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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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カテゴリー「FF」の検索結果は以下のとおりです。

[ティスコ]君の声を聴きたい

  • 2018/10/08 21:30
  • カテゴリー:FF


「スコールって、声出さないよな」


そう言ったティーダの表情が、拗ねた子供のように見えて、スコールは眉根を寄せた。

本当は今直ぐにでも寝落ちてしまいたかったが、呟きが独り言の音とは違った事に気付いてしまったので、虫をする訳でにはいかない。
体の冷えを嫌ってシーツを独り占めする事を代価に、スコールは重い体を引き摺るように起こして、スコールはティーダと向き合う。


「…何の話だ?」
「セックスの時の話」


シーツに包まりながら訊ねるスコールに、ティーダは拗ねた表情のまま言った。
こんなタイミングで言い出すのだから、そうだろうとは思っていたが、とスコールの眉根に更に皺が深くなる。

────セックスの時、スコールは余り声を出さない。
環境が環境であるから、隣の部屋や、同じ屋根の下で過ごす仲間達の気配を気にしての事もあるから、それは仕方がないとティーダも思っている。
けれど仲間が誰も屋敷にいない時や、二人で探索に出て野宿をしている時など、人目を気にしなくて良い時ですらスコールは声を出すまいとしていた。

スコールが普段から口数が少ない、無駄な会話を嫌う事は判っている。
セックスの時でも無駄なお喋りをしろ、等とはティーダも言うつもりはないし、そんな事をしたら折角の雰囲気が台無しだ(雰囲気なんてあってないようなものだとスコールは思っているが)。
だからティーダも、平時は賑やかし担当と憚らない口を出来る限り噤んで(緊張している所為も含めて)、熱を共有し合う事も夢中になる。
そうして言葉少なに熱くなって溶け合って、一つになる感覚だけを追い求めるのが、ティーダとスコールのセックスだ。

だが、ティーダは其処に些細ではあるが不満を持っていた。


「俺さ。スコールの声、もっと聞きたい」
「……必要ないだろう」
「あるって!めちゃくちゃあるって!」


真剣な顔で要望を訴えるティーダに、スコールは苦い表情で突っぱねた。
しかしティーダは今こそ理解を求めねばならないとばかりに、齧り付く勢いで押し迫ってきた。
近い距離感に反射的に体を逃がしつつ、スコールは嫌な予感を感じつつ、尋ねる。


「何でそんなに必要だと思うんだ?」
「だって声が聴けたら、スコールが感じてるって判るから」
「このっ!」


嫌な予感が的中した、とスコールは傍らの枕をティーダの顔に投げつけた。
顔面に枕を受けたティーダだが、そんなものは気にせず「真面目に言ってるんスよ!」とスコールに顔を近付けて来る。


「スコール、いっつも口噛んでて、痛いんだか気持ち良いんだか見てて判らないんだもん。声出してくれたら、もっとちゃんと判るのに。だから、」
「断る。拒否する」
「なんでぇ!良いじゃないっスか、声出す位。痛いんだったら、そっちの方が楽になるって言うし。いや、痛くないようには、頑張るけど。でも最初の方とか、どうにもなんない感じの時とかさ」


男同士でのセックスなのだから、何かと無理が伴うのは致し方のない事だ。
初めての時などは二人揃って未知の事ばかりだったから、受け入れる側のスコールの負担は勿論、ティーダも厳しい所は多々あった。
元の世界ならば膨大な情報網があるお陰で、この手の調べ物にも困らなかっただろうが、生憎神々の闘争の世界にそう言った便利な道具はない。
なんとなく聞いた事のある事を試したり、潤滑剤の代わりに使えそうなものを探したりと、試行錯誤は続いた。
その末に、最近ようやく、多少の余裕を持っての情交が出来るようになったのだが、それ故なのか、最中の相手の事も見る事が増えていた。

口付け合い、触れ合い、そうした心地良さを感じる事が出来るようになったのは良い事だ。
反面、ふとした時の表情や様子、体の強張り等も感じ取れるようになって、ティーダはそうした所から感じたものが不満となって蓄積していた。


「セックスするの、俺は出来るのが嬉しいし、気持ち良いけど。スコールはどうなのかなって思ってさ。最初の頃とか、めちゃくちゃキツそうな感じだったし……」
「……まあな」


ティーダの言葉に頷きつつ、今もキツいけど、とは飲み込んだ。
そればかりは体の都合と言うもので、付き合わねばならない事だと、スコールは既に割り切っている。
ただ、痛みなく済む方法があるのならその方が良い、と言うのも本音であった。


「スコール、最初の頃はやっぱり痛いとか苦しいって顔してて。今もそんな感じの顔してるから、あんまり気持ち良くなれてないんじゃないかと思って」
「………」
「声も我慢してるし、たまに聞こえるけどやっぱり苦しそうって言うか……」


抱き締めて、熱を共有して、刺激を受ければやがては吐き出される。
ティーダの体はそれで充足感を得る事は不可能ではないが、どうしても心は恋人の様子が気になって引っ掛かりを覚えてしまうものだった。

ティーダはスコールの事が好きだ。
同じ気持ちを共有し、体温を共有する事が出来て、それをスコールが赦してくれる事も嬉しいと思う。
だがそれだけでは自分ばかりが喜んでいるだけで、大好きな相手の事を蔑ろにしてはいけない。
スコールにも喜んで欲しい、気持ち良くなって欲しい、満足して欲しい────ティーダはそう思っていた。


「俺がスコールの事もっとよく判ってれば良いんだとは思うんだけどさ」
「……それは、別に…義務ではないだろう、そんなものは」


恋人とは言え他人なのだから、感覚の共有は出来ない。
だからスコールがセックスの時にどんな状態なのか、ティーダが目で見て判らないのも無理はない、とスコールは言う。
────と言うよりも、万が一にも感覚の共有なんてものが可能であったら、スコールはあらゆる理由でティーダとセックスなんて出来ない、と思っている。

しかし、ティーダの方ではそうではないようで、


「俺、やっぱり鈍いから、言ってくれないと判んない事多くて……」
「…それで、俺に声を出せと?……何処で感じているか逐一言えと?」
「えっ!?そ、其処までは言ってないっスよ!」
「当たり前だ、真に受けるな!」


嫌味混じりの言葉に、本気で慌てたリアクションをするティーダに、スコールは余計な事を言ったと火が出る顔を誤魔化すように声を大きくした。
その後で今が夜である事、隣の部屋の住人の事を思い出し、口を噤んで俯く。
ティーダも気まずげに赤らんだ顔で、視線を右往左往と泳がせつつ、気を取り直して言った。


「だから、えーと……声がもうちょっと聞けたら、判り易くて、その……俺が安心するって言うか……」
「………」
「……ごめん、俺の事ばっかりだよな……」


しゅん、と子犬が耳を垂れるように落ち込むティーダ。
スコールは眉根を寄せつつそれを横目に見て、立てた膝に押し付けた口元を尖らせていた。


(……そんなに俺は判り難いのか)


確かに、行為の最中に色々な事を押し殺し隠している所はある。
性的刺激を得ている事も出来れば隠したいし、刺激による反応なんて恥ずかしくて堪らない。
しかし、そうしたものを与えているのがティーダだと言う事は、スコールとて嫌な訳ではないのだ。
根本的に他人の体温、触れ合う事が苦手だと自覚している自分が、彼に触れられる事に限っては当て嵌まらない。
それだけスコールにとって、ティーダの存在は特別だと言う事だ。
だから反応だの声だのと言う事は置いておいて、その“特別に許している事”で、ティーダに自分の状態と言うものを理解して欲しいと思う。


(判るだろう。判れよ。……判ってくれ)


しかし、それはスコールの我儘だ。
ストレートに表現できない、それをする事を恥ずかしいと思う自分の事を棚に上げて、言わなくても判って欲しいと駄々を捏ねている。

俯き、黙ったままのスコールを、ティーダはじっと見詰めていた。
スコールが思考の海に沈んでいる時は、ぐるぐると回る沢山の感情を整えようとして上手く出来ない時だ。
それが判らない程、ティーダもスコールの事が判らない訳ではないし、同じように考え込んで出口を見失い事も少なくない。
それだけに、スコールを酷く思い悩ませてしまっている事も理解出来てしまった。


「……ごめん、スコール。俺の我儘で困らせて」
「……別に。困っては、いない」
「…そっか。ありがと」


そう言って、ティーダはスコールの米神に鼻先を寄せた。
子犬か子猫が甘えるように、掠めるだけのキスをしたティーダに、スコールがゆっくりと顔を上げる。
青にゆらゆらと揺れる蒼が映り込んで、ティーダはにっかりと笑って見せた。


「スコールはそのまんまで良いよ。俺がちゃんと出来るように頑張るから」
「……お前一人で頑張るようなものでもないだろ」


自分が何とかすれば良い、と思ってくれるティーダは優しい。
それに甘えられたらスコールはどんなに楽だろうと思うけれど、結局の所、それでは擦れ違いは繰り返されるだけだろう。
何より、ティーダ一人に何もかも背負わせる事を、スコール自身も良しとは出来ない。
スコールもティーダに気持ち良くなって欲しいと思っているのだから。


「声、は…ともかく。お前とするのは、嫌いじゃないから……」
「ほんと?」
「……ん」
「じゃあ、気持ち良い事もある?」


今だとばかりに直球で訊ねて来るティーダに、聞くのかそれを、とスコールは口を噤む。
此処まで言ったのだから判るだろう、とスコールは何度目か知れずに思ったが、問うティーダの表情は真剣だ。
じぃっと見つめるマリンブルーの瞳は、答えが欲しいと真っ直ぐに訴えていた。

触れ合った感触を忘れていない体が、じわりと熱を持つのが判る。
今だけこの感覚が目の前の相手にそっくりそのまま伝われば良いのに、そうすれば言葉で伝える必要もないだろうに、と思う。
しかし、そんな都合の良い奇跡が起こる筈もなければ、目の前の恋人が引き下がってくれる事もなく、スコールは小さな声で答えるしかないのだった。





10月8日と言う事で、いちゃいちゃ初々しいティスコ。
始まるとそれぞれ自分の事に必死になってしまうけど、相手もちゃんと気持ち良くなって欲しくて手探り中な二人とか可愛いなって思いました。
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[ジタスコ]君が許してくれるなら

  • 2018/09/08 22:30
  • カテゴリー:FF


スコールが常識とする範囲では、未成年は基本的に飲酒は禁止されている代物だ。
酩酊状態になって起こり得る様々なトラブルを回避する意味でもあるし、まだ体が未発達な段階にあってアルコールを摂取する事によって考えられる弊害云々と言うのも理由にあった気がする。
それを真面目に守る者もいれば、知った事かと堂々とルール違反をする者もいるし、こっそり飲んでいる連中もいたので、四角四面にする程厳密に守られているルールでもなかったが。

しかし異世界から来た仲間達を見ていると、そう言ったルールが設けられているのは、此処に限って言えば少数だった。
スコールと同じ感覚を持っているのはティーダとクラウド位のもので、他のメンバーはまちまちだ。
フリオニールやティナは自分が飲酒する事にも特に疑問はないようで、フリオニールに至ってはスコール達に「飲まないのか?」と奨めて来た事がある程だ。
彼にとって酒は水よりも保存の効く補給剤でもあり、幼子でもなければ案外と普通に口にする機会は多かったらしい。
ルーネスは記憶の回復が芳しくない為、自身に飲酒の経験があるかは判らないが、奨められても口にする事はなく、酒独特の味や匂いそのものが余り好ましくないようだ。
そしてジタンはと言うと、育った環境が環境であった為、早い内から酒を飲んでいたと言う。
お陰で酒の失敗も一通り熟してきたそうで、自身の許容量はとうに把握しており、闘争の世界での息抜きに酒を飲む機会に恵まれても、彼はあまり寝落ちるまで飲むような事はしない。

────のだが、それも時と場合とテンションに因るのだろう、とスコールは思った。

珍しく酒が多く手に入ったからと、秩序の聖域の屋敷内では酒盛りが催された。
其処にバッツが気を利かせて酒にあう摘まみを大量に作ったので、酒は要らないメンバーも同伴に預かり、そのままそれが夕飯となった。
飯の席から延長される酒盛りに、スコールは参加していない。
酒は最初から飲む気がないし、飲まずとも同席していると酔った賑やかし組に絡まれて、大抵碌な事にはならないからだ。
ウォーリアも珍しく飲んでいたので、偶には休めと体の良い事を言って、日課としている聖域近辺の見回りを代わりに買って出た。
それからスコールは見回りと称した暇潰しを済ませ、そろそろ宴のピークは過ぎただろうかと言う頃合いで、聖域へと帰還する。

そしてスコールが見たのは、片付けをしているフリオニールとバッツと、酔い潰れたクラウドとジタンであった。
他のメンバーはどうしたのかと尋ねると、ウォーリアとセシルは潰れる前に自室に向かい、ティナは寝入る前にルーネスが部屋へと誘導したそうだ。
フリオニールとバッツは、摘まみを作りながらの酒盛りだったので、他のメンバーよりも飲んではいないらしい。
そのお陰で酔っ払う事もなく、片付けまで引き受ける事になったのだろう。


「は~。なんつーか、貧乏クジっスね。お疲れ様」
「はは、構わないさ。作るのも飲むのも楽しいしな」
「おれもだよ。皆も美味い美味いって食ってくれるしな。今日は良い夢見れそうだ」


感心した風に言うティーダに、フリオニールとバッツは笑いながらそう言った。
彼等も酒を飲んでいる所為もあるのだろうが、口調は朗らかで、片付けも全く苦に思っていないのが判る。
そんな殊勝さは自分にはないな、と思いつつ、スコールはテーブルの上に散らばっている食器を片付けていたが、


「ああ、其処はおれ達がやるよ」
「だが数がある」
「平気平気。それより、ジタンとクラウド、部屋に運んでやってくれないか?」
「……ん」


スコールの手から食器を攫いつつ、バッツは床で転がっている二人を指差した。
確かにあちらも放って置く訳には行かない。
スコールはティーダにも声をかけて、二人の下へ向かった。

床に寝転がっているジタンとクラウドは、良い塩梅に酒が回って、良い夢を見ているらしい。
むにゃむにゃと意味不明な寝言を言っているジタンの頬を、スコールはぺちぺちと叩いてやった。
その横ではクラウドがティーダに体を揺さぶられている。


「おーい、クラウドー。起きるっスよ~」
「ん……もう朝か……?」
「ふあ……あー、んー…スコール…?」
「起きたな。立て、寝るなら自分の部屋で寝ろ」


それぞれ目を開けた二人に声をかけて、スコールはジタンに、ティーダはクラウドに肩を貸しながら立ち上がらせる。
背が低いジタンはスコールに半分吊り上げられているような状態で、細身の体に寄り掛かって体重を支えられていた。
足はどちらも大した力が入っておらず、スコール達は仕方なく、彼等を引き摺りながらリビングを後にした。

人を抱えて階段を上るのに一苦労し、それぞれジタンとクラウドの部屋へ向かう。
じゃあお休み、とティーダと就寝の挨拶をして、スコールはジタンの部屋へと入った。


「着いたぞ、ジタン」
「んんんー……」
「……」


寄り掛かったまま離れようとしないジタンに、スコールは溜息を吐いて、ベッドへ向かう。
腕を肩に回させていたので、半ば釣りあげていたジタンの体を、改めて持ち上げてベッドに寝かせてやった。

妙に重労働したような気分になって、スコールはベッドの端に腰を下ろす。
と、ごろりとジタンが寝返りを打って、スコールの背中にドンッとぶつかった。
胡乱な目で肩越しに睨んでみると、ジタンはうにゅうにゅとまた意味不明な寝言を呟きながら、スコールの腰に腕を回してくる。
その腕がもぞもぞと動いて、スコールの薄い腹を触っていた。


「おい」
「んんー……」
「………」


さわさわと撫でるように腹をくすぐられる感覚に、スコールの眉間の皺が深くなる。
が、所詮は酔っ払いのやる事か、と溜息を漏らすのみであった。

ジタンを部屋に運び終えたら、直ぐにでも自室に引っ込んで、明日に備えて眠るつもりだった。
しかし一度腰を下ろして落ち着いてしまうと、もう一度立ち上がるのが面倒臭い。
もっと言えば、抱き着いているジタンの腕の力が存外と強く、振り解くのに労が必要になりそうなのも、面倒臭かった。

そんな気持ちでジタンのしたいがままにさせていると、


「スコール~」
「……なんだ」
「部屋、戻んねぇの?」
「……戻る」
「じゃあその前に、膝枕してくれ」
「……はあ?」
「良いだろ?恋人なんだしさ」


突然のジタンの言葉に、スコールは思わず間の抜けた声を出していた。
何を言っているんだ、酒が脳まで回ったか、とスコールが呆然としている間に、ジタンはもぞもぞと起き上がって、ベッド端に身を寄せて来る。
四つ這いで近付いて来たと思ったら、ジタンは勢いよくスコールの太腿に頭を落とした。
どすっ、と決して軽くはない人間の頭が躊躇もなく落ちて来たので、じんじんとした痛みが肉に響くのを感じ、スコールの眉間の皺がまた深くなった。

んーんーと言う唸っているのか寝惚けているのか判らない声が、自分の太腿から聞こえてくる。
ぐりぐりと頬やら額やら腿に押し付けられるのは、なんとも妙な気分になるので止めて欲しい。
と、声に出して言えば良いのだが、思いもよらぬジタンの行動に混乱気味に陥っていたスコールは、されるがままになっているのだった。


「んん~……」
「………」
「………かてぇ………」
「……なら離れろ」


スコールの太腿の上で、たっぷりと時間を取ってから呟かれた言葉に、やっとスコールもフリーズ状態から解除された。
ジタンの事だから、きっとティナのように柔らかい膝枕を所望していただろうに、頼む相手が間違っている。
希望したものと違うと判ったのなら、もう十分だろうとスコールは離れるように促したが、予想に反してジタンは動かなかった。


「いやぁ。これはこれで……割と」
「硬いんだろ」
「硬いけど。悪くはねえなぁって。お前、怒ってないみたいだし」


俯せにしていた頭がひっくり返って、仰向けになってスコールを見上げる。
空色の瞳に自分の顔が鏡のように映り込むのを見て、スコールはすいっと視線を逸らした。

するり、とスコールの首に何かが滑る。
ジタンの手だ、と直ぐに気付いた。
普段の遊びでじゃれついて来る時とは違う触れ方に、スコールは胸の奥で鼓動が勝手に早くなるのが判った。

スコールの上体を支える腕に、金色の尻尾がしゅるりと巻き付く。
器用な尻尾だ、と思いつつ、首筋をくすぐる指を好きにさせていると、ぽつぽつとジタンの呟く声が聞こえる。


「スコール、触られるのって好きじゃないだろ。そんなお前が、こうやっても怒らないってだけで、オレは結構嬉しいんだよ」
「………」
「こういう事するの許てくれてるってだけで、凄く特別な事なんだろうから」


ジタンの言葉は、的を射ている。

スコールは特別親しい間柄のものであっても、過度なスキンシップは好まないし、況してや膝枕なんて以ての外だ。
ジタンもそれは理解しているので、スコールが顔を顰めるような事を敢えて仕掛けて来る事はない。
今ばかりは酒に酔っていると言う免罪符もあり、ちょっとした冗談のつもりでやってみたら拒否されなかったので、此処ぞと甘えているようなものだった。
だが、それも二人の関係が恋人同士と呼ばれる程に近付いているからこそだ。
そうでなければ、スコールは馬鹿な事を言うなとさっさと振り落としているだろうし、そもそもジタンも冗談とは言えこんな事は頼みもしないだろう。
特別な関係であるからこそ、スコールはこの距離を赦し、赦しているからこそ、ジタンも自分がスコールにとって特別なのだと実感するのだ。


「だから、結構良い感じだぜ?この膝枕。もうこれで十分って位」
「……」


笑顔のジタンの言葉に嘘はない。
それが判っているから、スコールは胸の奥がむずむずと酷くこそばゆい気分になった。


「……十分なのか」
「うん。ま、割とな」


確かめるように問うたスコールに、ジタンは笑って答えた。
好きな人が自分を甘やかしてくれる、ほんの少しでも特別扱いをしてくれる。
その事を感じる度に、ジタンは言葉では表せない程の幸福感を感じるのだ。

────そんなジタンの額に、ふ、と落ちる柔らかな感触。
記憶にはまだ新しく、しかし何度も感じた訳ではないが、忘れる事の出来ない感触に、ジタンが目を丸くしていると、薄らと熱を持った蒼灰色が目の前で閃く。


「……十分なら、あんたはもう、いらないのか」


これ以上のものは、もういらないのか、と。
白い頬を微かに赤く染めて言った後、スコールは口を噤んだ。
らしくもない事を言った、俺も酔っているのか、酒を飲んだ訳でもないのに───と口の中で幾つも言葉が飲み込まれて行く。
自ら触れた唇を手で隠し、明後日の方向を向いた所で、告げた言葉が消える訳でもないのだが、膝下に寝転がったまま見上げて来る恋人から逃げるには、そうする以外になかったのだ。

真っ赤になったスコールを見上げるジタンもまた、恋人と同じように赤くなっていた。
不意打ちも不意打ちだったスコールの行動と言葉に、いつも雀のように賑やかな口が、告げる言葉を失っている。


(お前、それは、ズルいだろ)


これで十分、と確かに自分は言ったけれど、欲しいものがない訳ではない。
時には彼から触れて欲しいし、求めて欲しいし、示して欲しい事だってある。
それと同じように、幾ら今の関係や状態に満足しているつもりでも、いらないものなど有りはしない。

心地良かった酒の酔いは、綺麗に吹き飛んでいる。
精一杯の言葉をくれた恋人に、歌でも贈れたら良かったのに、お喋りな筈の口はこんな時に限って仕事放棄だ。
結局、いります、の一言を絞り出すのが精一杯だったとは、情けないので知られるまいとジタンは思った。





9月8日と言う事で、ジタスコ!
大体&な雰囲気になり勝ちなうちのジタスコですが、今回はいちゃいちゃしてるのが書いてみたかった。

スコールが嫌がらないように適度な距離を取りつつ、時々恋人らしい事もしてみたいジタンと、ジタンの距離の取り方には安心してるけど近くなるのも嫌ではない寧ろ嬉しいスコールでした。
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[クラレオ]気まぐれバースディ

  • 2018/08/11 23:05
  • カテゴリー:FF


特別に気に掛ける程の間柄ではない、と言ったら語弊になりそうだが、実際にそう言う間柄なのだ。
そもそもが誕生日等と言うものを意識するような性格でもないし、ユフィやエアリスが言い出さなければスルーしている事も多い。
況してや祝われる立場になる本人が不在である事も多いので、気合を入れて準備した所で、空振りなんて事もあるのだ。
そんな事に限られた時間を費やすのなら、パトロールをしていた方が良い、とレオンは思う。

セックスをしている事を恋人と呼ぶのなら、そうなのだろうとは思う。
お互いが何処で何をしているかも知らず、知らなければいけないとも思わない、それでも二人の関係を呼ぶのならば、“恋人同士”になるのだろう
そうでなければ“セックスフレンド”と言う事になるのだが、それはあちらが嫌がった。
世の中で言うような、甘い甘い砂糖菓子のような雰囲気などは求めないが、その呼び方は嫌だ、と彼が言ったので、一応、自分達の関係を指す言葉は“恋人”と言う事にしている。
それを思うと、相手の誕生日と言うのはやはり某か祝ってやるべきではないか、とも思うのだが、それとこれとは話が別なのだ。

だが、仲間達が祝おうとしている空気があるのなら、レオンはそれに合わせるようにしている。
彼も自身の誕生日に然したる興味はないが、祝って貰えるのなら嬉しい事だと受け止めるようになった。
それからは、自分の誕生日が近いと知ると、日付感覚を少し意識して過ごし、当日には故郷に足を運ぶようにしている────切っ掛けがないとすっかり忘れている事も多いが。

今年の彼────クラウドは、偶然にも三日前からレディアントガーデンに戻って来ていた。
特に要件があったと言う訳ではないのだが、何処かの世界で大規模な戦闘に巻き込まれ、休息を求めて帰ってきたらしい。
レオンは彼が帰ってきたら色々と任せたい仕事があったのだが、玄関で出迎えた時から寄り掛かって来るのを見て、仕事の事は諦めて、誕生日が終わるまではのんびりと休養させる事にした。
そのついでに、本人がいるのなら丁度良いと、誕生日に欲しいものはないかと尋ねてみると、


「お前が欲しい」


と言う、直球且つ即物的な返事が寄越された。
疲れているのにそう言う欲は元気なのか、と呆れたが、まあ良いか、と思う事にした。



クラウドの誕生日の当日、再建委員会の本部では、細やかなパーティが開かれた。
レオンとエアリスが作った料理を食べながら、ユフィとシドの手製のポータブルゲームがクラウドにプレゼントされた。
セキュリティシステムの構築で忙しいだろうに、よくゲームなんて作る暇なんかあったな、とクラウドは思ったが、プログラムの殆どは既存の物を流用しているのだと言う。
データ世界の中にいる仲間の手も借り、其処に存在しているありとあらゆるプログラムの中から、遊びに使えそうなものを送って貰い、シドがそれを組み立てた。
キャラクターデザイン等はユフィが行ったそうで、独特な味のあるテクスチャが3Dポリゴンを彩っている。
ゲーム自体は単純な作りのものが多く、壮大な物語を追うようなものはないが、暇な時間を潰すには丁度良いだろう。

食事の後は成人メンバーで少し酒を嗜み、シドが潰れた所でお開きにした。
レオンとエアリスが片付けをしている間に、クラウドがシドをベッドへ運ぶ。
ユフィも夜更かし気分で起きていたのだが、エアリスから寝るように促されて、自分の足で部屋へと帰った。
それから片付けを終えたエアリスに見送られ、レオンとクラウドは帰路へ着く。

街の中心部から離れ、未だ人の気配のない静かな道を歩きながら、レオンはクラウドに言った。


「もう疲れは取れたのか」
「ああ。良い休暇になった」


頷くクラウドに、それは良い事だ、とレオンは呟き、


「じゃあ、明日からはしっかり働いて貰うとするか」
「……面倒な事をやるのは御免だぞ」
「さて。色々とやる事が溜まってるからな。まあ、セキュリティ云々の所を触らせる事はないだろうから、それは安心しろ」


レオンの言葉に、それなら良いか、とクラウドも安堵する。
セキュリティプログラムの構築なんて物は、専門家のシドと、平時からそれを見てチェックも行っているレオンの仕事だ。
肉体労働が専門なんだと呟くクラウドに、それで十分だとレオンも思う。
何せ再建委員会は、頭脳労働担当も足りないが、肉体労働のみに集中する人間も足りないのだ。
どちらにせよ人が増えてくれるのなら、レオンは足りない方に集中できる。


「シド達が作っていたゲームは、楽しめそうなのか」
「ああ。ミニゲーム系が多いが、悪くない。テクスチャに慣れるのに時間がかかりそうだが」
「ユフィの絵か。随分楽しんで作っていたようだし、確り遊んでやれ。その方が作った方も喜ぶだろう」
「あんたとエアリスは触っていないのか?」
「エアリスは───ユフィと一緒に何か描いていたから、何処かに組み込まれてるんじゃないか。俺はゲームはさっぱりだからな、見ていただけだ」


プログラムの構築そのものは、シドの作業に付き合わされている内に慣れたが、娯楽事と言うとレオンはさっぱりだ。
暇を潰すなら本を読んでいれば十分で、遊ぶ事自体にもやや疎い所があるから、どんなゲームが楽しいかと考えても、レオンにはさっぱり判らない。
試遊も兼ねてデバッグに少し付き合ったものの、そもそもゲーム慣れしていないレオンでは、何が正しい挙動なのかもよく判らなかった。
言われる通りにキャラクターを動かし、プログラムの作動を見守った程度なので、手伝った内には入るまい、とレオンは考えている。

古びたアパートに着いて、二階への外階段を上る。
玄関を開けて部屋の電気を点けると、レオンはバスルームへと向かった。


「先に入るぞ」
「ああ」


クラウドはひらひらと手を振って、先に寝室へと向かう。
勝手知ったるレオンの家であるから、何か必要なものがあれば自分で適当に漁るだろう。
室内が汚れるような事がなければ、別に何をしていても構わない、とレオンは思っている。

皆で開けた酒による心地良さはまだ続いていて、酩酊はしていないが酔ってはいるのだろう。
湯を入れてのんびりと休息したい気持ちもあるが、これで入浴するのは危ないな、と諦めた。
少し温めのシャワーで汗を流しに留めて、レオンはバスルームを出た。

タオルを片手に寝室に入ると、クラウドがベッド横に背を預けて、早速ゲームを試していた。
ピコピコと昔懐かしい電子音を鳴らしながら遊んでいるのは、何十年も前に発売されたゲームデータを発掘して作ったものだ。


「面白いか」
「ああ。操作性が限られるから、今時のものより難しい」


ふぅん、と気のない返しをしつつ、レオンはベッドに上る。
まだ水分の抜けきらない髪を拭いていると、何度か嘆く声が聞こえた。
ぐあああ、と特訓中よりも苦しそうな声が聞こえるのが、少し面白い。

放って置けばいつまでもゲームに熱中していそうなクラウドだったが、今日は祝われ疲れでもしたのか、十分程で手を離した。
一頻り試して今日の所は満足したのだろう、次に遊ぶのを楽しみにしている横顔が見れた。
その横顔に、レオンは声をかける。


「おい、クラウド」
「なんだ」


呼んだ所で、クラウドが振り返らないのは判っていた。
だからそのまま、レオンはクラウドの頬にキスをする。


「……!?」


一瞬、何が起こったのか判らない様子で固まった後、バッとクラウドは勢いよく振り向いた。
何をした、と言わんばかりの表情に、レオンは悪戯が成功した子供の気分で口角を上げる。

レオンはベッドヘッドに背を預け、呆然とした表情で見上げる男を見下ろして言った。


「誕生日だからな。ほら、プレゼントだ」
「……本気か?」


レオンが何を指して“プレゼント”と言ったのか、はっきりとは言わずとも、クラウドも理解した。
が、いつにないレオンの誘い文句に、クラウドの目が胡乱に細められた。
まるで罠を疑っているような表情に、レオンはくつりと笑い、


「要らないなら別に良いんだが」
「誰が受け取らないと言った」


ぎしっとベッドのスプリングが軋み、クラウドがベッドに乗って来る。
ベッドヘッドに寄り掛かっているレオンを、自分の体で挟んで追い詰めるように閉じ込めて、クラウドはレオンの唇を塞いだ。

何度も唇の形を舐められているのを感じながら、レオンは薄く唇を開く。
舌が直ぐに入ってきたので、絡めて応じてやると、あちらもムキになったように絡めて来た。
舐め合って絡まり合う唾液が、くちゅ、ちゅく、と言う音を立てている。
クラウドの手がシャツの上からレオンの胸を弄り、膝が足を割って、体が割り込む。
それをレオンは止める事なく、応じる形で足を開きながら、クラウドの好きなようにさせてやった。

肩を捕まれ、ベッドシーツの上へと倒される。
上に伸し掛かって来る重みを感じながら、レオンはクラウドの口付けに応えていた。



「ん…ふ…、っは……、」
「……おい、レオン」
「……なんだ」


口付けが離れて、酸素を取り込む為に呼吸している所に名を呼ばれ、レオンの蒼が碧眼を見る。
クラウドはそれをじっと見つめ返し、


「貰って良いんだな」
「どちらでも」
「じゃあ貰う」


確かめるように念押しするクラウドに、意地の悪い言い方をすると、クラウドは開き直った。
顎を捉えられて口付けされ、絡め取った舌を連れ出され、音を立てて啜られる。
シャツが捲り上げられて腰が撫でられ、クラウドの膝がぐりぐりとレオンの股間を押して刺激していた。

性急な事だと思いつつ、そう言えばこの三日間は一度もしていなかった、と思い出す。
レオンの方から彼を誘うのは殆どない事だから、クラウドが促して来なければ、二人がセックスをする事はない。
そんなに疲れていたのか、と思うと同時に、それなら大分溜まっていそうだな、と思う。
ちらりと伸し掛かる男の貌を見れば、いつも無気力気味な瞳に、ぎらぎらとした熱が宿っている。
普段からその顔で仕事をしてくれれば良いのに、と何度思ったか知れない。
ついでに、この分だと、明日の朝は起きられなくなりそうだな、とも思ったが、


(……まあ、良いか)


今日はクラウドの誕生日だから、彼の希望に応えてやろうと思った。
そう考えた時点で、明日の予定などご破算になったも同然なのだ。

腕を伸ばして頬に触れると、少し驚いた瞳に自分の貌が映る。
自分はそんなに普段から素っ気ないだろうか、と思ったが、進んで接触しないのも確かである。
今日だけは此方から触れてやろう、と決めて、レオンは降りて来た唇に己のそれを押し当てた。





クラウド誕生日おめでとう!と言う事で甘やかしつつのいちゃいちゃ。
目に見えて甘やかすのはこんな時位だけど、普段も割と甘やかしている節はある。
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[クラスコ]精一杯の勇気

  • 2018/08/11 22:20
  • カテゴリー:FF


誕生日が近いから、とスコールは前置きをした。
顔が赤くなっていて、ここから先を聞くのは勿論、話題を出す事にさえ、きっと抵抗があったのだろう。
らしくもない事をしている、必要ないと言われたらどうしよう、そもそもこんな話を聞く事自体が迷惑なのかも知れない────そんな事を何度も考えていたのではないだろうか。

自分の誕生日と言うものに、クラウドは大して興味がない。
友人知人が誕生日だと聞けば、何かプレゼントでも、用意する時間がないならせめて言葉を、と思うが、それらが自分に向けられなかったからと言って、気にする性格でもなかった。
幼い頃はもっと普通に、御馳走やケーキ、母からのプレゼントにはしゃいでいたように思うが、流石にそんな無邪気な年齢は過ぎている。
誕生日だから仕事が休みになるとか、そんなプレゼントでもあれば嬉しいんだが、と思ってしまう辺りに、自分が大人になってしまった虚しさを感じた。

とは言え、愛しい恋人からに祝われるのは、嬉しい。

しかし、何が欲しいか、と聞かれてしまうと少々困った。
物欲は割とある方なので、欲しい物は挙げて行けば案外色々と出てくるとは思うのだが、それは誕生日だからと恋人に強請る程のものだろうか。
ゲームは完全に自分の趣味だから、自分の金で買いたいし、一緒に遊べるようなゲームならともかく、自分だけで楽しむようなものを、欲しいからという理由で恋人に頼む気にはなれなかった。
バイクのカスタマイズにかかる費用は馬鹿にならないが、それだって恋人に出して貰うのはどうかと思う。
第一、クラウドの恋人は、年下の学生なのだ。
家庭の事情で中々アルバイトも出来ないそうだから、金のかかるものは論外だ、とクラウドは思った。
週に二回、彼はクラウドの家に来て食事を作って行くので、其処に好きなものをちょっと多めに頼む、と言うのも出来るが、それは日々の生活の中で、割と甘やかして貰っている。
そう思うと、どうせなんだからもっと別の、と思うのだ。

しばし熟考していたクラウドに、恋人はそわそわと落ち着きなさそうにしていた。
返事に迷う時間が長い程、きっと彼を不安にさせてしまうのだろう。
さてどうしよう、と自分の気持ちと恋人の気遣いに挟まれつつ考えた末に、クラウドは思い切って言った。


「お前が欲しいな」


それは時間を指している事でもあったし、彼自身を指している事でもあった。
頬に触れて、上がる体温を感じさせてやれば、少し鈍感な所のある彼でも、流石に判ったらしい。
ぽかんとした後に真っ赤になるのを見て、クラウドは可愛い奴だな、と思った。

クラウドのその言葉は、半分本気で、半分冗談だ。
いや、もっと正確に言えば、七割から八割が本気で、残った分が冗談だった。
それは初心な所が抜けない、恥ずかしがり屋な恋人へ、ふざけるなと怒って逃げる事も出来るように、と言う気持ちからだ。
だが“誕生日なんだから”と言う甘えと欲がある事も否定はしない。

無理強いはしたくなかったから、恋人に選んで貰おう。
真っ赤な顔で怒ったら、冗談だと言って、その日一日のデートを予約させて貰おう────と思っていた所で、


「………わか、った……」


と、耳まで首まで赤くなって頷いた少年に、クラウドは驚きに上がりそうになる声を抑えつつ、にやける顔を片手で覆って隠したのだった。



誕生日の当日は、結局の所、彼の時間そのものも貰える事になった。
学生である彼は夏休みとあって休みになっているし、クラウドは仕事が入っていたのだが、ザックスが変わってくれた。
どうせ約束があるんだろ、と言って背中を叩く友人の察しの良さにはいつも感服する。
明後日の仕事には彼もいつも通りに出勤になっている筈だから、何か礼をしなくてはなるまい。
と言えば、そんなの要らねえよ、とザックスは言うのだろうけれど、これはクラウドの気持ちなのだ。

友人への感謝の形は明日にでも考えるとして、クラウドは誕生日を満喫した。
恋人はクラウドの行きたい所に行こう、と言ってくれたので、先ずはゲームセンターだ。
夏休みのゲームセンターは人が多くて煩いので、平時ならあまり寄り付かないのだが、学生の恋人と一緒に健全に遊べる所と思えばうってつけだろう。
先ずはクラウドがよく遊ぶビデオゲームをプレイし、次に恋人と一緒にカードゲームをして(こてんぱんにされたが、彼が楽しそうな顔をしていたので満足している)、プライズゲームをした。
UFOキャッチャーでシルバーアクセサリーが獲れたので、彼にあげると、あんたが獲ったものなのに、と遠慮されたが、そのアクセサリーに惹かれていたのをクラウドは知っている。
クラウドが、俺は獲れれば満足なんだ、と言って押し付けるように渡すと、恋人は少し視線を彷徨わせた後、じゃあ貰っとく……と言ってそれを鞄の中へ入れた。
序に浮かれた気分でプリクラも撮ってみた。
恋人は基本的に写真嫌いだが、今日はクラウドの誕生日だから、クラウドの希望を聞くと決めて来たらしい。
露骨にハートマークが散りばめられたバックスクリーンを選んだ時には、真っ赤になって怒ったが、結局譲ってくれたから、優しいなと思う。

ファーストフードで昼を食べ、午後は映画館に行った。
気になる作品がある訳でもなかったが、暑いばかりの外を歩き回るよりも、その方が良いと思ったのだ。
丁度良く上映五分前だった作品のチケットを買って、シアタールームに入ると、程無くして二人揃って寝てしまった。
そんなにゲームセンターではしゃいだだろうか。
クラウドが目が覚めた時には、物語はクライマックスシーンに入っていたのだが、前提の流れが全く判らないので、主人公が誰なのかも判らなかった。
恋人が目を覚ましたのはエンドロールも終わる頃で、彼は上映の二時間でしっかり休む事が出来たらしい。
お陰で作品の話なんて揃って何も判らず仕舞いであったが、休息時間が取れたと思えば結果オーライだ。
クラウドが目を覚ましてから、自分に寄り掛かって眠る恋人の寝顔を眺めていた事は、秘密にしよう。

夕暮れがビルの向こうへと沈んで行く頃に、帰路へ着いた。
その途中で近所のスーパーに立ち寄って、夕飯の材料を買う。
何が食べたい、と聞かれたので、シチューが食べたいな、と言うと恋人は手際よく材料を揃えて行った。
買い物袋を片手に歩く道の途中で、手を繋ぎたい、と言うと、恋人は夕日に負けない程に真っ赤になった。
少しの間だけで良いから、と言うと、目を逸らしたままで手を差し出してくれたので、握った。
それから彼は家に着くまで一言も口を利いてくれなかったのだが、少しの間だけと言う話で握った手は、最後まで離れる事はなかった。

彼が作ってくれるシチューはとても美味しい。
実家の母が作ってくれるシチューも美味しいが、それとはまた別の味で、クラウドの胃袋を捉えて離さない。
相変わらず多めに作って貰って、半分は冷蔵庫へ、もう半分は冷凍庫で長期保存に。
これで当分美味いシチューが楽しめる、と言うクラウドに、彼は夏だから気を付けろと釘を刺した。

食事が終わったら風呂だ。
一日の汗をしっかり流して、風呂上りに髪を乾かしながら、少し念入りに歯を磨く。
入れ替わりに風呂に入る恋人と擦れ違った時、彼はクラウドと目を合わせなかった。
少し強張った肩を見て、緊張させている事に気付いて少し可哀想な事をしたかな、と思ったものの、やはり募る期待は否めない。
そわそわとした気持ちで、彼の入浴が終わるのを待った。

予想していた通り、彼の入浴時間は長かった。
出た後の事を想像してしまって、出るに出られなかったのだろうと思う。
そんな恋人に、早く戻ってきて欲しいと思いつつ、急かすのもまた辛いだろうと、クラウドは待ち続けた。
そのまま長いようで短い時間が過ぎて行き、ぼんやりと眺めていた雑誌を閉じた時、


「……クラウド」


呼ぶ声に顔を上げると、寝室の戸口の所で、立ち尽くしている恋人───スコールがいた。

風呂上りのほんのりと火照った体に、大きめの真っ白なシャツの白が眩しい。
肩幅の合わないシャツはクラウドが貸したもので、スコールには少し身幅サイズが大きい───のだが、裾は少し足りないのが、こっそりと悔しい。
が、すらりと伸びる長い脚の、シャツの裾からちらちらと覗く太腿は刺激的だった。
黒のボクサーパンツは履いているので、局部が見える事はないが、それでも其処が“どう”なっているかは察してしまう位には膨らんでいる。

スコールは戸口に立ったまま、なんとも言えない表情で、視線を彷徨わせている。
なんとか此処まで戻ってきたは良いものの、あと数メートルが彼には辛いのだ。
うぅ、と唸る声が微かに漏れるのを聞きながら、クラウドは彼の名前を呼んだ。


「スコール」
「……」


急かしたつもりでもなかったが、スコールにはそう聞こえたかも知れない。
が、踏み出す一歩を作る理由付けにはなったようで、スコールはのろのろとした足取りでクラウドの下へ向かう。

ぎしり、とベッドの軋む音がして、スコールがベッドに乗った。
四つん這いで近付いて来るスコールは、ちらちらとクラウドのいる方を見てはいるものの、顔は見れていない。
それでもなんとか目の前まで来ると、シーツを握っていた手が解け、そっとクラウドの膝に触れる。
其処で体重を支えながら、スコールは体を伸ばして、クラウドの唇にキスをした。


「……ん……」


躊躇い勝ちなキスは、最初はほんの少し触れただけだった。
離れてから一拍置いて、スコールの薄く開いた瞳に碧眼が映る。
スコールの眉根が寄せられて、クラウドは言わんとしている事を感じ取り、大人しく瞼を下ろした。


「……ふ…ん……っ」


もう一度唇が重ねられ、今度はしっかりと触れ合う。
スコールの手がクラウドの肩へと移動して、体重を寄り掛からせるように重みが乗った。
クラウドもスコールの腰に腕を回し、膝の上へと座るように促す。
スコールは少し緊張したぎこちない動きで、クラウドの膝上へと腰を下ろした。

スコールの手がまたするりと滑って、クラウドの頬を包み込む。
口付ける角度が変わったのが判って、クラウドが薄く唇を開けると、熱を持った舌が入ってきた。
絡め取って撫でてやれば、ひくんっ、とスコールの肩が跳ねる。


「ん、ん…っは……」
「スコール」
「…は……んぅ……っ」


名を呼ぶ声に操られるように、スコールはまたクラウドにキスをした。

今度はクラウドの方から、スコールへと侵入する。
ビクンッ、とスコールの体が弾むが、彼は逃げる事はせず、顔を赤らめながらクラウドの首に腕を回す。
ちゅく、ちゅく、と言う音を立てながらスコールの咥内を堪能しつつ、クラウドは細い体を抱いてベッドへと倒れた。

スコールの体をベッドと自分の体で挟む形で縫い留めて、クラウドはスコールの唇を思う存分味わった。
息苦しさにスコールがいやいやと首を振ると、呼吸の時間を与えてから、また塞ぐ。
はふ、は…っ、と籠った呼吸が互いの中で混じり合うのを感じながら、クラウドはスコールのシャツの中へと手を入れる。


「っ……!」


シャツ一枚しか来ていないから、侵入は簡単だ。
するりするりと肌を撫でながら、シャツをたくし上げて行く。


「ん…っ、んぅ……っ」


やだ、と抗議するようにスコールの声が漏れる。
しかし、彼の体は大人しいもので、悪戯をするクラウドの体を止める事もしない。
それが言葉以上のスコールの答えだとクラウドは知っているし、そもそも、今日は“そう言う事”をするのも含めて、スコールは自分の時間をクラウドに渡してくれたのだ。
此処で止めるのは、あの時頷いてくれたスコールの精一杯の勇気を無駄にする事になる。

とは言え、強引に進めればスコールを怖がらせてしまう事も判っている。
クラウドはたっぷりと堪能した唇を離し、胸を撫でていた手も止めた。
スコールはくったりとベッドに沈み、はっ…はっ…と酸素を取り込みながら、ぼんやりとした瞳を彷徨わせ、


「……は……、クラ、ウ、ド……」


少しだけ意識を取り戻して、蒼の瞳が恋人を見る。
おずおずと伸ばされた白い手が、クラウドの頬を撫でて、濡れた唇に指が振れた。


「……もっと……」


その言葉を口にするだけで、きっとスコールには堪らない程に恥ずかしかったのだろう。
呟いてからスコールはまた赤くなって、目を逸らす。
クラウドはそんな恋人に笑みを零しながら、耳元にキスをした。





クラウド誕生日おめでとう!と言う事でいちゃいちゃ。
恥ずかしいけど頑張ってスコールの方から積極的に動いたりするんだと思います。
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[サイスコ]秘密のアルバム

  • 2018/08/08 22:15
  • カテゴリー:FF


子供の頃、ほんの数か月の間だけ、同じ時間を過ごした子供がいる。
近所の幼馴染達を含めて、子供にとっては短くない時間を共有したその子供は、夏の終わりと共に何処か遠くへ行ってしまった。
子供の親は転勤が多く、あっちへこっちへとしょっちゅう引っ越しを繰り返し、その時も同じ理由で次の街へと行ったのだ。

今思えば仕方のない事ではあったが、当時のサイファーにはそれが酷く許せなかった。

幼稚園の年長クラスに上がり、転園してきたその子供を、サイファーは何かにつけて構っていた。
人見知りが激しいらしいその子供を、強引に遊びに誘った事や、苦手だと言うボール遊びをサイファーが押し切ってしまった為に、何度か泣かせた事もある。
けれど記憶はそればかりではなく、他の子供に苛められたその子供を庇ったり、一緒に折り紙を折ったりと、そんな思い出もあった。
夏休みに入ると、近所の家族同士で集まり、キャンプにも出掛けており、件の子供の家族も加わっていた。
お喋りな父親は子供達に大人気で、よく笑う母親が作るお菓子も大人気であったが、それよりもサイファーは、彼らの子供が気に入っていた。
何かと潤んでばかりの蒼の宝石が、真っ直ぐ自分を見て笑うと、きらきら綺麗に光るのが好きだった。

小さな子供の一日は、一生と同じ価値がある。
後で思えば、ほんの数か月しかない思い出でも、小さな子供にとってはそれらは一生分の思い出だ。
そしてこれからも、目の前にいる人とは、一緒にいられるのが当たり前だと信じて疑わない。
だからサイファーは、何度もその子供に言っていた。
俺達はずっと一緒だからな、と。
子供もそんなサイファーの言葉に頷いて、うん、と笑ってくれていた。

だから許せなかったのだ。
夏休みが終わって、また幼稚園に行くようになって、毎日あの子と遊べると思ったら、もうその子供は何処にもいなかった。
おうちの都合でお引越ししました、と幼稚園の先生から言われて、なんで、と声を上げた。
なんでと理由を聞かれても、先生がそれ以上の事を言える筈もなく、仕方がないのよ、としか言えなかった。
それで益々サイファーが癇癪を起こしたものだから、朝の会は滅茶苦茶になって、サイファーはその日一日、幼稚園の授業をボイコットした。
帰りに迎えに来た母イデアが、先生から事情を聞いて、仲良くなれたのにね、寂しかったのね、とサイファーを宥めたが、寂しかったんじゃない、怒ってるんだとサイファーは言った。
ずっと一緒だと約束したのに、向こうも「うん」と言ったのに、約束を破られたのが腹が立った。
腹が立って、悲しかった。
けれど悲しいと認めるのは悔しかったから、怒ってるんだ、とサイファーは繰り返した。

それが、十年以上も昔の話。




「……考えてみりゃ、あの頃から始まってたんだよな」


ぽつりと呟いたサイファーの声を聞いて、スコールが呼んでいた雑誌から顔を上げた。

きょとんとした蒼と、じっと見つめる翠がぶつかって、その眼力に気圧されたように、スコールが僅かに体を退く。
見られる事を基本的に嫌うスコールにとって、穴が開きそうな程に見詰められるのは、落ち着かないものである。
こっそりとガードするように、雑誌で視線のビームを遮断しようとするスコールだったが、それよりも先にサイファーが動いた。

スコールが家に来ている時、サイファーはベッドの上を定位置にしている。
対してスコールは、ベッドの端に寄り掛かって背中を預け、持ち込んだ本や、本棚を勝手に物色して見付けたものを読んでいるのがお決まりだった。
その殆どないも同然の距離を更に詰めて、サイファーはスコールの腕を掴む。
逃げを封じたスコールに、ずいっと顔を近付けて、サイファーは昔と変わらない蒼の宝石をまじまじと覗き込んだ。


「ちょ……おい、サイファー」
「何だよ」
「近い。離れろ」
「嫌だね」


あまりの近さに顔を顰めるスコールだったが、サイファーは気にしなかった。
掴んだ手首が逃げを打って捻られるが、すっかりサイファーの手に包み掴まれた手首はビクともしない。
決して華奢なばかりではないスコールだが、やはり全体的に恵まれた体格をしたサイファーに比べると、純粋な腕力では敵わないのだ。
くそ、と毒を吐いて、スコールはもう片方の手を使って、サイファーの手を引き剥がしにかかった。

目一杯の力を込めてサイファーの指を一本一本剥がしていくスコールに、可愛げはなくなったな、と思う。
記憶の中に残る小さな子供は、腕を掴むとビクッと震えたが、後は大人しくサイファーの後をついて来た。
あの子供は何事にも消極的で弱気だったから、サイファーの手を引っぺがすなんて、とても出来たものではなかったのだろう。

なんとしても手を解こうとしているスコール。
サイファーはじゃあその通りにしてやろう、とぱっと掴んでいた手首を開放してやった。
途端になくなった付加に、「あ、」と虚を突かれたような声を漏らして、スコールはぱちりと瞬きを一つして、


「……何だったんだよ」
「いや。ちょっと昔を思い出しただけだ」
「昔?」
「お前が少しだけこの町にいた時の」
「……何年前の話だ」
「12年か?」
「いつまで覚えてるんだ、そんな事」
「お前だって忘れてねえ癖に」
「………」


サイファーの言葉に、スコールは拗ねたように唇を尖らせる。

幼い頃、スコールは父の転勤の都合でこの町に来て、半年もしない内にいなくなった。
あの時のスコールは、今と違って気が弱く泣き虫で、度々幼稚園の子供に苛められては泣いていた。
やり返す、言い返すなど出来る筈もなく、いつもサイファーが割って入るまで泣いているばかりで、サイファーはそんなスコールを見て苛々する事も少なくなかった。

しかし、今のスコールにはそんな面影は微塵もなく、寧ろ負けず嫌いでサイファーにも堂々とやり返してくる。
もう一度この町に引っ越してきたスコールと再会した時には、あの泣き虫なスコールと同一人物とは到底思えなかった程だ。
無駄に強くなったもんだな、とサイファーは思う事もあるが、別にそんな彼が嫌いな訳ではない。
そうでなければ、今現在、彼と恋人と言う関係には落ち着いていまい。

───それはそれとして、サイファーはスコールの変化は、驚きを含めつつもひっくるめて良い思い出と思っているのだが、泣いていた当の本人には、触れられたくない過去らしい。
幼少の頃の思い出話になる度に、スコールは苦い顔で口を噤むので、サイファーは此処ぞとばかりに突いてやる。


「可愛かったぜ、あの頃のお前。何かあっちゃ直ぐに泣くから、腹も立ったけどよ」
「……泣いてない」
「お姉ちゃんお姉ちゃんって、直ぐにエルを呼んでただろ。その後はお父さんお母さん、だ」
「止めろ」
「で、それからが俺だ。泣いてる所に声かけたら、さいふぁ~ってよ」
「このっ!」


スコールは顔を真っ赤にして、掴んだ枕でサイファーの顔面を叩く。
ばふっ、ばふっ、と柔らかい感触が何度もサイファーを襲ったが、当然、痛くも何ともない。


「ピーピー泣いてて可愛かったんだぜ、お前」
「知らない!俺じゃない!」
「お前だ、お前。俺がお前との思い出を忘れる訳ねえだろ」
「忘れろ!」
「嫌だね」


声を荒げて何度も枕で叩いて来るスコールに、サイファーはきっぱりと言ってやった。
誰が忘れてなんてやるものか、と。
そもそも、忘れろと言って忘れられる記憶なら、再開した時にこの少年があの子供である等と、気付く筈もないのだから。

ぎりぎりと枕を破らんばかりの力で掴んでいるスコールを、サイファーは捕まえてベッドへと引き倒した。
頭に血が上っていた所為で、サイファーからの反撃に無防備だったスコールは、「うわっ」と声を上げながらベッドに倒れ込む。
俯せでシーツに埋もれているスコールの隣に寝転んで、サイファーは笑みを浮かべて睨む蒼を見返す。


「忘れろなんて寂しい事言うなよ。俺の初恋の思い出だぜ?」
「……人を散々泣かしていた癖に、よくそんな台詞が言えるな」


沸点を通り越して一気に頭が冷えたのか、何度も自分の話じゃない、と言った事を、スコールは自ら口にした。

確かに幼いスコールはよく泣いた。
が、その原因にはサイファーも少なからず絡んでいる───と言うより、サイファーが原因であった場面も多かった。
初恋の相手を泣かせたのも思い出なのか、と棘を含んだスコールの言葉に、サイファーは目を逸らしつつ、


「そりゃ、あれだ。純情不器用な子供のやる事だから、仕方ねえだろ」
「仕方ないで俺は何度も泣かされたのか」
「悪かった。悪かったよ。その辺は俺も重々反省してる」


子供の頃に何度もスコールを泣かせた件は、成長してからしっかりとサイファーにしっぺ返しを食らわせた。

10年も経って初恋の相手と再会したと言うのは、運命のようなものをサイファーに想起させた。
しかし、二人の間柄が近付いたのは、そう簡単な話ではなかった。
幼い頃から自覚なくスコールに特別な感情を抱いていたサイファーだが、当の相手はと言うと、泣かされていた記憶が相当色濃く残っていたようで、再会してからも長い間、サイファーとはまともな会話もしなかったのだ。
スコールの義姉であるエルオーネが間に入り、彼女から見た幼いサイファーの様子などを聞いて、ようやく自分に対して悪意がなかった事を理解してくれなければ、今でもサイファーの初恋は片思いのままだったに違いない。


「……だから、その件は反省してるからよ。昔の事、あんまり悪く言うなよ」


スコールにとっては嫌な思い出も多いだろうが、サイファーにとってはそれも大事な記憶なのだ。
そんな気持ちで呟けば、スコールの蒼の瞳がゆらりと揺れて、シーツへと埋められ、


「……別に…、」
「ん?」
「………」


シーツに埋もれて籠る声に、サイファーは耳を澄ませた。
スコールはもぞもぞと身動ぎして丸くなりながら、ぼそぼそと呟く。


「…別に、そんな───そんなに……悪くなんて、思っては、ない。多分」
「そうか?」
「……あんたの出す話題が悪いだけだ」
「あー……へいへい。そりゃこれから気ィ付けるよ」


スコールが話題にしたくないのは、自分が泣き虫だった、と言う話だろう。
幼馴染だった子供達の中では、それが一番強い印象として残っているのだが───だから余計に、スコールはその話題を嫌うのか。

それなら、どんな話ならスコールは喜ぶのだろう、とサイファーは考える。
一緒に折り紙を折った事か、二人で初めてのお使いに行った事か。
夏のキャンプで、スコールの父に連れられて行った、満点の星空を見た記憶か。
と、サイファーから振る話題は幾らでも尽きないのだが、ふと気になった事を尋ねてみる。


「おい、スコール。お前、俺達と過ごしてた頃の事、どの位覚えてるんだ?」
「どの位って────」


サイファーの問に、スコールは顔を上げて答えようとして、止まった。
ブルーグレイの瞳が右へ左へと動いて、記憶の回路を繋げている。
さてどんな話が出てくるか、とサイファーは楽しみにしていたのだが、


「………教えない」
「は?おい、スコール」
「………」
「こら、無視すんな。スコール!」


肩を揺さぶって答えを催促するスコールだが、スコールは貝のように黙ったまま動かない。
やや乱暴に体を揺らしても、スコールは頑なに口を噤んでいた。



(どの位、なんて言える訳ない。だって何も忘れてない。だって、俺だって────)


あの頃から始まっていたから、なんて、絶対に言わない。





『サイスコで甘い感じで初恋っぽいもの』とリクエストを頂きました。

好きな子をいじめてしまうタイプだったサイファー。そのまま初恋を引き摺って10年ちょっとの図。
それを聞いてスコールはちょっと引いてるけど、自分も実は引き摺っていたりする。
そんなサイスコになりました。
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