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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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カテゴリー「FF」の検索結果は以下のとおりです。

[ヤシュスコ]この手が届く距離感で

  • 2016/02/08 23:10
  • カテゴリー:FF
ヤ・シュトラ×スコールを目指してみた。

※14未プレイの為、ヤ・シュトラさんが偽物気味です。こう言う距離感だったら良いなと言う妄想。
ディシディアアーケードを意識しつつ、色々と捏造もしています。





魔法を“設置”すると言うのは、スコールの意識には存在しなかった概念だ。
そもそも、疑似魔法は威力も大したものではないので、戦闘の補佐には利用できても、直接的な戦力になるとは言い難い。
だから、個数として大量の魔力を補充し、ジャンクションとしてドーピング代わりに意識下でセットする事で、個人の身体能力を飛躍的に高めると言う使い方が生み出されたのではないだろうか。

こうした使い方が出来ると知る事が出来たのは、良い経験かも知れない。
この世界で体験した物事を、そのまま元の世界に持ち越せるかは判らないが、それが可能であれば、疑似魔法の更なる研究・発展にきっと役立つだろう。
────自分がそうした研究に触れられる人間なのか如何か、と言う疑問は、別として。

魔法を“設置”する戦士は、これまでにも存在していた。
混沌陣営に駒を置いている皇帝がそうで、彼は自身の身体能力の低さをカバーする為、魔法をトラップにして此方の足場を奪う戦法を得意としている。
ゴルベーザやエクスデスもそれに近い使い方をするが、最たるはやはり皇帝だろう。
それ以外にも魔法を使用する者は少なくないが、その多くは、アルティミシアのように放出させる形で魔法を使用していた。
秩序陣営はと言うと、ティナやルーネス、シャントットと言った魔法に秀でた面々はいるが、彼女らも放出させる形で魔法を使用する。
“設置”型の魔法の使用者は、今までいなかったのだ。

其処へ来て、新たな戦士の召喚である。
ネコ科の動物に似た、細い瞳孔を映す瞳と、頭の上に三角形の耳、更にはジタンと同じ尻尾を持っているその戦士は、ヤ・シュトラと言う名の女性であった。
召喚されたばかりとあって、彼女自身の記憶は余り確かではないが、断片的な記憶を元にした所によると、彼女はミコッテと言う種族であると言う。
彼女自身にとっては、自分の特徴は然して珍しく思われるほどのものではないらしく、彼女の世界では有り触れた種族なのだろう。

初めこそ、見慣れぬ世界と、虚ろな記憶に戸惑っていたヤ・シュトラであったが、馴染むのは案外と早かった。
神々の闘争に参戦し、打ち勝つ事が出来れば、元の世界に戻れると言う簡潔な説明も効いたのかも知れない。
彼女は早々に、この世界で自分が出来る事を確かめると、秩序の戦士達と共に、混沌の戦士との戦闘に備えて、自身の魔法の腕を磨き始めた。

元々は防御系の魔法が得意だと言うヤ・シュトラであったが、攻撃魔法も心得ている。
特に仲間達が感心したのは、他のメンバーでは殆ど使用する事が出来ない、魔法の“設置”技術だ。
構成させた魔力をその場に敷き、設置が完了すればその場を離れる事が出来る。
正しく、皇帝と同じ使い方が出来るのだ。
同様の戦い方を持つ人間が同陣営に現れたのは、秩序の戦士達にとって頼もしい事だった。
ヤ・シュトラは参戦から日が浅く、まだ混沌の戦士とも大きく衝突した事がない為、彼女の詳細は───絶対とは言い難いが───まだ敵陣営には知られていない筈。
今の内に、彼女にこの世界に慣れて貰うと同時に、“設置”される魔法への対策を学ぶべき、と言う意見が採用された。

まだこの世界に不慣れと言う事もあり、ヤ・シュトラを交えた特訓は、数日に一度と言う頻度だ。
回復に秀でた白魔法に特化した魔法使いは、平時でもその力を発揮させる機会が多い。
一度枯渇した魔力は、数日をかけなければ回復しない注意点もあり、いざという時の為にも、ティナ同様、ある程度の魔力は残して貰って置く必要もあった。

新戦力を交えた生活が、二ヶ月ほど経つと、彼女もこの世界の有り様に慣れてきた。
少しずつ訓練もハードさを増して行く傍ら、ヤ・シュトラもこの世界での自分の魔法の変化に気付いたらしい。
幾つかの魔法は使えず、代わりに制限の合った魔法が使えるようにもなっている、らしい。
前者は混沌の影響、前者は秩序の女神の影響だろうか。
深い研究については、その手の研究に意欲的なシャントットに委託する事にして、ヤ・シュトラは自身の自分の魔法の発展性を探っている。
そのお陰か、彼女の魔力が闘争の世界に馴染んだのか、召喚から目覚めた当初に比べると、彼女が扱える魔力量は日に日に成長して行き、今では十分な力を発揮できるようになった。

そんな彼女と、スコールが対戦したのは、今日で四回目の事だ。
ウォーリア・オブ・ライトやセシル等、生真面目な面々が彼女との特訓を希望する為、順番待ちでようやく得た訓練である。
前回の訓練で学んだ事を加味しながら、如何に立ち回って“設置”された魔法を回避、或いは利用するかを考えながら、次の手の為に地面を蹴る。
一足、二足と跳んで、一気に距離を詰めようとした時だった。
三足目の右足が地についた瞬間、スコールを囲む魔法陣が出現する。


「─────!」


しまった、と思った瞬間、眩しい熱球がスコールの周囲で弾け飛ぶ。
灼けるような閃光の中で、スコールは身を守る為に躯を丸めた。
ドンッ、と背後で弾けた衝撃が、スコールの背中を強く殴る。


「くっ……!」


唇を噛んで衝撃が消えるのを待っていると、程無くそれは訪れた。
まだ続きそうだったのに、と思って顔を上げると、木杖を持ったヤ・シュトラが二メートル先で立ち尽くしている。
彼女にとっては、自分を的に晒すだけの距離だった。

飛び掛かるのは容易だったが、スコールはそうしなかった。
彼女の仕掛けたトラップを踏んだ時点で、スコールの負けなのだ。


「良かった、誘われてくれて。引っ掛かってくれなかったら、私が危なかったわ」
「……っ」


移動する彼女を追って、距離を詰めようとしたのが失敗だった。
見事に罠へ誘導された事を悟って、スコールは舌を打つ。

片膝をついて、苦い表情を浮かべているスコールに、ヤ・シュトラが歩み寄る。
白い毛に覆われた尻尾が、ゆらゆらと揺れていた。
なんとなくその尻尾を目で追っているスコールの前に、ヤ・シュトラは片膝を追って、目線を合わせる。


「威力は抑えたつもりだったんだけど、大丈夫かしら」
「……問題ない」
「そう。でも、念の為、ね」


スコールの返事に頷きながら、ヤ・シュトラは右手をスコールへと翳した。
淡い光がヤ・シュトラの右手から生まれ、スコールの体を包み込む。


「大した怪我じゃない。あんた、魔力を無駄にするな」
「大した怪我じゃないんだもの。そんなに消費する事もないわ」


そっくり同じ言葉を返し、だから平気よ、と言いながら、ヤ・シュトラはスコールの体の傷を癒した。
白魔法に特化しているとあってか、治療の速度はティナやセシルよりも早い。

治療を終えると、ヤ・シュトラは満足したように立ち上がった。
訓練予定の時間はまだ余っていたが、共に走り回って疲労した状態だ。
少し休憩しましょう、と言うヤ・シュトラに、スコールも否やを唱えるつもりはない。

が、負けた悔しさの所為もあり、スコールはその場から素直に動く気にはなれず、その場に胡坐で座り込んだ。
ヤ・シュトラは数歩を歩いた所で、スコールの様子に気付き、踵を返す。


「どうしたの。何処か痛めた?」
「……別に。少し考え事がしたいだけだ」


スコールの言葉に、ヤ・シュトラは「……そう」とだけ言った。

彼女もあまり多弁ではないのか───ティナやライトニングと雑談している所を見るので、他者との会話には特に抵抗はないようだが───、余り他者の領域に踏み込んで来る事はない。
普段、ジタンやバッツと言った賑やかし組に囲まれているスコールだが、彼女くらいの距離感が丁度良いと思う。
あいつらも見習って欲しい、と思いつつ、スコールは今の特訓を振り返る。


(追い詰めたと思って踏み込むのが良くなかった。距離を詰めるに当たって、設置された魔法の位置に気を付けないと…)


トラップを警戒する余り、距離を取るのは、スコールには良策ではない。
近距離を持ち場とするスコールは、如何に相手との距離を詰めるかが肝である。
距離を詰めて罠を張る余裕を与えないのは当然として、問題なのは距離が開かされた場合だ。
これは皇帝やアルティミシアと言った、遠距離を維持しようとする敵に対しても、同じ課題である。
それだけに、ヤ・シュトラとの特訓はスコールにとってかなり有意義なものになるのだが────それはそれとして、負けるとやはり悔しいものがある。


(……負けたのはこれで何回目だ?負けた数の方が多いよな…)


ヤ・シュトラとの特訓が始まったばかりの頃は、スコールの方が有利である事が多かった。
彼女自身が、この世界での力の使い方に慣れていなかったからだろう。
度重なる仲間達との特訓を経て、叩き上げられるように戦力性を上げているのは間違いない。
対してスコールは、未だ彼女に対して有益となる一手が見付からず、着実に黒星を増やしていた。

味方に負けたからと言って、恨み言を零すつもりはないし、全ては自分の実力不足が原因だ。
悔しければ体を動かし、頭を動かすしか、打開の道はない。

それでも滲む歯痒さ誤魔化せず、スコールは立てた片膝に乗せた腕に、額を押し付けた。
零れる溜息は、現状を変えられない自分への苛立ちだ。
こうしていれば、ああしていれば或いは、と言う考えを、戦闘中に考えられなかった事が悔しくて堪らない。
そうして余裕を失くして行く自分にも、また苛立ちが募っていた。


(……頭を冷やさないと……)


残った時間で、もう一度特訓したいが、このままでは同じ結果になってしまう。
水でも浴びれば、文字通り冷えるだろうか、と思っていると、何かがスコールの頭に触れた。


「……!」
「あら」


反射反応に近い動きで、スコールが顔を上げると、細い瞳孔を移す瞳が目の前にあった。
ヤ・シュトラは顔を上げたスコールと目を合わせると、ぱちりと瞬きをした後、ふわりと笑う。


「こうすると、ティナやジタンは喜んでくれるのだけど。貴方は嫌いだった?」


そう言って、ヤ・シュトラはもう一度スコールの頭を撫でる。
細くしなやかな指が、濃茶色の髪の隙間をゆっくりと滑って行った。

口元に柔らかな弧を描き、猫に似た眦が眩しげに細められている。
撫でる手を払い除けるのは簡単な事だが、スコールの体は動かない。
バインドでもかけられたか、と思ったが、魔力の匂いはしないし、ヤ・シュトラは魔法を使う際に利用している杖を地面に置いている。
彼女は全くの無防備な状態で、小さな子供をあやすように、スコールの頭を撫でていた。


「今日はゆっくり休みましょう、スコール。気持ちが急いても、苦しい事が増えるだけよ」
「……そんな事、判ってる」
「そう。じゃあ、もう少しこのままね」


このまま休めと、ヤ・シュトラは言う。
彼女に頭を撫でられたままで。

跳ね除けるのは簡単だったが、スコールはその気が失せた。
もう勝手にしてくれ、と立てた膝に顔を伏せる。
ヤ・シュトラはそんなスコールに眉尻を下げて微笑み、手触りの良い濃茶色の髪を、ゆっくりと撫で続けていた。





12+2=14と8日でヤシュスコ書いてみた。
お姉さんキャラに頭を撫でられているスコールが好きです。

FF14は未プレイなので、ヤ・シュトラさんのキャラがこれでいいのかは判りません。こんなのだったら良いなと言う私の夢。
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[フリスコ]その言の葉を聞くだけで

  • 2016/02/08 22:46
  • カテゴリー:FF



鈍い鈍いと言われていても、それに多少なりとも自覚があろうとも、此処まで来れば嫌でも判る。
真っ赤になって「す」「…す、」「……す…っ!」等とどもり続けられていれば。



こうなる前から、感じ取ってはいたのだ。
赤い瞳とぶつかる度、真っ赤になって逸らされたり、かと思えば背中を見詰められていたり。
幼年の頃から訓練されているのだから、人の気配や視線には敏感な方だと思う。
じろじろと不躾な程に熱い視線を送られれば尚更で、気付くなと言う方が無理だろう。
その癖、熱視線を長らく放置する形になったのは、赤い瞳が抱く感情の正体が掴めなくて、掴めた後も何を返せば良いのか判らなくて、気付かない振りを続けるしかなかったからだ。

戸惑いが戸惑いを呼ぶように、此方からは目を合せないようにする事が増えた。
あちらもそれは感じ取っていたようで、嫌われているのかも知れない、と落ち込んだ事もあったと言う。
それはジタンとバッツが間に入る形で、あっちへこっちへと駆け回っている間に解決したようだが、スコールは詳しい事は聞いていない。
ただ、自分が知り得ない所で、ジタンとバッツに迷惑をかけていた事は理解出来たので、短い言葉で詫びた。
すると二人は「オレ達への詫びは良いから、ちょっと二人で話して来な?」と言ったのだ。

それからは─────とんとん拍子と言えば、そうだったのだろう。
あちらは既にそう言う感情を抱いていて、此方はよく判らなかったものの、その事に対して、然程悪い印象は抱いていなかった。
後々になって思い返すと、スコールが抱いていたのは、不慣れと無自覚から来る感情の芽生えへの不安だったのかも知れない。
慣れないものには回避行動を取ろうとする所為で、感情の正体を知らないまま、スコールは右往左往とするしかなく、その感情を呼び込む原因から逃げていたに過ぎない。
けれど、向き合ってしまえば、意外と簡単な事だった。
感情を隠せない赤い瞳が、明け透けに伝える心に、またしても戸惑いは生まれたが、それは決して嫌な感覚ではなかった。
その事に気付く頃には、スコールの内にも、彼と同じ感情が宿っていた。

─────が、話は其処まで。

お互いの気持ちが、お互いを向いている事は判った。
そうと言う話があった訳ではないが、互いの顔を見ていれば、それは判る───そう思う程に、二人の気持ちは真っ直ぐに向かい合い、交じり合っている。
だが、“其処まで”なのだ。
気持ちが交じり合っている事が判っていても、二人ともそれを口に出す事をしない。
共に多弁とは言い難い性格な上、片や究極の初心、片や対人スキルが赤点以下の組み合わせだ。
色の沙汰となれば尚更、容易に進む事はないだろうと、仲間達も予想してはいたが、此処までとは思わなかった。
何せ二人と来たら、目を合わせるだけで真っ赤になったり、そんな相手を見て嬉しそうに口元を綻ばせたり、ようやく二人きりになったと思ったら、隣合って座っているだけで幸せそうに顔を合わせたりと言う具合なのだ。
口付ける訳でもない、手を繋ぐ訳でもない、ただ相手が自分の傍にいてくれるだけで、満足だと言う表情で。

彼等が自分の気持ちをはっきりと口にしない理由については、仲間達も直ぐに察する事が出来た。
神々の闘争の世界と言う、不安定なこの世界に置いて、強い情は必ずしも良い物とは言えない。
特にスコールは、初めの頃、この世界で出逢った仲間達とは、遅かれ早かれ別れが来ると言う事もあって、頑なな態度を取っていた。
今ではその態度も軟化しているが、根底にある別れへの意識は拭えず、特別な繋がりを持つ事に強い忌避感を抱いているようだった。
それは二人の間で少なからず共感できる事なのか、どちらともなく、この感情は口にはするまいと、暗黙のルールになっていた。

だから彼等は、いつまで経っても、友達以上恋人未満の関係だ。
それを非難するつもりはないし、悪い事だと指摘する者はいない。
しかし、余りにも味気なくはないか、とも思う。
人と人との繋がりの形は多種多様で、何が間違いで何が正解とも言えないから、彼等が納得した上で今の関係を築いているのなら、それで良いのかも知れない。
だが、いつか別れてしまうからこそ、目の前に在る幸せを目一杯抱き締めても良いのではないか、とも思うのだ。



────そんな調子で、お節介な仲間達に背中を押されたのだろう。
真っ赤になって、がちがちと歯の根を鳴らしているフリオニールを見て、スコールはそう分析していた。

放って置いてくれたら良いのに。
真っ赤になってどもり続けているフリオニールを見ながら、頭の隅でそんな事を思う。
だが、お節介にはそれなりに理由がある事も判っているし、スコールの性格を理解している上で、仲間達がお節介を焼いている事も判るつもりだ。
以前ならそれを「余計なお世話だ」とはねつけたスコールだが、今は少し違う。
目の前の人物が、一杯一杯になりながら、それでも言おうとしている言葉が判るから、此処で背を向けたら、彼の気持ちにも背を向ける事になる。
それは嫌だ、と思う程に、スコールも目の前の人物に気持ちを傾けていた。


(……でも、いつまでこの状態でいればいいんだ?)


進軍の休憩として設けられた、僅かな時間の隙間。
いつの間にか、一人、また一人と席が外され、残されたのはスコールとフリオニールの二人。
仲間達がそれとなく気を遣ってくれた事は明らかであったが、だからと言って、甘い睦言を囁くような仲ではない。
仲間達からすれば、「何を今更!」と言うかも知れないが、それで良いのだとスコールは思っていた。

だが、フリオニールはそうではなかったらしい。

真っ赤になって、視線を忙しなく彷徨わせながら、「……話があるんだ」と言ったフリオニール。
深刻さを帯びた表情に、スコールが真っ先に考えたのは、現在の関係の終焉であった。
飽きられたか、とマイナスに思考が向いたのは、スコールの性格上、仕方のない事だ。
しかし、予想は覆され、フリオニールは“あの言葉”をスコールに告げようとしている。

……しているのだが、


「………ス、スコール……」
「………」
「………………」
「………」


スコールの名前を呼んでは、黙り込んで俯く。
そのまま視線を彷徨わせたり、何かに助けを求めるように後ろを振り返ったり。
フリオニールは、拳を握ったり解いたり、唇を開いては引き結び、えっと、その、とはっきりしない言の葉ばかりを繰り返している。

時折、スコールの名前を呼ぶのとは違うイントネーションで、「す、」と音を零す。
其処から先に続く言葉を、スコールも既に判っていた。
そんなスコールの前で、フリオニールは、何度目かの吐露に失敗して、また俯いている。


(……もう俺から言った方が良いのか?)


声をかけて来たのはフリオニールだったので、スコールは自分は受け止める側だと思っていた。
元々、こうした事に積極的な性格ではないし、自分の気持ちを口にする事に対し、上手く伝わる試しがないと言う思考もあって、己から口にする事はあるまいとも考えていた。

だが、此処までじれったい時間が続くと、流石にそろそろ待ち草臥れる。
目の前の人物が、どれ程の気持ちで「話がある」と言ったか、決して判らない訳ではない───自分だったら、呼び止める時点で止めてしまう自信がある───だけに、待とうと思ってはいたが、そろそろ忍耐力も限界だ。

あと一分待って、状況が変わらなければ、自分で言おう。
そう思って、ひっそりと胸中でカウントダウンを始めた時だった。


「スコール!」
「!」


いきなり強い声で名前を呼ばれて、思わず肩が跳ねた。
かと思ったら、ぐいっと強い力で腕を引っ張られ、固い胸にぶつかる。
背中に回された腕に力が篭ったと気付いた時には、彼の腕の中に閉じ込められていた。


「……好き、だ……っ!」
「……!」


絞り出すように紡がれた言葉が、耳元をくすぐって、鼓膜を震わせる。
途端、どくん、と心臓が大きく音を鳴らした。

抱き締める青年の顔は、スコールには見えない。
バンダナの隙間から覗く銀色が、陽の光を受けてきらきらと光っている。
尻尾のように伸びた後ろ髪が、戦闘の度に躍動するように踊るのを見るのが好きだった。
だが、今のスコールに、その綺麗な銀色を見詰める余裕はない。


(心を言葉で正確に表すなんて、無理だと思っていた)


人間の心は厄介で面倒で、複雑に折り重なって出来ている。
それを言葉で全てを現すのは非常に難しく、口にした傍から、これは意味が違う、と思う事も多い。
特にスコールはその感覚が顕著で、尚且つ、折り重なる自分の感情の形を綺麗に整える作業が苦手だった。
この考え方は、そのまま周囲の人間に対しても向けられており、使い手と受け取り手で齟齬が起きやすい事から、“他人の考えなんて判る訳がない”と言う結論にも行き着く理由となっている。

だが、今のフリオニールの言葉は、何よりも真っ直ぐに、彼の気持ちを表している。
その彼の心が、言葉のまま、真っ直ぐに自分に向けられている事が、無性に─────


(……嬉しい)


いつか別れてしまうのだから、要らない言葉だと思っていた。
聞けば、後の別れを想像して、辛くなるだけだと思っていた。
だから告げる必要はなく、聞く必要もないと、割り切っていた。

けれど、緊張の所為か、微かに震えながら紡がれた言葉は、とても温かいものだった。
たった二文字の言葉が、こんなにも心を満たしてくれるなんて、知らなかった。

銀の髪から覗く耳が、真っ赤になっている。
背中を抱き締める腕が震えているのが伝わって、スコールは微かに口元を緩め、


「……フリオニール」
「な、なんだ?」


名前を呼ぶと、フリオニールはがばっと顔を上げて、抱き締めていた体を離す。
赤い顔が蒼灰色に映り込み、スコールはその頬に、手袋を外した手で触れる。

赤い頬は、その色に違わず、熱かった。
その体温を確かめるように頬を撫でていると、フリオニールの顔が益々赤くなって行く。
このまま沸騰して倒れそうだな、と思いながら、スコールは小さく口を開き、



「俺も、あんたの事が─────」




たった二文字。
それを伝えるだけで、こんなにも。






2月8日と言う事で、フリスコの日!

告白させてみたら、じれったいったらありゃしない。
この後は正式にお付き合いが始まりますが、やっぱり進みは遅いと思います。
しばらくは意識し過ぎて逆に一緒にいられなくなったりするんじゃないかな。本当に手がかかる。
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[ウォルスコ]誰にも見せない

  • 2016/01/26 22:54
  • カテゴリー:FF


フルアーマーと言う程ではないが、ウォーリアの装備は重装備系である。
その為、彼は普段、殆ど肌を露出させる事がない。
あれは真夏は死ぬ奴だ、とスコールは時々思う。

しかし、秩序の聖域にいる時や、野営でも眠る時は軽装になる。
流石に休息には不向きだと彼も思っているようで、聖域の屋敷や、テントの中で兜を脱ぐのは抵抗がないようだ。
火の番や、テントが張れないような場所では、兜だけを脱いでいる姿が見られていた。
休息の形ではあるが、異常があれば直ぐに反応、応戦する為に、気を抜き切らないようにしているのだろう。

そんな彼が、何もかも無防備になる瞬間を、スコールは知っている。
秩序の聖域に誂えられた彼の部屋で、恋仲であるスコールと、二人きりの時間を過ごしている時だ。
閨での事は勿論だが、それ以外でも、彼はスコールの前でいつもの固さを忘れたような姿を晒す事があった。

────今が正にそれだ。
ウォーリアは、鎧兜は疎か、小手もグリーブも何もかも外し、ベッドに座るスコールの膝に頭を乗せて寝転んでいる。
スコールがウォーリアに膝枕をしている状態だ。


(……いつもの事だけど、これ、何が良いんだ…?)


自分の足に頭を乗せ、目を閉じて沈黙している男を見下ろして、スコールは思う。

ウォーリアは、つい一時間ほど前に、セシルと共に斥候から帰還した。
四日に渡る往復は流石の彼でも疲れたようで、戻って来た時にはいつもの眩しさと言うか、覇気と言ったものが感じられなかった。
どうやら、後少しで秩序陣営の側に辿り着くと言う所で、大量のイミテーションと出くわしたらしい。
然程レベルが高くはなかった為、蹴散らすのは難しくはなかったが、辟易したのはその数だ。
共に近距離で突破口を切り開く役目を持つ二人で、湧き出るイミテーションを駆除するのは、中々労のいる作業である。
帰還時の二人の疲労した顔は、その所為だった。

二人はルーネスとティナに促され、帰還後は直ぐに風呂に入った。
筋肉と気持ちのリフレッシュが終わると、ウォーリアはリビングにいたスコールを捕まえ、有無を言わさず自室へと連れて行った。
突然の事にスコールは目を丸くしたが、手を引く力は強く、引っ張られるままに部屋に連れ込まれ、今に至る。

こうした場面は、折々に見られる事であった。
疲れ切った時や、何かがウォーリアの琴線を震わせた時、彼はスコールを連れて部屋に篭る。
いつも凛と背を伸ばし、真っ直ぐに前だけを見つめているウォーリアが、こんな姿を晒す事があるなどと、恋仲になる前は決して思わなかっただろう。
苦手意識も含めて、スコールは、ウォーリアを休息の要らないロボットのように思っていた事もあった。
しかし、彼は確かに人間であって、疲労もするし、精神的な苦痛を知らない訳ではない。


(……だから、こんな事をするんだろうか)


ベッドに横になり、じっと目を閉じる男。
癒しでも欲しいんだろうか、とスコールは思ったが、それならこう言う事はティナでも頼めば良いのに、と思う。
思ってから、ティナがウォーリアに膝枕する場面を想像して、眉間に皺が寄る。


(………)


想像した図は、まるで名画のように美しく映えるものだったが、スコールはなんとも微妙な気分になった。
直ぐにジタンがが飛んできて、羨ましい俺にもやってとティナにせがみ、続いてルーネスが飛んできて騒がしくなる図が浮かんだので、微妙な気分は然程続かなかったが、スコールの中に蟠りは居座ってしまった。

その感情の名前を、スコールは直ぐに悟った。
嫉妬だ。


(……馬鹿か、俺は。自分で想像しておいて……)


己の狭量さに嫌気が差して、スコールの眉間の皺が深くなる。
もやもやとした気分を抱えたまま、スコールは膝の上の男の顔を見つめていた。

────と、銀色を帯びた睫毛が震え、瞼が持ち上がる。
薄く紫色を帯びた水の瞳に、スコールの顔が映り込んだ。


「……どうした?」
「……?」


藪から棒にも聞こえるウォーリアの問いに、スコールは首を傾げた。
何が、と無言で問い返すスコールに、ウォーリアの手が伸び、白い頬に長い指が触れた。


「何か思いつめた顔をしている」
「……してない」
「………」


ウォーリアの言葉を否定したスコールだったが、見詰める澄んだ水色が、無言でスコールを責める。
無論、ウォーリアに責めているつもりはなく、そう感じるのは自分の勝手な被害者意識であると、スコールも判っているつもりだ。
だが、恋仲になった今でも、彼の真っ直ぐ過ぎる眼差しは、スコールは少し受け止め難い所がある。

なんでもない、と言って、スコールは視線を逸らした。
すると、頬から離れた指が、後を追うようにしてまた伸びて来て、


「……すまない」
「は?」


微かに指先が顎のラインに触れると同時に零れたウォーリアの言葉に、スコールは目を丸くした。
謝られる必要があっただろうか、と視線を落として問えば、ウォーリアは体を起こして、スコールの隣に座った。

目線がずっと近い距離になって、触れそうな程の場所にある眩しい瞳に、どきりとスコールの心臓が跳ねる。
そんな事は露知らず、ウォーリアは近い距離のまま、スコールを真っ直ぐに見詰めて言った。


「君の都合も考えず、私の我儘に付き合わせてしまった」
「それは……別に」


初めて有無を言わさず部屋に連れ込まれた時は、色々と身構えたし、ただただ眠る彼に膝を貸していた事に戸惑っていた頃もあったが、今ではもう慣れてしまった。
時折、足の痺れや、持て余す退屈に溜息が漏れる事もあるが、最近のスコールは、ウォーリアの顔を見て暇を潰している。
そうしていると、以前は知る由もなく、今でも仲間達が知らないであろう彼の特徴を知る事が出来るので、存外とこの時間は嫌いではなくなっていた。
膝枕については、未だに戸惑いはあるものの、こうしていると誰も部屋を強襲する事もなく、人目も気にする事もないので、ウォーリアの気が済むまでは好きにさせようとも思っている。

しかしウォーリアは、自身でこの状況を作りつつも、少なからず気まずさもあったらしい。
この男にそう言う感情もあうのだと言う事を、スコールは彼と恋仲になってから知った。
自分が言えた話ではないが、ウォーリアは感情の起伏が薄く、その殆どが鉄面皮の下で埋もれてしまう。
こうして二人きりで、ゆっくりと向き合う時間がなければ、知り得なかった事は数知れないだろう。

ウォーリアの手がもう一度スコールの頬に触れる。
指はスコールの顔の形を確かめるように、ゆっくりと肌を滑って行く。
どうにもむず痒さを感じる触れ方が、スコールは苦手なのだが、これはウォーリアなりにスコールを気遣ってのものらしい。
根本的に剣以外を握る事について、どうにも不慣れなウォーリアは、スコールを可惜に傷付けない為にと、まるで怯えるような優しい触れ方をするのだ。


(……やっぱり、くすぐったい)


早く触れる事に慣れてくれ、と何度思っただろう。
けれども、自分も触れられる事に慣れなければいけない事も、判っているつもりだ。
だとすれば、今はこれ位で丁度良いのかも知れない────くすぐったさには閉口するが。

しばらくの間、ウォーリアはスコールの顔を撫で続けた。
その間も二人の距離は近く、スコールは目を開けていられず、瞼を下ろしてウォーリアの気が済むのを待つ。
この距離感にも慣れない……とスコールが胸中で零していると、


「…君といると、胸の奥が穏やかな気持ちになる」
「……?」


零れた呟きに片目を開けると、透明な水色に射抜かれる。
反射的に固まったスコールに、ウォーリアは気付かないまま、頬を撫でながら続けた。


「戦いの中で……こうした感情が、どう言う意味を持つのか、私には判らない」
「……っ」
「だが、君とこうして過ごしていると、満たされる様な気がするのだ」
「……ちょ…、近い……っ」
「だからつい、君の都合も考えず、こんな事をしてしまう」


ウォーリアの両手がスコールの頬を包み込む。
掬い上げるように顔が上げられると、スコールはもう水色の瞳から逃げる事は出来なかった。


「君にも予定はあったのだろうにな」
「…それは、…別に。今日は大した用事は…」
「だが、思いつめた顔をしていた。何か気掛かりがあったのではないのか?」


どうやらウォーリアは、スコールが眉間に皺を寄せていた事を気にしているようだった。
それに気付いて、「あれは、」とスコールは言いかけて、止める。

嫉妬していたなんて、言えない。
それはスコールの意味のない意地であった。
赤い貌で開きかけた口を閉じるスコールに、ウォーリアが首を傾げる。


「あれは……別に……」
「スコール。何かあるのなら教えてくれないか。君を困らせたくはないんだ」


目線を逸らして言い澱むスコールに、ウォーリアは真摯な眼差しで言った。
そう言うのなら黙ってくれ、とスコールは思うが、それを言った所で、ウォーリアは追求を止めるまい。

いつまでも逸らされる気配のない眼差しに、スコールの限界は早かった。
くそ、と誰に対してでもなく毒づいて、頬を包むウォーリアの手を掴む。
力任せにそれを離した後は、スコールの方がウォーリアの頭を捕まえて、膝の上に落としてやった。


「俺の事は良いから、あんたはもう少し休んでろ」
「しかし────」
「俺は何の予定もない。少しどうでも良い事を考えてただけだ。あんたの事は、関係ない」


だから休め。
寝ろ、寝てくれ。

半ば懇願するような言い方をして、スコールはウォーリアを沈黙させた。
ウォーリアの口が開きかけたが、スコールは彼の目を手で覆って遮る。


「寝ろって言ってる」
「……判った。だが、その手は離して欲しい」


このままでは、君の顔が見えない。

そう言ったウォーリアに、寝るんだから見えなくて良いだろう、と言ったスコールの耳は、端まで真っ赤になっていた。





オフ本作業で18の日を完全にスルーしてしまったので、リベンジ!

スコールの存在に癒されてるウォルさんが書きたかった。
スコールもスコールで、なんだかんだ言ってウォルの事が大好きな感じ。
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[レオスコ]鐘の音は聞こえない

  • 2016/01/01 20:58
  • カテゴリー:FF


遠く響く除夜の鐘を聞いて、年が明けた事を知った。


「…レ、オン……レオン…」
「……ん?」


熱の余韻を残す体を寄り添わせ、うとうとと舟を漕いでいたレオンだったが、スコールの呼ぶ声に目を開ける。
スコールは、レオンの腕の中で彼の胸に頬を当てていたのだが、眠い目を擦りながら顔を上げた。
幼さを残す愛しい面立ちに手を添えれば、スコールは猫のように目を細めた。


「年、明けたみたいだ……」
「…そうだな」


頬を撫でる手に、気持ち良さそうにふわふわとしながら言ったスコールに、レオンも頷いた。

今頃、リビングに放置した二人の携帯電話には、沢山の新年のメールが届いている事だろう。
返事をしないと、とスコールは思ったが、体の気だるさの方が意識を傾けていて、起き上がる気にならない。
何より、リビングに行く為には、この温かいベッドから抜け出さなくてはならなかった。
寝室の暖房はタイマーをつけて稼働させており、切れるまでにはまだ一時間程度の余裕はあるだろう。
しかし、布団の中に比べれば幾許か気温が低い事は明らかだし、何より、背中に回された腕や、密着した体から伝わる体温から離れたくなくて、スコールは携帯電話の賑やかさには気付かない振りをした。
レオンもそれは似たようなもので、仕事絡みで必要な所には事前に予約送信できるようにセットし、プライベートについては朝になってからで良いと割り切っている。

そんなものよりも、今は目の前にいる恋人だ。
スコールは毛布の隙間から滑り込んでくる冷気を嫌うように、レオンの体にぴったりと身を寄せた。
普段、自ら進んで密着する事のないスコールの甘え振りに、寝惚けているな、とレオンはくすりと笑う。


「初詣は、明日行こうな」
「……ん」
「大きな所は人が多いから、小さな所の方が良いか?」
「…そう、だな……」


耳に心地よい声で囁かれるレオンの言葉に、スコールは聞きいるように目を閉じていた。
レオンは、そんなスコールの耳の裏をくすぐって、猫みたいだな、と思う。


「ティーダ達とは一緒に行く約束はしてないのか?」
「……あいつらは、三日に行くって言ってた…」
「三日か。天気予報じゃ今日より気温が下がるらしいから、風邪をひかないように、ちゃんと厚着して行くんだぞ」
「判ってる。あいつらと違って、俺は子供じゃない…」


言い聞かせるように言うレオンに、スコールは唇を尖らせた。
上目で睨むスコールを見て、レオンはそうだな、と頷き、


「それもそうだ。お前が子供なら、こんな事はしないからな」
「んっ……!」


スコールの背中を抱いていた腕が、する、と細い腰を撫でる。
熱と痺れの余韻を残している場所に触れられて、スコールの喉から甘い音が零れた。

つう、と腰骨をくすぐる指先に、スコールはふるふると体を震わせ、レオンの体に縋り付く。


「レオン……っ」
「まだ少し感覚が残っているか?」
「……あ……っ」


レオンの手が不埒な場所に触れるのを感じて、スコールの背がびくっと反り返る。
ついさっきまで繋がっていた其処は、レオンの言う通り、彼の熱の名残を今も残していた。
自覚するとその感覚は尚更はっきりとしたものになり、スコールは赤い顔を隠すように、レオンの胸に頬を押し付ける。

レオンの手は益々悪戯さを増して、頬を撫でていた手が、首の後ろへと滑る。
髪の生え際を擦るようにくすぐると、スコールは肩を縮こまらせてピクッ、ピクッ、と反応を示す。


「レオン…や…ぁ……っ」
「続き、するか?」


眠気なんて飛んでしまった、と囁くレオン。
耳朶を甘く噛まれて、スコールの喉がひくっと震える。

レオンに縋り付く腕に力が篭り、甘えるように細い肢体が寄せられる。
太腿に押し付けられた熱の感触に、レオンは薄らと笑みを浮かべて、スコールの耳の下にキスをした。
ちゅ、とわざとらしく音を立てれば、スコールの頬に朱が上る。


「一回、だけ……」
「ああ。一回だけ、な」


ねだるように言ったスコールに、レオンは頷いた。

足の付け根を撫でていた手を動かして、双丘の谷間をなぞる。
ビクッ、とスコールの体が逃げを打ったが、抱き締める男の腕から抜け出す力はない。



耳元で聞こえる恋人の呼吸が、全ての意識を浚って行く。
愛しい熱を溶かし合うように身を寄せて、それだけを頼りに目を閉じる。

遠く響く鐘の音は、とっくに意識の外に追い出されていた。





新年あけましておめでとうございます!
と言う訳で年始早々からいちゃいちゃしているレオスコでした。煩悩欲望なんてどうせ消えやしないんだ。末永く爆発して下さい。

昨年は色々ありましたが、今年は心機一転して頑張ります。
色々書くぞぉー(と言っといて空回りする予感大)。
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[8親子]行く日も来る日もこのままに

  • 2015/12/31 22:30
  • カテゴリー:FF


いつもならベッドに入りなさいと怒られる時間になっても、今日だけは怒られない。
子供達の憧れの夜更かしが、公認で許される日だからか、幼い末っ子はわくわくとした様子で夜を待っていた。

しかし、まだ五歳になったばかりの子供の体力は心許ないものである。
午前中によく遊び、昼寝を挟み、また夕飯まで遊んでいれば、夜の8時を迎える頃には舟を漕ぎ出していた。
年末特番のマジックショーがテレビで中継され、それを見ている間は、わくわくどきどきとした顔で液晶画面に釘付けになっていたが、CMを挟むと欠伸が出た。
そんな末っ子と一緒にテレビを見ていた九歳の姉も、同じ頃にうつらうつらとし始めている。
テレビのマジックショーは、最後のの爆発脱出マジックを映していたが、二人とも既に見ているのか怪しい。
今では、子供達と一緒にテレビを見ていた父だけが、マジックの怒涛の展開と、派手な演出に夢中になっていた。

画面の向こうで、どーん、と大爆発が起こる。
うおおおお、と盛り上がっている父の隣で、スコールとエルオーネは寄り添い合って、お互いに体重を預けている。
エルオーネの頭がふらふらと不安定に揺れ、スコールは姉の腕にしがみつくようにして、眠気を我慢するように不機嫌な顔をしていた。


「おおっ、見ろ、スコール、エル!あの人、いつの間にかあんなとこに!」
「んんー……」
「……みゅぅ……」


ラグナの声に、エルオーネがテレビの事を思い出し、ごしごしと目を擦る。
見なくちゃ、と呟くその傍らで、スコールは甘えるように姉に抱き付いた。
ぎゅう、と小さな手で縋るように身を寄せる弟に、エルオーネは目を擦っていた手で、ぽんぽんと濃茶色の髪を撫でる。

あと幾許もなく寝落ちてしまいそうな子供達の姿に、ラグナがくすりと笑みを零す。
テレビの音量を抑え、眠るまいとぷるぷると頭を振るエルオーネと、彼女に抱き付いているスコールを抱き寄せた。


「エル、スコール、眠たかったら寝ちゃって良いんだぞ?」
「……んん……まだ起きてる…」
「おきぇる……」
「そうか~?でも、二人ともねんねの顔してるぞ~?」


つんつん、とラグナがエルオーネの頬を突く。
エルオーネは「そんな事ないもん…」と言ったが、くりくりとした黒曜色の瞳は、もう随分前から半分しか顔を出していない。
スコールに至っては、何度も目を閉じては薄く開き、また閉じては開きと言う行為を繰り返していた。

いつ寝てしまっても可笑しくない二人だったが、二人は自分からベッドに入るのは嫌らしい。
今日は遅くまでも起きていて良い日だから、眠ってしまったら勿体ないと言う。
況してや、ダイニングにはラグナだけでなく、兄のレオンや、母のレインも揃っているのだ。
母は夕飯の片付けと、新年に食べる料理の仕込みの為にキッチンに立っており、十三歳の兄はその手伝いをしている。
それが終わったら、皆で一緒にトランプをしようと約束しているから、尚更子供達は眠る訳には行かなかった。

────だが、やはり子供の体力は尽きている。
頑張ろう頑張ろうとする幼子の努力とは裏腹に、二人の意識は飛び飛びになっていた。


「エル~、スコール~。ねんねするならお布団入んなきゃ。風邪ひいちゃうぞぅ~」
「んん……ひかないもん…ねないもん……」
「みんなであそぶぅ……」


二人の努力は可愛いが、そろそろ限界だろうと、ラグナは二人を寝かしつけようとする。
しかし、二人も中々意地が強く、寝ない、遊ぶ、と繰り返す。


「スコール、ほっぺ抓って……」
「こ?」
「うん、それで起きれる…」
「ぼくもぉ……」
「んっ」
「んにゅ」


お互いに顔をむにっむにっ、と摘む二人。
大福のような頬を引っ張って、スコールとエルオーネはお互いを起こし合っていた。


「こらこら、そんなにしたらほっぺ赤くなっちゃうだろ」
「だって眠いんだもん…」
「ねむくないもん。おねえちゃん、ねむくないもん」
「そうだった、眠くない…眠くないもん…」
「ねむねむないもん……」


ぽろりと本音を零したエルオーネと、それを叱るスコール。
エルオーネは直ぐに眠ってはいけない事を思い出し、眠気は気の所為だと自分に言い聞かせる。

ねむくないー、ねむくないー、と輪唱のように繰り返される声。
その声はキッチンに立つ二人にも聞こえており、兄と母は、よく似た顔を見合わせて苦笑した。
行って来て、と無言で頼む母に、レオンは頷いて、キッチンを母に任せて弟達の下へ向かう。


「エル、スコール」
「れおん…」
「おにいちゃ……」
「眠らないなら、それでも良いけど、少し暖かくして置こう。な?」
「あったかくしたら、ねちゃう……」
「大丈夫、寝ない寝ない。眠くないんだろう?」
「うん……」


こしこしと何度目か目を擦るエルオーネ。
スコールは兄に向かって両手を伸ばし、抱っこをねだっている。
そんな弟に、ちょっと待ってな、と頭を撫でてやってから、レオンは椅子に置いていた毛布を広げる。

可愛らしい猫のイラストがプリントされたふかふかの毛布は、エルオーネのもの。
その下に重ねていたライオンの毛布は、スコールのものだ。
レオンはエルオーネの毛布をラグナに預け、ライオンの毛布でスコールの小さな体を包んでやる。
ミノムシのように毛布の中に包まれたスコールを抱き上げ、ソファに座って膝の上に乗せてやると、すり、と丸い頬がレオンの胸元に寄せられる。
エルオーネもラグナに毛布で包んで貰い、同じように膝の上に乗せて貰って、天使の輪が光る黒髪をぽんぽんと撫でられていた。


「レオン、お台所、おわった…?」
「もう少し。後は母さんがやってくれるって」
「レインが来たらゲームしようなー」
「んみゅ…にゅぅ……」


ぽんぽん、ぽんぽん、と幼い子供達の背を撫でる父と兄。
その心地良いリズムに、寝ないもん、と言っていた子供達の目が、とろとろと落ちて行く。

限界だった事もあり、素直に睡魔に誘われて行く子供達に、レオンとラグナは顔を見合わせて苦笑する。


(明日になったら、きっと拗ねるんだろうな)
(なんで起こしてくれなかったの~って)


皆とトランプしたかったのに、と怒る弟と妹の顔が想像出来て、レオンの唇が緩む。
ラグナは、エルオーネを落とさないように片腕で抱いて、空いた手でレオンの頭をくしゃりと撫でた。
虚を突かれたように目を丸くしたレオンだったが、そのまま父の手を甘受する。
少し頬が赤く、我慢するように唇を噤むのは、思春期故だろう。

父と兄の腕の中で、幼子達がすうすうと寝息を立て始めた頃、レインが仕事を終えてやって来た。
手には5つのマグカップを乗せたトレイがあったのだが、


「あら、寝ちゃったの。もうちょっと粘るかと思って、ホットミルク持って来ちゃった」
「俺が冷蔵庫に入れて来るよ。スコールお願い」
「ええ。ラグナは大丈夫?」
「へーきへーき。エルもまだまだちっちゃいからな」


トレイをローテーブルに置いて、レオンの腕からスコールを受け取り、レインはホットカーペットの上に座る。
重みから解放されたレオンは、ホットミルクの入ったマグカップを取って、キッチンへ向かった。
残った3つのマグカップには、コーヒーが二杯と、ミルク入りのカフェオレが一杯入っている。

キッチンから戻って来たレオンは、父と母と向かい合う位置を取って、カーペットに座る。


「エルとスコール、初詣までに起きるかな?」
「どうかしら。お昼寝もしたけど、一杯遊んでたみたいだし」
「ああ、遊んだ遊んだ。羽根つきやって、コマ回しやって、鬼ごっこして」
「貴方も一緒だったでしょう。貴方は眠くないの?」
「んん~、全然って訳でもないんだけど、そんなに眠くはないかな。まだ十時だろ?大人だからだいじょーぶ」
「レオンは平気?」
「まだ平気」


頷いて言ったレオンの目は、ぱっちりと開いている。
午前中は子供達の遊び相手をし、午後は母の手伝いをしているので、疲れている訳ではない。
ベッドに入ればするりと夢の世界に旅立つような気はするが、睡魔と言う睡魔を感じていないのも確かなので、レオンはもう少し起きていようと思っていた。

幼い妹弟と違い、十三歳のレオンなら、眠くなれば無理をせずに布団に入るだろう。
父と母はそう納得して、テーブルの向こうでじっと此方を見詰める息子の好きにさせる事にした。


「初詣は、明日にしようか。どうせ今行ったって、人が一杯でスコール達危ないだろ?」
「そうね……レオンもそれで良い?」
「うん。行くのは昼?」
「それ位にしようか。朝はエルとスコールが起きられないだろうし」


こんな時間まで起きていたのだから、その分、子供達の睡眠時間もずれ込む事だろう。
ひょっとしたら午前中は起きないかも知れないな、と腕の中で眠る娘を見て呟くラグナに、そうかもね、とレインが頷いた。


「レオンも直に寝なさいね」
「寝坊しちゃうからな~」
「うん。でも、もう少し」


父と母の言葉に頷きながら、レオンはローテーブルに腕を乗せ、その上に顎を乗せる。
まだベッドには向かう気のない長男の眼は、父と母に抱かれた妹弟に向けられていた。
じいっと見詰める蒼灰色に映る幼子たちの顔は、すやすやと健やかで、幸せな夢の中にいるのが判る。

はい、とレインが息子の前にマグカップを置く。
ミルクの入った温かいカフェオレを飲みながら、レオンは胸の奥がぽかぽかと暖かくなるのを感じていた。





大晦日の親子でした。
寝ない寝ないと頑張る子供は毎年書いてるような気がしますが、だって可愛いんだもん仕方ない。
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