カタギリの病室のドアがノックされたのは、消灯時間も大幅に過ぎた真夜中のことだった。
作業中の端末から顔を上げ、こんな時刻にいったい誰かとカタギリは身構える。
エイフマン教授が亡くなったあの襲撃事件のあと、オーバーフラッグス技術部員は皆、
かなり神経を過敏にさせていた。
「——カタギリ、私だ」
聴こえてきたのは、深みを帯びて響く、いつだって凛々しいグラハムの声で、カタギリはほっとため息をつく。
腕の骨折と肋骨のひびがまだ癒えていないカタギリとは対照的に、フラッグの無茶な操縦により
同じ病院に検査入院していたグラハムは、驚くほどの回復力をみせて、早々に退院していた。
「どうしたんだい。——どうぞ、入って」
この突然の来訪に、何か技術的な質問でもあったのだろうと、カタギリは特に疑問を抱かない。
今までにも、モビルスーツの開発や整備に関して疑問があれば、夜中でも叩き起こされたことが何度もあった。
「もう体はすっかりいいのかい」
「——よくはないな」
呟いて、グラハムはまつ毛を伏せながら視線をそらす。
どきっとして、カタギリは身を起こし、彼の表情を窺った。操縦中の生体データと、
機体に記録された、限界値を吹っ飛ばす運動データを照らし合わせれば、
グラハムの受けた苦痛が並大抵のものでなかったのはわかる。
「大丈夫なのか。君はいつでも無理をするから」
「勘違いするな。——何も、我慢する気など毛頭ない。カタギリ」
澄んだ緑の眼が、まっすぐカタギリを射た。
「身勝手は承知しているが、生憎と気の長い方ではないからな」
言って、グラハムは足早に近づいてくると、カタギリのベッドに手をついた。
端末を載せたテーブルのアームを押しのけて、肩を掴まれたかと思うと、何が何だかわからないままに唇を重ねられる。
押しかぶせられる濃厚な体温。グラハムの呼吸が荒い。
「んっ……、な、」
「……これが、足りなかった。つきあえ、カタギリ」
続き▽
作業中の端末から顔を上げ、こんな時刻にいったい誰かとカタギリは身構える。
エイフマン教授が亡くなったあの襲撃事件のあと、オーバーフラッグス技術部員は皆、
かなり神経を過敏にさせていた。
「——カタギリ、私だ」
聴こえてきたのは、深みを帯びて響く、いつだって凛々しいグラハムの声で、カタギリはほっとため息をつく。
腕の骨折と肋骨のひびがまだ癒えていないカタギリとは対照的に、フラッグの無茶な操縦により
同じ病院に検査入院していたグラハムは、驚くほどの回復力をみせて、早々に退院していた。
「どうしたんだい。——どうぞ、入って」
この突然の来訪に、何か技術的な質問でもあったのだろうと、カタギリは特に疑問を抱かない。
今までにも、モビルスーツの開発や整備に関して疑問があれば、夜中でも叩き起こされたことが何度もあった。
「もう体はすっかりいいのかい」
「——よくはないな」
呟いて、グラハムはまつ毛を伏せながら視線をそらす。
どきっとして、カタギリは身を起こし、彼の表情を窺った。操縦中の生体データと、
機体に記録された、限界値を吹っ飛ばす運動データを照らし合わせれば、
グラハムの受けた苦痛が並大抵のものでなかったのはわかる。
「大丈夫なのか。君はいつでも無理をするから」
「勘違いするな。——何も、我慢する気など毛頭ない。カタギリ」
澄んだ緑の眼が、まっすぐカタギリを射た。
「身勝手は承知しているが、生憎と気の長い方ではないからな」
言って、グラハムは足早に近づいてくると、カタギリのベッドに手をついた。
端末を載せたテーブルのアームを押しのけて、肩を掴まれたかと思うと、何が何だかわからないままに唇を重ねられる。
押しかぶせられる濃厚な体温。グラハムの呼吸が荒い。
「んっ……、な、」
「……これが、足りなかった。つきあえ、カタギリ」
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| カタギリ::5 | 2008,02,22, Friday 01:18 AM