待っていて良いって、いつも言ってるだろう」


クラウドが人影の名を呼べば、影はゆっくりと動いた。
光の世界を嫌うように、のろのろと灯りの下に現れたのは、進学校の制服姿の恋人───スコールだ。

夕方を過ぎ、夜と言って過言のない時間にあって、学生がこんな場所にいるのは感心される事ではないだろう。
しかし、スコールは週の半分は此処に来て、クラウドが仕事を終えるのを待っている。
難関の進学校に通いつつ、進学塾にまで通っているスコールは、こんな時でなければ自由な時間がないのだ。
つまりスコールは、恋人との一時の逢瀬の為に、塾終わりに、家とは反対方向にあるクラウドの仕事場まで足を運ぶのだ。

バイクを自転車置き場から運び出すクラウドの下に、スコールはのろのろと近付いた。
その足取りに、少し様子が可笑しいな、とクラウドは気付く。
彼の性格上、嬉しそうに駆け寄って来てくれる事は先ずないが、こうまで判り易く足が重そうなのも初めてだ。


「何かあったか?スコール」
「……別に……」


落ち込むような事でもあったのかと訊ねてみたクラウドだったが、スコールの反応は捗々しくない。
これも予想の範疇なので、クラウドはスコールの返事の瞬間、じっと彼の表情を観察した。
が、スコールはその視線を察したか、ふいっとそっぽを向いてしまう。

すたすたと歩き出したスコールを追って、クラウドはバイクを押しながら帰路に着く。
足の長いスコールは、その歩幅を存分に生かし、クラウドを置いて行かんばかりの早さで歩いている。
平時のクラウドならば特に苦も無くついて行く所だが、今はバイクを押している上、体も疲れ切っている。
ちょっと待ってくれ、と言えばスコールは歩く速度を落とすかも知れないが、前を歩く背中には若干の拒絶の色が見えて、その一言すらクラウドは言い辛かった。

どうしたものかと逡巡している間に、二人の間は距離が開いていた。
クラウドはバイクを押しながら歩調を速めるが、途端、スコールはそれを察したように更に早く歩く。
一向に縮まらない所か、開いて行く距離に、流石にこれは不味い、とクラウドは声を大きくした。


「スコール、ちょっと待ってくれ。少しで良いから」
「………」


クラウドの声に、スコールは数歩進んでから、足を止めた。
振り返らないスコールの背中が、狭い路地の中にぽつんと光る街灯の下に映し出されている。

クラウドは、光と闇の境界線の手前で足を止めた。


「スコール?」
「………」


名を呼んでみると、スコールの肩が僅かに跳ねた。
クラウドは首を傾げ、少し逡巡したが、ゆっくりとスコールへと近付く。


「スコール」
「………」


もう一度呼ぶと、スコールはゆっくりと振り返る。
俯いたままの彼の貌は、クラウドからはまだ見えない。
しかし、街灯に照らされたスコールの耳は、ほんの少し、赤らんでいるように見える。

やっぱり何かあったんだな、とクラウドは確信した。
同時に、それは決して単純に嫌なものをスコールに齎した訳ではない事も察する事が出来た。
可愛いな、と言う気持ちが貌に滲みそうになるのを、クラウドは無表情に押し隠して、小さな光の下で佇む恋人の頬に手を伸ばす。


「ザックスに、何か言われたか?」
「……!」


クラウドの指先に、ぴくっ、とスコールの震えが伝わった。

濃茶色の長い前髪を、そっと退けてやると、相変わらず地面を睨んだままの蒼灰色が覗く。
其処に映っているのは拒絶ではなく、戸惑いに似ていて、困惑も混じっている。
白い筈の頬は、耳と同じように赤くなり、噛んだ唇は音と一緒に自分の本心を隠そうとしているようだった。

全く、何を言ってくれたのだろう───と、気の良い友人を思い出して苦笑する。
彼の事だから、決して悪意のある事は言っていないと思うが、スコールはとても神経質で繊細だ。
ザックスやクラウドにとっては軽く流せる程度の事でも、間に受けていつまでも覚えている。

クラウドはくしゃくしゃとチョコレート色の猫毛を撫でた。


「何を言われたんだ?」
「……別に」
「そうは見えないんだが」


クラウドがそう言った所で、スコールは自身の頭を撫でている手を振り払う。
ようやく此方を見た蒼が、じろりとクラウドを睨んだが、頬が赤い所為で迫力も何もない。

睨む恋人を、クラウドはじっと見詰めていた。
スコールは意地を張るように、しばらくの間クラウドを睨み続けていたが、先に目を反らしたのはスコールだった。
他人と目を合わせる事が苦手なスコールにとって、自分が本当に頭に来ている時以外、睨み合いを続けるのは無理がある。
その上、頑固ではあるが押しに弱い所があるスコールは、見詰める碧眼に根負けしたように、ぼそぼそと口を開いた。


「……あんたの友達……何なんだ」


スコールは明確な名前を出さなかったが、ザックスの事を言っているのは直ぐに判った。
何なんだと言われてもな、とクラウドは苦笑いする。


「良い奴だぞ」
「……知ってる。でも、……バカじゃないのか…あんなの……」


スコールは言葉少なであるが、口に出す言葉についてはかなり吟味する方だ。
そんな彼が、恋人の友人について、ぼやかしつつではあるが「バカ」と称するのは、それなりに理由がある時だろう。

何を言われたんだ、とクラウドは重ねて訊いた。
スコールは肩にかけていたスクールバッグの肩紐を握って、うう、と小さく唸る。
赤らんでいた顔や耳が、益々赤くなって、蒼灰色が八つ当たり気味にクラウドを睨んだ。


「毎日お迎え、とか……あ、熱々、とか……」
「間違ってないだろう」
「毎日なんか来てないし、あ、熱々なんかでもない!」


言われた時の恥ずかしさと、改めて思い出して羞恥心が振り切ったか、スコールは声を大きくした。
噛み付くように叫んだスコールに、クラウドは零れそうになる笑みを堪える。


「あそこに行くのは週の半分だ、塾が終わってついでに…」
「家は反対方向なのにな」
「ら、ラブラブ、とか、熱々とか、そんなのじゃ…」
「俺はそのつもりでいるんだが」
「あ、あんたもバカなのか!」
「当然だろう。俺はスコールバカなんだ」
「……!」


真顔できっぱりと言い切ったクラウドに、スコールの顔は沸騰したように真っ赤になった。
今日が真冬なら、頭の天辺から勢いよく湯気が噴き出しそうな程の赤面ぶりだ。


「やっぱり、あんたも、あんたの友達もバカだ!」
「怒ったか?」
「知らない!帰る!ついて来るな!」
「そう言われても、俺の帰り道もこっちだ」


バイクを押して後をついて来るクラウドに、スコールは喚くように追い払おうとしたが、意味のない事だ。
そして、バイクがある所為で早くは走れないクラウドを、置いて行く程に彼の歩調も速くはならない。
自分の言動の矛盾に、果たして彼は気付いているだろうか、とクラウドは喉の奥でくつくつと笑う。

細い道を通り抜けると、国道沿いに出た。
片道四車線の反対側の歩道に渡ろうと、横断歩道に向かったスコールだが、タイミング悪く信号が赤に変わる。
くそ、と毒づく彼の隣にクラウドが並び、バイクの座席ボックスからヘルメットを取り出す。


「ほら、スコール」
「……」
「送ってやるから」
「……要らない」


銀のライオンのステッカーが貼られた、スコール専用のヘルメット。
スコールはそれをちらりと見遣った後、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
そうして此方に向けられたスコールの耳は、茹でたように赤い。

クラウドはくすりと笑って、ほら、と言ってヘルメットを放った。
スコールは反射的にそれをキャッチするが、手にしたそれを睨んだまま、中々被ろうとしない。

クラウドはバイクに跨り、エンジンをかけて、スコールを後座席に促す。


「遠いんだから、無理するな」
「してない」
「密着するのが恥ずかしいか?」
「このっ!」


クラウドの一言に、スコールはヘルメットを投げつけた。
確りとそれをキャッチして、クラウドはくつくつと笑う。


「別に誰に見られる事もないんだから、今更恥ずかしがる必要はないだろ?」
「見られてるんだよ!あんたの友達にも、ティーダにも!」
「その面子なら気にする事はないだろう」
「俺が気にするんだ!」
「じゃあ、次の時にはフルフェイスを買って置くか。それなら顔が見えないから、誰かに見られても安心だろ」
「そう言う問題じゃない!」


スコールにしてみれば、クラウドの背中にぴったりと密着している場面を、他人に見られているのが問題なのだ。
ただでさえ触れ合いが苦手で、それでもクラウドには触れたいと思う気持ちもあり、板挟みで葛藤した末に、最近ようやくクラウドのバイクに乗る事に慣れて来た所に、友人達からの目撃報告。
クラスメイトのティーダに「あんなにくっついちゃって、熱々っスね~」等と言われた日には、スコールは恥ずかしさで爆発しそうだった。
その上に、今日のザックスの「毎日お迎えご苦労さん、ラブラブだねー」の一言。
ティーダにもザックスにも、決して悪意があってスコールを揶揄った訳ではないが、思春期真っ只中で人一倍人目を気にするスコールには、死刑宣告も同然だったのだ。
そんな事があった日に、クラウドのバイクに同乗する気にはならない。

が、クラウドも譲るつもりはなかった。
彼にとって、スコールを乗せて夜の街を走るのは、大切な時間だったのだ。
生活リズムの擦れ違いや、そろそろ受験シーズンに入る年下の恋人と、誰に邪魔をされる事もない、数少ない二人きりの時間なのだから。


「良いから乗れ、スコール。これ以上遅くなったら、親父さんがまた煩いんだろう?」


スコールの父は、一人息子を目に入れても痛くない程に溺愛している。
塾の時間はとっくに終わっている筈なのに、中々帰って来ない息子をきっと心配しているに違いない。
以前、クラウドの仕事が押してしまい、スコールの帰りが遅くなった時は、息子が事故か、ひょっとして人攫いに遭ったのではと心配し、警察沙汰になる所であった。
父の友人は勿論、ティーダやヴァンと言ったスコールのクラスメイトにまで連絡していた為、ティーダ達からも盛大に心配された。
あの大騒ぎは二度と御免だ、とスコールは思っている。

この時間から歩いて家まで帰るとなると、相当の時間がかかる。
スコールは苦い顔を浮かべていたが、クラウドがもう一度ヘルメットを差し出すと、素直に受け取った。
スクールバッグを後ろの座席ボックスに入れ、バイクに跨る。


「ちゃんと掴まっていろよ」
「……判ってる」


後ろから回されたスコールの腕が、ぎゅ、とクラウドの腹を締め付けた。
背中にヘルメットの堅い感触が当たったのを感じて、クラウドはバイクを発進させるる。

走っている最中、背中で小さく、くそ、と毒づくのが聞こえた。
クラウドは運転に集中しつつ、視認を兼ねて、バックミラーで背中の少年を覗く。
しかし、見えるのは赤くなった耳だけで、顔が見れないのが残念だ。
それでも、あれだけ渋って見せた割に、掴まる手はしっかりと力が込められているのが、いじらしくて愛らしい。
バイクから落ちない為と言えば理はあるが、それだけで耳まで赤い理由にはならないだろう。

明日もスコールは塾がある。
今日の明日で、彼はまた迎えに来てくれるだろうか。
来てくれると良いな、と背中の温もりを確かめながら、クラウドはハンドルを握り直した。





7月8日なのでクラスコ!

うちのクラウドは、何かとスコールを迎えに行ってる気がするので、スコールの方からに迎えに行かせてみた。
恥ずかしいとか言うけど、多分このスコールは、クラウドのバイクに乗るのを嫌がってない。
そんで明日は絶対来ない、とか思ってるけど、気付いたら足がそっちに向かってる。
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[レオン&子スコ]ほしくずの橋

  • 2015/07/07 22:30
  • カテゴリー:FF


昨夜の内から降り出した雨は、夜が明けても止んでいなかった。
元より、この時期に雨は珍しいものではなく、寧ろ仕様のない事と言える。
二日前に晴れ間が覗いていたのは偶然の話で、基本的には雨か、良くても曇りが続くのが常であった。

窓の右上に吊るされたてるてる坊主が、少し所在なさげに頭を垂れている。
満面の笑みを浮かべた顔が、反って見る者の侘しさを助長させるように見えた。
背中の方では、テレビが今日の天気予報を教えている。
案の定、聞こえる言葉は「雨は降り続く模様です」と言うもので、晴れマークがついているのは、遠くの地方だった。
雨雲はすっぽりと街を覆い尽くし、風もないので、何処かへ旅立とうと言う気もなさそうだ。


「雨……」


レオンの膝の上で、窓の向こうを見詰めていたスコールが、つまらなそうに呟いた。

小さな手には、昨日レオンが職場で分けて貰った笹の葉がある。
長さ30センチ程度の小さな笹には、短冊が二つ吊るされていた。

ぎゅう、とスコールの両手が笹を握る。
俯いた幼い弟の顔は、レオンの位置から見ることは出来ず、旋毛頭しか見えない。
けれども、彼がどんな顔をしているのかは、手に取るように判った。
寂しそうに泣きそうに、それでも頭の良い子だから、天気ばかりは仕様のない事だと判っていて、泣かないように必死に堪えているに違いない。
いじらしいその姿に、レオンは口元を緩め、


「大丈夫だよ、スコール」
「……?」


兄の言葉に、スコールはきょとんとして顔を上げた。
前髪が開いて、露わになった額に唇を落とし、同じ場所を優しく撫でてやる。


「晴れないのは残念だけど、お願いごとはちゃんと叶うよ」
「……ほんと?」


雨が降ったら、雲が逃げなかったら、天の川が見れない。
晴れなかったら、天の川を渡って逢う筈の恋人たちが逢えない。
恋人たちが逢えなかったら、笹の葉に吊るした短冊のお願い事は叶わない。

────そんな話を、スコールは保育園で聞いたらしく、お陰で今日と言う日に晴れて欲しいと色々な事を頑張った。
窓の上のてるてる坊主は勿論、保育園の女の子から聞いたおまじないや、風を起こして雲を退かせようと、空に向かってふーっふーっと息を吹きかけていたりもした。
しかし残念ながら、幼子の努力の甲斐はなく、空は見事な雨曇り。
だから余計に、スコールは泣きたくて堪らないのだ。

生憎、レオンに天気をどうにかする事は出来ない。
それでも、雨空のように曇ってしまった弟の貌を、晴れさせてやりたかった。

「此処から見る俺達にとっては、今日はずっと雨だけど、あの雲の向こうには、ちゃんと天の川があるんだ」
「……天の川、あるの?オリヒメ様とホコボシ様、ちゃんと会えるの?」


不安げに確かめる弟に、レオンは頷いた。


「雲の向こうは、ずっと晴れてる。お星様もお月様もちゃんとある。だから、大丈夫だよ」
「でも、でも。天の川、雨のせいで一杯になったりしない?雨のせいで、お星様の橋がなくなっちゃって、渡れなくなったりしない?」


スコールの言葉に、レオンはくすくすと笑った。
氾濫と言う単語をスコールが知っているかは定かではないが、絵本やアニメで見たのだろう、大雨が降ると川にかけられた橋が沈んだり流されたり、渡れなくなってしまう所を想像しているようだった。

笹の葉を握り、縋る瞳で兄を見上げる弟に、レオンは笑顔で頷いた。


「大丈夫。お星様の橋は凄いんだ。雨が降って川の水が増えても、流されないし、壊れない。なくなっちゃったりしないんだ」
「そうなの?でも、雨が降ったら、お星様はなくなっちゃうでしょ?」
「お星様はなくならないよ。雨や雲より、もっと高い所に移動して、天の川を渡れるようにしてくれるんだ。ほら、うちの近くにもあるだろう?高い所に上って、道路を渡る橋。あれと同じ感じだな」


レオンの言葉に、スコールは家の近くに立っている、大きな道路の橋───歩道橋を思い出した。
車両の通行が多い場所に設置されたそれが、スコールは好きだった。
歩道橋に上ると、いつもと違う視点の街が見え、冬の日暮れに兄と一緒に渡る時は、街の光が星の様に其処此処に溢れ返っているのを見る事が出来る。

あの歩道橋が、天の川にも。
更にスコールは、きらきらと綺麗な星くずを集めて作られた橋が、普通の橋から大きな欄干橋に生まれ変わるのを想像していた。
テレビで見た、海の上を遠く伸びる、大きな大きな橋だ。
大きな分だけ使われる星も増え、きらきらとより一層と眩しい光を放つ、星の橋が出来上がる。

雲の向こうの星よりも、きらきらと輝き始めたスコールの瞳を見て、レオンはほっと安堵する。
もう一度空に向けられたスコールの貌は、もう泣きそうな気配はなかった。


「じゃあ、オリヒメ様とヒコボシ様、会えるんだね」
「ああ」
「お願いごとも叶うんだ」
「うん」
「えへへ」


嬉しそうに、スコールは握った笹の葉を揺らす。
ぱたぱたと足が弾むように跳ねるのが、レオンには愛らしくて堪らない。
ぎゅうっとその小さな体を抱き締めてやれば、きゃぁ、と嬉しそうな声が上がった。

楽しそうに笑う弟の頬にキスをすると、スコールはきょとんと瞬きをして、また笑う。
お返し、とレオンの頬に柔らかい感触が触れて、レオンは抱き締める腕に力を籠めた。





七夕でレオンお兄ちゃんと子スコ。
まだまだ梅雨真っ盛りで、星が見えなくてしょんぼりする子スコが浮かんだので。

織姫と彦星が逢えないとお願い事も叶わない、と言う話は、一つ年上のロマンチストな子から聞いたんだと思います。
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[ティナスコ]見つめていたい

  • 2015/06/08 21:25
  • カテゴリー:FF


じっ、と此方を見詰める藤色の瞳が、如何にも何かを言いたそうで、しかし何を言わんとしているのか判らなくて、スコールはいつも目を反らす。

ウォーリア・オブ・ライトのような、穴を開けそうな強い視線とは違う、クラウドのように茫洋とただ眺めているだけと言うものとも違う、バッツやジタンのように好奇心を満たす為に下らない謀をしているものとも違う。
きっと悪い意味で見詰めている訳ではないのだろう、と言う事は、彼女の性格上、判るつもりだった。
苦手に思われている事はあるかも知れないが、そう言う相手をまじまじと見詰めていられる程、彼女は大胆ではない筈だ───少なくとも、スコールが知っている限りでは。
そう思えば思う程、彼女に自分を見詰められる理由と、その眼が映している感情が読めなくて、スコールは目を反らしてしまう。

そうやってスコールは、内々の疑問を胸の内に留めていたのだが、ジタンとバッツはそうではなかった。
特に、秩序で唯一の女性であるティナを愛して已まないジタンは、彼女の視線を独占状態にしているスコールに、度々嫉妬していた。
ティナちゃんに何をしたんだよ、と詰め寄るジタンに、スコールは俺が知りたい、と無言と眉間の皺で答えた。
胸倉を掴み、羨ましい羨ましいと揺さぶる彼をバッツが宥め、じゃあ聞いてみよう、と言った。
彼の言はそのまま実行へと移され、彼女と面と向かう事に気が進まなかったスコールも、「このままだとスコールだって落ち着かないだろ?」と言うバッツの一言に押され───と同時に、問答無用で彼に手を引かれ───、ティナの下へと向かい、


「スコールを見てる理由?」


聖域の屋敷のリビングで、モーグリのぬいぐるみをふかふかしていたティナを見付けると、バッツは直球で訊ねた。
藪から棒にも思える突然の質問に、ティナはどうして突然そんな事を聞くんだろう、と首を傾げる。


「最近、ティナってスコールの事よく見てる気がしてさ。自覚、なかった?」
「んー……ううん」


自覚の有無には、ティナは少し考えた後、首を横に振った。
柔らかな亜麻色の髪と、ポニーテールを結ぶリボンがふわふわと揺れる。


「意識してる見てるつもりじゃなかったけど……あ、私、またスコールの事見てるって、そう言うのは思った事があるよ」
「スコールぅうう!お前ティナちゃんに何したんだよ!」
(だから、それを聞きに来たんだろう…!)


半ば無意識化で行われていた行為だと聞いて、ジタンが血の涙でも流しそうな形相でスコールの身体を揺さぶる。
何をしたのか思い出せ、そして教えろいや教えて下さい、と言うジタンに、スコールは心底迷惑な顔を返して見せていた。

そんな年下達を気にせず、バッツはティナとの会話を続ける。


「なんかスコールの事で、気になる事とかあったのか?」
「うん、ちょっと。…ひょっとして、迷惑だった?」
「全然。ただ、やっぱり見詰められてると、なんでかなって思うからさ」


特に疾しい所がなくとも、熱烈な視線を長い時間受ければ、誰でも少しは気になるものだろう。
バッツなら視線を感じて直ぐに「何?」と問う事も出来るし、ジタンなら相手がティナなら───明らかに負の感情を宿した視線でなければ───理由は判らなくとも喜んだ所だろうが、スコールはそうではない。
スコールは、他者の視線と言うものを気にし、人一倍気配に敏感で、他人から寄せられるプラスの感情に疎い上に免疫がない。
そんな彼にとって、理由不明のティナの視線は、どうして良いのか判らない。

とは言え、迷惑や嫌な気持ちがあった訳ではない。
ティナの視線に対し、彼の中にあったのは、純粋な戸惑いであった。

ティナは、スコールが迷惑がっていた訳ではないと言うバッツの言葉に、ほっと安堵する。
しかし、見つめ続けていた事で、彼を混乱させた事は申し訳なく思い、ぬいぐるみを抱き締めてスコールを見上げ、


「ごめんね、スコール。困らせちゃって…」
「……いや…」
「気にしなくて良いって、ティナちゃん。で、なんでスコールを見てたんだい?」


言葉少ないスコールに代わり、ジタンが改めて訊ねると、ティナはぬいぐるみに顎を埋めて、上目遣いでスコールを見る。
柔らかな藤色の瞳の中で、小さな星がきらきらと揺れていた。

彼女の瞳は、まるで生まれたての赤子のようだと、スコールは思う。
未だ善も悪もないような、真っ白なイメージだ。
その真っ白なキャンバスに、自分が映り込むと、自分の奥底に隠した苦いものが見透かされそうで、それがスコールの苦手意識を震わせる。

しかし、今ばかりは目を反らす訳には行かないだろう。
じっと見詰める藤色を受けつつ、早く何か言ってくれ、とスコールは無表情の下で切実に願う。


「うん……」


スコールを見詰めたまま、ティナは何かを確認するように呟いた。
まじまじとスコールを見ていた瞳が細められ、ティナの貌は柔らかな微笑みに変わる。


「スコールって、いつも凄く落ち着いてるでしょう?」
「……」
「まあ、そうだな」
「バッツに少し分けてやりたい位になー」


尻尾を揺らして言ったジタンに、なんだよー、とバッツが拗ねた顔をする。
スコールはそんなバッツを、胡乱な眼で見た。
ティナは三人の表情を見てくすくすと笑い、


「凄く頼りになるし、色んな事も知ってるし」
「うんうん」
「でも、時々、凄く可愛い」
「うんうん」
「……は?」


ティナの言葉に、ジタンとバッツは快く頷くが、スコールには聞き捨てならない一言が聞こえた。
ちょっと待て、と言いかけたスコールだったが、サイドに控えた二人が素早くスコールの口を塞ぐ。

ティナは更に続けた。


「朝が早かった時、寝癖がついてて気付いていなかったりとか。ご飯を食べてる時、とっても丁寧に食べてるとか。カードをしてる時、凄く嬉しそうだったり、凄く悔しそうにしてたり」
「うんうん」
「判る判る」
「カードの時って、凄く判り易いんだよね。勝った時、目がキラキラしてるの。あと、剣を磨いてる時とか、真剣で、夢中になってる時も」


頬を赤らめて語るティナは、どうやら随分と興奮しているらしい。
どちらかといえば大人しい印象の彼女が、そんな様子を見せる事は、滅多に見られるものではなかった。
バッツはそんなティナを微笑ましそうに見詰め、ジタンはティナの笑顔に見惚れている。
が、スコールだけは、そんな悠長な事は言えなかった。

ティナがつらつらと挙げる、自分に関する事。
自分が夢中になっている所や、カードでムキになった所まで見られていたと知って、彼の顔はティナとは別の意味で赤く染まっていた。
それを語るのがティナだと言うのが、また思春期真っ只中の彼には辛い。
バッツやジタンやティーダを相手にするように、力尽くで黙らせると言う事も出来ないから、彼はどんどん赤くなるしかない。


「あとね。寝顔、可愛いの。眉間のシワも取れてて、子供みたい」
「こど……」
「私、スコールの寝顔、好きだな」
「……!」


モーグリのぬいぐるみを抱き締め、頬を赤くして笑うティナの言葉に、スコールは真っ赤になった。
その言葉が、恋愛の意味のないものだとしても、親愛の情であるとしても、年頃の少年が異性に正面から“好き”と言われて平静でいられる訳がない。

真っ赤になって固まったスコールを見上げて、ふふ、とティナは笑う。
彼女の前で、スコールは、バッツにわしゃわしゃと髪を掻き撫ぜられ、ジタンにずるい!代われ!とせっつかれていた。



音を失って、ぱくぱくと唇を開閉させるだけの少年を見ながら、やっぱり可愛い、とティナは思った。





6月8日と言う事でティナスコ!

可愛いものは、ずっと見ていたくなるよねって言う。
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[バツスコ]たまにはこんな退屈な日々

  • 2015/05/08 21:59
  • カテゴリー:FF


木の上に上ったまま、降りられなくなっていた仔猫を助け、着地に失敗して足の骨を骨折したのが、今から一週間前。
回復力の早いと自負しているとは言え、切り傷や打ち身と違い、折れた骨は簡単にはくっついてくれない。
そんな訳で、バッツはしばらくの間、入院を余儀なくされてしまった。

入院生活はとても退屈である。
基本的に、じっとしている事が余り好きではないので、ベッドの上で淡々と時間の経過を待つしかないのが辛い。
ギプスで固定された足を、天井から釣っている為、尚の事身動きは自由にならなかった。
仕様のない事、且つ自分のミスによる、云わば自業自得と言われれば返す言葉もない。
止む無くバッツは、計画していた冒険と言う名の散策や遠出をキャンセルし、退院日を待つのだった。

バッツが入った病室は大部屋となっており、全部でベッドが六つ、その内の半分が既に埋まっていた。
飾らない性格のバッツは、直ぐに病室の雰囲気に馴染み、入院初日から同室者達とは親しくなった。
風に誘われる如く、ふらりとあちこちに足を運んだ時の土産話等、話題には事欠かない。
身振り手振りで面白おかしく、時に愉快な事件に巻き込まれるバッツの土産話は、バッツと同じく暇を持て余す入院患者には非常に受けが良く、回診に来た看護士も交えて、話に花が咲く。

しかし、やはりバッツはじっとしているのが苦手だった。
早く足を治して、次の冒険に行きたい────と、思いつつ。


「バッツ」


呼ぶ声に、うつらうつらと舟をこいでいたバッツの意識は、一気に覚醒に向かった。
眠りかけていた事など忘れたように、ぱっちりと開いた褐色の目に、深い蒼が映る。


「スコール!」
「煩い。病院だろ、静かにしろ」


両手を広げて、よく来たと言わんばかりに喜色満面のバッツに対し、蒼───スコールは至って冷静に言った。
おっと、と両手で口を塞ぐバッツに、スコールは呆れたと溜息を吐く。

スコールは学校帰りのまま此処に来たのだろう、制服に学生鞄を携えていた。
いつもきっちりと着崩さないスコールは、今日も通例に則り、服装に乱れはなく、優等生然としている。
そろそろ暑くなってきたと言うのに、辛くないのだろうか、と思ったバッツは、その矢先に、彼の首筋が酷く赤くなっているのを見付ける。
珠になった汗まで浮いているので、きっと暑くない訳ではないのだろう。
しかし、白い肌の彼は日向に出ると直ぐに皮膚を赤らめてしまう為、迂闊に肌を露出する事も出来ないのだ。
早く制服の衣替えが出来れば良いな、と思いつつ、バッツは身体を伸ばして、ベッド横の備付冷蔵庫の蓋を開けた。


「スコール、冷えてるジュースあるぜ」
「……貰う」
「はいよ」


冷蔵庫の中に入れてあるペットボトルを取り出して、スコールに差し出す。
スコールは冷蔵庫の上のトレイに伏せられていたコップを借り、オレンジ色の液体を其処に注いだ。
────彼が使うそのコップが、スコール専用に用意されたものであると、彼は知らない。


「……ふう」
「外、今日も暑いのか?」
「……ああ」


冷たいジュースをちびちびと飲みながら、スコールは一息吐いた。
ベッド下に収められていた丸椅子を出して腰を下ろすと、鞄からタオルを取り出す。
柔らかな布を額に、首筋に押し付けるスコールに、バッツは眉尻を下げて言った。


「もう上着も脱いじゃえよ。学校じゃないんだし、此処は日も当たんないしさ」
「……そうだな」


体の中に篭る熱も鬱陶しかったのだろう、スコールは素直に頷いた。
春用の上着を脱いで、きちんと締めていたネクタイも解き、ワイシャツの袖も捲り上げる。
終いにはシャツの第一、第二ボタンも外し、襟下を広げてぱたぱたと服の内側に風を送る。

病院内の温度は基本的に一定に保たれており、ずっと此処にいるバッツには涼しくも温かくもない。
しかし、日射に焼かれた外を歩いて来たバッツには、涼しく感じられるのだろう。


「楽になった……」
「だろうなー。ほい、ジュースお代わり」
「…ん」


空になっていたグラスに再度ジュースを注ぎ、バッツはグラスを差し出した。
それを受け取るスコールの眉間の皺は、いつもよりも少し和らいでいる。

バッツは、グラスを傾けるスコールの横顔を眺めていた。
こく、こく、と音を鳴らしながら、喉が上下する。
その喉は汗は多少落ち着いたが、未だ赤みは引いていない。


「大変だなあ、スコールは。日焼けすると直ぐ赤くなっちゃって」
「…それだけじゃない。ヒリヒリするんだ」
「じゃあ、体育とか辛いだろ」
「……最悪だ。おまけに、来月になったら体育がプール授業になる」
「へー、良いじゃん、プール!高校でプールとか羨ましいなあ。おれはなかったぞ」


真夏の暑い時期、釜茹でされるような炎天下のグラウンドでマラソンを敢行された時の辛さと言ったら。
絶対にあの体育教師は頭が可笑しい、と高校時代のバッツとその友人の間では持ち切りだった。
そんな経験を持つバッツにしてみると、水の恩恵にあやかれるプール授業と言うのは、羨ましい限りだ。

しかし、スコールにとっては違うらしい。


「プール授業なんか、日焼けしに行けって言ってるようなものだろ」
「…まあ、そう考えると、スコールには辛いかぁ」


肌の一切が守れないプール授業は、皮膚の炎症を起こし易い体質のスコールにとって、出来れば参加したくないものだった。
しかし、体調不良でもない限り、単位の為にも授業を欠席する訳には行かない。
出来れば一時間目が良い、日差しがまだ強くはないから、と呟くスコールに、バッツは眉尻を下げて苦笑した。


「こればっかりはし仕様がないよなあ。頑張れ、スコール」
「………」


慰めようにも慰められず、バッツはなけなしの激励をスコールを励ましてみるが、効果はない。
グラスに口をつけたスコールの眉間には、いつもと同じ深さの皺が刻まれている。

グラスをもう一度空にして、スコールは鞄を開けた。
取り出したのはA4サイズの茶封筒で、表に"バッツ用"と走り書きされている。
見覚えのある走らせ方は、バッツの大学での友人であるセシルのものだ。


「校門でセシルに渡された。あんたに届けてくれと」
「おっ、助かるー!ありがとな、スコール!」
「…礼はセシルに言ってくれ。俺は持って来ただけだ」


持って来ただけだと言うスコールだが、バッツには緩む頬が押さえられない。
わざわざ届けに来てやったんだぞ、と言う恩すら感じさせないスコールは、自分がこの病院に、バッツの見舞いに来る事を当然と考えているようだった。
それが判るから、バッツの頬はにやけてしまうのだ。

バッツが骨折して入院してから、友人達は入れ替わり立ち代わりに見舞いに来てくれた。
大学の友人であるセシルは勿論、バイト先で親しくなったクラウドやティナも。
スコールの同級生であるティーダも、部活のない日は此処に来て、一日の事をあれこれと報告してくれる。
きっとバッツは退屈しているだろうから、気分を紛らわす為に、彼等は気を遣ってくれているのだ。
とは言え、彼等も暇ではない訳で、毎日バッツの様子を見に来るのは難しい。

そんな中で、スコールだけが毎日病室へやって来る。
彼も暇な訳ではなく、特待生らしく勉強に追われており、学校では学年代表として生徒会にも所属している為、教員に呼ばれてあれこれと手伝いをさせられる事も多いと言う。
定期テストが一段落した後とは言え、毎日バッツの下に来て、他愛のない話で時間を浪費すると言うのは、スコールにとって決して有益な事とは言えまい。


(でも、来てくれるんだよなあ)


丸椅子に座ったスコールは、其処から動く気はないらしい。
明日は小テストがある、と言ったスコールに、頑張れよ、とバッツは言った。
スコールからは特に返事はなかったが、彼の眉間からは皺が一本減った。

────病院生活は、バッツには退屈だ。
入院の原因が足の骨折であるだけに、ベッドから降りて、院内を探検する事も出来ない。
早く治ってくれないだろうか、と思うのは一度や二度ではなかった。

けれど、こうして彼が毎日会いに来てくれるのなら、もう少しだけこの生活を続けるのも悪くない。



……そんなバッツの傍らで、足の怪我の所為でバッツが何処にも行かない事を、スコールが密かに嬉しく思っている事を、彼は知らない。





5月8日なのでバツスコ!
思った以上に健全なバツスコになった気がする。友達以上恋人未満かな?

皆が毎日来ないのは、二人に気を遣ってると言う所もある。
ティーダ辺りは早くくっつけば良いのにとか思ってそう。
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[ソラレオ]どうやら婚約したようです

  • 2015/05/05 22:16
  • カテゴリー:FF
子供の日なので、昨日に引き続き、保育士なレオンです。





今日のヒカリ保育園は、子供達を連れて、近所の河川敷へと出掛けた。
職員は事務員と他数名を残して待機、その他は皆子供達の監督の為に一緒に河川敷へ。
今日はレオンも監督役で、園舎を出発する前から、道中に誰が手を繋ぐかで取り合いが始まった。
レオンは子供達のおやつの入ったバスケットを持っているので、手を繋ぐ権利を得られるのは一人だけだ。
希望者が集まって、公平にジャンケンをした結果、権利を勝ち取ったのはカイリであった。
これには、レオンが一番好きだと言って譲らないソラも、我儘を引っ込めるしかない。

保育園から河川敷までは、大人の足で歩いて三分、就学前の子供なら五、六分と言った所だろうか。
集団でゆっくりと歩くので、もう少し時間はかかるが、道中は至って穏やかなものであった。
平日の昼間とあって、人通りも車の通行量も多くはなく、子供達もきちんと列を作って、引率の職員の後をついて行く。
時々やんちゃな子供が列を食み出すが、各位置で見守る職員達が卒なく捉まえ、列へと戻した。

到着した河川敷は、そよそよと穏やかな風が吹き、草いきれの匂いがする。
天気が良いので、川面で太陽の光が反射してきらきらと輝いていた。


「はーい、着いたわよー」
「わーい!」
「あっ、コラ!一人で行っちゃダメだろー!」


エアリスの言葉に、待ち切れなかったのだろう、やんちゃな子供達が一目散に川に向かって駆け出す。
慌てて追うのはユフィで、そのまま川まで突進しそうな子供達を捕まえた。


「川には近付いちゃ駄目って言ったでしょ」
「えー」
「きもちよさそうなのにー」
「ダーメ!はい、戻って戻って」


ユフィに叱られ、子供達はつまらなそうに唇を尖らせる。
川で遊びたい子供達の気持ちは判らないでもないが、この川は子供が遊べるような深さではない。
ユフィは川に近付きたがる子供達の手を握り、集合している他の子供達の下へと連れ戻した。

全員が揃った所で、職員達でさり気無く誘導し、子供達を扇状に座らせると、子供たちの前にエアリスが立って言った。


「それじゃあ、今から自由時間です。でも、危ないから、川には行っちゃ駄目だよ」
「はぁーい」
「おやつの時間になったら、笛を吹きます。集まれない子のおやつは、なくなっちゃうかもね」
「えーっ!」
「やだぁー!」
「ふふ。だから、きちんと笛が聞こえるように、あんまり遠くには行かない事。えーっと……あの石と、あのベンチから向こうは駄目です。気を付けてね」
「はーい」
「おトイレに行きたくなったら、我慢しないで、早目に近くにいる先生に言いましょう」
「はーい」
「それじゃあ、今から自由時間です。皆、元気に遊びましょう!」

はーい、と子供達の声が重なり、元気な子供達は早速あちこちへ散って行く。

この河川敷には、子供向けの遊具が幾つか設置されている。
定番のシーソーやスプリング遊具の他、箱型ブランコや、回転式ジャングルジムもあった。
レオンはスプリング遊具で遊びたがる子供達の監督を務める事にし、ケンカや横入りが起きないように、順番待ちになるように誘導する。

中々にバランス感覚と筋力が鍛えられる遊具に、子供達が振り落とされないように、レオンは一人一人にきちんと持ち手を握るように促した。
子供達は言われた通り、小さな手でしっかりと持ち手を握り、びよんびよんと前後に跳ねるスプリング遊具の上で、きゃっきゃと笑っている。

子供達が一通りスプリング遊具で遊び、待機列もなくなった頃、一人の子供がレオンの下にやって来た。


「レオンせんせー!」
「ああ。ソラもこれで遊ぶか?」


駆け寄って来た子供は、レオンに特に懐いている、ソラと言う子供だ。
ソラは走る勢いそのままにレオンに抱き付いて、腰にぐりぐりと額を押し付ける。
抱き付いて来た時には、必ず行う甘え方だった。

ソラは一頻りレオンに甘え倒した後、埋めていた顔を上げた。
へへ、と嬉しそうに笑うソラに、レオンはくすぐったさを感じつつ、癖っ毛の髪を撫でる。


「レオンせんせー」
「ん?」
「……へへへ」


呼ぶ声に、頭を撫でながら答えてやると、ソラは顔を赤らめた。
見上げる顔はにこにこと上機嫌だが、何やら興奮気味にも見える。
何か面白いものでも見付けて、それを報告しに来たのかも知れない、とレオンが思っていると、


「あのね、せんせー。ちょっとしゃがんで」
「こうか?」


ソラのおねだりに応え、レオンは膝を折って、ソラと目線の高さを揃えた。
近くなったレオンの顔に、ソラはそう、と頷いて、ずっと手に握っていたものを差し出す。


「はい、これ。レオンせんせーにあげる!」


そう言ってソラが差し出したのは、シロツメクサの花で作った小さなリングだった。
小さな子供でも腕に通すには小さすぎるそれは、きっと指に嵌めるものだろう。
シロツメクサの白が、指輪の宝石のように眩しい。


「先生が貰って良いのか?」
「せんせーのために作ったんだもん」
「そうなのか。ありがとう、ソラ」


嬉しい事を言ってくれるソラに、レオンは笑って礼を言った。
早速花のリングを受け取ろうと右手を差し出すと、


「あ、まって」
「ん?」
「こっちの手。こうやって」


ソラはレオンの左手を指差して、甲を上にするように言った。
「こうか?」と左手を伏せて見せると、小さな手が、レオンの手を柔らかく掴んだ。

する、と薬指にくすぐったい感覚。
見れば、シロツメクサの宝石が、レオンの指の上で揺れていた。


「これは……」
「けっこんゆびわ!」


思いも寄らぬ言葉に、レオンは目を丸くした。
ソラはそんなレオンを見上げ、健康的に日焼けした頬をリンゴのように染めて笑う。


「すきなヒト同士はけっこんの約束をする時、ゆびわをあげるんでしょ」


ぽかんとした表情になっているレオンの前で、あれ?こんやくゆびわだっけ?とソラは一人で首を傾げる。
あれ?あれ?と首を右へ左へ倒した後で、どっちでもいいか!と笑った。
シロツメクサの指輪を嵌めたレオンの手を、ぎゅっと小さな両手が握る。


「はずしちゃダメだよ。おれとレオンせんせーのけっこんの約束なんだから」
「ソラ……」


ソラの表情は何処までも真剣で、本気でレオンと結婚しようと思っているらしい。
レオンの手を握る彼の手は、心なしか緊張したように固い。
じっと見詰める円らな瞳の傍ら、唇がきゅっと引き結ばれていた。

可愛いものだ、とレオンは思う。
飾る事を知らない子供の言葉は、いつも真っ直ぐにレオンの心を射抜く。
くすぐったさすら感じてしまう程の一途さで、レオンを捕まえようと一所懸命だ。

レオンは左手を握るソラの両手に、そっと右手を乗せた。
途端、真剣な顔をしていたソラの貌が、沸騰したヤカンのように真っ赤になる。
どうやら、相当な努力をして、真面目な顔付をしていたらしい。
ぽこぽこと湯気が出そうな程に赤い顔をして、今更のように挙動不審になるソラに、喉の奥で笑いを堪えながら、レオンは小さな両手を優しく握った。


「ありがとう、ソラ。大事にするよ」
「う、うんっ!」
「ほら、リクとカイリが呼んでるぞ。遊んでおいで」
「うん!」


受け取って貰えた事で、嬉しさを振り切ってしまったのだろう。
ソラは紅潮していた頬を益々赤らめ、瞳はきらきらと輝いて、レオンの言葉に頷いた。

行っておいで、とレオンが背中を押してやると、ソラは元気よく駆け出して行った。
幼馴染の輪に戻って来たソラに、リクとカイリが何かを言うと、ソラは胸を張って見せる。
良かったじゃないか、とリクが言い、カイリが祝福するように手を叩いていた。

レオンは左手の薬指に通された、小さな花のリングを見た。
川の向こうから吹いた風に、シロツメクサの花弁が揺れて、指が少しくすぐったい。
ソラはこの指輪を外さないでと言ったけれど、園舎に戻ったら、仕事の為にも外さなくてはならない。
そうでなくとも、一日二日もすれば、この可愛らしい花の指輪は、すっかり草臥れて、直に枯れてしまう。


(……勿体ないな)


ソラは決して手先が器用ではない。
折り紙は苦手だし、解けた靴紐もまだまだ結べないし、どんなに頑張っても縺れさせてしまうのがパターンだった。
そんな彼にしては、このシンプルな指輪は綺麗に結び作られていて、花も潰れていない。
きっと何度も練習したのだろう、大好きなレオン先生に結婚の約束をする為に。



小さな子供の抱く夢が、いつまでも変わらず続いて行くとは思っていない。

けれど、あの子が同じ夢を見ている間は、この花も変わらずに残っていれば良いのに、と思った。





子供の日なので、引き続き保育士レオン!
押せ押せソラにびっくりしつつ、悪い気はしない。可愛いなあと思ってる。
ソラは真剣だけど、やっぱりこの年齢差は大きいね。頑張れソラ!
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