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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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カテゴリー「FF」の検索結果は以下のとおりです。

[レオン&子スコ]ペットショップ・ファンタジア 1

  • 2013/06/27 20:44
  • カテゴリー:FF


物心がついた時には、小さな檻の中にいた。
其処には温かな毛布があって、冷たくて澄んだ水があって、食べても食べてもなくならない美味しいご飯があった。

此処は何処なんだろう。
自分は、何処から来たんだろう。
そんな事を考えた日もあったけれど、聞く人もいなくて、答えてくれる人もいなかったから、結局それらは判らないまま、今に至る。
時々、大きな生き物が自分を見下ろしていて、にっこりと笑いかけたり、寝ている間に濡れた毛布を見てしょんぼりとした顔をした。

しばらくすると、隣に別の檻が並べられた。
其処には(多分)自分とよく似た顔の子がいて、不安そうにぷるぷると震えていた。
どうしたんだ、と呼んでみると、その子はビクッと跳ね上がって、隠れる場所を探すように檻の中をぐるぐると駆け回った。
そうしている内に、その子は毛布やトイレやオモチャにつまずいて転び、檻の中でどたばたころんころんと転げ回った。
幸い、怪我はしていなかったが、引っくり返って起き上がれなくなったその子は、起こして、助けて、と泣いた。
起こしに行ってやれれば良かったのだけれど、檻から出る事は出来なくて、それでも頑張って前足を伸ばしてみたが、掠める事すら叶わなかった。
結局、その子を起こしてくれたのは、自分の世話をしてくれていた大きな生き物で、大きな生き物は檻の端を開けると、大きな前足でひょいと子供を引っくり返してやった。
大丈夫か、と聞いてみると、子供はすっかり落ち込んでしまってすんすんと泣いていた。
泣いている子供をじっと見詰めていると、子供はそろそろと此方に近付いてきて、自分の前で檻に体をすりすりと擦り付けた。
甘えるようなその仕草に、応えるように此方も檻に体を擦り付けてやると、子供はようやく泣き止んで、嬉しそうに笑った。

それから、しばらくの間、二つの檻は並んでいた。
それまで自分だけで生活していたのが、少しだけ形を変えた。
寝て起きたら、向こう側の檻の中に子供がいて、子供は起きて自分の顔を見ると嬉しそうに笑う。
自分が欠伸をすると子供も欠伸をして、歩き回ると同じように歩き回って、伸びをすると伸びをして、昼寝をすると昼寝をする。
自分の真似をして毛繕いをしようとして、どうして良いのか判らなくなって、体を右へ左へ捻っては不思議そうに首を傾げているのを見た時は、思わず笑ってしまった────その姿が無性に愛しくて堪らなくて。

それからまたしばらくすると、棲家が檻から透明な箱になった。
あの子とは離れ離れになってしまったな、と思っていたら、その子も同じ箱の中に入れられた。
箱の扉はそのまま閉められ、透明な壁は叩いてもぴくりともしなくて、開けられる様子はない。
子供は自分を見て、いっしょ?と言った。
これから一緒なの、と尋ねる子供に、多分そう、と頷くと、子供は嬉しそうに笑って、すりすりと体を擦り寄せて甘えてきた。

────……その日から、ずっと二人で一緒に過ごしている。





二人で丸くなって眠るのが習慣になって、しばらく。
透明な箱の中での生活は、静かなものとは言い難かったけれど、暖かい毛布も、澄んだ水も、美味しいご飯も変わらなかった。
でも、不満に思う事もある。

賑やかな声が聞こえてきて、目が覚めた。
もうちょっと眠っていたかったのに、なんだろうと思って顔をあげると、大きな生き物が幾つも並んで此方を見ていた。

生き物達は自分が目を覚ました事に気付いて、益々賑やかな声をあげる。
透明な箱の向こうから聞こえてくるその声達に、無意識に眉間に皺が寄る。
そんなに大きな声を出したら、一緒に住んでいる幼子も目を覚ましてしまうじゃないか。
すやすやと眠る子供はとても気持ちが良さそうで、何か楽しい夢を見ているのか、その目元がほんのり弧を作っている。
そんな子供の安らかな眠りを邪魔したくなくて、そっと子供に見を寄せて、賑やかな声が聞こえないように小さな耳を塞いでやる。

けれど、時は既に遅く。
子供はもぞもぞと頭を揺らして、ぱちりと目を開けた。
子供らしい澄んだ色をした瞳に、自分の姿が映り混み、


おはよう、おにいちゃん。


嬉しそうに言ったその子供は、いつしか、自分を「おにいちゃん」と呼ぶようになった。
なんともくすぐったくなる呼び方だけれど、呼ばれるととても心が温かくなるのを感じるから、そのまま呼ばせる事にした。

おはよう、と言うと、子供は起き上がって体を伸ばす。
ちりん、と子供の首を飾るリボンに結びつけられた小さな鈴が音を鳴らす。
嬉しそうに体を擦り付けてくる子供に、小さな耳をくすぐって答えてやると、子供はゆらゆらと嬉しそうに尻尾を振った。

子供が起きたことに気付いた生き物達が、箱の向こうでまた大きな鳴き声をあげる。


なあに?なあに?


子供はきょろきょろと辺りを見回して、ことんと首を傾げる。
それから、箱の向こうで自分達を見詰める生き物達に気付いて、細い尻尾がぶわっと膨らむ。


なあに、なあに。
いっぱい、こわい。


ぷるぷると震える子供を隠して、箱の向こうの大きな生き物達を睨む。
大きな生き物達は、美味しいご飯をくれるし、毛布も汚れたら直ぐに綺麗なものに取り替えてくれるし、優しく撫でてくれるから、決して嫌いではない。
けれど、この子を怖がらせる生き物達は、絶対にこの子には近付けさせたくなかった。

大きな生き物達は、しばらくの間、自分と子供を眺めた後、いなくなった。
けれどそれは一度きりではなくて、大きな生き物達は次々にやって来ては通り過ぎ、その度に自分と子供を見て何か言っていた。


なあに、なあに。
おにいちゃん、あれ、なあに。


子供はずっと自分の傍に隠れていた。
ぷるぷると震えて、泣き出しそうな顔をする子供を、ずっと庇って、大きな生き物達を睨む。
大きな生き物達が透明な箱を破ってくる事はなかったのは、幸いだった。

水や毛布をくれる生き物達の方は、いつも通りに優しいし、時々柔らかい鳴き声で自分達に話しかけてくれた。
大きな生き物達の言葉は、自分達には判らないから、彼らが何と言っているのかは判然としないけれど、優しくしてくれるのは変わらない。
でも、箱の向こうで自分達を眺めている生き物達は、どんな生き物なのかが判らないから、何をしてくるかも判らない。
もしも子供を傷つけるような生き物だったら大変だから、警戒心を忘れてはいけないのだ。

次から次へ、現れては通り過ぎていく生き物達を、警戒し続けて一日を過ごす。
優しい生き物達がくれる食事を食べ終わった頃には、すっかり疲れて眠くなるのが常だった。

毛布の横でうとうとと目を閉じかけていると、ぺたん、と何かが鼻を押した。
何だろうと思って目を開けると、丸くて円らな蒼い瞳が間近にあって、ぺろりと頬を撫でられる。


おにいちゃん、だいじょうぶ?
おにいちゃん、ねんねする?


沢山の生き物に怯えて、ずっと兄の影に隠れていた子供。
守ってくれた兄を労るように、すりすりと顔を寄せては頬を撫でる。

一頻り兄を労って、子供は毛布を掴まえ、ぐいぐいと引っ張って兄の背中にかけようとする。
けれど、覚束ない足元に布溜まりが絡まって、子供は毛布を踏んだままでぐいぐいと引っ張っていた。
思うようにならない毛布に焦れたように、子供は思いっきり毛布を引っ張りあげようと体を反らしたが、勢い余ってそのまま後ろに引っくり返る。
ぽてんと転がった子供の上に毛布がふわりと落ちてきて、子供は毛布の世界に閉じ込められた。
きっと何が起こったのか、自分がどんな状況になっているのか判っていないのだろう。
毛布の世界で子供がじたばたと暴れ、たすけておにいちゃん、と言う声がくぐもって響く。

毛布の端を捕まえて、持ち上げる。
毛布の世界から外の世界へ帰ってきた子供は、それでもしばらくじたばたともがいていたが、見慣れた天井が見えている事に気付いて、ぴたと止まる。

子供はよいしょ、うんしょともがいて、ころりと転がって起き上がった。


おにいちゃん、おにいちゃん。


怖かった、と言うように擦り寄る子供に、大丈夫だよと囁く。
涙の滲んだ眦を拭ってやると、子供はぱちりと瞬きして、甘えるように寄り掛かってきた。

腹に乗った子供の重みに心地好さを感じながら、目を閉じる。


おやすみなさい、おにいちゃん。
あしたも、ずっと、いっしょにいようね。


明日だけなんて、そんな事。
明日も明後日も、その後も、ずっとずっと一緒にいるよ。
そう言ったら、また嬉しそうに擦り寄る温もり。

ずっとずっと、いつまでも。
二人で一緒にいられる事だけを願っている。





ペットショップ・ファンタジア 2

ペットショップでスコティッシュフォールドの兄妹がペアで売られていたので、其処から妄想。
この子スコが♂か♀かはご想像にお任せします。
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[レオン&子スコ]ペットショップ・ファンタジア 2

  • 2013/06/27 20:44
  • カテゴリー:FF


いつものように、腹に乗った温もりを感じながら眠っていた。
時折、何かの物音で目を覚ましては、腹の上ですぅすぅと息づく呼吸を感じて、また眠りにつく。
透明な箱の中で二人で過ごすようになってから、すっかりそれが当たり前になった。

大きくて優しい生き物達は、定期的に自分達に暖かい雨を当てる。
最初は頭の上から勢いよく落ちてくる雨が怖いと思ったけれど、何度も繰り返されている内に、段々と慣れてきた。
けれど、慣れてしまったのは自分だけで、子供の方はまだ怖くて堪らないらしく、いつも悲鳴のようにおにいちゃん、おにいちゃんと泣いているのが聞こえた。
あんまりにも子供が泣いて嫌がるので、最近は一緒に雨に濡れるようになった。
それでも子供は雨を怖がったが、自分が一緒にいるようになってからは、前のように大きな声で泣く事はなくなったと思う。

それ以来、透明な箱の中にいる時も、時々箱の外に出る時も、一緒に過ごすようになった。




物音がして、今日何度目か、目を覚ます。
顔を上げると、いつものように大きな生き物が透明な箱の向こうから自分達を見ていた。

透明な箱の中で過ごすようになってから、最初の頃は警戒したものだったけれど、最近はすっかり慣れてしまった。
子供が怯える事もなくなったし、あの生き物達は、透明な箱を越えて此方にやってくる事はない。
決して警戒しなくなった訳ではないけれど、毛を逆立てて睨む必要はないのだと気付いてからは、ただじっと、生き物達の動向を注視する事にした。

大きな生き物達は、大抵、賑々しいものが多かったが、今日の生き物はその中でもより一層賑々しかった。
しきりに箱の中にいる自分達を指差して、何かを言っては、傍にいる別の生き物に話しかけている。
その話し声の所為だろう、腹の上ですやすやと眠っていた子供がもぞもぞと身動ぎを始め、やがてぱちりと瞼を開けた。


なあに?


子供は眠そうな目を擦り、きょろきょろと辺りを見回した。
それから、自分達を指差している大きな生き物を見付けて、子供は体を起こして箱の壁に近付く。

最初の頃は怖がってばかりだった子供も、少しずつ環境に慣れて、沢山の生き物に見詰められる事に慣れてきた。
それは多分、兄が一緒にいてくれると言う事と、何があっても箱の向こうから生き物達がこれ以上近付く事はないと覚えたからだろう。
根っこは相変わらず怖がりで、突然何処かから聞こえた正体不明の音だとか、そういうものには敏感に反応する。

箱の前で、生き物の前足がちっ、ちっ、ちっ、ちっ、とリズム良く左右に揺れている。
子供はそれを追いかけて、首を左右に揺らしていた。


なあに?なあに?これなあに?


子供の前足が持ち上がって、ぺたぺたと透明な壁を叩く。
きっと揺れているものを捕まえたいのだろうけれど、うずうずしている尻尾とは裏腹に、透明な壁の所為でそれは叶わない。
だから代わりに、ちっ、ちっ、ちっ、ちっ、と揺れるものを追うように、首を揺らして前足でぺたぺたと壁を叩く。

しばらくして、揺れていたものがなくなって、除き込んでいた生き物もいなくなった。
気になっていたものが目の前から消えて、子供は少し詰まらなそうに尻尾を垂らしていたが、くるっと振り返ると、兄を見付けて嬉しそうに破顔する。


おにいちゃん、おにいちゃん。


甘えて体を寄せてくる子供に、知らず目を細める。
すりすりと頬を寄せられて、同じように頭を寄せてやれば、子供は益々嬉しそうに抱き着いてきた。

いつものように子供をあやし、撫でてやる。
くるり背中を向けて尻尾を揺らしてやれば、子供はまじまじと揺れる尻尾を見つめて、前足でぺたりぺたりと床を叩く。
時々、喉が乾いて水を飲んで、また遊んでと繰り返し。
ふわ、と時々欠伸を漏らしつつ、子供が遊び疲れて眠るまでは、もう少し起きていようと尻尾を降り続ける。

そんな時だ。
透明な箱ががちゃりと開いて、いつも毛布を取り替えてくれる生き物の前足が伸びてくる。
前足は子供を抱き上げて、箱の外へと連れ出すと、ぱたりと箱を閉めてしまった。


あれ?おにいちゃん?


箱の向こうで子供の声が聞こえる。

こんな事は、いつ以来だろう。
突然子供と離れ離れになるなんて、考えてもいなかった。


おにいちゃん、おにいちゃん。
おにいちゃん、どこ?


箱の外で、兄を呼ぶ子供の声がする。
怖がっていると判るその声に、あの子の所に行かなければと立ち上がる。
けれど、何度叩いてみても、透明な壁はびくともしない。

少しの間聞こえなくなった子供の声が、別の場所から聞こえてきた。
振り返ると、子供はいつも大きな生き物達が自分達を眺めている場所にいて、優しい生き物の手から、別の生き物の手に委ねられようとしていた。
優しい生き物の手の中で固まっていた子供は、見知らぬ生き物を見上げて、びくっと尻尾を膨らませる。


いや、こわい!
おにいちゃん、おにいちゃん!


じたばたと子供が暴れだして、大きな生き物達の手から逃げ出した。
慌てて優しい生き物が子供を捕まえようとするけれど、子供はそれもするりと逃げて、兄の下へと走り出す。

けれど小さな子供は、兄が何処にいるのか判らない。
追い駆けて来る生き物達から逃げながら、子供は右へ左へ走り回り、隠れる場所を探して小さな物陰の中に滑り込んでは駆け抜けて、辺りはしっちゃかめっちゃかになった。
こっちだよと何度も声を大きくして呼ぶけれど、恐怖で一杯になってしまった子供の声には届かない。


やだ、やだ、やだ。
おにいちゃん、おにいちゃん。
おにいちゃん、どこ?


駆け回りながら泣きじゃくる子供。
自分があそこに行かないと、子供はずっと怖い思いをしたままだ。

透明な箱から出ようと、閉じてしまった壁に体をぶつける。
箱が内側から開いてくれた事はないけれど、今こそ開けなければ、開けて外に出なければ。
あの子を迎えに行かないと、あの子を安心させてやらないと。

何度も弾かれながら転がっていると、がちゃりと箱が開けられた。
延びてきた前足をするりと避けて、外に出る。
並んだ細い四つ足や低い天井の下を擦り抜けて、大きな生き物達の色々な臭いで一杯になった場所に出る。
しっちゃかめっちゃかになった景色を見て、此処だ、と確信した。

がしゃーん、と大きな音が響く。
その音のする方向へと走って行けば、大きな生き物達に囲まれて、泣きじゃくっている子供がいた。
飛び込んで子供を捕まえて走り抜け、床と低い天井の隙間に潜り込んで、生き物達が入って来れない場所に逃げる。
隙間の向こうで自分達を呼ぶように何度も声がかけられたけれど、決して外には出ないで、子供を床に下ろして丸くなる。


おにいちゃん、おにいちゃん。


怖かった、と擦り寄せてくる子供の目は、すっかり濡れてしまっている。
いつものように腹の上にちょこんと寝るだけでは落ち着かない子供を、体の下に隠すように閉じ込める。

優しくしてくれた生き物達の事は嫌いではないけれど、子供を怖がらせる生き物達は駄目だ。
だから、隙間の向こうで一所懸命に呼ぶ声が聞こえていたけれど、聞こえない振りをしてうずくまる。
子供もすん、と鼻をすすりながら、兄の傍らに丸くなって目を閉じた。

─────結局、じっと其処に隠れていられたのは、ほんの数時間の間だけ。
子供が、兄が傍にいると言う安堵感の中で、いつの間にか眠ってしまい、目が覚めた時には透明な箱の中に戻っていた。
目覚めて真っ先に辺りを見回して、いつもと同じように腹の上ですぅすぅと眠る子供を見付けて、ほっとする。
透明な箱の向こうでは、いつも優しい生き物達がしょんぼりとした顔で此方を見ていて、そっと前足の細い先端で頭を撫でた。

しばらくして、腹を空かせた子供が目を覚ました。
きょろきょろと辺りを見回す子供の額を撫でてやると、子供は兄の存在に気付いて、じわあと瞳を潤ませる。
すりすりと体を寄せて甘える子供をあやして、いつもと同じように一緒に食事をして、いつものように毛布に包まって丸くなる。



翌日、透明な箱に一枚の紙が貼られた。
裏側からでは真っ白にしか見えないそれの表側には、こう書いてある。

『二匹ペアです。一緒に可愛がってあげて下さい』




ペットショップ・ファンタジア 3

色々やらかしてしまった二匹。

最初は、元々同じ親から生まれた兄弟だし、二匹一緒にしていた方が大人しいしと言う理由で一緒にしてただけだったんだけど、離したらとんでもない事になるのだと判ったと言う事件でした。
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[レオン&子スコ]ペットショップ・ファンタジア 3

  • 2013/06/27 20:35
  • カテゴリー:FF



「へえ、可愛いな。こいつらだけ二匹一緒だ」


聞こえた声に目が覚めた。
起き上がると、若草のような緑色の目をした生き物が、透明な箱の向こうから此方を見ている。


「おっ、起きた。こっちの方が大きいな、オスって事は兄ちゃんか」


興味津々と言う顔で見つめてくる目。
じっとそれを見返していると、腹の上ですぅすぅと眠っていた子供がもぞもぞと身動ぎをして、目を覚ました。

おにいちゃん、どうしたの、と尋ねる子供の頭を撫でてやる。
子供はくすぐったそうに笑った後、自分をじっと見つめている若草色の目に気付いた。
なあに?と見上げる子供を見て、若草色が爛々と輝く。


「おっ、ちっこい方も目が覚めたか。リボンつけて貰って、似合ってるなあ。可愛いな」


大きな生き物は、ごそごそと何かを取り出して、透明な壁の前に何かを差し出した。
ぷらんとぶら下げられたのは銀色の細い鎖で、鎖には四角いプレートのようなものが提げられている。
生き物がプレートをぷらぷらと揺らせば、プレートは振り子のように左右に揺れて、子供の目がその動きを追い駆ける。

子供は起き上がって、そろそろと透明な壁に近付く。
ぷらぷらと振れるプレートを追い駆けて、子供の首が左右に揺れる。


「はは、興味津々だな。可愛いな~」


楽しそうな生き物の声がする。
その生き物の後ろから、別の生き物がやって来て話しかけた。


「決まった?ラグナ」
「おお、レイン。いや~、どの子も可愛いから迷っちまって……でも、この子はどうかなーって」


若草色の目の生き物が箱から離れて、別の色の目をした生き物が除き込んでくる。
─────その色を見て、思わず息を飲んだ。


「あら、可愛い」
「だろだろ?どうかな、この子。レインと同じ瞳の色してるんだぜ」
「うーん……私もこの子がいいけど、二匹ペアかあ…ちょっと高いわね」


子供は、聞こえる声を気にしておらず、プレートが引っ込んでしまって、子供の尻尾がしょぼんと垂れていた。
気になるものがなくなってしまって、子供はくるんと振り返ると、兄の傍らで塊になっていた毛布に向かってダイブする。
毛布の世界に頭から飛び込んだ子供は、あれ?あれ?と毛布の中できょろきょろじたばたもがいている。
毎日同じ事をしているのに、飽きないな、と思いつつ、毛布を掴んで持ち上げて、子供を毛布の世界から救出した。
ぷぅ、と子供はぷるぷると頭を振る。
毛布の世界から抜け出した子供は、兄の顔を見付けて、嬉しそうに体を寄せた。

その様子を、若草色と青灰色がじっと見詰めている。


「仲が良いんだなあ。こりゃあ確かに、バラバラにしちまったら可哀想だな」
「うーん……そうねえ」


若草色が笑って、青灰色も笑う。
生き物達はしばらく楽しそうに話をした後、傍にいた優しい生き物を呼んでいた。

おにいちゃん、と呼ぶ声がした。
見てみると、子供がお気に入りのオモチャを持って、遊ぼう、とねだる。
毛布の上に置いたオモチャを前足で押すと、ぷきゅう、と言う音が鳴った。
子供がぺしぺしと前足で何度も叩けば、ぷきゅ、ぷきゅ、と何度も音が鳴って、子供の尻尾が楽しそうにゆらゆらと揺れる。
それを見て、自分の尻尾もゆらゆらと揺れた。

────がちゃり、と箱が開いて、優しい生き物の前足が伸びてくる。
最初に子供が、それから直ぐに自分の体が持ち上げられて、一緒に箱の外へと連れ出された。
おふろ?と子供が尋ねているけれど、お風呂はついこの前も入った筈だし……と思っていると、風呂へは連れて行かれずに、大きな生き物の色々な臭いがする場所に連れて行かれる。

漂う臭いに、びくん、と子供の尻尾が膨らんだ。
以前、この臭いのする場所に連れて行かれた時、とても怖い思いをした。

いや、と子供が暴れ出す。
優しい人達は何かを言って、子供の首や背中を撫でて慰めようとしたけれど、子供はちっとも落ち着かない。
子供はいや、いや、いや、と泣き出して、じたばたと暴れて、優しい人達の手から逃げ出した。
それを見て、早く追い駆けなくちゃと抱える手を抜け出して、床に降りた。


いや、いや、いや、おにいちゃん。
おにいちゃん、たすけて!


兄を呼びながら駆け回る子供を追い駆ける。
自分は此処にいる、一緒にいる、傍にいる。
子供を呼びながら叫ぶけれど、あの火と同じで、子供には届かない。

駆け回る子供が、何かにぶつかって転んだ。
それは、子供と同じ色の瞳をした、あの生き物の後ろ足で。


「あら。貴方から来てくれるなんて。びっくりね」


細くて白い前足が、子供を持ち上げる。
それを追い掛けて飛ぼうとして、立ち止まった自分を、若草色の瞳をした生き物が持ち上げた。


「お兄ちゃんも来てくれたか~」
「そんなに私達の事、気に入ってくれたの?」
「そっかそっか。こりゃやっぱり、二匹とも一緒に連れて帰ってやんなきゃな」


ぎゅっと抱き締められて、子供も自分も目を丸くしていた。

頭や腹をくすぐられる感覚が、優しい生き物達にされる時とよく似ている。
なんだかむずがゆくて、なんだかぽかぽかとして、この生き物達に抱かれているのは居心地が良い。
あんなに逃げ回っていた子供も、青灰色の瞳をした生き物に抱かれて、きょとんとした顔で青灰色を見上げている。

なんだろう。
この感覚は、なんだろう。
初めて感じるような気もするし、そうでないような気もする。


「すみません、お客様。ご迷惑を…」
「ああ、いいって、いいって。気にしてないし。俺達より、そっちの方こそ大丈夫か?お店の方とか」
「あ、はい。それは……大丈夫です。ありがとうございます。それで、えっと…」


駆け寄ってきた優しい人が、若草色に抱き締められている自分を見た。
それから、青灰色に抱き締められている、子供を。

視線に気付いた若草色と青灰色は、それぞれ抱いた子供と自分を撫でて笑う。


「うん、この子達にするよ。な、レイン」
「ええ。一緒に引き取るわ。離れ離れにしちゃ可哀想だもの」


笑いかける青灰色と若草色。

ぱちり、瞬きを一つ。
青灰色に抱かれた子供を見ると、子供も此方を見ていた。
おにいちゃん、と呼ぶ子供の幼い瞳には、もう怖がっている様子はない。


おにいちゃん、おにいちゃん。
あのね、あのね。
なんだかね、ぽかぽかあったかいの。
おにいちゃんみたいに、あったかいの。
これ、なあに?


首を傾げて尋ねる子供に、なんだろう、でも同じ気持ちだよと言うと、子供は嬉しそうに笑った。
笑った子供を見て、青灰色の生き物が子供の頬に顔を寄せて、嬉しそうにすりすりと擦り寄せる。

それをじっと見詰めていたら、首の下をくすぐられて、思わず喉を仰け反らせた。
そんな自分の鼻頭に、つんと何かが触れて、楽しそうに笑う若草色が間近にある。


「これからよろしく」
「仲良くしてね」


笑う青灰色と若草色が、温かくて、くすぐったくて。

おにいちゃん、と呼ぶ声に子供を見れば、子供はやっぱり笑っている。
その傍らで、子供と同じ青灰色が笑っている。
見上げれば、若草色も笑っていて、其処に映り込んだ自分も、何処か。



ああ、良いかな、と思った。

だって、子供が笑っている。
怖がらないで、笑っている。
子供と、自分を、一緒にいさせてくれる。


ずっとずっと願っている。
子供と一緒に、暖かくて柔らかい、優しい場所にいられる事を。

ずっと、ずっと──────……





たからもの(かぞく)がふえました。

行き先はカフェバーか、大統領官邸か。
どっちでも、すごく可愛がって貰えると思います。と言うか私が可愛がりたい。
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[レオン&子スコ]ホッとみるく

  • 2013/06/13 22:57
  • カテゴリー:FF
子スコと二人暮らしなサラリーマンレオンさんの一コマ。




休憩する暇が勿体ない────とは言え、人間は全くの不眠不休で活動できるようには創られていない。
消費した体力やエネルギーを再度確保する為には、食事等の栄養補給は必要であるし、集中力や情報処理能力の精度を維持する為には、睡眠は不可欠だ。

しかし、そうは言っても、やはり寝る間も惜しくなる事もある。

色々なミスが重なり重なって、予定よりも大分送れてレオンの下に到着した書類は、明後日の午前中には先方に届いていなければならない。
だと言うのに、書類の中身はまだ半分も出来上がっていない。
今晩中にせめて三分の二は書き上げておかなければ、先方への到着は更に遅れ、信用を失う事にもなり兼ねない。
今日が踏ん張り所なのだと、自分自身に言い聞かせ、レオンはパソコンと向き合い続けていた。

疲労の所為だろう、じんじんとした偏頭痛を感じながら、レオンは席を立つ時間も惜しいと、ひたすら液晶画面を睨み、キーボードを叩き続けていた。
常の倍以上の集中力で作業に没頭するレオンは、時刻がいつの間にか夜の十一時を越えていた事にすら気付かない。
きぃ、と寝室とリビングを隔てるドアが、小さな音を鳴らした事にも気付かなかった。
だから、とてとてと小さな足音を立てて、小さな子供が眠たげに目を擦りながら寝室から出てきた事にも、レオンは気付いていなかった。


「おにいちゃ……」


自分を呼ぶ声に、レオンはよくやくパソコン画面から目を放した。
振り返ってみると、小さな弟────スコールが、こしこしと小さな手で目元を擦りながら、テーブルの端からひょっこりと顔を出して、此方を見ている。

レオンはピントが合い難くなっていた目を擦り、小さく笑みを浮かべた。


「目が覚めたのか?スコール」
「うん……のどかわいたの」
「そうか。じゃあ、ミルクでも作って────」
「んーん」


椅子から腰を上げようとしたレオンに、スコールは小さく首を横に振った。
おや、とレオンが首を傾げていると、


「お兄ちゃん、忙しいもん。ぼく、自分でできるよ」


そう言ったスコールの目には、兄を気遣う色がありありと伺えた。

スコールはテーブルから離れると、小走りでキッチンへと向かう。
大丈夫だろうか、と小さな影を目で追っていると、スコールは足場用の小さな木イスを運び出して、よいしょ、と上る。
背の高い冷蔵庫の蓋をぱかりと開けると、スコールは小さな足場の上で背伸びをして、牛乳パックを取り出した。
牛乳パックを調理台に置くと、足場を食器棚の下へと運んで、もう一度よいしょと上り、食器棚の上に置いていたマグカップを手に取った。

調理台に立って、ゆっくりとマグカップに牛乳を傾けていくスコールに、レオンは大丈夫そうだな、と浮かせかけていた腰を椅子へと下ろす。
さて、と仕事の続きを再開させようと液晶画面に向き直ったレオンだったが、其処に映り混んだモニターは、ぼんやりとしていて明瞭としない。
目疲れか、とレオンは目頭を抑え、軽くマッサージして、血行の流れの改善を試みる。


(目薬を買っておけば良かったな。効率も落ちてるし、少し休憩を挟んだ方が良いか?しかし……)


眉間に深い皺を刻み、作業を続行するか、効率の回復を図る為に休憩を挟むか思案する。
ミスを起こさない為にも、一度休憩を挟むのが無難かとは思うのだが、今は三十分程度の空き時間さえも惜しい。
早く終わらせてしまえば、それだけ後に余裕が出来るのだから。

キッチンから、ピーッ、ピーッ、と言う電子レンジの音が聞こえた。
スコールが自分でホットミルクを作っているのだろう。
いつもなら、それもレオンが作ってやって、甘いミルクにふにゃりと頬を綻ばせる弟の姿に和んでいるのだが、今日はそんな余裕もない。
小さな弟が、自分で出来るよ、と気遣うように言ってくれた事は、幼い彼の成長を感じることもあって嬉しかったが、甘えん坊の彼が我慢しなくちゃと思う程、自分が忙殺されている事には辟易としてしまう。

ふう、と溜め息を一つ吐き出して、レオンはもう一度パソコンと向き合った。
休憩するのはもう少し後にして、今書いている部分だけでも片付けてしまおう。
カタカタとキーボードを叩く音が再開され、静かなリビングの中に響く。

没頭するように文章に集中しようとしていたレオンだったが、ことり、と小さな音と共に、テーブルの端に白いものが置かれた事に気付いて、顔をあげる。
すると、白いマグカップが置かれたテーブルの端から、ひょっこりと小さな弟が顔を出していて、


「これ、お兄ちゃんの分ね」


スコールはそう言った後、キッチンでピーッピーッと鳴る電子レンジの音に気付いて、ぱたぱたとそちらへ駆けて行った。

リビングに残されたレオンは、少しの間、呆然としたように、キッチンに入っていったスコールの背中を見つめていた。
その姿がキッチンの影に完全に見えなくなって、ようやくテーブル端に置かれているものに目を移す。
ちょこんと置かれたマグカップは、まだ六歳になったばかりのスコールが使うには、少々大きい。
つまり、このマグカップはレオンが普段使っているもので、スコールもレオンが使うものだと認識しているものだった。

ほこほこと暖かな湯気を上らせるマグカップを手に取る。
其処へ、両手に小さなマグカップを持ったスコールが、溢さないようにそろそろとした足取りで戻ってきた。
マグカップをテーブルに置くと、スコールは椅子に上ってちょこんと座り、落とさないように両手で持ったマグカップを傾ける。


「……んぅ」


一口ミルクを飲んだスコールは、困ったように眉毛をハの字にして首を傾げる。
変だなあ、と首を傾げるスコールに、レオンもまた首を傾げ、


「どうした?」
「んぅ……なんか違うの」
「違う?」
「これ。いつもと違うの」


これ、と言ってスコールが差し出して見せたのは、マグカップに入ったミルク。
レオンは少しの間考えた後で、スコールが言わんとしている事を察して苦笑した。

スコールがいつも飲んでいるホットミルクは、レオンが鍋を使って温め、蜂蜜を入れて、手作りしているものだった。
今日はスコールが自分で作ったので、火を使う鍋は使えず、電子レンジで牛乳を温めていた。
その所為で、いつも自分が飲んでいるホットミルクとは、舌触りや味が違って感じられたのだろう。

むぅ、と唇を尖らせてホットミルクを睨むスコールに、レオンは苦笑を漏らして、自分のミルクに口をつけた。
ほんのりと蜂蜜の味と甘い匂いが感じられ、その温かさと共に、疲労し切ったレオンの体にゆっくりと染み渡っていく。
その様子を、スコールが固唾を飲むように真剣な表情で見つめている。
レオンはそんな弟に小さく微笑んで、


「美味しいよ、スコール」


兄の言葉に、ぱああ、とスコールの表情が明るくなる。
まろい頬をほんのりと桜色にして、スコールはにこにこと嬉しそうにミルクを飲み、もう先程のようにいつもと違うミルクの味に首を傾げる事もしない。

レオンはもう一口、ミルクに口をつけた。
確かにいつも自分が作っているホットミルクとは、味も舌触りも僅かに違うが、レオンにはこのホットミルクがとても甘く美味しいものに思える。
スコールが自分の為に淹れてくれたものだと思うと、尚更。



急がなければと思っていた仕事の事は、ほんの少しの間、忘れてしまおう。

レオンは、くすぐったそうに笑いながらミルクを飲むスコールを見つめ、一時の癒しの時間に浸る事にした。





徹夜が続いて、甘いものと癒しが欲しかったので、子スコにお願いしてみました。
休息って大事。
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[ティナスコ]貴方の夢を守りたい

  • 2013/06/08 23:36
  • カテゴリー:FF



初めは、聞き間違いだと思った。
そんな言葉が彼の口から紡がれると、思ってもいなかったから。

それを聞いたのは、聖域に近付いていたイミテーションの大群と戦った翌日であった。
戦闘中、重傷を負ったも関わらず、前線で戦い続けていたスコールは、無理が祟って夜半に発熱し、運良くそれを発見したジタンによって、急いでセシルが呼ばれた。
ケアルとエスナで処置を施した後は、バッツが一晩つきっきりで看病する事となった。
朝になると、スコールの苦しげに喘いでいた呼吸は落ち付いたものの、発熱は如何ともならない状態が続き、彼の意識がようやく戻ったのは、その日の夜になってからだった。

────“あの言葉”をティナが聞いたのは、スコールが熱を出している、日中の事。
束の間驚いたティナであったが、その時、微かに開いた瞼の隙間から、酷く頼りない青灰色を見て以来、彼女はずっとあの言葉と色を忘れられずにいる。




じぃ、と見詰める藤色の瞳に、スコールは気付いていた。
それに対して眉根が寄るのは、スコールにとっては致し方のない事である。

目は口ほどに物を言う、と言うが、スコールはその目の物言いとやらを正確に測る事を苦手としている。
そもそも、人と目を合わせる事が好きではないから、物言いを読む為に、相手と目を合わせる、と言う事が、彼には相当なハードルの高さを誇っていた。
では此方から聞いてみてはどうか、となると、それも更にハードルが上がるだけ。
結局、スコールは、突き刺さるようにじぃと見詰める視線をどうする事も出来ず、眉間に深い皺を寄せて、静寂の中でまんじりともしない時間を過ごすしかない。


(……どうして、こうなってるんだ?)


現在、秩序の聖域には、スコールとティナ以外のメンバーがいない。
スコールはローテーションの待機番、ティナは昨日混沌の戦士と戦った事に因る疲労からの回復の為、聖域に構えられた屋敷に居残る事になった。

居残り自体に、スコールに不満はない。
聖域はコスモスの結界によって庇護されているが、秩序の戦士達にとって重要な拠点となるホームを無人にするのは、余りにも無防備すぎる。
昨日の疲労を引き摺るティナに、一人で留守を預けるのも不安だし、念の為にもう一人────魔法を得意とするティナとは逆となる、接近戦を主とする者が残るのも、無難な配置だと思う。
単独行動云々で問題視される事が多いスコールだが、戦術の重要性は理解しているから、今日の決定に文句を言う気はなかった。

だが、どうにも気まずい。
と言うか、突き刺さる視線が気になって仕方がない。


(言いたい事があるなら言えよ…)


屋敷の広いリビングダイニングルームの一角。
普段、食卓に使っているテーブルの端に座っているスコールと、其処から二席空けて座っているティナ。
ティナの前には、ジタンが出掛ける前に淹れて行った紅茶がある。
因みに、スコールの前には、ミネラルウォーターが入っていたグラス(今は空)。

モーグリの絵が描かれたティーポットは、ティナのお気に入りの食器だ。
さっきまでティナは、その絵を白い指先でなぞって遊んでいた。
その時は、スコールは特に何を気にする訳でもなく、書庫から持って来ていた本を読んでおり、沈黙は今と変わらないものの、気まずさや息苦しさと言うものは感じていなかったように思う。

スコールの視線は、手元の本を見詰めている────が、最早其処に記された文章を読んではいない。
そうするだけの集中力がないからだ。
スコールの意識は、完全に、傍らで自分を見詰める少女へと傾いている。

何か用か、とこっちから聞く所、なのだろうか。
しかし、以前同じような状況になった時、見詰める視線に「なんだ」と聞いたら、ティナは怯えたように首を横に振って「なんでもない」と言った。
明らかになんでもないようには見えなかったが、そう言われてしまえば、スコールがそれ以上言及出来る訳もなく、より一層気まずい雰囲気に襲われる事となった。

またあの時みたいな空気は御免だ、とスコールが溜息を零しかけた時、


「ねえ、スコール」


思いも因らない方向から声が聞こえて、スコールは一瞬、その声が誰のものか判じ兼ねた。
首を巡らせてみれば、当然、其処にはティナがいる。

まさか、彼女の方から自分に声をかけてくるとは、思っていなかった。
そんな驚きから、顔を上げたまま固まっていたスコールに、ティナは尋ねた。


「スコールって、お姉さんがいるの?」


────何処で訊いた。
そんなスコールの胸中を知ってか知らずか、ティナは続ける。


「この間ね、スコールに言われたの。何処に行ってたの、お姉ちゃんって」
「…………は?」


ティナの言葉に、スコールはぱちぱちと瞬きを繰り返す。
何の話だ、と言うスコールを見て、ティナは更に続けた。


「探してたのに、待ってたのにって。そう言ってたの」
「……知らない。そんな事は言った覚えがない」
「うん、そうだと思う。あの時、スコール、熱があったから」


熱────と言われて、数日前に確かに酷い高熱に魘されていた事を思い出す。
怪我に因る発熱で、まる一日意識が戻らない程の重症だった。
熱が下がるまでの間、セシルやバッツ、そしてティナが自分の看病をしてくれていたと、後でジタンから聞いた。

その時、何か言ったのだろうか。
しかしスコールは、高熱に魘されていた時の記憶が全くない。
一度として目を覚ましたような覚えもなく、ティナが自分の看病をしていた事さえ、ジタンから聞かされなければ知らなかっただろう。


(いや、今はそんな事より────)


何か言った、何を言ったと言う事への確かな情報については、後で考えるとして。


「スコールがちょっとだけ目を覚ました時、看病していたのが私で。スコール、私を見て、お姉ちゃんって言ったの」
「……知らない」
「それからね、小さな子供みたいに、ぽろぽろ泣き出して」
「……」
「怖い夢を見たみたいに、泣き止まなくって。バッツを呼んだ方が良いかなって思ってたら、私の手を握って、もう何処にも行かないでって言ってたの」
「……」
「それで、こうやってね、ぎゅってスコールの手をぎゅって握ってあげたら、」


ティナは席を立つと、スコールの隣の椅子に移動した。
途端に近くなった距離に、スコールが微かに椅子を引いたが、それ以上逃げる前に、ティナの白い手がスコールの手を捉まえる。

ぎゅ、と柔らかな力が、スコールの手を包んだ。


「スコール、凄く嬉しそうだった。でも、手を離そうとすると、また不安そうな顔をするの。だから私、スコールが眠るまで、ずっとスコールの手を握ってた」


ティナは、握り締めたスコールの手を見詰めながら言った。

彼女の手が、今自分の顔に向けられていなくて良かったと、スコールは思う。
自分がどういう顔をしているのかは判らなかったが、額やら頬やら首やらが酷く熱い。
掌も熱いような気がするので、もしもグローブを嵌めていなかったら、ティナの手にもその熱さが伝わっていたかも知れない。


(…なんだ、これ。なんの拷問だ?)


ティナに触れられているとか、こんなにも距離が近いとか、それもスコールには少々顔が引き攣りそうになるのだが、今は距離感云々よりも、彼女が滔々と語る話が何よりもスコールに甚大なダメージを被る。

ティナが嘘を吐けない性格である事は判っている。
そもそも、嘘でこんな事をスコールに言おうとするような人物ではないし、他人を揶揄って貶めようとするような性質の悪さも持ち合わせていない。
だが、それはつまり、彼女が今スコールに話して聞かせている事が、事実であったと裏付けるようなもので。

高熱を出したのも、それで仲間達に酷く迷惑をかけたのも事実だ。
しかし、熱を出したのはあれきりだし、無理をするなとジタンとバッツに散々言われたので、最近は単独行動も控えるようにしている。

─────だと言うのに、これは一体、何に対する罰なのか。


「ね、スコール」


きゅ、と柔らかく手を握られて、スコールの意識が現実へと浮上する。
はっと我に返ってみると、藤色の瞳が触れそうな程近くにあった。


「……っ!?」
「あのね、」


思わず息を飲んだスコールを、ティナはじっと見詰めている。
スコールの手を握る彼女の手は、振り払おうと思えば出来るような力しか入っていないのに、どうしてか、そうする事はタブーであるように思えてならない。

ティナは、藤色の瞳をそっと細め、微笑んだ。
それはまるで、不安に泣く小さな子供を安心させようとする、母親のような笑顔。


「また怖い事や不安な事があったら、いつでも言ってね。お姉ちゃんが守ってあげるから」


助けて貰うとか。
守られなければいけないとか。
そう言う事は、もっとそれが必要な誰かに言えば良いと、スコールは思う。

思うのに、その言葉は、何一つ音にはならない。



黙ったまま、何も言わないスコールに、ティナもそれ以上何も言わなかった。
ただ、握った手から伝わる温もりと、もう少しだけ離れたくないと思った。





6月8日でティナスコ!……の筈。
どうしてもティナママが好きです。そんなティナママに無意識に甘えるスコールがいい。

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