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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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カテゴリー「FF」の検索結果は以下のとおりです。

[サイスコ]たった一人の君から欲しい

  • 2015/02/14 23:15
  • カテゴリー:FF
サイファー×スコールでハッピーバレンタイン!
最近、サイスコのツンデレスコールが美味いです。





何が楽しくて、恋人に贈られたプレゼントの仕分けをしなければならないのか───と、サイファーは眉間に恋人に勝らずとも劣らない深い皺を刻む。

そんな彼の前には、文字通り山と積まれた、可愛らしくラッピングされたプレゼントボックスがある。
密封された沢山のプレゼントボックスであるが、その中身については考えるべくもなく判る。
サイファーは、これからこの山の全ての封を解き、中身を確認すると言う作業を行わなければならない。
はっきり言って非常に七面倒臭いのだが、同じ指揮官補佐でありつつ、スコール不在時のサイファーの保護監督を務めるキスティスは、決して逃がしてはくれなかった。

2月14日と言う今日、バレンタインデーとあって、バラムガーデンの中も、このプレゼントボックスの山と同じく、其処此処で浮かれた気配があった。
特に女子の浮かれようはよく目に付いており、逆に男子は悲喜交々に混沌としている。
中には喜びに満ちている者を、まるで親の形の如く睨む者もいて、色々な意味で今日と言う日が沢山の禍根を残すであろう事は、想像に難くない。
一年前はサイファーも(目に見えて浮かれたり、他者を妬んだりと言う事はなかったが)そんな面々の一員であったのだが、今年は違う。
好意を寄せてくれる者に対し、決して悪い気はしないものの、不特定多数の誰かから渡されたそれに然したる意味はなく───それとは全く別のものとして、風神から貰ったものは嬉しかったし、何を勘違いしているのか、雷神からのものも有難く貰ったが───、欲しているのは唯一人からのそれのみ。
だが、それを望むのは無理であろう事は予測出来ていたので、其方についてはとっくに諦めている。
しかし、望みは捨てているとは言え、その望む相手とあわよくばお近づきに、と画策している者共の手助けを、何故しなくてはならないのか。

不機嫌を隠しもしない仏頂面で、サイファーは黙々と仕分け作業を続けている。
お陰で、指揮官不在の指揮官室は、彼の重圧オーラで非常に息苦しい状態になっており、報告の為に入室したSeeD達は皆そそくさと退室していた。
この状況で平然としていられるのは、彼をこの指揮官室に圧し留めているキスティス一人だけである。


「くそったれ、なんで俺が……」


何度目になるか判らない愚痴に、キスティスは眉一つ動かさない。
彼は指揮官代行の業務として、彼の代わりにてきぱきと書類を捌いていた。

朝から延々とこの作業を続けているので、山は既に半分まで減っている。
が、元々の量が多かったので、半分でもかなりの数がまだ残っていた。
こうした地味な作業は元々好きではないので、サイファーのストレス負荷は非常に高いのだが、それ以上に、開けては目にするプレゼントボックスの中身が、サイファーの機嫌を益々下降させている。

ゴン、ゴン、とノックにしてはやや重い音がドアから聞こえた。
キスティスが紙面から視線を逸らさず「どうぞ」と言うと、一拍の間を置いて、「よっこらせ」と背中でドアを開けて男が入室する。
両手に溢れんばかりに紙袋を抱えた、ゼル・ディンであった。
その姿を横目に見たサイファーの蟀谷に、ぴきっと青筋が浮かぶ。


「よーっす、お疲れ」
「お疲れ様」
「これ、追加な」
「………」


がさっ、とまとめて机に置かれた紙袋に、サイファーの眉間の皺が深くなる。
ぎろりと凶悪な眼がゼルを睨んだが、幼い頃は“泣き虫ゼル”と呼ばれた彼も、今はすっかり度胸が据わった。
睨むサイファーをものを気に留めず、ゼルはキスティスの下へ向かう。


「さっきスコールとアーヴァインが帰ったぜ」
「予定より遅かったわね。何かあった?」
「スコールがちょっと怪我してた。処置はしたから問題ないけど、念の為に保健室行き。カドワキ先生の診断が終わったら、部屋に戻って休むってさ。アーヴァインは付き添いで、終わったら一緒に寮に戻る。報告書は明日中に出すってよ」
「了解」


仕分けの作業を続けつつ、サイファーの意識はゼルの報告へと向いていた。

スコールが怪我、と言う言葉に、元々吊り上げられていた眉がまた上がる。
今回の任務は確か、と思い出してみると、彼が傷を負わなければならないような物ではなかった筈。
何かの事故か、想定外の事が起こったか────此処について、サイファーは深く考えなかった。

届け物をし、報告を終えて、する事がなくなったゼルは、また外へ向かう。
その途中で、ゼルは大量のプレゼントボックスの山に埋もれているサイファーを見遣り、


「大変だな、サイファー。それ、全部スコール宛てだろ?」
「ああ。お前が追加で寄越した奴もな。ったく、いい加減にしろってんだ」
「俺に当たるなよ」


サイファーの言葉は、ゼルに向けても全く意味のないものだ。
向けるのならば、この大量のプレゼントボックスの送り主達にするべきだろう。
しかし、こう言う行事毎で女子を可惜に刺激するのは、自殺行為に等しい。

プレゼントボックスの中身は、その殆どがチョコレートで占められている。
今日と言う日の為、女子生徒がそれぞれの想いを籠めて選び、作り、用意されたものだ。
指揮官と言う役職についてから、スコールのファンは急激に増え、憧れの目で見られる事も増えた。
そうでなくとも、元々見目や成績など、モテる要素には事欠かない彼である。
以前は取っ付き難い雰囲気や、彼自身がそうした事を好む性質ではない事から、行事に感けたプレゼントの類は、余程勇気を持つ者でなければ出来なかった。
しかし、魔女戦争後は本人の性格が幾らか丸くなった事もあり、また大量のファンからのプレゼントの中に紛れ込ませる事が出来ると言う事もあって、大量のプレゼントが届くようになったのだ。

それが全て、単純に“ファンから”贈られたものなら、サイファーもこうまで不機嫌にならなくて良かったのだが、明らかにその意味から食み出たものがいる。
誰がどう見ても“本気”を思わせるものが、一つや二つではない、其処此処に在るのが、サイファーには気に入らないのだ。

丁度手に取った、如何にもと言ったハート型のプレゼントボックスを睨むサイファーに、キスティスが呆れたように言った。


「そんなに腹が立つなら、言えば良いじゃないの。スコールは俺のものだって」


飾る言葉もなく、明け透けに言ったキスティスに、サイファーの眉間の皺が深くなる。


「……それが出来りゃ苦労しねえんだよ」
「なんだ?スコールの奴、まだ秘密にしろって?」
「………」


追い打ちの如く言ったゼルを、サイファーが睨む。
なんで俺ばっかり睨むんだよ、とゼルは愚痴が零れた。

ぎりぎりと歯を鳴らすサイファーに、キスティスは肩を竦め、


「仕方がないわね。スコールだもの。そう言うの、人一倍気にする子よ。知ってるでしょう?」
「ああ。よーく知ってるよ」
「それなぁ。俺、サイファーの事だから、そんなの無視して俺のモン宣言すると思ってたんだけど、意外と譲歩してるんだな」
「仕方ねえだろ。バラしたら即別れるって言いやがるんだ、あいつ」


忌々しげに言ったサイファーに、ゼルとキスティスは顔を見合わせた。

幼い頃からガキ大将で、何をするにも自分が中心でなければ我慢がならなかったのが、サイファーと言う少年だった。
しかし、そんな彼でもスコールが相手となると、色々と調子が変わってしまう。
ゼルとキスティスは長らく忘れていた上、サイファーがあからさまにスコールに対して絡むので思い出す事もなかったが、サイファーは本来、スコールに甘いのだ。
大抵は幼馴染達の目がない時の事だが、自己主張が出来ないスコールに、促すように彼の手を引っ張ってやったのは、いつもサイファーだった。
そして、極稀にスコールが自分の意見を述べた時は、サイファーがそれを受け止めて、スコールの望むように物事の方向を変えて行く。

記憶を忘れ、互いの命を削り合い、元鞘に収まるように恋人同士になってからも、彼等のそうしたパワーバランスは変わっていないらしい。
呆れるような、微笑ましいような気持ちで、幼馴染達はそんな彼等の様子を見守っている。


「あー、くそっ!」


誰に対してか───恐らく、誰に対してでもないだろう───悪態をついて、サイファーは席を立つ。
机の上には未だ大量のプレゼントボックスが詰まれており、ゼルが追加分を持って来てしまった為、捌き終わったのは半分以下となってしまった。
が、サイファーにはもう、この山と向かい合う気力はない。


「止めだ止めだ。俺は帰って寝る。おいチキン、続きやっとけ」
「は?俺!?」
「どうせ暇なんだろ。じゃーな、センセー」
「四時間後には戻って来なさいね。私も休むから」


サイファーの堪忍袋の限界時など、キスティスには予想出来ているのだろう。
叱る声はなく、お休み、と平静と変わらない挨拶が振られた。
ゼルの抗議については、サイファーは気にしていない。

エレベーターを降りて、一階の廊下を寮へと向かう間、周りには其処此処で甘い雰囲気が漂っていた。
授業が終わって放課後の時間となった事で、生徒達の枷は外れたのだろう。
いつもよりもカップルが多い中で、それらを羨むような昏い視線もある。
サイファーは、昏い目で過ごす生徒達と自分を同族とは考えなかったが、人目憚らずに手を繋ぎ合うカップルの姿に、些か妬みか羨みかと言うものが湧き上がるのも否めない。

────その感情の根源とも言える人物と、寮へと続く渡り廊下で遭遇した。


「あれ、サイファー」


並ぶ二つの長身痩躯、その内より高い方が先に振り返った。
続いて、低い方が振り返り、蒼い瞳がサイファーを見る。

サイファーはスコールの立ち姿を、頭の天辺から足下まで眺め、ジャケットの裾と黒手袋の隙間から覗く白に眉根を寄せた。


「何やってやがる、このドジ」
「………」


不機嫌なサイファーの言葉に、スコールの眉間に皺が寄る。
スコールはしばらくサイファーを睨んでいたが、ふい、とそれを筈すと、寮に向かって歩き出した。


「あ、スコール。ちょっと待ってよ────って、痛いっ!」


直ぐにスコールの後を追おうとしたアーヴァインだったが、長く伸びた髪を掴み引っ張られて悲鳴を上げた。
何、と痛む後頭部を押さえて振り返れば、射殺さんばかりに睨む碧眼。

僕が一体何をしたんだろう。
ひょっとして、スコールの怪我は僕の所為って思われてる?
────理不尽に睨まれたアーヴァインがそう思ったのも無理はない。
が、サイファーは蒼くなったアーヴァインから早々に興味を失うと、力任せにその肩を押し除けて、寮へ向かって歩き出す。

後ろから追う気配はなく、突き当りの角を曲がると、其処には自分とスコールしかいなくなった。
コツ、コツ、コツ、コツ、と二人分の足音だけが静かな廊下に反響する。
二人の歩く速度はぴったりと重なっており、距離は縮まる事も広がる事もなかった。

前を歩く少年は、つい先程まで、サイファーが大量の自分宛ての贈り物と向き合っていた事など、知りもしない。
少しばかり疲れた気配がする細身の背中は、今日はもう部屋に篭って外に出るつもりもないのだろう。
明日になって、あの大量の贈り物を見て、どうしろって言うんだ、と溜息を吐くに違いない。
それは別段、サイファーにはどうでも良い事だったのだが、


(……ねえよな、やっぱり)


今日と言う日、恋人と言う間柄。
目の前の恋人の性格は理解しているが、それでもこっそりと期待していた自分。
だが、前を歩く少年は、今日と言う日が何であるのかすら判っていなくても可笑しくはない。

黙々と歩いている内に、サイファーの部屋は直ぐ傍に来ていた。
ひっそりと落胆する心を隠し、無表情のまま、サイファーは自室の前で足を止める。
ドア横のパネルでロックを外し、プシュッ、と自動ドアの空気の音がなった────その時。


「おい」
「あん?」


呼ぶ名前もなかったが、サイファーは自分が呼ばれていると判った。
敷居を跨ごうとした足を戻し、視線だけでスコールのいる方を見遣る、と。

ぽこん、と小さなものが頭に当たって、跳ねて落ちて来たそれを反射的にキャッチする。


「てめ、何だよ!?」
「……別に」


掴んだそれを握ったまま、サイファーがスコールを見れば、彼は既に背を向けて歩き出していた。
ふらふらと、少し覚束ない足取りで進む背中に、サイファーは舌を打つ。

折角の今日だと言うのに、何て日だ。
そう思いながら、苦々しく表情を変えて、手に握り締めていたものを思い出す。
頭を打ったそれを、投げ返してやろうかと手を開いた。


「……あ?」


其処に在ったものを見て、サイファーの目が丸くなる。

赤くきらきらと光る紙に包まれた、小さな小さな丸いもの。
紙には小さな文字が金色で印字されており、この小さなバラムでも知られている、デリングシティで名店と言われる店の名前があった。
其処はチョコレートが有名な店で、リノアが実家に帰省する度、仲間達にと土産に買って来たものだ。
内装は如何にも女性好みのもので、到底、男が───況してやスコールのように、人一倍人目を気にする人間が入るなど、ハードルが高いであろう事は想像に難くない。

サイファーはドアを閉めて、踵を返した。
ロックをかけるのを忘れたが、サイファーの部屋に無断で入るような度胸のある人間は、これから前を歩く人物くらいしかいない。
その人物の肩を抱いて、サイファーはその肩を押して進む。


「な、あ、サイファー!?」


突然襲いかかった重みと力に、慌てた声が上がったが、サイファーは気にせず歩を動かした。


「あんた、部屋あっちだろ!何処行くんだ、離せよ!」
「何処ってお前、」


じたばたと、サイファーの腕から逃れようとするスコールだが、サイファーは離れなかった。
睨む蒼を、にんまりと笑った緑が見下ろす。


「似合わねえ事を頑張ってくれた恋人に、ロマンティックな夜でも届けてやろうかと思ってよ」


手の中に握っていたものを翳して見せると、既に赤かったスコールの顔が、益々赤くなる。

サイファーはスコールを捕まえたまま、片手と口で包装紙を剥がすと、仄かにブランデーの匂いのするそれを口に入れる。
直ぐに下の上で溶け始めたそれを、無防備に開いた口に重ねてやった。



ロマンなんか要らない、と言う声を聞きながら、サイファーは恋人の部屋のドアを開けた。





死ぬ程恥ずかしいけど頑張ったスコールと、期待してなかった分、嬉しくて振り切ったサイファーでした。

スコール、一人で買いに行く勇気が無くて、アーヴァインに付き添って貰ってます。
後日、凄く真剣に選んでたよ~ってバラされる羽目になるw
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[フリスコ]無自覚の自然体

  • 2015/02/08 21:33
  • カテゴリー:FF


元の世界の文明レベルが違うのだから、各人の常識であったり、知識であったりと言うものにも、色々とバラ付きがあった。
キッチンに揃えられた電化製品は判り易い例で、竈や水、氷による保存法に頼るのが当たり前だった多くの者は驚いたし、逆に家電が当たり前であった面々からすれば、冷蔵庫やコンロに驚くメンバーに驚いていた。

生活環境が違えば、其処に伴う食材や調理方法も異なる。
フリオニールが知識として知っている料理と言うものは、魚や肉を切って焼いて、塩や胡椒で味付けすると言ったもの。
それだけを言えば全員に共通する知識だが、バッツは更にディープな知識を持っているし、ジタンは酒を使った料理が得意だった。
ルーネスはフリオニールと似たようなものだったが、香辛料が余り多くはないと言う意識が根底にあるらしく、薄味ながら栄養のしっかりした物を作るのが得意だった。
スコールは魚や肉の捌き方を一通り心得ており、レシピがあって、食材が一通り揃えば、大抵のものは卒なく熟して見せた。
因みに、フリオニール個人が一番秀でている事はと言うと、パンの焼き方だ。
小麦粉から作るフリオニールのパンは、ボリュームもあって美味しいと定評がある。
……この時点で名前の挙がらなかったメンバーに関しては、それぞれレベルの違いはあるものの、ちょっとした難有物件として認識されている。

フリオニールが闘争の世界で驚いたのは、砂糖の確保が容易である事だった。
モーグリショップで、キロ単位で売られていたそれを見付けた時は、目を丸くしたものである。
その上、値段も安かったので、フリオニールは思わず大量に購入して来てしまった。
この時のフリオニールの気持ちを理解してくれたのは、ルーネスを筆頭に、セシル、バッツ、ティナと言うメンバーで、ジタンはまあまあ判るけど、と言う具合だ。
残るクラウド、スコール、ティーダは首を傾げており、砂糖ってそんなに珍しいものでもないだろ、とティーダは言っていた。
其処から各人の世界の食糧事情について話が尽きない事となるのだが、それはまた別の話だ。

フリオニールにとって、砂糖と言えば、決して安価で手に入れられるものではなかった。
自身の世界について、フリオニールは相変わらず不明瞭にしか思い出せないが、少なくとも感覚だけは確かである。
フリオニールの世界では、砂糖は高級品で、砂糖菓子等と言うものは正しく贅沢品だ。
だからフリオニールの感覚では、干した果物や、果汁の煮汁を固めて作った保存食と言うものが、ティーダの言う“おやつ”に相当するものであった。

そんなフリオニールにとって、甘い甘いケーキや、チョコレートと言うものは、未知の食べ物だった。
初めは真っ白な生クリームや、真っ黒な塊に慄いていたフリオニールだったが、ティーダにせがまれて一口食べると、あっと言う間に虜になった。
以来、フリオニールはすっかり甘いものに目がなくなり、冷蔵庫の奥に仕舞われた夕食のデザートの残りを見付けると、食べても良いか、と爛々とした瞳で仲間達に聞くようになる。



日課としている鍛練を終えて、汗を流してリビングに入った時だった。
ほんのりと甘い匂いがフリオニールの鼻腔を擽り、おや、とフリオニールは匂いの下を辿る。

リビングの奥に続き間になっているキッチンを覗くと、スコールが立っていた。
スコールはステンレス製のボウルを片腕に抱え、右手の泡立て器をカシャカシャと動かしている。
キッチン台には小麦粉や砂糖の袋が置かれ、スコールが抱えているものよりも小さなボウルや、幾つかの深皿の食器が並べられていた。

一心不乱に泡立て器を動かしていたスコールだったが、見詰める視線に気付いてか、フリオニールへと振り返った。


「……あんたか」


相手を確認して、スコールは僅かにほっとしたように息を吐く。
恐らく、賑やか組のつまみ食いを警戒したのだろう。
フリオニールはくすくすと笑いながら、スコールの下へと近付き、彼の手元を覗き込んだ。


「何を作ってるんだ?」
「ムースケーキ」
「…ムース?」


聞き慣れない単語にフリオニールが首を傾げると、スコールは調理の手を止めて沈黙する。
説明する言葉を探しているのだろう、フリオニールは彼がもう一度口を開くのをのんびりと待った。


「泡立てた卵白と生クリームを混ぜた、ペースト状のクリーム……?」
「ふぅん。スコールの世界ではよく食べるものなのか?」
「…有り触れてると言えば、まあ…」


俺はあまり食べないけど、とスコールは後付けで追加した。
カシャカシャと泡立て器の音が再開される。

自身が食べないものを、わざわざスコールが作っていると言う事は、十中八九、賑やか組に強請られたに違いない。
特にティーダは、自分と価値観の近いスコールに、あれが食べたい、これが食べたいと頼み込んでいる事が多かった。
スコールはその度、渋い顔を浮かべていたが、律儀なのか、実は自分も食べたかったのか、食材とレシピを調達してはキッチンに立っている。
そうして作られた甘味を、フリオニールも一緒に食べさせて貰うのは儘ある事なのだが、


(……ちょっと妬ける、かな)


価値観が近いとあってか、スコールとティーダは仲が良い。
年齢も同じだと言うし、シンパシーのようなものを互いに感じる所があるのかも知れない。
そんな二人の光景は、フリオニールから見ても微笑ましいものなのだが、少しばかり、複雑な気持ちを覚える事もあった。

フリオニールとスコールは、恋人同士と言われる仲だ。
仲間達も知っており、気を利かせてか、以前は別パーティで行動する事が多かった二人を組ませる事が多くなった。
今日の二人揃っての待機も、ジタンとバッツ、ティーダとセシルが意図して組ませたものだ。
他にジタン、バッツ、ティーダと言う賑やか組も待機班となったのだが、彼等はモーグリショップにでも出かけているのか、いつの間にか姿を消している。
だからフリオニールは、今日の待機に些か緊張しつつ、久しぶりに過ごせる二人きりの時間に、少しばかり浮かれた気持ちを誤魔化せなかった。

其処へ来て、仲間の為にお菓子作りに勤しむスコールである。
スコールに責任がある訳でも、勿論、ティーダやジタン、バッツが悪い訳でもない。
それでも、少しばかり腹の奥に気持ちの悪いものが滞留するのを感じて、フリオニールは情けないな、と自嘲する。


「……もう良いか」


ぽつりと聞こえた呟きに、意識の海に沈んでいたフリオニールは現実に還った。

泡立て器を動かす音が止み、スコールが抱えていたボウルをキッチン台に置く。
冷蔵庫から取り出したのは、また別のボウルで、中身は真っ白な生クリームだった。
生クリームが抱えていたボウルの中へ投入され、また泡立て器が動き出し、小気味の良い音が鳴る。


「美味そうだな」
「……」
「なんだ?」


甘い匂いを漂わせる真っ白なクリームを見て呟くと、スコールの手が止まり、蒼い瞳がフリオニールを見る。
じい、と物言いたげな蒼色に、フリオニールが首を傾げると、


「……いや…」
「そうか?」
「………」


ふい、と目を逸らすスコールに、フリオニールは頭を掻いた。
何かを言おうとして止めたのが判る仕種であったが、こう言う時、踏み込んで良いものか、フリオニールはまだ掴み兼ねている。

フリオニールが考えている間に、スコールはボウルの中身を混ぜ終えたようだった。
スコールは泡立て器をボウルの端に置いて、スプーンで一掬いし、口に入れる。
眉根を寄せるスコールに、失敗したのかな、とフリオニールが思っていると、


「……」
「ん?」


蒼灰色の瞳が、もう一度物言いたげにフリオニールを見る。
スコールは、きょとんとした表情で見返すフリオニールを見詰めた後、咥えていたスプーンを離してもう一掬いし、


「……ん」
「え?」


余りにも足りない言葉と共に差し出されたスプーンに、フリオニールはまた目を丸くする。
紅い瞳が、恋人とスプーンを行ったり来たりし、食べろって事だろうか、と行き着く。


「…いいのか?」
「味見だ。それに、さっきからあんた、食べたそうな顔してる」


スコールの指摘に、フリオニールは耳を赤くして苦笑した。
確かに甘い匂いに惹かれ、うずうずとしていたのは確かだが、そんなに判り易かっただろうか。

スプーンが引かれる気配もなかったので、フリオニールは口を開けた。
ぱくり、とクリームの乗ったスプーンを食む。
するりと下の上でスプーンが滑って、クリームだけが口の中に置いて行かれた。
生クリームよりも滑らかな、けれども液状よりは少し固形に近いものが、舌の上でゆっくりと溶けて行く。


「美味いな」
「甘さは?」
「俺はもうちょっと甘くても良いな」
「…じゃあ、これで良いな」


フリオニールの感想を聞いて、スコールはボウルをキッチン台に置いた。
甘くはしてくれないのか、とフリオニールがこっそり肩を落としていると、スコールはキッチン台に並べた皿の中から、溶けた形をした茶色が入ったものを手に取る。

スコールはコンロに水の入った鍋を置き、火を点けて沸騰させると、皿を湯の中に置いた。
湯が陶器の皿全体を温め、中に入っているものがゆっくりと色を変え、蕩けて行く。
カカオの匂いと混じった甘い香りに、フリオニールはその正体を知った。


「チョコレートか?」
「……ああ」


スコールはチョコレートが溶けたのを確認すると、皿を湯から上げ、ボウルの中からクリームを少し流し入れた。
泡立て器てさっと混ぜると、白いクリームが薄茶色に変化する。
それをまたボウルに戻して混ぜて行くと、真っ白だったクリーム全体が色を変えて行った。

甘いクリームの中に混ざった、チョコレート。
これは、とフリオニールが目を輝かせていると、スコールはスプーンで一口分を掬い、フリオニールの口元へ。


「あんたが味見しろ」
「スコールがしなくて良いのか?」
「…何度もしたから、もう判らない」


クリームを固めている間に、スコールは繰り返し味見をしている。
お陰で、甘味に関して少し感覚が麻痺してしまった。
だから代わりに味見をしろ、とスコールはスプーンを突き出して言う。

名目は味見だが、フリオニールにとっては、公認のつまみ食いのようなものだった。
作っている本人から許しが出ているのだから、遠慮なく、と一口で差し出されたクリームを食べる。


「さっきよりずっと甘い。俺は好きだよ」
「……じゃあ、これで良い」


フリオニールの反応に満足して、スコールは仕上げの工程に入った。
此処からは邪魔に入ったなるだろうと、フリオニールはキッチンから出て行く。

────出た所で、いつの間にか探索から戻っていた賑やか組に捉まった。



それからしばらく、フリオニールは、ずるいずるいと騒ぐ賑やか組をキッチンに入れない為に奮闘するのであった。





2月8日なのでフリスコ!

この後、賑やか組に間接キスとか「あーん」について突っ込まれ、今更真っ赤になる。
ナチュラルにいちゃいちゃしやがって!とか言われて、そんなつもりがなかっただけにダメージ大。
そんな会話がスコールにも聞こえて、スコールもキッチンで真っ赤になってる。

お互いの行動を強く意識しなければ、平然といちゃつくけど、意識すると途端に顔も見れないフリスコは可愛い。
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[ウォルスコ]何も知らない所から始めよう

  • 2015/01/08 23:28
  • カテゴリー:FF
1月8日なので、ウォーリア×スコール!






「君を、抱き締めても良いだろうか」



余りにも直球過ぎる言葉に、スコールは一瞬、その意味を判じ兼ねた。
頭の中で今の言葉を再生し直し、それを単語毎に区切り、その一つ一つを辞書を引くように頭の中で吟味する。
そうしてもう一度、頭の中で、一言一句を間違える事なく再生して尚、スコールは判じ兼ねた。
その言葉の意味と言うよりは、それを言葉にした男の胸中を。

スコールとウォーリア・オブ・ライトは、恋仲である。
いや、今し方、恋仲になったと言うのが正しいだろう。

戦場に置いてあるまじき感情を、況してや先の展望のない世界で抱いてはならないであろう感情を、スコールはいつしか持て余していた。
元々が他者とのコミュニケーション能力と言う点に置いて、赤点同然のスコールである。
全てが終われば判っている別れと言うものに、スコールが耐えられる筈もなく、この感情は誰にも悟られる事なく持って行くつもりであった。
しかし、スコールに関してはこと敏感な二人のお陰で、半ば強引にその感情は発露される事となる。

対してウォーリア・オブ・ライトはと言うと、抱いた感情に自覚はあっても、その感情の正体を知らなかった。
戦い方以外の全ての記憶が曖昧な彼にとって、この艦上は生まれて初めて得たものも同然であった。
全ての仲間との絆を大切に思うが故に、たった一人の仲間に特別な感情を抱いている事も、彼の困惑を誘う事となる。

ジタン曰く「恋愛初心者同士」の付き合いは、仲間達をおおいに巻き込んだ末、仲間達が祝福する形でようやくのスタートとなった。
が、初心者同士の上、互いに他者の感情の機微と言うものに疎い二人である。
晴れて恋人同士になったからと言って、何をすれば良いのか、全く判らなかった。
この手の話に強そうな仲間はと言うと、気を利かせたつもりだろう、二人の様子を気にする仲間達を押し遣って、さっさと野営地へと戻ってしまった。

それからしばらくの間、スコールとウォーリアはまんじりともしない時間を過ごしていたのだが────唐突に、ウォーリアが口火を切った。


「君を、抱き締めても良いだろうか」


────と。

目を丸くするスコールに、ウォーリアはゆっくりと歩み寄る。
具足の音が近付いている事に気付いて、スコールは後ろに歩を踏みかけた。
しかし、今の言葉に拒否を示すのも何かが可笑しい気がして、また硬直する。

するり、とウォーリアの手が、スコールの頬を撫でる。
びくっ、と肩が震えたスコールを見て、ウォーリアは目を細めた。


「嫌ならば、そう言って欲しい。君を傷付ける事はしたくない」


違う、とスコールは言った────声には出さずに。
言わなければと思うのに、何かが詰まったように、喉から音が出て来なかった。

間近に見る勇者の整った顔立ちに、スコールは呼吸を忘れる。
あんなにも苦手だと思っていた男と、正面と向き合っている事が、我ながら信じられなかった。
真っ直ぐに見詰める瞳が、恐ろしいもののように思えた事もあったと言うのに、今はそれから目を逸らす事が出来ない。

何も言わないスコールに、ウォーリアもそれきり、動く事を止めた。
此方の反応を待っているのだと言うことは判ったが、スコールは已然として、身動ぎ一つ出来ずにいる。


「スコール」
「……!」


酷く近い距離で名前を呼ばれて、またスコールの肩が跳ねた。

強い光を宿した瞳が、じっと見ている。
それを意識しただけで、スコールの心臓は煩い程に鼓動を打った。


(眩しい)


灼かれそうだ、とスコールは思った。

頬に触れる手をそのままに、スコールは眩しさから逃げるように目を閉じる。
ウォーリアは、平時の印象とは裏腹に、幼さの残るその貌をじっと見詰めた。

スコールが何を思い、何を考えているのか、ウォーリアには判らない。
彼が存外と沢山の事を思い、考え、悩んでいると言うことは知っているが、その内側まで知るには至っていなかった。
ジタンとバッツが言っていた、感情を具に映す瞳が隠れてしまうと、尚の事ウォーリアは迷路に嵌ってしまう。

────それでも、触れる手を拒否されない事だけは、言葉や瞳以上に彼の心の証だと信じている。


「スコール。君の存在を感じたい」
「……っ…!」


ふるり、とスコールの体が震え、白い頬に赤色が浮かぶ。
グローブを嵌めた手がゆっくりと持ち上がり、頬に触れるウォーリアの手と重なった。

ウォーリアは、そっと目の前の少年を抱き寄せた。
何かを、誰かをこんな風に抱いた事などないから、力加減が判らない。
痛い思いをさせないように、けれども少年の存在を確りと確かめたくて、背に回した腕が強張るのが判った。

スコールは、背中に触れる男の腕を、力強いものだとばかり思っていた。
しかし予想に反し、抱き締める彼の体はぎこちなく、耳元で時折小さく悩むような音が聞こえる。


(……意外と臆病だよな、あんたって)


スコールは、ウォーリアに見えない位置で、こっそりと笑った。
抱き締める腕に応えるように、同じように彼の背に腕を回して抱き締める。
一瞬、ウォーリアの肩が震えた様な気がしたが、スコールは知らない振りを決めた。

自分よりも背の高い男の肩に額を押し付けて、スコールは目を閉じる。
正直な話、固い鎧に押し付けられる体は痛かったが、今だけは不器用な恋人の好きにさせようと思う。
鎧のお陰で、自分の跳ね上がった鼓動が相手に伝わらないのも、スコールには都合が良かった。
直球過ぎるこの男に、自分ばかりが振り回されるのは、癪だったから。



スコールは、赤い頬を冷たい鎧に押し付けた。

その向こうにある鼓動が、自分と同じように煩くなれば良いと思う。





初々しい二人が浮かんだので書いてみた。

この二人は、周りの後押しがないとくっつかなさそうだなぁと言う印象。
片や対人恐怖症、片や究極の朴念仁と言うイメージなので。
でもウォーリアは大切にしたいものにはまっしぐらになりそうなので、直球に接してくれたら萌えます。そしてスコールにあわあわして欲しい。
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[絆]朝の光はまだ遠く 1

  • 2014/12/31 21:50
  • カテゴリー:FF


バラムの正月は、港端に祀られている水神様に参拝に行くのが習わしになっている。
参拝に行くタイミングは、年末年始を跨ぐ時、年始の朝、年明けから三日以内と、特に厳密に定められてはおらず、人によっては三日を過ぎてから行く場合もあった。
早い内が良いと言われてはいるが、バラムの島民が一挙に押し寄せるとなると、決して広くはない港は、あっと言う間に飽和状態になる。
昨今は参拝客を宛てにした出店も増えた為、人口密度は尚の事上がっていた。

となると、そんな場所に小さな子供を連れて行くのは危険、とレオンが考えるのは、至極自然な話だ。
今年で9歳を迎えたスコールとティーダは勿論、13歳のエルオーネも、人でごった返す場所に連れて行くのは憚られる。
エルオーネは「スコールとティーダはともかく、私は大丈夫だよ」と言ったが、それでも心配性の兄である。
弟達の面倒もある事だし、と参拝は年明け三日以内の人が少ない時間帯に行く事にし、年末の夜は家でのんびり過ごす事になった。

年末一週間前から、バラムガーデンは冬休みに入っている。
レオン達は、冬休みが始まった当日から、コツコツと宿題を片付け、年末を迎える頃にはその数はすっかり減っていた。
アルバイトのあるレオンは、まだ半分弱が残っているが、計画的に済ませれば、無理なく終えられる程度だ。
勉強嫌いのティーダが度々サボりたがったが、確りとエルオーネに取り押さえられ、スコールに続く形でプリントを消費している。
スコールとエルオーネは恙なく片付けられており、スコールはプリントが数枚、エルオーネは問題集が数ページ残るのみとなった。
これなら焦る事もないだろう、とレオンは判断し、年末年始の二日間位は勉強から解放されても良いだろうと、冬休みが始まって以来定められていた“勉強の時間”を無しにした。

年末年始限定の変化は、“勉強の時間”だけではない。
いつもなら、遅くとも夜10時には布団に入るように促される弟達だが、今日だけは深夜まで起きていて良いと言われた。
夜更かしに憧れていたティーダは喜び、スコールも兄と姉と長く一緒にいられるとあってか、夜を待ち遠しそうに過ごしていた─────が。


「……んみゅ……」
「スコール、眠いの?」


兄妹弟で揃ってソファに座り、テレビを見ていた時の事。
姉に寄り掛かっていたスコールが、猫手で顔を擦り始めていた。
時刻は夜の10時半、いつも9時半頃には欠伸をしているスコールにしては、頑張って起きていた方だろう。


「ふぁ……」
「もう寝ちゃう?」
「……やぁ……」


頭を撫でながら言うエルオーネに、スコールは愚図るようにふるふると首を横に振った。
しかし眠い気持ちは耐え難いらしく、甘えるように姉に抱き付く。

そんなスコールの隣に座っているティーダはと言うと、ぱっちりと目を開けて、テレビ番組に釘付けだ。
今は年末年始に飾られる事の多い菓子の作成風景が映されており、ティーダは作成工程はさて置いて、度々画面に映る色鮮やかな美味しそうな菓子に夢中になっている。


「うまそ~」
「そうだな。それに、形も綺麗だし」
「う~、お腹空いて来た」
「涎も出てるぞ」
「だって美味そうなんだもん」


レオンはソファ前のテーブルに置いてあるティッシュを取り、ティーダの口の周りを拭いた。
ティーダはされるがままにしており、視線はテレビから離れない。
今はチョコレートのグラサージュと、真っ白な生クリームでデコレーションが施された、チョコレートケーキに釘付けだった。


「スコール、ほら、ケーキ。美味しそうだよ」
「んぅ……」


眠らぬように頑張っている弟を発奮させようと、エルオーネがテレビを指差した。
しかしスコールからの反応は捗々しくなく、眠たげな目がようやくモニターを見る程度だ。

これはもう無理かな、とエルオーネがレオンに眉尻を下げて笑い掛ける。
その意味を汲み取って、レオンもくすりと笑った。
レオンはソファから腰を上げると、寝落ち掛けているスコールを抱き上げてやる。


「よっ……と、と」
「やぁう…」


ベッドに連れて行かれようとしている事が判ったのだろう、スコールはごそごそと身動ぎした。
いやいやと頭を振るスコールを落とさないように、レオンは小さな体を抱き直して、ぽんぽんと背中を叩いて宥める。
寝かしつけられるのを察して、スコールはうーうーと抗議の声を上げるが、


「うゆぅ……んん」
「無理して起きてなくても良いんだぞ」
「やぁ……まだねないぃ…」


ぎゅう、とレオンの首にしがみついて、スコールは駄々を捏ねる。
今日は皆と一緒にずっと起きているんだ、と心に決めているのだ。
残念ながら、体はその頑張りについて行けていないが。

そんなスコールに気付いたティーダが、兄に抱かれているスコールを見上げて言った。


「スコール、歌だ!歌ったら眠いのもなくなる!」
「ティーダ、無理に起きてなくて良いのよ?」
「ほら、スコール。歌お!もーいーくつねーるーとー」
「んんぅ…」


リビング全体に響く大きな声で歌い出したティーダに、スコールは顔を顰める。
起きていたいが、それでも眠気に苛まれる今のスコールには、ティーダの大音量は少々煩いようだ。

ティーダの大音量から逃げるように、スコールはレオンの肩に顔を埋める。
寝るか?とレオンが訊ねると、スコールはふるふると首を横に振った。
煩いのは嫌だが、寝るのも嫌、と言う我儘に、レオンは苦笑して、ソファに座り直し、スコールを膝に乗せてやる。



「もうちょっと頑張るか、スコール」
「うん……皆で最初のお日様見るの…」
「そうだよ。だからスコール、寝ちゃ駄目だよ」
「うん……」


新年の朝、海の向こうから上って来る太陽を見ると、今年一年は良い年になる───と言う言い伝えがある。
スコールは昔からその太陽を見たがっていたのだが、それは叶わなかった。
早く寝落ちてしまうと、麻も比較的早く目覚めるのだが、それでも朝日は高い位置に上っている。
ならば朝まで眠るまいと頑張ると、今度は遅くに寝落ちてしまい、目覚めるのも遅くなる。
そんな出来事が積もり積もったスコールは、今年こそ、と意気込んでいた。

ティーダもティーダで、きっともう少し夜が更けたら、スイッチが切れたように寝落ちるのだろう。
夜更かしに憧れている所為か、ティーダは普段から夜中まで起きていようと頑張っているが、日中に元気良く過ごしている分、夜半まで体力気力が続かないのだ。
さっきまで元気にはしゃいでいたと思ったら、ちょっと休憩、と少し寝転んだ直後に、すやすやと眠ってしまう。

今年もそろそろかな、と部屋の壁掛け時計を見上げて、レオンは思う。
エルオーネも、歌を歌い続けているティーダを宥める傍ら、欠伸を噛み殺している節があった。
今日は皆で大掃除をしていたので、彼女も疲れているのだろう。


「ティーダ、夜だからね。ちょっとボリューム抑えよう?」
「小さい声で歌ったら、眠いのなくならないじゃん」
「大丈夫、歌ってるとそれだけで眠くなくなるんだよ。それに、大きな声で歌うと疲れちゃうでしょ。ティーダも眠くなっちゃうよ」
「むー」


眠気を飛ばす為に、大きな声で歌う。
大きな声で歌えば、疲れてしまう。
疲れてしまうと、寝てしまう。

この流れはティーダも覚えがあるようで、唇を尖らせつつ、「じゃあ小さい声で歌う」と言った。
それならティーダも直ぐには眠くならないし、スコールが嫌がる事もない。
ほっとエルオーネは胸を撫で下ろして、ティーダと一緒に小さな声で歌い出した。


「んぷ……」
「頑張れよ、スコール」
「うん……」


兄の励ましに、スコールは小さく頷いて、こしこしと目を擦る。
しかし、瞼は既に半分まで落ちており、このままトロトロと眠ってしまうのが予想できた。

そんなスコールとレオンの隣では、ティーダとエルオーネが歌っている。
目の覚めるような楽しい歌ではなく、スローテンポの牧歌的な選曲は、エルオーネの作戦だろう。
彼女も日中の疲れがあるから、なんとかしてティーダを寝かしつけて休みたいのだ。
皆で初日の出を見たい、と言う弟達の可愛らしい願いは叶えてやりたいが、バラムと言えど、冬の朝はまだまだ遠い。
時計を見れば、ようやく日付が変わったと言うタイミングで、兄妹弟揃って、朝まで体力は持ちそうにない。


≫
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[絆]朝の光はまだ遠く 2

  • 2014/12/31 21:49
  • カテゴリー:FF

エルオーネの作戦の甲斐あってか、スイッチが切れつつあるのか、ティーダが眠たげに目を擦り始めた。
その頃には、レオンの膝の上で、スコールの意識も夢に委ねられつつある。


「かもめーの、すいへいさん。なーみにちゃぷちゃぷ……ふあぁ…」


歌うティーダの口から欠伸が漏れ始めた。
まだ頑張って起きていようとしているようだが、意識はふらふらと宙に浮き気味になっている。
スコールに至っては、すっかりレオンの胸に体を預け、すぅすぅと寝息を立てている。

エルオーネの手に触れていたティーダの手が、きゅっ、きゅっと彼女の手を握っては話し手を繰り返す。
眠い時の合図だと、エルオーネはよく心得ていた。


「ティーダ」
「……ん……」
「スコール」
「………」


兄と姉がそれぞれ弟の名を呼ぶが、返事はない。

レオンがスコールを抱き上げると、かくん、と頭が揺れる。
頭の据わらない赤ん坊のように首を揺らすスコールに、レオンは小さな頭を自分の肩に乗せて支えた。
物音を立てないようにそっとソファから腰を上げ、階段に向かう。
ちら、とソファに座る妹ともう一人の弟を見遣ると、ティーダはエルオーネに抱き付くように体を寄せ、歌声も止んでいた。
リビングに柔らかく響くのは、エルオーネが奏でる子守唄だけだ。

レオンはスコールを、次にティーダを寝室に運び、ベッドに寝かしつけた。
二人はもうむずがる事もなく、二人並んですやすやと健やかに眠っている。

リビングに戻ったレオンを出迎えたのは、ソファに座って欠伸をしているエルオーネだった。


「お疲れ、エル。お前もそろそろ休め」
「うん……そうする。レオンももう寝るでしょ?」
「そうだな。片付けが済んだら、寝るよ」


そう言って、レオンはテーブルに並べられていた、夜食用に使った食器を重ねて行く。
明日の朝食の準備は既に済ませているから、出ている食器を片付けてしまえば、レオンも床に入る事が出来る。

キッチンに運んだ食器を、水に晒していると、出入口からエルオーネが顔を覗かせた。


「ねえ、レオン。今日、皆で一緒に寝ない?」
「俺は良いけど……狭くないか?」


エルオーネの提案に、レオンは大丈夫だろうかと首を捻る。
普段、生活リズムの違いから、レオンだけが違う部屋で眠っているが、皆で揃って眠る事に否やはない。
が、弟達の身長は日に日に伸び、平均的に見れば小柄とは言え、そろそろ妹弟三人で眠るにも、ベッドは窮屈気味になっていた。
大きめのベッドを新調するか、小さ目のベッドを人数分揃えるかと悩んでいた頃である。
弟達とは逆に、体格に恵まれたレオンも一緒に眠るとなると、あのベッドは流石に辛い。


「駄目かなあ……ほら、初日の出、見せてあげられないでしょ。だからその代わりにと思ったんだけど」


初日の出を見る為に、遅い時間まで頑張って起きていたスコールとティーダ。
これだけ頑張ったのだから、早朝に起こしてやろうとしても、きっと彼等は目覚めない。
致し方のない事とは言え、きっと明日の朝、高く昇った太陽を見て、彼等は残念がるに違いない。

弟達ががっかりする顔を、レオンは直ぐに想像する事が出来た。
どうして起こしてくれなかったの、と言われるのも、想像に難くない。
拗ねた弟達を宥める為にも、今夜は皆で過ごすのが良いかも知れない。


「そうだな。じゃあエル、悪いけど、俺の部屋から布団を運んで貰えるか。毛布だけで良いから」
「駄目だよ、そんなの。ちゃんと温かくして寝なくちゃ。大丈夫、布団位ならもう運べるもの」


そう言ったエルオーネに、レオンは口端を綻ばせ、「それじゃあ、頼む」と言った。
判った、と言ったエルオーネがキッチンを出て行く。

片付けを終えたレオンは、ふあ、と欠伸を一つ。
気が抜けた所為か、妹弟の前で堪えていた眠気が一挙に押し寄せてくる気がした。
ふらふらと揺れそうになる足取りで、二階への階段を上り、自室の前を通り過ぎる。
電気の点いた奥の部屋の扉を開ければ、エルオーネがレオンの布団だけではなく、ジェクトや客人の為にと備えていた予備の布団も敷き終えた所だった。


「これなら、皆で一緒に眠れるでしょ?」
「そうだな」


布団の端に座っているエルオーネに頷いて、レオンはベッドで眠っている弟達を抱き上げた。
床に敷いた布団に二人を移動させ、冷えないように毛布と冬布団を重ねてかける。


「んぁ……」
「ふにゅ……」


意味のない寝言を漏らす弟達に、レオンとエルオーネの目許が緩む。
寝顔を覗き込んで見れば、安らかなものであった。
二人の小さな手が掴むものを求めるように彷徨うので、レオンがスコールの、エルオーネがティーダの手を握ってやる。
慣れた温もりに触れて安心したのか、ふにゃ、と弟達の顔が緩むのを見て、レオンとエルオーネはくすりと笑った。

消すぞ、と一言言って、レオンは電気を消した。
窓から差し込む冴えた月明かりだけが、薄ぼんやりと部屋を照らす。
エルオーネが眠たげに目を擦り、レオンは布団に横になって、一つ深い深呼吸。


「今年も終わっちゃったね」
「そうだな」
「…結構、良い年だったなぁ」
「ああ」
「大変な事も多かったけど」
「確かに」


一年を振り返るエルオーネの呟きに、レオンは頷いて、くつくつと笑う。
二人の脳裏には、まだまだ幼い弟達に振り回された日々から、ガーデンの学友達と過ごした日常まで、様々な記憶が巡っている。
それらはエルオーネの言う通り、大変な事件となった事もあったが、思い返して笑みが零れる位には、良い思い出になっていた。

笑みを零すレオンのそれが伝染したように、ふふ、とエルオーネが笑った。
眠る弟達を起こさないよう、密やかな笑い声が静かな寝室に響く。


「ふふ……そうだ、言い忘れる所だった。あけましておめでとう」
「ああ。おめでとう。今年も宜しく」
「宜しくね。今年も色々、大変だと思うけど。レオンはアルバイトもあるし」
「ああ。エルも、スコールとティーダの事で、大変な事もあるだろうな」
「……でも、きっとまた、良い一年になるよね」


願いを籠めたエルオーネの言葉に、レオンは頷いた。
大切な家族がこうして傍にいてくれるのだから、きっとまた、良い一年を過ごせる筈だ、と。

ころん、と二人の間で、スコールとティーダが寝返りを打った。
温もりを求めるように身を寄せる弟達を抱き寄せて、レオンとエルオーネも目を閉じる。



耳元から聞こえる幼い弟の吐息と、触れ合う場所から伝わる鼓動を、これからも守って行こうと思った。





頑張って起きていようとするけど、結局寝ちゃったちびっ子達。
頑張る二人を見守りつつ、お兄ちゃんお姉ちゃんも結構眠かったりする訳で。
皆で見る初日の出は、また来年。

こんな感じうちの子達を、今年も宜しくお願い致します。
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